曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第55話 絵本

 

 

「……なんだか、静かだな……」

 

虹ヶ丘家のリビングで紅茶を飲みながら、ふとましろが呟く。以前までは自分とヨヨの2人だけで暮らしていると思い込んでた家だ。だが最近はソラやツバサ、あげはといった同居人も増え、いつも賑やかになってきていたため、こうして皆が家にいないという時間は逆に新鮮な気がしてくる。

 

「ソラちゃんは朝のランニングでツバサ君は飛行機の観察、そしてあげはちゃんは今日からプリティホリックのバイト……おばあちゃんは乗馬クラブ……皆はりきってるなぁ」

「まーしろー」

 

今日は皆、家の外での用事が入っている。この家に今いるのは自分とエルだけだ。

 

「?あっ!」

 

自分の名を呼ばれ、ましろが振り向くとエルが絵本を持ってましろを呼んでいた。きっと読んでほしいのだろう、本を持ったまま歩いてくるエルの気持ちを察してましろも笑いかける。

 

「絵本だね、一緒に読もうっか!」

「えるぅ!」

「……あ、そうだ、折角だしヤクモ君も呼んでみようっか!」

「ヤクモもいっしょ!」

 

エルにもっと喜んでもらう方法を考えたましろは多分暇をしているであろうヤクモを呼ぶことにする。後で皆それぞれの用事が終わったら合流して集まるだろうし丁度いいだろうということで早速、スマホを手に取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤクモ!いらっしゃい!」

「うん、来たよエルちゃん」

 

そしてましろに呼ばれたヤクモが虹ヶ丘家に上がる。エルは嬉しそうにヤクモの膝の上に座ると、ましろに絵本を読んでほしいとねだるように手を振り、わくわくした表情を見せる。

 

「ヤクモ君、ごめんね急に来てもらっちゃって、忙しかったんじゃない?」

「そんなことはないよ。今日は用事もなかったからちょうどよかったし。そういえばソラさん達はいないの?」

「皆用事で今いないんだよ」

「そっか」

 

きゃっきゃと楽しそうに揺れるエルが膝から落ちないように優しく抑えるように抱きしめてあげながら話をしていると、エルに絵本を見せてあげるようにヤクモの隣にましろが座ってくる。

 

「じゃあ……一緒にシンデレラを読もうっか」

「シンデレラ!」

 

エルが楽しみそうにタイトルを復唱する。そしてましろがシンデレラの物語を朗読し始めると、エルは食い入るように絵本を見ていた。

 

「……というわけで、2人は幸せに暮らしました。めでたしめでたし」

 

そしてましろの朗読も終わり、ましろは絵本を閉じる。

 

「はい、おしまい」

「……エル!」

 

そして絵本を読み終わると、エルはヤクモの膝から降りる。そして、先ほど呼んだシンデレラとは別の絵本を持ってくる。それは桃太郎の絵本だった。

 

「あい!」

「今度は桃太郎?」

「これもましろさんに読んでほしいのかな?」

「よんで!」

 

再びヤクモの膝の上に座り、絵本をましろへと渡すエル。もっと絵本を読みたがっているエルの願いを受け入れたましろは、今度は桃太郎をエルに読み聞かせてあげることにする。

 

「……めでたしめでたしー……」

 

そして、桃太郎を読み終えた頃にはましろの言葉にも若干の疲労が見え隠れしていた。2冊の絵本を続けて読み聞かせるのは想像以上にハードだったようだ。話を終えたましろはやっと落ち着けることに喜ぶようにほっとしていると、今度は別の絵本をエルがましろの元へ持ってくる。

 

「これ!」

「えっ!?」

 

ついつい驚きの声が漏れてしまうましろ。しかし、これほどまでに絵本に興味を持ってくれているエルを無碍にすることはしたくない。しかしましろばかり疲れてしまうのも忍びないとヤクモの方から助け舟を出そうとする。

 

「ましろさん、今度は俺が読むからエルちゃんを……」

「だめ!」

「「えっ」」

 

交代しながら朗読すれば少しは喉も休ませられるだろう。ましろもヤクモの提案を受けようとしたのだが、エルがそれに待ったをかけてしまう。座りながらヤクモの膝をパンパンと叩くエル。どうやら、ヤクモにはこのまま自分を座らせてほしいようで、本を読む役目はましろにやってほしいようだった。

 

「……あー……ましろさん、大丈夫?」

「うん、平気平気!エルちゃんが絵本を読みたいなら、何冊でも読んであげるよ!」

「やった!」

 

ましろの言葉を聞いて喜ぶエル。そしてましろとヤクモは、エルのための朗読会を全ての絵本を読み終え、ソラとツバサが戻ってくるまで続けることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー、ヤクモさんが来てたのはそういう理由だったんですね。そんなにたくさん絵本を読んだんですか?」

「あはは……もう喉がガラガラだよ」

「のど飴とか買った方がいいかもね」

 

市街地を歩きながら、エルとの朗読会の事をソラとツバサに話していたましろとヤクモ。エルは上機嫌で歩いているが、ましろの表情はさすがに疲れが見えており、やれやれと言った様子で自分の喉を擦っている。

 

「プリンセスを抱きながら2人一緒に並んで座ってたから何をしてるのかと思いましたよ」

「あはは……まあやましいことなんて全然ないから。ね、ソラちゃん」

「え!?そ、そんなのわかってますよあははは」

 

突然ましろに念押しされ、慌ててソラが手を振って誤魔化す。朝のランニング終わりに家に戻ってきたソラが自分たちを見て少しざわついていたのをましろも覚えていたのだろう。

 

「エルちゃんのためだからそんな変なこともないよ」

(それはそれで傷つかなくもないんだけどまあエルちゃんとソラちゃんのためだしいっか)

「ふふ、お二人とも優しいですね」

 

ゆっくりと歩くエルと歩幅を合わせるように横を歩きながら、ヤクモがソラに説明する。エルは立ち止まったましろまで近づくと、ましろがエルを抱っこしてあげる。

 

「ふふ、いっぱい歩いたね」

「……あ、見えましたよ」

 

そんなこんなで歩いていると、5人の前にプリティホリックが見えてくる。今日は予定などもなく、何をしようかと考えた4人が決めたのはバイトを始めたあげはの様子を確認しに行くことだった。店内に入ると、ちょうどあげはが店内を歩いている様子が目に入る。

 

「あげはさん」

「あ!ヤッホー皆!来てくれたんだ」

 

5人の姿を見て嬉しそうにあげはが歩いてくる。あげはのバイトの方も順調なように見えるが、ツバサとしてはやはり気になるところもあるようで、

 

「こんな忙しいのにバイトまでやって、無理してるんじゃないですか?」

「全然!前からここでバイトしてみたいって思っててさ。もうめっちゃくちゃ楽しくて!」

「……あげはさんてもしかしてワーカーホリックだったり……?」

「うーん、それはさすがにないと思うけどな」

 

だがツバサの心配も杞憂なようで、あげはは楽しそうにしているようだ。しかし、ツバサのようにあげはが精力的に働きすぎているように見えるのも事実であり、本人が楽しいならそれでいいとは思いつつも、つい零れてしまったヤクモの言葉にそれはないと慌ててあげはも訂正を入れる。

 

「本当ですか?」

「あはは、心配しすぎ!お母さんじゃないんだから!」

「そ、それはこっちの台詞です!大体僕男ですよ」

「案外お母さん適正あったりして」

「ありません、ヤクモさんどう思います?」

「まあ母親ではないなぁ……」

 

からかうあげはに言い返すツバサにヤクモが付き合ってる中、女性陣は商品を見て回っていた。そんな中、ましろが新作のコスメを見つける。

 

「わ!これ新作だよね!?」

「綺麗な色ですね!」

「うん、夏のキラキラ太陽に負けないくらい元気になれそう!」

「素敵な表現ですね」

「「「?」」」

 

楽しそうにコスメを見ている2人だったが、背後から聞こえてきた店員の声にきょとんとしながら3人が振り向く。

 

「あ、菜摘さん!」

 

ツバサとヤクモと話していたあげはだったが、一緒に働いている女性の声を聞いて、彼女がましろ達に話しかけているところに気付いたのだろう。一旦自分たちの話を止めて彼女の名を呼ぶ。

 

「あげはちゃんのお友達?よくうちに来てくれてるわね」

「はい!」

「ましろんはここの大ファンで、それで私もよく来るようになったって感じで……」

「プリティホリックは私の癒しなんです!」

「そうなんだ」

 

菜摘にましろ達を紹介するあげは。ましろのこの店への思いを聞いた菜摘は嬉しそうに笑う。あげはがこの店に来るようになった経緯も、目の前のましろんという少女の影響なのだろうと納得したのだ。

 

「菜摘さんは私の先輩で、普段は美大に通ってる大学生……ですよね」

「うん、絵の勉強をしているの……あ、そうだ。ましろんさん、ちょっと相談に乗ってもらっていい?」

「え?」

 

あげはがそう呼んでいるからというのもあるのだろうがましろの名前をましろんと誤って覚えられてしまったようだ。しかし、そのことをましろが気にするまでもなく、菜摘からの突然の話にきょとんとなってしまうましろ。ソラも当然心当たりがなく、2人とも疑問を浮かべていると、菜摘はましろ達を連れてコーナーの一角に移動する。そこにも商品が置かれており、整っているようには見えたが、

 

「ここ。なんか物足りないような気がして……プリティホリックファンのましろんさんなら、何かいいアイデアあるのかなって思って」

「……」

 

実際に購入したメイクなどを使用するための鏡などが置かれている空間の後ろ。そこにも商品は確かにあり、メイクをした人が鏡越しに、そしてメイクが終わり振り返ったら目に入る場所だ。何かしら、客の目に訴えるものが欲しいという考えたのだろうが、こういうのはやはりプリティホリックファンの客の目線があった方がやりやすいと思ったのだろう。

 

「……」

 

案外ツバサならいい感じのセンスを出せないのかと、女性陣から少し距離を置いてツバサと見ていたヤクモがツバサを見る。ヤクモの言いたいことをツバサも理解したようだが、メイク等については素人も良いところなのかノータッチにすると言わんばかりに首を横に振ってきたのでヤクモも黙ってましろの答えを待つことにする。

 

「この絵……」

 

一応、商品棚の後ろには海の底のような絵が飾られており、これだけでもいい感じの雰囲気であるように見える。店の意向でこの絵が飾られているなら無関係なましろが口を出せるようなものではないと考えたましろだったが、ここでふと菜摘の経歴を思い出す。

 

「もしかして菜摘さんが?」

 

ましろの言葉に頷く菜摘。美大生というだけあってとても上手な絵であり、思わず見入ってしまう程だ。しかし、これに物足りないということは、追加で何かを描きたいということなのだろう。それが何なのかはまだ浮かばなかったが、とりあえず正直に絵を見た感想を伝えることにする。

 

「綺麗……まるで人魚が住んでいるみたい」

「……人魚?……それいいかも!」

「……え?」

 

ましろとしては感想を正直に言っただけだったが、その表現を菜摘はかなり気に入ったようだ。

 

「ちょっと描いてみるから……後で見てもらっていいかな?」

「え、えっと……構いませんけど……」

 

話に置いてかれ、戸惑いながらも菜摘の頼みを受けることにするましろ。そして菜摘が絵を修正している間、5人がカフェの方で時間を潰していたが、やがて絵が完成したのだろう、5人とあげはが戻ってみると。

 

「うわぁ……!」

 

そこには桃色の髪をした人魚が絵の中に追加されていた。水面に向かって手を伸ばしているポーズを見せる人魚と海の底は、絵としての完成度がさらに高まっているように見えた。

 

「短い時間でこんなに描いちゃうなんて!」

「これすっごくいい!新作コスメ使ったら、人魚になれそうって感じする!」

 

女性陣からの評価は文句なし。ツバサとヤクモも声には出さないが凄く良い絵だということは一目で理解できた。

 

「うん、ありがとう!私にもましろんさんみたいなセンスがあったら絵本もすいすい描けるんだろうけど……」

「絵本ですか?」

「あれに挑戦してるの」

 

菜摘が指差したのは、棚の横に貼られているポスター。そこには。

 

「ソラシド市、皆の絵本コンテスト……?」

「そう。でも中々うまく描けなくて……」

 

どうやら、自作の絵本を応募するコンテストが開催されているようだった。しかし、創作作業に菜摘は中々苦労している様子であり、詩的な表現が自然と出てくるましろの感性があれば絵本も捗りそうだと思っているようだった。

 

「……そうだ!ましろんさんもやってみたら?」

「え!?いえいえ、そんな……!」

 

突然、絵本作成を誘われて驚きのあまり辞退するましろ。しかし、

 

「へえ、面白そうじゃん!ましろん!」

「え、えぇ……?」

 

乗り気なあげはを筆頭に、あれよあれよという間にましろが絵本を作るということが決定する。そして実際に絵本を作るとなるとましろもどこか乗り気な自分がいたようで、場所は打って変わってホームセンターに買い物に来ていた。

 

「絵本作り……絵の具がいいのかな?それとも色鉛筆?」

「うーん……わりかし自由じゃなかったかな?そういえばページ全部に穴が空いてる奴とか飛び出す絵本とかもあったよね」

「あ、あったあった!そっかそういうのものあったね……」

 

絵本を作るにしても道具が必要だ。画材なども必要だが、まずどういう本を作るかどうかというのも大事。ツバサとソラが店内を見て回ってる中、ヤクモとましろはスマホを覗いて絵本の作り方や参考になりそうな絵本を色々調べてまわっていた。

 

「ヤクモ君はどういう絵本がいいと思う?」

「どうって言われてもな……まあ、飛び出す絵本とかは見てて面白そうだけど……やっぱりましろさんが作りたいものが大事じゃないかな」

「そっか……そうだよね……うーん、でも初心者が手を出すものじゃない気がするんだよねそれ……」

「そうかも……じゃあ最初はシンプルにする?」

「そうするよ」

 

話を構築し、絵を作り、さらに立体物を作り、それを本の中に折りたたむ。さすがに初心者が最初に手を出すものではないと考えたましろは奇を衒ったものではなくシンプルなものから手を出すことに決める。

 

「ましろさん!ヤクモさん!ありました!」

「こっちもありましたー!」

 

ソラとツバサがスケッチブックや色鉛筆を持ってくる。

 

「ありがとうソラちゃん、ツバサ君。でも……本当にいいのかな?絵本を作るの、凄く大変そうだけど……できるかな?」

 

それを買い物かごの中に入れながらそう呟くましろ。そんなましろに心配はないとソラは元気よく声をあげる。

 

「ましろさんの雲パン、私は凄く感動しました!菜摘さんが言うようにましろさんにはせんすというものがあるのだと思います!」

「うん!」

「そうだね、センスはきっとあるよ」

「えへへ、そうかな……」

 

3人に褒められ、照れながらも喜びを露わとするましろ。こう言われると確かにできそうな気がしてくる。

 

「私、ましろさんが描く絵本を見てみたいです!」

「僕も!」

「エルちゃんも、きっと楽しみにしてるんじゃないかな?」

「そうかな……?わかった、とりあえずやってみるよ!」

 

皆から後押しされ、絵本を絶対に完成させようと改めて決意を固めるましろ。と、そこにツバサと一緒に店内を見て回っていたエルが、ツバサと一緒に見て回ってるときに見つけたのだろう、砂場での遊び道具を持ってましろとヤクモの元に歩いてくる。

 

「あーい!」

「あはは、それは絵本と関係ないけどね……」

「でも、プリンセスが気に入っていますし、買ってあげましょうよ」

「えるぅ!」

 

これが欲しいと、小さなスコップを持ちながら訴えかけるエル。これぐらいなら大した出費にもならないだろうとましろも頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……むむむ」

 

スケッチブックを前に悩むましろ。その視線の先では公園の砂場で遊ぶエルを3人が見守っている姿があった。楽しそうに砂場にスコップを差し込むと、砂を掘って持ち上げる。それだけの事なのだが心地の良い音や感触にエルもご満悦のようである。

 

「……とりあえずお話を考えないと……むかしむかし……」

 

大体の昔話をモチーフとした絵本に従い、定番のフレーズから話を考えようとするましろ。

 

「山の中にサラサラと流れる川……そこに大きな大きな桃が流れて……いやこれ桃太郎だし!?しかも大きい……?」

 

昔話の切り口で初めてしまったせいか、途中で名作に引っ張られ始めてしまい、慌ててこうではないと修正を入れる。

 

「川からカボチャが流れてきて、中からそれは美しい女の子が……ってこれはシンデレラだよ!?しかも桃太郎とごっちゃになってるし!」

 

慌てて桃をカボチャに置き換えたのもつかの間、今度はカボチャ繋がりでシンデレラの方と繋がってしまう上に桃太郎と混ざってしまいよくわからない話になってしまった。これでは絵本のプロット作りなど夢もまた夢であるとましろは思わずため息を吐いてしまう。

 

「はあ……やっぱり私には無理かも……ストーリーなんて全然浮かんでこないし、絵だってあんなに綺麗に描けないし……そもそも私にセンスなんて……」

 

落ち込み始めたましろを見たソラはどうしたらいいかとヤクモに助けを求めるような目を向ける。早々に煮詰まってしまったましろにどうアドバイスをすればいいかはヤクモにもわからないが、ソラの目を見ると何かしらしてあげる必要があるだろうと思い考える。

 

「……プリンセスには僕がついていますから、2人はましろさんの所に行ってあげてください」

「いいの?……わかった、ましろさんの所に行こうっか」

「はい」

 

そこに助け舟を出したのはツバサだった。ツバサは気にしないでほしいと頷くと、ソラと共にましろの元に向かう。

 

「ましろさん……すみません、私、ましろさんを困らせてしまったみたいで……」

「ソラちゃん……ヤクモ君……ううん、言ってもらえて嬉しかったし……でも……皆みたいにあれをやりたいって気持ちにはなれなくて……」

「……」

 

ぼんやりと空を見上げながら自分の気持ちを吐露するましろ。八方塞がりになってしまい、ふぅと溜息を吐いてしまうましろに、慌ててソラが宥めようとする。

 

「あ、あの!ましろさんはましろさんのままでいいという気持ちは今も変わりません!だから気にしないでください!」

「えっと……菜摘さんも苦戦してたみたいだし、すぐにできなくても落ち込まなくても大丈夫だよ。ゆっくり考えていけばいいと思う……なんか素人が好き勝手言ってるようであれだけど……」

「ソラちゃん、ヤクモ君、ありがとう……」

 

ヤクモも、ましろを元気づけようとする。2人の言葉を聞き、ましろも少しは気分が晴れたようだ。ヤクモの言う通り、いきなりポンと生まれるなんて都合の良い話はまずないのだ。のんびりじっくり自分のペースでやっていけばそのうちできるのかもしれないと心を納得させていると、

 

「プリンセス、1つぐらい貸してあげてもいいじゃないですか」

「「「?」」」

 

ツバサの諭すような言葉が聞こえてくる。3人が顔を砂場の方に向けると、エルの傍に1人の同じぐらいの歳の男の子が立っていた。

 

「えーるぅ」

「もう……」

「どうしたの?」

 

喧嘩でもしたのだろうか。3人が気になってツバサとエルの元へ向かうと、ツバサが困った表情で振り向く。

 

「それが……絶対に貸さないって……」

「だーめ!!」

 

どうやら、エルは自分の遊び道具を他の人に貸したくないようだ。ツバサの言うことも拒否してしまっており、完全に取り付く島もない。

 

「そんな心の狭いことでどうするんですか?仲良くしなきゃ駄目、ですよ」

「えーるぅ……」

 

ソラに言われ、少し迷う素振りを見せるエル。ツバサだけでなくソラからも自分のおもちゃを貸してあげようと言われるとは思わなかったようだ。

 

「今回は貸してあげていいんじゃないかな?今から俺がもう1つスコップ買ってくるからさ、それでエルちゃんも一緒に遊べるよ」

「ヤクモさん……それ甘すぎません?」

「え……そ、そう?」

「あんまり甘やかすと小っちゃい子は調子乗っちゃいますよ」

 

エルの機嫌も損ねないようにとヤクモも説得しようとするのだが、ヤクモの提案を聞いたソラは思わずジト目でヤクモを見てしまう。

 

「ね?エルちゃんの大好きなこのおもちゃでお友達と一緒に遊べたら、きっともっと楽しいよ」

 

ましろもエルを説得しようとする。しかしどうしてもおもちゃを貸したくないエルは嫌そうに手に持つスコップを見るばかり。一瞬葛藤しているようにも見えたが、

 

「やー!やー!」

 

どうしても嫌なのか首を横に振ってしまう。と、そこに1人の女性が慌てて走ってくる。

 

「すみません、ウチの子がご迷惑をおかけしちゃって……」

「あ、いえ……」

 

どうやら男の子の母親のようだ。彼女から謝罪されてしまい、慌ててましろは返事を返す。

 

「さあ、行きましょうね」

 

男の子は母親に手を引かれるまま砂場から去っていく。自分のおもちゃを奪う相手がいなくなったのを確認したのか、エルはまた嬉しそうにスコップを砂場に差し込み始める。

 

「まったく……」

「ファーストシューズの時もそうだけど、一度気に入ったものはとことん手放さないところがあるのかな……」

 

やれやれと言った様子のツバサと、過去の件も合わせてエルには独占欲みたいなものがあるのかとついつい考えてしまうヤクモ。悪いところばかりではないのだが、こういった事態になってしまうことを考えると複雑な心境になってしまう。

 

「……もしかしたら、手放したくないという気持ちがプリンセスは強いのかもしれませんね……カバトンに攫われかけ、今は王様と王妃様も眠っている……」

「「……」」

 

ヤクモの言葉を裏付けるようにツバサも複雑な面持ちで呟く。まだ赤ちゃんだというのに親元からいきなり引き離され、やっと会えたと思えば呪いの昏睡状態に陥り再び離れ離れになってしまう。そういった状況が続けば確かに独占欲が生まれてしまうのも仕方ないことと言えなくもないのかもしれないが。

 

「……まだまだ未熟です」

「?」

「私はエルちゃんを叱るばかりでしたが……ましろさんはエルちゃんに優しい気持ちを伝えていて……凄いです」

 

ソラはましろの諭し方を見て、自分との違いを分析していた。そしてそのうえで、ヤクモとツバサの話を聞けば、エルにはもっと適した言い方があったはずだと気付いたのだ。

 

「そんなことないよ、結局エルちゃんにもわかってもらえなかったし……どうしたらよかったのかな……?」

 

しかし、ましろとしても今回の結果は不本意であった。エルに分け合うことの大切さをわかってもらいたかったのに、それが伝わらなかったのだ。どうすればよかったのか、そんな悩みを抱いたましろの耳に、女性の声が聞こえてくる。

 

「むかーしむかーし」

「!」

 

それは、ベンチの1つに座っていた女性が娘に絵本を読んであげている声だった。それを聞いたましろははっと気づくと、スケッチブックなどの荷物をまとめ始める。

 

「ごめん、私先に帰ってるね!」

「?」

「ましろさん?何かあったのかな……?」

「さあ……でも……何かをやろうとしてるのかな」

(……待ってて。エルちゃん)

 

ましろにどういう心境の変化があったのかはわからない。だが、絵本を描くために必要な何かをましろは見つけた。そんな気配を感じながら、砂場を後にするましろを見送るのだった。

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