曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第86話 思い出

 

「今日は大丈夫でしたか?おやすみなさい」

 

その日の夜。エルがベッドの横で眠っている中、ソラはぬいぐるみに語り掛けていた。ぬいぐるみの方は無言のまま反応がない。その様子を見ながら、ソラも眠りに入る。と、ふと浮遊感がソラを襲い、ソラが目を開けるとそこには幻想的な風景が広がっていた。

 

「……夢?」

 

見覚えのない風景に何故か1人でいる。これは夢としか思えないが、ならばこれがどういう夢なのか。

 

「ソラ」

「……?」

 

どこからか声が聞こえてくる。ソラが顔をあげると、そこには猫のぬいぐるみがいた。だが、現実のぬいぐるみとは少々異なり、ちょっと生物的にも見える。そのぬいぐるみは申し訳なさそうに、そして悲しそうにソラに声をかける。

 

「今日はごめんにゃ……」

「気にしないでください、猫さん」

「でも、騒ぎになってしまったにゃん」

 

ぬいぐるみは、昼間ショッピングモールで突然動き出して人々の目に触れたことを謝る。確かにあの時、それなりの騒ぎになってしまい、ましろが慌てて他の人たちを誤魔化してたが、別に誰かが傷ついたりしたわけではないし、こうして無事に家に帰れたのだ。ソラもそのことは気にしていなかったのだが、それよりも気になることがあった。

 

「大丈夫です。何があったのか聞いてもいいですか?」

「……似てたんだにゃ」

「え……?」

「友達……」

 

ぬいぐるみがそう呟くと、周囲の幻想的な風景が切り替わっていく。景色は洋館になっていき、その中にぬいぐるみを抱いた1人の少女が現れる。そして少女とぬいぐるみの思い出の景色が次々と映り替わっていく。

 

「嬉しい時も、悲しい時も一緒だったにゃ。ずっとずっと……一緒に居られると思っていたにゃ。でも……」

 

景色が冬の景色へと変わっていく。引っ越しのトラックと黒い車が洋館の前から走っていく。しかしそこにぬいぐるみの姿がなかった。洋館の窓際では猫のぬいぐるみがずっと取り残されていたままだった。

 

「独りぼっちになっちゃったにゃ……」

「……」

「寂しいにゃ……昼間の子はあの子に似てたんだにゃ」

 

そして昼間、何故あのような行動をしていたのかを語る。もういないはずの少女がそこにいたような気がして、飛び出さずにはいられなかったのだ。

 

「私が探します!必ず探します!それでももし会えなかったら……その時は私が猫さんとずっと一緒にいます!」

 

そんな事情があったとは。それを聞いたソラは気付けばそう声を上げていた。だがぬいぐるみは悲しそうに言う。

 

「ずっとなんて、ないにゃ。それに……これ以上迷惑をかけられないのにゃ」

「迷惑だなんて……そんなことありませんよ!」

 

ソラの言葉はとても嬉しい。しかし、今日の昼間の出来事もあって、もしかしたら迷惑をかけてしまうかもしれないと考えてしまっていた。実際、今でこそ改善しているものの、ソラと初めて出会った時など、ソラに怖がられていた始末だ。これからも一緒に居ればどんなことが起こるかわからない。それが、猫は不安なのだろう。

 

「ソラ……見つけてくれてありがとう。一緒に遊んでくれて、楽しかったにゃ。ありがとにゃ……でもやっぱり、あの子の子待つことにするにゃ」

 

ソラに笑いかけるも、段々悲しそうな表情へと変わっていくぬいぐるみ。そしてぬいぐるみはソラに背を向けてしまう。

 

「さよなら」

「猫さん!?……ひゃっ!?」

 

そう言い、ぬいぐるみは去って行ってしまう。ソラがその背中を追いかけようとするも、突然地面がなくなり、浮遊感と共に落下してしまう。景色は段々変わっていき、現実のソラの部屋になっていく。

 

「待って!……」

 

はっとなって起き上がるソラ。自分が起きたことに気付き、ソラがすぐにぬいぐるみを確認する。だが、一緒にベッドに入っていたはずのぬいぐるみはそこにいない。慌てて部屋を飛び出すと、

 

「ソラちゃん、おはよう」

「ましろさん!猫さんが……!」

「え……」

 

丁度起きてきていたましろにぬいぐるみが消えてしまったことを報告するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちにはいないよ」

「こっちもです」

「ヤクモ君にも聞いてみたけど……家には来てないみたい」

 

その後、皆にもぬいぐるみが消えてしまったことを話し、皆で家の中を捜索していた。もしかしたらヤクモの家の方に行っているかもしれないとましろが連絡をいれてみたののの、ヤクモの方では成果が上がらなかったようだった。

 

「にゃーにゃ、いない?」

「どこ行っちゃったのかな……」

「……私、追いかけます」

 

家の中にいないぬいぐるみ。ここにも、そしてヤクモの元にもいないとなれば、残る心当たりは1つしかない。

 

「約束したんです!ずっと一緒にいるって!猫さんのお友達を探すって!!」

「うん!追いかけよう!」

 

ソラがどこへ行こうとしているのかはましろたちも理解できた。すぐにその場所をヤクモに連絡すると5人は町はずれの洋館へと向かっていく。そこにはヤクモが既におり、ソラ達を待ちながらぬいぐるみを探していた。

 

「ヤクモさん!猫さんは!?」

「外にはいなかったよ。これから中に入ろうとしてたところ」

 

先に家の周りを探っていたようだ。しかし、ヤクモの方ではその成果は見えず。

 

「あの洋館、去年家主が引っ越してから空き家になってたみたいです」

「住んでいた人は今どこにいるかわからないんだけど……」

 

合流した際にツバサとあげはの方も、調べてわかったことを教えてもらう。人形の元の持ち主はわからないが、それも仕方のないことだ。それならばと、意を決してソラは洋館を見る。

 

「行きましょう」

 

ソラの言葉に4人も頷くと、洋館へと入ろうとする。と、その目の前にミノトンが現れる。

 

「手合わせ願おうか!」

「「「「「ミノトン!!」」」」」

 

どうやら、ここへ向かおうとする姿をミノトンに見られたようだ。しかし、今はミノトンと戦っている暇はない。それに、相手がミノトンならもしかしたら話が通じるかもしれないと微かな希望に賭け、ソラが説得しようと試みる。

 

「猫さんを探しに来たんです!」

「猫だと?そんなことより勝負が大事であろう!!来たれ、アンダーグエナジー!!」

 

しかしミノトンはくだらないと言わんばかりにソラの言葉を一蹴すると、ランボーグを呼び出そうとする。5人が身構えていると、アンダーグエナジーはなんと洋館へと注ぎ込まれていき、さらに巨大な家に手足が生えたランボーグとなる。

 

「ランボーグ!!」

「……皆さん!」

 

ソラの言葉に4人は頷くとミラージュペンを手に取る。そしてプリキュアへと変身すると、ランボーグと対峙する。しかし、洋館をさらに巨大化したランボーグのサイズはプリキュア達よりもずっと大きい。サイズだけならかつてスカイランドで遭遇した巨大ランボーグが比較に上がるほどのレベルだ。さすがにあれほどのアンダーグエナジーや力はないだろうが、それでもこの巨体は脅威だ。

 

「「「「「……」」」」」

 

迂闊に攻めて反撃を受けるわけにはいかないと、相手の攻め手を伺っていると、ランボーグの扉が開く。

 

「「「「「!?」」」」」

「ランボーグ!!」

 

開かれた中は真っ黒な空洞になっていた。と思うと急にランボーグが吸い込みを始める。スカイ達はその吸い込みに抵抗しようとするも、空中にいるウィングが真っ先に引き込まれたのを皮切りに他の皆も、そしてエルも含めてランボーグの中へと吸い込まれていってしまう。

 

「「うわああ!?」」

「「「きゃああああああ!?」」」

 

そして5人を吸い込み、ランボーグの扉が閉められてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

ランボーグの中に吸い込まれたスカイ達は、不穏な雰囲気の場所に降り立つ。周囲は禍々しい空気が漂っているが、これがランボーグの中だというのだろうか。クラウドが周囲を見渡しながらアンダーグエナジーを感じようとするも、ランボーグの体内とはいえあくまで洋館が元になっているせいか大きな部屋にあたる場所だったのだろう、全体からアンダーグエナジーが感じ取れるというわけではなく、脱出に繋がる情報は得られなかった。

 

「閉じ込められた?」

『……はたして無事に出られるかな』

 

ミノトンの声が外から響いてくる。確かにランボーグを倒すにはここから出る必要があるのだ。しかし、それも大事だが洋館をランボーグにされたということは、ある懸念が浮上してくる。

 

「それより猫さんです!」

「この中のどこかにいるよね?」

「猫さーん!」

『猫の心配をしている場合か!』

 

内側からは声が聞こえるのか、スカイ達の言葉を聞いたミノトンが憤慨する。と、虚空に突然扉のランボーグが出現する。

 

「!?」

 

その気配にスカイが気付いたのもつかの間、扉を開いたランボーグが再び吸い込みを開始する。その対象はスカイ、おそらく1人ずつ分断しようというつもりなのだろう。不意打ち気味に吸い込まれたせいで足が地から離れてしまい、じたばたともがくもそのまま吸い込まれようとしてしまう。

 

「きゃあああ!?助けてクラウドー!」

「スカイ!!」

 

咄嗟に悲鳴を漏らしながらクラウドの名を叫ぶスカイ。即座に反応した跳んだクラウドがスカイと共にランボーグの中に吸い込まれ消えていってしまう。

 

「「「「スカイ!?クラウド!?」」」」

 

2人が消えてしまい、声を上げる4人。しかし、ランボーグが煙と共に消えてしまい、追跡が困難になってしまう。

 

「2人を助けなきゃ!?」

「でもどうやって……?」

 

2人を探さなければいけないのはわかっているが、どうやって探せばいいのか。そんなことを考えていると何が大地を踏みしめているのか大きな揺れがプリズムたちを襲う。4人が音のする方向に振り向くと、そこには巨大な古時計のランボーグがいた。

 

「やばっ!?」

「でかすぎるよー!?」

「こんなのどうすればいいんですか!?」

「えるー!?」

 

ランボーグが踏みつぶそうとしてくる。4人がその場から逃げて距離を取ると、ランボーグの全貌を見上げる。そのあまりのサイズに、自分たちの攻撃が命中してもどれほど効果が出るかわからない。

 

「こうなったら……元気の力、アゲてこ!」

 

とにかく、できる限りの事をやるしかない。ミックスパレットを用いて桃色の光を生み出し、その力によってウィングがパワーアップする。

 

「たああああ!!」

 

ランボーグの顔面を勢いよく蹴り飛ばすウィング。その衝撃で大きくのけ反るランボーグの脚をプリズムが追撃する。なんとか倒れるのをギリギリでランボーグが踏みとどまるも、追撃とばかりにウィングがランボーグに踵落としを決める。その一撃によって遂に倒れるランボーグ。

 

「やった!」

「あれ!」

「?どうしたの?」

 

倒れたランボーグが消滅していく。洋館の中で生み出されたランボーグということもあってか、ここで倒されても本体にあたる洋館ランボーグに還っていくだけなのだろう。その原理もクラウドが見ればもっと詳しくわかるかもしれないが、ひとまずそれは置いといて、これで探索に集中できるとバタフライが喜びの声を上げたのもつかの間、エルの声に従うように横を見ると、

 

「……ええええええ!?」

 

そこには古時計のランボーグを遥かに超えるサイズの巨大なタンスのランボーグが立っており、それを見たバタフライは思わず悲鳴を上げてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあああ!?」

「っと……」

 

扉の中に吸い込まれたスカイとクラウドがその先にある床に着地する。吸い込まれた扉を確認しようとクラウドが振り向くも、扉は完全に消滅してしまっていた。

 

「元の場所には戻れそうにないか……スカイ、大丈夫?」

「は、はい……でも、ここは……」

 

2人は立ち上がり、今自分達がどこにいるか見渡す。しかし、周囲の景色は先ほどまでいた場所と変わりない。強いて言うならここはエントランスだったのか、二階への階段と床が見えているという違いはあるが、ランボーグの扉を使わなければ行き来できない以上、内装の差はあまり大きな影響を及ぼさないだろう。

 

「皆の所に戻らないと……」

「あの扉、どうにか作れないかな……?」

 

自分のアンダーグエナジーを使ってこのランボーグの中に扉を作れないかと考えるクラウド。ひとまず自分達が入ってきた部屋の出入り口があったであろう場所まで行こうとしたその時だった。

 

「!!」

「!?」

 

更なるアンダーグエナジーを感じたクラウドと何者かの気配を感じたスカイが同時に2階を見る。そこには騎士の姿をしたランボーグがおり、ランボーグが真上から飛び降りて兜割りを放つ。

 

「っ!」

「クラウド!!」

 

咄嗟にアンブレランスを呼び出したクラウドが剣を受け止める。甲高い金属音が鳴り、騎士とクラウドが打ち合い始める。

 

「俺は大丈夫だ!」

「は、はい!」

 

冷静にランボーグの太刀筋を見極めながらクラウドが攻撃を捌いていく。その隙を逃さず、スカイが鎧に強烈な一撃を放つ。

 

「たあ!」

「ランボーグ!?」

 

真横から勢いよく放たれた拳にランボーグの体が大きく揺れ、倒れ込む。しかし、鎧は頑丈なのかまだまだだと言わんばかりに起き上がろうとする。だが、その全身をクラウドが雲で包み込み、ランボーグの動きを封じる。

 

「よし、これで……」

「!あれ!?」

 

後はこのままアンダーグエナジーを浄化してやればこいつも倒せるだろう。まだランボーグが存在しているため警戒は続けるも戦闘がひとまず終わったところでスカイが顔を上げると、そこには光があった。いや、虚空にまるでドアがあるかのように開かれ、そこの隙間からぬいぐるみの姿が見えたのだ。

 

「あの子は……」

「猫さんです!」

「わかった、スカイ、先に行って!俺はこいつを何とかしてから追いつく!」

「はい!」

 

クラウドにこの場を任せ、スカイがぬいぐるみの元へと跳ぶ。そこは洋館の中とは異なり、白い光に包まれている部屋だった。

 

「猫さん、大丈夫です」

 

スカイは部屋に入ると、猫の手を掴む。そして、優しく語り掛ける。

 

「もう、寂しい想いはさせません!」

「ソラ……!」

 

スカイを見て、ぬいぐるみが泣きそうに目を潤ませる。遅れて、部屋の中にランボーグを浄化し終えたクラウドが入ってきたのを見て、

 

「さあ、一緒に行きましょう!」

「うん!」

 

スカイの声に同調するようにぬいぐるみも元気な声を上げる。スカイとクラウドとぬいぐるみは互いに顔を見合わせると、白い部屋の中を走り出す。次第に景色は元の禍々しい光景に戻っていくが、3人の進む先には白い光が漏れる出口があった。

 

「あそこが出口だにゃ!」

「……スカイ!クラウド!!」

「!皆さ……」

「逃げてえええええええ!!」

 

出口へ向かう途中、背後から聞こえてきたプリズムの声にスカイとクラウドも嬉しそうに振り返る。だが、そこには全力で走るプリズムたちと、その背後から迫る巨大なタンスのランボーグの姿が。

 

「きゃああああああ!?」

「でか!?」

 

倒しても倒しても次が出てくるランボーグをまともに相手するよりも出口を探した方がいいと判断して逃げ回っていたのだろう。スカイとクラウドも皆に倣ってランボーグに背を向けて走り出す。

 

「なんですかあれはー!?」

「わかりませーん!?」

「ここから出ないとキリがないよー!?」

「あそこが出口だ!!」

「よし!全員全力!!」

 

プチズムたちにもあそこが出口だとクラウドが指差す。それを見た全員が全力疾走して出口へと飛び込んでいく。そして光の中に飛び込んだスカイ達に外の太陽の光と明るい景色が飛び込んでくる。

 

「「「きゃあああああ!!」」」

「「おおおおおお!」」

「!さすがはプリキュア、あの程度で屈するような者共ではないか」

 

どうにか洋館の中から脱出してほっとするプリズムとウィング。その横にはゆりかごの中にぬいぐるみを入れて嬉しそうに笑うエルがいた。そしてスカイとクラウド、バタフライは真剣な表情で洋館のランボーグを見据える。

 

「た、助かったぁ……」

「外に出ればこっちのもんだね!」

「いきます!」

 

今度は先ほどのような手は喰らわないと言わんばかりに声を上げると、スカイがランボーグへと迫る。ランボーグはその場で回転し始め、瓦を何枚もスカイへと放つ。だが、それらをクラウドが冷静に雲を細かく弾幕のような形で放って受け止めていく形で相殺していく。

 

「ヒーローガールプリズムショット!!」

 

瓦がなくなったタイミングを見計らい、プリズムショットがランボーグへと命中する。プリズムショットを喰らったランボーグの回転が徐々に止まっていき、それを見たスカイが好機と言わんばかりに構える。

 

「ヒーローガールスカイパンチ!!」

 

今度はスカイの攻撃を喰らい、吹き飛んでしまうランボーグ。それを確認したウィングとバタフライは、ランボーグが再び立ち上がる前に浄化することにする。

 

「プリキュア!タイタニックレインボー・アタック!!」

「スミキッター……」

 

洋館のランボーグよりもさらに巨大な大きさを持つプニバードとなったウィングが、ランボーグを押しつぶしてしまう。自分を超える質量の一撃によって押し潰されたランボーグは敢え無く浄化されてしまい、元の洋館へと戻ってしまう。

 

「プリキュア……敵ながら天晴である。ミノトントン」

 

ミノトンが消え、洋館も元に戻った。そしてぬいぐるみも無事、戻ってきた。変身を解いたソラ達は改めてぬいぐるみと共に家へと戻ることにする。

 

「猫さん、無事見つかってよかったです!」

「私達、洋館に住んでた人を突き止めたんだ」

「問題はどうやって見つけるかです」

「引っ越ししちゃったんだよね。引っ越し先がわからないと……」

 

その中で、洋館に入る前に少しだけツバサとあげはが触れていた洋館の主の事を改めて聞く。本来の持ち主の元にぬいぐるみを返すのはまだまだ先にはなりそうだが、それでも進捗はしっかりとあるようだった。

 

「大丈夫です!私がきっと見つけます!」

「りほ……そんなに落ち込まないで。絶対あるから。ね?」

「うん……」

 

そんな時だった。ソラ達の横を一台のタクシーが通過していく。それについては気にも留めなかったのだが、洋館の前で止まったタクシーから降りてきた親子の会話が無性に気になり、立ち止まってしまう。親子が洋館の敷地内へと入ろうとしているのを見たソラは、もしやこの2人がかつての洋館の主なのかと考えて声をかける。

 

「あの……」

「はい?」

 

突然声をかけられ、母親の方は驚いたように返事をする。娘であろう小さな女の子も不思議そうにソラを見ると、ソラが抱えていたぬいぐるみを見つける。

 

「まろん?」

「……この猫さんのことですね」

 

少女は、ぬいぐるみを見てまろんと言った。きっと、このぬいぐるみの名前であり、そしてそれはソラ達も知らない情報だった。

 

「りほ!まろん、まろんだよ!よかったね!……そのぬいぐるみ、この子のお気に入りだったんですが……引っ越しの時に忘れてしまって……でも中々、こっちの方まで来られなくて」

 

まろんが見つかったことを嬉しそうに喜ぶ母親。少女の方は、まろんを忘れてしまったことに負い目があるのか少し悲しそうに視線を逸らしてしまう。そしてまろんのいない日々を思い出したのか、泣きそうになるのを我慢するように母の服を握る。

 

「いいんだよ、りほ。まろん、ちゃんと見つかったよ」

「……」

 

ソラの視線がまろんへと向けられる。まろんは何も言わないし、動かない。本来の主を前にして、普通のぬいぐるみに戻ってしまったのだろう。そして、この子がいるべきなのは、自分たちの所じゃない。そう悟ったソラは、

 

「まろんさん、大丈夫。大丈夫ですよ」

 

そう諭すと、女の子の前にしゃがみ込む。女の子がまろんを見ると、ソラはまろんの右手を動かしながら、まろんの声真似をする。

 

「ずっと、待ってたニャン」

「……まろん!会いたかった!!」

 

その声を聞いた少女が、泣き出しながらマロンを抱きしめる。そんな少女をソラは優しく抱きしめてあげる。

 

「まろん、おいていってごめんね!!これからはずっと一緒だよ!まろん!!」

 

嬉しそうに泣いて、まろんとの再会を喜ぶ少女。そしてひとしきり泣いたのだろう、それからは笑顔になり、まろんをソラから受け取って大事そうに抱きしめる。

 

「本当にありがとうございます。まろんが見つかってよかった……では、私たちはこれで」

「にゃーにゃ、ばいばい!」

「ばいばーい!」

 

この後も予定があるのだろう。母の感謝の言葉にエルがばいばいと言うと、少女もまろんの手を振ってさよならの挨拶をする。そして皆に背を向けて歩き始めるその背中を見届ける。

 

「持ち主、探す必要なくなっちゃいましたね」

「再会できたから全てよし!」

「そうだね。それにしてもあの猫さん、いやまろんは付喪神だったのかもね。長年使われたものに精霊が宿るっていう……そこまで年月は経ってないかもしれないけど、それだけ愛情があったら、もしかしたらね」

「きっとそうかもね」

 

まろんとの数日の思い出はあっという間だったが、それでも出会ってよかったと思える。あの少女はこんな出来事をずっと経験していったのだろう。そしてこれからもまろんと一緒に。そう思うと、彼女の元にまろんが戻れて、よかったと心の底から思えた。

 

「……ソラちゃん、ちょっと寂しい?」

「大丈夫です!まろんさん、嬉しそうだったから!」

 

そうソラが言った時だった。遠くに見える少女の抱えるまろんが、

 

「ありがとにゃ」

「!!」

 

ソラ達に感謝の言葉を述べたような気がした。少女や母親が反応してないのを見るにもしかしたら気のせいかもしれない。だが、そんなことは関係なかった。ソラは大きく手を振って笑顔で見送る。

 

「……ぬいぐるみって、良いですね」

 

そして、まろんとの思い出を今一度思い出したのだろう、ソラは嬉しそうに、そう言うのだった。

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