「……」
休みの日の朝。目を覚ますヤクモ。今日は特に何か特別なこともないが、もしかしたらましろかあげはから連絡が来るかもしれない。とはいえ、少なくとも現在は予定も何もないはずである。目覚まし時計を見ると、普段起きる時間より少しだけ早い。
「……」
ならもう少し寝てもいいかと二度寝を計画する。そしてうとうととまた夢の世界へ旅立とうとしたその時だった。
「……?」
窓を何かが叩く音が聞こえてきこえてヤクモは完全に目を覚ましてしまう。今日はそんな風でも強いのかと考えるも、いやそんな気配はなかったと考え直す。これは、間違いなく何者かが窓を叩いている音だ。
「……なんで?」
2階にいる自分の部屋の窓を叩くのは一体何者だというのか。というかなんで叩いているのか。次々疑問が浮かび、ぼんやりしていた意識もすっかり覚醒してしまったヤクモがカーテンを開けると。
「……鳩?」
何故か鳩が窓の外にいた。鳩が窓を叩くなんて珍しいこともあるものだと考えるも、中々鳩が窓の外を離れないことに気付く。その足を見ると、手紙のようなものが収まってる筒があるのが見える。
「…………伝書鳩……?」
なんかこういうのを見たことがあり、なんとか知識の奥底から引っ張り出すヤクモ。しかし、もしそうなら誰がわざわざ伝書鳩を飛ばしたというのだろうか。それとも、単純にここで休んでるだけではないのだろうか。
「……」
窓を開けるも、鳩は全く逃げる素振りを見せない。むしろ、ヤクモが手紙を取るのを待ち望んでいるかのように顔を向けている。と、ここでこの鳩に誰が手紙を持たせたのか、やっとその候補が浮かんでくる。
「もしかして、ツバサ?」
「くるっくー」
大正解と言わんばかりに鳩が鳴く。なんで伝書鳩なんかと困惑しながらヤクモが手紙を外してあげ、お礼を言うかのように軽く鳩を撫でてあげると鳩はまた嬉しそうに一鳴きして空へと飛んでいく。
「……電話じゃ駄目だったのか……?」
鳥友達に頼んでこの手紙を運んでもらったのだろう。町中飛び回ってる鳥なら自分の家の場所を知っていてもおかしくはないのだろう、しかしそれ以上に気になるのは電話などを使わずに手紙を出してきたことだ。他人に聞かれたくない話でもあるのだろうかとヤクモは手紙を開き、内容を確認する。
「……これは」
ツバサからのメッセージを読んだヤクモは、その内容に驚くのだった。
★
「ヤクモさん!こっちです!」
公園のベンチに座っていたツバサがヤクモを見つけて手を振る。ヤクモもツバサを見つけて駆け寄る。
「手紙はちゃんと届いたようですね」
「うん……でもなんで急に?わざわざ伝書鳩なんて使って」
「……他の人に聞かれたくないんですよ……特にあげはさんには」
ここにヤクモが来たのはツバサから寄越された手紙の内容と関係していた。しかし、それをわざわざ伝書鳩で秘密裏に渡してくる必要があったかどうかがわからず首を傾げていた。なのでまずそこを確認しようと聞いてみたいのだが、ツバサとしても少々言いにくいという様子だった。だが、何故そこであげはが出てくるのか。
「手紙には皆には言わずに一人だけで来てほしいってあったけど……なんであげはさん?」
「……この前、あげはさんがミックスパレットをプリンセスから受け取ったじゃないですか」
「そうだね」
共にベンチに座り、ツバサが話し始めたのはこの前のランボーグとの戦い。その時、2人はエルからスカイトーンを受け取り、その力によってミックスパレットが誕生した。その力は他のプリキュアへのパワーアップを一時的に施すという頼れるもの。まだ自分がそれを受けたことがないので実際どれくらいの効力があるかは断言できないが、2人の感触を見るにその点は心配ないのだろう。さらにこのミックスパレットを用いることでツバサとあげははアップ・ドラフト・シャイニングに匹敵する浄化技、タイタニック・レインボーアタックを使用できる。
「……ん?」
機能を使用するのがあげはに集中してることが不満なのか、いやそういうわけじゃないだろう。それで不満があるならアンブレランスが出てきたところでひと悶着あるだろうし、ツバサがそういう性格じゃないのはヤクモも知ってる。さらにはツバサも心のどこかで望んでた待望の合体技だ。どこに不満があるというのか……と、ここまで考えてヤクモはツバサの言いにくそうにしてる不満に気付く。
「もしかして、あのタイタニック・レインボーアタックが……?」
「……そうですよ、途中までは恰好よかったのに……」
威力も申し分なく、浄化技として文句がないのはツバサも承知の上だ。戦いの中で必要となれば、あげはと共にいつでも放つ所存である。そこはいい、そこはいいのだが。それとして技の内容については思うところがある。それは、
「最後が……」
「巨大プニバードか……」
いかにも格好良さそうな、炎のフェニックスといった出で立ちから一転して巨大なプニバードに変化してのプレス攻撃。最初からフェニックスのまま締めるか、巨大プニバードのままで技を終えるなら。前者ならばもちろん大喜びだし、後者ならこういう技なのだと踏ん切りも付けられるが、両方の要素をミックスされたこの技はツバサの男の子の感性には正直異を申し立てたいものだったのだろう。そしてそれをヤクモに相談したということは。
「……つまり、新しい技がほしいと?」
「その通りです!!」
ヤクモの指摘に身を乗り出して熱く語るツバサ。つまりはこういうことだ。ツバサは新しい技を作ってみたいのだろう、キチンと最後まで格好いい必殺技を。しかし、ソラとましろには既にアップ・ドラフト・シャイニングがあり、あげはと生まれた技がタイタニック・レインボーアタックな以上、ツバサが新たな合体技を作ることを提案できる相手は必然的にヤクモだけとなる。
「僕達だけの新しい技を編み出すんです!格好良くて強い技を!そうすれば、この後の戦いもきっと!」
「それなら……他の皆からもアイデアを募ってみてもいいような」
「駄目です!必殺技は人知れず生み出すものなんですよ!プリンセスには完成した技を見せてあげたいんです!」
皆に言わないのはこれが本音のようだ。隠れて特訓して編み出した必殺技を作りたいというのと、それをエルに見せてあげたいということ。そのためにヤクモだけに伝えられるように鳥友達に手紙を持たせたのだ。話を一通り聞いたヤクモは暫く考え込んでいたが、
「……まあ、気持ちはわからなくはないけど……一応それっぽいのは」
「連携技じゃないんです、連携技じゃ駄目なんです!」
僕のこの気持ちを分かってほしいと言わんばかりにヤクモに縋るツバサ。確かに2人のキメ技を合わせた連携攻撃はあるが、ツバサが求めているのはそういうことではないのだろう。ヤクモもうーんと悩んでいたが、実際の所、そういう合体技が使える組み合わせが増えるならそれはシンプルにいいことのはずだ。実際にこの前の戦いではアップ・ドラフト・シャイニングを使われないように主にソラとましろがいないところを狙ってツバサとあげはを狙ったのだ、その技が使えない組み合わせの所を強襲するという可能性は今後も十分に考えられるのだから、それに備えておくのは悪い話ではないだろう。
「そうだね……できることをやってみよう」
「はい!」
ヤクモの承諾を得られたツバサが嬉しそうにはしゃぐ。後はそのアイデアをまとめて形にするだけ。そう意気込むも、
「……それで、どうやって合体技を作るか目途は立ってるの?」
「……その、あんまり……」
「……」
ツバサの事情を考慮すると虹ヶ丘家では周りの目も合って動くことはできなかったのだろう。とはいえツバサの年齢ならアニメやら特撮やらを調べていたところで特に不思議に思われたりはしないはずだろうが、普段やらないことをやってる姿は見せたくなかったのかもしれない。
「……そうだなぁ……」
うーんと考え込むヤクモ。まさかこのような話になるとは全く考えていなかったため、ヤクモ自身にも全く見当がついていない。
「2人で技、技ねぇ……技なんてその場で勝手に生えてくるんじゃないの?」
「それができたら苦労しませんよ……そりゃ、そういうのは憧れますけど」
とはいえ、ヤクモ自身自分が言っているのはその場凌ぎに近いピンポイントな技という意味合いが強い。以前の2人が使用した連携技も、あの状況だったから使えていたものであり、今使うとどれくらい通用するかはわからない。それにツバサが言っているのはもっといつでも使うことのできる汎用性のある技なのだろう。となると、自分の頭ではそれを考えるのはあまり得意ではないかもしれない。
「……素直に参考にするか……」
「何かあるんです?」
興味ありげにツバサが聞いてくる。ヤクモは席を立ってツバサを見ると、
「家にあるアニメとか見たら……アイデア浮かぶかもって」
「!それいいですね!」
アニメと聞いてツバサがぱあっと顔を明るくする。予想以上に食いつきが良いのを見るに、ツバサも元々興味があったのだろう。そういえば以前、漫画などを読んでみたいとツバサが言っていたことを思い出し、丁度いい機会だとツバサを連れてヤクモは家へと戻るのだった。
★
「ここが、ヤクモさんの部屋ですか……」
「まあ何かあるってわけでもないけどくつろいでいってよ」
ヤクモの部屋に上がり込んだツバサが興味深そうに部屋の中を見渡す。一旦飲み物などを取りに部屋を出て行ったヤクモが戻ってくるまでの間、ツバサは少しわくわくしながら部屋の中を観察していた。
「ふむ……」
ベッドや学習机、扇風機など一通り学生に必要そうなものは部屋の中に揃っている。タンスの中にはヤクモの私服があるのだろうが、さすがにそれを開けるようなマナー違反はしない。と、本棚に視線が向くとそこには色々な本や漫画の背表紙が見えた。その中にはツバサがこの世界で名前だけ知っているような興味はあるけど中々買えずにいた漫画などもあった。
「凄い……」
ヤクモに頼んだら読ませてもらえるだろうか。後で戻ってきたら聞いてみよう、逸る心を抑えながら、机の上に視線を向けると、文房具を入れているケースの横に眼鏡ケースが2つ置いてあった。片方には予備が入っているのかもしれない。それらの他にはいくつかキーホルダーのようなものが入っているのが見える。剣やドラゴンのような形をした男の子の心をくすぐる格好良さのあるデザインだ。やはりヤクモもこういうのが好きなのだろう。
「……」
思わずそれを手に取ってみる。剣に刺々しいドラゴンが巻き付いたようなデザインのキーホルダーや、剣がスライドしたり回転したりするもの、また2本の剣が2つに重なっているものなど、見てるだけで思わず幸せな気分になってしまう。しかも、そのどれもがデザインが剣から龍のデザイン、そしてその配色や金属の質感など含めてすべてが洗練されているのだからたまらない。
「これは……盾?」
そんな中でツバサが他と形状が似ていると思い取り出したのは龍の姿が刻印された円形のキーホルダー。他の剣と合わせるとこれは盾だろうか。これはこれで格好いいが、剣を見た後だとやはり地味に見えてしまう。
「……ん?これ隙間になんかある?」
だが、その盾がギミック式になっていることに気付き、裏にあった回転するパーツを回してみる。すると盾の隙間から刃のパーツが出てきて手裏剣のような形状へと変わっていく。
「……!」
この発見に刃を出し入れしながら頬を緩ませ夢中になるツバサ。と、扉が開かれ飲み物やお菓子、紙コップを入れた袋と折り畳み式の小さな机をを持ってきたヤクモが現れる。
「何見てるの?」
「うわああああああ!?」
後ろからヤクモに話しかけられ、心臓が飛び出るぐらいに驚くツバサ。その衝撃はあまりのものだったのか、持っていたキーホルダーを落としてしまう。
「……あーこんなのあったっけ」
ツバサが落としたキーホルダーを拾うと、すっかり忘れていたかのように呟く。確か小学校の修学旅行で偶然何個か買ったのがきっかけでキャンプ帰りに無性に買いたくなって追加で買ったりなんだりしていつの間にか増えたものだったはずだとぼんやりと思い出す。結局これを買っても普段身に付けているキーホルダーは最近アンブレランスに変化することが明らかになったあの1個だけなのだから宝の持ち腐れのようになってしまっているが。
「す、すみません勝手に見てしまって……」
「いや全然かまわないよ?何なら俺が持ってても使い道ないだろうし……欲しいなら持っていっても」
「いいんですか!?」
「あーまぁうん……」
確かに見た目は恰好よく見えるのは間違いないが、ここまで気に入ってくれるとは。しかし、それならツバサに持って行ってもらった方が彼らも幸せだろうと思うことにする。
「やった……!」
目をキラキラさせながらキーホルダーを受け取るツバサを見るとヤクモもほっこりする。部屋の中央に小さな机を広げると、お菓子やジュースを並べていく。
「こんなものがこの世界にあったなんて……!」
「確かにショッピングモールとかには売ってない……?いやでも見ようとしてなかっただけの話のような……?」
だが思い返してみると確かに普通の店などではこれは見なかった気がする。実際、これを修学旅行の時に買った時はお土産買う時についでに買う、みたいな感じで自分も買ったような気がする。やっぱりそういうところでしか売られていないため特別感があるのかもしれない。
「ふふふ……」
にやにやしながら剣をスライドさせたりして遊び始めるツバサ。やっぱりツバサも年相応なんだなとジュースを飲みながら見ていると、ヤクモの目線に気付いたのか咳払いしながらキーホルダーをポケットにしまいこむ。
「ごほん!え、えっと……こ、これは別にやましいことがあってやっているわけではありません!」
「あ、うん……知ってるし、誰にも言わないよ」
「ほっ……」
こんな姿を他の皆に見られたら恥ずかしいのだろう。特にあげはに知られればまたからかわれてしまうだろうし、弄られるネタになってしまう。あげはに年下として可愛がられるのはツバサとしてもむずむずするところがあるようだ。
「……ふぅ」
気分を落ち着けるため、ヤクモが持ってきたお菓子を食べ、ジュースに手を付ける。ヤクモの持ってきたお菓子もメジャーな所を抑えているようだ。
「……そういえば僕何しにヤクモさんの家に来たんでしたっけ……」
「なんでって、なんでだろ……」
改めて本題に入ろうとしたところで、ツバサはすっかり自分の目的を忘れてしまったことに気付く。先ほどのキーホルダーの衝撃で見事に頭の中から吹き飛んでしまったようだが、確かに大事なことだったはずなので、うーんと悩み始めてしまった。
「……」
ツバサが思い出すまで、別の事でもして時間を潰すことにする。本棚から最近古本屋で買ったばかりの漫画を取り出して読み始めていると、ヤクモはツバサからの視線に気付く。
「……」
ツバサの視線はヤクモが読んでる漫画に向けられていた。興味深そうに漫画の表紙を見るツバサと目線が合う。
「「……」」
ヤクモに見つめ返され、気まずそうに視線を逸らすツバサ。そんな、声には出さずとも読みたそうにしているツバサにヤクモは漫画を渡す。
「読んでいいよ」
「え、でも……今読んでたじゃないですか。悪いですよ」
「別に俺はいつでも読めるしさ、折角来てるんだからツバサが読んでいいよ」
「……」
ヤクモから受け取った漫画を興味深そうに読み始める。内容は少年と幽霊が色々なキャラと出会って戦ってといった感じの内容で、次第に漫画の内容にのめり込み始めたのか周りの声や音も耳に入らなくなってしまったようだ。
(……ま、いっか)
先程まで悩んでいたような気がするが、既にツバサの興味が漫画に移ってしまったのを見て、そういうものかと納得する。もし本当に大事な内容だったらツバサだけではなく他の皆にも共有されているだろうと結論付け、別の漫画をヤクモは取り出す。
「「……」」
お互いに完全に無言になってしまい、ページを捲る音と、お菓子の袋や中身が擦れる音と食事音だけが聞こえてくる。そして、どれだけの時間が経ったのだろう。
「……あ」
ツバサの口から名残惜しそうな声が漏れる。ツバサの読んでた漫画は最後のページに辿り着いてしまったようで、続きが気になるところで終わってしまった。次の本はないのかと本棚を見てみるが、どうやらヤクモが持っているこの本はここで終わりのようだ。
「これで終わりか……」
「あ、それ試しに買ってみただけでまだ続きとか買ってないんだよね……というか前作はあるんだしそっちから読めばよかったような……こっちも興味あるなら今度古本屋で買ってくるけど」
「いいんですか?」
「うん、俺も興味があったし折角だしさ……あ」
ふと、ヤクモが時計を見ると時計の針は12を指していた。お菓子もそこまでガッツリ食べていたというわけではないため、昼時ということもあって2人は空腹を感じ取っていた。
「お昼食べに行こうよ。ついでにこれの続きも買いに行こうか。こっち読み始めたならとりあえずこっちの続きから読めばいいのかもしれないし」
「いいですねそれ!」
ヤクモの誘いに嬉しそうに頷くツバサ。そして近くにどんな店があるのか、ヤクモのスマホをツバサも覗き込みながらあーでもないこーでもないと楽しそうに2人は当初の目的など完全に忘れて話始めるのだった。