曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第41話 プリキュアをやめる時

 

「皆、お帰りなさい」

 

トンネルをくぐり、虹ヶ丘家へと戻ってきたソラ達を出迎えてくれたのはヨヨだった。皆の顔を見て、ほっとした様子の彼女を見ると、ソラ達も完全に不安を拭うことこそできはしなかったが、安心感を得ることができた。

 

「おばあちゃん……その、スカイランドで……」

「ええ……何が起こったかは、ミラーパッドを通じて見ていたわ」

 

言いにくそうにしているましろに、ヨヨが優しく語り掛ける。スカイランドで起こったプリキュアとバッタモンダーの戦い。その全容はヨヨも把握していたようだ。であれば、今ソラ達が求めている情報についても既にヨヨが握っているかもしれない。そんな期待の表情を浮かべるましろ。だがヨヨから返ってきた答えは、

 

「……残念だけど……まだ、王様と王妃様の目を覚まさせる方法は見つけられていないわ」

「そうなんだ……」

 

皆の求める答えをまだ見つけられていないというものであった。とはいえ、王様と王妃が倒れたのも昼間のこと。まだ日付すら変わっていないのに2人にかけられたアンダーグエナジーの異変を治す方法を求めるのも酷だろう。

 

「大丈夫。きっと方法は見つかる。だから皆、今はゆっくり休んだ方がいいわ」

「……はい」

 

しかし、絶対に見つけだす。ヨヨの言葉にはそんな思いが込められていた。きっと、ヨヨならその方法を見つけてくれるはずだ。皆、そう信じていたし、だからこそヨヨのその言葉は心強いものだった。

 

「……ありがとうございます」

 

ヨヨに深く感謝し、ソラ達は部屋を出ていく。だが、ヤクモは1人だけその場に残っていた。しかしそのことには他の皆は疲れなどもあって気付かなかったようだ。

 

「ヤクモさんはいいの?皆と行かなくて」

「……ヨヨさんは、スカイランドで起こったことを見たんですよね」

「ええ」

 

ヨヨにも、ヤクモが言いたいことはわかっていた。ミラーパッドを通じて今日の戦いを、ヤクモがアンダーグエナジーを使ってバッタモンダーと戦い、退けたことを見ていたはずだ。それについて言及はないのか。

 

「……だったら、知ってるはずですよね。俺の中には……」

「ええ、知っているわ。でも、それをどう受け入れるかは、あなたが決めること」

 

ヨヨからの返答は、ヤクモ自身に任せるという単純なものであった。

 

「……」

 

もし、アンダーグエナジーがまたあの時みたいに自分の意思とは関係なく暴走したらどうなるのか。あの時、アンダーグエナジーを使い、過去を思い出し抱いた、アンダーグエナジーへの嫌悪感。だが、敵はいつまでも待ってなどくれるわけもない。この力を、すぐにでも受け入れなければならない。そしてその使い方を考えなければならない。気持ちはまだ追いついていない。しかし、頭はどうすればいいかを既に考え始めていた。

 

「……」

 

アンダーグエナジーの暴走が、関係ない時だったらまだいいのかもしれない。しかし、もしもそれが戦いの中で起こってしまったら。その時は皆が傷つくかもしれないし、街を、そして皆を守るべきプリキュアがそれを壊すようなことになってしまうかもしれない。それで自分だけがソラシド市の人たちから悪い目で見られるだけならいい。しかし、他の皆も同じプリキュアだからというだけでそう見られてしまったら。

 

「俺は……」

 

今までは他人の目については深く考えてはいなかったが、スカイランドに行き、人々に慕われる青の護衛隊の姿を見て、そこに対するヤクモの意識も変わりつつあった。この街を舞台にランボーグと戦う以上、ソラシド市の人たちにとっては決して他人事ではないのだ。であれば、自分がするべき決断は。

 

「……俺も……自分がどうすればいいのか決めました」

「それは、皆が納得すること?」

 

ヤクモが何を考えているのか。これもヨヨにはある程度見当がついているのだろう。これも人生経験の差というものだろうか。

 

「……納得はきっとしないと思います」

 

だからこそ、ヤクモも正直に言う。自分の決断は皆が受け入れてくれるものではないと。しかし、こうする以外に今の自分の問題に対処する方法はヤクモには思い浮かばなかった。

 

「でも……これしかできることがないのなら、俺はそうします。すみませんでした」

 

ヨヨに深く礼をすると、ヤクモも部屋を出ていく。そして一人残されたヨヨは、ヤクモが扉を閉めたのを確認し、スマホを取り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ヤクモさん」

「ソラさん……」

 

明かりはリビングから漏れていた。そのため皆はリビングにいるのだろう。そう考えてたヤクモだったが、廊下でソラとばったり会う。

 

「中々来ないから気になってたんです。ヨヨさんと何を話していたんですか?」

「それは……」

 

ヤクモが中々来ないのを気にしてソラも足を運ぼうとしていたのだろう。ソラの質問に対してヤクモは気まずそうに顔を逸らす。いざソラを前にして言おうとすると、言葉に詰まってしまう。

 

「あの、何か言いにくいことでも……」

 

ソラもこちらを心配して見てくれている。こんな彼女を傷つけるような事を言うのは本当に良いことなのだろうか。他に本当に解決策はないのか。

 

「……」

 

だがいくら考えても。ヤクモにはその答えが導き出せなかった。そして遂に、ヤクモも覚悟を決めて重々しく口を開く。

 

「……ソラさん」

「どうしました?」

 

ヤクモの真剣な表情を見て、ソラも大事な話なのだと理解してくれたようだ。じっとヤクモの顔を見て、次の言葉を待つ。

 

「これを、ソラさんに渡そうと思ってる」

「……え?」

 

その言葉と共に差し出されたもの。それを見て、ソラは信じられないものを見たかのように目を見開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーうぅ……」

「2人とも遅いですね……何をやってるんだか……」

 

リビングでは眠たそうにしているエルを優しく撫でながらツバサが呟いていた。リビングに入り、くつろぎ始めたところでヤクモがいないことに気付き、一緒に戻ってきたのだからヨヨの元にいるのではないかと考えたのが先程までの話。いつまで経ってもこちらに来ないヤクモに痺れを切らしたのかソラがヤクモを迎えにリビングを出て行ったのだが、それにしては戻ってくるまでに時間がある。

 

「ソラさんもソラさんで待ってればそのうち来るのに」

「それだけ近くにいてほしかったんだよ、きっと」

「近くにって……」

 

ツバサの呟きに対し、ソラの心境をそう分析するましろ。近くに、とは言うがそもそも同じ家にいる状態で近いも遠いもないのではないかと若干呆れるツバサ。しかし、ましろがこう考えるのにはちゃんとした根拠があった。

 

「私たちは起きたらヤクモ君がもういたから、あまりわからないのかもしれないけど……その前から起きてたソラちゃんはやっぱり心配でしょうがなかったんだよ」

「……そうですね……」

 

ましろの言葉に黙り込んでしまうツバサ。自分たちが起きていた時には既にソラも起きていた。そしてヤクモもソラが起きているところに会ったとのことなので、ソラは間違いなくヤクモの生死が不明な状態で目を覚ましていたのだろう。となれば、間違いなく不安で不安で仕方なかったはずだ。ましろとツバサだって、もし後少しでも目を覚ますのが早ければソラと同じように自分たちも行方知れずの友を思って不安な時間を過ごしていただろう。そう思うと、ツバサも今のソラの行動に対して何かをいうことはできなかった。

 

「……だから案外、2人でゆっくりお話ししてたりして」

「そういうものですかね……」

 

それはそれで構わないがそれならどこでだってできるだろうに。まぁできるからそこらへんでやってるのだろうとツバサがぼんやり考えていると。

 

「な……なんですかこれは!?」

 

突然ソラの大きな声が響いてきた。

 

「「?」」

 

何事かと顔を見合わせる2人。2人の話に首を突っ込むのも野暮だろうと考えていたが、こんな大きな声が上がれば一体何を話しているのかと気になるのは当然のこと。加えて今は状況が状況だ。何か大変なことにならなければいいがと不安を抱きながら2人も廊下に出るとそこには、

 

「なんで……これ、ヤクモさんのじゃないですか!?」

「……うん、でももう……使えない」

 

ミラージュペンと、紫のスカイトーンを持っているソラがヤクモと共に立っていた。

 

「ソラちゃん、どうしたの……!?」

「そのスカイトーン、ヤクモさんのじゃないですか、なんで……」

「ましろさん、ツバサ君……」

 

先程の声といい、何故ソラがヤクモの持ち物を持っているのかという疑問といい、2人は気になってソラに話しかける。自分の大声に反応して2人が来たことにソラも気付いたのだろう、だが振り向いたソラの表情は信じられないものを見たと言わんばかりに驚いていた。対するヤクモは至って冷静といった様子であり、対照的だ。

 

「わかりません……なんでヤクモさんがこれを渡してきたのか……どうしてですか!?」

 

ミラージュペンとスカイトーンは大事なものだ。それがなければプリキュアになることができないのだから。なのにそれを手放すということはまさか。

 

「……もしかしてヤクモ君、もう戦いたくないんじゃ……」

「……そう、なんですか?」

 

震える声でソラが聞く。それが本当なら、確かにスカイトーンとミラージュペンを手放す理由にはなる。もうプリキュアにならなければ戦う必要はないのだから。

 

「今日の戦いのせいなの?」

 

ましろも心配そうにヤクモに聞く。今日、ヤクモは一歩間違えれば死ぬ危険な目に遭っていた。そのショックが今も残っているのであれば、戦う意思を捨ててもおかしくない。そして本当にそうならば、ましろたちがこれ以上戦うことを強要するわけにはいかない。

 

「……」

 

だが、ソラはとてもそうだとは思えなかった。ヤクモが怖く、苦しい経験をしたことは知っている。だが、ヤクモが戦いが怖いという理由だけでそれを放棄するような人間だとは思わなかった。いや、思いたくなかったというべきか。これからどんな戦いになるのかもわからないのに、傍にヤクモがいないで戦うということが、心細くて仕方がないと感じていた。

 

「俺の中には……アンダーグエナジーがある」

「「……え……?」」

「……」

 

突然の告白に戸惑う2人。今までそんな素振りなど見せなかったのに、どうして急にこんなことを言い出すのか。そんな2人とは異なり、ツバサは遂に2人に知られてしまったと罰が悪そうな顔をしていた。

 

「このまま一緒に居れば、俺は皆を傷つけてしまうかもしれない。これはそういう力なんだ」

「そんな、ヤクモさんがアンダーグエナジーを……」

 

次第に現実を受け入れるにつれ、ショックを受けるソラ。カバトン、そしてバッタモンダーが使っているものと同じ力が、ヤクモの中には流れている。それは使いようによってはどうなるか、ソラも何度も目にしている。そんな力を、ヤクモが持っていることが正直信じられなかった。

 

「それって……ヤクモ君がアンダーグ帝国と関係あるって、ことなの……?」

「……本当に関係ないのかどうかはわからない」

 

アンダーグエナジーを操るということは、ヤクモ自身がアンダーグ帝国と関係があるのではないのかと考えるましろ。しかし、それに関してはヤクモ自身もまだわからない。ただ判明しているのは、ヤクモがアンダーグエナジーが使えるということだけなのだから。

 

「で、でもアンダーグエナジーがあったからってヤクモさんがプリキュアを止めることなんて……」

「俺はアンダーグエナジーを制御できない。そしてアンダーグエナジーで壊したものは……戻らない。そして、俺にプリキュアの力があっても、治すことはできない」

「それは……」

 

プリキュアの浄化技によってランボーグが倒れればどういう原理かは不明だが壊れた街なども元通りに修復される。それは、プリキュアの技にランボーグを倒すほどの威力があるから。そしてヤクモ自身にはランボーグを倒す攻撃力は存在しない。それは、プリキュアの力ではランボーグを倒し、被害を食い止めることはもちろん、街を直すこともできない。だが、そのランボーグを倒す方法が1つだけヤクモにはあった。それがアンダーグエナジーだ。その攻撃力は、ツバサも目の当たりにしており、単体でランボーグを撃破しうる強力なものだった。

 

「でも、それなら僕達だっているじゃないですか!アンダーグエナジーに頼らなくたって、ヤクモさんもずっと戦ってきたはずです!せっかく、アンダーグエナジーを感じ取れなくなったって聞いて、これでよかったって思ったのに……」

「え……」

 

ましろから驚きの声が漏れる。それは、ツバサが口走った内容が、ずっと前からヤクモがアンダーグエナジーを持っていることを知っていたことを示唆するものであったからだ。

 

「ツバサ君、もしかしてヤクモ君のこと知って……」

「それは……」

「黙っていてもらってたんだ、俺がお願いして。ごめんね、ツバサ」

「ごめん、って……そんなの……それはどうにかなったんじゃないんですか?なんで急にまたこんなこと言うんですか?」

「……ランボーグの爆発に呑み込まれたけど、俺は生きてた」

 

だが、知っていたからこそツバサにははっきりとわかる。絶対に何か事情があって、このような決断をヤクモはしたということを。プリキュアであることを止める理由と、その代わりにアンダーグエナジーを使って戦おうとする理由が。それを問われ、ヤクモが話し始めたのは、ツバサ達が巨大ランボーグとの戦いによって眠りについていた間の出来事だった。

 

「そして……バッタモンダーと戦った」

「「「え!?」」」

「正直、目を覚まして戦ってる途中までの記憶は曖昧だったけど……」

 

あの状態でバッタモンダーと戦っていた。初めて聞く話に驚く3人。ヤクモは、その時の事を思い出しながら、右手を見る。当然、今の自分の右手には何も変化はない。だがあの時、この右手には闇のエナジーが宿っていた。

 

「俺はランボーグを作って、バッタモンダーのランボーグと戦っていた」

「……」

 

ツバサが思い出すのは、カバトンと戦っているときに一度だけ、ヤクモが召喚したランボーグだ。それはカバトンやバッタモンダーが生み出している、兵隊のような独立した存在ではなく、ヤクモ自身の腕について共に戦う装備のような形状をしていた。今回のランボーグもそうなのだろうか。

 

「バッタモンダーも限界だったんだろうし、ランボーグもそこまで強いとは思わなかった。でも、この手でランボーグを倒したとき……」

 

ぐっと手を握るヤクモ。その仕草から、やはり前回と同様の形状だったのだろうとツバサは理解する。つまりヤクモは、初めてランボーグをこの手で倒したことになる。ただしそれは、プリキュアの力ではなく、アンダーグエナジーの力ではあるが。そしてアンダーグエナジーで倒したということは、壊れたものが元に戻るという修復作用が行われないこととなる。

 

「俺はスカイランドの街を戦いに巻き込んで壊した。でもそれは直らなかったし、そもそも俺がランボーグを召喚したことだって、俺の意思じゃない。だから皆の傍に居たら俺が皆を傷つけてしまうかもしれない。それでも……バッタモンダーを止めなきゃいけない。だから俺は……戦うことをやめるつもりはない」

「だったら一緒に戦おうよ!?プリキュアを止める必要なんて……」

「あるんだ。プリキュアが街を壊して、皆に悪く思ってほしくない」

「「!」」

 

ヤクモの言葉にソラとツバサの目が見開かれる。ましろだけはいまいち理解しきれていないようだったが、スカイランドの住人であり、青の護衛隊をずっと知っていて見てきた2人にとっては、ヤクモが言う言葉の意味が理解できた。プリキュアとして、アンダーグエナジーを使えば、それによって戦いの果てに人々や街に被害をもたらせば皆がプリキュアを見る目はどうなるか。だが、ヤクモがプリキュアではなく、アンダーグエナジーを操る個人として戦いの場に立つなら話は変わってくる。彼らの見る目が変わるのは、ヤクモだけになる。それが、ヤクモの考えだった。

 

「だから俺は、プリキュアを止めて……この力で戦う。今はまだ十分に使えないけど……でもこれしかないならすぐに使えるようにする。壊すことしかできない力でまだあんまり受け入れられてはいないけど……俺だけが嫌われ役になるためなら、頑張って受け入れる。だから……」

「……嫌……そんなの、嫌です!!」

 

ヤクモの言葉を遮り、ソラが叫ぶ。両手を震わせ、涙目になりながらヤクモを見るソラ。その顔を見ると、本当にこの選択が正しかったのかと不安が湧き上がってしまう。だが、一度決めたことなのだ。これ以外の答えが、自分の中には浮かばないのだ。

 

「ヤクモさんがプリキュアをやめるなんて……一緒に戦ってくれなくなるなんて……一人だけで嫌われ者になるって……そんなの嫌です!これだって受け取れません!!」

 

当然、そんなことを受け入れたくなかった。ミラージュペンを返そうとするソラ。だが、

 

「もう、決めたことだから……だから……本当にごめん……」

 

ヤクモも頑なだった。ソラに押し付けるように、ミラージュペンとスカイトーンを握るソラの手を押すと、玄関へと向かっていく。

 

「ど、どこ行くの!?」

「……ごめん」

 

慌てて声をかけるましろに、一言だけ謝ると、ヤクモは虹ヶ丘家を出て行ってしまう。ヤクモが出ていき、扉が閉まる音を聞くソラは俯いたままその場に立ちすくむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

リビングに座り込むソラ。その表情は暗く、虚ろにも見える瞳はその手に大事そうに握られたヤクモのスカイトーンとミラージュペンに向けられていた。

 

「……そっか、そんなことがあったんだ……」

「……すみません、ずっと黙ってて」

 

だが、ソラの耳はツバサの話をしっかりと聞いていた。いや、むしろ一言一句も聞き逃さないように。何故ならその内容は、ツバサが初めてヤクモのアンダーグエナジーを見た時の戦いだったからだ。それを話し終えたツバサは完全に意気消沈したようにソファに座り込む。その隣ではこのような問題が起こっているとは露知らずエルが眠っている。

 

「……でもしょうがないよ。2人で話して、決めたことだったんでしょ?」

「ですが……」

 

悔やむツバサを慰めるましろ。しかし、ツバサの悔いも当然だろう。一旦は解決したと思い込んだために今回のような事態を引き起こしたのだから。もし、あの時皆にヤクモの秘密を共有できていたら、別の道があったのかもしれない。だというのに、それを見過ごしていたのは紛れもない自分なのだから。

 

「……私は、ヤクモさんのこと、全然知りませんでした」

 

ぽつりとソラが呟く。その呟きに反応するようにましろとツバサが心配そうにソラを見る。

 

「少しは知っているつもりだったんです……謙遜しているけど……誰かを助けることを当たり前のようにできる……凄く、ヒーローみたいな人だって……ヤクモさんがプリキュアになって、仲間になって……一緒に過ごしてると凄く楽しくて安心して……でも、それって結局、私がそう思ってるだけでヤクモさんを全然知ろうとしてなかった……」

 

思い返してみれば、もっと仲良くなりたいと思ってはいても、ヤクモの事を知ろうとはしなかった。触れる機会は確かにあったが、ソラもヤクモの意思を尊重し、踏み込むことはなかった。スカイランドからこちらに戻るときもそうだ。

 

「ヤクモさんが生きてたって知った時、凄く嬉しかったんです。もう本当に……よかったって。ヤクモさんが生きてるならシャララ隊長だってきっと生きてる、ヤクモさんが傍にいれば不安もなくなって……でも、ヤクモさんはそうとは思ってなかった……」

 

アンダーグエナジーによって生き延びた自分の事でヤクモも手一杯だったのだろう。あの時、もし自分がヤクモの異変に気付いてそれに触れることができていれば。

 

「……未熟です……相手の事すら全然知らないのに、友達だと思ってたなんて……」

「……だったら」

 

完全に落ち込みムードに入ってしまった2人にましろは言う。2人を元気づけるように、できるだけ明るく振る舞いながら。

 

「これからもっと知っていこうよ、ヤクモ君のこと」

「これから……」

「そうだよ。だって、私もソラちゃんもツバサ君も、最初は全然お互いのことだって知らなかったでしょ?」

「それは……」

 

ソラが初めてスカイランドからソラシド市に落ちてきた時も、初めてツバサの正体を知った時も。当然ましろには相手がどういう人物なのかわからない。しかし、こうして一緒に過ごす中でお互いの事を知り合ってきたのだ。そしてそれは、ヤクモだって同じだ。

 

「ソラちゃんはヤクモ君のこと全然知らないって言うけど……私はそうは思わないよ。確かに知らなかったことがあったのは間違いないけど……1年前初めて会った時よりも私、ヤクモ君のことよく知ってるって思ってる。ソラちゃんだってそうだよ、ちょっとずつでもヤクモ君のこと、知ってきたから仲良くなりたい、一緒にいたいってもっと思うようになったんだよ」

「知ってきたから……」

 

ましろの言葉を聞くと、少しずつソラの心に光が差し込み始める。確かにその通りなのだろう。何もかも、全くヤクモの事を知らないというわけではないのだから。

 

「一緒に過ごしていけば、当然知らないことだって出てくる……私だってそうだよ。ソラちゃんの憧れの人がシャララ隊長だってこともスカイランドに行って初めて知ったんだから。ヤクモ君がアンダーグエナジーを持っていることも、今初めて知って、ヤクモ君もそのことに悩んでいたってことも今知ったばかりだよ?なら、これからをどうするか考えようよ」

「……そう、ですね」

 

ましろだって当然ヤクモが消えたことはショックだ。だが、このままでいいわけがない。ヤクモが考えた末にそう考えるのならば、こちらだって別の方法を考える。今の自分たちは、誰かが欠けてはいけないのだ。

 

「ましろさんの言う通りです……もっと、ヤクモさんのことを知らなければなりません。アンダーグエナジーがヤクモさんの中にあっても、関係ありません!」

 

ましろの言葉に元気づけられたのだろう、ソラも先程よりも迷いを吹っ切れた表情になり、立ち上がる。

 

「行きましょう!今度は、私たちがヤクモさんを安心させるんです、そして……もう一度、一緒に……」

「……はい!」

 

ソラに続き、ツバサも完全に立ち直ったのか笑顔を浮かべる。そして3人がもう一度ヤクモに会おうと思いを固めると、そこにヨヨが現れる。

 

「皆、やりたいことが決まったみたいね」

「おばあちゃん、ヤクモ君が行きそうなところに心当たりはないかな……家とか……」

「……この公園ね」

 

ヨヨがミラーパッドで見せてきたのは、ソラシド市にある公園だった。ましろも見覚えがあるといえば確かにあるものの、ぼんやりとした記憶だ。ヨヨが周囲の景色へとミラーパッドの映像を変えていき、初めてあのあたりかと気付く。

 

「確か……でも、なんでここにヤクモ君が?」

「もしかしたら、この場所には何か意味が……」

「急ぎましょう!とにかく、すぐにでも会いに!」

 

ソラがヤクモのスカイトーンを見る。プリキュアであることを止める。そうヤクモは言っていたが、スカイトーンの輝きはまだ健在だった。ヤクモに戦う意思はまだ残っている。本当はプリキュアであることを止めたくない、皆と一緒にいたいとスカイトーンが声を上げているかのようにも見えた。3人は顔を見合わせると、ヤクモを引き留めるために急いで家を出ていく。その後ろ姿を見ながら、ヨヨはミラーパッドに映る公園の中に立つヤクモを見る。

 

「……ついに、この時が来てしまったのね」

 

これから先、どうなるかはヨヨにもわからない。ヨヨとしてはこうなってほしいという思いは確かにある。しかし、実際にそれを決めるのはヤクモ本人なのだ。やれることはやった。後は天命を待つだけだ。ヨヨが窓の外を見ると、一際強く輝く一番星が夜を照らしていた。あの一番星が4人を見守ってくれますように。そう願いながら、ヨヨは眠るエルを寝室へと運ぶのだった。

 

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