曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第38話 防衛戦

 

「……」

 

空中に出現した巨大ランボーグに向かって飛んでいく影。それはキュアウィングだった。彼が地上を見下ろしてみると、青の護衛隊や憲兵たちが人々の避難誘導を行っている。あのランボーグ自体に地上を攻撃するという意思がないというのが幸いしているのか、まだ目立った被害は出ていない。しかし、いつ行動を起こすかはわからないのだ。

 

(とにかく、あのランボーグについて調べないと……可能なら都から引き離そう)

 

胎動を続ける不気味なランボーグ。今までとは異なる異質な出現方法と、空中に浮いているという特性を前にこちらも慎重にならざるを得らず、ウィングもましろとヤクモに慎重に近づくようにと言われている。

 

「ランボーグ……」

(どんどん大きくなってる……?)

 

時間が経過するごとにその質量を増していくランボーグ。それだけ多くのアンダーグエナジーを宿しているのか、それとも別の理由があるのか。と、ランボーグの視線がウィングを見る。

 

「!」

 

距離は十分にとっているが、気付かれたか。しかし、この位置ならどんな攻撃が来ても回避は可能なはず。ランボーグの一挙一動に注視していたウィング。だが。

 

「がっ―――!?」

 

ランボーグの攻撃速度はウィングの反応速度を遥かに超えるもの、そして範囲だった。次にウィングが意識を取り戻したのは破壊された民家の中。全身に激痛が奔り、意識も朦朧とする中、ウィングが空を見上げると、何事もなかったかのようにランボーグが浮いていた。

 

(全然……見えなかった……)

「ウィング!」

 

ウィングの元にクラウドが走ってくる。空を自由に移動できないクラウドだが、もしランボーグがウィングに気付き、攻撃を仕掛けた際にフォローに回れるようにと地上に待機していたのだが、それすらも間に合わなかった。クラウドに抱えられたウィングは、痛みに顔を顰めながらクラウドを見る。

 

「すみません……不覚を……」

「体は大丈夫?」

「はい、しかし……今のでわかりました。ここにいても僕達にできることはない……城に戻りましょう」

「わかった」

 

ウィングを背負うと、クラウドは城へと移動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

クラウド達が移動している頃、城には都の外に出ていたソラとシャララが戻っており、王様達の前で現在の状況を聞いていた。

 

「あれはいったい何なんですか!?」

「……爆弾だ」

「「!!」」

 

王様が語るところによると、数分前に突如門の前に現れたバッタモンダーが一枚の羊皮紙を寄越して消えてきたのだそうだ。その羊皮紙に書かれた内容は、

 

「プレゼントは気に入ってもらえたかな……あれは1時間後に爆発して、スカイランドの全てをアンダーグの闇に呑み込む爆弾さ……ただし、プリンセスを差し出せば爆発を止めてあげてもいい……」

「なんて卑怯な……!」

 

実際に寄越されたという羊皮紙を読むシャララ。エルを指し出せばランボーグは止める。そう書かれてこそいるが、バッタモンダーが本当にランボーグを止める保証などどこにもない。

 

「ソラちゃん!」

「ましろさん!大丈夫ですか……!?ツバサ君!?」

 

と、部屋にましろ達が入ってくる。ソラはましろとヤクモが無事な姿を見てほっとするが、ヤクモが背負っているツバサが傷だらけになっている姿を見て目を見開く。

 

「偵察に出てくれたんだけど、ランボーグが予想以上に強くなっていたんだ。今のランボーグに接近戦を挑んでも勝ち目は……ない」

「バッタモンダーは浄化しきれてなかった都中のアンダーグエナジーを集めてランボーグを作ったみたいなの」

「役に立てなくて……すみません……うぐ」

 

ヤクモとましろの言葉にシャララも険しい表情になる。バッタモンダーが余力がないかのように振る舞っていたのも含めて全部、この時のための布石であったことに気付かされたのだろう。しかも状況は想定以上に悪い。唯一の空中戦力であったツバサは太刀打ちできず、ましろやヤクモが変身しても空中戦を十分に行うことはできない。ソラに至っては単独で空中を移動することすら不可能だ。それだけではない、仮にその問題を解決したところで一番大事となるのは、あのランボーグを浄化できるほどの威力を持つ技があるかどうか。

 

「そんなことはないよ……ツバサのおかげで生半可な手を取ることはできないってわかったんだ。それにランボーグは爆発するまでは動かないようだし、やりようはまだある」

「ヤクモさん……」

 

ヤクモの言葉にツバサも少しだけ表情が和らぐ。ウィングの戦闘不能こそ痛いものの敵の強さが判明したのは大きなアドバンテージ。それを踏まえて、最後の確認をするようにシャララはソラに質問する。

 

「ソラ。プリキュアの力であのランボーグを浄化できるか」

「……アップ・ドラフト・シャイニングなら……!」

 

ソラも、シャララの意図を理解し、その技の名を口にする。本体が移動しないのであれば、以前の飛行型ランボーグのように射程に入らないという事態にもならない。技は確実に命中するし、それなら十分浄化は可能だ。ソラとましろは頷き合うと城を出て、ランボーグを見上げる。本来ならかなりの距離があるはずなのだが、ここから見てもわかるほどに巨大になってしまっている。近づくことができたのなら今見ているよりも何倍のサイズになっているかは予想もつかない。

 

「……いくよ!」

「ヒーローの出番です!」

 

こんなものが爆発してしまえばどうなるか。そんなことはさせないと、2人はプリキュアへと変身すると、スカイトーンをスカイミラージュへと装着する。

 

「「プリキュア・アップ・ドラフト・シャイニング!!」」

 

スカイとプリズムが手を繋ぎ、最大の技を放つ。ランボーグよりも頭上に出現した円盤が、ランボーグを吸い込み始める。

 

「よし!ランボーグが浄化される!」

 

その光景を、大広間から中継されている画面を通して見たツバサがぐっと拳を握る。過去一番のサイズだが、これを本当に浄化されるのかどうかという不安があったのだろう。だが、スカイとプリズムの技は確実にランボーグを捉えている。これならば、とツバサが喜びを露わにした瞬間。

 

「偉いね……弱いのに頑張って、偉すぎるよ。でもね……」

 

ランボーグが吸い込まれる様を見ていたバッタモンダーが嘲笑する。それを合図としたかのようにランボーグから6本の腕が生え、それが円盤を掴んで吸い込みに逆らい始める。

 

「!あの腕は……」

 

その腕は、ウィングを迎撃したものと同種だったことに気付くヤクモ。プリキュアを一撃でダウンさせる威力を持っているその腕は、2人の浄化に対して抵抗するように自分の体を支えており、さらに円盤を掴む腕の力はどんどん強くなっていく。そして、ピシッと金属の割れる音と共に、ランボーグの持つアップ・ドラフト・シャイニングの円盤にひびが入り始める。

 

「「!?」」

 

ひびが広がるにつれ、ランボーグを吸い込む光が細く、弱くなっていく。

 

「「く、う……」」

 

さらに、円盤へのダメージは、スカイとプリズムにもフィードバックされるのか、それとも今までを遥かに超える長時間の使用により、

気にはならなかった負担が露わとなったのか、或いはその両方か。スカイとプリズムの表情が苦しそうに歪んでいく。

 

「……うぅ!もう、限界……!」

 

さらにランボーグの力が強くなりひびが広がっていく。遂に2人も耐えかねたのか膝をついてしまう。しかし、諦めるわけにはいかないここで倒れてしまえば、ランボーグを止めることは誰にもできなくなってしまうのだ。最後に残された希望を絶やすわけにはいかないと、2人は強く手を握り合い、今一度気力を振り絞る。

 

「でも……!」

「諦めない……!」

 

2人の闘志の復活により、僅かだが光が強くなる。しかし、このままではじり貧にしかならない。

 

「えるぅ!」

 

その光景を見たヤクモ達にも緊張が奔る。エルの必死な叫びも、ここからではソラ達に届かない、このままではランボーグにアップ・ドラフト・シャイニングを破壊されてしまう。そうなればスカイランドは滅亡してしまう。それを回避するには、ランボーグを浄化するための一瞬の隙を生む必要があった。

 

「……」

「!?ヤクモさん、どこに行くつもりですか!?」

「奴の隙を作る」

「無理です!!僕が偵察した時よりも強くなってるんですよ!?」

 

広間を後にしようとしたヤクモを静止するツバサ。実際にランボーグの攻撃を受けた身であるからこそよくわかる。あの時よりも強くなっている今のランボーグの攻撃を喰らえば、例えキュアクラウドに変身したヤクモであってもただでは済まないということを。しかし、

 

「関係ないよ。スカイとプリズムがランボーグを浄化するために必要なことなんだ」

「だったら僕も!」

「今のツバサじゃ無理だ。それに、全員がここから離れるわけにはいかない……そうだろ?だってツバサはエルちゃんのナイトなんだから」

「……それは」

 

苦々しい表情を見せるツバサ。確かに自分はランボーグから受けたダメージが大きすぎる。もう一度変身できるかどうかすら怪しいのだ。しかしヤクモがやろうとしていることは、まぎれもない特攻。そんな危険すぎる真似を見過ごしていいわけがない。だが、それ以外の方法もない。

 

「……そんなの、恰好悪すぎですよ!特攻して……何かあったら皆悲しむんだ!だから、別の方法を……!」

「思いつかないからこうするんだよ。それに、誰かを助けるのに見た目なんか関係ないんだ、皆できることをやってる。俺もそうだってだけなんだから」

「……」

 

スカイとプリズムは必死にランボーグを浄化しようと頑張っている。これ以上この場であれこれ話している暇もないとヤクモは再びミラージュペンを取り出そうとしたその時。

 

「君はここにいるんだ」

「え……」

 

シャララがヤクモを静止する。

 

「この役目は私が担う。君は、きっとソラに、そしてこの後に必要な人だ」

「シャララ隊長……?」

 

そう言い残すと、シャララは広間を出ていく。一体、シャララは何をしようとしているのか。だが、1分にも満たない時間が経過すると、ヤクモ達は城の中庭から巨大なワシのような鳥に乗ったシャララがランボーグへ向かって飛んでいく姿を目撃する。

 

「!あれは!?」

「シャララ隊長!?まさか、シャララ隊長がランボーグに!?」

 

シャララは、ヤクモがやろうとしていたことを自分がやろうとしていたのだ。当然、シャララがランボーグへと向かっていく光景はスカイ達にも見えていた。そしてやろうとしていることもすぐに理解し、スカイの表情に焦りが浮かび上がる。

 

「隊長!?」

 

ランボーグの元まで一直線に飛んでいく鳥の背で抜剣するシャララ。

 

「相手がどんなに強くても、正しいことを最後までやり抜く。それがヒーロー!」

 

凛とした声で宣言し、ランボーグへと斬りかかる。しかし、それを見たランボーグがシャララを迎撃すべく、円盤を掴んでいるのとは別に無数の腕を生やす。

 

「頼むぞ!」

「おう!!」

 

シャララを乗せた鳥が威勢よく返事を返す。ランボーグが放った無数の腕を搔い潜り、胴体へと迫っていく。そして、

 

「でやあああああ!!」

 

一瞬の隙を突き、シャララが鳥の背を蹴って空中へとその身を投じる。それと同時に振るった刃が円盤を掴む6本の腕を両断した。

 

「「「「「!」」」」」

 

斬られた先の手はアンダーグエナジーとなって霧散し、円盤の中に吸い込まれていく。その光景を目の当たりにし、ヤクモ達はもちろん、スカイ達の表情にも明るさが戻っていく。

 

「凄い!」

「……あ!」

 

しかし、ランボーグの腕を切り裂くため、空中に投げ出されたシャララに、ランボーグの攻撃を避けることは不可能だった。シャララを運んでいた鳥も、シャララの最後の接近の際にランボーグの攻撃を受けてしまっており、墜落するように地面に落ちていっている。スカイの悲痛な言葉も関係ないと言わんばかりに、ランボーグがシャララに向かって千切れた腕からアンダーグエナジーを放つ。

 

「……ソラ」

 

その腕を前に、シャララが呟く。小さな呟きだったが、スカイにははっきりと聞こえた気がした。

 

「ヒーローの出番だ」

 

その呟きをかき消すかのように、アンダーグエナジーがシャララを呑み込む。目の前で起こった、惨劇。だが、それを気にする暇は、全てを託されたヒーローには存在しない。悲しさを振り切るように、いや無理やり無視するかのように、スカイはただ、ランボーグを倒すことだけを考えて死力を尽くして立ち上がる。

 

「うあああああああ!!」

「う、うぅううう……!!」

 

それはプリズムも同じだ。残る力の全てを出し切り、立ち上がる2人。腕を破壊されたことでランボーグによる円盤への攻撃は止まっており、2人が受ける負担やダメージも減ったのだ。

 

「「プリキュア!アップ・ドラフト・シャイニング!!」」

 

最後の気力を振り絞り遂にランボーグを完全に吸い込むことに成功する。それと共に大地に勢いよく吹き付けられる豪風。その中でランボーグは、

 

「スミキッター……」

 

完全に浄化される。それを確認したスカイとプリズムは全身の力が抜けたかのように崩れ落ちてしまう。

 

「や、やった……」

「ランボーグを、倒し……」

「おめでとう。まさか本当に倒しちゃうなんて驚いちゃったよ」

「「!?」」

 

それでも勝利したのだ。だが、余韻に浸ることを許さないと言わんばかりにバッタモンダーが2人の見えるところに現れる。

 

「ば、バッタモンダー……!」

「あなたの負けです……!もう奥の手は通じません!」

「弱いって罪だね……」

 

表情は苦しいものの、2人は勝利を確信していた。数日かけて準備されたバッタモンダーの作戦はこれで失敗に終わったのだ。もうエルを手に入れることはできないのだと。しかし、何故かまだ余裕の表情を見せるバッタモンダーの手に握られているのは、スカイランドでも使用される火薬が詰まった入れ物。

 

「!?何を……」

「見せてあげるよ、いいものを!頑張った君たちへの贈り物だよ、カモン、アンダーグエナジー!!」

「「!?」」

 

バッタモンダーが入れ物を投げてアンダーグエナジーを注ぎ込む。次の瞬間、先ほどまでスカイ達が浄化したものよりはサイズダウンしているものの同種の爆弾型のランボーグが生み出されてしまう。

 

「「な……」」

「ふふ、あの巨大ランボーグを作るのに使ったアンダーグエナジーは、都に漂ってるものだけなんだよね。ランボーグが爆発するならそれもよし、君たちが浄化するにしても、もう僕に手なんて残されていないはずだと思い込んで全力を出し切っちゃう。そこに新たなランボーグを追加してやれば君たちはジエンド。ふふ、弱いせいで後手後手だね」

 

得意げに自分の作戦を説明するバッタモンダー。その視線の先には、絶望に表情を歪ませるスカイとプリズムの姿があった。

 

「そんな、まだもう1体なんて……!」

「も、もう体が……!」

 

本命の巨大ランボーグの爆発こそ阻止したものの、目の前のランボーグは十分にでかい。これが爆発してしまえばどれほどの被害が出てしまうか。動いて戦わなければならないのは当然2人もわかっている。しかし、もう体が動かない。アップ・ドラフト・シャイニングはおろか、まともな戦闘すら2人にはできないのだ。

 

「ふふ……さぁ絶望の瞬間だ!」

 

バッタモンダーが指を鳴らす。それを合図としてランボーグがゆっくりと降下し始める。万事休すか。2人が目を閉じようとしたその時、

 

「まだ終わってない!」

 

2人の間を抜けてクラウドが空に飛び出す。雲の足場を生み出して乗り継いでいき、ランボーグへと迫るクラウド。

 

「「クラウド!!」」

 

この状況で動けるのはクラウドのみ。しかし、クラウドにはランボーグの浄化はできない。皆が回復するまで待つか。いや、そんな時間は残されていない。となれば、

 

(この後に必要な人間……その言葉の意味、理解したよ)

 

シャララは見抜いていたのだ。バッタモンダーの策がこれで終わりではないことを。だからこそ、クラウドではなく自分が特攻役を担ったのだと。そうクラウドは確信し、クラウドを見て急に体を膨張させるランボーグを睨みつける。

 

「爆発するか……ならありがたい!」

 

ランボーグが両腕を伸ばす。しかしそれはクラウドを弾く動きではなく捕らえる動きだった。それを見抜いたクラウドは、雲を周囲に出現させる。ランボーグはそんなことは関係ないと言わんばかりに雲諸共クラウドを握りつぶそうとする。

 

「「クラウド!?」」

 

ランボーグの体が点滅し始める。自爆の兆候だった。と、クラウドの両手がランボーグの手から離れる。雲を同時に挟ませることで、それを消すことで隙間が生まれ、クラウドの腕をランボーグの手から出すことができたのだ。そして腕を上げると、その手に雲が集まっていく。

 

「ひろがるクラウドプロテクト!!」

「何!?」

 

クラウドとランボーグを中心に、クラウドプロテクトが展開される。これならランボーグの自爆による被害を防げる。だがそれは、クラウドが外にいればの話。このままでは、中にいるクラウドはランボーグの自爆に巻き込まれてしまう。

 

「クラウド!!逃げて!!」

 

スカイの悲痛な叫びが上がる。だが、止まらない。アンブレランスを召喚し、ランボーグの正面に広げるクラウド。この状態でアンブレランスを出して正面を防いだところで、爆破はクラウドプロテクトの内部に広がることとなり、ダメージは回避できない。それでも、やらないよりはマシだろう。

 

「……ソラさん」

 

ぽつりとクラウドが覚悟を決めるように呟く。自分の死すら見えてきた状況。だが、ここで死ぬわけにはいかない、死にたくない。例え力がなくとも、生きるために、助けるために、守るためにできることをやりきる。今回だってそうだ。できることは全てやった、後は、自分の生きるための思い次第だ。もう一度、ソラや皆に滅亡を免れたスカイランドで会うために。今一度、クラウドがランボーグを睨みつける。

 

「やってみろよ。俺は絶対に死なない!」

「ランボーグ!!」

 

だったらやってみろ。そう言わんばかりにランボーグの体が一際強い光を放つ。そして、

 

「「―――!?」」

 

スカイとプリズムの鼓膜が破れるかと思う程の爆発音が響き渡る。クラウドプロテクトによって爆発の勢いこそ防いだものの、その余波は衝撃となって周囲を襲い、体を支えることもままならないスカイとプリズムも吹き飛ばされて城壁に叩きつけられてしまう。

 

「……ぅ……」

「嫌……ヤクモ……さん……」

 

既に満身創痍の状態で受けた衝撃に、2人は意識を手放してしまう。爆発と共に雲は消えていき、何も存在しなくなった空を、ヤクモが持っていた黒いお守りだけが舞っていた。

 

「……なんだと?」

 

それを見て、バッタモンダーから漏れたのは困惑の声。この完璧な二段構えの作戦は、間違いなく全てのプリキュアを葬る作戦のはずだったのだ。しかし実際に消し飛ばしたのはクラウドのみ。しかもクラウドはやられる直前に浄化を決めたのか、アンダーグエナジーも残っていない。

 

「ふざけんなよ……!」

 

バッタモンダーは歯ぎしりをしながら大広間へと転移する。突然大広間に現れたバッタモンダーを前に、ツバサが王様達を守るように前に出る。

 

「バッタモンダー……!よくもヤクモさんとシャララ隊長を……!」

「弱いくせに……強い俺に逆らいやがって……くそぉ!」

 

しかしツバサのことなど眼中にないというように怒りのまま地団駄を踏むバッタモンダー。技を使えないはずのクラウドの奇策によってクラウドプロテクトを使われてしまったせいでスカイランドはもちろん、城も王様達も健在なのだ。自分の作ったランボーグを完全に凌ぎ切ったプリキュアに、怒りしか湧いてこない。

 

「だがもう終わりだ……弱いやつは死んだんだ……」

「死んでいない!ヤクモさんが……シャララ隊長が死ぬわけが……」

「女の方は知らねえがクラウドは死んだんだよ!それが俺の目的の1つなんだからな!!」

「「「!?」」」

 

バッタモンダーの怒りのままに告げられた事実に王様達に動揺が走る。

 

「そんなわけがあるか!ヤクモさんが死ぬわけが……!」

「うるせぇ!!」

「がっ……!?」

 

喚くなと言わんばかりにツバサの前に高速移動してきたバッタモンダーが、ツバサの腹部を勢いよく蹴りつけて吹き飛ばす。

 

「えるぅ!?」

「ぁ……ぅ……」

 

エルの悲鳴が上がる。だがツバサは動かない。今の一撃で完全に意識を奪われてしまったのだ。それを見たバッタモンダーも落ち着いたのか、一度大きな深呼吸をする。確かにランボーグを全滅させられたことはあれだが、結果としてみれば全てのプリキュアを撃破、さらに主目的の1つであるクラウドの抹殺も成し遂げたのだ。もうバッタモンダーを阻む者はいない。エルと王妃を守るように自身の背後へ2人を隠す王様へと、バッタモンダーは冷静に話しかける。

 

「僕としたことが随分取り乱してしまった……ごめんね、怖かっただろう。これで喧嘩は終わりだ。プリンセスをこっちに」

「決して渡すものか!」

「この身に変えても、プリンセスは守ります!」

「……ふぅ、そうかい残念だ。バッタモンモン」

 

2人の断固とした返事に呆れた表情を浮かべるバッタモンダー。まぁこうなるだろうなと本人もわかっていたのだろう、無駄な会話をしたと言わんばかりに指を鳴らす。

 

「「!?」」

 

すると、王様と王妃の体がアンダーグエナジーに包まれてしまう。途端に力が抜けたように倒れ込む2人。ランボーグを呼び出すほどのアンダーグエナジーはさすがに残っていないが、この程度であれば残りのエナジーでも十分にやれると、2人の変化が終わるまでバッタモンダーはそのまま待つことにする。

 

「逃げ、て……」

 

王妃がエルにそう呟き、王様と共に完全に意識を手放してしまう。1人、残されたエルが悲しそうな表情をしていることに気付いたバッタモンダーは作り笑いを浮かべる。しかし、当然のようにバッタモンダーから逃げ出そうとしたエルの目に飛び込んできたのは、中継されている画面に映っている気絶して倒れているスカイとプリズムの姿。ツバサも王様も王妃もいない。ヤクモとシャララはどこに行ったのかもわからない。今、自分を助けてくれる人は。今にも泣きだしそうな表情で、縋るようにエルは、

 

「ソラぁ~!!」

 

生まれて初めて、人の名前を呼んだ。当然、その声が遠く離れたソラに聞こえるわけもない。可愛い赤ん坊の泣きごとだとバッタモンダーは彼女をアンダーグ帝国へ連れて行こうと近づいてくる。

 

「プリンセス、僕とお出かけの時間だ……!?」

 

しかしバッタモンダーの言葉は最後まで続かなかった。バッタモンダーの背後で、大広間の窓を突き破って何かが落ちてきたのだ。

 

「っ!?」

 

この状況で一体誰が。振り向いたバッタモンダーの目に飛び込んできたのは、

 

「動くなッ!!」

「!?」

 

今まで見たこともいないような怒りの形相を見せるスカイの姿。エルの声が、本当にスカイに届いたというのか。それがスカイの意識を取り戻させたというのか。バッタモンダーは、スカイの怒りの形相に気圧され、怯えながら、あり得ないことが何故起こったのかと思考をぐるぐると回転させていた。

 

「……そこからエルちゃんに1ミリでも近づいたら……!!」

 

スカイの肉体はもちろん、精神も限界だった。それでもこうして起き上がったのは、エルの声が聞こえたから。シャララに託されたから。そして、目の前でヤクモを消された怒りがあったからだ。

 

「絶対に、許さない……!!」

 

震える拳を硬く握りしめるスカイ。いっそ、本当に動いてしまえ。もしもう少しでも思考に余裕があったらそんなことを考えてしまいそうなほどの怒り。それを前にしたバッタモンダーは、満身創痍のプリキュア相手という、もうアンダーグエナジーをほぼ扱えないことを含めても圧倒的有利な状況のはずなのに怯えていた。

 

「う……ぐ……バ……バッタモンモン……!」

 

遂にスカイに気圧されたのか、バッタモンダーは消えてしまう。

 

「……」

「ソラぁ……」

 

バッタモンダーがいなくなり、エルへと歩み寄っていくスカイ。エルも、泣きながらスカイに抱き着いてくる。それを抱きしめながら変身が解けたソラは意識を手放してしまう。しかし、自分も余裕がないエルは気付くことができなかった。倒れたソラの目に涙が浮かんでいたことに。

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