曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第64話 新たな想い

 

「……はあ」

「……」

 

斧を振り下ろした状態で、ソラは溜息を漏らしていた。昨日の夕方に帰宅し、今日は朝から薪割りをしていたのだが、その表情はまだ浮かない。そんなソラの姿を、レッドは心配そうに見ていた。

 

「……ヤクモさん……どうしよう……本当に、死んじゃったら……」

 

その中でソラが特に心配していたのは、やはりヤクモのことだった。もう自分に彼の事を心配する資格なんてないのに、心配で心配で仕方がなかった。彼の事を考えると、罪悪感で胸が苦しくなってしまう。いや、本当にこれが罪悪感なのかどうかわからないが、そう考えると彼に申し訳ないなんていう言葉では言い表せないような後悔が何故か湧き上がってきた。

 

「……!」

 

ふと、ソラの目の前にトンネルが出現する。そこから現れたのは、ヨヨとエルだった。

 

「ヨヨさん……」

「ソラ……」

 

心配そうにソラの名を呼ぶエル。その声に気まずそうに視線を逸らしてしまうソラ。

 

「……私、もう……プリキュアじゃ、ありませんけど……何か、用ですか」

「……渡してほしいと頼まれたの」

「……?ましろさん……?」

「ええ」

 

ソラに手紙を差し出す。誰が書いた手紙なのか、ピンときたソラの言葉に頷くヨヨ。

 

「何を……」

「私にもわからない」

 

一体、何が書いてあるというのだろうか。ヨヨにもわからないが、きっとましろのことだ。ソラの事を心配して色々書いてくれたのだろう。果たしてそれを、受け取る権利が自分にあるというのだろうか。今の自分に。受け取ることを躊躇っていると、そんなソラの弱気な姿を見かねたのか、レッドが声を張り上げる。

 

「お姉ちゃん!」

「……!」

 

レッドの言葉に後押しされるように、ヨヨから手紙を受け取るソラ。恐る恐るといった様子で手紙を開く。そこには、

 

【ソラちゃんへ

覚えてるかな?わたしが初めてプリキュアになったとき、すっごく反対したよね。ましろさんが傷つくなんて嫌だって。自分がもっと強くなる。だからましろさんはプリキュアにならなくていい。そう言ってくれたよね。だから今度はわたしの番だよ】

 

手紙を持つ手は震えていた。ましろの思いを読み取ったソラは、ただただ言葉を失っていた。だがそれは、先ほどまでとは違う。頭を鈍器でガツンと殴られたかのような、目を一気に覚まさせるかのような感覚だった。

 

「……もう見てられない……」

 

家の中から、ソラが手紙を読んで震える姿を見ていたレミは、ソラの元へと向かおうとする。しかし、その腕をシドが掴む。腕を離してほしいと首を横に振って夫に言うも、シドもまた強い目で首を横に振って答える。ソラに全ての選択を委ねる。夫のその選択に、レミは心配そうな表情を浮かべるばかり。

 

「……」

 

手紙は1枚だけではなかった。そちらには、別のメッセージも綴られていた。

 

【隊長さんの事も、ヤクモ君の事も任せて。大丈夫だよ、ソラちゃんはプリキュアにならなくていい。戦わなくていい。お家でゆっくり休んで、元気になってほしいな。ヤクモ君も隊長さんも助けて、会いに行くから。ソラちゃんの本当の気持ちを、ヤクモ君に伝えられるように、頑張るから】

 

ましろからの手紙を読むにつれ、気付けば涙が流れていた。手紙は3枚目に入っていた。そこには、これまでと比べて短い文章が綴られていた。

 

【最後に私から1つだけ。ヒーローになれなかったなんて言わないで。だってソラちゃんは、とっくの前から、もうヒーローなんだから。じゃあ、またお手紙書くね。私のヒーローさん】

 

手紙を読み終えたソラは、大粒の涙が止まらなかった。手紙が涙で濡れてしまうのも気にする余裕すらなかった。

 

「ヒーローじゃない……ただの弱虫です……!戦うのが怖くて、大切な人が私のせいで死んじゃうが怖くて、逃げ出した……ヤクモさんも、シャララ隊長も、仲間も……街の人たちも、皆見捨てて……!そんなヒーロー、いるわけない!!」

 

この手紙に書かれているような、そんな素晴らしい人間なんかじゃない。自分はもっと最低な存在だ。そう思っている、なのに、ソラの心は迷っていた。これでいいわけがない、そう叫んでいるような気がした。手紙を見ると、ましろがどんな思いでこれを書いていたのか、その光景が想像できる。どうすればソラが元気になってくれるか。どうすれば立ち直ってくれるか。必死に考えてくれたその思いが、ひしひしと伝わってくる。それから目を背けることだけは、ソラにはできなかった。

 

「……」

「えるぅ……」

「そんなヒーロー……いるわけない……行っても、ましろさんや皆が許してくれても、ヤクモさんが許してくれない……こんな私を、許してくれるわけがない……」

 

皆、待っていてくれているのだ。ましろも、ツバサも、あげはも。そして、ヤクモだってきっと、待っているはずだ。頭ではわかっている。ヤクモはきっと理解してくれる。自分の事も許してくれるはずだと。仕方のないことだ、ソラが気にする必要なんかないと。優しい人だから、そんなことは自分が一番わかっているのだ。だからこそ、嫌だった。ヤクモが万が一でも、こんな事をしてしまった自分を拒絶しないと思ってしまう自分が嫌なのだ。それが、最後のブレーキだった。

 

「ヒーローとして、皆の所に戻らないと、戦わないといけない……でも、ヤクモさんに見てほしくない……なんで……私は……」

 

ましろが、皆が望むヒーローにもう一度なるため、戻らなきゃいけない思いはある。なのに何故、ヤクモの事を考えるとこんなに胸が痛むのか。ヤクモを殺しかけたから。そのうえで一緒に居たいと思うことが烏滸がましいから。違う、そうじゃない。今までずっとわからなかった。いや、本当はわからないふりをしていた。だって男の子の友達なんていなかったから。男の子と一緒に何かをするなんて経験もなかったから。初めてできた異性の親友だったから一緒に居たいと思っていただけだと。でも違う、自分の本当の気持ちは、

 

「……ああ、そっか……私、ヤクモさんの事、好きなんだ……」

 

ヤクモの事が最初から大好きだったのだ。友達としてだけじゃない。そんな段階はとっくに通り過ぎていたし、とっくに気付いていたはずだった。ずっと、1人の男の子として好きになっていたのだ。だから一緒に居たいと思っていたのだ。だから、今の自分が、ヤクモの傍にいることをヨシとしていないのだ。だけど、この気持ちに気付いた瞬間にソラの中から迷いは消えていた。

 

「……もしかしたら、本当に嫌われてるのかもしれない……でも、もしヤクモさんが、こんな私でも受け入れてくれるなら、許してくれるなら……一緒にいたい……!もっと、一緒に楽しいこと、嬉しいこともしたい……!」

 

涙を流しながら、そう語るソラを、ヨヨは微笑んで見ていた。

 

「私、行かなきゃ……友達が、そしてあの人が待っているから……!」

 

完全に迷いを吹っ切ったその時だった。ソラの胸から光が溢れ出す。

 

「!」

「えるぅ!」

 

そこにあったのは、紛れもないミラージュペンだった。一度消えたはずのミラージュペンが復活したことに、ヨヨも驚きを隠せないでいる。

 

「壊れちゃったんじゃないのそれ!?」

 

確かにそのはずだった。だが、確かにミラージュペンは、ソラの目の前に浮いていた。間違いなくそれは、ソラの心が蘇った証だと、他ならぬソラ自身が気付いていた。

 

「あ……」

「夢は多分、1つきりじゃないんだ」

「え……」

 

家の中からソラの様子を見守っていたレミも、驚いた様子でミラージュペンを見ていた。だがシドの方は落ち着いていた。

 

「例え見失っても、例え壊れても、それは何度だって生まれる」

「……それが、あの子の決めたことなら……さあ、いきましょう。笑って送り出してあげなきゃ」

「……ああ」

 

ソラが迷っているのなら、止めてあげるべきだった。時間を与え、答えが出せるように。だが答えを出したのなら話は別だ。親としてやるべきことは、その道を、応援してあげることだと。普段の彼女の様子を知っているシドから見ても特に上機嫌なレミの姿を前に、シドもふっと笑みを零す。そして2人は家の外に出ることにする。

 

「ソラ!」

 

エルが嬉しそうにソラの名を呼ぶ。自分たちの仲間として、またソラが戻ってきてくれることがとても嬉しいのだろう。

 

「かっこいいぜお姉ちゃん!」

「ソラ、いいのね」

「うん」

 

自分を見送りに来てくれた両親の姿を前に、迷いなく頷くソラ。

 

「行ってらっしゃい、次は、今日来れてない人も一緒に連れておいで。……でも、もし躓いたら、また戻ってきていいからね。シチュー用意しとくから」

「うん!」

「……ソラさん、ヤクモさんのことだけど」

 

既に状況は悪い。だがその前に、ヤクモに関する不安を払拭する方が先だ。ヨヨの言葉にソラも真剣に振り向くと、

 

「あいつならくたばっていないさ」

「!」

 

ヨヨの言葉を引き継ぐように、男の声が聞こえてくる。ヨヨが作ったトンネルの横に、アンダーグエナジーで生み出されたであろうトンネルが生成されていき、そこからコートの男が現れる。

 

「!?なんであなたがここに……?」

 

まさかの来客に警戒しているソラに無造作にスマホの形をしたランボーグを投げ渡す男。慌ててソラが受け取ると、その画面に映っていたのは、

 

「!?これって……ヤクモさん!?シャララ隊長……!?」

 

真っ黒な景色の中でクラウドがシャララに手を伸ばして何かをしている光景だった。クラウドの体内にはアンダーグエナジーが入り込んでおり、逆にシャララにはヤクモから伸ばされたアンダーグエナジーが入り込んでいるように見える。

 

「……」

「随分心配の種だったようだからな……お前たちプリキュアに教えてあげることにした。こいつはピンピンしているってな」

「え……」

「アンダーグエナジーは生命力だ。例えそれが浄化され、体内から排出されようがランボーグというアンダーグエナジーの塊の中にいるならいくらでも補充される……バッタモンダーの奴は単なる延命処置と思っているようだが、こいつが自力で取り込み、回復しているなら話は別だ」

「……」

 

男の言葉を聞きながら、ソラの目はクラウドとシャララに釘付けになっていた。クラウドから伸びたアンダーグエナジーは、シャララの傷跡に入り込んでいる。そして、入れ替わるようにシャララの傷跡から押し出されるようにアンダーグエナジーが排出されている。クラウドは、ヤクモは何をしているのだろうか。そう考えたソラの脳裏に、バッタモンダーが言っていた言葉が蘇る。

 

『アンダーグ帝国には、ある人物が遺していたアンダーグエナジーで傷を塞ぎ、血肉の代わりとする技術があってねぇ……』

「……ヤクモさんが、シャララ隊長を……!?」

 

そうとしか考えられない。ヤクモは、シャララの状態に気付いてバッタモンダーのアンダーグエナジーで行われているシャララの延命処置を、自分のアンダーグエナジーに置換させているのだ。これなら、仮にランボーグを浄化し、シャララを助け出しても彼女の命が途絶えることはない。ミックスパレットによる治療も安全に受けられる。

 

「……ふふ……」

 

ましろも言っていた、ヤクモの力があればと。その通りだった。自分はずっと、シャララが助けられないかもしれない、ヤクモも殺してしまうかもしれないとずっと怯えていた。なのに彼は、そんな自分の不安も迷いも、とっくに解決していた。それが、本当に心強く、そして今はもっと自分を彼に夢中にさせていた。

 

「……やっぱり、ヤクモさんはヒーローです……凄く、格好いい……」

 

ぎゅっと握っていたが、やがてスマホ型ランボーグを手放す。ソラの手から離れたランボーグは男の元に戻っていく。

 

「あのランボーグはバッタモンダーが限界までアンダーグエナジーを注ぎ込んだ。それだけ強力だが裏を返せば最後のピースになる……今となっては国王達への生命力の補給もままならん、決着を着けるなら早くするんだな」

「え、それって……」

 

男はこれ以上は語ることはないとトンネルを通って消えてしまう。これ以上聞こうとしたが、それはできないようだった。だが、ヨヨがあの男が出現したことを驚いていないことに気付く。

 

「ヨヨさん、あの人の事知ってるんですか?」

「少しだけ。でもソラさん、今はそういう状況じゃないの。あのランボーグは既に街で暴れている」

「!」

「行ってくれる?」

 

ヨヨの言葉に、一瞬躊躇いを見せるソラ。既にミラージュペンはある。だが、プリキュアになるために必要なのはペンだけではない。スカイトーンもなければいけないのだ。だが、その心配はもうなかった。

 

「はい!」

 

しっかりと、自分の意思を示すソラ。そして光を放つペンを握りしめ、ヨヨとエルと共にトンネルに入り、ソラシド市へと戻っていく。

 

(ヒーロー……今の私が、口にできるような言葉じゃありません。でも、そんな私を、もう一度あなたがそう呼んでくれるなら……!)

 

トンネルの出口に差し掛かり、ソラは堅く握りしめていたスカイトーンを見る。そこには、すっかり本来の色を取り戻した水色のスカイトーンがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランボーグ!!」

「きゃあああ!!」

 

左腕のガントレットがバタフライプレスと衝突する。直後、射出された槍がいとも簡単にバタフライプレスを粉砕し、バタフライの体が吹き飛んでいく。

 

「バタフライ!!」

 

咄嗟にウィングがリカバリーに入り、バタフライを受け止める。しかしランボーグは次の手として右手に握る剣を振り抜いており、斬撃波がウィングとバタフライをまとめて薙ぎ払ってしまう。

 

「うわああああ!!」

「ヒーローガール……プリズムショット!!」

 

2人への攻撃を止めさせるため、そして両腕を使ってしまい無防備になっているランボーグへ向けて、プリズムがプリズムショットを放つ。それを伸びたままの槍で受け止めたランボーグは、プリズムショットを相殺してしまう。

 

「きゃあああ!!」

 

そればかりか、返す刃で放った斬撃波がプリズムを吹き飛ばす。

 

「ふふふ……」

 

プリキュアがいいようにやられている姿をにやにやと無言で見つめるバッタモンダー。このまま甚振り続けるのも悪くはないのだが、いつまでも遊び続けるわけにもいかない。そろそろエルを探し始めないとな、と本来の仕事に戻ろうという意思がやっと湧いてきたバッタモンダーは、非情な宣告をする。

 

「トドメを刺してやれ、ランボーグ」

「ランボーグ!」

「「「!」」」

 

剣を振り上げるランボーグ。3人もどうにか対抗しようとするも、ここまでに受けたダメージは大きすぎた。もう攻撃も回避することもままならない、そう思われた時だった。空に、トンネルが開く。

 

「……!」

 

空を見上げた3人は見た。そこには、完全に復活を遂げたキュアスカイが現れていたのだ。

 

「ヒーローの出番です!!」

「……ソラちゃん!」

「「スカイ!!」」

「ば、馬鹿な!?」

 

迷いを振り切ったスカイの名を嬉しそうに呼ぶ3人。完全に叩きのめしたはずのスカイが復活するとは予想しておらず、バッタモンダーは動揺するばかりだ。

 

「ヒーローガール……」

「ランボーグ!」

 

スカイが技を放とうとしているのを見たバッタモンダーはランボーグにクラウドを再び盾にするように命令する。だが、バッタモンダーは全く知らなかった。既にランボーグの中では、

 

「……よし」

 

シャララを縛っていた糸は、完全になくなっていた。代わりにシャララの愛剣の鞘を無造作に糸に搦めておくことで、完全に素体がなくなってアンダーグエナジーが霧散することを危惧してのことだ。

 

「こんだけ好き放題させてくれたんだ。ちゃんと見返りはもらわないとな」

「……君、は……」

「!」

 

うっすらと、シャララの目が開かれる。まだ意識は朦朧としているが、バッタモンダーがやっていた必要最低限の処置とは違い、クラウドのアンダーグエナジーを用いた応急処置は確実に彼女の体を癒していたようだ。

 

「……そう、か……すまない、な……」

 

シャララの瞳に、クラウドから出てくるアンダーグエナジーと、それが自分の傷に流れてくる光景が写る。それと、傷の痛みがなくなっていく感覚にクラウドが何をしていたのかを察したのだろう。安心した様子で意識を手放す。だが、その表情は先ほどまでの苦しみに呻いていたものとは全く異なり、安らかな表情をしていた。

 

「……よし、後は……」

 

この作業を始めてから、外が騒がしくなっていた。おそらく、戦闘が始まっているのだろう。であるなら、もう一度その時が来る。その瞬間をずっと待っていて、そして遂にその時が来た。ランボーグの体内から無数の糸が伸び、クラウドの両腕と両足に絡みつこうとする。その寸前に自分の体を雲で包むと、雲諸共糸が絡んでくる。そして自分の体を外に出すために穴が開かれ、光が差し込んでくる。その先には、スカイの姿があった。

 

「「!」」

 

雲を消滅させ、生まれた隙間から自分の体をするりと脱出させるクラウド。その瞬間、こちらに向かって攻撃してくるスカイと目が合った。クラウドは笑みを浮かべると、

 

「ひろがるクラウドプロテクト!!」

「ラン!?」

「「「!?」」」

「な、なんで!?」

 

ランボーグの体から突然噴き出した雲の渦。それを見た3人は、はっとなる。クラウドは確かに生きていたことを。そしてクラウドプロテクトの雲の流れに自ら巻き上がり、宙へと飛び出したクラウドが抱えている人物を見て、さらに3人は驚く。

 

「人を抱えてる!?」

「あれって!?」

「シャララ隊長です!!」

「馬鹿なぁ!?なんで……」

 

なんと、クラウドの腕に抱えられていたのは、ランボーグの素材となっていたはずのシャララだったのだ。3人だけでなく、バッタモンダーも驚愕するしかない中、クラウドは声を張り上げる。

 

「いけ、スカイ!!」

「スカイパンチ!!」

 

クラウドの声が背中を押してくれる。今のスカイに、これほどまでに心強い言葉はない。クラウド達が抜け、拳をぶつけるべき道筋を示すかのように残されたクラウドプロテクトの中心へとスカイパンチを放つスカイ。その衝撃に、ランボーグの体が後ずさり始める。それでも、スカイの勢いは止まらない。

 

「例え立ち止まりそうになっても、私には背中を押してくれる人たちがいます!だから……だから!!立ち止まるな!ヒーローガール!!」

「ランボーグ!?」

 

拳を殴り抜けるスカイ。ランボーグの体が大きく吹き飛び、地面を転がっていく。

 

「ど、どうなってやがる!?ランボーグのパワーが下がってる!?いや、そもそもどうなってるんだ!?」

 

異変はとどまらない。ランボーグの左腕はそのままだったが、その左腕も今の状況がやばいと気付いているのか、目を開いて慌ててきょろきょろと見まわしている。だが本体の方はもっと悲惨だった。光る刀身は消滅し、握られていた剣はただの鞘になる。胴体も、騎士を思わせるマントも消え去り、人の姿を模していた体はより細くなっていってしまう。

 

「……自分で作ったランボーグぐらい、ちゃんと管理したらどうだ?今のランボーグが、何で維持されてるかどうかな」

 

そう言いながら、クラウドはシャララを抱えていない左手で彼女の剣を見せる。そこに収まってるはずの鞘がないことに気付いたバッタモンダーは、今のランボーグの素体としてクラウドがわざと残していったものに気付き唖然とする。

 

「あ、あああああ!?」

「シャララ隊長は大丈夫だ!バッタモンダーのアンダーグエナジーを、全部俺が置き換えた!!」

「「「クラウド!!」」」

 

3人から喜びの声が上がる。これで、プリキュア達がこの戦いで気にするものはない。後は、このランボーグを浄化する。それだけだ。それで、この戦いを終わらせる。そのために、スカイはプリズムへと手を伸ばす。

 

「ましろさん!」

「!」

 

伸ばされた手を見て、プリズムも強く頷くと走り出す。

 

「いっけー!ましろん!」

「ソラさん!決めてください!」

 

クラウドが抱えるシャララを癒しの力で治療しながら、バタフライが2人にエールを送る。それに続くようにツバサもここで決めるようにと声を張り上げる。クラウドは言葉にはしないが、2人ならやれると確信した表情で2人を見ていた。

 

「スカイブルー!」

「プリズムホワイト!」

「「プリキュア!アップ・ドラフト・シャイニング!!」」

「「スミキッター……」」

 

鞘とアンブレランス。2つのランボーグの素材が解放され、その場に突き刺さっていく。膨大なアンダーグエナジーを注ぎ込んだランボーグも、内部からクラウドにめちゃくちゃにされてしまった今では真価を発揮できず、そこにスカイからのクリーンヒットをもらって既に限界だったのだろう、綺麗に浄化されてしまい、大量のキラキラエナジーが溢れ出す。

 

「ミラーパッド!」

 

スカイと共に駆け付けていたヨヨがミラーパッドを出す。そこに入り込んだキラキラエナジーはこれまでの比じゃない勢いで容量を満たしていき、見る見るうちに満タンになっていくのだった。

 

「あ、ああ……」

 

渾身の策だったはずなのに。この作戦に全てを賭けていたバッタモンダーは呆然と脱力したように座り込んでしまう。だが、プリキュア達の視線がクラウドとシャララに向けられ、自分に意識が向いていないのに気が付くと、往生際悪く手を翳して攻撃しようとして、

 

「動かないで!」

「ひっ!?」

 

プリズムの怒りの声に固まってしまう。既に、バッタモンダーが何をしようとしているかなど、ばれていた。プリズムだけではない、クラウドも一瞬鋭い目を向けていたが、すぐに視線をシャララへと向け直す。それだけで、バッタモンダーには理解させられていた。お前が何をしようとしたところで、俺は見ていなくてもわかると言っているのだと。そしてそれは、クラウドの能力なら十分可能ということは、バッタモンダーも嫌という程理解していた。

 

「……そこから1ミリでも動いたら、絶対に許さない!!」

「う、うぐぐ……」

 

だが、クラウドより強烈だったのはプリズムの言葉だった。その言葉に心を打ちのめされたかのようにバッタモンダーは表情が暗くなっていく。

 

「……シャララ隊長は」

「大丈夫。でも、ミックスパレットにあんな力があったなんて驚いたよ」

「凄いでしょ。でも……ありがとう。クラウドのおかげで、失敗するかもって心配、全部吹き飛んじゃった」

 

そんなバッタモンダーなど眼中にもないと言わんばかりにシャララの身を案じるスカイ。だが、クラウドの言葉に嬉しそうにスカイも笑いながら、ぎゅっとシャララの手を握る。

 

「……信じていれば、何度だって立ち上がれる。きっとそれがヒーローですから……」

 

そして、クラウドを見るスカイ。皆が、2人を助けられると信じていた。自分も、最初は信じられなかった。だが信じることができて、そして立ち上がることができた。だが、立ち上がることができたのは自分だけではない。絶望的な状況に陥っても、クラウドは立ち上がってみせたのだ。その様は、紛れもなくスカイにとってヒーローだった。

 

「……良い言葉だな」

「!」

「また、会えたな。ヒーローガール」

 

その言葉を聞いたからだろうか、シャララが意識を取り戻す。クラウドとバタフライの手当と、スカイの言葉が届いたのだ。皆の表情に笑顔が浮かぶ。

 

「シャララ隊長……会いたかった……」

 

涙を流し、喜びながらシャララの手を握るスカイ。その姿を、シャララも微笑みながら見守る。

 

「……ありえねぇし……ありえねぇし……!」

 

バッタモンダーも、遂には腰を抜かしてしまったのか這うように逃げようとしてくる。だが、当然そうはいかない。バッタモンダーの目の前に何かが立ち塞がったのに気付き、顔を上げると。

 

「あ……あぁ、ひぃっ!?ば、バババ……バッタモンモ……?」

 

そこにはプリキュア達が立ち、こちらを見ていた。それに気付いた次の瞬間、慌てて後ろに飛びのくバッタモンダー。その場から逃げ出そうと呪文を唱えようとするも、プリキュア達が自分を攻撃することはなく、シャララを抱えたクラウドと、スカイが背を向けて歩き出す姿が見えてしまった。まさか自分を見逃すというのだろうか。予想もしていなかった事態に唖然となってしまう。

 

「……と、トドメを刺さないのか!?じゃないと、また来るぞ!!また、お前の嫌がることをしてやる!それでもいいのか!ソラ・ハレワタール!」

 

ガラガラ声で喚くバッタモンダー。その言葉に立ち止まったスカイ。クラウドも彼女の言葉を待つように立ち止まると、

 

「構いません」

 

一切迷うことなく、スカイはそう言った。

 

「どんなことをされても負けないくらい、私、強くなりますから」

「……」

 

そう言いながら振り向き、強い目でバッタモンダーを見るスカイ。その手は、クラウドの手を大切そうに握りしめていた。バッタモンダーへの宣言だけではない、自分の決意と、そしてクラウドに聞いてほしい今の自分の言葉とでもいうように。

 

「う……うぅ……」

 

完全に項垂れてしまい、動かなくなってしまうバッタモンダーを後にし、スカイ達はその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。虹ヶ丘家に戻ったソラ達だったが、ヤクモとあげはの治療もあったとはいえ、経過をみる必要あるということで一旦シャララは安静にしており、ヨヨが看病をしていた。

 

「……プリキュア。強くて優しい子達。あなたが育てたのですか?ヨヨ殿」

「……いいえ」

 

シャララはヨヨに問いかける。だがヨヨはそうではないと言う。

 

「むしろ、教えられる方よ」

 

そういい、窓の外に目を向けるヨヨ。庭では、ソラが皆を前に話をしていた。ヤクモも、家の事が心配だから帰った方がいいのではと考えたようだが、ヨヨから言っておくから気にしないで今日は泊まり、ゆっくり休んでほしいと言われていた。

 

「……私、未熟です。でも、未熟なりに前に進みます。そうすれば、きっと……いつの日か……」

 

そこで言葉を区切り、皆の顔を見る。

 

「ましろさん、ツバサ君、あげはさん、エルちゃん……そして、ヤクモさん。これからも、よろしくお願いします」

「ソラちゃん」

「!」

 

ましろは、ソラに1冊の手帳を差し出す。それは、紛れもなくソラがこちらに残してきたままだった、ヒーロー手帳だった。

 

「もう一度、これを受け取ってくれないかな?」

「……!はい!!」

 

ましろから手帳を喜んで受け取るソラ。そして夜空を見上げ、もう一度夢を叫ぶのだった。

 

「絶対に、ヒーローになるぞー!」

 

新しい想いを胸に、そう叫んだソラ。その視線が空から下げられると、一緒に空を見上げていたヤクモへと向けられるのだった。

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