曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第31話 スカイランドへ

 

「「「「わああああああ!?」」」」

 

トンネルの中に入った4人。不思議な浮遊感を経て出口が見えたと思ったその時、4人の体を包んだのは、落下する感覚。それに気付いた瞬間、悲鳴を上げながら4人は地面に激突する。

 

「どわあ!?」

「「「「!?」」」」

 

しかも運の悪いことにその下に人がいたようだ。本当にスカイランドに出てきたのかどうかもわからないまま、慌てて4人がその人から離れる、と、ソラとツバサの顔がその人物を見て真っ青になりながら飛び起きるようにましろとヤクモの腕を無理やり引きながら退く。

 

「「お、王様!?も、申し訳ありません!?」」

「「ええ!?ご、ごめんなさい!?」」

 

あろうことか王様を下敷きにしていた。その事実を知らされましろとヤクモも冷や汗を流しながら謝罪する。と、まだ出現したままのトンネルから薄紫の光に包まれ落下してきたエルが現れ、王妃の元へと向かっていく。

 

「えるぅ!」

「おかえりなさい、プリンセスエル……」

「えーるぅ!」

 

やっと再会できた母の姿に嬉しそうに笑うエル。王様もエルが帰ってきたことを声で悟り、すぐさま跳ね起きるとエルの下へと駆け寄る。

 

「おお!プリンセス!よくぞ戻ってきた!」

「えるぅ!」

「おぉ、おぉ……!」

 

感動のあまり、言葉が出てこないのだろう。親子の感動の再会を落ち着くまで遠巻きに見ていた4人。やっとエルが親元に帰ることができたのだ、自分たちのことのように嬉しい。そしてひとしきり再会の喜びを分かち合ったのだろう、王様がソラ達に向き直る。

 

「そなたたち」

「「「「!」」」」

「よくぞプリンセスを取り戻してくれた。深い愛情をもって、我が娘の世話をしてくれたこと。心から礼を言う」

 

王様達からすれば未知の世界。そこに1人投げだされることになったエルをここまで守り、育ててくれたこと。それは返しきれない恩なのだろう。そして、その言葉には自分達の警備などをもっと充実させていればカバトンにエルが攫われることはなかっただろうという後悔にも似た感情が隠れていた。

 

「そなたたちが守ってくれたのはあの子の身の安全だけではない。笑顔だ」

「えーるぅ!」

「ソラ、ツバサ、ましろ、ヤクモ。あなた達はスカイランドのヒーローです」

「ヒーローだなんてそんな……」

「当然のことをしたまでですよ。ヒーローと称えられるようなことは……」

 

王妃としてもそれぐらいの強い感謝の気持ちがあるのだろう。それはよくわかる。とはいえそのような大それた存在でもないと思ってしまうのも2人の感性なわけで。が、それはソラシド市民の感性であり、スカイランド在住の人にとってみれば、王族からそのような扱いをしていただけるというのはとても光栄なことのようで。

 

「「スカイランドのヒーロー……!!」」

 

ツバサとソラは感動のあまり目を輝かせて喜んでいた。その様子を苦笑しながら2人は見ていたが、やがてあることを思い出したましろに小突かれるヤクモ。

 

「ね、ねぇヤクモ君。カバトンのことって言わなくていいのかな」

「!そうだね……すいません王様、エルちゃんを攫った存在のことで話が……」

「まあ待て」

 

喜び合うのも大切なことだが、カバトンやその背後のことも伝えた方がいいはずだ。ヤクモもそう思うも、王様は一旦ヤクモの言葉を止める。

 

「プリンセスが帰ってくるのを待ち望んでいるのは、私達だけではないのです」

 

エルを抱いた王妃と王様は、バルコニーへと出ていく。そこには多くのスカイランドの民が城の前に集まっていた。どうやらエルが戻ってきたところで城下町にその知らせを出していたようだ。広場を埋め尽くさんというほどの人ごみを前に、王様はエルを皆に見せるように声を上げる。

 

「私たちのプリンセスが戻ったぞ!」

「「「お帰りなさい、プリンセスー!!」」」

 

人々のエルの帰還を喜ぶ声が響く。その声を聞いてエルが嬉しそうに手を振る。その様子をバルコニーの後ろから目立たないように見ていた4人も、笑顔を浮かべる。

 

「めでたしめでたしだね」

「はい」

 

そして、民たちへの吉報を届け、王様と王妃は4人を連れて再び城の中へと戻っていく。先ほど4人が現れた玉座の間ではなく、いくつかの椅子や机が並んでいる会議室のような場所へと移動する。そして改めて、

 

「では、話してもらいたい。プリンセスを攫った者について」

「……はい」

 

王様からの許可をもらい、カバトン、そしてその背後に存在するアンダーグ帝国の存在を話す4人。それを聞いた王様は考え込む。

 

「うーむ……アンダーグ帝国……何故プリンセスを狙う……?」

「あなた」

 

エルを狙う理由については王様も見当もつかないようだ。それについて深く考え込んでいたが、王妃の言葉に我に返り、4人の真剣な表情を見て、どうやら4人を置いて考え込み始めていたことに気付く。

 

「……あぁ、すまなかった。この件は全て、私が預かろう。そなたたちは安心して家に帰るがよい。そちらの2人はスカイランドに滞在するのだろう?こちらで手配しよう」

「「「「え?」」」」

 

王様の申し出は、4人にとって驚くべき内容であった。プリキュアとしてこれからも戦うつもりだったし、実際カバトンやランボーグと戦ってきた功績だってある。王様の方もそれを理解しているはずだが、ではプリキュアの力に頼らず、これからも現れるであろうアンダーグ帝国の刺客と戦うことができるのか。それに、ソラとしてもこのまま帰るわけにはいかない。元々彼女が王都へとやってきた理由もあるのだから。

 

「プリキュアの力、お貸しします!」

「私も!」

「僕も!」

「俺達にも協力させてください」

 

そして思いは他の3人も同様だ。これは危険な戦い、それ故4人の子供を巻き込みたくないと王様夫妻は考えているのだろう。しかし、こちらもそれは承知の上。

 

「これは危険な戦いになりますよ」

「相手がどんなに強くても、正しいと思ったことを最後までやり抜く!それがヒーローです!」

「……ヒーロー、か」

 

突如聞こえてきた女性の声。この部屋に誰か来たのだろうかと4人が部屋の入口へと振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。赤い裏地を使用した青いマントを羽織った、騎士のような出で立ちの服装に身を包んだ女性。その女性を目にしたソラは驚きで目を見開く。

 

「……ふふ」

「!」

 

王様達の下へと歩く途中、ソラを一目見て笑みを浮かべる女性。まるで、ソラのことを知っている様子の女性の反応、一体誰なのだろうか。ましろとヤクモが疑問を浮かべている中、王妃の抱くエルの前で膝をつく。

 

「プリンセス、よくぞご無事で」

「えるぅ!」

 

エルも知っている相手なのだろう、嬉しそうに女性に手を振る。

 

「戻ってくれたか」

「都を留守にしていたとはいえ、プリンセスをお守りできず……」

「いいえ、辺境の地の大火災。あなたが遥々出向いて指揮を執ってくれたおかげで……」

 

話から察するに、エルが攫われた時この王都にいなかった人物なのだろう。それも、こうして王様達に直に報告しに来るということは高い地位にいる人物のようである。一体、あの人は誰なのか、タイミングを見てソラに聞こうとましろとヤクモがソラとツバサの顔を見ると。

 

「……本物だ」

「誰?」

 

ツバサが感激の声を漏らす。やはりツバサも知っている人物のようであるので、呆然としているソラよりも話が聞けるだろうとヤクモが小声で質問する。

 

「シャララ隊長ですよ……といっても2人は知らないんでしたね。スカイランドを護るヒーローチーム、青の護衛隊。シャララ隊長はそのリーダー……世界で一番強い剣士なんです……!うわぁ……握手してもらえないかなぁ……!」

「お、おう……」

 

生のアイドルを前にしてサインだの握手だのを求めるファンのようなツバサの姿に思わず引き気味になるヤクモ。一旦ツバサの様子は置いておくとして、シャララというのはやはり凄い人物のようである。と、王様達との会話が一通り終わったであろうシャララの下に、ソラが歩いていく。

 

「……って、ソラさん?」

「あっ!」

 

突然、シャララに抱き着くソラ。一体どうしたのだろうかと3人が驚いていると、シャララはソラを一目見ると、

 

「大きくなったな、ソラ」

「……はい!」

「あれから、もう10年になるか」

 

そう言って笑いかけ、ソラも嬉しそうに返事をする。その様子を見て、ましろとヤクモは以前聞いた、ソラの憧れの人の話を思い出す。ソラやツバサの様子やその地位や実力から判断するに、きっと彼女がソラが憧れていた人物なのだろう。

 

(そうか……あの人がソラさんの憧れのヒーローなんだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか、変な感じだな」

 

その日の夜。王様の計らいにより、ヤクモ達はスカイランドに滞在している間使用する一軒家に案内されていた。王城で泊まることも打診されたのだが、さすがにそこまで持て成されるとヤクモとましろも気が気でないということもあり、こうして空き家を使わせてもらえることになったのだ。

 

「どうです?スカイランドの服は」

「なんていうか感触が違うなって……」

 

スカイランドに滞在する以上、元の世界の衣服を使うのは少々目立つ。無論、そこまで気になるような柄をヤクモとましろも身に着けているわけではないが、郷に従えということでスカイランド製の服を身に着けていた。紫とベージュを基調としたシンプルな半袖に腕を通したヤクモは、その不思議な感覚を味わっていた。

 

「あはは、わかるよ。異世界の服を着るってなんか不思議な感じ」

「2人とも似合ってますよ!」

 

ましろも、白と桃を基調としたシンプルながらも可愛らしい服を身に着けていた。ヤクモは最後に靴の履き心地を確かめ、うんと頷く。そして眼鏡を外す。

 

「え?眼鏡外しちゃうんですか?」

「スカイランドの人って見た感じ眼鏡つけてないし……そもそもそういう文化ないのかなって」

「目、見えなくならない?」

「度が強いわけじゃないから全然問題ないよ?だから体育の時とかは外しても全然いいんだけどいちいち付け外しするの面倒だし……」

「あ、そんな理由なんだ……」

 

持ってきた荷物の中に眼鏡ケースもちゃんといれてたはず。それを探そうとしていたのだが、

 

「……そ、ソラさん?」

「あ、えっと……」

 

妙にソラからの視線を感じてしまう。やはり眼鏡を外した姿というのは普段とは違い違和感があるのだろう。

 

「……」

「ソラちゃん、どう?」

「ど、どうって……印象が全然違ってかっこ、いいなって……」

「え?」

 

それに気付いたのかましろに聞かれるも、何故か照れるように小声になっていくソラ。それぐらい眼鏡がないと印象が変わってしまうのだろうかと少し困った様子になりながらも、ヤクモは眼鏡ケースを荷物の中から探そうとする。と、

 

「……やっぱりヤクモさんはスカイランドにいる間も眼鏡の方がいいと思います」

 

と言い、一旦机の上に置かれていたヤクモの眼鏡を手に取ると、ヤクモに付け直す。

 

「まあスカイランドにだって眼鏡ぐらいありますから問題ありませんよ、デザインまで見る人そうそういないでしょうし」

「そう?なら別にいいかな……」

 

ツバサからのフォローもあり、眼鏡を外すのを止めることにするヤクモ。その様子を見て、何故かほっとするソラにニヤニヤと笑いながらましろが囁く。

 

「嫌だったんだよね?」

「え?ま、ましろさん?嫌って……」

「眼鏡外したヤクモ君の顔、私達以外に見てほしくないって思ったでしょ」

「……そ、そそそんなことありませんよ!?」

 

慌てて否定するソラ。しかしその様子は完全に図星であったと自白しているも同然であり、そんなソラの様子を見てましろはさらにニヤニヤする。

 

「ふーん、そっかぁ……大丈夫大丈夫!わかってるから!」

「そ、そうですか!それならいいんですけどねあははは!」

「何やってるんだ……」

「さぁ?女子の考えることなんてわかりませんよ」

 

急に盛り上がり始めた女子の会話を見ながら呆れる、ヤクモとツバサ。と、ヤクモが窓の外を見ると綺麗な星空が見える。ここは都会のソラシド市とはやはり大きく違うのだろう。

 

「……そういえば、ソラさんは明日から青の護衛隊っていう組織に入るんだよね?」

「そうです!元々そのために王都に向かっていたんです!」

「じゃあ夢の一歩ってことだね」

「はい!!」

 

4人がスカイランドに来た時は既に夕方だったこともあり、諸々の事は明日に回されることとなった。そんな中、ソラが受け取った褒美は、青の護衛隊の見習い隊員としての入隊許可。ツバサもまた、あくまで本人はナイトと自称してはいるが子守役としてエルの傍にいてもいいということになっている。そして同じく褒美をヤクモとましろにも与えると王様は伝えたのだが、

 

「……でも、2人ともなんで褒美を受け取らなかったんですか?特にありませんって」

「確かに……なんでも手に入りますよ?」

「エルちゃんが家に帰れた、それだけで十分だよ」

「それもあるけど……スカイランドのものをもらって元の世界に持ち帰った時に大丈夫なのかどうか気になってね……」

「「ああ……」」

 

ヤクモの考えにツバサとソラも納得する。スカイランドからソラシド市に落ちた自分達もカルチャーショックで衝撃を受けた身だ、その逆も十分考えられる。そう考えるとあまり下手なものは受け取れないと考えてしまったのだろう。

 

「あ、そういえばおばあちゃんにスカイジュエル頼まれてたからそれもらっておけばよかったかな……後あげはちゃんへのお土産……」

「お土産は最後でいいような……物を持ち帰っても困るし食べ物でいいんじゃないかなぁ……」

「あー……確かに……」

「な、なんですか……まるで僕が一番図々しいみたいじゃないですか!」

「ま、まぁまぁ……」

 

後からスカイジュエルを頼めばよかったと思い出すましろ。とはいえ、ここにいる分には衣食住には困らないようにはすると王様も言っていたし、ヨヨが使用すると言えばスカイジュエルぐらいすぐに用意してもらえるものではあるだろう。失敗したなとは思いつつもそこまで深刻に考えるほどではない。

 

「……ふぁ……なんか、凄く疲れてきちゃった……」

「そういえば空港まで行ってそのまま靴屋巡りしてたんだっけ……それは疲れるよ。早く寝た方がいいんじゃないかな……することないし」

「そうですね。明日は入隊の日……寝坊なんて絶対にできません!」

「明日一日はプリンセスは王様達と一緒に過ごすそうなので空いちゃいますね。折角ですしお二人に王都の案内をしましょうか」

 

明日のソラと3人の予定もある。久しぶりの故郷の夜と、初めての異世界の夜。それぞれ違った夜を過ごすべく、男女別で分けられた寝室に4人は別れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。雲のほとんどない晴れ空の中、ヤクモとましろは一通り王都をツバサに案内してもらっていた。滞在中訪れることが多くなるであろう市場など、一通り案内してもらっている中、ソラを連れたシャララは青の護衛隊の宿舎の前に来ていた。そしてシャララが扉を開くと。

 

「隊長に!」

 

副隊長と思われる男性の声に従い、全隊員が右腕を胸に当てるようなポーズをとる。どうやら青の護衛隊の挨拶のようなものらしい。そしてシャララは全員がいることを見渡して確認すると、

 

「見習いの隊員を紹介する」

 

そう告げる。そしてソラに挨拶をするようにと促すと、頷いたソラが前に出る。

 

「ソラ・ハレワタールです!シャララ隊長に憧れて、ヒーローを目指しています!王様にお願いして皆さんの仲間にしてもらえることになりました!未熟者ですが、一生懸命頑張ります!よろしくお願いします!」

 

自己紹介と、入隊に至った流れを説明し、深く頭を下げるソラ。と、

 

「……子供じゃないですか」

 

返ってきたのは拍手ではなく、少女の呟きだった。それも、どこか否定的な声音の。自分の自己紹介が悪かったのかと顔を上げ、声の主を見るソラ。そこにはソラよりは年上だろうか、赤い髪の少女がいた。

 

「控えろ、ベリィベリー」

「……別の世界に行って、プリンセスを救ってきたとか。護衛隊に入りたくて嘘を吐いているのかも」

 

副隊長の言葉も意に介さず、ソラを嘘つき呼ばわりするベリィベリーと呼ばれた少女。まさかこのように言われるとは思わず、ぽかんと驚いた表情で少女を見ているソラ。しかしやがて、自分の経験を嘘と断じられてることに気付いたのだろう、すぐに少女へと言い返す。

 

「私嘘なんて言っていません!」

「弱いやつを仲間に入れるなんて反対です。邪魔ですから」

 

取り付く島もないとはこのことか。ソラを弱いと一方的に言い切り、仲間として認めないというベリィベリー。周りもどうしたものかとベリィベリー、ソラの両名にかける言葉が中々見つからないといった様子だ。

 

「だったら!私の力をテストしてください!そうすればわかるはずです!私が嘘を吐いていないということが!」

「……ふぅん?」

 

売り言葉に買い言葉。思わずそう口走ってしまったソラだったが、自分の言葉を嘘と言われたくなかったのだ。いや、自分が嘘つきと言われるだけならばまだ構わない。だが、ソラシド市であったことを否定されるということは、ヤクモやましろ、ツバサ、そしてエルやヨヨ、あげはらとの思い出や出来事まで否定されるような気がして、絶対に引き下がりたくはなかった。一方のベリィベリーは、これは良いことを聞いたと言わんばかりにソラへと告げる。

 

「面白い」

「ええい、2人ともよさんか!そのような……」

「わかった」

「隊長!?」

 

2人を止めようとする副隊長。ソラの言うことが嘘ではないと知っている。かといって、ベリィベリーがソラに突っかかってしまうのも心当たりはあるようで、どうにかとりなそうとしているようだが、そんな副隊長を遮って鶴の一声を下したのはシャララだった。

 

「ついてこい」

「ええ!?本当にやるつもりですか!?」

 

宿舎の外にある広場へと隊員たちを連れていくシャララ。まさか本当に2人を戦わせようというのかと驚愕する副隊長。ソラの実力を見るだけならこのようなことをしなくても他にやりようはいくらでもあるはずだと考えているのだろう。しかし、隊長の意見に逆らうだけの代案は出せなかったのか、不安な表情で彼も広場の方へと出ていく。そこではベリィベリーとソラが向かい合っており、手合わせが始まるのを今かと待っていた。いや、手合わせというには少々語弊があるだろう。2人の間に流れる雰囲気は完全に、決闘のようなピリピリとした空気だったのだから。

 

「さあ、始めようか」

 

ベリィベリーの右手に装着された手袋に装着されたスカイジュエルのような青い宝石から電撃が奔る。これが自分の武器だ。そう宣言する意味合いも込めたのだろう。そしてベリィベリーは傍にある剣や盾、槍などが立て掛けられた棚を見る。

 

「好きなのを使っていい」

「……」

 

それらを一瞥するソラ。確かに、あの電撃に触れれば決して小さくないダメージになるだろう。しかし、自分は武器を使っての戦いはできない。一度だけ、ヤクモから受け取ったアンブレランスを使用したことこそあったが、あれは誰かを守るための武器。強さを求めず、正しいと思ったことを成すために握った武器を思い出し、ソラはベリィベリーに向き直ると、素手を構える。

 

「な……」

 

副隊長の口から驚きの声が漏れる。まさか徒手空拳で挑むつもりかと。しかしソラも、これが自分のスタイルなのは事実だが強さを示さなければならないこの場で武器を握りたくないという思いでこの戦い方を選択した。そこに悔いはないし、正しいと思っている。後はそれを成すだけだ。

 

「っ……後悔するぞ……!」

「始め!」

 

それを武器などなくても勝てると思われたのだろうか。苛立つように吐き捨てるベリィベリー。2人が構えたのを見て、シャララが合図を出すと同時にソラとベリィベリーは互いに走る。

 

「はあ!」

 

電撃をまとった手袋を手刀のように振るい、襲い掛かるベリィベリー。その攻撃を避け、隙を見て拳を叩き込もうとするもいち早く察知して距離を取られる。そのまま電撃弾を放つも、それを見切るソラ。さらに先ほどの手刀の際に電撃が切れた直後はただの手袋に戻るのを見抜き、電撃弾が放たれた直後を狙って飛び蹴りを叩き込む。

 

「くっ!」

 

それを両手で受け止めるベリィベリー。そのまま手袋から放電して攻撃しようとするも、既にソラは反動を利用して背後に跳び、その場を離脱していた。

 

「はぁ!」

「やぁ!」

 

着地の隙を狙って拳を振るうもしゃがんで回避、そのまま回し蹴りをするソラ。だがベリィベリーもしゃがまれた時点で下から攻撃されると読んでいたのだろう、跳んで回避すると、ソラの追撃を阻止するように電撃弾を放ち、ソラが一旦距離を取るように弾を避ける。

 

「ううむ……互角か。しかしやる……」

「どうだアリリ、ソラの実力は」

「言っていることを疑ってはいませんでしたが……まさかこれほどの実力とは。それに……まだ余力を残している」

「そうだな」

 

アリリと呼ばれた副隊長は、冷静にソラの戦い方を見ていた。今のところ、ベリィベリーの攻撃を全て見切っており、回避すべき攻撃と受け止めるべき攻撃をきちんと判断している。ベリィベリーは一度攻撃が当たれば一気に勝利が目前に迫るというのもあって一撃一撃にソラを仕留めるという意思を感じられるが、対してソラは一撃一撃に決めるという意思を感じない。しかしそれは、ベリィベリーの反撃を恐れてのものというよりは、

 

「……堅実に追い詰めているな」

「ああ、プリキュアというのは他に3人いるとのことだ。盾となり、戦いを築く者がいたのだろうな」

 

ある程度長期的に見ながらもしっかりと勝ち筋を見据えるための戦い方。一つ一つ、確実にアドバンテージを積み重ねていくやり方は、ベリィベリーからすれば徐々に追い詰められているようにも見えてかなりのプレッシャーと言えるだろう。

 

「っ……」

 

一旦仕切り直しの形になった両者だが、完全にベリィベリーは攻めあぐねていた。悔しいがソラにある程度の実力があるのは認めざるを得ないだろう。しかし、王様に認められたからなどというふざけた理由で青の護衛隊に入ってきた彼女をどうしても認めたくない。その一心で、どうにか隙を見つけようと必死に考えていると。

 

「えぇ!?」

「うお!?」

 

突然聞こえてきた少女の声にアリリが驚く。そこには、ましろ達がいつの間にか立っていた。いや、この決闘に見入っているあまり、3人の接近に気付かなかっただけなのだろう。その手には食べ物らが入った袋が握られており、どうやらソラ達の元に差し入れを届けに来たようだった。

 

「な、何してるの!?」

「……組手、って言うにはなんか雰囲気凄いことになってるけど……」

「!?」

 

突然ましろとヤクモの声が聞こえてきて、ソラの意識が一瞬そちらに向けられてしまう。

 

「余所見なんて!」

 

ヤクモ達の方を見たソラを見て、これをチャンスと判断し電撃を放つベリィベリー。もう回避が間に合わない。咄嗟に防御姿勢を取ろうとするソラ。

 

「左だ!」

「うあ!?」

 

つい零れてしまったヤクモの言葉と同時にソラが左手を突き出して電撃を受け止める。その衝撃によって大きく後ずさり、左手がバチバチと帯電したように一時的に麻痺してしまう。そこに、トドメを刺すべくベリィベリーが接近してくる。

 

「青の護衛隊は最強なんだ!弱いやつに居場所はない!」

「!」

 

ベリィベリーのその言葉を聞いたソラの表情が険しくなる。ソラの脳裏に過ったのは、力を至上とするアンダーグ帝国。弱ければ居場所はなく、抹殺すら行う非情な帝国。それと同じ理論を振りかざす相手に負けるわけにはいかない。ベリィベリーの渾身の一撃を紙一重で回避すると素早く後ろへと回り込む。

 

「な……」

 

麻痺しているはずなのに俊敏すぎる動きに、ベリィベリーの表情が驚愕で見開かれる。ヤクモの指示に従うように左手で攻撃を受けたことで痺れは左手に集中しており、全身を動かす余裕がまだ残っていたのだ。それを見誤り、全身が麻痺していると思い込んだベリィベリーは今の攻撃で決着をつけようとしていたため、大きな隙ができており、ソラの右手に反応しきれない。

 

「はっ!?」

 

なんとか振り向くも、もう遅い。顔面へと放たれたソラの拳。だがそれは命中する直前に、ベリィベリーの目の前で寸止めされた。

 

「勝負ありだ」

 

シャララの声と共に拳を引くソラ。そしてベリィベリーは、脱力したように膝をつくのだった。

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