「……ここだったな」
公園に着き、しばらく立ち尽くしていたヤクモ。既に夜の公園に人の気配などあるはずもなく、無人の公園の中を見渡していた。すると、ヤクモの目に砂場が映り、そちらに向かって歩いていく。確か、記憶によればここでランボーグを召喚したはずだった。
「……はぁ」
改めて思い返すと気が重くなる。もうあんなことは御免だった。しかし、気を付けなければ先日の戦いのようにもなってしまうかもしれない。
「まずはこの力を……誰かを傷つけず、敵だけを倒せるようにしないと、か……できるのか?今まで倒すこともできなかった俺が……」
とりあえず皆から離れたことで、自分のせいで他のプリキュア達に被害が及ぶことはなくなった。しかしまだ問題は残っている。ここからアンダーグエナジーをどう扱っていくか。そもそもどうやって扱うのか。わからないことが山積みだ。
「……」
「ヤクモさん!!」
「!」
どうやら長い時間考え込んでいたようだ。背後から聞こえてきたソラの声にはっとなってヤクモが振り返る。そこには息を切らした様子のましろとツバサがソラと共に立っていた。
「皆……なんでここが」
「おばあちゃんに教えてもらったの」
誰にも伝えてはなかったはずだが、どうやらヨヨの導きでここに来たようだ。確かにヨヨならこの場所にいることを知っていてもおかしくない。
「ヤクモさん」
ヤクモの名を呼ぶソラの表情は先ほどとは異なっていた。はっきりとした意思を見せるその表情を見て、ヤクモも何か言いたげな彼女の言葉を待つ。
「私は……あなたに戻ってきてほしいんです」
「ソラさん……だけど俺にはアンダーグエナジーが……」
「確かに、ヤクモさんにはアンダーグエナジーがあるのかもしれません」
ソラの言葉にヤクモもアンダーグエナジーを理由として持ち出す。まずこれを解決しなければ、ヤクモ本人も納得してはくれないだろう。ソラもそれはわかっている。だからこそ、今の自分たちができることを全力でやるのだ。
「でも私は……私達はヤクモさんと一緒にいたいんです。アンダーグエナジーがあるからなんて、関係ありません」
「……ソラさん」
「一緒に、考えましょう?ヤクモさんがアンダーグエナジーで皆を傷つけることが怖いのなら……私も一緒に考えます。私だけじゃない……ましろさんもツバサ君もきっと……」
「そうですよ……これからは1人で抱え込んだりさせません、ヤクモさん、皆でどうすればいいか考えましょう」
ソラの言葉にツバサもヤクモを説得するように続ける。2人とも、ヤクモの事を考えてくれているのだろう。ヤクモ自身にもわからないアンダーグエナジー。それを、1人でいくら考えてもこんな悪い結果しか出なかったのなら、2人の言うように皆で考えればきっと答えが見つかるかもしれない。それが、今の自分に本来必要だったことなのではないだろうか。
「皆……俺は……」
今日の出来事で自分も含め、皆が精神的に疲弊していたこともあるのだろう。今まで、ずっとアンダーグエナジーのことを見られていたツバサを除いて誰にも明かさず、ずっと抱え込んでいたこともあるだろう。だが、自分たちは仲間ではないのか。本人が乗り越えるべき問題は確かにあっても、打ち明けられることだってある。ただ、アンダーグ帝国の刺客たちと同じようにアンダーグエナジーを使うことを仲間たちからどう見られるかが怖かっただけなのだ。だからこそ、プリキュアを言い、自分はアンダーグエナジーを使うからプリキュアとは違うのだと言い訳をしていただけだった。
「……ごめん、俺、自分の事しか考えてなかった」
結局のところ、ヤクモ自身が逃げたかっただけなのかもしれない。皆のためにプリキュアを止める、などと言っていたがそれは全部自分の都合だった。それで本当にいいのだろうか。全員が納得するのだろうか。いや、納得できるわけがない。それは3人も。そして何より自分自身が。
「いいんです……私も、自分の事しか考えてなかったから……ヤクモさんのこと、全く考えていなかったんです。本当はヤクモさんもずっと悩んでいたのに……」
「ソラさん……」
じっとお互いを見つめ合うソラとヤクモ。そしてヤクモの前に差し出されたのは、ヤクモが手放そうとしていたミラージュペンとスカイトーンだった。
「これを受け取ってください」
「……」
ヤクモがミラージュペンとスカイトーンを見る。月の光を浴びたアイテムが、その存在を主張するように光を放つ。もう一度自分たちを手にしてくれと、そう語り掛けているかのような姿を前に、ヤクモは再びその手を伸ばす。
「そしてこれから……もっと、ヤクモさんのこと、教えてください。私のことも……知ってほしいんです」
「……うん」
ソラの言葉にヤクモの表情に少し笑みが戻る。その顔を見て、ましろとツバサもほっと胸を撫で下ろす。これできっとヤクモは大丈夫だ。そう思ったのだろう。と、自分の変身アイテムに手を伸ばしたヤクモの腕の動きが突然止まる。
「……?ヤクモさん……?」
「アンダーグエナジー……!?」
突然感じ取れたアンダーグエナジー。その正体を探るようにヤクモが顔を上げる。公園の中央に設置された天高く伸びる外灯。その上には一人の人間がいた。いや、人型ではあるが人間なのだろうか。漆黒のロングコートを羽織ったその人物の顔は、ランボーグの顔が表示されていたからだ。
「あれは!?」
「この前の!?」
「なんでここに……!?」
その人物は、以前ソラ達が目撃した謎の男だった。ランボーグの仮面と服をまとったその男を見たツバサは、あることに気付く。
(こいつのランボーグも……本人が身に付けるタイプなのか……?)
ヤクモのランボーグと似通った性質を持つランボーグ。そして前回の接触。それらを思い返し、もしかしたらこの謎の男はヤクモと関係があるのではないかという予想がツバサの脳裏に浮かぶ。
「お前は誰だ?」
「アンダーグエナジーに目覚めた者に迷いは不要だ」
男の静かな声が夜の公園に響く。その男の声は、ヤクモに対して向けられていた。
「この世界でアンダーグエナジーを操る存在……興味はあったのだがな。アンダーグエナジーを操る者に必要なのは力であり覚悟。それを失った者には過ぎた代物だ」
「違います!大事なのは力じゃありません!」
男の声に反論するソラ。しかし男はその言葉を嘲笑するかのように告げる。
「それはアンダーグエナジーを持たざる者の理屈だ。その男の理屈ではない。だがお前が力以外にも大事なものがあると説くのならば……可能性を見せてみるのだな」
男の手にアンダーグエナジーが生み出される。
「「「「!?」」」」
その量は、あまりにも膨大だった。さすがにバッタモンダーが何日もかけて仕込んだ末に生み出した巨大なランボーグにこそ量は劣るものの、カバトンやバッタモンダーが普段ランボーグを生み出す際に使用するアンダーグエナジーよりもずっと量が多い。そのアンダーグエナジーを男は砂場の砂へと注ぎ込んでいく。
「来るがいい、ランボーグ」
一瞬その視線が砂場に突き刺さっていたシャベルにも向けられ、アンダーグエナジーが一瞬だけシャベルに向かって伸びる。しかし素体としては砂だけで十分と判断したのだろう。砂を素体として生み出されたランボーグが、巨大な砂の腕と頭部を地面から出現させる。
「ランボーグ!」
「!?」
ヤクモの目が見開かれる。それは、幼い頃、初めてヤクモが召喚したランボーグだった。何故この男がそれと同じランボーグを召喚できているのか。あるいは素材が同じだからデザインもたまたま同じになっただけなのだろうか。
「ヤクモさん!」
「!」
ツバサの声に我を取り戻すヤクモ。ランボーグは砂場から出れないのか、砂場の砂の上を滑るように移動しているだけのようだが、当然このままというわけがないだろう。
「起きろ、ランボーグ」
「ランボーグ!」
しかしヤクモが我を取り戻すのと同時に男の声と共にランボーグが動き出す。腕と体が砂の中から抜かれ巨大な砂の巨人へと姿を変えていく。人間の数倍はあろうかという巨体が砂場から引き抜かれると共に、巨大な砂嵐を巻き起こす。
「きゃあああああ!?」
しかし、この砂嵐もランボーグにとっては攻撃ですらないのだろう。だが、ヤクモ達にとってはそうはいかない。砂がこうも巻き上げられてはまともに目も空けていられない。ソラの手にはヤクモのミラージュペンがまだ残っているが、この状況ではまともな受け渡しすらできない。であれば、
「ソラちゃん!ツバサ君!まずはこれをどうにかしないと……!」
「はい!ヤクモさん、まずこの場を切り抜けてから返します!だから……!」
「う、うん」
ヤクモも皆の意図を理解し、砂嵐から逃れようとランボーグとは反対側の方向へと走り出す。ソラ達は自分のミラージュペンを取り出し、プリキュアへと変身すると、砂嵐から逃れるように高く飛ぶ。
「別人だがやはり懐かしいな、プリキュア」
砂嵐から逃れた3人だったが、どうやらヤクモが逃れた側とは別の方へと飛んでしまったようだ。砂の中、まともに視界を確保できない状態だったため、仕方がないが、これではヤクモをもう一度プリキュアへと変身させることができない。
「スカイ、あのランボーグは私たちが抑えるからヤクモ君にペンを!」
「わかりました!」
「ランボーグ!」
着地し、クラウドの元へと向かおうとするスカイ。しかしそれを阻もうとランボーグが3人へと襲い掛かる。しかし、そうはさせないとウィングがランボーグの周囲を覆う砂嵐へと突っ込んでいく。
「邪魔はさせない!ひろがるウィングアタック―――!?」
ウィングの技がランボーグの胴体に命中。だがウィングのパンチは全く手応えがなく、むしろランボーグの胴体を貫通してしまう。
「なっ!?」
「「!?」」
ウィングが動揺したのもつかの間、ウィングの体が向こう側へと出ていく前に胴体を再構築し直したランボーグの砂の体でウィングは押し固められてしまう。
「うわあああああ!?」
「「ウィング!?」」
砂で固められ、締め付けられるウィング。今の彼はランボーグの胴体から下半身だけが出たまま身動きが取れないという情けない姿を晒してしまっている。スカイの足も止まってしまい、プリズムと共にプリキュアを無力化してしまったランボーグを険しい表情で見る。
「ランボーグ!」
「くっ……」
「攻撃したら駄目!私が!」
残る2人へと攻撃しようとしてくるランボーグ。スカイが迎撃しようと拳を握るも、砂の体に打撃は通じない。下手に攻撃すればウィングの二の舞になってしまうとプリズムが静止すると、光弾を放ちランボーグの腕や肩、膝など胴体を避けて攻撃する。光弾は砂嵐を抜けてランボーグに命中すると、その箇所が次々と崩れていくがすぐに再生してしまう。
「効いてない!?」
「ランボーグ!」
2人が動揺している間にランボーグが地面を両腕で殴りつけると、ランボーグの腕が砕けてしまう。次の瞬間、スカイとプリズムの足元から砂の腕が現れ、スカイとプリズムを捕まえようとする。
「きゃあああ!?」
「しまっ……ヤクモさん!!」
砂の腕は堅く、こちらの攻撃では簡単に砕けるのに拘束されているときはとても堅く、破壊することができない。完全に身動きを封じてしまった。だが、掴まる直前にスカイトーンとミラージュペンをスカイは放り投げていた。
「!あれは……くっ!」
外灯と月の光で一瞬光を反射したそれが目に入ったヤクモが急いで飛び込み、変身アイテムをキャッチする。3人のプリキュアを捕まえたランボーグは、最後の1人となったヤクモに振り向く。
「皆……」
攻め手がない。こちらもアンダーグエナジーを使えばもしかしたら戦えるかもしれない。だが、ランボーグだけでなく皆を傷つけてしまうのではないか。そう考えてしまったヤクモは一瞬躊躇してしまう。直後、ランボーグが砂嵐を放ち、それにヤクモは巻き上げられてしまい、地面に叩きつけられてしまう。
「ぐ……」
「ヤクモさん!」
叩きつけられた衝撃でヤクモの意識が朦朧となっていく。そして目の前のランボーグが幼い頃に召喚したあのランボーグと重なった直後。
「……」
ふらりと立ち上がるヤクモ。その脳裏に流れていた記憶。その先を思い出したヤクモは、ミラージュペンをスカイミラージュへと変化させ、スカイトーンを装着する。
「覚悟がなければ大人しく逃げればいいものを」
「俺は逃げない……逃げるわけにはいかないんだ。アンダーグエナジーは壊すだけの力じゃないって……思い出したから」
「……」
男の言葉にそう答えるヤクモ。そのままプリキュアへと変身したクラウドを見て、ランボーグが砂嵐をヤクモへと放つ。先ほどまで使用していたものと異なり、完全に攻撃するために放った、無数の細かな砂が混ざった砂嵐だ。砂自体は決して大きなダメージにはならないがこの強風で放たれることでプリキュアであっても通じる攻撃となる。
「クラウド!」
「俺は……皆と一緒にいたい……共にプリキュアでいたい……!だから俺は……この力で何かを壊すのではなく、何かを守り、助けるために使う!」
クラウドへと命中する砂嵐。その中でクラウドが傷ついていく。そう誰もが思うも、その瞬間は訪れなかった。
「……ほう?」
男の口から感心したような声が漏れる。砂嵐は風の勢いはそのままだが、中を駆け巡る砂はどんどん少なくなり、視界が開けていく。そして一歩、また一歩とランボーグへと歩いていくクラウドの体は無傷なままだった。
「「クラウド!」」
「ランボーグ、やれ」
「ランボーグ!」
スカイとプリズムから安堵の声が出る。この砂嵐を見て何かに気付いたのか、男はランボーグに次の攻撃命令を下す。ランボーグが地面につけていた腕を引き抜くと、新たな腕を生やしてクラウドへと殴りかかる。その拳を受け止めたクラウド。当然それに反応するようにランボーグの拳の方が砕け、無数の砂となって散らばる。だが、ランボーグの体は再生されることはなかった。
「え!?」
自分たちの時とは異なるランボーグの挙動に驚く2人。ウィングも、ランボーグの動きは見れてないが何かが起こっていることは理解したようだ。と、クラウドが次の行動に入る。アンブレランスを取り出したクラウドがランボーグの脇腹を勢いよく殴りつけると、ランボーグの胴体が真っ二つになる。
「っ!」
体が自由を取り戻し、ウィングも拘束から逃れる。そのまま胴体が割れて地面に二つになって転がるランボーグは生きている砂を一つに集めて体を作り直す。
「……あれは……」
ウィングが離脱し、クラウドを見た瞬間にどういう現象が起こっているのかを把握する。ランボーグのアンダーグエナジーがクラウドの方へと吸収されていく光景を。砂を素体としたランボーグであるからこそ、胴体を構成するアンダーグエナジーの消滅と共に肉体が崩壊しているのだ。
「クラウド……!」
ウィングと異なり理屈はわからないが、ランボーグを相手に有利に戦ってるクラウドの姿にスカイも嬉しそうな表情になる。消耗したアンダーグエナジーを再補充しようとスカイとプリズムを拘束していた腕から取り込んだからか、拘束力が甘くなり、2人も腕を破壊して自由を取り戻す。
「まさかアンダーグエナジーを取り込むとはな。器用なことをする」
「これが誰かを傷つけず、壊すこともない……俺のアンダーグエナジーの使い方だ!」
「ほう……」
ランボーグを生み出し、その力でランボーグを倒して壊すのならば、そうしなければいい。アンダーグエナジーを外に出すのではなく、自らの中に取り込む。そして取り込んだ力は、元々アンダーグエナジーを宿しているヤクモにとっては大きな影響を及ぼすというものではないようであり、むしろ調子もよくなっているという感じがする。敵であるランボーグのエネルギーを吸収し、自らの体力を回復させる。攻防一体の使い方、それがクラウドの、ヤクモの編み出した自分だけのアンダーグエナジーの使い方だ。
「ら、ラン……!?」
自らの力が一方的に削がれるという未知の現象にランボーグも困惑しているのだろう。震えるその姿を前に、クラウドが両手を突き出す。
「ひろがるクラウドプロテクト!!」
ランボーグを雲のフィルターが覆っていく。その内部から抜け出そうとランボーグが暴れ出す。しかし、ランボーグの体が触れると無数のフィルターによって砂の体が削られていき、砂に宿るアンダーグエナジーがフィルターを通して浄化されていく。クラウドがどんどん雲のフィルターを小さくしていき、ランボーグの全身を削るように狭くしていく。通常であればこれほどやれば途中でランボーグに破られてしまうだろうが、今回は砂のランボーグという特殊な相手だったからこそ、このような現象が起こるのだ。
「ランボーグが……浄化されていく……!」
「……終わりだ!」
「スミキッター……」
クラウドの技が全ての砂を浄化してしまう。クラウドプロテクトから浄化された砂が次々と排出されていき、クラウドプロテクトが消滅するとそこにランボーグの姿はなかった。
「……凄い」
「クラウドの技で、あのランボーグが……」
まさかの大番狂わせに3人も驚きを露わとする。クラウドはランボーグを浄化すると、男を見上げる。クラウドの視線に気付いた3人も顔を上げて男を見る。以前は結果として自分たちを助けてくれたようだが、この男は敵なのか、それともそうではないのか。もし敵なら、バッタモンダーとこの男を同時に相手にすることになってしまう。3人が警戒を露わにする中、クラウドは静かに男を見る。
「あの時、俺を助けてくれたのはあんたなんだな」
「「「え!?」」」
「何のことか」
「全部思い出したよ。俺は小さい頃、ここでランボーグを生み出した。当然俺にも制御できなくて、俺の作ったランボーグが暴走した時……あんたが現れてランボーグを倒した。その時、あんたが俺が出した分のアンダーグエナジーを俺の中に注いだ……その時に、俺の記憶に何かしたんじゃないか?」
「そこまで思い出したか」
3人がクラウドと男を交互に見る。もしクラウドの言っていることが本当なら、この男はずっと昔からクラウドを見守っていたということになるのだろうか。そして、幼い頃アンダーグエナジーを使い、皆を傷つけようとしていた記憶を封じたのもこの男ならこの場で襲ってきたのは何故なのか。
「アンダーグエナジーが破壊の力なら俺の内に取り込めばいい。俺ならそれができる……教えてくれたのはあんただ。あの時の俺と同じ素材を使ったのも、俺を奮い立たせるためなんじゃないのか?」
「さあな。お前の心が折れて戦うことを諦めるならそれでも構わなかった、というだけだ」
「……」
その理由を、当時作ったランボーグの類似品を呼び出した点から推測するクラウド。男は答えを明確にしなかったものの、思い出した過去の記憶からこの男が完全な敵とは思わなかった。
「……だが、迷いを抱いてアンダーグ帝国と戦うことは無謀だ。ということだけは言っておこう。いや、帝国はおろか、近く来るであろう刺客にも勝てん」
「……じゃあ、やっぱりあんたは……」
男の体が黒い靄となって消えていく。敵がいなくなった公園で変身を解くヤクモ。そして罰が悪そうに3人に振り向くと、
「ヤクモさん!」
「うわっ!?」
ソラに抱き着かれる。いきなり飛びつかれてバランスを崩しそうになるもなんとかそれに耐えてソラを受け止めるように手を背中に回す。
「……お帰りなさい」
「……た、ただいま……?」
ソラの嬉しそうな声にヤクモも返す。果たしてこれで合っているのかと一瞬疑問を抱いてしまうも、答えを見つけたヤクモの表情は完全に元の明るさを取り戻していた。
「皆、迷惑かけてごめんね……」
「ううん、気にしないでよ」
「そうですよ。ヤクモさんだけが悪いわけじゃありませんから」
ヤクモの謝罪にましろとツバサも安心したように言う。そしてヤクモに寄りかかったまま、ソラが口を開く。
「これからは、ずっと一緒ですから」
「……うん、そうだね」
おそらくは無意識であろうソラの愛おし気な声に背中が痒くなるのを感じながらヤクモはソラの頭を撫でるのだった。