曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第67話 次なる来訪者

そこに空はなかった。遠くまで延々と広がる薄暗い洞窟。しかしそこには、何もないわけではなく、黒い海が広がっていた。その海を目の当たりにすればその異常さに良い気分もしないだろう。だが、ここにいる人たちにとっては違う。

 

「……」

 

そこに、1人の少女が座っていた。その少女は、腰まで伸びた長い紫色の綺麗な髪を持ち、暗い緑色の瞳で海を見ていた。

 

「ここにおられましたか」

 

少女に、男性の声が届く。男性の声を聞いて少女がゆっくりと立ち上がる。彼女の体は暗い配色を基調とした薄手のワンピースのような服装をしていた。少女は海から視線を外すことなく、その声の主に問いかける。

 

「どうしたの?」

「スカイランドのプリンセスをあの方の元へと連れていく役目が移りました」

「そう、次はあなたでしょうね」

 

特に関心がないと言ったような素振りを見せる少女。というより、自分には無関係だと思っていたのだろう。男の声の主が次に口にした言葉に少女は驚いたように振り向くことになる。

 

「いえ、私めは、次の手番は貴女に譲ろうと考えています」

「……え?本気で言っているの……?やっとあなたの順番が来たのでしょう?」

「だからです。聞けばプリンセスを護衛する戦士たち、プリキュアがいるとの話。私はその者達と戦い、勝利したいのです。それは、武人である我が望み……しかし」

 

そこで言葉を区切る男。少女の視線の先には、着物を着たイノシシのような鼻を持つ男性が立っていた。

 

「その機会はあなたにも平等にある。カバトンやバッタモンダーのように。次の権利を貴女に譲りましょう。このアンダーグ帝国で長い間、苦しみながらも培ってきた貴女の力を示すのです」

「……力を示す……」

 

男の言葉に、ぽつりと呟く少女。悲しみと期待が入り混じったような複雑な表情を浮かべる少女に対し、男性は無言で頷く。

 

「このアンダーグ帝国で、理由なく虐げられ、名も与えられなかった貴女は、それに腐ることなくその力を研鑽するため鍛錬を続けてきた。その力を示し、今こそ認められる時なのです。あの御方も、そうすればきっと」

「……」

 

男の言葉に考え込んでしまう少女。しかし次第に考えがまとまったのか、

 

「ありがとう。次は私が行きます。そうすれば、きっと……」

 

そう呟き、男の提案を受けながら、傍らに抱えていた、少女を模したかのような小さな人形を優しく大事そうに抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は朝から綺麗な青空が広がっていた。再びソラシド市に戻ってきたエル達の新たな生活が始まろうとしている中、ましろは朝からカレンダーを確認していた。

 

「うーん……もうすぐだね」

「もうすぐ?何がですか?」

 

エルを遊んでいたツバサが、カレンダーを覗き込むましろが何を確認しているかが気になり質問する。

 

「ああ、夏休みだよ」

「そっか、もうそんな時期だよね」

 

こちらでは学校に通っていないツバサでは気付きにくいのか、夏休みが近いのだと語る。その話を聞いたあげはもしみじみと漏らす。今年度に入ってからプリキュアになったり、スカイランドと関わったりと、とにかく様々な出来事があった。しかし、こうして落ち着いてみればもう夏休みも目前だった。

 

「夏休みになったら保育園も学校も休みになるし、皆と一緒に居られるね、どこ遊びに行こっか?」

「やっぱり海は外せないよね、後は……」

 

夏休みの予定をまだ早いのに組み始めるましろとあげは。盛り上がり始めた女性陣の話から一旦距離を取るようにエルとの遊びを再開しようとしたその時だった。

 

「あれ……そういえばソラさんは?ランニングってわけじゃありませんよね?」

「それはね?」

 

早朝のランニングという時間ではないのにソラの気配がリビングにないことに気付く。というかランニングから戻ってきて皆で朝ご飯を食べた記憶もあるのだからその線はないはずだ。とすると、別のトレーニングやら筋トレでもやっているのかと予想していたのだが、ツバサからの次の質問を聞くと、どこか嬉しそうに振り向いてくる。

 

「今日は2人でお出かけなんだよ。しかも、ソラちゃんから誘ってだよ!」

「あ、そうなんですか」

「おや?反応薄いね?」

 

どうやらソラはヤクモとお出かけをしているようだ。しかもソラからヤクモを誘ったという事実がましろとあげはの中では特に大きいようだが、ツバサはふーんと特に何か感じてるようではないようだ。

 

「別に友達同士で遊びに行くのは普通じゃないですか」

「2人で行くのが大事なんだよ!」

「はあ……まあわからなくもないですが……」

 

2人、男だけで遊びに行くこともあるが皆で一緒に遊びに行くのとはまた違った楽しさがある。それも知っているため、ソラとヤクモが2人で遊びに行くことにも皆で遊ぶのとは別の楽しさがあるのかもしれないと考えていた。

 

「エルもツバサとあそぶ!」

「はい、今日は一緒に遊びましょうねプリンセス」

 

2人で楽しく遊ぼうというエルの言葉を聞き、ツバサもニコニコと笑いかける。そんな様子をましろとあげはも微笑ましく見ているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、建物の中に入ると涼しいね」

「はい!」

 

ショッピングモールの中に入ると冷房の涼しい風がヤクモとソラに吹いてくる。夏真っ只中の暑さから解放され、2人とも気持ちよさそうな表情を浮かべる。

 

「それにしてもこの世界の人は凄いですね……まさか夏がこんなに暑くなってくるとは……」

「スカイランドはこっちより涼しかったね」

 

王様達を目覚めさせるためにスカイランドに行ったときは特に気候を気にしていなかったのだが、こうして2つの世界の気候を経験すると、やはり都会のソラシド市はスカイランドよりも暑さが気になる気温だった。

 

「そうなんですよね……この世界はこうなんでしょうか?」

「昔はもっと涼しかったらしいんだけどね……」

 

ショッピングモールの中を散策する前に冷房に体を慣らしながら近くのベンチに座って話すソラとヤクモ。近くの自販機で買った飲み物で喉を潤しながら、ヤクモはソラを見る、

 

「ヤクモさん、今日はありがとうございます」

「うん、今日は暇だったし全然問題ないよ」

 

ヤクモの視線に気付いたソラがヤクモに微笑む。その可愛い笑顔を見るとヤクモも表情が綻んでしまい、内心慌てて表情を引き締める。気持ち悪い表情にならなければと思いながら、改めてソラを見る。色々あって、やっと落ち着けたことや、先日の戦いでソラも心情的に成長したこともあってか、凄くのびのびとしているように見える。

 

「ソラさん……何か変わった?」

「そうですね……」

 

戦いに区切りがついたことも大きいのだろうが、どうもそれだけではない気がする。シャララを助け出してからのソラから自分への接し方が、少し変わっているように思えたのだ。だが、それは悪い方向に変わったというわけではないのだが。

 

「ちょっと……色々ありまして」

「そっか」

 

そう呟くと、ソラはじっとヤクモを見る。その目は、以前とは違い、明らかに友達としてではなく一人の異性を見るような目だったが、ヤクモはそれに気付いていないようだ。

 

「こうやって、2人でお出かけするのも久しぶりですね」

「最後に行ったのは俺達がスカイランドに初めて行く前だったっけ……」

 

ずっとベンチに座っているのもというのもあり、入ってすぐのカフェの方に移動し、適当に飲み物を頼みながら話を続けていた。2人が思い出すのは初めて2人で出かけた時の事だった。あの時は王様ゲームのノリであげはに組まされたものだったが、一緒に出掛けて遊んだことは今も覚えている。

 

「……そうですね。あの時も……すっごく楽しかったです」

「うん、俺も楽しかったよ」

 

その時の出来事を懐かしむように思い出す2人。と言ってもまだ数か月前の出来事でしかないのだが、それすらもずっと前の出来事のように思えてしまう程の濃い時間を皆と過ごしていたということなのだろう。

 

「今日だけじゃなくて、この後もヤクモさんと2人でいろんなところにお出かけしてみたいです」

「そ、そっか……俺とだけで大丈夫?皆とは……」

「勿論ましろさん達も一緒に出掛けたいです!でもそれと同じくらいヤクモさんともお出かけしたいんです」

「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ。友達と一緒に遊びに行くの楽しいもんね」

 

照れながらソラの言葉を嬉しそうに受け取るヤクモ。だが、最後のヤクモの言葉を聞いたソラは少し微妙そうな表情を浮かべてしまう。

 

「ど、どうしたのソラさん?」

「……いえいえ、何でもありませんよ!」

 

慌ててヤクモの手を握りながら誤魔化すソラ。ソラに手を握られ、ヤクモもドキッとしてしまい少し恥ずかしそうに頬を赤くする。

 

「そ、そう?それならいいんだけど……」

「……」

「?そ、ソラさん?」

「何でもありませんよ?」

 

そんなヤクモの顔をじっと見ていたのにソラも気付いたのか、慌てて誤魔化す。

 

(……可愛い)

 

しかし、ソラがヤクモの顔を見ていた理由は今までの自分の気持ちを自覚していなかった時なら絶対出てこなかったような感想だった。それと同時に、自分もこうだったんだろうなと思うと少し残念な気持ちにもなってきてしまう。

 

(私、今までずっとヤクモさんのこと、友達だって思ってたから気付けてなかったんだよね……はあ)

「……ソラさん、この後、どこか行きたいところはあるかな?」

「え?いえ、特にありませんが……」

 

そんなことを考えていると、ヤクモから声を掛けられる。話を振られたソラは少し考えて返事をすると、

 

「この前知ったんだけど、ドーナツのチェーン店がこっちにもできたらしいんだけど。一緒に行ってみない?」

「!ボーナツですか!?行ってみたいです!」

「こっちだとドーナツなんだけど……」

「あ、そうでしたねあはは……」

 

つい言い間違えたソラが照れながら頭を掻いて笑う。元々好きな店だったが、近場にはなく、行こうとするとそこそこの距離を移動する必要があったため買い物や用事などで偶然近くを取りかかったりしなければ縁のできない店だったのだが、折角ここのショッピングモールにできたと聞いたのだ。折角だし食べてみたいと思う気持ちも以前からあったので、一緒に行ってみないかとソラに問いかけてみると、彼女も喜んで受けてくれたようだ。

 

「よかった、なんか考え込んでたからさ。気になることもあったのかなって」

「あ……」

 

どうやら先ほどのソラの姿を気にされてしまったようだ。そんなソラの不安を取り除いて楽しませてあげようと考えてくれたのだろう、その心遣いがとても嬉しくなり、ソラも嬉しそうに笑う。

 

「ありがとうございます、早速行きましょう!」

「そう急がなくてもお店は逃げないよ」

「ふふ、そうですね」

 

楽しそうに談笑しながら、2人はゆっくりと席を立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……暑い……すっごく暑いわ……」

 

炎天下の中をふらふらと歩く少女。太陽は昼時を告げており、一番暑い時間帯に差し掛かっていた。

 

「喉も乾いた……なんかふらふらする……」

 

だるそうにそう呟く少女。その姿は傍から見てもわかるレベルでふらふらしており、かなり危険そうに見えた。

 

「ずっと歩いてきたけど……誰も見つからない……変な鉄の塊が凄い速さで動いてるし、見たことないものばかり……私、こんなところでどうなっちゃうんだろう……」

 

歩き続けている間、水分補給も休憩もしていなかったのだろう。真夏のこの時間帯にそのような真似は危険そのものだ。そして遂に耐えかねたのか、少女の体が一際強くふらつくと、そのまま倒れかける。

 

「……だ、大丈夫!?」

 

だがそんな彼女の体は誰かに支えられた。ちょっとだけ少女の意識が再度覚醒し、視線を動かすと銀髪に眼鏡をかけた男の子と、その隣で心配そうにこちらを見ている青髪の女の子の姿が見えた。

 

「……大丈夫、ありがとう。私の事を気にかけてくれて」

「いや……そんなふらふらしてるのは放っておけませんし」

「そうですよ!?とにかく休んだ方がいいですよ!?」

 

無理をして笑っているように見えたのか、その2人、ヤクモとソラは少女をすぐ近くの公園まで連れていく。ベンチの近くには巨大な大樹があり、そこから伸びる枝は良い感じに屋根になって影を作ってくれている。その下に座らせると、近くの自販機からスポーツドリンクを購入し、彼女に手渡す。

 

「冷たくて気持ちいい……これは?」

「え?スポドリだけど……」

「……?」

 

日陰に入り、少しだけ涼しくなったことで頭が回るようになったのか、不思議そうにヤクモから受け取ったペットボトルを見る。ペットボトルの全体を観察すように見て、軽く揺らす。中に飲み物が入っていることは理解したようだが、そのまま首を傾げてしまう少女。

 

「えっと、飲まないの?」

「……どうやって飲むの?」

「「え?」」

 

ソラもヤクモも、少女の言葉に困惑してしまう。まさかペットボトルの開け方を知らない、なんてことがあり得るのだろうか。それとも暑さでそんな常識も忘れるぐらいにやられてしまったのかとヤクモも思わず面食らっていた。一方でソラはというと、何かが引っかかっていたのか首を傾げていた。

 

「え、えっと……ここに白い蓋がついてるんだけど」

「うん」

「これを反時計……じゃない、こっち向きに回すと開いて……」

 

もし本当に思い出せないなら、仕方がない。ヤクモのレクチャーを受けながら少女はペットボトルの蓋を開けると、中の飲み物を飲み始める。

 

「……これ、すっごく甘くて美味しい」

「よかった」

 

余程喉が渇いていたのだろう。一度口にしてからはとにかく早く、すぐに一本丸々空になってしまった。スポドリを一気飲みした少女は、生き返ったかのように嬉しさの声をあげる。

 

「ああ、甘くて美味しかった……」

「とりあえず大丈夫そうかな……?」

「そ、そうですね」

 

まだ何かが引っかかったままなのか、いまいち歯切れが悪そうに返事をするソラ。ヤクモもほっとしながらも、

 

「でも、こんなことがあったのだから家に戻って休んだ方がいいかもしれませんよ」

「……」

 

少女にこの後の行動を提案する。しかし、少女はそんな言葉は聞いていないのか、ヤクモの顔を覗き込んでじっと見ていた。何が引っかかっているのか考えていたソラもすぐに少女のヤクモへの視線に気付いたのか咳払いをすると、

 

「そうですよ。今度こそ倒れてしまうかもしれませんし、そうなってからでは遅いんですよ」

 

そう言いながらヤクモと少女の間に割って入る。先ほどまで2人で「楽しくドーナツを食べて次はどこへ行こうかと楽しみに話しながら歩いていたらこうなってしまったことが残念というわけではない。この少女の身を案じての行為であり、ヤクモがやっていることと同じだと内心で呟きながら、ソラもまた少女を見ると。

 

「……わかった。今は行くね。でも、2人とも私の事を看てくれてありがとう。特にあなた」

「ん?」

「また、会いましょうね」

「……」

 

そう言い、ヤクモに笑いかけると公園から去っていく。何事もなければいいがとぼんやりヤクモが考えていると、背後から視線を感じてソラを見る。

 

「ソラさん?……どうしたの?」

「何でもありませんけど……あの人、大丈夫でしょうか……?それに、なんか気になるんです」

「そうだね、ちゃんと帰れればいいけど……って、気になる?」

 

先程の少女に対し、どうしてもソラには引っかかるところがあった。こうとは断定もできないのだが、

 

「なんていうか……この世界の事、知らない人だなって」

「……この世界の事か……」

 

ソラの言葉にヤクモも考え込んでしまう。先ほどはそれだけ頭が暑さでやられてしまったのかと考えていたが、スカイランド人のソラから見ると、それははっきりとした違和感として感じ取れたようだ。この世界の人間なのに、ペットボトルの開け方をわからない、なんてことがあるのだろうかと首を傾げてしまう。無論、本人がいる前で言うことはしないし、本当に暑さでやられているだけなのかもしれないので中々言えなかったのだが、2人きりにまたなったことでヤクモにも意見を聞きたいと思ったのだろう。

 

「そう言われると……でも、悪い人ではなさそうに見えたけど……」

「そう、ですよね……ッ!?」

 

気になることは確かにあるが、考えても答えが出ないことは一度置いとこうとしたその時だった。ベンチの傍にあった大樹から黒いエナジーが噴き出していた。

 

「アンダーグエナジー!?」

「これって!?」

 

そのエナジーがアンダーグエナジーだと即座にヤクモが気付き、ソラと共にミラージュペンを取り出す。それと同時だった。

 

「ランボーグ!!」

 

大樹を包み込んだアンダーグエナジーが、ランボーグを作り出していく。木の幹にランボーグの目が出現し、地面から自由に動けるようになると、ランボーグが誕生の産声を上げる。

 

「まさか、次のアンダーグ帝国の刺客が……!」

「こんな時に仕掛けてくるなんて、空気が読めません!やりましょうヤクモさん!」

 

キュアスカイとキュアクラウドに変身した2人が、ランボーグに対峙する。戦う相手であるプリキュアの姿を視認したランボーグがファイティングポーズを取るように両腕となっている巨大な枝を動かす。それを見て、スカイとクラウドもそれぞれ構えを取るのだった。

 

「始まったね」

 

そんな2人の様子を、離れたところで少女が興味深そうに見下ろしていたのだった。

 

「あのアンダーグエナジー……ふふ、プリキュアの力、どれくらい強いのかな?」

 

そう少女が呟くと同時に、スカイとクラウド、そしてランボーグが走り出し激突、戦いの火蓋が切って落とされるのだった。

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