曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第33話 バラバラになって

「新しい敵、バッタモンダー……か」

 

バッタモンダーの召喚したランボーグとの戦闘を終えた日の夜。滞在中使用する借家に戻ってきたヤクモ達は今日のことを振り返っていた。だがそこにソラの姿はない。青の護衛隊に入隊したソラの寝床は宿舎の方になる。無論、大事な話などがあるならこちらに戻っても来るのだろうが、青の護衛隊としての初仕事にランボーグの戦闘と、いかに鍛えている彼女の体でも中々に疲労の溜まる一日だったこともあり、ヤクモ達はソラには先に休んでもらうようにしたため、この場にはいないのだ。

 

「エルちゃんをスカイランドに帰してまだ2日目なのに、もう来るなんて……」

「明日から青の護衛隊の方でパトロールを強化するそうです」

「でも……バッタモンダーの顔を知ってる人そういないんじゃないか?監視カメラとかないし……」

「そうだよね……人相書とかするのかな?」

「まあそうですね……」

 

実際にバッタモンダーの顔を見たのはおそらく5人だけ。明日、人相書を作るため、容姿に関する情報をヤクモ達に聞きたいということで城に向かうことになっている。のだが、

 

「……ツバサ、描けたりする?」

「やってみます。手配書も明日作るでしょうけど……その前に1枚でも欲しいでしょうし」

「……これ、もしかして全部手書き?」

 

と、ここでましろが若干戦慄しながら呟く。最初の1枚を手書きするのは理解できるが、そういえばスカイランドに電気など通っていないのだ。こうして話し合ってる部屋の中は明るい光で満ちているが、これも2人の世界のように電気が生み出している明かりというわけではない。当然、機械類などこの世界にあるわけもなく。

 

「そりゃあ……プリンターなんてないし……」

「は、版画とか……いやなんでもないよ……」

「木彫りなんて無茶言わないでくださいよ……だ、大丈夫ですよ。王城には専属の絵師などもいます。1枚元があれば何枚でも増やせますよ!」

「……でも1枚ツバサが描いてくれれば、一旦ソラシド市に戻ってコピーできない?」

「うん……明日、王様に頼んでおばあちゃんと連絡を取ってみようよ」

 

ここからヨヨと連絡が取れれば確かにいいのだが、スカイランドからヨヨと通信するには、玉座の間においてある特殊なオブジェを使用するしかないのだ。

 

「そうですね……こっちでも使えたらいいんですがね……あんな便利なものなんで使えないのか……」

「電気もカートリッジもないからかな……」

「だね……」

 

ツバサとしても異論はないようだ。愚痴を零しながらもソラシド市から持ち帰ってきた自分の絵描き道具を広げていく。そしてバッタモンダーの顔を思い出しながら筆を手に取り始めたところで、ある疑問を思い出す。

 

「そういえば……ランボーグが出たことに気付けなかったって言ってましたけど」

「あ、そうだよ……どうしちゃったの?」

 

今日の戦いで、普段ならランボーグの出現と共に感じ取れるはずのアンダーグエナジーをヤクモは感じることができなかった。とはいえ不調というわけでもなく、それどころか戦闘に関してはむしろこれまで以上という妙な事態になっており、そのことを気にしていたましろもヤクモに質問する。

 

「よくわからないんだよね……ただ、なんか妙に漲っていたっていうか……今なら今までできなかったことができる、って感じで……」

 

とはいえ、ヤクモ本人にも理由はわかっていないようだ。うーんと悩むヤクモだが、一つだけ仮説があるとするならば。

 

「スカイランドだから調子がいいとか……?」

「まあ……言わんとしていることはわかりますが……」

「うーん……確かにソラシド市に居た時よりも戦えてるっていう感じはないわけじゃないけど、どっちかというとプラシーボ効果みたいな気が……」

 

スカイランドのプリンセスであるエルの力によってプリキュアになったのだ。で、あればホームグラウンドであるスカイランドならばその力はソラシド市よりも高まるのかもしれない。が、ましろの言うようにスカイランドでの戦いだからこそ精神的に調子が良いのが反映されているだけかもしれない。どちらの言葉も筋としては通ってはいるだけに判別しにくいのが困ったところだ。

 

「……もしかしたら、今までの戦いでヤクモさんがそれだけプリキュアとして成長したのかもしれませんね」

「え?じゃあなんでランボーグに気付かなくなっちゃったの?」

「それは……」

 

プリキュアとして成長したということは、敵であるランボーグの存在をもっと感じ取れるはずではないのかというましろの指摘に言葉が詰まるツバサ。それは、単純に理由を説明できないからではない、その逆で心当たりがあるからこそ、それに触れずに説明することができないでいた。今の状況で、ヤクモにアンダーグエナジーがあってそのおかげでランボーグを感知できていたかもしれない、などと言えば、シャララや王様達はともかく、青の護衛隊の隊員たちからどのように見られるかわからないのだ。

 

「わかりませんけど……現にそうなってるってことじゃないですか?きっとこれがヤクモさんの本来のプリキュアとしての力なんですよ」

「まぁなっちゃってるんだけど……」

「そんな、スキルポイントを振り直したみたいなことじゃないんだから……」

 

いまいち納得しきれていない様子のましろ。だが実際に起こっているし、ヤクモのましろにしか伝わらない例えもあってかひとまずは受け入れることにしたようだ。

 

「うーん……ツバサ君何か隠してない?」

「そんなわけないでしょう……今のヤクモさんの変化が何が原因なのか僕だって知りたいですよ」

 

これに関しては本当だった。ましろからはこれ以上の追及がなかったので、ひとまず安心しながらツバサは絵を描き始める。その姿を見て、ヤクモとましろは席を立つ。

 

「ツバサ君の邪魔をしちゃ悪いよね」

「うん、俺達は先に休むことにしようか」

「そうだね、それじゃおやすみなさい」

「うん、おやすみ」

 

軽く言葉を交わし、それぞれ寝室に入っていく。リビングには絵を描き始めたツバサだけが残されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夜が明け、3人は王城へと向かっていた。そこにはソラとベリィベリーの姿もある。

 

「皆さん、おはようございます」

「おはよう、ソラちゃん。昨日はよく眠れた?」

「ええ……ぐっすりです!」

 

2人は人相書の聞き取りのために来ていたのだろう。だが、ベリィベリーの顔は少々浮かない様子。何かあったのかとヤクモが考えていると、

 

「その……昨日はごめん」

「え?」

 

突然謝罪される。ソラに対しては確かにわかるが、ヤクモ達にまで謝ることがあるのだろうかとツバサが驚いていると、

 

「別の世界のこととか……嘘って言っちゃって。皆、頑張っていたのに、嘘だって」

「あ……」

「今はもう気にしてないから大丈夫ですよ」

 

昨日ソラを嘘つき呼ばわりしてたことがヤクモ達に対する侮辱になっていたことを謝罪していたようだ。しかし、それももう終わったこと。ベリィベリーはそのことを受け入れているし、一番突っかかっていたソラとも和解しているならヤクモ達としても気にすることではない。そう伝えられ、ベリィベリーもほっと胸を撫で下ろす。

 

「それじゃ、早速アトリエに……」

「いや、その前にヨヨさんに連絡を取ろうと思うんだけど……」

「ヨヨさん?」

 

そういえばベリィベリーはヨヨのことを知らなかった。簡単にヨヨのことを説明しつつ、今回のことで協力してもらおうと、王様達に会いに行こうとしていたという話をすると、ベリィベリーとしても異論はないとのことで一旦5人は王様の下へと向かったのだが。

 

「おお、ヨヨ殿。ちょうど来たようですぞ」

「え?」

 

玉座の間に5人が到着すると、モニターにヨヨの姿が映っていた。ましろ達が自分と話をしようと来ることはヨヨも予想していたということだろうか。

 

「あの、王様……これは」

「うむ、昨日ランボーグが出現したとの報せを受けて、ヨヨ殿に伝えたのだ。明日、皆が自分に話をしに来るだろうから準備をしてほしいと言われてな」

『ましろさん、待ってたわ。昨日のことだけど』

 

そうであるなら話は早い。ましろは早速、本題に入ることにする。

 

「うん、アンダーグ帝国の新しい敵が出てきたんだ。それで、ツバサ君が人相書を作ってくれたんだけど……戻ってプリンターを使いたいんだけど……」

『……ごめんなさい、ましろさん、ヤクモさん』

「「……え?」」

 

だが、ヨヨから返ってきたのはましろとヤクモに対する詫びだった。何かあったのかと2人が顔を見合わせていると、

 

『今、トンネルは使えないの』

「?もしかしてあの時壊れて……」

『そういうわけじゃないの。でも、不具合が見つかってしまったから調整をしているのよ。あなた達も、トンネルの出口がずれて落ちてしまったでしょう?』

「「あ……」」

 

ヨヨが指摘したのは、一昨日、この部屋に4人が落ちてきたことだ。本来はちゃんと地続きになるようにトンネルの出口が出るはずだったのだが、結果としてそうはならなかった。王様が寛容な性格だったおかげで事なきを得たが、一歩間違えれば不敬罪になってもおかしくない所業をしてしまったからには再発防止のために絶対に解決しないといけない問題ではある。

 

「そのためにトンネルのメンテナンスと再構築を今、一から行っているの。だから、後数日はトンネルが使えないの……」

 

本来はヤクモとましろがソラシド市に戻ってくる日が先だったため、それでも問題はなかったのだが、タイミング悪くバッタモンダーが現れたことで、トンネルを即座に使用したいのに使えないという問題に直面してしまうこととなってしまった。

 

「……でも、それなら仕方ないよね。俺達がスカイランドに来るのも今回が初めてってわけじゃないだろうし」

「そうだね。おばあちゃん、こっちはどうにかするから、心配しないで」

『ありがとう、ましろさん、ヤクモさん。それでは王様、私はここで』

「うむ、トンネルの件、よろしく頼むぞ」

 

画面が消え、ヨヨとの会話が終わる。ここだけ見ればなんとも科学的だが、ヤクモ達からすればそのメカニズムはきっとファンタジーなのだろう。

 

「すまないな、期待には応えられなかったようで……」

「いえ、大丈夫です」

「ふむ……しかし、そのぷりんたー、なるものを使いたいと言っていたが……」

「いえ、気にしないでください!私用なので!」

 

慌ててヤクモとましろが何事もなかったかのように振る舞う。王様も特に触れてはこなかったようで、

 

「そうか……ところで、アトリエの方は既に準備ができている。アンダーグ帝国の件、プリキュアと青の護衛隊に一任することになろう……どうか、この国とプリンセスのために尽力してもらいたい」

「「「「「はい!」」」」」

 

異世界の話にはついていけず口を閉ざしていたままだったベリィベリーを含め、5人は返事を返す。そして玉座の間を後にして城のアトリエへと向かう。そこには既に何人かの人や鳥がおり、それぞれ絵描き道具を手に準備を進めていた。

 

「こ、こんなに城には絵描きさんがいたんですか!?」

「いや、普段はもっと少ない。ただ今回は事が事だから、人相書きの専門家なども呼んだそうだ」

 

その人数を見て驚くソラに説明するベリィベリー。と、その視線がヤクモとましろに向けられる。

 

「それにしても……さっきは聞くに聞けなかったが、2人とも何をする気だったんだ?異世界のことはよくわからないんだ」

「え、えっとね……な、何でもないよ、うん!ね?ヤクモ君!」

「え?あ、うんそうだねあはは……」

 

2人が言っていたプリンターがどういうものか気になっていたのだろう。わざわざ元の世界に戻ってまでやろうとしていたことを聞くが、2人は慌てて誤魔化す。1枚元の絵があればいくらでも増やせる、などと言ってしまえばこれから手書きでやろうとしているであろう彼らに悪いなんてものではない。どのみち使えないのだ、その雲泥の差を知らないのであればこの場はそのままでいた方が幸せだ。2人はそう考えた。

 

「……役に立つのかな、これ」

 

一方ツバサは、その錚々たる面々を前に緊張していた。絵を描いていたことのある彼からすればやはり知っている存在も中にはいるのだろう。と、1人の男性がツバサ達に気付く。

 

「やあ、君たちが昨日の不審者の顔を知っている人達だね。早速、人相を教えてほしいんだけど」

「はい、わかりました!ツバサ君、絵をお願いします!」

「あ、は、はい!」

 

緊張しながらツバサが絵を見せる。その人相を確かめようとその場にいた全員がツバサの絵を見る。そこには、はっきりとバッタモンダーの顔が描かれていた。

 

「……あー!こんな感じです!」

「確かにこんな顔だった!」

「そっくりだよツバサ君!」

「完全に一致してるね」

「ほ、本当ですか!?」

 

それを見たヤクモ達からの評価は上々だ。これを見れば一発でバッタモンダーの顔が分かる。それを見た本人たちがそう言っているのだから間違いないだろう。他の面々も興味深そうにその絵を見ている。

 

「この絵、君が描いたのかい?」

「は、はい!」

「凄い上手だね、僕達は見たことないけど……でも、ちゃんと特徴も捉えられている。うん、これをお手本にすればその不審者の手配書もすんなり描けそうだ」

「ほ、本当ですか!?」

 

嬉しそうなツバサの声が漏れる。自分の絵を褒められたことが嬉しいのだろう、それも絵心がある人たちから直接ともなればその喜びはさらに大きくなるのだろう。ツバサから絵を受け取り、早速作業を始めた男たちの邪魔をしないように、5人はアトリエから出ていく。

 

「ツバサは残らなくてよかったの?凄い人たちっぽいけど」

「確かにどういう感じで絵を描くのかは気になりますが……それよりも今日はやることがあるので」

 

得意げにそう語るツバサ。そういえば今日からかとツバサのこれからの予定を思い出すヤクモとましろ。

 

「ああ、エルちゃんの子守……」

「護衛です」

「ま、まぁ護衛でも間違ってないんじゃないかと思うよ……今だと」

 

ヤクモの言葉を即座に否定するツバサ。その光景を苦笑しながら見ていたソラとましろ。ベリィベリーも、噂としては耳にしていたようで、

 

「そういえばそんな話を聞いたような……ソラより図々しい……」

「なぁ!?」

「あ……ごめん」

 

思わず呟いた言葉にツバサがショックを受ける。つい漏れてしまった言葉に慌てて謝罪するも、ツバサも主にヤクモとましろと比較してそう感じる部分はあったせいか余計にショックが大きいようだ。

 

「ま、まぁ直接エルちゃんが狙われる可能性も出てきているわけだし……プリキュアが護衛につくことはむしろ必要なこととだから……」

「そ、そうですよ!私はこれからベリィベリーさんとパトロールに出ちゃいますから、もしランボーグがこの城に直接攻めてきたらツバサ君の力が必要になるはずです!」

「そ、そうですよね!では、行ってきます!」

 

項垂れるツバサの肩に手を置くヤクモとソラ。2人に慰められ、元気を取り戻したツバサは、早速エルの下へ向かう。

 

「さて、それでは私たちもパトロールに行きますね」

「うん、わかった。頑張ってね」

「はい!行きましょう、ベリィベリーさん!」

「うん、じゃあ」

 

そして城を出た4人だったが、ここでソラとベリィベリーもパトロールのために2人と別れて街に出る。その姿を見送っていたが、やがて2人が見えなくなると。

 

「……これからどうしよっか?」

「どうしよう……」

 

困ったように顔を見合わせる2人。初日は夕方に来たこと、そして2日目は色々予定が入っていたこともあって忙しく、気にする余裕はなかったが、3日目になって予定が完全になくなってしまった。そしてソラとツバサもそれぞれの予定で動いている。夜になればツバサは戻ってくるだろうがソラは暫く会えないかもしれない。

 

「まさか、こうもばらばらになっちゃうなんて……もっと皆で一緒に観光とか、そういうのするのかなって思ってたんだけど……」

「あ、はは……そうだね……確かにイメージとは違ってきちゃったね」

 

肩を落とすましろを見て苦笑するヤクモ。これが現実か……と遠い目で空を見上げながら頭を掻いていたが、

 

「……でも、俺達もできること探してやってみようよ」

 

そうましろに提案する。ましろとしても異論は確かにない、ないのだが。

 

「できること、かぁ……何ができるかな?」

「うーん……」

 

そう言われるとやはり悩んでしまう。自分たちが個人でできることなど、青の護衛隊がもっとうまくできるだろう。ランボーグが出れば戦うために変身するが、正直なところそんなことで活躍したいと思ってるわけではないし、変身しないで済むならそれに越したことはないのだ。

 

「……とりあえず、街を歩いてみる?街のことを知ってから考えてみてもいいかも」

「そうだね、まだまだ回り切れてないし」

 

ひとまず観光も兼ねて2人も散策に出ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「安いよ安いよー!今ならスカイジュエル一箱がお値打ち価格だ!」

「穫れたての野菜、売ってるよー!」

「小腹にいかがー?」

 

暫く街を歩いていたが、小腹が空いてきたのもあり、2人の足は自然と市場に向かっていた。スカイランドの市場は、売っているものに一部差異があるものの、形としてはヤクモ達の知るものとあまり差はない。一応スカイランドのお金も不自由がないように寝床と共にもらっていたため、その点に関して困ることはないし、実際昨日は差し入れを買っていたのだが。

 

「何か、よさそうなものあるかな……」

「食べ物もいいけど……ちょっと休まないかな……?ほら、そこに広場があるよ?」

「あ……そうだね、休もうか」

 

その前に目に入ってきた広場で小休憩を取ることに決める。そこには他にもいろんな人や鳥が休んでおり、憩いの場となっているようだ。空いているベンチを見つけて座るましろ。その傍に立ちながらヤクモは人と鳥が談笑したり触れ合いながら過ごしている様子を見ている。

 

「……あれ?ヤクモ君も座っていいんだよ?」

「え?でも……いいの?」

「いやいいのって……そこ別に躊躇うような……あ」

 

そこまで口にして、ましろはあることに気付く。そもそもヤクモと2人でこうやってちゃんと話すのは初めてではないかと。

 

(た、確かに学校ではソラちゃんが転校するまではたまに話すようになってたけど……!)

 

学校では2人で話してた記憶はあるが、思い出すと必要な話題などしか話していない。今回のように、今話さなければならない話題というものが存在していない状況で2人だけで行動するというのは初めてだったのだ。この広場に来るまでも、最初こそ初めて見るものに対するリアクションなどをし合ってたものの、段々口数は少なくなっていってしまったのだ。そして遂に、お互いにちょっと要望があったときだけそれを口にする、みたいな今のような状態になってしまった。

 

「……これじゃ駄目だよ!」

「うわっ、ど、どうしたの?ましろさん?」

 

突然声を上げて立ち上がるましろ。そのままヤクモの肩を掴むと、

 

「まず座って」

「あっはい」

 

ベンチに座らせる。そしてその隣に座ると、神妙な顔でヤクモを見る。

 

「ま、ましろさん、な、なんか悪いことしちゃったかな俺……」

「そうじゃないよ」

「えっと、じゃあ……なんか大変なことを……」

「そうじゃないよ!もっとキャッチボールしようよ!?明るいことで!」

 

そこまで言われて、ましろは自分と会話をちゃんとしたいと言っていると理解するヤクモ。いやしかし、そんなに会話してないだろうか?と思い今までのことを思い返してみると。

 

「……あれ?大体誰かといたような」

「でしょお!?」

 

やっと気づいた!とでも言いたげに声を上げるましろ。今までは常にソラやツバサがいたから気にしてなかったのだが、改めて考えてみるとこれからはましろと2人でいる時間だって増えるのだ。さすがに碌に会話がないのも大問題だろう。

 

「ごめん……全然気づかなくて……」

「それは私もだから……でも、これからもっと仲良しになって、もっと仲のいい友達になればいいんだよ!友達に!」

「なんでそこを強調するの?」

 

友達であることにこだわるましろの物言いに何か含みがあるのかと考えてしまうが、ただ強調しているだけなのだろう。今までの自分たちの友達だけど2人の話はない状態から進みたいという意思の表れなのだとヤクモは受け取ることにした。

 

「……でも、何を話そうか……」

「ちょっと気になったことなら何でもいいんだよ、それから会話は膨らませていくんだから」

 

こう、ふわふわーって。そんな感じのジェスチャーを取るましろを見ながら、ヤクモは苦笑する。何でもいいから気になったこと。それでコミュニケーションが取れるのなら、もっと自分からも話してみよう。それができるようになれば、ソラとももっと話せるようになるのかもしれないのだから。

 

「じゃあ……」

「……」

「お腹減ったしご飯食べる?」

「うん!行こうっか、どこにする?」

 

こういうのでいいんだよこういうので。そう嬉しそうに内心思いながらヤクモに返事を返すましろ。

 

「そうだな……さっき美味しそうなところをちょっと見つけたんだけど……」

「じゃあそこにしてみようっか!案内してよ」

「わかった」

 

先程よりはちゃんと話もできている。そんな実感を得ながら、ヤクモとましろは広場を出ていくのだった。

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