曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第63話 砕けた心

 

 

「……」

 

翌日は登校日だった。だがそこにはましろの姿だけがあった。クラスの中にはヤクモとソラの姿がなかった。

 

「ハレワタールさんと嵐堂さんは今日は体調不良でお休みです」

 

担任がクラスメイトにヤクモとソラが休みであることを報告する。昨日の戦いの後、ヨヨはヤクモの家に電話をしていた。ヤクモの事を誤魔化すのだという。どうやらその話は成功したようで、学校への報告はちゃんと誤魔化せたようだ。

 

「……」

 

授業が始まっても、ましろは完全に上の空だった。今日はヤクモの事を誤魔化せたようだが、明日、明後日と続けば間違いなくいつかはばれてしまうだろう。もしそうなったら、

 

(ヤクモ君がプリキュアだってばれたら……ヤクモ君のお父さんとお母さん……怒るよね)

 

2人の両親は絶対に怒るだろう。自分たちがプリキュアだって知らないが、もし自分の両親もプリキュアの事を知ったら戦うのを止めさせようとするかもしれない。もしヤクモが助かっても、これをきっかけにヤクモは親から戦うことを止めさせられるかもしれない。そうなっても、自分達に意見する権利などない。

 

「……ただいまー……」

 

落ち込んだ気分のまま、時間は過ぎていき夕方。途中でパン屋が目に入り、ソラが元気になるかもしれないとメロンパンを買ってくる。確かここのメロンパンは少し話題にもなっていたはずだし、学校でソラも聞いていて興味があったはずだ。きっと、元気を出してくれるはずだと、帰宅したましろはソラの部屋への扉を叩く。

 

「ソラちゃん、チョコチップメロンパン買ってきたよ?」

 

中からの反応はない。昨日の戦いの後、ソラはこうして部屋に引きこもってしまっている。シャララがランボーグにされてしまい、浄化すればシャララの命がなくなるかもしれないという状況。それに加え、自らの手でヤクモを葬りかけてしまったショックで、完全にソラの心は折れてしまったのだ。

 

「……ソラちゃん?入るよ……」

 

少しだけ、本当に入っていいのかどうか葛藤しつつも扉を開ける。電気はついておらず、カーテンも閉め切られているせいで部屋の中は暗い。ソラの様子を見ようとましろが部屋の明かりを点ける。

 

「ソラちゃん?」

 

そこには誰もいなかった。机の上にはヒーロー手帳とミラーパッドが置いてあることから、もしかしたらトイレにでも行っているのだろうかと考えながら部屋の中に入っていくと、開かれたままのヒーロー手帳に何かが書いてあることに気付く。

 

「……え!?」

 

それを見たましろが、血相を変えて手に持っていたメロンパンの袋を落とす。だが、そんなことなど頭の中から吹っ飛んでしまったかのようにましろはリビングへと走り出す。

 

「大変だよ!?」

 

そのヒーロー手帳には、こう書かれていた。『わたし、ヒーローにはなれませんでした さようなら』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

スカイランドに存在するのどかな村。そこが、ソラの故郷だった。

 

「……」

 

巨大なリュックサックを背負い、悲しくも重々しい雰囲気で実家の前に立つソラ。スカイランドにはインターホンの代わりに呼び鈴が家の前についている。少し躊躇っていたが、恐る恐るといった様子で呼び鈴を鳴らす。

 

「はーい……ソラ!?」

 

女性の声が聞こえ、扉が開かれる。来客の対応をしようと出てきた女性はソラの顔を見て驚きの表情を浮かべる。

 

「……ただいま」

「……一体どうしたの……?王様達の呪いを解くために向こうの世界に行ったって聞いてたけど……」

「……うん、でも、あのね……」

 

その女性の名はレミ。ソラの母親だった。娘の辛そうな表情を見て、何かがあったのだとすぐに理解する。だが、ソラは今は話したくないと言うかのように頷くだけ。それでも、やっぱり説明しないといけないと思ってはいるのだろう、どうにか話そうと頑張ってはみるのだが、やはり言葉が続かない。と、

 

「あ、お姉ちゃんだ!ソラお姉ちゃん!」

「……あ、レッド……」

 

1人の男の子がソラの姿を見つけて走ってくる。ソラよりもずっと歳の小さい男の子であり、ソラの弟だった。そのレッドという名前を呼びながらも、久しぶりに家族に会えたことを喜ぶように笑顔を浮かべるソラ。

 

「おかえり!……ってことは、悪者やっつけたんだね!!本物のヒーローになったんだね!」

 

顔をキラキラさせながらソラに言うレッド。しかし、今度こそソラは困った様子になってしまう。自分は間違ってもここに凱旋しに来たわけではない。むしろその逆だ。もう戦いたくない、ヒーローにはなれないと夢を諦めて帰ってきたのだ。だが、弟の目を見ていると、それを話していいのかどうか、わからなくなってしまう。そんなソラにどう言葉をかければいいのかわからないでいる母。と、家の奥から男性の声が聞こえてくる。

 

「レッド、ソラ」

「「あ……」」

「チシューが冷める。入りなさい」

 

その男性、シドはシチューのような食べ物、チシューを手に持っていた。弟に質問攻めにされて困っているソラを見かねたのか、静かにその場を収めるようにそう言うと、皆に家の中に入るようにと促す。

 

「……パパ」

「えへへ、お腹空いた!」

 

久しぶりに父親の姿を見て、安心を覚えるソラ。それでほんの少しだけ心が軽くなったのか、腹の虫を鳴らす弟に苦笑してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして、晩御飯の準備ができる。久しぶりに食べる母親のチシュー。普段ならこんな美味しい食べ物を前に食欲が湧いてこないわけがないのだが、今のソラには正直食欲も湧いてこなかった。それでもと暫く無言のままチシューを口に進めていくが、次第にポツリ、ポツリとソラシド市で何があったのか話し始める。それを両親は無言で聞いていたが、ソラが話を終えると、

 

「……そう、そんなことが……」

 

娘から聞いた話に言葉を失うレミ。娘がプリキュアとなり、王都であった一件も知っていた。しかし、ソラの身に起こった出来事はレミにとっても予想を遥かに超える内容だった。

 

「なんでお姉ちゃんのペンは壊れちゃったわけ?」

 

レッドは疑問に思ったことをソラに聞く。シャララの事やヤクモのことなど、あまりに大変すぎることが起こっているのだが、どうやらまだ幼い彼には理解しきれなかったようだ。それよりも、真っ先に気になったのはソラがプリキュアになるために必要なミラージュペンが消滅したという事実だった。

 

「……ミラージュペンはね……」

 

その理由は、ソラもずっと考えていた。プリキュアであることを止めたのは、自分だけではない。過去にはヤクモもその決意をしていたが、彼の元からミラージュペンが消えることはなかった。だが、彼と自分では決定的な差があった。それは、

 

「ここから出てくるの。きっと、私の気持ちが形になったものじゃないかな……でも、なくなっちゃった。強い敵に立ち向かう勇気も、ヒーローになる夢も……」

 

戦う意思があるかどうか。ヤクモはプリキュアにならなくても、戦うつもりでいた。その心があったからこそ、ミラージュペンは光を失わなかったのだろう。だが自分の場合は違う。完全に心が折れてしまった。

 

「友達が提案してくれた作戦も、失敗することが怖くて……私のせいで、大切な友達が、死んじゃうのが怖くて……だから、ミラージュペンが壊れちゃったんだと思う……」

 

そんなソラの心境を表すかのように、ミラージュペンは消滅してしまったのだろう。もうプリキュアじゃない。そう告げられたような気がして、すっかりソラの精神は参ってしまっていた。

 

「私……ヒーローになれなかった……」

「もういいわ」

 

こんなに傷ついてまで、無理に戦わなくてもいい。そうレミは言うのだが、納得がいかないとばかりにレッドが立ち上がる。

 

「よくない!約束したじゃん!絶対ヒーローになるぞって!なんで簡単に諦めちゃうんだよ!!」

「……レッド」

 

まだ納得しきれないレッドを静かに諭すシド。その言葉に黙ってしまうレッドはソラの顔を見ていたが、悔しそうに言う。

 

「……僕、間違ってないもん」

「……人が本気で決めたことに口を出すな。間違ったことだ……」

「……」

「レッド!」

 

父親の言葉に何も言い返せず、リビングから背を向けて出て行ってしまう。ソラが慌てて呼ぶとレッドは立ち止まるが、

 

「お姉ちゃんの弱虫ー!」

 

馬鹿にするようにそう言うと出て行ってしまった。もしかしたら深刻に受け取ってしまったかと思っていただけに、こんなふざけた反応ができるなら問題ないなと苦笑してしまうソラ。

 

「ソラ」

「あ……」

「食え。うまいぞ、母さんのチシュー」

「おかわりいっぱいあるよ」

「……ありがとう」

 

2人が元気を出すようにとソラに食事を促す。両親の気遣いをソラは、ありがたく思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ソラが久しぶりに家族と再会している頃、ソラシド市も夜だった。あげはも帰宅し、ましろからソラが実家に戻ったことを聞く。そして、ヨヨの手によってソラの故郷へのトンネルが作られ、そこを通ろうとするあげはとツバサの姿があった。ましろは行くかどうか迷っていたが、残ることに決めたようだ。

 

「本当に、行かないんですか……?」

 

ましろだって、ソラに会って話をしたかったはずだ。なのに、ましろはここに残ると決めた。それでいいのかとツバサが問いかける。

 

「……もし、バッタモンダーがまた動いたら大変だし……ヤクモ君の家から電話来るかも、だし……あの、ね。やっぱり、行くのやめない?今は1人にしてあげたほうが……周りからわーって言われたらソラちゃん、きっと……」

 

それらしい言い訳を並べようとするも、それでは不十分だと思ったのだろう。ソラだって、色々複雑な思いがあって帰ったのだろう、その選択を尊重してあげるべきではないか。確かにましろの言葉もわかる。しかしツバサは、その選択をしたくないと思っていた。

 

「僕は、そうは思いません……1人で抱えたって……いずれ爆発して、大変なことになるだけじゃないですか!」

 

ツバサの叫びに無言になってしまうあげは達。

 

「何のための仲間なんです?何のためにプリキュアは1人じゃなくて、5人なんです?なんで……一言相談してくれなかったんだ。ヤクモさんのことだってあったのに……ソラさん……」

「……」

「……ふぅ」

 

ツバサの気持ちもよくわかってしまう。だからこそ、誰も何も言えずにいた。そんな中、あげはは深呼吸すると、

 

「ちょっと、行ってくるよ。私がついてるから大丈夫。心配しないで待ってて、ましろん」

 

そう伝える。ましろはただ、静かに頷くことしかできずにいたが、2人がトンネルに入って少し経つと、ソラの部屋に訪れていた。そこには開かれたままのヒーロー手帳が置いてあり、それを複雑な思いで閉じるのだった。

 

「……なりたい私、夢は人を動かすエネルギー……でも、その夢をなくしてしまった時、人は何を頼りに、前に進めばいいのかしら」

 

ヨヨもまた、庭に出て夜空を見上げながらそう呟いていた。エルは心配そうな表情を続けていたが、どうにか眠らせることができたようで、彼女の傍にはいなかった。

 

「……わかりませんね。だが……絶望の果てに見える光もある」

 

ヨヨがその声を耳にし、そちらに視線を向ける。そこには、コートの男が立っていた。市販品と思われる仮面をつけており、顔はわからないが。

 

「大丈夫よ。ましろさん達は知らないわ」

「ですが、万が一もありますから。まあ……あいつは察してきたようですが」

「そう……予測できる材料はいくらでもあったから」

 

どうやらヨヨの知人のようだ。突然の来客に驚いたような反応は見せず、先ほど漏らした独り言の続きを話し始める。

 

「どれだけ本を読んでも、世界の端から端まで飛び回っても、記録にない過去を知っても……何が前に進むものになるかは、わからない……」

「全員が全員、同じものではないでしょう。俺も、あの人も、そして……」

 

仮面の男がスマートフォンを取り出す。スマートフォンと言っても、生き物のように動く黒い翼をもっており、一見するとまるでランボーグのデザインのスマホカバーを付けられているような姿をしている。それはヨヨの目の前に自分の意思を持つように移動すると、その画面にある映像を映し出す。

 

「……こいつもな」

「……そう」

 

それを見て、心配事が1つなくなってよかったと、ほっとヨヨは胸を撫で下ろすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

村から少し歩いた先にある湖に、ソラとシドは訪れていた。都会の街並みとは違う、綺麗な星空と、それを写す湖を見ながら、懐かしそうにソラが言葉を零す。

 

「ここ……懐かしいね」

「ああ」

「……あの日、学校で弱い者いじめする子達と大喧嘩して……全然敵わなくて……」

 

過去にこの湖を訪れた時の事を思いだすソラ。あの時も、父親と共にこの湖に来たのだった。

 

「あの時……流れ星を見つけて、ヒーローになれますようにって願って……でも、強くもなかったし、怖いしで、本当にヒーローになれるのか不安になって……でも、パパは言ってくれた。私の心はなんて言ってるか、って……」

 

その言葉の直後、流星群を見たのを今でも覚えている。その時、ソラは自分の心の赴くままに、ヒーローになれますように、とがむしゃらに願ったのだった。だがそれも、過去の話。

 

「あの星は……パパが降らせてくれたの?」

「お前が降らせたんだ。多分な」

 

改めて、夜空を見上げる。そこには無数の星が瞬いていたが、あの時のように流れ星は見えない。だがこうして空を見ていると、こみあげてくる思いがあった。過去の自分は、ヒーローになりたいと思い、がむしゃらに夢に向かって突き進んでいた。だが今の自分はどうだと言うのか。過去の自分にすら顔向けできないのではないだろうか。体を震わせ、泣き出しそうになってしまうソラの頭を、シドが撫でる。

 

「……私」

「いいんだソラ。もういい」

 

俯いたままのソラの頭を撫で続けるシド。そして幾分か時間が経ち、シドが頭を撫でるのを止める。ソラは暫く水面を見ていたが、何を思ったのかスカイトーンを取り出す。色を失い、ただの石となってしまったスカイトーン。それを見ていたソラは葛藤を振り切るように目を閉じて強く握ると、その手を振り上げる。

 

「っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソラが湖に入る頃、トンネルを通って村に現れたあげはとツバサはソラの家を訪れていた。ツバサが呼び鈴を鳴らすとレミが対応する。自己紹介を終えると、ソラと話をさせてほしいと頼むツバサにレミは困った様子になる。それは、

 

「今……ちょっとそこまで出かけているの。だから……」

「こんな遅くに……?」

 

家の中にいると思っていたばかりにツバサは困惑する。そんなツバサの肩にあげはが手を置いて落ち着かせると、レミの顔を見ながら言う。

 

「ここで待たせてもらっていいですか?」

「……」

 

あげはの言葉にレミは少し考える。そして、自分の思っていることを2人に言う。

 

「例えヒーローになれなくたって、ソラはソラだわ。優しくてまっすぐで、素敵な子。今のソラを受け入れてあげて……お願い。あの子には時間が必要なの」

「……」

 

悲しいのか、悔しいのか。レミの言葉にツバサは必死に感情を我慢するように唇を噛み締め、手をぎゅっときつく握る。あげははその言葉を聞き、落ち着いて返答する。

 

「ソラちゃんに伝えてください。皆、あなたのことが大好きだって。ヤクモ君も、恨んだりなんて絶対しない……ソラちゃんがちゃんと前を向いてくれることを誰よりも望んでるって」

「……わかった。必ず伝えるわ、ありがとう」

「帰ろう、ツバサ君」

 

あげはの言葉にひとまずは頷き、レミに頭を下げる。そしてあげはと共に、ソラシド市へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

朦朧としてたはずの意識が段々と覚醒する。クラウドが目を覚ますと、辺り一面真っ暗な空間だった。その中で、クラウドの体は糸のようなもので縛られているのがわかった。力づくで破ろうとするも、全身から力が抜けているかのような感覚で動くことが満足にできない。

 

(確か……)

 

いつまで意識を失っていたかはわからないが、とりあえず今に至るまで何があったのかを思い出す。バッタモンダーに襲われ、1人で戦う羽目になっていたが戦闘中、ランボーグの形状やアンダーグエナジーの流れ、そしてバッタモンダーの発言から素体がシャララだと気付いたこと。一瞬の隙を突かれ、ランボーグに取り込まれてしまったこと。その後、どうにか動こうと色々思案していたのだが、いきなり腹部に強烈な一撃が命中したと思ったら意識が飛んでいたことを思い出す。

 

「……そうか、あの時外で何かあったのか……」

 

ここがランボーグの中なら、ランボーグは自分という盾を手に入れたようなもの。それを使って他のプリキュアの攻撃を防いだりしたのだろう。バッタモンダーの卑怯な手に他の皆が心を痛めたと思うとクラウドの表情も少し暗くなってしまう。

 

「……?」

 

と、ふと力がさっきよりは微妙に戻っているような気がした。どういうことかと自分を縛る糸を見ると、その糸からアンダーグエナジーが自分の中に流れ込んでいることに気付く。アンダーグエナジーが自分の中に入る度に、力が戻っていく感覚がするのだ。

 

「……」

 

過去にアンダーグエナジーを取り込んだ時も似たようなことがあった。あくまでバッタモンダーの策略を突破したりランボーグの攻撃を防ぐついでに取り込むことで無力化するという流れでだったが、その時、体力が回復する感覚もあったのだ。おそらくはアンダーグエナジーを取り込むことで生命力を回復しているのだろう。だがバッタモンダーはそのカラクリに気付かず、クラウドをランボーグの中に取り込んでしまったようだ。

 

「……なら」

 

自分を縛る糸からアンダーグエナジーを取り込むにつれ、糸がどんどん脆くなっていき、次第にクラウドの手でも簡単に千切れるようになる。そして自由を取り戻したクラウドは、ランボーグの中から出るのではなく逆に奥へと進んでいく。そこにはクラウドの狙い通り、シャララが糸に四肢を縛られた状態で意識を失っていた。

 

「……」

 

シャララの全身は傷だらけだった。一目見てもわかるほどに重傷な状態。だがそれを見たクラウドは、シャララに取り付くアンダーグエナジーがどういう役割を担っているのかを理解する。そして、

 

「……いつまでも、あんたの好きにはさせないよ。シャララ隊長のことを、ソラさんが待っているんだから……!」

 

クラウドは両手をシャララへと向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

夜明けを迎えるソラシド市。一昨日にランボーグが現れたことなど、ほとんどの人々は知らないのだろう。本当ならすぐにでもランボーグを差し向けたかったのだが、調整に手間取ってしまい、ランボーグを再び動かすタイミングがこの時となってしまった。だが、バッタモンダーには余裕しかなかった。

 

「こいつはまさに最強のランボーグ……まあ、俺じゃああれは作れないが、プリキュアにとっては最強なのは間違いない……なんせ最高の素材を使い、最強の盾を使っているんだからな」

 

朝日を背に受け、清々しい気分で軽く伸びをする。この朝日も、自分の勝利を早くも祝福しているようだ。

 

「ソラ・ハレワタールはもうプリキュアになれない。叩き潰すのは簡単だ……でも、自分が傷つくより友達が傷つく方が苦しい……そういう子なんだよねぇ、ソラちゃんって」

 

にやにやと笑いながら、自身が乗るランボーグを踵で叩きながら大笑いする。

 

「だから……ヤクモだけじゃなくて他の皆も平等に叩き潰してあげようじゃないか!さあやれ!ランボーグ!」

「ランボーグ!!」

 

バッタモンダーの声と共に、ランボーグが街へと飛び出す。それからすぐに、その異変はましろ達も知るところになる。

 

「皆さん、来てください!」

 

下の階からツバサの焦る声がましろの耳に届く。ましろは部屋で一通の手紙を封筒に入れていた。ましろが庭に出ていたツバサの元にあげはと共に向かうと、ツバサは他の鳥たちから話を聞いていた。

 

「街に例のランボーグが現れました!!」

「「!」」

 

それを聞き、2人の表情が険しくなる。ランボーグが暴れている以上、戦わなければならないだろう。本当に成功するかどうかわからないが、ランボーグを浄化し、2人を回復する。それによってどうにか助けるしかないと。しかし、

 

「……ソラさんの言っていることが本当なら、ヤクモさんは助けられない……」

「その心配はないわ、きっとヤクモさんなら大丈夫」

「!本当!?」

 

ヤクモはミックスパレットの癒しの力では助けられない。それは、実際に癒しの力を経験したソラだから出した答えだ。間に合わずに死んでしまうかもしれないという失敗のリスクを背負うシャララとは根本的に違う。だが、ヨヨはその心配はないと言う。ヤクモも助けられる。それなら話は別だ。

 

「なら……何とかなるかもしれない!」

「皆、気を付けて」

「おばあちゃん、お願いがあるの。これを……ソラちゃんに渡してくれないかな」

 

ヨヨの言葉に頷く3人。そしてましろはヨヨに一通の手紙を託す。

 

「わかったわ」

 

それを受け取り、微笑むヨヨ。ましろ達はミラージュペンを手に取る。

 

「まずヤクモ君を引っ張りだす、それからランボーグを浄化してシャララ隊長を助け出す!」

「やりましょう、ソラさんのためにも!」

「いこう!」

 

3人がプリキュアに変身する。そしてランボーグが今も暴れる町中へと繰り出していく。街に出ればランボーグの居場所はすぐに分かった。ランボーグが力の限り暴れ、破壊活動を行っているからだ。

 

「はい強いー、つまり僕も最強ってこと」

 

これはこれで飽きても来る。どこか流れ作業のようになってきた破壊活動を前にそう呟くバッタモンダー。その耳に、待ち望んでいた声が聞こえてくる。

 

「……この世界のことわざをあんたに1つ教えてあげる……」

 

バッタモンダーが視線を向ける。そこには、プリズム、ウィング、バタフライの3人が立っていた。

 

「弱い犬ほどよく吠える!」

「ふふ……わん!」

 

まるで3人を小馬鹿にするようにわざとらしく犬の真似をして威嚇するように両手を上げる。その背後では破壊活動によって生まれた土煙が巻き起こっており、その中からランボーグが現れる。

 

「ランボーグ!!」

 

再び姿を現したランボーグがジャンプし、3人へと襲い掛かる。バタフライがシールドでそれを受け止めようと三重にも重ねたシールドを作り出す。だが、それに対しランボーグは左腕を突き出す。その左腕は、一昨日とは異なり完全にガントレットのようなもので覆われていた。

 

「!?」

 

その左腕を突き出した瞬間になってランボーグの姿が変わっていることに気付くバタフライ。だが時すでに遅し。左腕から射出された巨大な槍が杭のようにシールドに突き刺さったかと思うと、シールドが一瞬でまとめて砕け散り、3人が吹き飛んでいく。

 

「「きゃああああ!!」」

「うわああああ!!」

「どうだい?こいつはヤクモの奴が作ったランボーグを再現してみたのさ。昨日暇だったからねぇ、結構頑張ってるだろ?何しろ素材が最高級!紛失されたアンダーグ帝国の国宝なんだからね!あの方の遺産なんだからねぇ!」

 

にやにやと得意げに笑うバッタモンダー。壁に叩きつけられ、そのダメージに顔を顰めながらも立ち上がる3人。

 

「……ほんっと、悪趣味……!」

 

睨みつけるバタフライの視線を軽く流すバッタモンダー。まだまだ戦いはこれからだと言わんばかりに指を鳴らすと、ランボーグが3人へと突っ込んでいくのだった。

 

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