曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第43話 える太郎

 

「うわあああああ!?」

「!?」

 

ツバサの悲鳴に慌てて飛び起きるヤクモ。と、部屋を見渡して見慣れない景色であることに気付き首を傾げる。と、

 

「……ああ、そうか。昨日ソラシド市に戻ってきたんだっけ……」

 

既にここはスカイランドではなくソラシド市であることを思い出す。昨日、バッタモンダーとの戦いを一旦終え、ソラシド市に戻ってきたヤクモ達。その後、別の問題が起こったがそれも解決した……のだが、あくまでヤクモが家に戻るのは今日ということになっていたため、昨日はそのまま虹ヶ丘家で一泊することになったのだった。

 

(……って、こんなこと考えてる暇じゃない)

 

今朝に至るまでの経緯を思い出していたのだが、そんな場合じゃないだろうと慌てて部屋を出る。下のリビングから聞こえてきたツバサの悲鳴、何か大事が起こってからはまずいとリビングに向かうと。

 

「すっごいサプライズ!もう帰ってきてるなんて、はぁ本当にきゃわいいねぇ少年!」

「あっあっあっ」

「……」

 

あげはに愛おし気に頬ずりされているツバサの姿があった。てっきり敵が出てきたのかと色々考えていただけに拍子抜けしてしまったヤクモだったが、さすがにツバサをこのまま放置することもできないだろうと声をかけることにする。

 

「あの……あげはさん?」

「おっ、ヤクモ君!ヤクモ君もここに泊まってたんだ?おはよう!」

「あ、おはようございます……ってそうではなくて……そろそろツバサを離してもらいたいんだけど」

「あはは……ごめんごめん、久しぶりに見てついね」

 

挨拶もそこそこにツバサを開放してほしいと頼むと、あげはも苦笑しながらツバサを止まり木に戻してあげる。一旦枝の上に立ったツバサはそのまま床に降りると人の姿になり、警戒した様子であげはから距離を取ってヤクモの後ろに回る。

 

「久しぶりに、じゃないですよ本当に……」

「ツバサ君朝から騒がしいよぉ……って、あげはちゃん?」

「あげはさん、どうしてここに?」

「2人ともおはよう!」

 

ツバサの叫びはましろとソラも起こしてしまっていたようだ。2人とも降りてきてあげはの姿を見て驚く。あげはは元気な挨拶をし、2人も返すものの戸惑いの声音が含まれていた。とはいえ、朝起きたらあげはがいたのは前例があるだけにツバサほどの驚きはないようだが。

 

「今日皆帰ってくる……はずだったでしょ?だからさ、早めに来て待っていようかなって思ってたんだけどさ……」

 

あははと笑うあげは。皆を出迎える準備をしようとしていたのだが、前日には戻ってきていたことに関してはあげはの方が驚いていたようだった。

 

「……何かあったの?」

 

前置きもここまでにと、あげはが少し真剣な声音で4人に質問する。その言葉を聞いた4人は、言いにくそうに顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか……大変だったんだね……」

 

その後、着替えた4人は目を覚ましたエルと共に、あげはに昨日まであったことを一通り話す。それを一通り聞いたあげはが改めて皆の顔を見ると、その時の事を思い出したのか浮かない表情になっていた。

 

「ていうかそのバッタモンダーって奴、凄く腹立つんだけど……」

 

あげはも彼の所業には怒り心頭といった様子を見せる。しかし、一旦その怒りは置いておくようにヤクモを見る。

 

「……ヤクモ君は大丈夫なの?昨日の事……」

「もう大丈夫。俺なりに区切りは本当の意味で付けられたから……」

「そっか……」

 

昨日の夜の一件を心配するあげはだったが、ヤクモの表情を見てそちらは心配ないようだと安心する。しかし、王様や王妃が眠ったままという現状は何も変わっておらず、その点は深くソラ達に圧し掛かったままだ。

 

「……」

 

ソラの左手が隣に座るヤクモの服の裾を掴む。弱気になった意識が右手の中に握られていたスカイジュエルのペンダントに向けられる。再会を誓ったのは間違いない。まだ可能性はあるのだと考えてもいる。しかし、こうして落ち着くと、どうしても悪い方向への感情が出てきてしまうのは避けられなかった。

 

「えるぅ……」

「……もしかしたら」

「ヤクモさん?」

 

ソラが服を掴んだことで引っ張られたことで、ヤクモもソラが何をしたのかに気付いたのだろう。そんなソラを少しでも元気づけてあげられないかと考え、ぼんやりと考えていたことを口にする。

 

「確証はないけど、王様達の目を覚ますことができるかも……」

「「「「「!」」」」」

 

ヤクモの発言にその場にいた全員の視線がヤクモに向けられる。もし本当にそんな方法があるのならと藁にも縋るような思いで次のヤクモの言葉を待つ5人。と、そこに紅茶とカップが置かれる。

 

「さあ、召し上がれ」

「あ……おばあちゃん」

 

それはヨヨが皆が落ち着けるようにと差し入れたものであった。ヨヨの差し入れによって一旦間が開き、紅茶を飲み、一呼吸置いたヤクモはヨヨを見る。

 

「ヨヨさん、王様達にかけられた呪いですが……」

「……ヤクモさん」

 

自分の考えていた方法を語ろうとするヤクモにヨヨはそれを止めるようにと指を自分の口に当ててジェスチャーする。おそらくヤクモが考えていたことはヨヨにもわかっているのだろうが、それを説明しない方がいい理由があるようだ。もしかしたら彼女の方でも何か調べているのかもしれない、それなら素人より専門家の意見の方に従うべきだろうとヤクモは頷く。その仕草を見て、ヤクモからその話は聞けないと悟ったましろは、気になったことをヨヨに質問する。

 

「おばあちゃん、どうしてアンダーグ帝国はスカイランドを襲うの?街や皆の心を傷つけて……ひどすぎるよ」

「……そうね……あれから色々調べてみたのだけれど……」

 

ヨヨがミラーパッドを操作し、アンダーグ帝国に関する資料をソラ達へと見せる。そこには陽の光が差してこない巨大な洞窟のような風景が広がっていた。

 

「スカイランドとアンダーグ帝国は謂わば光と影。正反対の2つの国は、300年前に戦い、その結果、一時は和解した」

「「「「え?」」」」

 

ヨヨの明かした歴史に4人が驚く。スカイランドとアンダーグ帝国は過去に交流を持っていたのならば、何故今アンダーグ帝国がスカイランドを攻撃しようとしているのか。そもそも、和解しているのならばその歴史は何故スカイランドに残っていないのだろうか。

 

「ソラさんとツバサは聞いたことある?」

「全く……」

「少なくともスカイランドではそのような歴史は聞いたことがありません。いや、歴史が古すぎるというのもありますが……和解したのなら交流もあったはずでは?」

「……和解してすぐの頃は国同士の付き合いもあったようだけれど……」

 

過去に存在されていたとされるプリキュア。その存在も、大昔の事だから今を生きる人々は知らないというのであれば理解できる。アンダーグ帝国もその時代のものならば。しかし、戦いが終わり、交流までしていたのならばそう簡単にその関係が途絶えるとは考えにくいし、それほどに大きな出来事なら何かしらの形で記録されていてもおかしくないはずではないだろうか。

 

「……300年前の戦いの後、突如として2つの世界の交流は途絶えた。そして長い時間が経過し……スカイランドの方ではアンダーグ帝国の存在を忘れてしまった。だけど……おそらくアンダーグ帝国はスカイランドのことをずっと覚えていたのでしょうね」

 

ヨヨから聞かされたのはスカイランドとアンダーグ帝国にまつわる奇妙な歴史。だが、今大事なのは過去の事よりも現在、何故エルが、スカイランドがアンダーグ帝国から狙われているか。だが、

 

「でも、何故アンダーグ帝国は今になってスカイランドを襲い、プリンセスエルを狙うのか……たくさんの書を紐解いても、確証に至る答えは見つからなかったわ」

「……そう……」

 

何故スカイランドが狙われるのか。その理由さえ解き明かせば戦いを終わらせられるかもしれない。そんな考えが浮かんでいただけに落胆するましろ達。と、ここでツバサがヨヨの思わせぶりな発言に気付く。

 

「……待ってください、確証がないってことは……予想はしているってことですよね?」

「ええ。だけど真実とは限らない。この歴史には……たくさんの真実と嘘が紛れているの。もし偽りの真実を信じ込んでしまえば……過ちを招いてしまうかもしれない。だからこの問題については、私の口からはこれ以上言えないわ」

「そうですか……」

 

気にはなるが、ヨヨにそう諭されては何も言えない。大人しくツバサも引き下がるしかない。だが、ヨヨが調べ上げたことはこれだけではなかった。

 

「だけど1つだけ。王様と王妃様の呪いを解く方法がわかったの」

「「「「え?」」」」

 

ヨヨのもたらした吉報に4人が驚く。

 

「本当ですか!?」

「ランボーグを浄化した時に現れるキラキラエナジー。それをこのミラーパッドに集めれば、呪いを解く薬を作ることができるわ」

 

ヨヨがもたらした情報は、呪いを解くための特効薬が作れるという一番待ち望んでいた情報だ。確かにランボーグを浄化した際にそんな不思議な力のようなものが周囲を漂っていた気がするが、それこそが打開策になるとは。

 

「よかったですね、プリンセス!」

「パパとママを目覚めさせることができるんだよ!」

「……パパ……ママ……?」

「「「うんうん!」」」

 

エルを喜ばせようとする4人。しかし、その言葉を聞いたエルの瞳に涙が浮かび始める。4人はこの事を1から10まで喜ばしいことだと考えていたが、エルからすれば、王様達が呪いによって眠っているということ自体が悲しいことだったのだ。

 

「ぱぱぁ!ままぁ!」

「ぷ、プリンセス!?」

「わわわ……ご、ごめんねエルちゃん!赤ちゃんにはよくわからなかったよね!?」

 

思わず泣きだしてしまったエルを慌てて宥めるましろ。しかし中々泣き止まず、それを見たあげはがましろからエルを受け取ってよしよしと背中を撫でてあげる。

 

「すぐにでもエルちゃんを王様達に合わせてあげたいね……」

「でも、無茶ですよ……ランボーグを倒さなければキラキラエナジーが集まらないんですよ?」

 

エルをあやすあげはを見ながら、ヤクモとツバサは話し始める。気持ちは全員一緒だが、肝心の材料となるキラキラエナジーを集めなければどうしようもない。だが、ヤクモは先ほど話そうとしていた内容を思い出す。ヨヨは止めたが、もしこの方法にも可能性があるならエルのために検討してみる価値はあるのではないかと、改めてヨヨに話してみることにする。

 

「そのことだけど……ヨヨさん。2人にかけられた呪いのアンダーグエナジーを取り込めば、目を覚ましたりはしないんですか?」

「……かもしれないけれど、あまりに危険すぎるわ」

「え……」

 

ヨヨの声音は、優しいものから一転して警告するかのような厳しい声音になっていた。

 

「アンダーグエナジーは、2人の生命力と一体になってしまっている。もしこれを無理やり取り除いたら、2人の生命力も取り除いてしまうことになるかもしれないわ」

「つまり……無理に引き剥がしたら2人の命は」

 

ない。明言こそ避けたもの、明らかに危険度が高すぎる方法だ。だからこそ、ヨヨはヤクモが思いついたこの方法はするべきではないと発言を止めさせたのだ。だが、無理な方法であるならそれを明言されたのはむしろ良かったのかもしれないと前向きに受け止めるヤクモ。やはりキラキラエナジーか、そう思った時。

 

「キラキラエナジーの元になるのはランボーグ……というよりもキラキラエナジーですよね」

「ええ」

「それなら、俺のアンダーグエナジーを使えば完成に近づくのでは?」

「!」

 

ソラが驚いたようにヤクモを見る。確かにそうだ。ランボーグはバッタモンダーが呼び出しているものを使わなければならないと考えていたが、もしその完成を短くする方法があるのなら。だが、そのヤクモの提案にもヨヨは首を横に振る。

 

「それは絶対にダメよ。アンダーグエナジーは……あなたの生命力なの。ランボーグの召喚は持ち主の体力を、生命力を消耗して行われる……当然、時間が経てばそれは回復するものだけど……」

 

4人の脳裏に思い出されるのはカバトンが強力なランボーグを召喚した時の事だ。あの時、カバトンの体はやせ細っており、いかにも本人も疲弊していた。ヤクモの体内のアンダーグエナジーを無理に浄化すれば、カバトンのような、或いはカバトン以上に酷いことになってもおかしくない。

 

「あなたの中にあるアンダーグエナジーを直接浄化するのはリスクが高すぎる。下手に行えば……命を失うかもしれない」

「「「「!」」」」

 

ヤクモが死ぬかもしれない。ヨヨの衝撃的な発言に3人の肩がびくっと震える。ヤクモも、ヨヨの言葉を聞き、冷や汗を流しながら息を呑む。

 

「だから絶対にダメ。もし、本当にあと少しで薬が完成するっていう状態になったらランボーグを召喚してもらう、かもしれないけれど……この方法は絶対に取っちゃ駄目よ。ヤクモさんも、他の皆も」

 

4人が真剣な表情で頷く。王様と王妃を救うために誰かの命を犠牲にすることなど絶対にしてはならない。ましてヤクモを犠牲にするようなやり方など特にだ。それと同時に、自分の中のアンダーグエナジーの扱いは予想以上に難しいものであることを嫌でも知らされるヤクモ。付き合い方を決めたとはいえ、まだまだ手探りなところも多そうだと深くため息を吐く姿がソラには落ち込んでいるように見えたのだろう、まだ泣き続けているエルの声を聞きながらソファから立ち上がると、ぐっと拳を握る。

 

「今は俯いている場合ではありません!今は、エルちゃんの笑顔を取り戻しましょう!」

「はい!」

「……うん、そうだね」

 

今は他にもできることはあるのだと、ツバサとヤクモも頷く。ソラの発言を聞いたあげはが、それならばとある提案する。

 

「あ、だったら……子供が喜ぶあれしかないでしょ!」

「あれ?」

 

ましろが首を傾げる。あげはは一体何を提案しているのか、他の皆も首を傾げていると、あげははその提案の内容を皆に話し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あげはが提案したのは人形劇だった。ヤクモ達の目の前には多くの絵本や人形の材料になる布などが広げられている。ちょうど学校の授業でやったらしく、あげはが見せてくれた人形は可愛らしく、エルの興味を引くのに十分な魅力があった。

 

「絵本ですか……これとかどうですか?話は知りませんけどなんかヒーローっぽいです!」

「えるぅ!」

 

エルが気に入った絵本を使って人形劇を作ろうということになり、様々な昔話の絵本を見せていた中、ソラが選んだのは桃太郎だった。それを見たエルも気に入ったのだろう、喜びながらその本を見せてほしいと手を伸ばしている。

 

「エルちゃん、桃太郎に興味あるんだ」

「どんなお話なんですか?」

「桃太郎はね……」

 

桃太郎の内容を簡単にソラに話すましろ。一通り絵本を読みながらその内容を把握したソラは感心したように言う。

 

「へぇ……この世界の犬と猿って強いんですね!」

「まあ創作だから……」

 

鬼を倒すような犬と猿。それぐらい強い動物がいるなら確かに頼もしいのだが。

 

「……案外人になったりプリキュアになる犬もいるかも……」

「なんで僕を見ながら言うんですか。というか猿は違うんです?」

「人間なんて猿みたいなもんだし……」

「どういうことですかそれ……」

 

視線を感じ、不服そうにヤクモを見るツバサに苦笑するヤクモ。一方、桃太郎への食いつきがいいエルを見て、あげはもこれにすることに決定したようで、

 

「じゃあ、桃太郎のための人形を作ろうか!」

 

あげはの言葉と共に5人は人形を作っていく。そして垂れ幕なども取り付けて舞台を作り上げると、エルのが興味深そうに見守る中、遂に人形劇が始まる。

 

「それじゃあ、人形劇の始まり始まり~!」

 

あげはが語り部を務め、ヤクモ達が作った人形などを使って劇を動かしていく。

 

「むかーしむかーし、あるところに……小さな雲がふわふわと降りてきました」

「?桃じゃないんですか?」

 

舞台裏でソラが囁き声でヤクモに質問する。先ほど呼んだ桃太郎とは始まりが違ったからだ。雲を動かしていたツバサも、最初は雲を出してという指示を受けていただけのようで首を傾げている。

 

「ちょっとアレンジしたんだ。大丈夫、大きな流れが変わってないから」

「はぁ……」

 

あげはの囁きを聞き、把握する4人。おそらくエルのためにとアレンジを加えてくれたのだろう。大きな流れが変わってないなら細かいところはあげはの発言を聞いて合わせればいいと判断してそのまま続行する。

 

「ふわふわと舞い降りてきた雲がぱかっと割れると、中から元気なえる太郎が出てきました!」

「「「「える太郎?」」」」

 

雲が半分に割れ、える太郎の人形を出す。確かに桃太郎に扮したエルの人形は作ったが、ここの名前も変えていたようで思わず4人が疑問の声を上げる。

 

「そう!雲から生まれたえる太郎!」

「えるぅ!」

 

自分を元にした人形が動いているのが嬉しいのか、エルも楽しそうな声を出す。これを受け、あげはもどんどん語り部として物語を動かしていく。

 

「える太郎はミルクを飲んでぐんぐん大きくなっていきました。しかし、ある日える太郎の大好きなあげは姫が鬼に連れ去られてしまったのです」

「「「「あげは姫?」」」」

 

今までは桃太郎の一部のワードを置き換えただけだったのだがここにきての大胆なアレンジにさすがに4人の手が止まる。あげは姫とはあげはが授業で作った自分をモチーフにしたお姫様のような人形であり、せっかくあるのだから使ってほしいと、鬼の人形と共に舞台裏のヤクモに手渡す。

 

「あーれぇ、助けてー!える太郎様ー!」

「だいぶお話変わってきてる……」

「ど、どこに着地するのだろうか……」

 

言われるがままに人形を動かすも、全く先が見えてこない。大きな流れは変わらないとは言ってはいたがこれではどこまで変えてないかすら怪しい。というより間違いなく本人もアドリブで色々やってる節があるだろう。

 

「あげは姫を連れ去られたえる太郎は、あげは姫を助けるため、おばあさんが作ってくれたくもパンを持ち、鬼ヶ島へと出発しました。旅の途中、犬、猿、雉と出会ったえる太郎は3人にくもパンを渡すと、そのお礼に鬼ヶ島に一緒に同行してくれることになりました」

 

どうやらここでちゃんと軌道修正をしてくれたようだ。安心した様子で顔を見合わせるヤクモとましろ。

 

「……える?」

 

ここからえる太郎とお供4人の旅が始まる。だが、エルが困惑したように首を傾げる。その声を聞いたあげはは、それがどういう意味なのか一瞬考えるも、すぐに気付く。

 

「……あ、そっか。ヤクモ君、その人形を」

「え?でもこれ鬼の人形じゃ……」

「いいからいいから」

 

ヤクモがあげはに言われるままに出したのは青い鬼の人形。鬼と言っても何体か用意した方がいいと色違いで作った内の1体だ。しかし、まだ鬼ヶ島についてもいないのに出していいものかと考えてしまったが、あげははどのように話を広げていくつもりなのだろうか。

 

「旅をする途中、える太郎たちは青い鬼と出会いました。その鬼は鬼ヶ島の鬼とは違い、人を傷つけることはせず、むしろ人を助ける心優しい鬼でした」

(どっかで聞いたことあるな……確か泣いた赤鬼だっけ……)

 

どうやらあげはは別の昔話の要素を入れてこの鬼の事を説明する気のようだ。

 

「える太郎の話を聞いた鬼は、える太郎達に力を貸してあげようと決意し、一緒に鬼ヶ島へと同行することにしました」

「える!」

「える太朗たちは旅をしながら少しずつ、お互いの事を知っていき、仲良くなっていきました」

 

嬉しそうなエルの声を聞きながら続きを語っていくあげは。そんなエルの反応から、旅の人数が足りないことを気にしていたのだとましろ達も気付く。

 

「エルちゃん、お供に私たちのことを重ねていたのかもしれないね」

「じゃあ……ヤクモさんがいなかったのを気にしてたんでしょうか」

「でも鬼でいいんですか?確か桃太郎のお話だと……」

「エルちゃんが喜んでるならいいんじゃないかな?」

「そして、える太朗たちはついに鬼ヶ島が見える港に辿り着きました」

 

鬼ヶ島に着いたのを合図として背景代わりの垂れ幕を剥がす。すると青空の幕の下にあった鬼ヶ島の幕が姿を見せる。

 

「鬼ヶ島には村を襲い、あげは姫を攫った鬼が住んでいます。える太朗たちは船を使い、島へと向かいました」

「……」

 

あげはの話を聞きながら、ふとソラの表情が暗くなる。これはあくまで創作。しかし、村を襲い、大切なものを奪った存在というのは、

 

「シャララ隊長……」

「「……」」

 

今の自分達に当てはまっていた。鬼のような存在、ランボーグ。そして鬼ヶ島は、アンダーグ帝国。そんなソラの連想が、他の皆にも伝わっていき、人形を上げる腕も動きが止まってしまう。

 

「皆……」

 

ソラ達が落ち込んでしまった様子を見て、あげはも一旦話を止めてしまう。と、

 

「ひっぐ……うわあああん!」

 

エルも泣き出してしまった。その声を聞き、慌てて垂れ幕の横から4人が出てきてエルの前に集まる。

 

「ど、どうしたのエルちゃん!」

「な、何か怖いことでも……」

「大丈夫だよ、大丈夫……不安な気持ちって不思議と伝染しちゃうんだよね……」

 

エルを抱きしめて優しく宥めてあげるあげは。ソラ達の抱いている不安が、エルにも伝わってしまったようだ。

 

「ごめんね、エルちゃん……」

「笑顔になってもらおうと思ったのに……」

「自分の心を抑えきれず……未熟でした……」

「……大丈夫だよ」

「ヤクモさん……」

 

不安な気持ちは痛いほどわかるし、ヤクモだってそれは持っている。しかし、この場にいる面々の中では、まだ希望的な感情を持っていた。

 

「昨日と今日は違うんだ」

「うん、それにほら。える太朗なら大丈夫だよ」

 

あげはがエルにえる太朗を見せる。それを見たエルの涙が止まり、安らかな表情が浮かぶ。不安が伝染するなら、嬉しさもまた伝染する。エルのその表情は、ソラ達の不安の感情を取り除いてくれた。

 

「それじゃあ、鬼ヶ島へ向かいましょう!」

「はい!」

「「うん」」

「える!」

 

ソラの声に気を取り直すように、ヤクモ達は人形劇を再開するため、舞台へと戻っていくのだった。

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