「おっはよー!ヤクモ!」
「おはよう、あさひ」
ヤクモ達にとっては衝撃の連続となったゴールデンウィークが明ける。再び学校でクラスメイト達と再会したヤクモ達はそれぞれわいわいと休み明けの話をしていた。
「ゴールデンウィーク何してた?」
「まぁ色々とね……」
「色々ってなんだよ~」
呑気に楽しそうに笑うあさひを見て、ヤクモも苦笑する。休みが明けてもこいつはあんまり変わらないなと。まあこの短期間で変わっていくクラスメイトがそういてたまるかというところもあるが。
「全く、変わらないわね……安心するわ」
「ましろん、ソラちゃん、おはよう」
「おはよう」
「おはようございます!」
その光景を見ていたソラとましろも教室に入ってきたるいとつむぎと挨拶を交わす。どんどん見知った顔がクラスに入ってくるのを見ると、休みが明けたのだという実感が湧いてくるものである。と、ふと教室を見渡していたヤクモが再びあさひに視線を戻すと、あさひはスマホを動かしていた。
「あ、そうそうヤクモ、お前このゴールンウィーク中にさぁ、プリキュアの話って聞いた?」
「え?」
そういうのを振られると、相手が知らないのは当然わかってはいても内心驚いてしまう。ソラとましろも顔には出さないが同じ感じだろう。いや、ソラの場合はあからさまにびくついていた気がしたが、一旦それは置いといて。
「いや……俺は知らないけどなんかあったの?」
「このゴールデンウィーク中さ、例の怪物もプリキュアも出てなかったからさー……ちょっとした噂になったんだよね」
「そうなの?」
確かにゴールデンウィーク中のプリキュアの戦いはスカイランドに移行していたため、ソラシド市の皆が知らないのも当然といえば当然なのだが、その状況で新たな噂が立つとはどういうことなのか。ヤクモが意味がわからず首を傾げていると、
「それなら俺も聞いたぜ、プリキュアはホワイト企業とかなんとか」
「何それ」
「そうそう、長期休暇中怪物もプリキュアも出ないのはどっちも休みだからとか」
「えぇ……」
2人の話に入ってきた他の男子の発言を聞いて、別に俺達仕事でプリキュアをやってるわけじゃないんだがなぁと声に出さずにぼやくヤクモ。本当に何事もなく休みだったらよかったのに、なんて現実逃避の思考が浮かんでくるが、何となくその雰囲気を周りで見てたましろとソラも感じ取ったのか苦笑している。
「でも、最終日にまた出てきたんだよなープリキュア」
「そうそう、あの公園に出たらしいぜ」
「一時期静かだったのになぁ」
そんな男子たちの会話は最終日のランボーグとの戦闘の話へと移り変わっていく。
「そういやあの怪物……ランボーグとか言ったけど、それ呼んでる奴いただろ?」
「ああなんかカバみたいなモヒカン」
「別のほっそい奴が出してたって話」
「マジ?」
既にランボーグを呼び出したのがカバトンではなくバッタモンダーだという話も広まっているようだ。言葉の全てを鵜呑みにするつもりはないが先日の戦闘におけるバッタモンダーの発言が事実だと受け止めてよいのであればスカイランドでの戦いによってその標的を街やエルではなくプリキュアに定めたと言えるが。
「「……」」
こうして皆の話題に出てくるのを見ると、一旦は終わった戦いが再び始まってしまったということを嫌でも感じさせる。ソラとましろは不安げに顔を見合わせながらホームルームのチャイムを耳にするのだった。
★
「すっかり広まってたね……」
「そうですね……」
昼休み、屋上で休んでいる3人の話題は、既に学校中に広まっていたプリキュアの新たな戦いのことだった。戦ってるときは3人とも夢中であり、それがどれだけの反響なのかは今日初めて知ったようなものだったが、
「でも、プリキュアの話をされるとやっぱり心臓に悪いな……」
学校に来たということは、プリキュアの話題に肝を冷やすこともまた訪れるということだ。この感覚も随分と久しぶりな気がして、学校に戻ってきたという感じがする。こんなことで感じるのもどうかとは思うのだが。
「そうだね……わざわざ私たちがプリキュアだっていう気もないんけど、スカイランドに行っていたときは隠す必要もなかったから」
「なんかむずむずします……」
ヤクモとましろはわざわざそのことを自分から言いふらすというようなこともしていなかったが、無理に隠す必要もないため、プリキュアの話題を振られてもそこまで精神的に悪いということもなかった。それどころかソラに至っては青の護衛隊という立場もあってかランボーグと戦う戦士としてプリキュアであるというステータスを期待され、公にされていた部分もある。そんなスカイランドの環境から一転してヒーローの正体を人々から隠さなければならないソラシド市の環境は短い間とはいえ青の護衛隊に所属していたソラからすれば大きな差があるのだろう。
「しょうがないよ。プリキュアの正体がばれたら色々大変だし」
「うん……スカイランドと違ってSNSとかもあるし……噂が広まるのは一瞬だよ」
「噂が広まるのは一瞬……確かにそうですね……」
2人が言うならばと納得するソラ。スカイランドではランボーグの一件は国の一大事とあって翌日には既に広まってたが、バッタモンダーの人相が広まるのは数日かかっていた。しかしこちらではたった一日でバッタモンダーの容姿も含め既に拡散されている始末であり、その情報伝播の速さにはソラも戸惑うばかりだ。インターネットは怖いなぁと呟くヤクモに同意するように頷くましろ。
「やっぱり2人だけしか通じない話にはまだまだついていけません……」
「まだこっち来て季節も過ぎてないんだもん、しょうがないよ。それにスカイランドの時は私達もついていけてない側だったし」
「少しずつ覚えていけばいいよ。ソラさんならすぐ覚えられるからさ」
「はい……」
世界が変われば常識も変わる。今まではソラだけが実感していた話だったのだが、これでヤクモとましろも体験したことになる。これでお互い、もっと親睦を深めることができるだろう。
「……でも、もう会えないと思ってた皆ともまた会えました。そのことは嬉しいです……本当に嬉しがっていいのかわかりませんが……」
「……そっか、そうだね……」
元々、ソラはスカイランドに戻ったらもうソラシド市に戻らないつもりだったのだ。つまり、クラスメイトや学友たちとも本来はもう会えないと彼女も考えていた。しかし、事態は大きく変わり、活動の拠点をこちらに再び戻さざるを得なくなった結果、もう会えないと思っていた皆とまた会えた。それ自体が嬉しいのはもちろんだ。だが、そもそもこちらの世界に戻った理由が理由なのだ。素直に喜んでいいかどうか迷ってしまうのも無理もない。
「どっちもでいいんじゃないかな」
「え?どっちもって……」
「王様達の事は王様達の事。でも、また友達と会えたことは嬉しい、でいいと思うよ。それの方があさひ達も喜ぶんじゃないかな」
「……そうですね。ヤクモさんにそう言ってもらえると、本当にそんな気がします」
ヤクモの言葉にソラも笑いかける。そんなソラの顔に少し照れるように頬を掻きながら目を少し逸らすヤクモ。
「いや、えーと……そこまで受け取ってもらわなくても……」
「あはは、照れちゃって」
「う……」
ましろのからかうような言葉に余計に目を逸らすヤクモ。その姿が普段とは違い、少し可愛く見えたのだろう、ましろとソラは互いに顔を見合わせると思わず笑ってしまう。
「……えーと、なんか変なこと言っちゃったかな……」
「そんなことないよ」
「はい!そんなことありませんよ!」
特にボケたりしていたつもりはないのだが、何が2人のツボに入ったのかと首を傾げ始めてしまうヤクモ。それを見てそういうことではないのだと首を横に振るましろ。
「ならいいんだけど……」
会話に一旦間が空いたところで昼休みが終わるまで後どれくらいかと時計を確認しようとしていると、空を飛んでいる鳥たちが目に入る。ツバサ曰く、もしランボーグが現れたら鳥たちが真っ先に伝えてくれることになっていると言っていた。ソラシド市の鳥たちのネットワークは思ったよりも広範囲に自由に広がっているようで、ツバサも太鼓判を押すほどのものだという。
「あ、鳥さんたちですね」
そういった背景もあってか、鳥たちも3人に対しては野生動物ながらフレンドリーな所があるらしく、普通に屋上に小鳥たちが降りてきて休んでいたりしている。3人がいてもいなくても変わらないのかもしれないが、そう思った方が嬉しいのでヤクモはそう受け取っておくことにする。
「本当だ。でも……いつの間にツバサ君がこんな事をしてたなんて知らなかったからびっくりしちゃったよね」
「あはは……そうですね。でも……私がエルちゃんをツバサ君とヨヨさんに任せて学校に通えるのも、鳥さんたちのおかげですね」
目の前で休む鳥たちに感謝するソラ。彼らが連絡役を担い、他のプリキュアに伝えてくれる。そのおかげもあって、ソラはこうしてましろの家にエルを置いて学校に通うことができていると言ってもいい。ヨヨも、ずっと気を張り詰めているよりも学校生活を送ってこちらの世界の日常を送ってもらった方がソラの精神的にも良いと思っているのだろう。
「しかしいつバッタモンダーが現れ、ランボーグが出てくるかわかりません!常に気を付けていないと……そう!こちらの世界でこういう言葉がありました!そうざいせんじょうという言葉が!」
「惣菜?」
「洗浄?」
だがやはり、エルを守るため、王様達を救うためにいつ戦いが起こってもいいという心構えが必要なのだ。ソラはその心意気を示そうとしていることだが、全然聞いたことのない言葉にヤクモとましろの頭が固まる。スカイランドの言葉であればそういうものかと納得もするのだが、ソラはこの世界の言葉と言っていた。
「「……」」
2人で頭を捻る。さすがに言葉のニュアンスは近いものを選択しているはずだ。いや意味合いの方から探してみたらいいか?などと考え込んでいたが、ソラが言わんとしていた言葉が何なのかが浮かびあがる。
「……あー……常在戦場……」
「常在戦場!それだよ!」
ましろが納得したように手をポンと叩く。一方ソラはヤクモとましろの指摘を聞き、
「じょうざいせんじょう……?じょうざいせんじょう、じょうざいせんじょう……常在戦……あ……」
自分が堂々と言い間違いをしていたことに気付き、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてしまう。
「あ、あわわ……私、こんな恥ずかしい間違いを……!!」
「ま、まぁ言い間違いは誰にでもあるし。でもこんな四字熟語も覚えてたんだ……ほとんど聞かないよこれ……」
「くぅ……まだまだ勉強不足、未熟です……!」
慌ててソラのフォローに入るましろ。ソラがこの世界の事を勉強し始めてもまだ長い時間が経っていないのだ。それで日本語の読み書きをほぼ覚え、学校の勉強にもついていけているのだから2人からすれば十分に凄いことなのだが。
「じゃあ皆で勉強会でもやろうっか?」
「!いいですね!ぜひ教えてください!」
「勉強会って……テストいつだっけ?」
「今月末じゃなかった?」
「?」
もうそんな時期か……と遠い目をするヤクモとましろ。別に定期テスト程度、それなりにいつもやっていて悪い点数を取ることはまずありえないのでその点で気にすることはないのだが、やはり学生の身としては定期テストという存在は頭を抱えるに値するものであるというのはいつも変わらないのだ。しかし、2人の言っている言葉が何を示しているのかわからず首を傾げるソラ。
「まあ、その時が来たら教えるよ」
「そろそろチャイムなりそうだし、早いけど教室戻ろうか」
「?はい、じゃあまた後でお願いしますね」
そして、午後の授業に出るために3人は屋上を後にするのだった。
★
「……ふむ」
そこは、前回の戦いの舞台となった公園。ここでバッタモンダーは鬼のオブジェをランボーグへと変えてプリキュアと戦ったのだ。しかし、前回の戦いでふと、思ったことがある。それは、
「この世界には……ランボーグに適した道具がいっぱいある」
ランボーグを生み出すという点で見ればこれ以上ない素材に溢れた世界だということだ。バッタモンダーはプリキュアの手によって浄化され、今は元に戻っている鬼のオブジェを一瞥する。同じ手を使う気はさらさらないが、興味深い事実を知ることはできた。
「これと俺のアンダーグエナジーを組み合わせれば……くくく」
プリキュア達が敗北する未来を思い描き、愉悦に浸るバッタモンダー。と、その思考が一旦中断し、ヤクモの姿が思い出される。バッタモンダーの心を特にイラつかせる2人。そのうちの1人がヤクモであった。
「……決めた。あいつの居場所を奪ってやることにしよう」
不敵な笑みを浮かべるバッタモンダー。プリキュアの心を踏み躙り、屈辱を与える。それによって自分が受けた屈辱を返す。そしてプリキュアを完膚なきまでに叩き潰し、己の力を示す。そのための足掛かりとして、バッタモンダーが選んだのがヤクモであった。
「あいつさえあそこで殺しきれていれば……!」
ギリギリと歯ぎしりをするバッタモンダー。アンダーグ帝国から新たに受けたキュアクラウド抹殺指令。それをこなせていればと思うと悔しさと怒りがとにかく湧いてきて仕方がない。巨大ランボーグを倒すことに全力を出させ、確実な後詰めとして爆弾ランボーグを使用する完璧なプランを台無しにされた挙句、ヤクモ自身は生き延びていた。しかもヤクモは自分らと同じようにアンダーグエナジーを使用することができる存在であり、その時はバッタモンダー自身もアンダーグエナジーを消費しており本調子でなかったとはいえ、敗北を喫したのだ。
「本当にイラっとくるぜ……!」
険しい表情でイライラを隠さずオブジェを蹴りつけるバッタモンダー。プリキュアの呼び出したランボーグに自分のランボーグが倒される、など屈辱の極みだ。その直前に満身創痍のはずのプリキュアに気圧されて逃げ出してしまったことも合わせてとにかくこの2人にはイライラしか湧いてこない。だが、
「……でも、あいつらの友情ごっこだってここまでだ」
だからこそ、できることもある。あの屈辱の出来事は、裏を返せばプリキュアが本来持つはずのないアンダーグエナジーを持っているという矛盾の実在でもあるのだから。
「さて、そうと決まれば……」
今回にぴったりな作戦を考え付き、にやにやと楽しそうに笑いながらバッタモンダーは公園に背を向けるのだった。
★
「ソラちゃん、ヤクモ君、帰ろうっか」
「はい!」
「わかった」
放課後のチャイムが鳴り、生徒達が部活に出たり家に帰宅する中、ましろ達は帰宅を選んでいた。学校にいる間、特に何事も起こらなかったため、ツバサの方は大丈夫だとは思うが、こういう状況だ。2人はヤクモも連れて少し急いで家に戻った方がいいと考えていたようだ。
「ほんと仲いいよなぁお前ら。じゃあなーヤクモ」
「うん、じゃあね」
まだ教室に残っていたクラスメイトに挨拶をしてヤクモも2人と一緒に学校を出ようとしたその時だった。
「……ん?」
ヤクモ達の元に鳥たちが飛んできたのだ。何かを訴えるように鳴いている鳥たちの姿を見たヤクモ達は、言葉がわからずとも彼らがある事態を告げているのだと気付く。
「まさか、バッタモンダーが!」
「急ごう!」
3人は頷き合うと、鳥たちに案内されてバッタモンダーがいるであろう場所へと向かう。その途中で、同じく鳥たちから情報を受け取ったであろうツバサと合流する。
「!皆さん!」
「ツバサ君!じゃあやっぱり!」
「ええ、鳥たちがバッタモンダーを見つけたようなんです!」
ヤクモ達の推測道理だったようだ。ツバサも合流したことで鳥たちからの詳細な情報を受け取り、バッタモンダーがいるという場所に向かって走る4人。その場所は河川敷であり、バッタモンダーはあるものの前に立っていた。
「……おや?」
4人の足音が聞こえたのか、バッタモンダーがこちらを振り向く。そしてヤクモ達を見たバッタモンダーが待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべる。
「よく来てくれたね。探す手間が省けたよ」
「バッタモンダー!」
「こんなところで何をしているの!!」
ヤクモを見るバッタモンダー。その不敵な笑みは作戦を企てていると言っているようなものだった。今度は一体何を企んでいるのかと警戒の視線を向けている中、バッタモンダーの手にアンダーグエナジーが集まる。その標的となったのは、河川敷に放置されていた熊の人形。しかしその熊の人形には左腕がなかったり耳が千切れていたりとかなりボロボロであり、完全にゴミとして捨てられてしまったものといえる。
「カモン!アンダーグエナジー!!」
「ランボーグ!!」
アンダーグエナジーを注がれた人形がランボーグとなって実体化する。顔は熊のものからランボーグの顔へと変わり、存在しない左腕や耳はアンダーグエナジーの靄がある程度の形となるような形で出現しており、他にもほつれや破けた部分などからアンダーグエナジーが瘴気のように漏れ出ている。
「うわ!?」
「く……!」
恐怖を煽ってくるおぞましい姿となったランボーグを見て、ましろとソラも表情を強張らせる。しかし、敵がランボーグだとわかっているのなら見た目に怖気づくわけにはいかない。勇んでミラージュペンを取り出したヤクモとツバサに続くように2人もミラージュペンを手に取る。
「ヒーローの出番です!!」
ソラの言葉と共に4人がプリキュアに変身、そしてランボーグとの戦闘を開始するのだった。