「……」
ソラが眠りに入って1時間ぐらいは経過しただろうか。これ以上眠ってもらってもいいだろうが、ソラとしてもずっと寝続けたくもないという思いがあるはずだろう。名残惜しそうにヤクモは膝の上で眠るソラの体を揺らしてあげることにする。
「ソラさん……ソラさん」
「う、うぅん……」
まだ眠たそうにしながらも、ヤクモに体を揺らされて意識を取り戻すソラ。ぼーっとした表情のまま自分の顔を覗き込むヤクモを見ていたが、徐々に意識を覚醒させていくにつれ、自分の状況を把握し始める。
「……あ、あれ……?」
そして気付く。自分が何故かヤクモの膝を枕にして寝ていたということを。
「ああああああ!?」
「うわ!?」
顔を真っ赤にして慌てて跳ね起きるソラ。そのままヤクモに何回に何回も頭を下げ始める。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!こ、こんなこと!」
「い、いやいや!?気にしないでよ!」
「で、でも!私ヤクモさんを枕にするなんて……き、きっと重かったと……」
「そんなことは全然ないから……」
寝ぼけていた間の出来事とはいえ、完全にヤクモのことを蔑ろにした行動をとってしまい、申し訳ない気持ちでとにかくいっぱいなのだろう。自分のせいでヤクモは自由に動くこともできなかったのだから。しかしヤクモとしては全然そんなことは思ってすらいない。
「それにその……俺は嬉しかったよ」
「そ、そうですか……?」
「……うん」
あまりこういうことで嬉しいというのはどうなのだろうかという迷いが生まれ、段々声が小さくなってしまうヤクモ。顔は照れて赤くなっており、見ればソラの方も顔がまだ赤い。だがそれは恥ずかしさなどというよりも、こちらも照れているように見える。
「……その、もしソラさんが嫌だったのならちゃんと謝らなきゃって思うんだけど……」
「そんなことありません!私だって凄く嬉しかったです!ヤクモさんの膝で……寝て……その……」
慌ててヤクモの言葉を否定するソラ。そのまま自分も嬉しかったというも、先ほどまで自分がされていたことを口にするのは凄く恥ずかしいのか、徐々に言葉に詰まり始めてしまう。
「……」
これ以上語ろうとしても変なことしか喋らなそうだ。そう悟ったのか、再びヤクモの隣に座り込むソラ。そしてお互い特に話すこともなくそのまま座っていたのだが。
「「……」」
何も話さなくてもそれだけでもいい。そんな気持ちをこの時2人とも不思議と感じていた。とはいえ長くそのままでいてはソラももうちょっと動きが欲しくなる。が、こういう時何を言えばいいのかわからない。どうにか話そうと口を開いて、でも言葉が出なくて。
(……いやいや、駄目駄目!このままでは……ここは勇気をもって、発言しなければ……!)
ここで迷っていてどうするのだと慌てて自分を奮い立たせる。そして意を決してソラがヤクモを見る。
「ヤクモさん!」
「は、はい?ど、どうしたのソラさん」
「え、えっと、えっと……」
突然呼ばれてソラを見るヤクモ。この状況でじっとヤクモに見られたソラは、今言おうと考えていたことを忘れてしまう。でも呼んだ以上は何かを話さないといけない。追い詰められたソラが口にしたのは、
「わ、私が膝枕しますよ!」
「えっ」
「……え、えっと……や、やりま……すよ……?お返しに……」
言ってから気付いたのだろう、ソラの顔がまたしても赤くなる。ヤクモもソラの突然の発言に完全に思考が停止していた。お返しというのは頭では理解できるものの、そもそも先ほどのあれ自体事故に近いものではないのかと考えてしまう。とはいえ、恥ずかしさを押し殺して提案されたソラの申し出を断るのもどうなのか。そんな、言い訳めいた思考がヤクモの中で浮かび上がると、
「じゃあ……お願いしようかな……」
「ど、どうぞ……」
気付けばそう返事していた。ええいままよ、と内心叫びながらソラに膝枕してもらうヤクモ。膝の感覚が思ったより心地い、なんていう思っていいのかどうかわからない怪しげな感想を思わず抱きながらも、自然と心が落ち着く感覚を感じる。先ほどのソラもこのような気持ちだったのだろうか。
「ど、どう……ですか?」
「えっと……良い……?」
「そ、そうですか!ならよかった……」
ほっと胸を撫で下ろすソラを見上げるヤクモ。これは友達同士がやるようなことなのだろうか。そんな思いがふと、ヤクモの中で浮かびあがり、
「その、こういう……膝枕ってやったりとか、他にやったりとか……する?」
気付けばこんな質問をしていた。明らかに気持ち悪いことを聞いている気がする。そのことに嫌悪感が湧きかけるも、突然こんな質問を投げかけられたソラが慌ててヤクモの発言を否定する。
「や、やりませんよ!?なんていうか勢いで言っちゃっただけというか……で、でもヤクモさんならいいかなって……そ、そのヤクモさんの方は……どう、ですか?膝枕とか……やったりするんですか?」
「やらないよ……」
「よかった……」
それを聞いてソラがぼそっと呟く。その呟きはヤクモには聞こえなかったが、ヤクモはソラを見て、あることを聞こうと体を起こす。
「ソラさん、その……俺達って、友達なのかな……」
「え!?友達ですよ!?」
「だ、だよね」
不安そうなヤクモの問いかけにいきなり何を言い出すのかと言わんばかりに声を上げるソラ。確かに友達とはいえこんなことするのは目の前の相手ぐらいだが、まさか自分たちの関係をヤクモに疑われるとは思わなかった。
「も、もしかしてヤクモさん、私のこと友達だと思って……」
「いや思ってるよ!?凄く大切な友達だって……」
「じゃ、じゃあどうしてそんなこと聞くんです……?」
不安そうなソラの表情に、ヤクモも完全に質問が悪かったと後悔してしまう。しかし、ソラが考えているような、悪い方向で友達かどうかを疑問視したわけではないのだ。尤もソラの答えからしてヤクモの中で一瞬過った希望的な観測は徒労に終わったわけだが。
「いや、友達だからで膝枕なんて普通やることじゃないよなって思って……それだけで、ソラさんは友達じゃないとか、そういうことは一切考えてなかったんだ……むしろ、俺の中だと一番の友達というか……」
「え、へへ……そ、そうですか、一番の友達ですか」
嬉しそうな顔をするソラ。もし尻尾が生えてたらぶんぶんと振り回してそうなぐらいに喜んでる。どうにか機嫌を直してもらえたようだとヤクモもほっとしながら、そしてどこか残念そうに哀愁の漂う表情を浮かべる。
(……あれ?友達……?)
ふと、喜んでいたソラだったがここである違和感に気付く。
(あれ?私ヤクモさんのこと、今も友達だって思ってましたっけ……)
もし同じことをツバサやましろ、クラスメイトにやるかどうかと言われると、多分やらないだろう。そういうことはしないだろうがましろが懇願したり、鳥の姿になったツバサをとりあえず膝に乗せる、とかはやるかもしれないが、少なくとも人の姿になってるツバサに膝枕は頼まれてもやろうとしないだろう。そもそも、ヤクモと他の男子だと、自分の中での思いは明らかに差があることにソラは気付く。
(これって、もしかして私……)
それは何故なのか。ヤクモとはずっと一緒にいたいと考えていた。一緒に居るとドキドキして、寄り添いたい。これは、友達に向ける感情ではなく、もしかしたら―――
「「!?」」
ソラの思考が、爆発音によって中断される。思わず不機嫌そうに音の鳴った方向を見たが自分は絶対に悪くないだろう。そう不満そうに呟きながらソラは立ち上がる。
「ソラさん、今の音!」
「はい、行きましょう!」
ヤクモもすぐさま立ち上がり、2人で音のあった方向に駆け付ける。そこにはランボーグと青の護衛隊が対峙しており、今にも消えようとしていたランボーグの姿があった。
「あれはランボーグ!」
「バッタモンダーもいます!」
「!」
2人の声にバッタモンダーも気付いたようだ。転移しようとしていたその行動を中止すると、2人を見る。
「ヤクモ……だったか」
「……?」
その中でもヤクモを特に見るバッタモンダー。蔑んだり、見下したりといった感情はその瞳には込められていないように見える。では一体何を考えているのか。それをヤクモが考えるよりも早く、バッタモンダーが大量のアンダーグエナジーを右手へと出現させる。
「なっ!?」
「あいつ、あんなにエナジーを隠し持っていたのか!?」
「カモン!アンダーグエナジー!!」
「「!」」
バッタモンダーの手に集まったアンダーグエナジーが、既に出現していた小さな岩のランボーグへと注がれ、より巨大な岩の巨人となる。巨人へと成長したランボーグが無造作に腕を振るうと、先ほどまで優位に戦っていたはずの青の護衛隊の面々を吹き飛ばしてしまう。
「うわあああ!」
「皆さん!!」
「俺達が相手だ!」
先ほどまで相手をしていた雑魚たちを吹き飛ばし、次は本命だと言わんばかりにヤクモとソラを見るランボーグ。その目の前で、ヤクモとソラがプリキュアへと変身する。
「ランボーグ!!」
ランボーグが地面を砕く威力の拳を叩きつけてくる。それを回避しつつ、クラウド達が吹き飛ばされた青の護衛隊の隊員を見ると、どうにか立ち上がり、2人の戦闘の邪魔にならないようにこの場から離脱しようとしている。この後は近隣住人の避難などを行ってくれるのだろう。そのサポートに感謝していると、眼前に迫るランボーグが再び拳を叩きつける。
「っ!」
ここは完全に自分に意識が向いている状態を維持し、青の護衛隊が確実に離脱できるようにするべきだと判断し、腕を交差して攻撃を受け止めるクラウド。クラウドの立つ地面が割れ、衝撃がクラウドの全身を襲うも、このまま潰されないようにしっかりと力を込めて踏ん張る。
「クラウド!」
しかしランボーグにはまだもう片方の腕が残っている。確実にクラウドを潰そうと振り上げたところで、その頭部をスカイが蹴り飛ばす。その攻撃によってランボーグが僅かに後退し、クラウドが解放されると、両手に雲を大量に生成し、それを空へと巻き上げていく。
「スカイ、こいつを使え!」
「はい!」
無数の雲は空だけではなく、ランボーグの周囲にも漂っていた。クラウドの指示に従い、スカイがそれらを足場として使用し、四方八方からの移動を可能とし、ランボーグを撹乱する。プリズムもまた似たような事を過去に行ったが、クラウドの場合は雲の特性か、持続する時間が長く、足場としても質が高い。その代わり雲自体に攻撃力がないという欠点もあるのだが。
「ら、ラン……!?」
「そこだ!アンブレランス!!」
撹乱に参加していたのはスカイだけではない。クラウドがランボーグの目の前で雲に着地、したように見せかけてそのまま貫通してランボーグの足元へと潜り込む。突然クラウドが消えたように見えてしまい、戸惑うランボーグの足を、
アンブレランスを出現させ、足払いを仕掛ける。
「ランボーグ!?」
「ヒーローガールスカイパンチ!!」
それによって転んでしまうランボーグ。その隙を逃すスカイではない。だが、スカイの最大の一撃を受けてもまだ大きなダメージにはならないようで、ランボーグは多少胴体が削れながらも立ち上がる。
「……クラウドを狙え」
「ランボーグ!!」
そこにバッタモンダーから指示が下される。クラウドを集中的に狙えという指示を受け、ランボーグがクラウドに怒涛の連続攻撃を仕掛けてくる。それをアンブレランスを開き、盾のようにして受け止めるクラウド。何発も拳を受け続けるも、盾の方は傷つく様子を一切見せない。
「……本当に本物か……?だとしたらなんであんな奴が」
だが、何度も攻撃を受け続ければ直撃こそ防げても衝撃は腕にかかってくる。スカイもクラウドへの攻撃を止めさせようと攻撃を加えるも、素体の影響か強靭な肉体を持つランボーグに中々有効打を与えることはできず、打ちどころによって多少怯ませることができてもすぐに復帰してクラウドへの攻撃を再開してしまう。そして遂に、
「っ!」
衝撃によって腕に痺れが生じ、アンブレランスが手から離れてしまう。そこに叩き込まれた一撃によってアンブレランスが弾かれ、空に飛ばされてしまう。
「クラウド!?」
スカイの声も空しく、次のランボーグの一撃によって打ち上げられるクラウド。痛みに顔を少し顰めながらも漂っている自分が放った雲の足場に着地するとすぐにその場から跳ぶ。直後、真下から飛び上がってきたランボーグが雲を貫きながら現れる。ランボーグの体重では雲には乗れずそのまま落下、地面に激突したところを硬く拳を握りしめたスカイが攻撃する。
「たあああ!」
「ラン……ボーグ!」
「っ、きゃあああ!?」
それを胴体で受け止めたランボーグが体を回転させてスカイを吹き飛ばしてしまう。そのまま民家に激突しそうになるスカイに向かって雲を蹴って飛び出したクラウドが受け止め、雲を出して建物と自分達へのダメージをどうにか相殺する。しかし、
「ランボーグ!」
「「!」」
追撃を仕掛けようとランボーグが2人の眼前に迫る。スカイへのダメージを少しでも減らそうと彼女を庇うようにクラウドが抱きしめたその時。
「クラウド!!」
ウィングの声と共に吹き飛んだはずのアンブレランスが投げ込まれる。それにすぐに気付いたクラウドがアンブレランスを受け取るとランボーグの拳を受け止める。
「2人から離れて!!」
さらにランボーグの背中をウィングにお姫様抱っこの状態で抱えられたプリズムが連続で撃つ。突然乱入してきた2人にランボーグが驚いている間にクラウドとスカイはランボーグから離れ、空からウィングとプリズムが降りてくる。
「プリズム!ウィング!よくここがわかりましたね!?」
「ランボーグが出たって言う報せがこっちまで来たってのもありましたが……一番は雲ですね」
ウィングが空に視線を向ける。そこにはクラウドが展開した雲がまばらに浮いている。確かに、この低い高度でこんなに雲が浮いているのは普通であれば不自然だろう。その現象を起こせるのがいるとすればキュアクラウドのみ。だからこそ2人も詳細な位置をすぐに割り出せたのだろう。
「2人は大丈夫?」
「私は平気です。クラウドは?」
「もう大丈夫。さすがにあいつの攻撃を何発も受けるのは難しかったから助かったよ」
「ちっ……」
4人揃ったプリキュアを見て忌々しそうに吐き捨てるバッタモンダー。内心こうなってしまったことに納得する気持ちこそありつつも、クラウドを睨みつける。他のプリキュアであれば盾があろうと喰らい続けていればダウンしてたであろう攻撃を多少のダメージこそ受けつつも耐えきったのだからイライラも募るというもの。とはいえイライラするのには別の理由もあるのだが。
「なんだってプリキュアがアンブレランスなんか持ってやがる……!ランボーグ!さっさとぶっ潰せ!」
「ランボーグ!!」
イライラを隠すこともせず命令する。ランボーグが両手を打ち付けて甲高い音を鳴らして威嚇すると、4人揃ったプリキュアへと襲い掛かろうとする。しかし、4人全員揃ったプリキュア相手に何の策もなしの突撃が当然通用するわけがない。
「ヒーローガールプリズムショット!」
プリズムの強力な攻撃が突っ込んでくるランボーグへと放たれる。それを両手を盾にするように前かがみになって拳で受け止め、多少拮抗してその場に留まるも、そのまま強引にランボーグがプリズムショットを突破してくる。しかし、
「ひろがるウィングアタック!」
勢いが殺されたのは紛れもない事実。そのチャンスをしっかりと活かし、ウィングの突進がランボーグを吹き飛ばす。この二段攻撃にはランボーグも対応しきれず、致命的な隙を晒すこととなる。
「今です、クラウド!」
「ひろがるクラウドプロテクト!!」
2人の技によって吹き飛ばされたランボーグの体がクラウドの技によって拘束される。空中で拘束されたランボーグがもがくも、ちょっとやそっとではこの技を破ることはできない。クラウドの技がランボーグを取り押さえている間に、スカイとプリズムは示し合わせたように頷き合うとスカイミラージュを手に取る。
「「プリキュア!アップ・ドラフト・シャイニング!!」」
「スミキッター……」
2人の合体技によって浄化されるランボーグ。ランボーグを浄化した4人は、こちらをイライラしながら睨みつけてくるバッタモンダーを見る。
「あなたの負けです、バッタモンダー!」
「さっさと観念したらどうだ!」
「ちぃっ!!」
スカイとウィングがバッタモンダーに告げる。その声が余計にバッタモンダーのイライラを募らせる。見下されている、そう思ったのだろうか。
「まだだ、まだ終わってないんだよ!次こそは……!」
「今だ、捕まえろ!!」
「「おおおおお!」」
バッタモンダーの負け惜しみも、戦いが終わるのを待ち構えていた青の護衛隊の登場で中断される。アンダーグエナジーを消耗したバッタモンダーを今度こそ捕らえるべく走り出す。それを見たバッタモンダーが舌打ちをすると、
「覚えてやがれ!!」
アンダーグエナジーを使って消えるといったことはせず、そのまま屋根の上を走って逃げていく。それを追いかけていく青の護衛隊を見ながら、クラウド達は変身を解除する。
「いつもみたいに消えませんでしたね」
「もう移動するだけのアンダーグエナジーも残ってないみたいだね。今日戦ったのも、相当肝いりだったようだし……」
「やはりアンダーグエナジーが中々回復できてないというのは本当だったようですね」
「じゃあ……もう強いランボーグは出ないってこと?」
「おそらくは……?」
普段と違う逃走方法を取ったバッタモンダーについて各々の抱いた感想を話し合う。もしアンダーグエナジーが使えるならそれを使って移動するはず。それの方が確実なのだから。であれば、おそらくはこれで強いランボーグを召喚できなくなったはずだ。これは4人にとってはもちろん、スカイランドの人々にとっても吉報となるだろう。
「でも……折角の休みだったのに散々になっちゃったね」
「そうですね……」
はぁ、と溜息を漏らすソラ。今となっては完全に忘れてしまったが、あのままバッタモンダーの横やりがなければ大事な何かに気付けたような気がしたからだ。ツバサも気の毒そうにソラを見ていると、夕日が目に染みてくる。戦いに参加した時は時間など気にしてすらいなかったが、もうこんな時間だったとは。
「……でも、時間的には丁度いいのかな?ソラちゃん、今日は一緒に晩御飯食べるよね?」
「え?そのつもりでしたが……」
だが、ましろにとってはある意味好都合だったようである。その意図にツバサも気付き、ヤクモもソラと外に出るときから察していたのだろう。3人だけ知っている何かがあることに気付いたソラが不安そうな表情を浮かべる。
「あ、あの何を……」
「まぁまぁ、来ればわかるよ」
そんなソラを連れて4人は移動を始めるのだった。
★
「……こ、これは!?」
ソラの鼻に届くスパイシーな香り。それは間違いなく、
「カレーです!?」
ヤクモとましろの世界の料理、カレーだった。度々虹ヶ丘家で食べたことのあるこの食べ物は当然ソラにとっても新たな大好物だった。それが何故目の前にあるのか。その理由は単純。
「な、なんでカレーがここに……」
「カレールーを持ってきてたんだよ、もしかしたら使うかなーって。ルー以外はスカイランドの食材だけどこれはこれで美味しいはずだよ」
「まあカレーなら何入れても美味しいものだろうし」
ましろがルーを持ってきていたのだ。他の食材こそ現地調達ではあるが、カレーなら何の問題もないだろうと言うヤクモ。それに関しては全員が異論がない。
「ましろさん……!」
「ありがとうソラちゃん、すっごく喜んでくれて」
感動の視線をましろに向けるソラ。そこまで喜んでもらえるのなら作った甲斐が、そしてサプライズのし甲斐があるというものだ。
「でも、よくカレールーをもってこようなんて思いつきましたね……」
「そうかなぁ……ヤクモ君もなんか持ってきてたみたいだし?」
「えっ、何持ってきたんですか」
「そんな期待されても困るけどね……インスタントの味噌汁は持ってきたけど……」
ヤクモがましろが何かしら元の世界の食べ物を持ち込んできていたと気付いたのは自分もインスタント食品を持ち込んでいたからだった。万が一スカイランドの食材がお腹に合わず腹を下したときのために持ち合わせていたもので、結局使いどころがなくなってしまったものだったのだが、この流れでは言わないわけにもいかないだろう。
「ヤクモさんも……持ってきてたなら早く言ってくれてもいいのに……」
「欲しいならあげるけど……」
「後でもらいます」
「ず、ずるいです!私も欲しいです」
インスタントの味噌汁であってもこの世界では間違いなく貴重品なのだろう。それが欲しいのは2人も一緒のようだ。次にスカイランドに来るときはそういうのでもお土産になるのかな、と考えながらも一旦自分が持ってきた味噌汁のことは脇に置くことにする。
「ま、まぁ……まずはカレーの方を食べようよ」
「!そうでした……!」
「一体どんな味がするんでしょうね……」
「すっごく楽しみだよ」
異世界の食材を使ったカレー。食べる前から美味しいとわかる御馳走を、4人は楽しそうに食べ始めるのだった。
★
「さて、と。仕込みも上々……あわよくばとも考えたけども……ま、駄目だったなら駄目でよかったんだけどね」
夜のスカイランド。廃墟の一角を利用し、バッタモンダーが夜空を見上げながらソファにもたれかかっていた。あの後、青の護衛隊に追われていたが、適当な所で転移し、こうして身を潜めていた彼の表情は、プリキュアと戦っていた時とは異なり、してやったりといった上機嫌なものになっていた。
「これでプリンセスは僕の手に……そうすれば、僕の手柄をあの御方も……くく」
未来のことを考えると笑いが止まらない。ここまで辛酸を舐め続けてきたがそれもここまで。プリキュア共に目に物を見せてやる。意気込むバッタモンダーだったが、ふとキュアクラウドの姿が思い出される。
「……あいつの持ってるアンブレランス……なんであんなものが奴なんかの手に……だってあれは……」
「……バッタモンダー」
「!!」
バッタモンダーしかいないはずの空間。だがそこに1人の男の無感情な声が響く。その声にはバッタモンダーも聞き覚えがあるのだろう、それを聞いた次の瞬間には立ち上がり、背筋をピンと張ってその声が聞こえてきた方角を見る。そこにはアンダーグエナジーでできたトンネルのようなものがいつの間にか生まれていた。その中は見通すことができず、声だけを主が届けているようだ。
「あの御方はプリンセスを待ち侘びている」
「承知しております!確実な勝利のために、既に手を打っています!」
人が変わったかのように敬語を使い、その声の主に服従するかのように声を上げるバッタモンダー。その声の主はバッタモンダーの言葉を聞くも、それ自体には関心を一切持っていないかのようにこの連絡の目的を告げ始める。
「バッタモンダー。お前に新たな任を与えに来た」
「はっ!……新たな任務?」
プリンセスエルをアンダーグ帝国へと連れていくこと。それ以外に何の任務を追加されようというのか。心当たりがなく、バッタモンダーが内心首を傾げていると、
「キュアクラウドの抹殺。それが、プリンセスをアンダーグ帝国へ連れていくことに加え、お前が行うべき任務だ」
その声の主はバッタモンダーに、冷徹な殺意を込めた声音でその任を告げるのだった。