曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第60話 嵐の前の静けさ

 

 

「……」

 

陽の光も差してこない森の奥深く。人はおろか、野生動物の気配すらないその奥深くに、蠢いてる何かと、1人の細身の男がいた。

 

「……やっと仕上がってきたな」

 

それを見ながら、バッタモンダーが静かに呟く。この切り札ができたのは偶然に偶然が重なった結果だった。しかし、やはり自分の目は間違っていなかったと目の前の光景を見て確信できる。

 

「そうだ、俺の目は決して間違っていたわけじゃない」

 

スカイランドで生み出した巨大ランボーグ。あの戦術だって決して誤りではなかったし、間違いなく神の一手だったはずだ。町中に残留しているアンダーグエナジーを利用するというプランも、エルを手に入れるために講じた二段構えの策も、全て本来ならスカイランドとプリキュア達に致命的な被害をもたらすはずだったのだ。そしてバッタモンダー自身、間違いなく後一歩のところまで来ていたはずだ。来ていたはずなのに、

 

「……ソラ・ハレワタール……!あいつさえ最後に邪魔をしなければ……!!」

 

そのエルを連れ去ろうとした直前にスカイに、ソラに邪魔された。あの妨害さえなければここまで長引いて拗れることすらなかったのだ。目的の1つであるエルを連れ去るという行為、それさえできればバッタモンダーは今頃アンダーグ帝国でもその功績を認められていただろう。そう考えると腹が立ってしょうがない。

 

「くそ、本当にイライラしやがる……!」

 

実際には、あの場からびびって逃げ出したのはバッタモンダーであり、スカイの方も満身創痍だったのだ。下手をすれば直前に気絶させたツバサよりも簡単に倒せたかもしれないぐらいに消耗していたぐらいの状態だった。なのにそこから逃げ出したバッタモンダーの方に問題があるのだが、本人はそれから目を背けるように一方的にソラが悪いと思い込み、逆恨みしていた。

 

「……だがまぁいい。こいつで奴を絶望の淵に叩き落すことはできる……くくく、さて次は……ヤクモか」

 

バッタモンダーの次の怒りの矛先はソラではなくヤクモだった。ソラはエルを連れ去るという目的を妨害した一番の厄介者だが、ヤクモも同様だ。特にヤクモは、あの方から直々に殺せという任を受けたのだ。そしてこちらも完遂間近まで漕ぎつけたのに、何故か生きていた。それだけではない、ヤクモはアンダーグエナジーを扱う術を身に付けたようでランボーグの召喚も行えるようになってきているのだ。近いうち、これの完成と並行してヤクモの抹殺を行うしかない。

 

「まあ、こっちもどうとでもなるだろう……ついでにソラを追い詰める材料にもなるしな……だが」

 

ぼんやりと考えている作戦はある。しかし、この作戦を実行するにあたり1つだけ不安材料はあった。

 

「……これを成功させなきゃ俺に未来はない……確実に成功させなきゃいけないんだ……でも、ぶっつけ本番でやれるのか……ん?」

 

そんなことを考えていると、茂みが揺れる音が聞こえてきた。バッタモンダーがその茂みに視線を向けると、そこから出てきたのは小さな犬だった。

 

「なんだただの野良犬か……いや、待てよ」

 

その犬を見たバッタモンダーはあることを思いつく。そして野良犬を簡単に捕まえると、その手にアンダーグエナジーを出現させる。

 

「ワウ!?」

「君に恨みはないが、これも僕の未来と心のため……カモン!アンダーグエナジー!」

 

犬の方も恐怖を本能的に察したのか吠え始める。それを無視するように、バッタモンダーがアンダーグエナジーを犬に注ぎ込むと、

 

「ワ……ワ……ワン……ラン、ボーグ……!?」

 

犬の体がアンダーグエナジーに包まれていき、四足歩行の大きな犬のような形のランボーグへと変わっていく。

 

「ランボーグ!!」

「……少し走り回ってこい」

「ランボーグ!」

 

森の中を軽く走り回ってくるランボーグ。そしてバッタモンダーの元に戻ってきたランボーグに、バッタモンダーはある程度の命令を下す。それを実行してきたランボーグを見て、ふむ……と満足げに頷いた直後だった。

 

「ら、ラン……キャウン!?」

 

ランボーグが突然苦しみだすと、ランボーグの中から素材となっていたはずの犬が弾かれたように飛び出す。ランボーグの素材から解放された犬は慌ててその場から逃げ出すのを見て、やっぱりこういうところはあるかとバッタモンダーもどこか納得はしていた。

 

「まあ……あっちはもっと長い間漬けてきたから長持ちはするだろう……ん?」

「ランボーグ!!」

 

この時まで気づかなかったが、どうやら野良犬だと思っていた犬は飼い犬だったようで、首輪がついていたようだ。今のランボーグは首輪が巨大化し、そこに手足が生えたようなランボーグに姿を変えていた。

 

「……まあいいか。こいつで奴らを攻めてやろう。いくぞランボーグ、バッタモンモン」

 

ふっと笑い、指を鳴らすバッタモンダー。その額の宝石が光ると共にバッタモンダーとランボーグを包んで町中へと転移するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「皆、おかえり!」

 

スカイランドから戻ってきたヤクモ達を4人が出迎える。スカイランドで何が起こったのかと不安そうな様子のエルに気付いたヤクモが優しくエルの頭を撫でる。

 

「えるぅ……」

「大丈夫だよエルちゃん。アンダーグエナジーが残ってたけどそれは浄化したから」

「エル!」

 

ヤクモの報告を聞いてエルが嬉しそうに声を上げる。スカイランドが安全だとわかって嬉しいのだろう。それを見て皆微笑んでいたが、ツバサがそのアンダーグエナジーをスカイランドに残していった謎の人物のことを気にし始める。

 

「ところで……例のランボーグを生み出した人物については?」

「それが……まだ調査中だそうで……ただ、副隊長達の方でも色々対策を取るとは言っていました」

「一体何者なんだろうね……」

 

うーんと悩むましろ。ソラとヤクモも揃って首を傾げていたが、その様子を見ていたヨヨは困った様子を見せる。

 

「私の方でも何かわからないか調べてみるわ。3人とも、急だったけどスカイランドに向かってくれてありがとう」

「いえ!これぐらい当然の事ですよ!ね、ヤクモさん」

「うん。何事もなくてよかったよ」

 

これ以上の事は時間が経たないとわからないようなので一旦ここまでにする。そして用事が終わり、この後の空いた時間をどう過ごすかとヤクモがぼんやり考え始めていたが、

 

「これは……ランボーグ!?」

「「「「!!」」」」

 

いきなり出現したランボーグの気配にヤクモが目を見開く。ソラ達も顔を見合わせると、5人はランボーグと戦うため気配を感じた町中へと向かう。そこには力任せに暴れ、街を破壊して回るランボーグの姿があった。遠くの建物の屋根の上を見ると、バッタモンダーがランボーグが暴れているところを見下ろしているのが確認できた。

 

「そこまでです!」

「!」

 

ソラの言葉に振り向くランボーグ。ランボーグが5人を目視したのを確認し、ソラ達はプリキュアへと変身する。

 

「ランボーグ!!」

 

ランボーグが両腕を振り回す。散開してそれを避けると、プリズムが光弾をランボーグへと次々放つ。それを体を半回転させて空白の部分を光弾が通過していってしまう。

 

「えっ!?」

 

攻撃を回避したランボーグが高速回転しながら自分を狙ってきたプリズムへと襲い掛かる。バタフライがそこに割り込んでシールドでランボーグの突撃を受け止めると、ランボーグの体が弾かれる。そのまま回転しながら吹き飛ぶランボーグは何回かバウンドしながら距離を取っていく。

 

「喰らえ!!」

 

だがその先には既に先回りしていたウィングが待機していた。ウィングが勢いよく回し蹴りを放つも、それを喰らったランボーグが回転しながら再び吹き飛んでいく。だが、

 

「っ!?」

 

その感触にウィングの表情が困惑する。吹き飛んだランボーグに追い打ちをかけるようにスカイが殴りつけるが、またしてもランボーグが吹き飛んでいってしまう。

 

「ランボーグ!」

「……?」

 

スカイの方もウィングと同様の違和感を感じたようだ。再び吹っ飛ばされたランボーグは壁に激突すると再び反射してプリキュアへと襲い掛かってくる。

 

「え!?」

「こいつ……!?」

 

ランボーグの特性か何かなのか。クラウドが雲を出現させてランボーグを受け止めると、それがクッションになったかのように勢いよく弾かれてしまい、再び壁に激突し、反射して襲い掛かってくる。それを見て、クラウドもランボーグの特性を理解する。

 

「こいつ、随分跳ねるな……」

 

物理的な衝撃を浴びせても、その衝撃を吸収してしまい、吹き飛んでしまう。そして壁や地面に激突してもさらにその反動で飛び出してしまう。スカイやウィングのような物理攻撃では効果が見えず、バタフライやクラウドが能力で受け止めると、それすらも自身の特性に繋がってしまう。プリズムの攻撃なら通用するかもしれないが、体が空洞という特性を踏まえると回避もしやすい。予想外の難敵の出現にクラウドも険しい表情を浮かべる。

 

「……あのランボーグ、意外とやるな」

 

その光景を見てバッタモンダーも少し感心したように呟く。このランボーグはプリキュアを倒すために召喚したわけではないため、あまり戦力として期待してなかったのだが、まさかここまでやるとは。

 

「……このまま押し切ってしまえ、ランボーグ!」

 

ランボーグが再びプリキュアに襲い掛かろうとしてくる。だが、正攻法では倒せないと悟ったかバタフライがミックスパレットを取り出す。

 

「2つの色を1つに!レッド!ホワイト!混ぜ混ぜカラーチャージ!!」

 

桃色の光がスカイへと宿る。ミックスパレットの力によってパワーを増したスカイがぐっと両手を握りしめ、力が満ちていくのを感じ取る。

 

「スカイ!」

「はい!」

 

バタフライの狙いに気付いたスカイがランボーグに突っ込んでいく。ランボーグがスカイに攻撃を加えようとするもそれを回避して懐に潜り込む。そしてランボーグの体を掴む。

 

「今です!」

「よし!」

 

バタフライが複数のシールドを出現させる。それをブーメランのように投げていくと、それがランボーグの体に切り込まれていく。

 

「ランボーグ!?」

 

スカイを振り払おうとするランボーグだったが、痛みに固まってしまう。シールドの切れ込みが入っていくのに耐え兼ね、切れ込みが広がるのも承知で無理して勢いよく暴れる。さすがにスカイもずっと掴んでいると自分が危ういと判断したのかここで一旦離れることにする。だが、間髪入れずに入れ替わるように飛び込んできたクラウドがアンブレランスを切れ込みへと差し込むと、そのまま地面に突き刺す。

 

「ランボーグ!?」

 

内側が空洞なのもあり、アンブレランスの先端は遮られることなく深く地面に突き刺さってしまう。ここからランボーグが無理やり抜け出そうとすれば切れ込みはどんどん広がっていき、ぶちんと千切れてしまうことだろう。

 

「これで動きは止めた!ウィング!バタフライ!」

「はい!」

「オッケー!」

「ひろがるクラウドプロテクト!!」

 

クラウドがバタフライとウィングに合図を飛ばすと、バタフライも再びミックスパレットを構える。クラウドはそれを確認せずにクラウドプロテクトを発動すると、ランボーグが巨大な雲に閉じ込められてしまう。それを見たウィングはバタフライから虹色の光を受け取り、巨大な鳥となる。

 

「プリキュア・タイタニック・レインボーアタック!!」

「スミキッター……」

 

クラウドプロテクトの内部へと飛び込んだ超巨大プニバードがランボーグを押し潰す。その落下の反動で飛び出したアンブレランスをクラウドがキャッチして回収すると、ランボーグの素体となっていた首輪を見る。ボロボロな首輪だったが、どこから見つけてきたのかとちょっとした疑問だけ脳の片隅に置いておきながらここまで静観していたバッタモンダーの方に他の皆と一緒に振り向く。

 

「……バッタモンモン」

 

だがバッタモンダーは意外や、逆切れしたり取り繕ったりすることもなく、静かに消えてしまった。いつもと違う反応に引っかかるものを感じながらも、クラウド達は変身を解くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

「おうお帰り」

 

ランボーグとの戦いが終わり、その後は何も何事もなく、ヤクモは家に帰ってきていた。リビングに入るとそこでは父がテレビを見ながら過ごしていた。

 

「母さんは?」

「買い物だぞ」

「そっか」

 

母親がいない様子だったが、どうやら買い物に行っているようだった。だが、それならちょうどいいと思ったヤクモはあるものを取り出す。

 

「これ、落とし物だよ」

「ん?……ああ……ん?」

 

落とし物と聞いて少し怪訝そうな表情をするムラクモ。落とし物の心当たりがないのだろう、貴重品でもなくしたかなと疑問そうに呟きながら自分のポケットやらなんやらを探し始める。

 

「いや貴重品じゃないけど」

「なんだ、じゃあ何落とした……んだ……」

 

ムラクモの目の前にヤクモがキーホルダーを置く。それは、ムラクモが個人的に持っているキーホルダーで、赤い宝石のようなプラスチックか何かが金属の型にはめ込まれてる形状をしていた。昔、母と2人で一緒に手作りした思い出のキーホルダーなのだとあかりから自慢されたことが以前あったため、そのデザインをヤクモも覚えていたのだ。

 

「お前、どこでこれを?」

 

それを見たムラクモが静かにヤクモに質問する。普段の温厚な雰囲気から出てくる言葉とはまるで違う。おそらくヤクモが初めて見聞きしたであろう真剣な表情と厳しくも威厳の感じさせる低い声音だ。おそらくはムラクモも、それをヤクモがどこで見つけたのか気付いたのだろう。だが一応念のためにヤクモにどこで見つけたのかと質問する。

 

「!……町だよ」

「!……そうか」

 

ヤクモも今のムラクモの反応である確信をしていた。だから正直に話そうかとしていたのだが、チャイムの音が鳴ったため、街中で見たと誤魔化すことにする。ムラクモも、チャイムの音を聞いてあかりが帰ってきたことに気付いたのだろう、ヤクモの返しに特に何も触れることなくキーホルダーを受け取ることにする。

 

「まあ、こいつを拾ってきてくれて助かる。あかりに悪いからな、いつか探しに行かないと思ってたんだ……で。これだけでいいのか?」

 

他にも聞きたいことがあるのではないか。今は無理だがタイミングを作るべきかどうか。そう遠回しに告げるムラクモにヤクモは首を横に振ると、

 

「多分、今はまだいいよ」

「そうか」

 

今ヤクモが知ってもこれ以上活かしようがない情報しか手に入らないだろうと考えて返答する。それならそれでいいとムラクモが納得したところであかりの声が玄関から響いてくる。

 

「ただいまー!」

「おう、おかえり」

「お帰りなさい」

「あら、ヤッ君も帰ってきてたの?……あっ、そのキーホルダー!」

 

リビングに買い物袋を手に入ってきたあかりがムラクモが持っているキーホルダーを見て嬉しそうに笑う。これはまた2人の思い出話になるなぁと考えながら、やれやれとヤクモは2人の話に耳を傾けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。1人、自宅への帰路を歩いていたヤクモの姿が町中にあった。普段着な所から、先ほどまでソラ達と共にいたのだろうということがわかる。

 

「……!」

 

太陽も沈みかけており、完全に夜になる前には家に着きたいと思ったヤクモだったが、その足が突如として止まる。その理由は、ヤクモの目の前にバッタモンダーが現れたからだ。

 

「……バッタモンダー」

「やあ、元気にしていたかい?君に会いたかったよ」

 

バッタモンダーは嬉しそうにヤクモに話しかける。ヤクモに会いたかったというのは本当なのだろう。それがどういう意味かは考えるまでもないだろうが。

 

「今度は何を企んでるんだ?」

 

素早くヤクモは変身し、キュアクラウドになってバッタモンダーと対峙する。家が離れているため1人で帰るしかないが、そこを狙われる可能性も危惧してはいた。しかし、実際に目の前にバッタモンダーが現れたのを見ると、遂にこの時が来たのかと感じてしまう。

 

「ふふ、そうだねぇ……君たちを絶望のどん底に叩き落す必勝の策、かな?」

「だったら出してみたらどうだ?そのランボーグを」

 

今の自分に攻め手はアンブレランスと、アンダーグエナジーが生み出すランボーグしかない。皆がいる状況ならば連携も兼ねてあまりアンダーグエナジーを使うことは少ないが、孤立して戦うことになる今は使用を控える必要もない。掌にアンダーグエナジーを浮かべていき、いつでもランボーグを召喚できるとバッタモンダーに威嚇するように示す。

 

「せっかちな男だねぇ……ま、僕もそこまで鬼じゃない。スペシャルゲストの登場を待ち望んでいる人を前にしてお預けするのもよろしくないからね。さぁ来るがいい、ランボーグ!」

「ランボーグ!!」

 

バッタモンダーの声と共に頭上からランボーグが落下してくる。クラウドがその場から退避し、目の前に着地したランボーグを見る。人型であり、騎士のように剣を携えるランボーグ。それを前にしたクラウドがアンダーグエナジーをアンブレランスへと宿らせると、アンブレランスがパイルバンカーを内蔵したガントレット型のランボーグへと変化する。

 

「ふふ……」

(何かを企んでるようだけど……!)

 

仮にクラウドが倒しきれなくても戦いが長引けば、他の皆だって来る。耐久戦に持ち込めるならそれはこちらとしても望むところだと、不敵に笑うバッタモンダーと剣を構えるランボーグに、クラウドはガントレットを構え突っ込んでいくのだった。

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