「もう楽しみすぎて待ちきれません!」
窓の外を見ながら、楽しみすぎてうずうずと体を揺らしているソラ。その視線は明るい昼の空に向けられている。
「花火大会……早く始まらないでしょうか?」
「夕方まであと少しの辛抱だよ」
ソラが楽しみにしていたのは、今日行われる花火大会だった。リビングのソファではツバサも楽しみそうに花火大会のパンフレットを読み込んでいた。そんなソラの様子を微笑ましく見ながら、ましろはもうすぐだと言う。
「もう少し……もう少し……」
「ふふ、もうすぐヤクモ君も来るから一緒に過ごしてれば夕方なんてあっという間だよ」
「はい!……え?あ、いやえっと……」
つい反射的に返事を返してしまったが慌てて咳ばらいを入れて誤魔化そうとするソラ。しかしツバサは何故ソラがいきなり咳払いなんてし始めたのか、そんなにまずいことでも言ったのかと疑問そうに首を傾げたのを見て、ほっと溜息を零す。そんなソラの姿を見てましろはつい笑ってしまう。
「ふふ、じゃあさ、ヤクモ君が来るまでの間、ネイルやってみる?結構楽しいよ!」
笑いながら、ましろが桃色のネイルを塗った右手の爪をソラに見せる。この空いた時間を使って、ましろはどうやらネイルをしているようだった。
「綺麗……あ、いや、私ではうまくできそうにないので……ヤクモさんが来るまで、体でも動かしておきます」
「そっかぁ……」
一瞬興味ありげにネイルを見るも、遠慮がちに腕を振りながら言う。その様子を少し残念そうな表情を浮かべていたましろだったが、ふとあることを思い出してニヤニヤ笑う。
「でもソラちゃん、あげはちゃんのオシャレ雑誌とか時々じーっと読んでるよね?やっぱりソラちゃんももっとできるようになりたいんじゃないの?」
「な、なんでそれをぉ!?」
ソラは皆に隠れて読んでいるつもりだったのだろうが、残念ながらこの家の皆にはバレている。あわあわと慌てだすソラを見ながら、
「あげはちゃんに時々メイクしてもらってて、自分でもやりたいって思ってるんじゃない?これ試してみたいなぁとか考えてたり……」
「そ、それはその……で、でも私、自分でするのはやっぱり……」
ましろももっとメイクなどへの興味を煽りながらソラにネイルをやってみないかと遠回しに聞いてみる。だがいまいち煮え切らない様子のソラを見て、次の言葉をましろが考えていると、そこにあげはが入ってくる。
「ましろん、見てみて!この振付、どう?保育園の実習でダンスをやろうと思っててさ!」
嬉しそうにましろに踊りを見せるあげは。あげはらしい可愛らしくはきはきとした振付を見たましろは、確かにこれを園児たちがやったら楽しそうだと感じる。
「可愛い!子供達もアゲー!だよ!」
「ましろん、アゲー!じゃなくてアゲ~!だよ!」
「え?アゲ~?」
「もっとノリノリで!アゲ~!」
いつものようにアゲアゲなのだろう。だがましろのニュアンスはちょっとあげはの今の感覚には相応しくないようで、これが正しいニュアンスだと伝える。そのトーンからこういう違いなのかな、と少し不安そうに笑いながら、あげはのポーズを真似して、トーンをできる限り近づける。
「アゲ~?」
「……いや、どっちだっていいじゃないですか」
本人たちには細かい違いがあるのだろうが、傍から聞いている限りだとあまり違いがわからず、ツバサは苦笑を漏らす。
「……あ」
「ヤクモ君、来たみたいだね」
「出てきます!」
そんな感じで話をしていると、インターホンが鳴る。ヤクモが来てくれたことに気付いたソラが部屋からすっ飛ぶ勢いで出て行き、玄関に行く。そしてすぐにヤクモを連れてリビングまで連れてくる。
「いらっしゃい、ヤクモ君」
「これで全員揃ったね」
ソラに手を掴まれて引かれるようにリビングに入ってきたヤクモを全員で出迎える。ヤクモはツバサの隣に座ると、ソラが持ってきてくれた麦茶を飲むと、その隣にソラが座ってくる。
「夕方になる前に着けて良かったよ」
「そうですね!」
「といってもまだまだ時間は余裕ありましたけど」
「あはは……ちょっと気が早かったかな……」
改めてスマホの時間を確認すると思ったより早く到着していたようだった。そのことを指摘されてヤクモも苦笑する。そんなヤクモにソラは飲み物と一緒に持ってきたお菓子を渡してくる。
「ヤクモさん、これどうぞ」
「ありがとうソラさん」
それを受け取り、ソラに笑いかけるヤクモ。と、ツバサもパンフレットの中に気になる花火が載っていたのかヤクモにそれを見せてくる。
「これ見てください!こんな大きな花火を打ち上げるんですね!しかもパンフレットによるとこの世界の花火は地上から見ても空から見ても同じ丸に見えるんですって!」
「そういえばスカイランドでも祝い事で花火?は打ち上げてたけど、そこまで形は見てなかったな……」
「昼間だったからね……あんまりよく見えなくてもしょうがないよ」
「どっちかっていうと祝砲?みたいな感じじゃない?あれは」
あの時は昼だったため、どちらかというと音の方が大事だったのかもしれない。今回ソラシド市で打ち上げる花火は夜に打ち上げるため、見た目にも花火師が拘って作り上げているのだ。そこが違うのだろう。
「僕、全然この世界の花火のこと知らなくて。火薬の配置とか凄い練られて作られているんですね!」
「テレビで見たことあるけどあれ凄いよね」
「少年、どんどん物知りになってくじゃん!」
花火の作り方はこの時期だとバラエティ番組などで特集されたりもするが、ああいうのを見ると職人技の凄さを実感できる。そこで完璧な配列や調整を施したからこそ、人々を魅了してやまない花火ができあがるのだろう。
「……あれ?エルちゃん、あんなところに……?」
男子2人の花火談義を聞いていたソラが窓の外に改めて視線を向けると、庭に1人で出ていたエルがミラーパッドを手に何か操作をしている様子が目に入る。
「……あ!?あれはミラーパッド!?」
炎天下の外にエルが1人で出ているのも驚きだが、家の中においてあったミラーパッドを持ちだして遊んでいる様子は見過ごすわけにはいかない。慌てて庭へと出てきた5人がエルの傍に近づいてくる。
「プリンセス!それは大事なものだから僕に渡してください!」
「……だいじ?」
傍に近づき、しゃがみ込んでエルを諭すツバサ。エルが疑問そうにツバサを見て首を傾げる。
「そう、大事。大事です」
「大事!」
わかってくれたようだと安心したのもつかの間、エルが楽しそうに声を上げながらミラーパッドをタッチしまくる。ミラーパッドの画面にはエルが立っちするとそれに呼応するようにそこから波長のようなものが画面内に広がっていく映像が流れており、今のところはお遊びの機能で遊んでいるだけのように見える。
「もう……駄目ですってば」
困った様子でエルの手からミラーパッドを取るツバサ。ミラーパッドの機能はヨヨから託されたツバサでも全部は把握していないのだ。もしツバサも知らない変な機能を起動してしまったら、ヨヨしか対応できないのだから、ヨヨが傍にいない時に面白半分で操作はあまりしてほしくないものだ。
「えるぅ……?セミ!わーい!!」
何故ミラーパッドを取り上げられたのかわからない様子のエル。だがすぐに木に止まっているセミを見つけると楽しそうにそっちに駆け出していく。
「もう……?」
その様子に呆れながらも、ついつい笑ってしまうツバサ。と、ミラーパッドから変な音が聞こえてきて、画面を覗き込む。画面には今まで見たことのない光が溢れていた。
「これは……?」
「どうしたの?」
「なんか変なアプリでも起動しちゃった?」
「いえ、アプリでは……まぁでもそうかも……?」
「うわ、なにこれ!?」
どうすればいいのかわからず困惑するツバサの周囲に集まってくるヤクモ達。画面の光はまるで中に吸い込むかのような動きを見せたかと思うと、突然ミラーパッドの画面が光り輝く。次の瞬間、5人の体が光になってしまい、ミラーパッドの中へと吸い込まれていってしまう。
「「「きゃああああああ!?」」」
「「うわああああああ!?」」
「……える?」
光の中、吸い込まれていく5人の悲鳴。それが聞こえたエルが振り向くと、そこには地面に落ちたミラーパッドだけが残っているのだった。
★
「……うわっぷ!?」
光の中、落ちていくヤクモ達。出口と思われるタイルの敷き詰められた地面が見え、ぶつかると血の気が引いた瞬間、白いふわふわの雲のクッションが現れその上に5人が落ちてくる。
「た、助かった……」
「……ここは一体……」
雲の上に立つように着地したヤクモがうまく受け身が取れず背中や腹からクッションに落ちてきた4人を見る。怪我などはなく、ふわふわのクッションの感触を味わっていた。
「なにこれ、すっごくふわふわで楽しいんですけど!」
「確かにふわふわですけど……なーんかちょっと違う感じが……」
「雲ソムリエ……?」
クッションから降りた5人が空間を見渡す。幻想的な空間のようにも見えるが、一体ここはどこなのだろうか。
「ここって、もしかしてミラーパッドの中?」
「……だと、思いますけど……」
辺りを5人が見渡していると、どこかから桃色の玉が転がってくる。それは5人の目の前を通り過ぎて動きを止めると、そのまま戻ってきて5人の前で静止する。
「あはっ、うっかり行きすぎちゃったトン」
桃色の玉は桃色の豚の姿になって浮き上がる。
「ウェルカーム!プリキュアのみなさーん!トン!!」
「……トン?もしかして、アンダーグ帝国の罠……!?」
ミノトンの事を思い出したツバサがこの謎の小動物はアンダーグ帝国の関係者ではないのかと勘ぐってしまう。
「ノンノン!ここはミラーパッドのスペシャルステージトン。私は案内役のピンクットン。ブヒブヒ」
「可愛い!」
自らをピンクットンと名乗り、ウィンクをする姿を見て、愛らしい小動物に見えたのだろう。あげはが喜びの声を上げる。ましろは改めて空間を見渡す。
「確かに、アンダーグ帝国とは真逆の雰囲気だけど……」
「私やこのスペシャルステージはアンダーグ帝国とは関係はないトン。今日は皆さんに、特別なトレーニングを用意しますトン!」
「「「「「え!?」」」」」
ピンクットンの突然の宣告に5人が驚きの声を上げる。確かにピンクットンとアンダーグ帝国の間に関係性はないのは理解したが、特別なトレーニングとはいったい何をさせようというのか。
「ミラーパッドに吸い込まれて、なんでいきなりトレーニングなわけ?」
「さっぱりわけがわかりません……」
「うーん……また明日にしてもらっていいかな……?」
「それに今日は花火大会があるんです!早くお家に帰してください!」
しかし皆からの反応はあまりよろしくない。この状況に対する理解がまだ及んでないことや、この後の予定もあるのだからこういう反応を見せるのもある意味仕方ないことかもしれない。しかしピンクットンは、
「大丈夫。トレーニングをトントン拍子でクリアすれば、このミラーパッドから出られるトン!ブヒー!」
そう言うとピンクットンは鼻から大量の息を噴き出す。煙が一瞬巻き上がったかと思うと、そこにはいろんなカードが出現しており、それらにはスポーツや勉強道具といった様々な道具や人のシルエットが描かれていた。
「へえ……いろんなトレーニングがあるんだ」
「体を鍛えるだけじゃないんですね」
最初は戸惑い気味だったが、実際にカードを見たあげはとツバサはそのラインナップに感心したような声を漏らす。他の3人も、どうやらそれらをこなさなければならないということを理解し、カードを見ていく。
「……まあ、入っちゃった以上はこうなるのが一連の機能なのかな」
「やったら帰れるみたいだし、挑戦してみようっか」
「仕方ありませんね!」
「グッドグッド!そしたら、好きなカードを選んでトン!」
5人が挑戦する意思を示したことを嬉しそうにピンクットンが頷く。そして5人はそれぞれやりたいトレーニングのカードを選択する。あげははダンス、ツバサは飛行機、ましろはメイク道具、ソラは階段上りのシルエットが描かれたカードを手に取る。ヤクモもカードを見渡していたが、その中に1枚、見覚えのあるカードが見えたのでそれを手に取ろうとする。すると、
「あっ、それは駄目だトン!」
「え?」
慌ててピンクットンがヤクモが選ぼうとした隣のカードを掴む。5人が首を傾げていると、
「これは以前、ある人が追加したカードなんだけど危険なカードなんだトン。混ぜちゃって悪かったトン」
「そ、そう……まぁ俺がやりたいのはこっちのキャンプのカードだから……」
ピンクットンの説明に納得しながらヤクモは自分のやりたいトレーニングカードを選択する。そして5人からカードを受け取ったピンクットンはそれぞれが選んだカードがどういうカードなのかを整理するように見ていくと、突然鼻息が荒くなる。次の瞬間、
「ハックション!!」
くしゃみと共に5枚のカードが5人の目の前に移動し、それらが扉に変わっていく。先ほどカードを出現させた時と言い、鼻から何かしらのアクションを見せるのだろう。2回目となり規則性もある程度分かればそこまで動揺することでもない気がしてくる。
「さっ、目の前の扉に入るトン!」
ピンクットンに促され、5人がそれぞれ目の前の部屋へと入っていく。
「「「「「……え?」」」」」
部屋に入った5人の口から困惑の声が漏れる。あげはが入った部屋はダンスのレッスンとは結び付かないような本棚に囲まれた部屋。その中央にはクイズ番組などであるような回答者が座る椅子と机があった。あげはだけではない、ツバサの目の前には飛行機とは思えない、中央に長方形の広い台座が置かれた部屋、ソラの目の前にはメイク台、ましろの部屋には巨大な塔とらせん状に伸びた階段が。
「あはっ、うっかりカードがシャッフルされちゃったトン……ま、気にせずトレーニングしてほしいトン」
「「「「「ちょっ!?」」」」」
その光景を見て、うっかりうっかりと笑うピンクットン。5人の抗議の声は扉が閉まることで遮られてしまい、強制的に閉じ込められてしまう。
「では、スペシャルトレーニング、レッツゴートン!」
その手に持つ余った1枚を振りながら宣言するピンクットン。と、ふとそのカードの絵柄が目に入る。それは、ヤクモが選んだキャンプのカード。
「……あ、あれ?」
それを見たピンクットンの全身に冷や汗が流れる。ヤクモ以外の部屋はシャッフルされていたが、それぞれ他の誰かが選んだカードなのは把握している。だからまぁいいかとゴーサインを出したわけで。となると、ヤクモが入った部屋は何だったのか。それを考えれば、すぐにその正体はわかってしまう。あの時、間違って選ばれるわけにはいかないとあらかじめ自分で確保していたあのカード。
「…………これ、めちゃくちゃやばいかも……い、いや、だ、大丈夫トン、プリキュアならきっと大丈夫なはずだトン」
震えながら、ピンクットンはそう漏らすのだった。
★
「……これ、全然ダンスじゃないし……少年が選んだところじゃない?」
既に元の部屋に戻る扉は消滅してしまっている。こうなればクリアするしかないだろうと悟ったあげはは、とりあえず何をすればいいのかと席に座ると、突然ライトアップされ、部屋に明かりがつく。それと共に胸にリボンを付けた司会のような出で立ちのピンクットンが現れる。
「さあ始まりました!クイズ、脱出ミラーパッド!10回正解したらゴールットン!」
「クイズか……まぁ10回ぐらいなら?」
ツバサが選んだのだからガッツリ筆記試験でもやらされるのかと思ってたあげははちょっと拍子抜けしたような様子を見せる。雰囲気としてもそこまで難易度が高そうとも思えない、それなら自分でもいけそうだと考えていると。
「今日のテーマは飛行機!それでは早速問題!世界で初めて有人飛行を成功させたのはライト兄弟ですが、そのライト兄弟は最初、何メートルの飛行に成功したトン!?」
「えー!?」
思った以上に難易度が高く、驚いてしまう。ライト兄弟のことは知っているが初めての飛行でどれくらい飛ばしたかなんてわかるわけがない。だが、ライト兄弟の話ぐらいなら過去に一回ぐらい聞いたことがあるんじゃないかと思い出そうとしてみるも、当然都合よくそれを思い出せるわけもない。
「……100メートルとか……?」
「ブブー!正解は36.5メートルトン!」
「えぇ……むーり……マニアックすぎ……」
無慈悲な不正解通告。想像以上の難易度と知識を求められる問題におてあげと言わんばかりにあげは机に突っ伏してしまう。そしてあげはが悪戦苦闘している中、他の部屋でもそれは同様で。
★
「……追いつけないよぉ……」
あげはが選んだダンスの部屋では、鳥の姿に戻ったツバサが無数のハートに押しつぶされていた。ここで行われていたのはリズムに合わせて空中に出現したハートをタッチし続ける、というトレーニング内容だったのだが。ついていけたのも最初だけ、すぐにリズムに乗れなくなり、ハートに触れることもままならなくなったツバサはこうして見事に押しつぶされてしまうのだった。
★
「……キラキラしすぎてくらくらします」
ソラは、自分が入った部屋が本来ましろが選んだカードなのではないかということは予想していた。部屋をずっと見渡していたソラだったが、その様子を見かねたのか、サングラスを付けたピンクットンがソラに座るように促す。
「さあ、座ってメイクを始めるトン!素敵な自分になれればゴールトン!」
「1人でメイク!?む、無理ですよ!?」
自分にはとてもそんなことはできないと慌てて首を横に振るソラ。今までだってメイクされた時はあげはにしてもらっていたのだ、自分の力でなんてとてもできっこない。
「つべこべ言ってる暇はないトン!レッツトライトン!」
「……で、できるでしょうか……私……ううん!いえ、こんな弱気ではいけません!例え困難な道でも前向きに進む、それがヒーローです!」
「いいわぁん、その意気よトン!世界があなたを待ってるトン!」
正直、自信があるといえばウソにはなる。しかし、このトレーニングを終えなければ外に出ることはできないのだ。ならば逃げずに立ち向かうしかない。そう奮起し、メイク台の前に座るソラ。幸い、目の前に置かれているメイク道具の数々は家に置いてあるものと同じだった。で、あれば2人の様子などを思い出しながらきっといけるはずだ。
「さあ……はりきっていきますよ……!」
ごくりと息を呑みながら、恐る恐るといった様子でパウダーを手に取る。確かこんな感じであげははやっていたと思い出しながら、慎重にそーっとそれを顔に付けていく。そして口紅に手を伸ばす。
「綺麗になった自分の姿を誰かに見てもらえるように!」
「……あっ」
ピンクットンの言葉にビクッとソラの体が揺れる。うまく化粧をして出来上がった自分をヤクモに見てもらったらどんな反応をしてくれるのかと考えたのか、集中が一瞬途切れてしまい、手が変な方向に動いてしまう。
「……」
失敗してしまったメイク。途中までは拙いながらも唇に塗られていた口紅は頬の方まで一直線に伸びてしまっている。それを鏡越しに見たソラの表情が青白くなっていく。
「失敗は何事にも付き物だトン!」
「うぅ……未熟です……」
化粧落としシートが出現し、それを使って元の顔に戻しながら悲しそうに漏らすソラ。
「でも、メイクなんて……どうしたらいいんでしょうか……うぅ、これなら私もちょっとずつましろさんやあげはさんに教えてもらうんでした……」
深く溜息を吐くソラ。その様子をうんうんとピンクットンは見守っているのだった。
★
「うぇえ……あそこまで行かなきゃなの……!?」
目の前の天高く聳える塔とらせん階段を見上げ、顔面蒼白になってしまうましろ。そんなましろの元に仙人みたいな恰好をしたピンクットンがやってくる。
「階段長すぎだよ!?」
「フォッフォッフォッ……若者よ、長い階段が苦手なら別の道があるトン」
「え、本当!?」
こんな階段を上るのはきつすぎたのでそれは凄く助かる。ピンクットンに案内され塔の中に入ったましろが見たのは、天井から伸びる一本のロープだけだった。
「これなら近道トン!」
「成程!確かにこれなら……ゴールまで一直線!」
ロープを両手でしっかり掴む。そのまま足を地面から離して足でもロープを挟む。と、すぐにましろの体重に足や腕が耐えきれず、ずるずると落ちて行ってしまい、お尻が地面についてしまう。
「……って、無理無理!?絶対無理だよー!?」
一応やるだけはやってみたが当然無理だった。つまり、あのらせん階段を上るしかできることがないのだとわかってしまったましろは悲鳴を上げるのだった。
★
「……ここは?」
ヤクモが入った部屋は、開けた部屋だった。どこかの洞窟みたいな風景だが、明るさに関しては問題ないのか、特に視界に不自由はない。
「……キャンプとは違うだろうし、他の皆のカードとも違うよな……」
「……このカードを選ぶ者がいるとは……勇気ある者だトン」
ヤクモの元にピンクットンが現れる。黒いコートを纏ったピンクットンは、シリアスな雰囲気でヤクモに語り掛けてくる。
「ここは、決戦のステージ。戦いを制することがこの部屋から脱出する唯一の手段だトン」
「戦いって……誰もそんなカード選んでないような」
困惑するヤクモだったが、ピンクットンは選んだのはお前だと言わんばかりに告げると、その視線を中央へと向ける。ヤクモもそれにつられて中央に目を向けると、ピンクットンのように黒いロングコートを纏い、槍を持つ青年が現れる。その男の顔はマスクで隠れて見えないが腰まで伸びた銀色の髪が確認できる。
「お前の対戦相手はあれだトン!生き残りたければ戦うトン!」
「は……!?」
いきなり開始だとピンクットンが告げた次の瞬間、青年の持つ槍が光と共に変化し薄紫色の刃が伸びるシンプルな形状の籠手が男の右腕へと覆われた次の瞬間、青年はヤクモの眼前にいきなり迫り、その刃を振り下ろした。