「「「「……」」」」
ムラクモの言葉に唖然となる4人。嵐堂家の深い家庭事情の闇が垣間見えてしまい、言葉を失っていたのだろう。そんな時間が居た堪れなくなり、あげはが話を進めようと口を開く。
「ど、どういうことなんですか?というか、あの子……確かにやってることはあれなのは間違いないけど……」
ヤクモに対してやった行動は許せるものではない。しかし、この話を聞くと嫌でも見る目が変わってしまうというものだ。しかも、もしムラクモの言うように、彼女の母親が少女の事を嫌っているとするなら、少女がヤクモに対して何故あのような行動を見せたのかも程度は推測できるようになる。
「……あの、ヤクモ君のお父さんはあの子のお母さんを知っているんですよね?どんな人なんですか?」
「それは言えない。それに……どんな変化があってこうなっているのかも俺にはわからない……さっきも言ったように俺はアンダーグ帝国の今を知らないからな……だから、この場でそいつの事を話すことは俺はしない」
ムラクモの意思は固い。その女性の事は聞けないと4人も判断させられてしまう。それに、仮に聞けたとしても少女の存在についてどうも懐疑的に見えるムラクモの様子からして昔のムラクモの知っている人物像からはかけ離れている可能性もある。それも踏まえて、ムラクモは話さないという選択を取ったのだろう。
「……じゃ、じゃあ!あなたはヤクモさんを助けることに協力してくれるんですね?そのために……」
「悪いが俺はプリキュアの戦いに直接関わる気はない。今日ここに来たのは、ここまで来ればいい加減誤魔化すと言い張るのも無理が出てくると思って色々考えられても困るから来たにすぎないからな」
まあ、妻については本当に誤魔化しているんだが……、と自信なさげに、そして申し訳なさそうに漏らすムラクモ。その様子を見ていると確かにヤクモとムラクモは親子だとわかる。だが、それよりも皆が引っかかったのはムラクモが戦わないという発言だ。事態を知っているし、プリキュアである自分達よりは戦えなかったとしてもランボーグを呼び出せるし、アンダーグエナジーだって扱えるのだ。ヤクモの味方なら、戦ってくれてもいいような気がするが、息子が洗脳されたという状況なのにそれにすら手を貸さないのはどういうことなのか。
「俺が戦わない理由はいろいろあるが……一番はアンダーグエナジーを浄化できないのが最大の理由だ。アンダーグエナジーを消し去らない限り、召喚者はそれを用いて適当な媒体を使って再びランボーグを蘇生できる。無限に再生する兵力って意味じゃこれ以上ない存在ではあるんだが、それは守るときの話だからな……」
ランボーグを使うことに思うところがあるのか、苦々しい表情を浮かべるムラクモ。だが、ムラクモの言う通り、アンダーグエナジーの浄化ができないムラクモが戦場に出てランボーグを倒しても根本的な解決には確かにならないだろう。
「そういうわけだ。それに今は俺も当時より衰えている。お前たちの方が伸び代もあるからな……妻の事は今回もどうにかしておくから、お前たちは気にせず好きにやってくれ。必要ならぶん殴っても構わん。それで凹むような柔い奴じゃない」
「ぶ、ぶん殴るって……」
気持ちや意味としては理解できるが、父親としてぶん殴るなんて言っていいのかとついつい思ってしまう。だが、こう言わなければならない程、ムラクモも今の事態を重く見ているということなのだろう。話は終わったとムラクモはその場から立ち上がると、
「話はここまでにしておこう。妻にはここに泊めてもらってると誤魔化しておくからな、早めに頼むぞ」
「は、はい!絶対にヤクモさんは取り戻します!」
そう言い、帰ろうと席を立つ。そんなムラクモの言葉を聞き、ソラが声を上げる。その声を聞いたムラクモは、後は任せたと言わんばかりに背を向けた状態で手を振りながら虹ヶ丘家を後にする。
「「「「……ふぅ」」」」
ムラクモが家を出て行き、扉が閉まる音がする。それを確認してましろが戸締りをすると、4人は安心したように深いため息を吐く。
「ちょっと安心したね……もうヤクモ君を巻き込まないでくれって怒られるのかもってちょっと思ってたから……」
「そうですね……これからも一緒に戦っていいって言ってもらえてほっとしています」
「あはは……そうだね」
色々と聞かされたアンダーグ帝国の話はとても興味深いことだったが、ヨヨもムラクモが帰る際に何も言葉をかけていないのを見るに、既に彼女は自分達よりもムラクモから色々話を聞かされているのだろう。
「……ヤクモ君のお父さんのためにも、絶対に助けなければなりませんね」
「そうですね」
そう強く自分に言い聞かせるソラの言葉に同調するようにツバサも頷く。ましろとあげはも、同じように頷くのだった。
★
「……うわぁ……!」
翌日の朝。ミクモと名付けられた少女は、髪を赤く染めたヤクモと共に街に繰り出していた。とはいえ、街中に出ても、もしかしたら他の皆に見つかってしまうかもしれない。それを危惧してメジャーな所から外れて人ごみも少ないところを選んでいた。昨日色々話を聞いたヤクモは、ミクモのことが放っておけなかった。
「ねね、なにこれ!?」
ミクモが目をキラキラさせながらヤクモに問いかける。ミクモの手には美味しそうな食べ物がいくつか握られていた。幸い、財布はそのまま持っていたため、朝食を一緒に食べるためにコンビニで適当にヤクモが適当に見繕ってきたのだが。
「凄く美味しそうな匂いがするけど……」
「食べ物だよ」
「どうやって食べるの?」
「えっと、こうやって……」
アンダーぐ帝国にプラスチックだのラップだのはないのだろう。おにぎりを慣れた手つきで袋から取り出して渡してあげる。さすがにおにぎりなどはアンダーグ帝国にもあるのだろう、それを知ったミクモは食べ物の形などには疑問に思わずに美味しそうに食べ物へとかぶりつく。
「すっごく美味しい!」
「気に入ってくれてよかったよ」
今の時代のコンビニ飯だ。別にヤクモ自身が作ったりしたわけではないのだが、自分の世界の食べ物が美味しいと言われれば嬉しいものがある。そういえばソラやツバサもこの世界の美味しい食事や食べ物は気に入っていたなとぼんやり考えながら自分も朝食を食べていると、ふと先ほどのミクモの言葉を思い出す。
「そういえば……昨日までの食べ物は?昨日の夜は結局何も食べてなかったけど……」
昨日の夜は食べ物は食べていない。皆が探しているかもしれないと考え、ヤクモが飲み物だけ仮住まいとして借りさせてもらっていた建物の傍にあった自販機でペットボトル飲料を買って飢えを凌いでいた。さすがに早朝ともなれば皆も動かないだろうと踏んでこうして食事に出てきたのだった。しかし、まだまだこの世界の食べ物に関する知識がないだけだろうとは思っていたが、昨日までは一体食事をどうしていたのかとヤクモが首を傾げてミクモに聞いてみる。
「えっとね……この子達に運んでもらっていたんだ」
そう言い、その辺に落ちていた小石を手に取るとアンダーグエナジーを込めて小さいランボーグにしてみせる。そのランボーグには糸のようなものが伸びていた。
「この世界の果物とかって美味しいね」
「……」
ランボーグを慣れた様子で消すミクモだったが、その様子を見ていたヤクモは血の気が引いていくのを感じていた。
(……それ、窃盗じゃ……)
「その時は建物の近くにいろんなものが入ってる丸い筒?みたいなものの中に果物が入ってたんだよね、誰も見向きもしなかったからじゃあランボーグも人に見られないように使えるなって」
「……それはそれで問題だよ……」
窃盗ではなかったことには安心したものの、ミクモが食べていたのはまさかの廃棄物。女の子がそんなものを食べるんじゃないと思わず怒鳴りそうになってしまうものの、彼女にはそれしかなかったのだろう。慌ててその言葉を呑み込むと、
「とにかく、そういう食べ物は食べちゃダメだよ。今回はたまたま当たらなかったけど、腐ってるものだってあるし、普通に汚いんだから」
ちゃんとそのことについて注意する。そんな危険なもの、単なる食あたりで済むのが幸運なぐらいだ。こうして無事そうにしている様子を見るに、もしかしたらアンダーグ帝国の住人は元来胃袋が丈夫なのかもしれない。だからといってヤクモは自分は見ている間はこんなものを食べさせたくはないと決めることになる。
「じゃ、じゃあ何を食べればいいの?」
「俺がちゃんとしたものを食べさせてあげるから……でも、アンダーグ帝国に戻れば食べ物もあるんだよね?」
「あるよ?でも……」
じっと考え込むミクモ。アンダーグ帝国にいた時の事を思い出したのだろう。そしてじっと顔を上げると、
「……プリキュアに勝って、プリンセスをアンダーグ帝国に連れて行ったら、こっちの世界で暮らしてみてもいいのかも」
「え?」
そうヤクモへと告げる。突然のミクモの言葉にヤクモは驚いたように彼女の顔を見返す。
「ヤクモと出会ってちょっとわかったんだ。アンダーグ帝国で認められて今よりいい暮らしができるようになって、皆に見てもらえるようになるのと、今一緒に食べてるご飯の方が楽しいなって」
「……」
そう告げられ、ヤクモは何とも言えない表情になってしまう。とはいえ、ミクモがこの世界に住もうとしてもそれは難しいはずだ。戸籍もないし、学生の自分がミクモを養えるわけもない。今は多少財布に残りがあるから食事程度は用意できるが今後ともなると話が変わってくる。
(父さんなら何か……)
まだ父とアンダーグ帝国に関する詳しい話はしていないが、こういう話をするとしたら父親にしかできないだろう。だが、今の父親のスタンスなどを考えるとかなり難しい話だろう。
「……でもやっぱ1人じゃ難しいな……何とか説得してソラさんにも協力してもらえば……」
「……」
「ミクモ?」
ぽつりと呟くと、その発言を聞いていたのだろう。ミクモは少し不満げにヤクモを見ていた。
「まーたそのソラって人の事言ってる。私とヤクモは友達じゃないの?」
「ソラさんだって友達だよ。だからもし一緒に考えてくれたら……」
「でも敵でしょ」
「そうだけど……」
それでも、説得できるなら説得したかった。交渉決裂してしまったら腹を括って戦うしかないのだろう、それは心が痛むが、それが今の自分の立場なのだ。
「なんであんなにアンダーグエナジーを注いで意識を逸らしたのに私に協力してくれないんだろう。ヤクモもアンダーグ帝国の血が流れてるのに……」
ミクモはそうぼやきながら、3つ目のおにぎりを食べ始める。ヤクモも言葉半分に聞きながら、これからが大変だなぁと考えながら空を仰ぐと、その視界に空の果てに飛んでいく鳥たちの姿があった。
「……」
その鳥たちの姿を見送りながら、ヤクモは近くにちょうどいい場所がないのかとぼんやり考え始めるのだった。
★
「……」
研究室で窓を開けて、外をじっと見ていたツバサ。その元に、数羽の鳥がやってくる。
「……わかった。ありがとう皆」
鳥の姿に戻り、鳥たちから話を聞いたツバサがそう言うと、鳥たちも頷き家から飛び立っていく。それを見届けたツバサは、
「……行こう」
そう呟き、部屋の扉を開ける。そこには、ソラ達の姿があった。そこにはエルもいる。
「皆さん……」
「鳥さんたちが飛んでくるのが見えたんです。それでもしかしたらって……」
「はい。皆がヤクモさんと例の少女を見つけたようです」
「なら急ぎましょう!時間が惜しいです!」
ヤクモの居場所がわかったことが判明し、全員は家を飛び出す。そのまま変身して鳥たちに指示されたところに向かおうと屋根を飛び移っていると、その途中である広い公園に紫の髪の少女と目立つ赤髪の少年が目に入る。鳥たちが教えてくれた場所から少し移動したようだが、公園に移動して静かに佇んでいるのを見るに、おそらく鳥たちの事に感づいていたのだろう。5人はヤクモ達の前に降り立つ。
「ヤクモさん!」
「来たね、プリキュア」
ミクモは5人を呑気に見ていたが、指を鳴らすと共に地面からランボーグが出現する。公園の中には遊具などもなかったため、ブランコや滑り台を元としたようなランボーグが2体現れる。
「「ランボーグ!」」
「2体も!?」
「絶対にヤクモさんを助けてみせます!」
「うん!そのためにまずはランボーグからだよ!」
とにかくランボーグを排除し、すぐにヤクモの説得に入るためにとプリズムが光弾を連続でランボーグへと放つ。これで怯んだり防御したりすればその隙を利用して追撃を仕掛けようとしていた。しかし、ランボーグの前にヤクモが立ち塞がると、次々と光弾が命中していく。
「あ!?」
プリズムの口から思わず声が漏れる。ヤクモがこの攻撃を受けて大丈夫なのか。プリキュアに変身しているときであれば耐久力はあるが、今のアンダーグエナジーに洗脳されている状態では。背筋が凍り付くような嫌な予感を感じながらプリズムが光弾の命中によって発生した爆煙を見る。煙が薄くなると、昨日見たような衣装に変わっていた無傷のクラウドの姿があった。
「よ、よかった……」
「よかったけど、これちょっちヤバイかも……!」
クラウドが無事な様子を見て、ほっとするスカイ。バタフライも同意しながらも、プリズムの攻撃の全てを無傷で受けきったクラウドの耐久力の高さを改めて目の当たりにし、厄介そうに息を呑むことになる。
「まずは……クラウドを引き剝がさないと……!」
「ならスカイ!クラウドをお願い!」
プリズムはスカイにクラウドを任せるようにと言う。クラウドさえ引き離せば、ランボーグ2体の相手をできる。プリズムの言葉に頷いたスカイはすぐさまクラウドの懐に潜り込む。クラウドは自分の所まで接近してきたスカイを前に冷静に次の行動を対応できるようにと注意深く見ていたが、
「バタフライ!」
「オッケー!」
スカイとクラウドの横にシールドを出現させるバタフライ。クラウドがシールドに一瞬気を取られた隙にスカイがクラウドに抱き着いて動きを封じると、そのままバタフライのシールドで横に押し出してしまう。それによってスカイとクラウドはランボーグの周辺から飛ばされてしまい、
「む」
「おっと!」
それを見たミクモは少し頬を膨らませながらスカイをクラウドから引き剥がそうと糸を伸ばそうとする。しかし、その糸はスカイ達との間に出現したシールドによって阻まれてしまう。
「2人の時間を邪魔させはしないよ!」
「むむ……!」
「プリズムとウィングはランボーグをお願い!」
「わかった!」
「はい!」
プリズムとウィングが2体のランボーグの相手を始める。ミクモは糸を伸ばしてスカイを引き剥がそうとしたりランボーグの援護をしようとするのだが、バタフライによって妨害されてしまう。そして、クラウドを抑え込み、押し倒して馬乗りになりながらスカイは、
「ヤクモさん!目を覚ましてください!!」
そう強く語りかける。その言葉に少しクラウドは悲しそうに目を一瞬逸らしていたが、すぐにスカイの目を見ると、
「ソラさん……もうやめよう。アンダーグ帝国のために、一緒に行こう」
「行きません!ヤクモさんの居場所はここのはずです!ヤクモさんのお父さんだって、お母さんだって帰ってくるのを待っているんですよ!?」
「父さんと母さんが……」
「昨日、ヤクモさんのお父さんも来て言っていました!助けてやってほしいって!」
「……」
スカイの言葉にクラウドの目が揺れる。瞬間、その頭部にブチブチッ、と何かが引き千切れていく音が奔り、痛みに顔を顰める。それを見てスカイが心配するようにクラウドの顔を見ると、その頭部から赤い髪に混ざって髪とは思えない糸が何本か紛れていることに気付く。それが何なのかすぐにわかった。それは、少女の作り出したアンダーグエナジーの糸であると。
「私も……皆も同じです。ヤクモさんに戻ってきてほしいんです。ヤクモさんのことが大好きだから……」
ぎゅっとクラウドの肩を震える手で掴みながら語り掛けるスカイ。その言葉に反応するようにクラウドは頭の中から糸が千切れていく音が響き、髪には先程よりも糸が多く混ざるようになっていく。
「……俺は……俺は……でも、俺がいなくなったらミクモは……」
苦しそうな顔で呻きながらも、クラウドはミクモの姿を思い出していた。ミクモという少女の名前を始めて聞いたスカイは、その表情が彼女に洗脳されて出てきたものではないのだと気付く。
「あいつを……放っておけない……」
「ヤクモさん……」
「例え俺の居場所が、ソラさんの所だったとしても、皆の所だったとしても……あいつには居場所がないんだ……だから、俺はあいつを助けたい……放っておけないんだ……俺がアンダーグ帝国の住人になることでそれが解決するなら……俺は……!」
「だったら、言って!!」
ミクモに対する見方も、ムラクモの言葉で以前とは変わっていた。だからこそ、クラウドの助けたいという、洗脳されていてもいなくても出てくる心からの言葉がスカイにとって嬉しかった。きっと彼ならこういうだろうと。でも、そのためにクラウドがアンダーグ帝国の住人になるなんて間違っている。そう思ったからこそ、スカイは自分の思いを告げる。
「ヤクモさんが本当にあの子の事を助けたいって思うなら、私達も協力します!アンダーグ帝国になんか行かなくたっていい!ヤクモさんも戻ってきて、エルちゃんも守って、あの子も助ける!それがプリキュアじゃないんですか!」
「それが……プリキュア……」
「もういい加減にして!」
スカイの言葉にクラウドの目が一際大きく揺れていく。クラウドの髪色が暗い赤色から赤紫色へと変化しつつあり、頭部からキラキラエナジーが徐々に発生しているのを見て、スカイもクラウドが洗脳を振り切りかけているのを悟り、笑顔が浮かび始める。その様子が面白くなかったのか、周囲の地面が割れてそこから糸が何本も出現し、スカイの体を拘束してしまう。
「きゃあああ!?」
「しまった!?待っててスカイ、今ミックスパレットで……」
「させない!」
「うあっ!」
ミクモと対峙していたバタフライが焦りの声を上げる。地中からの攻撃まではバタフライでも防げない。咄嗟にスカイに糸を引き千切る力を与えようとミックスパレットを取り出そうとするも、同じくバタフライの周囲の地面から現れた糸によって両腕を拘束されてしまい、ミックスパレットがその手から零れ落ちてしまう。しかも状況はさらに悪く、
「うぐっ……!」
「きゃあああ!」
それぞれ1対1でランボーグと対峙していたプリズムとウィングもランボーグに押し負けてしまい、吹き飛ばされてしまう。そこを地中から出現した糸でまとめて拘束されてしまう。プリキュア達が全員無力化されてしまったのを見て、エルも悲しそうな表情になる。
「え、えるぅ……!」
「何なの……あなたはヤクモの何なの!?なんで何回も意識を変えたのにヤクモはソラって人を求めるの!?友達でしょ!?だったら私の方が友達でしょ!?なんで私を見てくれないの!?」
ミクモは怒りの表情を浮かべて叫ぶ。アンダーグエナジーをいくら注ぎ込み、プリキュアに対する意識を変え、自分と一緒に居れるようにしたのに、クラウドの中からスカイへの、ソラへの思いだけは消えることはなかった。自分が一番の友達になったはずではないのか。半狂乱になりながら叫び、さらに糸を強く締め付け、その痛みにプリキュア達の顔に苦悶の表情が浮かぶ。
「……ソラさんを求める理由……」
仰向けになりながら、ぽつりと呟くクラウド。そういえば何故だろう。ミクモも友達だし、こんなに放っておけないと思っているのに。まるで夢中になっているかのようにソラを求めているのは何故なのか。自分の中ではそれは友達なのだとずっと思っていた。だが、
(……違う。俺がソラさんに対する思いは……)
ソラと一緒にいるとドキドキするし、楽しい。ソラの可愛いところや綺麗な所を見ると嬉しくなる。他の皆だったらしないようなこともしてしまう。何回か、考えていたのかもしれない、しかし、その答えを出すのが怖かったのか、もし違ってたらどうしようと考えてしまったのか、一番の友達なのだと誤魔化していたのかもしれない。だが、ミクモの洗脳によって一番の友達の優先順位を変えられてもなお、ソラへの想いだけは変わらずにいたのは、
(俺は……ソラさんのことが、好きなのかな……)
自分がソラに惚れていたから。ソラの事を愛し始めていたからだった。それに気付くと、胸の突っかかりや疑問などがすっとなくなっていくのを感じる。それと同時に体の奥底から不思議と力が湧いてくるのを感じる。全身を駆け巡り、漲っていくキラキラとした力が、意識をより覚醒させていくのを感じる。
「……これをやるとヤクモがヤクモじゃなくなるからあんまりやりたくなかったけど、アンダーグエナジーで記憶を少し封じるから。ごめんね」
遂に痺れを切らしたのか、ミクモがクラウドへと糸を伸ばしていく。その糸がクラウドの全身を拘束していき、無理やり立たせていく。
「「ヤクモさん!?」」
「「ヤクモ君!?」」
「ヤクモ!!」
5人が悲痛な声を上げる。呆然となっていた状態で目の前を見ていたクラウドの両耳へと再び糸が伸ばされ、それが入りかけたその時だった。
「はぁあああああああ!!」
クラウドの周囲に衝撃が走る。それと共にクラウドを拘束していた糸が光で消滅するかのように千切れていく。その衝撃によって地面が割れていき、余波がその場にいた全員に強風として吹き付けていく。全員が何が起こったのか理解できないようにクラウドを見ていると、クラウドの周囲を大量のキラキラエナジーが浮かんでおり、それを取り込んだクラウドの髪の色が赤紫色から本来の薄紫色へと戻っていき、衣装も元のキュアクラウドへと変わっていく。
「……ヤクモさん……?」
「……俺は、キュアクラウドだ」
洗脳から自ら解放され、プリキュアの姿へと戻ったヤクモはそう呟く。自分はどういう存在なのか、それを確かめるように。そして、
「ミクモ、お前は絶対に助ける」
ミクモに言い聞かせるように、クラウドは静かに宣言するのだった。