曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第51話 新たな住人

「……え?あげはさん一緒に住むことになったの?」

「そうなんですよ!」

 

昼休み、屋上で話があるとヤクモを連れだしたソラはヤクモにそのように告げる。5人目のプリキュア、キュアバタフライが誕生したことであげはも改めて仲間となった矢先の出来事だった。ウキウキ気分のソラから告げられた言葉にヤクモの顔に驚きが浮かぶ。

 

「うん、あげはちゃんもプリキュアになったから、一緒にいた方がいいんじゃないかって。それで今、家に皆で住むことになったんだ」

「へー」

 

確かにあげはの言う通り、プリキュアが固まっていた方が敵からの襲撃等も考えると都合がいいのだろう。ましろの家に住み込む前のあげはは1人暮らしをしていたはずなので、1人だけ孤立しているという状況を回避しやすくなるのは良いことだ。

 

「俺は良いことだと思うよ。その方があげはさんも安全だし」

「はい!今朝なんて凄かったんですよあげはさん!朝ご飯が凄く豪華で!」

「うんうん、あれはとっても美味しそうだったね」

 

そして虹ヶ丘家に住み始めたあげはは家事などを率先してやっているようで、今朝も凄かったようだ。その時の事を思い出したのだろう、ほっぺたが落ちそうといったかのようにその時の出来事を思い出し耽っているソラを見て苦笑するヤクモ。ましろも、その時の写真を思わず撮っていたのだろう、今日の朝ご飯としてあげはが作ってくれた料理のラインナップを見せられたヤクモは自分の予想を超えた内容に思わず息を呑む。

 

「おお……!?」

 

写真に写っていたのは、綺麗に盛り付けられたサラダとサンドイッチ、そしてフルーツの盛り合わせ。そのどれもが様々な具材を使っており、また果物に関しては1つ1つ丁寧にカットされてたりと細かい工夫が見て取れる。ましろが言うには他にもお弁当のおかずの残りなどもあったようだが、これを全部あげはが1人で作ったと考えるととんでもない労力だろう。

 

「す、すごいね……正直予想以上だった……」

 

確かにあげはの性格上ならこれぐらい気合を入れていてもおかしくはないのだが、これまでの家の朝ご飯と比べるとやはり豪勢さについてはあげはの方が上回っているだろうとヤクモも考えてしまっていた。

 

「家でもここまでの朝ご飯は出ないよ」

「お母さんって大変だもんね……」

 

これが毎日出てくるとなればあげはの身が心配になってきそうだなと考えてしまうヤクモ。と、ここでましろがあげはから言われていたであろうあることを思い出す。

 

「あ、それでね……放課後、家に来てほしいってあげはちゃんが言ってたよ。多分、これからのことで皆で一緒に話し合いたいんじゃないかな?」

「うん、わかった。放課後だね」

 

ましろの言葉をヤクモは頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔します」

「おっ、来たね!いらっしゃい!!」

 

放課後。普段着に着替え直して虹ヶ丘家に訪れたヤクモをあげはが出迎える。すっかりこの家の住人となったあげはに案内されるまま、リビングに入ったヤクモを見て、エルを抱っこしているツバサが嬉しそうに立ち上がる。

 

「ヤクモさん!」

「やあツバサ、あげはさんに言われてきたけど……」

「まあまあ、とりあえず座って座って!」

 

自分を家に呼んだ件についてあげはに聞こうとしたヤクモ。しかしあげははヤクモをツバサと共にソファへと座らせる。ましろとソラと向かい合うように机を囲んだヤクモはあげはは何をしようとしているのかと首を傾げていると、机の上にあげはが一枚のお皿を出してくる。そこには、

 

「これって……」

「手作りクッキー!自信作だからさぁさぁ、食べて!」

 

あげはが手作りしたクッキーが並んでいた。より取り見取りの見た目のいいクッキーの数々を前にヤクモはぽかんと口を開けたままツバサを見る。そんなヤクモの気持ちもわかるのか、ツバサも苦笑してしまう。

 

「まあ、そうなりますよね……これ、あげはさんがずっと作ってたんですよ」

「今日は保育園が色々あって休みでね。朝からずっと掃除とかやってたんだ」

「帰ってきたら凄かったですよ!家中ピカピカです!」

 

ご満悦なソラとましろ。ひとまずヤクモはあげはの作ってくれたクッキーに手を伸ばす。何故か全員の視線を感じながらクッキーを口にする。

 

「……凄く美味しいよ」

「でしょ?めちゃくちゃ自信があったんだよね!」

 

ヤクモの反応を見て上機嫌になるあげは。ヤクモの反応を見て3人も喜ぶと、それぞれあげはのクッキーに舌鼓を打ち始める。エルも、あげはに赤ちゃん用のおやつを作ってもらったようで美味しそうにツバサに食べさせてもらっている。

 

「すっごく甘くてサクサクしてます!」

「うん、とっても美味しいよあげはちゃん!」

「える!」

 

あげはお手製のクッキーを味わいながら、ヤクモは部屋を見渡し始める。あげはやましろの言うように、隅々まで掃除が行き渡っており、元々綺麗な家だったが一層清潔感が増したように見える。特にツバサの巣箱に関してはただ綺麗にされただけではなく、巣箱の中にクッションが入っているのが見える。今までのツバサだったら入れなさそうに思えるのだが、とヤクモが気になる様子でそれを見ていると。

 

「おっ、ヤクモ君あれ気になる?」

「あ、あんまり見ないでください!」

「う、うん……」

「まあまあ、見られて困るものでもないでしょ?私が選んだクッション!少年も気に入ってくれたよ!」

 

ヤクモが今までないものに気付いて首を傾げているのにツバサも気付いたのだろう。慌ててヤクモにそれを見ないようにと言う。しかし、あげはにそれをばらされてしまい、ツバサの顔が思わず赤くなってしまう。

 

「クッション?」

「そっ、ふわふわのもふもふで気持ちいいよ!きっとよく眠れるようになるはずだからさ!」

「もふもふー!ツバサ、もふもふ!」

「ん?」

 

鳥の姿で巣箱に入って寝るツバサからすれば、確かに巣箱に入る程度のクッションでもちょうどいい敷布団になるのかもしれない。そういうことなら悪くはないのだろうと考えていると、エルがツバサに何かを求めていた。もふもふということはあのクッションが欲しいのだろうか。いや、クッションでもふもふと言う表現もおかしいだろう。あげはが言ってるのは言葉の綾のようだが。

 

「ああ、あれはね……昼間に2人が遊んで泥だらけになった時にプールで遊んでて……」

「泥を落とすついでに?」

「そうそう、でその後ドライヤーで乾かしてたんだけど……そしたら少年の羽毛がふわふわになって、エルちゃんが大喜びで抱き着いちゃって」

「そんなことがあったんだ、よかったねエルちゃん」

「もふもふ!」

 

昼間にあった微笑ましいツバサとエルの話を聞いて楽しそうにエルに話しかけるましろ。エルもましろに嬉しそうに返答し、ツバサにもう一度あのもふもふ感を出してほしいとおねだりを始める。それを見たツバサは困った様子を見せる、

 

「そうはいっても、今戻っても羽毛は元通りですよ……」

「じゃあもう一度ドライヤーかけちゃおうっか?」

「やめてください、自分の事ぐらい自分でやりますから……なのでごめんなさいプリンセス、あの時のようにはなれないんです」

「ぶー……」

 

不満げな表情を見せるエルを宥めながら、次のおやつをエルに食べさせるツバサ。それを口にしたエルもすぐに美味しさに夢中になり始め、先ほどの不満はどこへやら一転してウキウキ気分になる。

 

「でも、あげはちゃんが来てくれたおかげで本当に賑やかになったね」

「はい!ヤクモさんも一緒に住めばきっともっと楽しいです!」

「えっ?」

 

そんな中、ソラの口から飛び出してきたとんでもない発言にヤクモは驚いてしまう。ソラの隣に座ってるましろもこれにはびっくりしてしまったようで、一瞬固まってしまった空気に気付いたソラがどうしたのかと周りを見まわし始める。

 

「ど、どうしました……?」

「えーとね……それはちょっとどうかなーって……」

 

やんわりとソラの提案を否定するも、どうやらまだソラは気付いてないようだ。あげはも大丈夫なのだからヤクモも大丈夫かもしれないと単純に考えただけなのだろう、それ故遠回しな言い方だと気付いてもらえないようだと考えたヤクモは、

 

「その……父さんと母さんが駄目って絶対言うだろうし……」

「あっ……す、すみません……!」

 

それを受け入れられない理由を言う。それを聞いたソラは慌てて頭を下げる。そうだ、自分たちはこの世界や近くに親がいない。そのため、こうしてましろの家にお世話になっている。だがあげはもヤクモも、この世界ではちゃんと自分の家がある。あげはは親から離れ1人で暮らしていたからここに来たが、ヤクモにはちゃんと両親がいるのだ。当然、ヤクモが2人の元から離れてここに住み込むなんてことはできないし、親だって許すわけがない。

 

「あかりさんとムラクモさんの事を忘れてしまうだなんて……一生の不覚です……!!」

「ま、まぁ気にしないで……」

「でも……なんでヤクモ君と一緒に過ごしたいって?」

 

にやにやしそうになる心を抑えながら、ましろが理由をソラに問いかける。それを問われたソラは恥ずかしそうに目を逸らす。

 

「それは……その……やっぱり皆一緒にいた方が安全ですし……安心できますし……」

「……つまり、ヤクモさんと一緒に住みたい理由はソラさんが心細いから?」

「え、えーと……」

「……ま、ソラちゃんの願いは……ちょっと厳しそうだから置いとくとして」

 

ツバサに言われ、否定できずにいるソラ。そんなソラを少し見ていたがこれ以上は追及してあげない方がいいだろうと考え、あげはが会話を一旦区切らせる。それを合図として、ヤクモは改めてあげはに要件を聞こうとする。

 

「あげはさん、今日呼んだ目的は……?」

「え?特にないけど?」

「あれ?今後の事を話したいとかそういう理由があったんじゃなかったの?」

 

しかし、当の本人は一切心当たりがないようで首を傾げてしまう。どうやらただ単純にヤクモをここに招きたかっただけのようであった。

 

「ああ、違う違う、引っ越しの報告も兼ねて呼びたいなってだけの話だよ」

「なんだあ……そうだったんだ」

 

自分が早とちりしただけだったと判明し、ましろは肩を竦める。どうやら自分の説明不足があったようだとあげはも苦笑してしまう。

 

「まあ、ヤクモ君も本当に一緒に住めたら確かに良かったかもね……でも、ヤクモ君にはお父さんとお母さんがいるんだからちゃんと2人の所にいないと」

「うん、わかってる」

 

そうあげはの言葉にヤクモは頷きながら、今は何時ぐらいかと時計を確認するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。普段より早い時間でエルを寝かしつけたあげはは、リビングでましろやソラと一緒にメイク道具を広げていた。ツバサはというと既に巣箱の中で寝息を立てており、どうやら昼間にあげはが選んでくれたクッションが予想以上に効果を出しているようだった。

 

「「わぁ……!可愛い……!」」

 

あげはが今回選んだのはネイルマニキュアだった。桃色のマニキュアと水色のマニキュアをそれぞれ自分の指に付け、様々なシールなどで模様を出した自分の爪を見て、2人は嬉しそうに静かに声を出す。

 

「爪が可愛いと、気分アガるよね。そうだ、これも、いい香りでリラックスできるよ」

 

そう言い、2人の手にパウダーをつける。そのいい香りに2人は夢中になっていた。

 

「ありがとう、あげはちゃん」

「私、あげはさんと暮らすことでアゲのなんたるかを理解できた気がします。可愛いものや、楽しいことで自分を元気にする。それがアゲ!」

「あは、確かに言葉にするとそんな感じかも!……でも、そういうことなら……」

 

あげはは自分の荷物の中から一冊の雑誌を取り出す。それは化粧品などの紹介がまとめられた雑誌やカタログであり、それを見たソラとましろが興味深そうに身を乗り出す。

 

「これは……メイク道具ですか!?」

「そうだよ、最新刊だから今の流行りとかいっぱい!」

 

そして、あげはの広げた雑誌を女子3人で読み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

夜遅く。既に全員寝静まっているであろう虹ヶ丘家。巣箱の中で眠っていたツバサが差し込んできた光に目を覚ましてしまう。時計が見える程度には明るく、時間も完全に夜中を示していることを確認しもう一度眠ろうとしたところで、どこから光が漏れているのかという疑問を感じてしまう。

 

「……ふぁ」

 

誰か光でもつけっぱなしにしていたのだろうか。それなら消さなくてはとツバサが光の漏れている部屋へ向かおうとする。そこでは、あげはが絵のようなものを描いており、そこにヨヨが飲み物を差し入れている姿があった。

 

「この絵、保育園の?」

「そんなところです」

(こんな遅い時間まで……)

 

家事や自分たちの世話をやり続けており、自分の事をする時間がこの時間帯になるまで取れなかったのだろう。徹夜をしながら自分の作業を進めるあげはを見たツバサはあることを心に決めながら巣箱に戻る。そして、

 

「!」

 

日が差し込み始める早朝。普段より早めに目を覚ましたツバサは人の姿になると、キッチンへと向かう。あげはより早めに起きて朝食の準備をしようと考えたのだが、キッチンに入ったツバサは机の上で倒れてるように突っ伏して寝ているあげはを見つけてしまう。

 

「うわ!?あげはさん大丈夫ですか!?」

 

机の上に突っ伏しているその様は自慢の長い髪もぶちまけているかのような惨状であり、襲われて意識を失っています、などと言われても一瞬信じてしまいそうなほどであった。慌てるツバサに肩を揺らされ、意識を取り戻したあげはは慌てて起き上がる。

 

「ん……や、やば!寝ちゃってた!?」

「なんだ寝てただけか……」

 

起きたあげはは机の上にくっつけたまま寝ていた頬を擦る。鏡などがないから確認できないがこの分では痕になってしまってそうだ。ツバサの方はあげはがただ寝ているだけだということが判明しホッとするも、すぐに別の事に気付く。

 

「……ん?まさか、ここでずっと?」

「え?……えへっ」

「えへっ、じゃないでしょ!?」

 

誤魔化すように可愛らしく笑うあげは。しかし、ベッドにも戻らずここでずっと作業して寝落ちしていたということは言うまでもない事実であり、これはツバサにも見過ごすことはできない。

 

「もう、あげはさんは頑張りすぎなんですよ……」

「いやぁ、そんなこと……」

「ありますよね!僕見たんですよ、昨日の夜、あげはさんがここで何か描いてたの!」

「!」

 

全員が寝静まった後にやっていたつもりだから、ヨヨ以外には昨日の夜の事はばれてないと思っていたが、どうやらツバサには見られていたということを知り、驚くあげは。

 

「僕たちのために色々やってくれているのはわかります。でも、ヤクモさん、ソラさん、ましろさんも、こんな風に疲れてほしくないはずですよ」

「……だね」

 

観念したように漏らすあげは。実際、徹夜の末に寝落ちしているのだから、今のままの生活はとても長くは続けられないだろう。昨日は保育園での実習がなかったが、ここから保育園の実習も並行してとなればさすがにあげはでも気力が持つかどうかは危ういと言える。

 

「自分の事は自分でできますし、むしろあげはさんが僕達を頼っていいんですよ!」

「……」

 

自信満々にそう宣言するツバサ。その言葉を聞いたあげはは少し考えると、

 

「そこまで言うなら……頼っちゃおうかなぁ?」

「え?」

「明日、空けといてね!じゃあベッドで寝てきまーす」

 

早速と言わんばかりにツバサにそう告げると、あげははちゃんと寝るために部屋を出ていく。確かに頼っていいとは言ったが、まさかこんなに早く持ちかけられるとは。最初はツバサも戸惑っていたが、実際に頼られたのは事実。ここで臆していては男が廃るだろうとぐっと握りこぶしを作ると意気込のだった。

 

「だったら、頼ってもらおうじゃないですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の午後。ツバサとエルの2人を伴い、あげはが向かったのは公園のようなところ。そこにはコンクリートの壁があり、そこには子供たちが描いたと思われる拙くも愛らしい多様な絵が描かれていた。

 

「わぁ……」

「ソラシド保育園の皆が描いた壁画アートだよ」

 

ソラシド保育園はあげはの実習先の保育園だ。そこの子供たちが一生懸命描いた絵と聞き、ツバサもじっと絵に魅入っていたいたが、ここでふと、壁画の一部が空白になっていることに気付く。

 

「ここだけ何も描かれてない?」

「私達で描くんだよ!」

「え!?」

 

そう言いながら筆やパレットを取り出すあげは。それを見てツバサは驚くと同時に、何故ツバサに手伝ってほしいとあげはが言ったのか、その理由を理解する。確かにこの壁画全体に絵を描こうとすれば、あげは一人では時間もかかってしまうからだろう。エルのためにシートを敷き、エルが遊ぶ玩具の積み木などを並べてエルが遊び始めたのを見て、あげははツバサにパレットなどを手渡す。

 

「はい、じゃあお願いね」

「わ、わかりました」

 

そして時折エルの様子も見ながら、2人は壁画アートを描き始める。暫く無言で絵を描くことに集中してた2人だったが、ふとあげはが今回絵を描くことになった経緯について話し始める。

 

「この壁画アートね、今回の実習の記念に描いてって先生が言ってくれたんだ。でも引っ越しでバタバタして時間がなくて」

「時間がないのに僕たちのお世話までしてたんですか?」

「あはは……あ!上手じゃん少年!」

 

面目ないとでも言いたげに笑うあげは。と、ツバサが描いた部分を見てその上手さに思わず声を上げる。

 

「父さんが絵描きなのでこれくらいは……」

「そうなんだ!……ねぇ、スカイランドのご両親ってどんな人?」

「どんなって……」

 

スカイランドにいる両親の姿を思い浮かべる。2人はとても優しく、そして自分の事を心配してくれていて、とても大切な家族だ。2人が親で本当によかったと思ってるが、だからこそ小さな不満もある。

 

「2人とも、いつまで経っても子供扱いですよ……何かと構ってきて、それがちょっとだけ鬱陶しい時もあって……だからかな……この前の体育祭で、ヤクモさんの両親を見て、ヤクモさんと親の距離や関係がちょっと羨ましいなって思ったりして……」

「……そっか、確かに羨ましいね。お父さんとお母さんが一緒にいて、皆で凄く仲が良かった」

 

自分の両親の話の流れからヤクモの両親の話になっていく。そんなツバサのヤクモと家族の評を聞きながら、あげはも無意識のうちにどこか遠い目をしていた。しかし、目線は絵を描くためのキャンパスに向けられていたツバサはそれには気付かなかったようだ。

 

「……あ、そっか」

「ん?」

「はは……いえ、あげはさんの世話焼きな感じ、父さんや母さんに似てるなって思って……あ、ごめんなさい」

 

ふと、何かに気付いたツバサ。それをあげはに語ったのだが、あげはからは一瞬微妙な反応を返されてしまい、慌てて謝る。

 

「あ、ううん全然!ていうか……ツバサ君は今、家族と離れ離れじゃん?エルちゃんとソラちゃんもそうだし、ましろんも……だからかな。色々やってあげたくなっちゃうんだよね……皆、ヤクモ君みたいにすぐ傍で親の愛情を受けられるわけじゃないから……」

「……」

「皆がいっぱい頑張ってるの知ってるし……これは言い過ぎかもだけど、ヤクモ君にとってもお姉さんみたいな感じで接してくれたら嬉しいなって」

「あげはさん……」

 

あげはも、親元を離れて暮らしてる皆に思うところがあるのだろう。だからこそ、皆のために世話を焼きたがっていたようだ。その事実を知り、言葉を失うツバサ、と。

 

「えーるぅ!」

「「……あ!?」」

 

玩具で遊んでいたエルが壁画の方に興味を持ったのか、壁まで歩くと、壁に思いっきり手を付けてしまう。まだ絵の具が乾ききっていないところに手を触れたら当然絵の具が手についてしまうのだが、既に別の所で色を付けていた手を当てたせいか、壁にエルの手形が残ってしまっていた。

 

「プリンセス……めっ、ですよ」

「えーる……」

 

幸い、今回の被害は手形だけだったので、乾いたところで上から絵の具を重ね塗りすれば誤魔化せる範囲だ。しかし、不用意に描いてる途中の絵に手を加えてはいけないのと、手形を作ったせいで、エルの手も絵の具まみれになってしまっている。あまりこういうことはしてはいけないのだとツバサは優しく言い聞かせるが、あげはは少し興味深そうに手形を見て、

 

「いや、むしろアリじゃない?」

「え?」

「これを花に見立ててこうして茎を描けば……」

「あっ……」

 

エルの手形に緑の絵の具を足して即席のチューリップの花に変える。こうしてみると、小さいエルの手形が良い感じのアクセントに早変わりしており、咄嗟のリカバリーに思わずツバサも唸る。さらにあげははチューリップの隣にツバサを模した小さな鳥を描く。

 

「そして隣には……」

「ツバサ!!」

「わあ……いいですね!」

 

きゃっきゃと喜ぶエル。まさかエルの手形をこのように利用するとは。面白い壁画が生まれそうな予感を感じとったツバサを見て、あげははエルにパレットを差し出す。

 

「エルちゃん、もっとおててペタペタしよう!」

「ペタ!ペタ!」

 

あげはに言われたことで遠慮なく絵の具をどんどん手に付けて壁に手形を付け始めるエル。エルが自由にアートを作り始めたのを見ていたが、ここでツバサにも、

 

「そうだ、ツバサ君も好きに描いてみなよ」

「え?僕がですか?」

「その方が3人の合作って感じがするじゃん?」

「……まあ、あげはさんがいいならいいですけど……」

 

自由に描いてみてほしいとお願いする。そして、3人で壁画アートを完成させるのだった。

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