曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第40話 帰還

 

「ランボーグ!」

 

勢いよく叩きつけられたランボーグの拳に地面が砕ける。今度こそヤクモの命を絶ったであろう一撃。だが、ランボーグの拳は何かに押さえつけられたかのように震えていた。

 

「!」

「ラン!?」

 

ランボーグの拳が勢いよく弾かれ、尻もちを着く。バッタモンダーがヤクモを見ると、ヤクモの右腕に握られていたはずのアンブレランスは形を変えていた。右腕全体を覆う籠手のような形状。甲の部分にはランボーグと思われる目が確認でき、甲には加えて鋭い槍が装着されていた。

 

「ランボーグを召喚したのか……!?あんな奴が……!?」

 

あふれ出ていたアンダーグエナジーは見えなくなっていた。いや、ヤクモの腕に付けられているランボーグを生み出すために使われたのかもしれない。しかし、あれほどのアンダーグエナジーを使って生み出されたのがあんな小さなランボーグだというのか。

 

「……いや、成程。慣れてないのか」

 

しかしその原因はすぐにわかった。ヤクモはアンダーグエナジーの使用に慣れていない。それもそうだろう、自分の場合はヤクモが生きてるであろう時間よりも長い時間、アンダーグエナジーをより扱えるように自分の力を伸ばしてきたのだ。しかもヤクモはプリキュアとして戦っていた。つまり、アンダーグエナジーよりもプリキュアの力を優先して使ってきた男なのだ。この場でぶっつけ本番のような形でランボーグを召喚したところで、消費したエナジーに比例した強力なランボーグが召喚できるわけがない。

 

「全く、人を驚かせることだけは上手な奴だ……ランボーグ、ぶっ潰せ」

「ランボーグ!」

 

バッタモンダーの言葉を受け、今度こそヤクモを殺してやろうと、今度は巨体を活かした突進攻撃を仕掛けてくる。それを見たヤクモの腕のランボーグが反応し、ヤクモの右腕を動かして突進を甲で受け止める。しかし、ヤクモの胴体の方に力が入っていないのか、すぐに押し負けてしまい吹き飛ばされてしまう。

 

「っ!?」

 

吹き飛び、背中を勢いよく打ち付けるヤクモ。その衝撃でヤクモの意識が完全に戻り、目に光が戻る。直後、その目に飛び込んできたランボーグを見て咄嗟に跳ね起きて突進を回避する。その際、右手の感触から堅いものがついていることに気付き、尚も突進を続けるランボーグに向かって勢いよく右の拳を突き出す。と、

 

「ランボーグ!?」

 

ランボーグに命中した拳が、ランボーグを遠くまで吹き飛ばす。そのあまりの威力に驚いてヤクモが右手を見る。以前に1回だけランボーグを召喚した際と同様だ。今の自分が生み出したランボーグはこうして自分の腕に付けられている。その威力は見た目よりも遥かに高い。しかし、それを頼り甲斐があるとは、今のヤクモには思えなかった。

 

「っ……」

 

先程見た過去の記憶。朧気でほとんど忘れていたといってもいい小さな頃の思い出が、アンダーグエナジーへの拒否感を生み出す。アンダーグエナジーを使わずに戦うために変身しなければならない。そう思い、左手でミラージュペンを取り出そうとする。しかし、

 

「ランボーグ!!」

 

吹き飛ばされたランボーグが再び目の前に迫る。それを見て、プリキュアに変身したところでランボーグを倒すことは不可能だとヤクモは悟ってしまう。どのみち攻撃力のない自分がランボーグを倒すためには、この右手に頼るしかない。

 

 

「……おおおおおお!」

 

葛藤している間にもランボーグは迫ってくる。今度こそ、本気で叩き潰してやろうと地を蹴って飛び上がり、押し潰そうとする。それが命中する正にその一瞬。ヤクモの生への渇望と、主を守らんとするランボーグの意思がシンクロし、勢いよく右手を全体重を乗せようとしてくるランボーグの腹部へと突き上げられる。

 

「……ラッ」

 

直後、何かが発射される巨大な音と共に拳が命中した箇所からランボーグの全身に瞬時にひびが広がっていく。直後、砕け散ったランボーグの体が周囲へと吹き飛んでいく。一瞬で行われたその工程に、ランボーグは悲鳴を上げることもできなかった。

 

「ぎゃあっ!?」

 

大きめの破片が命中しそうになり、慌てて両腕で自分の顔をガードするバッタモンダー。それでもそこそこの質量があったのと、こちらもアンダーグエナジーの消費し過ぎで体力も落ちているのか、破片の命中によって大きく後ずさる。

 

「ど、どうなって……」

 

バッタモンダーがヤクモの腕を見る。突き上げられた右腕の甲からは槍が天へと向かって突き出ていた。まるでパイルバンカーのように突き立てられた一撃がランボーグを粉砕したのだ。さらに、周囲に漂っているアンダーグエナジーが薄くなっていく。

 

「な……」

 

倒したのはアンダーグエナジーを用いたものであり、プリキュアの浄化ではない。アンダーグエナジーが周囲に漂っているのであれば再利用することは可能となる。しかし、ヤクモによって倒されたランボーグのアンダーグエナジーは、その再利用を許さないと言わんばかりにヤクモの生み出したランボーグに吸収されていた。

 

「……く、くそ……!畜生!なんなんだよてめえ!!なんで生きてるんだよ!!なんで俺の邪魔を……邪魔をぉ……!!」

 

怒りのままに喚くバッタモンダー。目的を達成できる目前になって、その全てを覆されたのだ。しかも殺したと思ったはずの死にぞこない1人に。だが、いくら叫んだところでバッタモンダーの力が回復するわけではない。さらに、バッタモンダーが生身でヤクモに襲い掛かったところで、あの右腕に先ほどのランボーグのように粉砕されてしまうだけだろう。怒り狂っていても、それだけはバッタモンダーにも理解できた。

 

「覚えてろ……絶対に、絶対に許さねぇ……あと一歩のところだったのに……!それを邪魔したお前と、あいつだけはぁ……!!バッタモンモン!!」

 

それでも、転移するだけのアンダーグエナジーだけは残っていたのだろう。バッタモンダーが消えてしまう。バッタモンダーを追う気力まではヤクモにも残っていなかった。だが、バッタモンダーがいなくなったことでその視線が周囲に向けられたときにヤクモは自分がもたらした被害を知る。

 

「……嘘だろ……」

 

周囲に広がっていたのは廃墟だった。それは、ヤクモがランボーグを粉砕した際に飛び散った破片がぶつかって出来上がったものである。これがプリキュアの浄化の力があるのなら、建物は次々と修復されていったのだろう。しかし自分が倒したのはプリキュアの力ではない。これでは建造物は直ることはない。

 

「……俺にランボーグを倒すことはできても……」

 

プリキュアの力で誰かを守ること、助けることはできると、そう思っていた。でも実際はどうだろうか。今日の戦いでシャララを助けることはできなかった。ランボーグを浄化し、スカイランドを救ったのはスカイやプリズムであり、自分には2人はもちろんウィングのような浄化技すらもっていない。それでもできることはあるし、皆が来るまで耐えればいいと考えていた。しかし今日、自分の手でランボーグを倒したことで、それが余計に被害を拡大させてしまうという最悪の結果に終わってしまうという現実を突きつけられてしまったのだ。

 

「……」

 

ヤクモの右手に宿っていたランボーグがアンダーグエナジーになって霧散していき、ヤクモの中へと吸収されていく。ランボーグが消えたことを確認するようにヤクモが右腕を見ると、そこにはアンブレランスが握られていた。どうやら、これがランボーグの素体になっていたようだった。

 

「……」

 

雨が体を打ち、体が冷えていく。だが傘を差す気力はなかった。アンブレランスが元のペンダントへと戻っていく。それを首にかけていると、

 

「……君は……!?」

「……?」

 

先程の音が聞こえたのだろうか。人が何人かこちらに近づいてくる。その人物がヤクモを見つけ、驚いたような表情を浮かべる。ヤクモがその声に反応するように振り向くと、そこには驚愕した表情でこちらを見ているアリリと他の護衛隊の隊員の姿があった。

 

「無事だったのか!?」

「ヤクモ君、よかった無事だったんだ!」

「じゃあ隊長もきっと!」

 

ヤクモの無事を確認した護衛隊の面々に喜びが浮かぶ。ヤクモやシャララは生きている。当然そう信じてはいたが、半日近く捜索しても影も形も見つからないのだ。誰も口にはしないだけで、内心では跡形もなくなっているのではないのかと、そんな最悪の結末が過り始めていた。だが、シャララよりもこっ酷くやられたヤクモが生きているとなれば話は大きく変わってくる。

 

「ヤクモ、隊長の姿は見なかったか?」

「……いえ、俺もさっき目を覚ましたところで……」

「そうか……」

 

ヤクモが1人だけだったというところから、シャララに関する手掛かりがないところはある程度予想はしていたのだろう。とはいえ内心多少の落胆は残りう。だがそれをヤクモに悟られないように平静を装うと、まずはヤクモに治療を受けてもらった方がいいだろうと他の隊員に指示を出そうとしたところで、

 

「副隊長!こちらで何か物音が……!?ヤクモ!?」

「!ベリィベリーか、丁度いい。彼を医務室の方に連れて行ってくれ!俺達は捜索に戻る!」

「は、はい!」

 

ベリィベリーがこちらに駆け寄ってくる。ベリィベリーは先ほどソラ達の医務室に確認に行っていたはず。他のプリキュア達の状況なども自分より詳しいだろうと考えたアリリは丁度いいとベリィベリーにヤクモを任せてヤクモがいた付近の捜索を開始し始める。

 

「……体は大丈夫なの?」

「……うん、体は大丈夫」

「そ、そうなの?だって……」

 

ベリィベリーがヤクモの全身を見る。確かに体は怪我などはないようだが服はボロボロだ。それに戦いの疲労だって残ってるはず。そんなベリィベリーの言いたいことに気付いたのだろう。

 

「!ああ……確かに疲れてるけど問題はないよ。怪我もないし……そんなことより皆は」

「……一応無事。皆医務室で寝てるけど……とにかく、あなたも医務室に行った方が。新しい服も用意してもらったほうが……」

「……わかった」

 

そして、ベリィベリーからこれまでの事を聞きながら、ヤクモは皆の元へ向かうことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

疲れはまだ残っていたが、不安で眠れなかった。今は疲れを癒さなければならないと頭ではわかっているのにと、ゴロゴロと寝返りを打つも一向に自分の体は睡眠に入ってくれない。ちょっとでも考えてしまえば今も見つからない2人の事が脳裏に浮かんでしまう。

 

「……ヤクモさん……」

 

寂しそうに呟くソラ。もう一度、無理やり寝ようと目を閉じていると医務室の扉がノックされる。またベリィベリーが来たのだろうかと考えながら体を起こすと、部屋の中にベリィベリーではない別の人物が入ってくる。

 

「……あ……」

 

呆然とした声が漏れる。何故ならそこにいたのは、行方不明になっていたはずのヤクモだったからだ。医務室に入ったヤクモも、ベッドから体を起こしているソラの姿を見つける。

 

「……ソラさん……」

「ヤクモさん……」

「!?」

 

ヤクモの姿を見たソラの目から涙が流れる。それを見て驚くヤクモ。ベリィベリーからランボーグとの戦いの後、何が起こったのかは聞いていたが、まさかその後にソラに何かがあったのだろうか。だとしたら大変だとヤクモがソラに何があったのか確認しようと口を開こうとしたが、その前にソラの方がヤクモに抱き着いていた。

 

「ヤクモさん!」

「うわっ!?」

 

突然のソラの行動に反応しきれず、そのまま押し倒されるヤクモ。そのまま通路の方に飛び出したヤクモとソラを目にして、ベリィベリーが唖然となる。

 

「ちょ、ちょっと……」

「よかった……生きてた……!」

「……ソラさん……大丈夫、俺は生きてるから……」

 

声をかけようとしたが、ヤクモを愛おしそうに抱きしめるソラの姿と、そんなソラを優しく抱きしめ返してあげているヤクモの姿を見て、それを止めるベリィベリー。この場に自分はいない方がいいだろう、というかこんな光景他の人に見てほしくないだろうと気を回したのだろうと、恐る恐るといった感じで物音を立てないように距離をある程度取ると、全力疾走してその場から離れてしまう。思わず顔を真っ赤にして去っていったような気もしたがヤクモにそこまで確認することはできなかった。

 

「ずっと、心配だった……もし、本当に見つからなかったら、どうしようって……」

「……」

 

自分が意識を失っている間に、ソラは不安で不安で仕方がなかったのだろう。それだけにヤクモが見つかったという吉報は、本当に救われる気持ちになるものだった。

 

「ごめん、俺、ソラさんのこと、ずっと心配させちゃって……あの時、俺が……」

「ヤクモさんは悪くありません……何も……」

 

ヤクモが戻ってきてくれれば、なんとかなるかもしれない。自分が色々考えなくても、ヤクモが一緒に居てくれれば。今だってそうだ、あの状況からヤクモは生還してみせたのだから。嬉しそうにヤクモの胸に顔を埋めるソラ。こうしていると不安が解消されていき、落ち着ける。嬉しさが湧き上がってきて、現実から目を逸らしていつまでもこうしていたいとすら思い始めていた。

 

「……ソラさんや皆が無事でよかった。皆が無事なら……」

 

俺がいなくても。そう言いかけて寸での所で止めるヤクモ。今のソラに不安を与えることは言いたくなかった。しかし、いつまでも通路に出ているわけにもいかないだろう。人は出払っているとはいえ、いつ見られてもおかしくないのだ。ソラを優しく抱きながらゆっくりと体を起こすと、そのままヤクモにもたれかかってくるソラを抱いたまま医務室に入り、彼女を寝かせる。

 

「……むぅ」

 

どこか名残惜しそうな声を漏らすソラ。そんな彼女の顔を少し呆れたように見ると、ツバサとましろのベッドを見る。

 

「2人はまだ、目を覚ましてないの?」

「……はい。でも、きっともうすぐ……」

「う、ううん……」

「「!」」

 

そんな話をしていると、ちょうどましろの口から眠たそうな声が漏れる。ゆっくりと瞼が開き、意識を取り戻したましろが寝ぼけた様子で体を起こして周囲を見回す。そして医務室らしきところに寝かされていることに気付いたのだろう、意識を失う前の出来事を思い出して意識を覚醒する。

 

「!?ランボーグは!?バッタモンダーは!?ヤクモ君は!?」

「お、落ち着いて……その3つは一応片付いたから」

「あー!?ヤクモ君!!生きてたんだね!?」

「う……」

 

無事な様子のヤクモを見て嬉しそうな声を上げるましろ。その大声を耳にしてツバサも目を覚ましたようだ。起き上がってヤクモを見ると、驚きを露わとする。

 

「ヤクモさん!?無事だったんですか!?」

「うん」

 

3回目ともなれば対応も慣れたものである。全員が無事だったことを喜ぶましろとツバサを見て、ヤクモも少しだけほっとする。

 

「……そうだ、プリンセスは!?」

「……それが」

 

ソラがベリィベリーから聞いたことを2人に伝える。王様と王妃の身に起こった悲劇を聞いた2人の目が見開かれる。

 

「……プリンセスは、大丈夫でしょうか」

「うん……私達全員起きたし、エルちゃんに会いに行ってみようよ。きっとエルちゃんも安心するよ」

「……そうですね……エルちゃんも心細いでしょうし、会いに行きましょう」

 

そしてすぐに気になったのは両親が意識を失うという事態に直面したエルのことだ。幸い、出歩くことに支障がないぐらいには3人とも回復している。エルの無事をこの目で確認することも兼ねて会いに行こうと4人が医務室を出ると。

 

「……皆、もう大丈夫?」

「ベリィベリーさん、はい大丈夫です。ヤクモさんを見つけてくれてありがとうございます」

 

医務室の外にはベリィベリーが立っていた。ヤクモとソラが医務室の中に入った後にベリィベリーも医務室の方に近づいてきたようだが、彼女が入る前に4人が外に出てきたようだった。

 

「……あー、そう、だね……」

「?」

 

どこか罰が悪そうに顔を逸らすベリィベリー。ほんのりと顔が赤い気がしたが、どうしてなのかわからず首を傾げるソラ。ベリィベリーは話題を変えようと、ソラ達が寝ている間に聞いていた話をする。

 

「そういえば……ランボーグに突撃する前にソラの部屋に隊長が入ったところを見た人がいるんだけど……心当たりある?」

「え?隊長が……?」

 

心当たりがないが、戦いの前に何の用があってソラの部屋へと行ったのか。しかし、あの状況でわざわざ足を運んだということは、何か意味があるはずだ。

 

「わかりました、一度部屋に戻ってみます」

「うん、わかった。私達先に行ってるね」

 

それを確認するべく、ソラは3人とシャララの捜索のために外に出ていくベリィベリーと別れ、自室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室は暗かった。時間はまだ夜になる前だそうだが、天候も相まって完全に夜の暗さだ。明るい医務室で寝ていたからソラは今まで気づけなかった。

 

「……これは」

 

机を見ると、その上に一通の手紙と、シャララが身に付けていたはずのスカイジュエルのペンダントが置いてあった。

 

「……立ち止まるな、ヒーローガール……また会おう……」

 

シャララからのメッセージ。おそらくシャララは悟っていたのだろう、あのランボーグとの戦いで自分は無事では済まないということを。そして自分がいなくなっても、ソラが歩けるようにとこのメッセージを残してくれたのだろう。

 

「……うぅ……」

 

様々な思いが湧き上がってきて、思わず泣きそうになってしまうのを堪えるソラ。ここで泣くわけにはいかない、シャララにも思いを託されたのだから。それに、自分は1人ではなく、ヤクモや皆がいる。スカイランドだけではない、ソラシド市にはヨヨやあげは、そして他にもたくさんの友達だっているのだ。

 

「何があっても……きっと、傍にいてくれる。一緒に居てくれる……シャララ隊長とまた会える時まで、そしてその後も……」

 

大事そうに、ペンダントと手紙を手にするソラ。そして彼女も、王様達が眠りについている寝室へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アンダーグエナジーを感じる」

「え……わかるようになったんですか」

「でも……これは見た目でもわかるよ」

 

その頃、寝室ではヤクモ達が今も目を覚まさない王様と王妃の傍に立っていた。3人が確認すると、2人の胸元にはどす黒いアンダーグエナジーの塊のようなものが蠢いており、全身がアンダーグエナジーのオーラのようなもので覆われていた。目で見てもその異常性はわかるが、また感知能力を取り戻したヤクモにはそれがはっきりとアンダーグエナジーの影響によるものだと感じ取れた。

 

「……」

 

本人としては取り戻してしまった、ともいえるが。

 

「まるで、呪いだよ……これから、どうしよう……」

「えうぅ……」

 

ツバサの手に抱かれたエルが、心細そうに呟く。3人が来て、目を覚ましたエルも安心したのだが、すぐに両親の姿を見て不安になってしまっていた。まずはエルに会おう、そう思ってきた3人だったが、改めて王様達の現状を目の当たりにし、これからどうすればいいのかと考えてしまっていた。

 

「……皆さん、帰りましょう。ソラシド市に」

「……ソラちゃん」

 

ソラの声が聞こえてくる。自室から戻ってきたようだが、ソラの提案は、確かに一理あるものだった。この状況で王様と王妃を救う方法を知っている人がいるとすれば、ヨヨしかいない。

 

「確かに、おばあちゃんならきっと……」

「……そうですね。それにバッタモンダーは……これからもプリンセスを狙い続ける……今日のようなランボーグが相手になれば、2人だけでは……きっと勝てない……」

 

ましろとツバサも、ソラの発言の意図を読み取る。この状況でプリキュアが分断され、それぞれの世界にいるという状況は決して良くない。それならば、全員でソラシド市に戻った方がいい。エルには酷な話ではあるが、この世界からエルが離れれば、バッタモンダーとの戦いも、ソラシド市に移ることとなる。今も混乱の最中にあるスカイランドで戦いを継続するよりもマシなはずだ。

 

「……そらぁ……」

 

エルが心配そうにソラの名を呼ぶ。そんなエルの手を、ソラは優しく握ってあげる。

 

「心配ありません、プリキュアは無敵です。そうですよね、ヤクモさん」

「……うん、そうだね。プリキュアは……無敵のヒーローだよ、エルちゃんを絶対に守ってくれるし、王様達だって助けてくれるよ」

「えるぅ……」

 

2人の言葉に、エルの顔にも笑顔が戻る。少しは元気づけられたようだ。

 

「……?」

 

ふと、ましろはどこか引っかかる物言いを感じていた。エルを元気づけようとしてこのような言い方になったのかもしれないが、ヤクモの口ぶりはどこか他人事のようにも聞こえたのだ。それに、この後の行動も含めて仕切ろうとしているソラの姿に、無理をしているのではないかと心配してしまう。

 

「ソラちゃん……無理してない?」

「大丈夫です、隊長から手紙をもらいましたから。だから、立ち止まりません。もう一度きっと会える。これが、その魔法がかかったペンダントだから」

 

そう言い、ペンダントを見せるソラ。唯一の心残りだったシャララのことも、気持ちの整理がついたようでヤクモも安心する。

 

「ソラシド市に戻るなら……急いだほうがいいかもしれない。今はバッタモンダーから見ても絶好のチャンスだ。明日の朝まで滞在していたら、その間にまた仕掛けられるかもしれない」

「はい。もうすぐ夜になってしまいますが……ヨヨさんに一報入れて、トンネルを開いてもらいましょう」

 

だが、行動するならすぐにするべき。ヤクモの言葉にソラも同意するように頷き、すぐに帰還の準備に取り掛かることになる。とはいえ、元々明日戻る予定だったのもあり、既にましろとヤクモは荷物はまとめ終えており、他にもツバサやソラがソラシド市からスカイランドに持ち込んだ荷物に元々持ち帰るつもりだったスカイジュエルなど、準備の時間は決して長くはなかった。そして、

 

「トンネルが開きます」

 

場所は大広間に変わり、連絡を受けたヨヨの手によってトンネルが開かれた。4人の服装は向こうの世界の私服に戻っており、エルを連れた5人が再び異世界へ行くという話を受け、アリリとベリィベリー、そして捜索の合間を縫って他の隊員や衛兵たちが見送りにこの広間に集まってきていた。

 

「「「「……」」」」

 

4人がトンネルを見る。苦い結末となってしまったスカイランドでの戦い。そして苦難はこれからも続くのは間違いない。しかし、希望はきっとあるはずだ。そう、この場にいる誰もが信じようとしていた。

 

「……負けるな、ソラ」

 

誰にも聞こえないように小さく呟くベリィベリー。ソラ達は顔を見合わせると、ソラシド市へ続くトンネルへと入っていく。

 

(シャララ隊長、私、前に進み続けます)

 

周囲の景色がトンネルのキラキラとしたものに変わっていく。その中を歩きながら、横目でヤクモを見る。彼が生きているからこそ、シャララも生きている、きっとまた会えると信じることができるようになったのだと。表情は普段より険しく見えるが、このような状況なのだからとソラは深く考えなかった。

 

(そうすればきっと……もう一度会えるはずですから)

 

そして、新たな思いと共にトンネルを抜けるのだった。

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