「……さて、今日から体育祭の練習が始まるわけだが……」
季節も夏に近づき、ソラシド学園にも体育祭の時期が迫ってきていた。一つの節目となる学校行事に3人も楽しみにしながら、黒板に次々と書かれていく競技名を見ていく。特にソラはこの世界の体育祭は初めてで、知らない競技などもたくさんあるのだろう。特に目を輝かせてわくわくしている様子であり、それを見たヤクモとましろも頬が緩む。
「まずは……選抜リレーの代表から決めたいと思う」
一番最初に書いた競技名は選抜リレー。他の学校はどうかわからないが、確かこの学園での選抜リレーは最後に行われる、体育祭の締めを飾る大事な競技だったはずだとヤクモは思い出す。1つのクラスから選出されるのは男女2人ずつであり、この競技に限らないが基本的に希望者がその競技に出場するというやり方を取っていた。誰も希望者がいない時だけ、リレーなら足が速い人、といった感じで推薦などを受ける、みたいな感じになっていたなと去年のことを振り返っていると、まずは男子の方からの選出が始まる。
「リレーに出たい奴はいるかー?」
「お前陸上だろ、どうだ?」
「実はちょっと足捻っててさ……体育祭来週?間に合うかな……」
こういうのはやはり陸上部に所属している人などが出るものだろう。そう皆思ってたみたいだが、このクラスにいる陸上部の男子が立候補すると思っていたようだが、返ってきたのはまさかの負傷で厳しいという事実だった。これは仕方ないとなるが、では誰が出るのかとクラスが考えたところで、その少年がヤクモを見る。
「あ、じゃあ嵐堂君出てよ」
「ん?俺でいいのか?」
「いいよいいよ、他に人いなさそうだし」
妙案と言わんばかりにヤクモに代理を依頼する少年。頼まれれば断る理由はないのだが、本人はともかく周りはそれでいいのかと聞き返すヤクモ。しかし、周りとしてもヤクモが出てくることはむしろ大歓迎といった様子で、
「ヤクモ君なら私はいいと思う」
「この前のスポーツテストの時、凄く速かったよね?去年より伸びてた気がする!」
「あーそうそう!なんか体力も元々あったけど最近すげーあるし、結構いいんじゃね?」
「やっぱこういうピンチヒッターにはヤクモが適任だよなぁ」
「わかるわかる」
お前がトリを飾れと言わんばかりに盛り上がり始める。当然その中にはソラとましろの姿もあり、
「私もいいと思うよ、ヤクモ君ならきっとぴったりだよ」
「はい!リレー?に皆さんが出た方がいいと言っているのならきっとヤクモさんが相応しいんだと思います!」
「そ、そう」
ソラのリレーの発言に対する言い方からどういう競技か理解してないことに気付き、苦笑しながらもヤクモも皆の発言を受け止める。皆から反対がないのならばと、
「わかりました、俺が出ます」
「よし、1人目は嵐堂だな。じゃあ他は……嵐堂誰かいるかい?」
「いえ……俺からは特には」
「そうか、じゃあ誰かー……」
ヤクモの承諾の発言を聞いて黒板に名前が書かれる。選ばれたのだからヤクモに2人目も選んでもらおうかとしたようだが、ヤクモとしても心当たりがない。クラスメイト達も、ヤクモと陸上をやっていた男子の2人の予定でも立てていたのか、もう1人はどうするか中々決まらない。もう一人の男子の出場者についてあれでもないこれでもないと話が盛り上がり始める中、ソラは気になっていたことを聞こうと席から体を少し乗り出してヤクモの腕をつつく。
「?ソラさん?」
「ヤクモさん……その、聞いてもいいでしょうか?」
小声で質問してくるソラに頷くヤクモ。クラスは騒がしく議論が続いており、ソラの小声に関心を寄せる者はいない。そんな中、ソラから来る質問は何なのかと考えて、先ほどのソラの発言を思い出す。
「リレーのこと?」
「!は、はい……どういうものなのか私、知らなくて……」
どうやら図星だったようだが、自分の考えていたことがヤクモに伝わったのかちょっと嬉しそうになるソラ。そんなソラの姿を見ていると自分も嬉しくなってくるが、同時にやっぱりわからなかったかと納得し、リレーについて説明を始める。
「そっか……といってもそこまで難しいものじゃないよ」
複雑な競技ではないとヤクモに教えられ、ソラも少しほっとする。内容は以前ソラがスポーツテストでやった100メートル走をちょっと派生させただけで、距離が伸び、さらにバトンを次の走者に渡していき、全員がバトンを受け取って最後まで走り、一番最初に全員が走ったチームが一番となる。実際は駆け引きとかあるのかもしれないが、学生レベル、それもマラソンとかの長距離と比べればそんな細かいところなど必要もないだろうと考えてあんまり難しく考えてしまいそうなことは口にせず、とりあえず走ってバトンを次の人に渡すが最後の人はゴールするだけ、とだけ伝えておく。
「……つまりラルーってことですか?」
「「ラルー?」」
聞いたことのない言葉に首を傾げる2人。だが、ソラの口ぶりからすればおそらくこちらでいうリレーがスカイランドではラルーという名称なのだろう。そういうことなら名前が違うだけで問題はなさそうだ。
「ま、まぁラルーはともかく……ソラちゃんならリレーで大活躍間違いなしだよ」
「本当ですか?」
「ソラさんならリレー以外でも活躍できると思うけど……他のを見てからでもいいと思うけど……これは似たようなのが他にもありそう……」
「あー……確かに」
リレーの話を真剣に聞いているソラにリレーに出てみたらと伝えるましろ。ソラがリレーに興味を持っている素振りから見てそう言ったのだろうが、リレーに興味があるのは知らなかったからというのも大きい。そういう意味では他の競技もそうかもしれないのではないかというヤクモの言葉にましろも納得する。尤も、ヤクモの言うようにスカイランドでは別の名前で伝わってるだけで同じ競技になっていたりしそうではあるが。
「では、他はどういうのがあるんですか?」
「選抜競技だと確か……」
全員参加の競技は一旦置いといて選抜式のものだけ軽く説明する。と、そんなことをしている間に男子の方はリレーの選抜が終わり、女子の方に入っていったようであり、一旦会話を止めてヤクモ達は黒板を見る。
「じゃあ、次は女子の選抜だな。やりたい人か推薦したい人はいるか?」
そういえばこのクラスには女子は陸上いなかったなとぼんやり考える。そのせいもあってか、女子の中では自分からという勇気ある人物はいないようで、それを一通り見たあさひが満を持してと言わんばかりに1人推薦を出すことにする。
「はーい!ソラ・ハレワタールさんがいいと思いまーす!」
「え?」
賛成の声が上がる。まさか自分が推薦されるとは思わず、驚くソラ。しかしヤクモの時と同様クラスメイトたちからはそれに対して満場一致の賛成の声を上げる。
「私が……リレーに……」
「やってくれるか?ハレワタールさん」
「!はい!選ばれたからには一生懸命頑張ります!!」
皆の声援を受け、その期待には応えなければと籍から立ち上がり、意気込むようにぐっと手を握るソラ。その頼もしい姿に拍手が飛び交う。
「じゃあもう1人は……ハレワタールさん、誰か推薦したい人はいるかな?」
「他……ですか……」
そう言われ、考え込むソラ。リレーに出る女子は自分だけではないのだ。ここで自分が誰かを推薦しなくても男子の時のようにクラスメイト達での話し合いで決まるだろう。しかし、もし自分の要望が通るのならばと、ちらとヤクモを見る。今回のリレー、自分とヤクモが出るならば、自分の相方は決まっている。
「じゃあ……1つお願いがあるんです。私、ましろさんとリレー出たいです!」
「……???」
さも当然のように言うソラ。しかし、当のましろは完全に固まってしまう。この2人ならまぁリレーに出てもおかしくないだろうなぁと呑気に構えていたのだろう。天地がひっくり返っても自分がリレーに推薦されるとは思っておらず、思考が完全にフリーズしてしまったのだ。
「……ソラちゃん?今なんて?」
「はい!ましろさんとリレーに出たいです!ましろさんにバトンを渡してもらいたいんです!」
「……えええええええ!?」
はっきりと、それが聞き間違いではなかったことを認識してしまったましろから驚きの声があがる。
「ちょっ、ちょちょ待ってよソラちゃん!?足速い人他にもいっぱいいるよ!?ねぇヤクモ君もそう思うでしょ!?」
「え?まぁ……いやでも……ソラさんが推薦してるわけだし……」
確かに運動でましろより動ける人はいるかもしれない。しかし、とヤクモは考える。例えば自分の場合、プリキュアになった影響もあって変身していない時も体力や身体能力は以前より鍛えられた感じがある。それはましろだって一緒のはずではないだろうかと。
「なんか理由はあるかもだけど……でも……運動神経は去年よりよくなってるんじゃないの?」
「それは……そうだけど……否定はしないけど……!」
「そういえば体育の時のましろん、前より足速くなってる気がする」
「確かに」
「え!?」
るいとつむぎもヤクモに同意の意見を出し、どうにか辞退しようとするましろの逃げ道を塞ぐ。既にクラスメイト達はましろの身体能力が以前よりは上がっていることを知っているのだ。ましろだってプリキュアになって体を動かす機会が増えたのだからその分の恩恵はないとはいわないが、ヤクモほど顕著に生身の状態でそれが出てきているとはとても思っていない。
「いいですかましろさん!ラ……リレーで大事なのは、バトンパスですよ!」
ましろにそれだけ出てほしいのか、黒板まで歩いてでかでかとバトンパスと書き込んで熱くましろに語り掛けるソラ。
「足の速さもありますが、バトンを渡すのに手間取ってしまったり、もし落としたりしてしまえば勝利から大きく遠のいてしまいます!なので勝つためにも、私にバトンを渡す役目をましろさんにやってほしいんです」
「ひゅっ……」
言ってることは筋が通っている。通ってしまっている。冷や汗を流しながら掠れた声を漏らすましろ。既に助けを求めたヤクモは味方になってくれない。他のクラスメイトも完全にそのムードだ。もう逃げ場がどこにも残っていないと薄々彼女も感づき始めていた。
「うぅ……」
「確かに、ソラちゃんといえばヤクモ君かましろちゃんだよね」
「じゃ、じゃあヤクモ君からバトンもらえば……」
「男子と女子は別で走るんだから無理じゃない?」
「……」
そうであった。ヤクモがソラにバトンを渡すのは不可能といっていい。となると、やはりましろに白羽の矢が立つわけで。
「どうする?」
「え、えっと……」
ましろがソラを見る。互いに目が合ったソラは、ましろににこりと笑いかける。そのソラの顔を見て、皆で一緒にやりたいんだというソラの気持ちに気付くましろ。確かに自分の能力については思うところはあるが、クラスメイト達も賛成しているし、何よりソラの推薦なのだ。無下にしたくないという思いもあり、ましろも席を立つと、
「やってみます!」
そう宣言するのだった。
★
「へぇ!ましろんがリレー選手に!?」
その日の放課後。一旦帰宅して私服に着替え直しプリティホリックのカフェに集まったヤクモ達は、途中で合流してきたツバサやあげはと共に、体育祭の話をしていた。美味しそうにミルクを自分で飲むエルを抱きながら、驚き半分嬉しさ半分でましろに言うあげは。
「凄いじゃないですか!ラルー……じゃなくてリレーの選手に選ばれるなんて」
「選ばれるだなんて……ソラちゃんの推薦でだよ」
いわばクラスの代表に選出されたのだ。こういう風に言われると気分は悪くない。
「絶対応援にいくからね」
「えるぅい」
自分も応援すると言うかのように声を上げるエルに皆笑う。友達の晴れ舞台なのだから、全力で応援しなければ。そう決めたあげはだったが、ここでふとあることを思い出す。
「……そういえばましろんって走るの得意だっけ……?ソラちゃんやヤクモ君は問題なさそうだけど……手紙にも運動会嫌だって書いてなかった?」
「うん……」
ましろは運動がそこまで得意ではないということ。あげはがこちらに戻ってくるまでやっていた文通でも運動会といったイベントに対して苦手意識をましろは持っていたようだ。とはいえ、ましろが苦手にしてたのは体育祭や運動会といったイベントではなく、体を動かすことの方だったようだが。
「だから、もっと速い人がいいよって言ったんだけど……でも、ソラちゃんに推薦されたし他の皆もいいよって言ってくれたからさ、そこまで言ってもらえるならって」
「ましろさん!」
「えへへ……」
「まーしーろー」
気恥しそうに照れながら頬を掻くましろ。そんなましろに偉い偉いとエルが手を伸ばしたのを見て、あげはが机を挟んでエルをましろの方へと近づける。ましろの方もエルのやりたいことに気付いて頭を近づけ、彼女に頭を撫でさせれる。
「ありがとう、エルちゃん」
「あい!」
ましろのお礼にエルも喜ぶ。そんなエルの姿を微笑ましく見ながら、ツバサはヤクモに話しかける。
「そういえば……そのリレーって、練習とかしないんですか?」
「練習か……どうする?」
「あ、そうそう」
体育祭なのだから当日に出たとこ勝負でもいいような気がする。ヤクモはそうぼんやり考えていたがましろはそうではないようだ。
「折角だし、ちゃんと走りたいなって思ってね……だからソラちゃん、ヤクモ君、リレーの特訓に付き合ってくれないかな?」
「!もちろんです、やりましょう特訓!!」
「そうだね、そういうことならやろうか」
折角代表として出るのだから不甲斐ない姿は見せられない。一緒に特訓をしてほしいというましろの頼みを当然断る理由もなく、2人とも頷く。
「そういうことなら僕も手伝いますよ」
「えーるぅ!」
「明日から週末だし、ちょうどいいかもね」
そして、特訓の時間や場所などを6人は決めていくのだった。
★
そして翌日。ヤクモ達が訪れたのはランニングコースのある広めの公園だった。彼らの他にもランニングをしたり、また中央に広がっている芝生のスペースではキャッチボールをしたりバトミントンをしていたりと様々なスポーツに勤しむ家族連れなどの姿が見える。
「それじゃあ、リレーの特訓を始めましょうか」
「特訓って……随分本格的にやる気なんだね」
ノートやカメラを持ってきたツバサを見ながらヤクモが少し驚く。
「いやヤクモさんどんなの想像してたんですか」
「どんなのって……普通に走ってバトンパスしてーって感じじゃないの?回数こなしてもたつかないようになればいいんじゃ……」
「そのために準備してきたんですよ。それに、速く走るためにはフォームや姿勢、タイミングも大事です」
そこまでいくと本格的に陸上がやっていそうな内容である。しかし、ここまで用意してくれたのは確かにありがたいサポートだと言えるだろう。これなら、ましろだけでなく自分のフォームの見直しなどもできるかもしれないとぼんやりヤクモは考える。
「まさかここまで用意するなんて……」
「当然です!ましろさんのためですから!」
「あ、はは……」
胸を張って誇らしげに言うソラを見て、苦笑するましろ。
「まあ……とりあえず速く走るとしたらフォームの見直しとか?」
「そうですね、リレーのコツについて調べてきたのでそれを元に実際に走ってみましょう」
「うん!」
実際にそれについてまとめてきたと思われるデータが入っているタブレットを見せながら、ツバサが言う。そして軽く準備体操を終えると、ツバサの指示やソラのアドバイスなどを受けながら徐々にフォームの改善をしていく。そして走り方も改善されていき、速さも見違えてきたところで、今度はバトンパスの練習に入る。
「やっぱりフォームを変えるだけでかなり変わってくるね」
「はい、この感じならましろさんも問題ありませんね」
バトンパスの練習は最初こそヤクモも一通り2人と一緒にやっていたのだが、ヤクモの方は特に問題がなかったため、一足早く抜けてましろからソラへのバトンパスを重点的にやることとなり、ツバサの近くに戻ってきていた。
「まだまだ余裕そうだね」
「多少走った程度だからね、体力的にはまだ余裕あるかな」
「やくも!」
そこにエルを見ていたあげはも近づいてくる。その足元でゆっくりと歩くエルがヤクモの膝に手を歩く。それを見たヤクモは笑うと、エルを抱きあげる。
「あい!」
「エルちゃんもずっと歩いてたんだね」
「うん、ずーっと歩く特訓をやってたよ。じゃ、ちょっとシート敷いてくるからエルちゃんをお願いね」
「わかった」
エルの方もまだまだ体力が有り余っているといった様子でヤクモに抱きかかえられながら嬉しそうに手足を振る。それを見て、あげはは皆が休めるようにとシートを敷き始める。そして4人が座ると、遅れて一区切りついたソラとましろもこちらにやってくる。
「つ、疲れたぁ……」
「走りっぱなしだったからね、はい」
「ありがとう、ヤクモ君……」
芝生の上に敷かれたシートの上に倒れ込むましろにスポーツドリンクを渡すヤクモ。その冷たさが心地いいのかずっと走りっぱなしだったせいで疲れがたまっていたのだろう。そんな彼女に歩み寄ると、エルが頭を撫でてくれた。
「エルちゃん……凄いね、エルちゃんは。たくさん歩いたんだね」
「えるぅ!」
「エルちゃんは体を動かすだけで楽しいんだね」
エルの場合は歩けるようになり、できることが増えたというのが大きいのだろう。そんな彼女の姿を見ているとましろも羨ましいと思う。
「体を動かすだけで楽しい、かぁ。私もそんな時あったのかなぁ……」
「あったあった!ましろんってば私に鬼ごっこの鬼させてずーっと走ってたんだから」
「えぇ……?そんなの覚えてないよぉ……でも、そうなんだ……」
だが、そんなましろにもエルのように体を動かしたくてたまらない、という時期があったようだ。そんな時期があるのなら、今だけはその時のように戻ってみるのも悪くない。そう考えたのか、体を起こすと、
「体育祭まで特訓、頑張るぞ!」
「「「「おー!」」」」
ましろの決意に皆声を合わせて拳を突き上げるのだった。
★
体育祭までの期間、早朝を利用して走りこんだり、タブレットを使って走ってるときの写真などを撮ってそれを元にフォームを改善したり、学校でも体育祭の準備を進めたりと慌ただしい毎日が経過していた。
「……」
月日が経つのは早いものでもう体育祭の前日だった。今日は体育祭の準備のため全校生徒で道具を出したりとやっており、ヤクモもクラスメイトや同級生達から準備の手伝いを頼まれたりしてひたすら走り回っていた。その甲斐もあって舞台の方は整っており、生徒達も満足なものに仕上がったといえる。後は明日の本番に全てを賭けるだけだ。
「ヤクモ、明日体育祭だろ?」
「お母さんたちも応援、行くからね」
「うん、ありがとう」
晩御飯を食べながら、親の言葉にそう返すヤクモ。両親も来るのだから変な姿は見せられない。まあいつも通りやればいいだけだがと呑気に考えながらおかずを口に運んでいく。
「そういえば……ヤッ君、お友達はいつ紹介してくれるの?」
「え?」
「春休みにできた女の子の友達!全然紹介してくれないんだもん、ずっと待ってるのよ?」
「何を言ってるんだよ……」
最近は静まったと思っていたがいきなりそんなことを言われればヤクモも呆れるしかない。
「別に友達だからって親に紹介するようなもんじゃあるまいし……」
「でも異性の友達は大事よ?」
「まぁそうかもだけど……」
「まあ母さんはちょっとそわそわしすぎな所はあるかもしれないが……ヤクモも別に話さない理由はないんじゃないか?ただの友達だろ?別に連れて来いって言ってるわけじゃないし……というかそんなことやらせたら辛いだろお前も……」
助け船を出したのは父、ムラクモだった。異性を家に上げろとは言わないという言葉を聞いてヤクモも内心安心する。この口ぶりは父もそうだったのだろう。
「でも……期待したくなっちゃうわ、ヤッ君だって男の子なんだから、そういう相手がいつかできるでしょう?それに、ヤッ君もその子のことすっごく信頼しているんだもん、会ってみたいって私も思っちゃうわ」
「……まあ、明日になればわかるよ……」
プリキュアという事情はあるのだが、女子との長い関係を築いているのは生まれて初めてだ。母としてもこういうのはやはり関心が強いのだろう。とはいえ、今話そうとしたら変なことも口走ってしまいそうな気がしてしまったので、明日実際に確かめてくれと逃げるように晩御飯を食べ終えて部屋へと逃げていく。
「あらあら、恥ずかしがっちゃって。やっぱり青春してるのね」
「そうだな……」
息子の愛らしい姿に微笑ましい笑みを浮かべる母。その言葉に同意しながら、ヤクモが先程まで座っていた場所を見るムラクモの顔には、静かな喜びが浮かんでいたのだった。