午後に入り、昼食を終えたヤクモ達は触れあいコーナーを訪れていた。そこには可愛い兎がおり、それを見たエルが感激の声を挙げる。
「うささん!かわいいなあ!」
「優しく撫でてあげてね」
兎に興味津々なエルに優しく話しかけるあげは。その言葉にエルは頷くと、兎に歩み寄っていく。その近くのベンチでは、陽膝にタオルを敷いたソラ達もウサギやカピカラを乗せて餌をあげたり頭を撫でたりしていて楽しそうにしていた。
「……」
「あ……」
動物たちの方もソラ達に撫でられて喜んでいるようだが、1人だけ例外がいた。ヤクモである。ヤクモが動物たちに近づこうとすると、動物たちの方もヤクモに対しては警戒しているのか少し距離を取ってしまう。餌をやろうとすると、それだけは恐る恐るといった様子で食べに来るのだが、餌を食べると用は済んだと言わんばかりに去ってしまう。
「……ま、しょうがないか……」
「しょうがなくありませんよ……」
動物たちが中々近寄ってくれないのは寂しいが、動物たちがそういう認識ならしょうがないだろうと納得しようとする。のだが、そんなヤクモの様子に気付いたソラが優しそうにカピパラを抱きしめながら歩いてくる。
「よしよし……大丈夫ですよ、怖い人じゃありませんから……すっごく恰好よくて頼れる人ですよ?」
カピパラにそう優しく諭しながらヤクモに近づいてくるソラ。ソラの言葉もあってなのか、カピパラも多少は警戒が薄まっているようだったが、ソラがヤクモにカピパラを渡してあげると、ヤクモは優しくカピパラを抱いてソラと一緒に撫でてあげる。すると、カピパラの方も段々ヤクモに慣れてきたのかすっかり安らかな表情を浮かべていた。
「ふふ、すっかりヤクモさんに慣れちゃいましたね」
「はは、本当だね。ありがとうソラさん」
「いえいえ!ヤクモさんも一緒に動物たちと触れ合ってほしいと思っていましたから!すっごく可愛いですよね!」
「うん、本当に可愛いね」
地面にしゃがみながら、カピパラを愛でる2人。と、そんな時だった。突然カピパラが顔を上げると、何かを抗議するように鳴き始める。
「ん?どうしたの?」
「変な所を撫でてしまったのでしょうか?」
触られると嫌な所にでも触れてしまったのだろうか。もしそうだとしたら失礼なことをしてしまったとソラがどうにか気分を宥めてあげようと餌に手を伸ばそうとする。そのために視線を一旦外すと、その視界に映った他の動物たちの異変が目に入ることになる。
「……あれ?」
「……動物たちが鳴いてる?」
ヤクモや他の皆も動物たちの異変に気付くようになる。他の場所からは動物たちが何かを警戒するように唸り声をあげたりしている。エルが先程まで撫でていた兎はすっかり恐怖で縮こまってしまい、ヤクモの腕に収まっていたカピパラはまるでヤクモに何か語り掛けるように先程よりも大きな声で泣き始める。
「何かを伝えているんでしょうか……?」
「ソラちゃん!ヤクモ君!」
カピパラの様子を心配そうに見ていたソラとヤクモだったがましろに呼ばれ、近くのケージにいく。そこではカピパラたちが身を寄せ合ってより怯えている様子が見て取れる。仲間たちの姿を見たカピパラがヤクモの腕から飛び出して彼らの中に潜り込んで身を寄せていく。
「急にどうしたんでしょうか……?」
「何かに怯えてるみたい……」
「うささん!……うー……」
エルと一緒に居た兎も恐怖のあまり、この場にいたくなくなってしまったのかその場から逃げ出してしまう。その様子を寂しそうに見ていたエルだったが、悲しくなってきたのかあげはを見る。
「うささん……」
「大丈夫だからね」
エルの悲しい気分を落ち着かせようと優しく抱きしめてあげるあげは。そして4人にあげはが視線を移すと、
「もしかしたら動物たちは何かに気付いているのかも」
「外で何か起こっているのかもしれません、見に行きましょう」
ヤクモとツバサが動物たちの異変についての話をしていた。もしそれが外で起こっていることが原因でそれを本能的に察知したというのなら、確かめる必要がある。4人があげはとエルを見ると、2人も頷き返す。
「うん、行こう!」
★
6人は自然公園の出入り口まで走る。そこにあるソラシドサウルスの像。その前には褐色肌に和服というやたら目立つ格好の男が腕を組み立っていた。その男は目を閉じたままだったが、ヤクモ達の足音が止まったのを確認すると、ゆっくりと目を見開く。その男は両肩からトゲを生やしており、鼻は人間ではなくもっと動物に近いもの、そして頭からは2本の角が生えているという常人とはかけ離れた姿をしていた。
「その赤子、プリンセスエルとお見受けする」
「「「「「「!」」」」」」
エルの事をすぐさまプリンセスと看破した。そして男の漂わせる雰囲気は交友を深めようなどという明るいものではない。ここまでくれば、ヤクモ達も確信を得ていた。この男の正体は、アンダーグ帝国の刺客だと。
「なれば、貴様らがプリキュアだな」
「何者だ!」
「我が名はミノトン。アンダーグ帝国に仕える者」
ミノトン。男はそうヤクモ達に名乗りを上げる。予想通りではあるが、改めて本人から名乗られ、ヤクモ達の警戒心もより強まっていく。
「プリンセスを狙った新たな刺客というわけですか……」
「ミクモの次の刺客……手強そうだ」
「……ミノトン?ってことは……カバトンのお兄さんとか……」
「あんな下品で下劣な愚か者と一緒にするでない!!」
「ひゃいっ!?」
名前が似ているからカバトンの関係者なのかとふと気になってしまったましろ。しかしその質問はどうやらミノトンにとってはあまり好ましくない質問だったようで、ミノトンの怒号に思わずましろもびくっと体を震わせて隣にいたツバサの後ろに隠れるような素振りを見せてしまう。
「意地汚いわオナラで戦うわ、武人の風上にも置けんわ!!」
「……カバトンは禁句みたい……」
怒らせて突拍子もないことをやりださせても問題だ、相手がどういう人物かわからない以上、ひとまずNGワードにあたるカバトンの話はしないようにとあげはが小声で皆に伝える。ヤクモ達もそれに短く何度も頷くと、改めてミノトンを見る。
「全く……あの者とは大違いよ……あれほど恵まれた環境で何故あそこまで欲に忠実になってしまったのか……」
最後にそうカバトンの事を吐き捨てると、ミノトンは自分の胸に拳を当てる。
「我こそは、真の武人。プリキュアよ、我がランボーグと手合わせ願おう!来たれ、アンダーグエナジー!!」
声を上げ、ミノトンが拳を地面に叩きつける。次の瞬間、濃度の高いアンダーグエナジーが拳から放たれ、ソラシドサウルスの像へと注ぎ込まれていく。アンダーグエナジーを注がれたソラシドサウルスは緑色の巨体を持つ恐竜型のランボーグへと変化する。
「ランボーグ!!」
咆哮を上げ、動き出す恐竜型ランボーグ。その姿を見て、人々が慌てて逃げ始めるが、ソラ達は戦う意思を胸にその場に立つ。
「ソラシドサウルスになんてことをしてくれるの!?」
「皆が危険です!守らないと!」
ソラの言葉に皆頷き、プリキュアへと変身する。変身を完了させた5人のプリキュアを前に、ミノトンはこれを待っていたとばかりに少し嬉しそうに口角を吊り上げる。
「エルちゃん、安全な所へ」
「える!」
スカイに言われたエルはゆりかごに乗ってその場から離れていく。ミノトンはエルがこの場から距離を取るのを待ってから、ランボーグに向かって指示を出す。
「突撃!」
「ランボーグ!」
ミノトンからの指示が出たことでランボーグが地面を揺らしながら突進してくる。その頭部に向かってプリズムが光弾を放つと、その光弾を口で加えて受け止めたランボーグはなんとそのまま力任せに光弾をかみ砕いてしまう。
「ええ!?」
「ぐわっはっは!我はアンダーグ帝国最強の武人。その我が生み出すランボーグもまた最強なのだ……小細工が通じると思わぬことだな」
ランボーグの力を目の当たりにし驚くプリキュア達を見て笑うミノトン。確かにミノトンの言うように、これまで戦ってきたアンダーグ帝国の刺客が生み出すランボーグと比べても真っ当に高い実力を持っていることが伺える。しかし、これほどの力をこのランボーグが得ているのはミノトンの実力だけではない。ミラーパッドを操作し、ツバサはランボーグの素体となっているソラシドサウルスのモデルを調べる。
「そうか……ソラシドサウルスのモデルはティラノサウルス!ティラノサウルスは顎の力が強いんです!」
プリズムの光弾をかみ砕くほどの強力な顎の力、それができるティラノサウルスの力をまともに喰らえばプリキュアとて無事では済まないだろう。
「ランボーグ!!」
再び突進してくるランボーグ。今度はバタフライがシールドを何枚も生み出してランボーグを食い止めようとするが、そのシールドを次々とかみ砕いていく。
「ちょっ……怖すぎるんですけど!?」
相手の強さ次第ではシールドが破られてしまうのもおかしくはないのだが、こうも簡単に破られてしまうとさすがに冷や汗が止まらない。さらに驚愕すべきなのは素体の影響を考慮してもランボーグのこのパワーを現実のものとしているミノトンの実力と言えるだろう。バッタモンダーやミクモは少々特異な手段を用いて強力なランボーグを作り出していたが、ミノトンは他の3人のような普通の召喚でここまでの実力を発揮できる。その厄介さをバタフライは嫌と言う程感じていた。
「うわわ……」
「顔が駄目なら、体を狙うまで!」
バタフライと入れ替わりになるように、シールドを全て砕いたランボーグの懐にスカイが潜り込もうとする。だが、スカイを見たランボーグが口を開くと、そこに炎が集まっていく。
「口が!?」
「危ない!」
「え!?」
ランボーグの口に集まった高温をスカイも気付き、慌てて立ち止まる。しかし、既にランボーグは口から火炎放射を放ち、スカイを攻撃しようとしていた。だがスカイに攻撃が命中する直前にクラウドが割り込んでスカイを抱きしめてその場から横に跳ぶ。
「た、助かりました……」
「こいつ、炎まで吐けるのか……恐竜じゃなくて怪獣だな……」
ランボーグの攻撃を回避した後はそのまま2人は一旦距離を取る。ランボーグは2人を狙って口を動かして火炎放射をぶつけようとしていたようだが、横からバタフライが蝶のエネルギー弾をぶつける。その衝撃で攻撃を中断したランボーグが顔を横に向けてバタフライとプリズムを見る。ランボーグが振り向いた瞬間にプリズムが光弾を放つも、ランボーグはその場から高く跳んで回避する。
「「っ!?」」
2人がその場から離れるとそのまま押し潰してこようとするランボーグが2人が先程までいた場所に着地する。その衝撃で地面がひび割れていく。
「なんて威力だ……!」
「えるぅ……」
強力なランボーグの攻撃に攻めあぐねているプリキュア達。その姿を遠くから不安そうに見ていたエルだったが、ふとエルが視線をずらすと、そこにはランボーグの戦闘の衝撃によって扉が開いてしまったのか、触れ合いコーナーの中から外に出てきてこちらに来てしまったのか、先ほどエルが一緒にいた白い兎がいた。
「うささん!?」
なんであの子がこんなところにいるのか。それに気付いたエルが一瞬驚愕するも、あんな危険な場所に居させておくわけにはいかないと隠れていた茂みからエルが飛び出す。
「!?プリンセス!?」
空から戦局を見下ろしていたウィングが突然茂みから飛び出したエルに気付く。エルは兎の元へと辿り着くとゆりかごを降りて兎を安心させるように寄り添っているようだったが、そんなことはランボーグからすれば関係のないことだ。プリキュアよりも弱く小さい存在が突然現れたことに反応したのか、ランボーグがエルと兎の方を見るとすぐさま走り出す。
「まずい!」
クラウドが声を上げると共にエルの元へと走り始める。一瞬遅れて他の皆も走り始めるが、ランボーグの方が一歩早い。エルもランボーグには当然気付いているが、ゆりかごに戻っている時間がない。なんとか兎だけでも守ろうと、ぎゅっと兎を抱きしめながら震える声で語り掛ける。
「おうち、かえろ!」
「エルちゃん……!」
その呟きを聞いたスカイたちも何としてでもエルの元へ駆けつけようと必死に走る。ランボーグの強靭な顎が、エルと兎をまとめて喰らおうと、口を開けたタイミングで必死に走ったスカイ達がエルの元へと辿り着く。そのままバタフライとクラウドがランボーグの攻撃を受け止めるため、自身の力を高めようとしていたのだが、
「「「「「!?」」」」」
驚くべき光景が目の前で起こるなんとランボーグとプリキュアの間にミノトンが割り込んできたかと思うと、ランボーグをミノトンが受け止めたのだ。
「強者に立ち向かうその心、赤子ながら天晴!」
エルの勇気ある行動に対する賛辞を口にしながら、ミノトンはランボーグを力任せに吹き飛ばしてしまう。敵であるはずのミノトンに助けられたというまさかの光景にソラ達も驚いたようにミノトンを見ていたが、すぐに気持ちを切り替えてプリズムが声を上げる。
「エルちゃん!兎さんは安全な所へ!」
「える!」
プリズムの言葉に頷くと、エルは兎をゆりかごに乗せてその場から離れていく。これでエルは心配ない、それを確認したスカイはミノトンを見ると、疑問を口にする。
「あなた達の目的はエルちゃんのはず……なのに何故、ランボーグから守ったんですか!?」
あの状況、もしあのままランボーグに攻撃させればこちらも被害を受けていたかもしれない。そのチャンスを自ら潰すのは一体何故なのか。スカイに問いかけられたミノトンがプリキュアに振り向くと、
「赤子に牙を向けるなど、武人がすることではない!」
そう断言してみせる。最初の方にもミノトンは自分の事を武人と言っていた。その姿は、これまで見てきたアンダーグ帝国のどの刺客とも違う。
「プリンセスエルは、貴様らを倒した後でよい……我はずっと待ち望んでいたのだ。貴様らのような強者と戦うのを!」
そう告げると、吹き飛ばされて倒れていたランボーグが起き上がる傍までひとっ跳びで移動する。体を起こしたランボーグがぶるぶると顔を振っていたが、ミノトンが傍に来たことで切り替えるようにプリキュアを睨む。
「再開だ、行けいランボーグ!」
「ランボーグ!」
仕切り直され、再びミノトンの指示を受けて突進してくるランボーグ。
「はあ!」
その足元にバタフライがシールドを作り出し、障害物にする。それに足止めされたランボーグの周囲に何枚かシールドを作って囲むようにすると、足元にあるシールドを破るのは少し手間があるのかランボーグが少しその場で静止する。それを見たクラウドは、
「今だ!」
何かを思い付いたのか、勢いよくランボーグへと飛び出していく。
「「クラウド!」」
クラウドが何かを思い付いたのはわかるが、何をしようというのか。プリズムとウィングがクラウドの名を呼び、スカイがクラウドと共に走り出す。クラウドはキーホルダーを取り出すと、
「アンブレランス!」
「!あの業物は……!」
アンブレランスへと変化させ、それを大きく口を開けたランボーグへ向かって跳び、口の中へと突き出す。口内から攻撃しようというのか、しかしランボーグはそうはさせないとアンブレランスを嚙み砕こうと口を閉じようとしたその瞬間。
「おらっ!」
「ラン!?」
口内でアンブレランスを開く。ランボーグの口内いっぱいに広げられたアンブレランスのせいでランボーグは口を閉じられなくなり、苦しみ始める。空中に跳んだクラウドはランボーグの脇を走り抜けるスカイと目配せし合うと、尚も無理やり口を閉じようとするランボーグの口内からアンブレランスを閉じながら引っこ抜くと、甲高い音を鳴らせながらランボーグが口を閉じる。
「!?」
それと同時にクラウドはアンブレランスを握っていない左手に雲を生み出すと、それでランボーグの口を包み込んで開けないようにしてしまう。
「!?!?」
ランボーグがもごもごと口を動かそうとするも口を開くことができない。口に触れた雲がランボーグのアンダーグエナジーを吸収していき、そのまま浄化していく。
「これで、こいつの武器は封じた!」
「次は、こいつを倒します!バタフライ!」
「!オッケー!」
2人がやろうとしていることを完全に理解し、バタフライがスカイをミックスパレットでパワーアップさせる。
「元気の力、アゲてこ!」
スカイが桃色の光に包まれ、そのパワーを上昇させると、回り込んでランボーグの尻尾を掴む。ただでさえ口を閉じられて混乱しているランボーグはスカイの攻撃に反応できず、そのまま投げ飛ばされてしまう。
「ンンー!?」
「いくよ、ウィング!」
「はい!」
体勢を崩し、攻撃能力を失った今がチャンスだ。ウィングとバタフライは互いに顔を見合わせると、
「プリキュア・タイタニック・レインボーアタック!!」
「スミキッター……」
2人の技によってランボーグを浄化する。それによって元のソラシドサウルスの像へとランボーグが戻っていき、破壊された痕も残さず修復されていく。
「……うむ。それでこそ、我が戦うに相応しい。ミノトントン」
自分の作ったランボーグが倒されたが、ミノトンはそれに対して悔しさなどは見せず、むしろ倒せて当然と言うように納得する様子を見せると、静かにそう呟いて消えていくのだった。
★
「うささん、どうぞ」
ミノトンがいなくなったからか、動物たちもすっかり元の落ち着きを取り戻しており、触れ合いコーナーに戻った兎にエルは餌をあげていた。危険な外敵がいなくなったからか、兎は美味しそうに餌を食べている。
「……そっか、さっきのエルちゃんはソラさんの真似をしていたんだ」
「どうやら、そうみたいです。あまり危険な真似はしてほしくないのですが」
その様子を見ながら、ソラとヤクモは先ほどのエルが兎を庇った行動について話していた。どうやら、初めてソラとエルがこの世界に来た時にも似たような状況があったのだという。それを覚えていたエルが空の真似をして兎を助けたのだろうと。それ自体はとても嬉しいことだが、危険な行為をすることについてはどうしても思うところがあるのがジレンマだ。
「……」
「ん?」
と、ヤクモが気配を感じて足元を見ると、そこには数匹のカピパラや兎がいた。先ほどまでは自分を警戒していた動物たちだったが、今の動物たちに警戒心はない。
「どうしたんだろう?さっきはなんか怖がってたみたいだったけど……」
「きっと、ヤクモさんとミノトンが違うって動物たちはわかったんですよ」
「……だったらいいね」
ソラにそう言われ、もし自分に対する誤解が解けてこうして近づいてきてくれてたら嬉しいなと思いながらしゃがみ込み、動物たちを撫でていくヤクモ。その隣でソラも愛おしそうに動物を抱いてあげる。そんな2人の様子から視線を外してあげはが再びエルを見ると、エルは近くの目に涙を浮かべて父親の後ろに隠れている女の子の所に行っていた。どうやら、兎が怖いようで隠れてしまっているようだ。そんな女の子の近くに歩いていくと、エルは手に持っている野菜を分けてあげる。
「どうぞ」
「……?」
よくわからないままそれを受け取った少女が、それを自分を見ていた兎へと差し出す。兎は餌の匂いを嗅いでいたがやがて嬉しそうに食べ始めると、それを見た少女が嬉しそうに笑ってエルを見る。
「なかよし!」
エルもまた、少女と兎が仲良くなってくれたところを見て嬉しそうに笑う。
「……あ……エルちゃん……」
「前は、こんな風に譲ったりできなかったのに……」
「ましろんの絵本が、エルちゃんの心に届いたんだよ」
それを見たましろは、過去に描いた絵本のことを思い出す。あの内容を、エルはきっと覚えてくれていたのだろうと。以前は遊び道具を独り占めしていたのに、今では誰かに分け与えて一緒に喜びを分かち合うことの大事さを理解している。その成長に、ましろ達の顔も微笑みが零れる。
「エルちゃん……私たちが気付かない内に、いろんなことをたくさん受け取ってくれてたんですね」
「そうみたいだね」
エル達の姿を見ながら、3人の近くまで移動してきたソラとヤクモの話を聞きながら、ましろはもう一度頷く。
「これでいいのかなって思ってたけど……不安や悩みは、これからもずっと続いていくんだよね。でも……エルちゃんは今、優しく育っている。だから今は、これでいいのかな」
「大丈夫です!」
「きっと皆が皆らしくしていてくれることがエルちゃんにとって一番いいんだと思う」
「僕たちなりの答えを、皆で考えていきましょう」
「うん、皆で見守っていこう!」
これから、エルがどう成長していくのかはわからない。だからこそ、自分たちがエルの成長をこれからも見守っていくべきなのだ。あげはの言葉に皆は頷くと楽しそうに動物と触れ合うエルを見つめるのだった。