曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第48話 バトン

 

生徒達の親が観客席にシートなどを敷いてわいわいと盛り上がっていく中、ヨヨ達が座るシートの隣に2人の男女が現れる。

 

「ここ、空いてますか」

「ええ、どうぞ」

「「……」」

 

そこに現れた綺麗な女性と、彼女と比べて大きな体格の男。ふわふわした雰囲気、とでもいうのだろうか、優しそうな女性とぱっと見は体格もあって威圧的なようにも見えるが実際はかなり物静かな出で立ちで、それどころか何故か気品のようなものすら見えてしまうような男に、ソラ達の応援に来ていたあげはとツバサは思わずぽかんと見ていた。

 

「今日は随分にぎやかですね」

「ええ、知り合いが応援に来てくれたの」

「そうなんだ」

 

隣にシートを敷かせてもらい、その上に座る男女。ヨヨと随分親し気に話しているが、彼女の知り合いなのだろうか。と、ここであげはは男の方の髪の色などを見て、あることに気付く。

 

「ヨヨさんの知り合いでしょうか?」

「もしかしたら……」

「おばあちゃん!」

「あら、ましろさん、ソラさん、ヤクモさん。まだ大丈夫なの?」

「うん、大丈夫」

 

と、ここでましろ達が皆の元にやってくる。まだ開会式まで時間があるため、先に観客席に行っている皆に挨拶をしようということなのだろう。と、ましろ達と一緒に来ていたヤクモがヨヨ達のシートの隣に座る2人に気付く。女性の方はヤクモに気付くと手を振って笑いかける。

 

「父さんと母さん、ここにいたの」

「「え!?」」

「あーやっぱり……」

「……あ、本当だ!」

 

2人を両親と呼んだヤクモにソラとツバサが驚く。去年の学校行事で見たことがあったことをましろも、2人の姿を改めて見てこの2人やヤクモの両親だったと過去に見た時の事をはっきりと思い出す。

 

「や、ヤクモさんのお父さんとお母さん!?」

「初めまして、ヤクモがお世話になってるよ」

「は、初めまして!」

 

ヤクモの両親の言葉に背筋をピンと張って緊張しながら答えるソラ。そこまで気を張る必要はないんだけどなと内心苦笑しながらましろがソラを見る。

 

「緊張しなくても大丈夫、あなた達がヤッ君のお友達ね」

「「「「ヤッ君!?」」」」

 

母からの言葉に4人が驚く。ヤクモは母から家でそんな呼び方をされているのかと。とてもそんな可愛らしい呼び方のイメージがなく、4人は顔を見合わせてしまう。

 

「ヤッ君、だって……」

「ヤッ君、ですか……」

「連呼するのやめてあげましょうよ」

「でも、可愛くない?」

 

どう反応すればいいのかわからないソラとましろ。ツバサはその呼び方はしないであげた方がいいんじゃないかとヤクモを気遣うも、あげははどこか乗り気である。

 

「あら、どうしちゃったのかしら?」

「そりゃ皆俺が母さんにどう呼ばれてるかなんて知らなかったし」

「私達もヤッ君ってこれから呼んでいい?」

「ちょっとあげはさん!」

 

そのままヤクモにそんなことを提案するあげは。ツバサがそれはどうかとあげはを止めようとするも、ヤクモは少しだけ首を傾げるも、別に呼ばれて減るものもないだろうとあげはの提案を受けようとする。

 

「まあ……別にそれでもいいけど……」

「えぇ!?いいんですか!?恥ずかしいでしょう!?」

「いや別に……」

「そう?……でもさ、やめておこうかな。家族からの特別な呼び方でしょ?」

「?まぁそう……なるのかな?」

 

だが、ここであげはの理性も働いたのだろうか、それとも単純に今からヤッ君だとあげはからしても違和感が出てしまうからなのか、呼び方は変えないようだった。

 

「……あ、そういえば私達の自己紹介がまだだったわ。私は嵐堂あかりって言うの、よろしくね」

「嵐堂ムラクモだ」

 

両親の名前を知るソラ達。彼女たちの方も自己紹介をしたところで、ふとヤクモが時計を確認する。

 

「あ、やばいな……ソラさん、ましろさん、そろそろ戻った方が」

「そうか、思いっきり頑張ってこいよヤクモ」

「わかってるよ、じゃ行ってくるね」

「じゃあねおばあちゃん、また後で」

「行ってきます!」

 

そろそろ皆の元に戻らないといけない時間だ。3人が生徒達の方へと移動している中、ムラクモはあげはが抱えているエルの視線に気付く。

 

「ん?」

「あら、可愛い赤ちゃん」

「ちょっと訳があって知り合いの子を預かってるの。エルって言うのよ」

「そうなんだぁ、よろしくねエルちゃん」

「えるぅ!」

 

可愛らしいエルの仕草を見て、頬がにやけてしまうあかり。だが、エルが関心を寄せているのはあかりよりもムラクモのようであり、ムラクモの方もそんなエルの視線を無下にはできないのかじっと彼女を見ている。

 

「ヤクモさんのお父さん、随分気に入られちゃってますね」

「うーむ……背中が痒くなるな……」

 

どことなくむず痒い。少し困惑しながらエルの視線を受け止めるムラクモ。しかし、エルがここまで関心を寄せるとは少々意外だなとツバサも考える。やはりヤクモの両親というのもあるのだろうか。

 

「ふふ、あなたからはどう見える?ムラクモさん」

「どう、と言われてもな……」

 

言うべきか言わないべきか。それを悩んでいるようだが、少し考えて、この程度なら問題ないとでも考えたもだろうか。自分を見て笑うエルの顔を覗き込むと、

 

「……面影はあるな」

「そう」

「面影?」

 

面影がある。その言葉が引っかかるあげはだったが、赤ん坊だってこの世界には何人もいるのだ。おそらくその中にいる彼の知り合いと重なったのだろうと適当に結論付けながら、体育祭の開幕を告げるチャイムを聞くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

体育祭は白熱した展開となっていた。だが、ヤクモ達の所属している赤軍は点数を稼げておらず、ここから逆転するには最後の選抜リレーに勝つしかないという展開になっていた。それが明らかとなってから赤軍の生徒達の盛り上がりと期待はかなり高くなっており、最後の競技が始まるその瞬間を今か今かと待っていた。

 

「よっしゃー!」

「やったぜ!」

 

そして男子の選抜リレーが終わる。ヤクモの出場する競技ということもあり、ソラとましろも一際集中してそれを見ている。そして、トリを務めたヤクモが他の走者を抜いて逆転勝利を収めるという熱い展開を見せつけ、遂に赤軍の逆転勝利が現実的なものとなる。

 

「……ふぅ、いよいよだ」

 

スタート地点で待つ間、緊張して仕方ないといった様子のましろ。対してソラは楽しみといった様子で、緊張して堅くなってるましろの肩に手を置く。

 

「リラックスですよ、ましろさん」

「ソラちゃんはいつもと変わらないね」

「ヤクモさんも頑張ってくれましたから。それに……ましろさんを信じてますから」

「え……」

 

いつも通りにしているソラの姿に苦笑しながらも頼もしさを感じていたましろだったが、突然のソラからの言葉に驚く。

 

「ましろさんから最高のバトンを渡してくれるって」

「……あはは……もっと緊張しちゃうよ」

「大丈夫ですよ!」

 

嬉しくなりながらも、少し恥ずかしそうに言うましろの肩を掴んで揺らすソラ。ソラにされるがまま、嬉しそうにそれを受け入れていたましろだったが、選手入場のアナウンスが聞こえてきたことで他の皆と一緒に所定の位置につく。

 

「よーい……」

 

勢いよくピストルの音が鳴り、選手たちが走り出す。生徒だけでなく、観客たちの応援の声も聞こえてくる中、順番はついにましろに回ってくる。

 

「……!」

 

前の走者からのバトンパスは完璧。そのまま全力で走るましろの姿を息を呑んで見守るヤクモ。ここまで頑張って特訓してきたのだ。きっと、成果を出してくれるはずだと。しかし、それは次の走者であるソラへとバトンを渡す直前に起こった。

 

「あ……」

「!?」

 

ましろの足がもつれ、転んでしまったのだ。一瞬ざわつく生徒達。しかし、転んだましろはすぐさま立ち上がると、必死にソラにバトンを渡そうとする。それを見たソラはましろからのバトンを決して無駄にしないと、バトンを受け取ると同時に声を張り上げ、全力で走り出す。アクシデントによって最下位からのスタートになってしまったが、持ち前の身体能力によってどんどん他の選手を抜いていき、遂に逆転勝利を収めるソラ。

 

「おおー!!」

「すげぇぜヒーローガール!!」

「俺達の勝ちだー!」

 

これには皆も満足そうだが、そんな中ヤクモの視線は座り込んでいたましろに向けられていた。こちらから見ればましろが転んだのは一瞬であり、すぐに立ち直ってソラにバトンを繋いだように見えていたが、今日までずっと練習してきたのにミスをしてしまったましろの心中は穏やかじゃないはずだ。それを察したのか、ソラもましろへと駆け寄る。

 

「ましろさん……勝ちましたよ」

「うん……やっぱりソラちゃんは凄いよ。目にも止まらなぬ速さっていうか……ほんと……びゅーんって」

 

ましろを元気づけようと、勝ったことを報告するソラ、ましろも、それを喜んではいるものの、声はどこか上ずっている。必死に彼女も抑えようとしていたようだが、それでも耐えきれなかったのか、悲しそうな表情になってしまう。

 

「あ……」

 

何か声をかけなければ。ソラが何か言おうとするも言葉が出てこない間にましろは、今の顔をソラに見られたくないと思ったのか背を向けて走り去ってしまう。

 

「ましろさん……」

「ソラさん、ましろさんは……」

「ヤクモさん……」

 

かける言葉が出てこなかったのもあり、ソラに任せて静観しようとしていたが、ましろが走り去ったのを見て思わずヤクモもソラに駆け寄ってくる。ソラも不安そうな顔でヤクモを見ており、どうすればよかったのかと言いたげな様子だ。

 

「ましろさん……悲しそうでした……私、どうしたらよかったんでしょうか……」

「……わからないけど……転んだことが結構堪えていたのかな……」

「そうかもしれません……」

 

心当たりはそれしかない。しかし、どう声をかけてあげるのが正解なのかソラにはわからなかった。ヤクモもそれは同様だ。だが、友達として今のましろを放っておくわけにはいかないことだけは確かだ。

 

「今のましろさんを放ってはいけないよ」

「はい!」

 

その通りだと頷くと、ソラとヤクモはましろを追う。ましろが消えた先には確か校舎裏の水道があったはずだと思い出し、転んだのなら砂とかを流しに行った可能性があると考える。

 

「ましろさん!」

「!」

 

2人がそこに向かうと、そこにはましろがいた。頭から水を被っており、体に着いた砂などを落としていたようだが、それ以外のものも流そうとしていたようにも見える。ソラの自分を呼ぶ声に気付いて顔を上げたましろは、ヤクモの姿も見る。

 

「ソラちゃん、ヤクモ君……」

「怪我とかは大丈夫?」

「うん、ちょっと転んだだけだからもう平気だよ」

 

ヤクモに体の事を聞かれるも、問題はないと申し訳なさそうに答えるましろ。そして少し話すことを躊躇っているソラを見ると、ソラも体をびくっと揺らしてしまう。その仕草を見たヤクモは、軽くソラの肩を叩くと、その場から離れる。2人霧にしてあげた方がいいと考えたのだろう。そんなヤクモの気遣いに感謝しながらも、ましろは2人に背を向ける。

 

「……ましろさん、大丈夫ですか……?」

「……」

 

遂に意を決して、ましろに問いかけるソラ。暫く無言でいたが俯いてしまうましろ。

 

「私……走るの苦手だし、リレー選手だって自信なくて、なのに自分にもできるって思っちゃったんだよ……たくさん特訓したから……ソラちゃんみたいに速く走れなくても、ちゃんと走れるって……」

 

顔はソラから見ることはできない。だが、ましろの目には涙が浮かんでいた。悔しさを含んだましろの思いに、ソラも言葉を失う。

 

「でも、大事な所で転んじゃって……それが……悔しい……!」

 

振り向いたましろの顔には大粒の涙が流れていた。ずっと努力してきたのに、1つのミスで台無しになってしまった悔しさと、皆に迷惑をかけてしまった申し訳なさ。ましろが抱いている感情を前に、ソラは何も言うことができない。

 

「ごめんね……ソラちゃんや……ヤクモ君や皆が頑張って……折角勝てたのに……こんなこと言っちゃって」

「……ごめんなさい!!」

 

気付けば、そんな言葉がソラの口から出ていた。深々と頭を下げるソラに今度はましろが驚く。

 

「私、言いました……勝つためにはましろさんのバトンパスが必要だって……それは、半分は本当でした……でも、もう半分は……ただ、友達と皆で走りたかったんです……」

「……」

 

友達と走りたかった。ソラのその思いを静かに聞くましろ。ソラは、申し訳なさそうに言葉を続けていく。

 

「だから、ましろさんが転んでしまった時……ほんの少しだけ、諦めてしまったんです……負けるかもしれないけど、仕方ないって……でも……ましろさんは転んで悔しいとか、追い抜かれて悲しいとかではなく、ひたすら前を見て走っていました。ましろさんのその走りが、私に火をつけてくれたんです」

 

再び顔を上げたソラの瞳にも、若干涙が潤んでいるように見える。あの短い一瞬とはいえ、諦めてしまったこと、ましろに対して申し訳ないことを考えてしまったことの負い目、そしてそこから立ち上がり必死にバトンを繋いでくれたましろの思いに対する感動が、ソラの心を満たしているのだろう。

 

「絶対に勝つんだって、何が何でも一位になるんだって。ましろさんは、私に最高のバトンを渡してくれました」

「ソラちゃん……」

 

そう言い、ましろに歩み寄るとその手を取るソラ。そんなソラの言葉に、ましろも嬉しそうに笑う。

 

「……えへへ、ちょっと顔洗っていこうっか」

「そうですね、このまま戻ったら何があったか聞かれちゃいます」

 

お互いに話し合い、心のわだかまりが解けたところで、水を流し始める。涙が浮かんでる状態で戻って何か聞かれても困るだろうと、顔を洗っていると、そこに一旦離れていたヤクモが現れる。

 

「あ……ヤクモ君」

「ましろさん、もう大丈夫なの?」

「うん、ありがとうね、気を遣わせちゃって」

「気にしないでよ、はいこれ」

 

2人が話しやすい様にしてくれたことを感謝するましろに、タオルを手渡すヤクモ。ソラにも別のを手渡す。

 

「ありがとう、ヤクモ君。これわざわざ取ってきてくれてたの?」

「ましろさん拭くもの持ってなさそうだったからさ」

「でも、私の分まで?」

「ソラさんに必要になりそうだなって思ったんだ。なんとなくだけど……」

 

こうして顔を洗っていたため、不要にはならなかったのだが、ましろの分はともかくソラの分までよく持ってこれたものだとソラ自身驚く。だが、それをヤクモは何故かわかっていたようだ。

 

「そっか、ソラちゃんの事、すっかりヤクモ君にばればれだね」

「……ふふ、そうですね」

 

ましろに言われ、嬉しそうに笑うソラ。そのまま顔や髪を拭きながら、ソラがヤクモに近づいてくる。

 

「ありがとうございます、ヤクモさん」

「どういたしまして」

 

3人が笑い合ってる中、グラウンドの方では異変が起こっていた。近くの校舎の上に現れたのは、バッタモンダー。

 

「さて……この数日でやっと掴んだよ。君たちの居場所を……ふふ、それにしても、強い者が弱い者に強さを見せつける残酷な祭りなんて、壊しても誰も心は痛まないだろうね。カモン、アンダーグエナジー!」

「ランボーグ!!」

 

心にもないことをいいながら、アンダーグエナジーをラインカーへと放つバッタモンダー。体育祭の準備をヤクモ達が進めている間、バッタモンダーはスカイランドの時のように動きを見せはしなかったが、それはこの世界では居場所のわからないプリキュア達の居場所を把握するため。さすがに虹ヶ丘家や嵐堂家などは特定しきれていないが、彼らが日中いるであろう場所を見抜けただけでも十分と、数日使用していないことで溜まったアンダーグエナジーを注いでランボーグを生みだす。

 

「きゃああああ!?」

「わああああ!?」

 

巨大化したラインカーのランボーグが車輪を利用して異常な速度で走り回る。生徒や大人たちが慌てて逃げ出していく中、あかりは不安そうに周りを見渡す。

 

「ムラクモさん、ヤッ君とその友達がいないわ!」

「他の生徒達と一緒に避難しているところが見えたわ。2人も急いで」

 

そんなあかりを連れて避難するようにとヨヨがムラクモに進言する。ムラクモはその言葉に静かに頷くと、ランボーグを一目見て溜息を吐くと、あかりを連れてその場から離れていく。

 

「あの2人はこれで大丈夫……」

「える!」

 

ランボーグの出現に気付き、グラウンドを挟んだ向こう側に3人の姿が見える。既に合流していたツバサが体育祭でまでつけるわけにはいかないと3人が外していたミラージュペンを3人に手渡す。

 

「皆さん、これを!」

「ありがとう、ツバサ君」

「体育祭をめちゃくちゃにさせるわけにはいきません!」

「ランボーグを止めよう!」

 

4人は顔を見合わせて頷くと、プリキュアへと変身し、ランボーグの前に降り立つ。

 

「ランボーグ!」

 

しかしランボーグはプリキュアなどお構いなしと言わんばかりに全力疾走している。だが、そんなランボーグもプリキュアに気付いたのだろう、勢いよく走ってくる。

 

「この……」

 

それを避け、攻撃しようと走り込むスカイ。しかしスカイ以上の機動力を持つランボーグに攻撃が届かず、ランボーグが巻き上げた土煙によって視界を奪われてしまい、足止めされてしまう。

 

「は、速すぎるよ!?」

 

プリズムも攻撃してみるも、敵が速すぎて全く当たらない。それどころか勢いよくジャンプし、その速度のままプリズムを圧し潰そうとする。咄嗟にウィングが取っ手部分を掴んで引き寄せることで攻撃を中断させるも、空中で高速回転されてしまい、ウィングが振り払われてしまう。

 

「くぅ!?だったらこれで止めてみせる!ひろがるウィングアタック!!」

 

だがランボーグはまだ空中にいる。素早いパンチでランボーグを攻撃してそのまま墜落させると、ウィングが掴んだチャンスを狙ってスカイが攻撃しようとする。

 

「ランボーグ!」

 

だがランボーグが一瞬早く復帰してしまい、高速移動によって攻撃を回避してしまう。

 

「大きいのにすばしっこいですね……!」

「この速度をまずどうにかしないとだな……だったら!」

 

アンブレランスを手に取り、ランボーグへと攻撃を仕掛けるクラウド。当然その攻撃は回避されたばかりか、ウイングやスカイ程の速度もないクラウドならばランボーグも十分反撃できると考えたのだろう、クラウドを轢こうとしてくる。

 

「そこだ!」

 

だが、真正面から突進してくるとわかればいくら早くても手はある。クラウドがアンブレランスを投げると、それは取っ手に命中すると弾かれてしまうが、そのアンブレランスには雲のロープが取り付けられており、アンブレランスが弾かれるのと同時に雲のロープが取っ手にくっついていく。それをクラウドが握っていることに気付いたランボーグが轢くのをやめてウィングのように高速回転で振り回しながら走り回り、ジャンプも織り交ぜてくる。

 

「ぐぅ!?」

 

ロープを握るクラウドの体が高速で振り回されていく。ロープの長さもあってかクラウドは何回も地面に叩きつけられていく。

 

「「クラウド!?」」

 

クラウドが痛めつけられる様を見ていることしかできないスカイとプリズムが悲痛な声を上げる。だが、叩きつけられながらも雲のロープは徐々に小さくなっており、クラウドの体はランボーグに近づいているのがわかる。それに気付いたウィングは弾かれたアンブレランスを回収すると、

 

「クラウド!待っていてください!やあああああ!!」

 

そのままランボーグに突進する。ウィングの速度であればランボーグには追いつけるようで、そのままアンブレランスを力任せに叩きつける。

 

「ランボーグ!」

 

甲高い音が鳴り、一瞬ランボーグの体が揺れる。それによって速度が抑えられ、クラウドはその隙に取っ手までたどり着くと雲で自分の手を取っ手を完全に接着して離れないようにする。ランボーグも全力でクラウドを振り払おうとするものの、ここで異変が現れる。

 

「!見て、スカイ!ランボーグが!」

「さっきより遅くなってます!」

 

そう、ランボーグの速度が遅くなっているのだ。見ればランボーグ自体が息切れし始めているようにも見える。

 

「……へへ」

 

してやったりと言わんばかりにクラウドが不敵な笑みを浮かべる。ランボーグの速度は大したものだが、それを成立させているのもアンダーグエナジーがあってこそ。そのアンダーグエナジー自体をドレインによって削ってしまえばランボーグが出せる速度も遅くなってしまう。

 

「スカイ!これを!」

「!」

 

それでも依然としてまだランボーグの速度は健在だ。今ならスカイでも追いつけるが、スカイが攻撃しようとしてもそれを察知してランボーグは逃げるだろう。それだけのことができる力は残っている。だが、それを解決するために、プリズムはスカイに自らの光弾を託す。

 

「今のランボーグなら……スカイなら当てられるから……お願い!」

「!はい!クラウド、今行きます!!」

 

スカイが全力疾走する。ランボーグもスカイが攻撃しようとして来ていることに気付き、逃走を開始する。2人の速さは互角だったが、クラウドのドレインによって僅かにだがランボーグの方が遅くなっていく。さらにスカイの手には、プリズムから託された光弾があるのだ。それを、最高のタイミングでランボーグへと投げつける。

 

「ランボォオオグ!?」

 

ランボーグにクリーンヒットした光弾がランボーグを勢いよく吹き飛ばす。これにはクラウドが削ったエナジーも合わせてランボーグには大きな一撃となってしまったようで、倒れたランボーグはうまく立ち上がることはできない。

 

「っと」

 

ランボーグが吹き飛んだのに合わせて離脱したクラウドがスカイの隣に立つ。さらにそこにウィングとプリズムも駆け寄り、スカイとプリズムがスカイミラージュを取り出す。

 

「「プリキュア!アップ・ドラフト・シャイニング!!」」

「スミキッター……」

 

ランボーグが浄化され、キラキラエナジーがミラーパッドへと溜まっていく。その姿を遠くから見ていたバッタモンダーは、誰の目もないこともあって取り繕うという様子は一切見せず、イライラした様子で暴言を吐き捨てていなくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ランボーグを倒し、グラウンドが修復されたことで無事に体育祭も終了し、ソラ達は虹ヶ丘家の庭に置かれていた机を囲んでいた。色々あったが、今日を改めて振り返ってみると、様々な発見があったとましろは少し満足げだ。

 

「自分でも意外だったな。涙が出るぐらい悔しいって思ったのは初めてだったよ」

「でも、新しい自分に出会えるってドキドキしない?」

「そうかも」

「では、ましろさんが出会えたのは、どんなましろさんですか?」

 

今日の体育祭を見た影響だろうか、楽しそうに庭を歩くエルをヤクモとツバサが見守ってる横で女性陣のトークも盛り上がる。そんな中、ソラとあげはから新しい自分はどうだったかと問われたましろは、少し考えると、

 

「思ったより負けず嫌いで、思ってたより走るのが好きな自分、かな?」

「うふふ、ましろさんはエルちゃんと同じ。歩き出したばかりの赤ちゃんみたいね。自分の中にたくさんの可能性があることに気付いて、どんどん成長していく。チャレンジしてよかったわね、ましろさん」

「うん!」

 

ヨヨの言葉に嬉しそうに頷くましろ。そして、新しい自分という言葉を思い浮かべたましろの瞳に、楽しそうに駆け寄り地面に座った状態のヤクモに抱き着いてくるエルの姿が映る。

 

(……新しい自分、か……ヤクモ君にとっての新しい自分って、どんな姿なんだろう)

 

今は完全に受け入れているようだが、アンダーグエナジーという今まで知らない自分の姿を知った時、ヤクモはどんな気持ちだったのだろうか。ましろはそんな事をぼんやりと考えるのだった。

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