曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第77話 空港

 

「……7……8……9……」

 

セミの鳴く音が聞こえてくる夏の昼間。虹ヶ丘家の庭先でエルとツバサを重しのように背中に乗せたソラは、汗を流しながら腕立て伏せをしていた。その隣ではビーチパラソルとデッキチェアを広げ、サングラスを付けたあげはが本を読んでおり、有意義な時間を過ごしていた。

 

「ソーラ、がんばれー!」

「はい!まだまだいきますよー!」

 

エルからの応援に笑顔で返すと、再び腕立て伏せを再開する。その様子を見ていたあげはだったが、

 

「ええー!?本当!?」

「?」

 

2階の開かれたままのましろの部屋の窓からましろの驚きの声が漏れてくる。その声にソラも動きを止めており、エルとツバサも2階の方を見る。

 

「ましろさん、何かあったのでしょうか?」

「そうかも。でも嬉しそうだし、とりあえず大丈夫じゃないかな?」

「それもそうですね」

 

あげはの言葉に同意すると、ソラはまた腕立て伏せを再開する。庭先で皆がこんな会話をしている中、ましろは自室でタブレットを使って両親と通話していた。

 

『そうなんだよ!』

『仕事がひと段落して、やっと休みが取れたの』

 

画面の向こうにいる両親たちの後ろには時差の影響なのだろう、夜の街並みが広がっている。両親は嬉しそうにましろに休みが取れたことを報告していた。

 

『ああー!早く会いたいー!ほわっほわの真白なわたぐも!ま・し・ろ、ちゃん!』

「も、もぉ……やめてよパパってば……」

 

父親のオーバーな表現にましろも恥ずかしそうに頬を膨らませる。

 

「もう子供じゃないって言ってるでしょ」

『……あ、そうだった。ごめんごめん』

 

そんなましろの様子も父親から見たら可愛く愛おしく見えてくるのだが、ましろが恥ずかしがってしまうのを見て気付き、頭を掻いて苦笑しながら謝る。

 

『だけどいくつになっても可愛い娘に変わりはないんだ』

『ええ、早く会いたいなぁ』

「うん!」

 

両親の嬉しそうな言葉にましろも嬉しそうに頷く。そして両親との通話が終わった後にまず、スマホを手に取る。それから少しして、庭で腕立て伏せをしていたソラ達は虹ヶ丘家を訪れるヤクモの姿を見つける。

 

「あれ、ヤクモさん!」

 

腕立て伏せを止めて、タオルで一旦汗を拭いてからヤクモの近くに走り寄ってくるソラ。

 

「ソラさん。何か邪魔しちゃったかな?」

「いえいえ、そんなことはありませんよ!ヤクモさんの方こそ今日はどうしたんですか?もしかして……会いに来てくれたとか?」

「えっと……それはそう……って、えーとそれだけじゃなくて……」

 

ちょっと期待を込めたようなソラの視線につい言葉が詰まってしまう。思わず本音が漏れてしまうが、一応今回の本来の目的はそうではないのだ。少しソラに申し訳ないと思いつつ、ここに来た本当の理由を伝えることにする。

 

「ましろさんに呼ばれたんだ」

「ましろさんにですか?」

「ましろんに?そういえばなんか嬉しそうにしてたけど何かあったのかな?」

 

先程部屋から漏れたましろの反応を思い出し、あげは達は全員に伝えたいことがあるのだろうと予測し、ヤクモと皆で家の中に入っていく。リビングでは既にましろが待っており、ましろから両親のことを教えてもらったヤクモ達は驚きながらもすぐに喜びを露わにすると。

 

「「おめでとうございます!」」

 

パーティ用のクラッカーを取り出してソラとツバサがそれを鳴らしてましろの報告を喜ぶ。確かに皆に聞いてもらいたい話だったのは間違いないがそこまでしてもらわなくてもと思わず苦笑してしまうましろ。

 

「ましろんの嬉しそうな声、外まで聞こえてたよ」

「きこえた!」

「電話越しでも伝わってきてたね」

 

その喜びの様子は通話越しでもヤクモには伝わってきていた。普段ならメッセージで届く家に来てほしいと言う連絡だったが今回は最初から電話で伝わってきていた。だからこそヤクモも急いできたのだ。

 

「そ、そっか……」

 

ましろも皆がこんなに喜んでもらえるとは思っておらず、少し照れた様子を見せる。

 

「ご両親はいつ頃帰って来られるんですか?」

「明後日だよ!モモゾラ空港まで迎えに行こうと思って!」

「え、空港!?」

「空港……あ!以前、おばあさんを助けるために連れて行った……」

 

空港に実際に迎えに行くというましろの言葉にツバサが嬉しそうに反応する。ソラも過去に空港に向かった時の事を思い出す。

 

「うん!」

「空港かぁ……いつか行きたいと思っていたんです。飛行機が飛び立つ姿を見れる場所です!」

 

やはり、ツバサの大きな関心は飛行機が離陸場所であるという点だろう。航空力学を勉強し、飛行機について学んできた彼にとって、実際に飛行機が飛び立つ空港は一回は行ってみたい夢のような場所だろう。

 

「あれ……行ったことなかったの?」

「ちょっと遠くて……」

「あぁ……」

 

そこに今まで行っていなかったのは単純に交通費の問題だったようだ。ソラ達の場合は空港に行かなければならない用事があり、結果としてプリキュアに変身して片道分の交通費を払わずに来たためにそこまで大した額ではないと感じてしまっていたが、ツバサの言うように往復で行こうとしたら電車賃などはそこそこ値が張ってしまう。それを居候の立場のツバサが強請るのもよろしくはなかったのだろう。

 

「でも、空港が近いおかげでよく飛ぶ飛行機が観察できるのは動かなくてもよかったのでありがたかったです」

「あんまり気にしてなかったけど空港がそれなりに近いから確かにちょくちょく見えるよね」

 

そこに住んでる現地人からすれば当たり前の環境だが、勉強をしているツバサからすればこのソラシド市の恵まれた環境に感謝するべきなのだろう。お金をかけずに飛行機を観察できるのは居候の立場としてはとてもありがたかった。だが理想を言えばやはり空港には一度は足を運びたいところだろう。それに、ツバサが空港に行きたいのはどうやら飛行機だけが目的ではないようで、

 

「それに、確かモモゾラ空港のレストランスペースにはヤーキターイ……じゃなくてたい焼きのお店があるとか!」

「うん!飛行機の形をしたたい焼きが売ってるんだって」

「「!」」

 

ましろの補足にツバサだけではなくソラも面白そうな表情を浮かべる。飛行機の形をしたという今まで聞いたことのない形状のたい焼きに興味が湧いてきたようだ。

 

「そういや色々屋台があるんだっけ……この前テレビでたこ焼き屋が新しく出るみたいな話もあったな……定食屋とかも一通りあったから食べ物には困りそうになさそうだけど」

「へえ、そんなにたくさんのお店があるんですか!?以前はそこまで見ないで帰ってきちゃいましたから全然知りませんでした!」

 

空港には色々な飲食店がある。たい焼きなどの屋台はもちろん寿司屋だの和風料理店だのイタリアンだの。モモゾラ空港にも一通りの料理屋がある。せっかく空港に行くのなら今度はゆっくりしつつ美味しいものでも食べてみたい。そうソラは考えていたのだろう、食べ物に目を輝かせているソラの様子を見て笑いながら提案する。

 

「明後日までに調べておくよ」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「あはは……持ち帰れそうなものがあったらお土産に買ってくるから後で教えてね」

 

ヤクモの申し出に嬉しそうに両手を握り上下に振るソラ。ソラが嬉しそうな姿を見ながらヤクモも嬉しく感じながら、ましろに伝えられるお店にはどんなものがあったのかなと記憶を掘り起こし始める。

 

「じゃあ、私が車出すから皆で空港行っちゃう?ましろんのパパとママにサプライズって感じでさ、どうかな?」

 

ましろだけが迎えに行こうとしているようだが折角だ。友達の自分達も一緒に行ったらましろの両親にとってもいいサプライズになるだろうと提案するあげは。それを聞いた5人は嬉しそうに頷くのだった。

 

「それじゃあ、決まりだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ってわけで明後日空港に皆と行くことになったんだけど……」

「それって……もしかしてまひるちゃんの事?」

「え?」

「ましろちゃんのお母さんでしょ?明後日帰ってくるって聞いたけど」

 

その日の夜。家に帰ったヤクモが明後日の予定を母に伝えていたのだが、それを聞いたあかりは何かが引っかかったのか少し考え込むと、まひるという人物の名前を出す。ヤクモの方はその人物の名前に心当たりがなかったのだが、ましろの母親の名前だと聞かされて納得する。

 

「知り合いだったの?」

「うん、でも縁って凄いよね。ムラクモさんはヨヨさんに色々お世話になってたし、私はまひるちゃんと友達だし……ヤッ君もまたその娘さんのましろちゃんとも仲良くなって他の友達もできて……」

「縁か……」

 

そう考えると案外世界は狭いものだ。尤もヤクモとソラ達の縁にはプリキュアやら異世界やらの事情も関わっているため、母には中々告げられない内容なのだが。

 

「ムラクモさんもタイミングが悪いね……」

「何か連絡とかはないの?」

「うーん、まだないかな。でもムラクモさんのことだからふらっと戻ってくるんじゃないかなあ」

 

この前のミノトンとの戦いを思い出す。新しいアンダーグ帝国の刺客の出現もあり、アンダーグ帝国の方も動き出したが、ソラシド市から出て行っているムラクモにはその情報は伝わっていないはずだ。それにムラクモよりもミクモも心配になってしまう部分もある。

 

「……ま、確かにその内戻ってくるかな……」

 

だがあかりが全く心配してないように、ヤクモもまたムラクモならミクモと一緒にふらっと戻ってくるだろう。そんなことを考えながら、一週間の天気予報を流すテレビに視線を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして2日後。晴天のももぞら空港にヤクモ達の姿があった。

 

「ここが、空港……!」

「くうこう、きた!」

 

初めて空港を訪れ、ロビーに入ったツバサは目をキラキラさせながら周囲を楽しそうに見渡し始める。ソラも、前回はそういった余裕がなかったのだろう、改めてロビーの中をきょろきょろと興味がどんどん目移りさせていく。

 

「食いつき凄いね」

「でも気持ちはわかるかな。空港なんてまず来ないだろうし」

「あはは、確かにね」

 

だが空港に来たらテンションが上がるのはヤクモもわかる。間近で飛行機が離陸できるところを目にできるとなれば当然格好いいのだから。

 

「……ん?あのキリっとした方たちは……?」

 

と、ソラがロビーの中を見渡していると他の人たちとは違い制服に身を包んだ男性と2人の女性が歩いている姿に気付く。その人たちを見たツバサは先ほどよりも興奮した様子を見せる。

 

「あの人たちは飛行機を操縦するパイロットと、空の旅をエスコートしてくれるキャビンアテンダント達です!」

「凄く素敵です!」

「はい!」

「パイロットなんて生で見れるんだ……」

 

飛行機を操縦するパイロットの姿なんてテレビでしか見たことがない。まさかそんな人物を見れるとはとヤクモが驚く横で、ソラも感激した様子で目を輝かせていた。

 

「ましろんのパパとママが到着するまで時間あるし、あちこち回って楽しもうっか?」

「うん!」

 

パイロットたちを見送ると、あげはは時間を確認する。ましろから聞いた両親が到着するまで時間があることを確かめると、空港の中を見て回ることにする。ツバサが興味を持っていた飛行機の形をしたたい焼きを食べたり、空港でのみ買うことのできる限定品の飛行機の模型やお土産を見たり、桃に飛行機の翼などがついているこのモモゾラ空港のマスコットキャラクターのぬいぐるみをエルと共に楽しそうに見たりと、普段中々見れないものに一行は楽しんでいた。

 

「空港って楽しいですね!」

「くうこう、すき!」

「プリンセスも気に入りましたか!」

「次はどこ行く?」

 

こうして見ているだけでも時間はあっという間に過ぎてしまいそうだ。だが、まだまだ見ていないところはいっぱいある。ましろが次はどこへ行こうかとツバサとあげはに問いかけると、

 

「少年が、一番楽しみにしている場所かな?」

「それって……」

 

偶然、展望デッキへの案内板を見つけたあげはがその案内板が示す方向を指差す。一行が展望デッキへと出ると、丁度タイミングが良かったのか、飛行機が離陸するところを見ることができた。

 

「「うわぁ……!」」

「おっきぃ!そらぁ!」

「やっぱ、空港って言えば飛行機っしょ!」

「はい!!」

 

滑走路に止まる飛行機を展望デッキから見て、嬉しそうに声をあげるツバサ。

 

「僕は、ずっと空が飛びたくて航空力学を勉強してきました……だから、夢が叶った今も飛行機が憧れの存在であることに変わりはないですから」

 

憧れていた飛行機を見ていたツバサの嬉しそうな様子を見て、周りも喜びの表情を浮かべる。ましろの両親が来るまで、ツバサが気の済むまで飛行機を見ていようかと考え始めていると。

 

「むむ……それにしても不思議です。あんなに大きなものが羽ばたきもせずに飛ぶなんて一体どうなってるんです?」

 

改めて考えてみると、どうして鉄の塊である飛行機が空を飛べるのかが疑問に思ったのだろう。ソラがヤクモに視線を向けて問いかける。ヤクモは軽く考えてみるが、飛行機が空を飛べる理由は大まかにしかわからない。詳しい内容はやはり彼に聞くべきだと、ツバサに目で合図を送ると、ツバサも待ってましたと言わんばかりに頷く。

 

「鳥は羽ばたくことで翼に風を受けますが、飛行機はジェットエンジンなどで加速してその時に受ける風の力で飛ぶことができるんです」

「ええ!?ジェットニンジン!?」

「いやジェットエンジン」

 

聞き間違えたのか、ソラの中では妙な変換がされてしまったようだ。おそらくソラの脳内では空を飛んでるニンジンの姿でも浮かんでいるのだろう、そう考えると随分恐ろしいニンジンだなとつい考えてしまいながらソラの発言を訂正する。

 

「つまりですね……鳥も飛行機も翼が受ける風の力で飛んでいて、その力を専門用語で言うと……」

「揚力!」

「そうなんです!よく知ってましたね……って?」

 

軌道修正しようとしたツバサだったが、割り込まれた少女の声に驚いてしまう。一行が驚いた様子で少女の声が聞こえてきた方向を見ると、そこには黒い髪の少女がいた。身長はツバサより一回り小さいぐらいだろうか。その少女は得意な様子で、

 

「そんなの簡単よ!風って目に見えないけど……」

 

そう言い、シャボン玉液を取り出すと、シャボン玉を吹き始める。空を飛ぶシャボン玉は風に乗り始める。

 

「ほら!風に乗って飛んでいくの!」

「「うわあ……!」」

「しゃぼんだま!」

 

空に広がっていく綺麗なシャボン玉を見てソラ達も楽しそうな表情を浮かべる。エルはよっぽど気に入ったのかふわふわと浮いているシャボン玉を見て嬉しそうに両手を伸ばして触ろうとしている。

 

「風って飛ぶのに凄く大事なのよね!」

「……ん?」

 

得意げに風の事を語る少女に視線を戻したツバサだったが、その視線が彼女の持ち物であるポーチに向けられる。それは飛行機をモデルにした白と紫の2色のカラーリングをしており、それを見たツバサはある可能性に辿り着く。

 

「君ももしかして……飛行機に興味が?」

「あなたも詳しそうね?望遠鏡で一緒に見ましょう!」

「はい!」

 

どうやら同好の士を見つけたようだ。早速意気投合したツバサと少女は一緒に望遠鏡を使って飛行機をじっくりと観察し始める。

 

「なんか、意気投合?」

「すっごく楽しそうです!」

「趣味が合う相手だと話も弾むんだろうね」

「エルも見る!」

 

空港での新たな出会いにツバサと少女は楽しそうだ。そんな2人の姿を見て、エルもツバサのように飛行機を見たいと期待の声を上げる。あげはに抱えられながら望遠鏡を覗き込んだエルは大きく見える飛行機の姿に大興奮だ。

 

「……凄く遠くにヤクモさんの姿が見えます」

「逆逆……ど、どうしたのソラさん?」

 

そしてソラはというと、何故か逆に望遠鏡を覗き込んでいた。思わず突っ込むヤクモにきょとんとした様子で覗き込んでいた望遠鏡から顔を外すソラ。

 

「ソラちゃん、望遠鏡使うの初めてだから……」

「えっと、こっちから見るんだよ?」

「あ、そ、そうでしたか……」

 

少し恥ずかしそうにしながら、ヤクモに望遠鏡の使い方を教えてもらうソラ。そして一通り飛行機を見終わった後、屋根のある休憩スペースに移動し、購入した飲み物を飲みながら休憩していた。

 

「私は、天野翔子!翔子には、空高く飛ぶ子って意味があるのよ。素敵でしょ!あなたは?」

 

と、まだ自己紹介していないことに気付いたようで、少女は翔子と名乗るとツバサに自己紹介を促す。

 

「僕は……」

 

ここで一瞬、ツバサはヤクモとあげはの顔を見る。それから、

 

「夕凪。夕凪ツバサです」

「へえ、あなたも素敵な名前ね!」

「はい!」

「「……え?」」

 

ツバサの自己紹介を聞いて、ソラとましろは驚く。ましろはツバサの苗字を今まで聞いたことがなかったという思いだろうが、ソラは少し違うようだ。

 

「確か、プニバ……ツバサ君って……」

「元々、苗字があった方がこの世界で色々便利だって話はしてたんだよ」

 

翔子に聞かれないように小声でソラとましろに説明するヤクモ。やはりソラの疑問は本来苗字のないツバサの夕凪という苗字がどこから出てきたのかというところのようだ。

 

「ヤクモ君と2人で考えたの?」

「ある程度候補は絞ってあげはさんにもチェックしてもらったんだ」

「候補って?」

「……美翔と滝沢?」

「滝沢はどこから出てきたの……?」

「その時テレビで滝の映像見てたような気がする……」

 

2人の知らない間にツバサのこの世界で過ごすための苗字が生まれた経緯を知り、納得する。確かにツバサの苗字があれば今回の自己紹介の時のように色々便利なのは間違いない。

 

「翔子ちゃんって、本当に飛行機が好きなんですね」

「そうよ。だって私、いつかママみたいなパイロットになるのが夢だもの!」

「え!?ちょ、ちょっと待ってください!じゃあ翔子ちゃんのママって……パイロットなんですか!?」

「凄いでしょ!」

 

翔子のカミングアウトに驚くツバサ達。思わず聞き返すツバサに胸を張ってどや顔で自慢する翔子。証拠の母親の職業を聞いたツバサはこれ以上ないほどに目をキラキラと輝かせる。

 

「凄い!凄すぎです!」

「今日はね、ママが操縦する飛行機に初めて乗る日なの!」

「へえ!それは楽しみですね!」

「うん!」

 

そして翔子は自慢の母親が運転する飛行機に今日乗るのだと言う。それはとても楽しみなようで、その様子は見ていて凄く伝わってくる。

 

「ところで、1人みたいだけど……?誰か、大人の人は?」

 

仕事の事もあるのだろう、だから母親が近くにいないのは納得したが、それなら別の人が見ていたりしないのだろうか。ついつい、ツバサと楽し気に話しているものだから気にしていなかったが、改めてそこが気になったあげはが翔子にそれを問いかけると、

 

「あ……パパなら……今、搭乗手続きをしてて……近くで待ってて、って……あれ?そうだ私……待ってなきゃいけないのに……」

 

ここで自分が父親に何も言わずに展望デッキに来たことを翔子は思い出したのか、落ち込み始める。今頃、父は自分を探しているだろうと。

 

「搭乗手続きって……」

「一階だよ」

「きっと、パパが心配してますよ」

 

もし父とこのまま会えなくなってしまったら。そんな想像をしてしまったのだろう、翔子はどんどん心細くなっていったのか、涙を目に浮かべ始め、今にも泣きそうになってしまう。

 

「どうしよう……」

「ならお父さんの所に行こうよ」

「え……?」

 

そんな翔子にヤクモが優しく声をかける。顔を上げ、ヤクモを見た翔子の頭をあげはが優しく撫でてあげ、気分を落ち着けさせようとする。

 

「大丈夫。皆で、お父さんに会いに行こうっか!」

「本当に……?」

「「はい!」」

 

翔子が皆を見ると、ソラ達は皆快く頷く。泣きそうになっていた翔子の顔が、段々元の明るさを取り戻し始める。

 

「パパ、見つかる……?」

「うん!きっと見つかるよ!それに……パパも翔子ちゃんを探しているはずだから!そろそろ……」

 

あげははある時間が近づいていることに気付いたようだ。時間を確認しようとしたあげはだったが、丁度アナウンスが入ってくる。

 

『迷子のお呼び出しをいたします。天野翔子様、お父様がお探しです』

「!」

「ね?」

 

どうやら、翔子の父は迷子センターの方に足を運んでいたようだ。父親が自分を探してくれていたことを知った翔子に、ソラはしゃがみ込んで背中を見せる。

 

「では、私の背中に!」

「大丈夫、きっとすぐにお父さんの所に行けるよ」

「うん!」

 

ソラは翔子をおぶって迷子センターまで連れて行こうというようだ。ヤクモにも言われ。明るさを取り戻した翔子を背中に乗せたソラは勢いよく走り出す。

 

「それでは、出発です!」

「わわわ!?」

「ソラさん、案内所はそっちじゃないよ!」

「あ……すみません!」

 

あまりの速度と揺れに思わず翔子が悲鳴を上げ始めたのを見て慌ててソラに追いつくヤクモ。翔子を背負っているのもあり、少しは速度を落としているようで、そのおかげで追いつけたヤクモに言われ、慌てて立ち止まったソラはヤクモと共に案内所へ向かう。その姿を見て顔を見合わせて笑うと、ましろ達もソラ達を追いかけて案内所へと向かうのだった。

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