曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第75話 動物園

 

「いただきまーす!」

「まーす!」

 

リビングに元気にエルの声が響く。小さなプラスチックのフォークを手に持ったエルが、自分の手で食事を行っていた。美味しそうにエルが食事をする光景をニコニコと笑いながら見守るあげは。その様子を、部屋の入り口から覗き込んでいたましろは心配そうな表情で荷物の準備をしているソラの元へと向かう。

 

「お弁当ヨシ!おやつヨシ!水筒ヨシ!」

 

机の上に置かれた荷物を1つ1つ、楽しそうにチェックしていく。そんなソラの目の前に机を挟んでましろが立つと、ソラもましろに気付く。

 

「後はオムツと……あれ?ましろさん、どうかしましたか?」

「ソラちゃん、いいのかな……」

「?」

 

深刻そうな表情を浮かべるましろの様子を見て頭にはてなマークを浮かべるソラ。ましろが気にしていることが何なのかまだ予想できていないようだ。

 

「王様達が目を覚まして、それから皆で戻ってきて……それからすぐに色々あってバタバタしてたから考えてなかったんだけど……」

「はあ……?」

「夏休みにも入って色々落ち着けるようになったでしょ?それで考えたんだけど……エルちゃんは……運命の子、なんだよね……」

 

ましろが切り出したのは、エルが運命の子だと王様達が言った言葉だった。

 

「だけど……戻ってきてからもいつもとおんなじだったよね?さっきも、エルちゃん普通にご飯食べていたけど……よくよく考えたらいいのかなって」

「大丈夫ですよ!ましろさんの作るご飯はすっごく美味しいですから!」

「で、でもでも!」

 

だが心配ないとソラはましろを元気づけようとするのだが、ましろは首を横に振ると、

 

「もっと豪華なご飯じゃなきゃダメなのかも……」

 

そう言い頭を抱えてしまうましろ。そこまでしなくても、自分達と一緒に過ごしている中でエルが美味しそうに食べているのはありふれた食べ物ばかりだ。特別に用意されたような高級なものでなくても、エルが大好きなものはいっぱいあるはずだ。

 

「い、いやいや……そんなにたくさんあっても、エルちゃんが好きなのはおにぎりとバナナですよ……それに、それを言うなら……これも私の弟のおさがりですけど……もっと豪華な服を着せるべきなのでは!?」

「今日はお出かけだし、動きやすい服の方が……」

 

カバンの中から一着の古着を取り出しながらソラは心配そうに呟き、ましろに窘められる。それはソラにとっても懐かしいものだったが、これを使いまわすのはどうかという引け目もあった。だが、懐かしいのも当然だろう、何せこれは、夏休みに入ってすぐにエルちゃんのための服として弟の古着を使えないかと考えたソラが実家に戻って取ってきたものだったりする。

 

(……でも、ど、どうしよう……)

 

荷物を取りに行くということは事前に伝えており、ソラが一旦戻ってくることは両親も知っていた。とはいえソラが戻った時は時間帯も時間帯だったのか母のレミしかいなかったのだが、用意してもらっていた荷物を渡してくれた際の会話をつい思い出してしまう。

 

『ところでソラ、この前言ってた好きな人っていつ紹介してくれるの?』

『……え!?』

『前、言ってたじゃない。ソラも好きな人ができるぐらい大きくなったのね……もっと話も詳しく聞きたいけど……』

『え、えっと、えっと……皆待ってるし、私もう行くから!』

 

その時、やっぱり娘の事が気になるのかヤクモの事を聞こうとしてきたレミから慌てて逃げるようにこちらに戻ってきたのだ。

 

(……だって、私まだ告白だってできてないし……そもそもヤクモさんからどう思われてるかもわからないし……多分友達のままだろうし……好きって思ってるの私だけかもしれないし……)

 

弟のおさがりを見ながら、ついつい考え事に耽ってしまうソラ。その様子をましろも気になった様子で見ていたが、

 

「ソラさん、ましろさん」

「「?」」

 

ツバサの声が聞こえ、ソラも思考を中断する。そして2人が振り向くと、

 

「「ツバサ君!?」」

 

何故かアメフトのプロテクターなどを着ているツバサの姿があった。恰好の奇抜さもだが、そもそもこの家になんでアメフト用具なんてあるのかという当然の疑問も湧いてくる。

 

「ど、どうしたんですかその恰好!?」

「っていうかそんなのどこにあったの!?」

「……最近、考えたんです。プリンセスは運命の子……絶対にお守りしなきゃって考えて……」

 

ツバサの深刻な言葉にソラとましろは顔を見合わせる。ツバサがこのように考えてしまったのは、やはりヤクモの身に起こったこともあるのだろう。無事に解決したとはいえ、アンダーグ帝国の手口自体はより過激になってきてしまっている。それからエルを守るにはどうすればいいのか。その果てに辿り着いた答えが、この格好だったようだ。

 

「「……」」

 

もしこの場に、あげはやヤクモがいたらその恰好はおかしいとツッコミを入れようとするだろう。しかし、直前に色々考えていたこともあってか、ソラとましろはツバサの考えに一理あると考えてしまったようだ。そんな2人が飛躍した考えに至っていることなど当然知らないあげはと食事を終えたエルが、インターホンの音に気付いて玄関に向かう。

 

「ヤクモ君、いらっしゃい!」

「ヤクモ、おはよう!」

「おはよう、エルちゃん。ソラさん達は?」

「荷物の確認してるよ、そろそろ終わってるだろうし、見に行こうか?」

 

玄関でそう話し合うと、3人はソラ達の元に行くことにする。

 

「皆、準備でき……うぇ!?」

「???」

 

だが目の前に広がっていた謎の光景にあげはは驚き、エルはぽかーんと口を開けた状態で呆然としていた。そしてヤクモはというと、完全に理解を放棄したような表情を浮かべることになる。それもそうだろう、何故かアメフトの恰好をしたソラ、ましろ、ツバサの3人が目の前にいたのだから。しかもご丁寧にちゃんと膝に左手を当てて右手を地面に付けるそれっぽいポーズまでしている始末。

 

「……何、それ?もしかして中学ってアメフト流行ってる?」

「……そんなわけない」

 

さすがのあげはもどう発言すればいいのかわからず、ヤクモにその役目を譲ることにする。しかしヤクモも、完全に御手上げといった様子でそう返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆色々考えすぎだって!確かに運命の子だなんて言われたら緊張しちゃうけどさ」

 

それから少しして車内。なんでアメフトの恰好をしていたのか全くわからなかったが皆の話を聞いてやっとそれを理解したあげはが苦笑する。確かに、その後すぐに気にするべきだった直前の出来事が、ミクモの一件もあって後回しになってしまったことで、余計に不安なども増してしまったのだろう。

 

「エルちゃん自身は今までと何も変わらないんだしさ」

「あい!」

 

しかし、エルの事情を理解したからと言って、自分たちの対応を変える必要などないだろうとあげはは言う。それでいいのだとエルも嬉しそうに言うと、隣に座るヤクモに手を伸ばす。その手に気付いたヤクモがエルの手を握ってあげるとエルも一層楽しそうな表情になる。

 

「あはは……わかっているのですが……」

「そうだよね……でもつい、ね……」

「……ところでましろさん。1つ聞きたいんですけど」

「ん?どうしたの?」

 

頭ではわかっているのだが心はまだそうではなかったのもあってあのような珍妙な光景を生んでしまったのだろう。だがそれはそれとして、どうしても聞きたいことがあると、ツバサは後部座席から問いかけると、ましろがツバサに視線を合わせるようにバックミラーを見る。そこには、車のトランク部分のあげはが後部確認の邪魔にならないような位置に鳥小屋が設置されており、それがしっかりと固定されている光景があった。

 

「あ、そうそう少年、どんな感じ?揺れる?」

「いえ、それは問題ないですけど……って、そうじゃなくて」

 

元々、人数オーバーになった際にヤクモがツバサを抱えて対応していたのだが、毎回そうするわけにもいかない。そこであげはが思いついたのが、ツバサのための席を後ろに増設しようということだった。シートベルトまでは用意できなかったので色々なクッションが小屋の中には入っており、揺れにもばっちり対処できるようになっている。中に入っているのは鳥なので咎められることもないとあげはは得意げに語っていた。

 

「ましろさんが助手席にどうして座っているんですか?これまではヤクモさんが座ってたのに急にどうして……」

「うーん……まあ何となく?」

「はあ……」

 

ましろはそう答えるもツバサは首を傾げていた。ツバサの言う通り、現在ヤクモは後部座席の真ん中に座っている。元々後ろに女子を固めて自分とツバサが助手席に座った方がいいだろうと考えていたのだが、今回はましろの気まぐれでヤクモとましろの位置を交代していた。ヤクモとしても特に異論は出なかったため席替えが行われたのだが、

 

「まあまあ、助手席で見える景色も違うし?それにエルちゃんも隣が変わって新鮮じゃない?」

「あい!」

 

あげはの言葉に嬉しそうに答えるエル。右隣に座るエルの様子を見て喜んでくれて何よりだと笑い、そのまま左に顔を向けると、ソラと目が合うとついお互いに相手の顔を見てしまう。そしてすぐに、その距離の近さに顔を少し赤くしながらお互いに逸らしてしまう。

 

「「……」」

 

恥ずかしさを誤魔化すように頬を掻くヤクモと窓の外の景色を見て心を鎮めようとするソラ。しかし、狭い車内でそのままなのは相手に失礼だし他の皆も気にしてしまうと2人とも考えたのだろうか。ちらとお互いに横目で相手の目を見ると謎の合図が通じたような感覚がして、

 

「「……」」

 

お互いに顔は前を向いたまま、ゆっくりと手を近づける。そしてお互いに指先を付ける。ただそれだけなのにお互いに凄く恥ずかしさが込み上げてきてしまい、しかし同時に好きな相手に触れているという感覚が嬉しいと感じる。だが、それは自分だけではないかという思いも出てきてしまい、つい相手に申し訳なくも感じてしまう。そんな2人の様子は、ミラー越しでしか後ろを確認できないましろにも確認できず、誰にも気づかれることはなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

車が辿り着いたのは、ソラシド自然公園と呼ばれる場所。ここは動物園となっており、夏休みということもあって家族連れやカップルなどで大賑わいしていた。

 

「動物園かぁ……いつぶりだろう」

「そういえば小さい時に行ったっきりなんだよな……」

 

楽しみにしていたのは当然ソラ達も同じ。ヤクモとましろも、久しぶりの動物園にテンションが上がっている様子。そんな一行の前に巨大な恐竜の像が現れる。

 

「これって……ティラノサウルス?」

「ああ、これはこの動物園のマスコットキャラクター、ソラシドサウルス!」

「……かお、こわい……」

 

楽しそうに解説するあげは。全員が見上げるほどに大きな像を見上げたエルは少し怖そうに呟く。恐竜と言えば格好いいというイメージがあるが、初めて恐竜を見るエルからすればちょっと怖そうに見えてしまうのかもしれない。

 

「ああ、大丈夫大丈夫、動物さんがいっぱいいて楽しいよ」

「あい!」

 

あげはが動物たちの事を話すと、エルは機嫌を直して嬉しそうにする。

 

「僕も図鑑でしか見たことないから実際に見れるのが楽しみです!」

「私はお弁当が楽しみです!」

 

動物園のパンフレットを見ながら期待の声を上げるツバサに対し、ソラが楽しみにしていたのはどうやら動物よりもお昼のようであった。

 

「あはは……ソラさんらしいね」

「皆テンションあがってるね、じゃあ早速動物たちに会いに行こうか!」

「いっこー!」

 

そして一行は様々な動物を見るために園内を回り始めた。そんな中、実際にカピパラと触れ合えるコーナーに訪れた6人はカピパラが思い思いに自由に過ごす様子を楽しそうに見ていたが、そんな中、一匹のカピパラがエルの元に近づいてくる。じっとエルを見ていたカピパラだったが、エルがふと、

 

「かぴぱら……ごはん?」

「?」

 

そう呟く。それを聞いたあげはは実際にカピパラに餌を渡すことができるのに気付き、近くに売られているカピパラ用の餌を購入して持ってくる。

 

「これ、私たちでご飯をあげられるみたいだよ。それで近づいてきたんじゃないかな?」

「……でも、エルちゃんどうしてわかったんだろう?」

 

ましろが疑問を漏らす。もしかしたら自分達もカピパラが近づいたら何となくそう思うのかもしれないが、エルの様子は予想したというよりも、まるで実際にカピパラから聞いたような感じにも見える。

 

「プリンセス、どうぞ」

「ありがとー。どうぞ!」

 

確かに……とソラとヤクモもツバサからカピパラのご飯の野菜を受け取るエルを見る。野菜を受け取ったエルがカピパラにそれを差し出すと、カピパラは嬉しそうに一鳴きしてエルの手から野菜を受け取る。

 

「かぴぱら、おいちいな」

 

エルの言葉にまた嬉しそうに一鳴きするカピパラ。単純に人に慣れているからある程度わかるのかもしれないが、もしかしたらエルは本当に動物たちの言葉がわかるかもしれない。そんな事を考えながらカピパラとの交流を楽しんだ後はいろんな動物たちを見て回っていた。

 

「ヤクモさん!あれはなんですか?すっごく首が長いですよ!?」

「ああ、あれはキリンだよ。目が高いところにあるから遠くにいる肉食動物を見れるんだって」

「へえ!そんなことができるんですね!」

 

特にこの世界の動物がそれぞれ生きるために進化してきた姿は凄く興味深いものだ。ヤクモから動物の話を楽しく聞いていたのだが、ふとその視線がキリンの隣のスペースにいるシマウマたちに向けられる。

 

「あの馬……シマシマウマに似てますね」

「シマウ……シマ?」

 

シマウマたちを見たソラの感想に思わずヤクモは聞き返す。シマウマではなくシマシマウマ?と首を傾げるヤクモに、

 

「はい!シマシマウマは青と白のシマシマ模様なんですが……この世界のシマシマウマは白と黒なんですね」

「青と白?」

 

ソラはシマシマウマのことを説明する。それを聞いたヤクモ、ましろ、あげはの3人は青と白のシマシマ模様のシマウマは想像できず驚いていた。それじゃ目立って仕方ないだろうとヤクモは疑問を浮かべていると、

 

「スカイランドは空の上にありますからね。青の方が他の動物に見つかりにくいんです」

「なるほど……」

 

ツバサにシマシマウマの情報を補足してもらい、納得したように頷く。

 

「他にもいますよ、青い動物は!牛さんもいますし、パンダも!犬もそうですね……」

「やばっ、スカイランドの動物事情凄くびっくりなんですけど」

「見てみたいなぁ……」

 

スカイランドに行ったことがあるといっても、ヤクモやましろは王都しか見たことがない。あげははソラの自宅まで訪れたが村を見て回ったわけではないのでスカイランドの動物を見たわけではないのだ。

 

「面白そうだね」

「はい!今度スカイランドに戻るときがあったら一緒に見に行きましょう!」

「ありがとう、楽しみにしてるよ」

 

スカイランドの動物たちを一緒に見に行くのも楽しそうだと盛り上がるソラとヤクモ。それを尻目に、エルが動物たちに話しかけてみると、話しかけられた動物たちが反応するように鳴く。他にも見ていた人たちは動物たちが鳴いている姿を見て良いものが見れたと話しているが、その様子を見たツバサ達はエルが本当に動物たちと話せることを知って驚いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いただきまーす!」

 

一通り動物園を見て回り、すっかりお昼の時間になったことで広場にレジャーシートを広げ、6人はその上で昼食を広げていた。

 

「あむ……シャケ、ごはん、海苔、そして……青空!最高に美味しい組み合わせです!」

 

お昼のためにと作ってきたおにぎりを頬張り、その美味しさを堪能しているソラ。その横でツナマヨのおにぎりを手に取りながらヤクモはソラを微笑みを浮かべた顔で見ていた。

 

「やっぱり、エルちゃんは動物とお話できるみたいだよ」

「そうですね……これから、もっといろんな力を使えるようになるのでしょうか?」

「ありえるかも……ただでさえ、私達もプリキュアにしたり……不思議な力を持ってるわけだし」

 

先程の事を話すましろに、ソラは過去に見せたバリアのようなものを生み出したことや、スカイトーンを生み出しプリキュアの力を与えたことを思い出す。それに加えて今回、動物と会話する能力の発現。ということはこれからももっと色々な力を使えてもおかしくない。

 

「でも、動物と話せるようになるのが新しい力だとしたら急に方向性が変わったというか……」

「方向性が……とするともしや、空が飛べるようになったり……」

「いや、力持ちになるのかも……?」

「まさかまさかの、目からビームとか?」

「そ、そんなのハイパー凄すぎ赤ちゃんだよ!?」

「……もっとできることが増えて、エルちゃんも成長してきたらエルちゃん自身がプリキュアになったりするのかな……」

 

もし目覚めたらどんな力になるのか。それで話を膨らませようとしていたようだが、そんな中でぽつりとヤクモが呟いた言葉に全員の視線が向けられる。

 

「……ん?」

「……そっか、確かに今まで考えてこなかったけど……エルちゃんが私達をプリキュアにしてくれたってことは、エルちゃんも将来的にはプリキュアになれるかもしれないってことになるんだね」

 

ヤクモも皆の話に便乗して呟いただけのつもりだったのだが、思ったより皆に真面目に受け止められてしまったようだ。

 

「確かに……じゃあ、やっぱり今からもっと色々英才教育とか……」

「いえここは……スカイランド神拳の伝授を……!」

「いやいや早すぎるって!」

「ま、まだエルちゃんは小っちゃいしそんな詰め込まなくても……」

 

教育方針でヒートアップしつつあるソラとツバサを宥めるましろとヤクモ。その姿を笑いながらあげはは見ていたが、ここで皆を宥めることにする。

 

「でもさ、どうすればいいかなんてわからないんじゃないかな?」

「え?」

「だって、エルちゃんが運命の子やプリンセスじゃなくたって、パパさんやママさんが皆悩んでいることだし」

「そう……なんですか?」

「そうだよ」

 

あげはがエルを見る。他の皆もあげはに釣られるようにエルを見ると、エルは美味しそうにご飯を食べていた。その様子は特別な存在でも何でもない、ただの1人のどこにでもいるような小さな赤ん坊だ。

 

「絵本はどんなものを読めばいい?ご飯は何を食べさせたらいい?習い事はさせる?させない?子供の良いところを伸ばしたくて、素敵な大人になってほしくて、皆悩みながら育てているんだよ」

 

保育園でいろんな子供達とその親と出会ったのだろう。あげはの言葉を全員が話を止めて聞いていたが、皆が静かになったことにエルも気付いたのだろう、疑問を浮かべながらソラに近づいてくる。

 

「いたいいたい、した?」

「いえ、そういうわけでは……」

「いたいのいたいの、とんでけー!」

 

どうやらお腹でも痛めたのかと思われてしまったのか。笑いながら返すソラに、エルが痛いの痛いの飛んでけと両手を大きく広げながら言ってくれる。その様子を見て、皆嬉しそうに笑う。

 

「ありがとう、エルちゃん」

「プリンセスのおかげで、痛いのは空の向こうまで飛んでいきました」

「頑張ったね、エルちゃん」

「どういたしまして!」

 

ヤクモがエルを抱っこしてあげて優しく頭を撫でてあげる。ヤクモに頭を撫でてもらい、一層嬉しそうになるエルに、隣に座っていたソラも寄ってきて一緒に頭を撫でると、2人から頭を撫でられてエルはもっと嬉しそうに喜ぶ。

 

「ふふ、これからもエルちゃんを心配させるわけにはいきませんね」

「そうだね、お弁当食べて動物を見に行かなきゃだよ」

「あ、じゃあ次は触れあいコーナーに行きませんか?」

「触れあいコーナーか……どんな動物がいたかな」

 

エルのおかげで悩み始めた場の雰囲気もすっかり流れてくれたようだ。楽しそうに午後の予定を話し始める4人を見ながら、あげははうんうんと頷くのだった。

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