「……わぁ……!」
部屋の鏡を前に、制服に着替えたソラは嬉しそうに目を輝かせていた。ましろと同じ制服を着れる喜びと、制服の可愛さに嬉しさがこみあげてくる。思わず、様々なポーズをして、変わった今の自分のいろんな姿を見ようとする。
「似合ってるよ」
「わわ!?ま、ましろさん……そ、そうですか?」
そんな姿を、いつの間にかましろに見られてたことに驚きつつも、照れくさそうに言う。
「うん、すっごく似合ってる!せっかくだし写真撮っちゃおうか!」
「写真、ですか?」
「ほらほら、じっとしてて」
突然スマホを取り出すましろに首を傾げるソラ。そんなソラにじっとするように言いながらカメラアプリを起動し、言われるがまま姿勢を正したソラを撮影する。
「これでよし、と。もう大丈夫だよ」
「はい、えっと……写真ってことは私の今の姿が絵になってるんですよね?」
「うん……うん?いやまぁそうなるのかな……」
写真と絵は別物という意識がましろの中にはあるが、スカイランド人からすればそのような解釈なのだろう。実際静止画という意味ではリアルな絵という表現をするのなら決して遠い存在でもない。そうましろも考え直す。
「その写真をどうするんです?」
「そりゃもちろんヤクモ君に送ってあげようと……」
「え!?な、なんでですか!?」
「なんでって……可愛いから?」
わー!わー!と顔を真っ赤にして恥ずかしそうに腕をぶんぶん振るソラ。そういう用途で使われるなら最初に言ってくれればもっとちゃんとポーズなりでもするというのにと抗議の声を上げるソラに苦笑しながらスマホを弄っていたが、ここでましろはある大事なことに気付いてしまった。
「……あ」
「……ま、ましろさん?ま、まだ何か……」
「…………私、ヤクモ君のSNS知らない!!」
「えすえぬえす?」
急な横文字にソラも思わずオウム返ししてしまう。しかし、そんなソラを尻目にましろは頭を抱えていた。
「うわー!私たちプリキュアになったし、昨日も一昨日も一緒にいたのに全然そんなことやってないよー!?そもそもあげはちゃんに会わせた時も結局家に電話してたし!!」
「ま、ましろさん落ち着いてください!」
SNSがどういうものか一切知らないがましろにとっては相当大きなやらかしだったのだろう。慌ててましろを宥めるソラだったが、ましろの混乱は中々止まらない。
「いやそもそもソラちゃんの手前SNS登録とかやっちゃっていいのかな!?いやでもソラちゃんスマホ持てないから私が窓口にならないといけないわけで……やっぱり不義理じゃないかなぁ大丈夫かなぁ!?」
「ましろさん!何言ってるかわかりませんけど落ち着きましょう!」
ここでソラの言葉から、ソラが自分の話を全く理解できてないことに気付かされたことで、混乱していた頭が冷えていく。
「そ、そうだね……すーはー……ふぅ、よし……」
一度深呼吸して落ち着いたましろは、改めてソラの姿を見る。藍色をベースとした女子の制服は、黄色いリボンとハートの金具のベルトがワンポイントになっていてとても可愛らしいデザインとなっている。青い髪のソラがその制服を着るとより一体感が増して、ソラの魅力がぐっと出ているようにも見える。
「でも、本当に似合ってるね、今日から3人で学校に通えるなんて楽しみだよ」
「はい、私もです!早くヤクモさんに会いたいです!」
ここにはいないヤクモ。当初は一緒に登校しないかと休日に誘ったりもしたのだが、残念ながらましろの家とヤクモの家では方向が逆だったため、帰りであればともかく行きで一緒はさすがに時間的に厳しいと却下されてしまった。そのため、ソラがヤクモと会えるのは教室での話になるだろう。
「……あ、そうだソラちゃん。昨日ヤクモ君も言ってたけど……」
「はい、わかってます!スカイランドの事は話さない、ですね!」
もうすぐ家を出る時間が迫る中、ましろはふと大切なことを思い出す。それは、ソラの故郷、スカイランドのことだ。この世界の普通の人たちにとって異世界など絵空事であり、もしスカイランドという異世界から来たことが明らかになってしまったら大事になってしまうかもしれない。
「うん、できる限り私とヤクモ君もフォローするつもりだけど……」
「大丈夫です!ましろさんとヤクモさんに迷惑をかけないようにします!」
自信満々に胸を張り、私はスカイランドの事を学校では話しません!と宣言するソラ。その姿を見ると思わず大丈夫かな?とましろの心の声がでかけてしまう。とはいえ、そこは事情を知っている自分たちがフォローして乗り切るしかないだろう。何せソラの楽しい学校生活が関わっているのだ、エルもヨヨが面倒を見てくれているため憂いなく通うことができる今、大事なのは後は自分たちの行動次第。それに、
(さりげなくヤクモ君にソラちゃんを押し付けられるようにもできるかも……)
そんな、最近ちょっと見つけたましろにとっての楽しみも関わっているからなのか、自然とテンションが上がってしまうのだった。
★
「ねぇねぇ聞いた聞いた!?」
「うん、転校生の話!」
ヤクモとましろの教室。そこではどこから噂が広がったのか、既に転校生の話題で持ちきりだった。それが誰なのかはヤクモもましろも知っているのだが、今は知らない体でクラスメイトから話を振られた時は対応していた。ましろとしては単純にクラスの皆にサプライズになるだろうという感覚なのだが、ヤクモからすればここであれこれ言いたくはないという思いもあった。
「男の子?女の子?」
「なぁなぁヤクモはどう思うんだ?」
「さぁ?」
言ってて我ながら面の皮が厚いもんだと思うヤクモ。それにしても転校生でここまで盛り上がろうとは、と少し驚きもある。とはいえ今回ヤクモが他の皆より一歩引いたところにいるのは知っている側なのも大きいのだろう。これでヤクモも知らない側にいたら色々と気になったりすることもあるのかもしれない。
(まあ、俺はソラさんのこと知ってるけど)
どことなく優越感を感じながら、のんびりと噂の転校生が来るまでの時間を待っていると、ついにチャイムがなり、先生が入ってくる。
「皆席についてー」
ざわつく教室。普段なら教師の一声で静かになるのだが、イベントが待ち受けているのだ。興奮を止めようとしても中々止められない。それを先生も察していたのだろう。早速本題に入るかのように軽く咳ばらいをしてクラスの注目を集める。
「皆、知っていると思うが今日からこのクラスに転校生が来ることになった」
「「「「「おおおおお!」」」」」
噂として知ってはいたし、ほぼほぼ確信はしていた。それでも、こうして信頼できる大人から情報として知らされ、噂が確信に変わったことで皆のボルテージは最高潮に達する。
「静かに!さあ、入って」
先生の一声にしんと静まり返った教室に、1人の少女が入ってくる。その少女は、ソラシド学園の女子制服に身を包んだソラだった。
「……」
そういえばソラの制服姿を見るのはこれが初めてだったなと思うヤクモ。制服なんて見慣れているものだし、ソラも転入してくるならまぁ制服くらい着てくるだろうという認識だったのだが、
(凄く似合ってるな……可愛い)
思わずそんな感想が出てきてしまうぐらい見惚れてしまっていた。そんな自分の心に気付き慌てて平常心を取り戻すヤクモ。ソラは先生に言われ、チョークを手に黒板に自分の名前を書いていく。名前を書き終えたソラが再びクラスメイト達の方に振り向くと、ヤクモは自分と目が合った気がした。
「「……」」
今はクラスメイト達に挨拶をするのが先だとソラもわかっているだろうし、さすがに気のせいだろうなと自嘲するヤクモ。そこまで思い込むようなものでもないだろう、そうヤクモが考えている目の前で、
(あそこに、ヤクモさんが座っています……すぐ近くにはましろさんも!他にもたくさんの人がいます!)
ソラはばっちりヤクモと目が合ったと認識しており、2人と、そして他の生徒達と一緒に勉強したり学校生活が送れるのだと思うと内心嬉しくて小躍りしそうであった。そのためにも、完璧な自己紹介をしなくては。はやる気持ちを抑えながら、はっきりと発言していく。
「えー……ソラ・ハレワタールさんは海外からの転校生だ。外国生活が長いので不慣れな事もあると思うが、そこは皆でサポートしてあげて欲しい」
「ソ、ソラ・ハレワタールです!ましろさんの家でお世話になっています!よろしくお願いします!」
それでもやはり、緊張は抑えられないのだろう。体は若干固まっており、声も震えているところも時折見えるが、それでも自己紹介をどうにかやりきり、一礼をするソラ。そんな姿を見て、同級生たちは暖かい拍手でソラを迎えてくれる。
「わぁ……!」
皆に歓迎されたことが嬉しいのか、思わず感動の声が漏れるソラ。その姿を優しく見守りながら先生は、ソラが座る席を見る。その視線が自分のいる方角だと気付き、ちらと隣を見たヤクモはそこで初めて、自分とましろの2人を挟んで空白の机があることに気付く。
(え、まじで?)
「ハレワタールさんの席は……虹ヶ丘さんの隣で」
「はい!」
ソラにとっては運命のような場所なのだろう。何せ2人と隣同士の席が自分の席だと判明したのだから。そして、自分の席に着席したソラは、先ほどまでの緊張から解放されたからなのか、ふぅと大きな溜息が出てしまう。
「緊張してたね」
「こんな大勢の前で挨拶するのは初めてなので……変なこと、言ってませんでした……?」
「うん、大丈夫だったよ」
一応気を付けていたつもりだったが、やはりソラが気になるのはそこなのだろう。自分がスカイランドの事などを口にしてないかどうかをましろに確認すると、ましろは今のソラの挨拶は百点満点だと太鼓判を押す。
「きっと皆とすぐに友達になれる、ヤクモ君もそう思ってるよ」
「ほ、本当ですか?」
「あ、ああ……ソラさんならすぐに人気者になれるんじゃないかな」
ソラを挟んで急に話題を振られ、思わず顔を背けるヤクモ。さっき思ったことが顔に出ててソラにばれてないか、そんな不安を誤魔化すように。
「へえ、ましろんと一緒に住んでるんだ」
「いいなぁ、楽しそう!」
そんな3人の会話が聞こえてきたのか、ボブカットとポニーテールの女子がソラに話しかけてくる。ましろは窓際の席に座っているため、その向かい側にいるヤクモを挟んで女子が話し合ってる構図になるためか、少々気まずそうな表情になるヤクモ。
「でも、ヤクモと仲がいいのは驚いたよ。ましろさんと春休みに仲良くなったって言ってたけど……」
「はい!ましろさんと一緒に友達になりました!」
そんなヤクモを気にかけてくれたのかどうかは定かではないが、男子のあさひも会話に混ざってきてくれた。そのおかげかヤクモの気まずさも多少は改善されていく。
「そういえば私たちは自己紹介まだだったね。私は仲田つむぎって言うんだ」
「私は吉井るい、よろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
ボブカットの少女、仲田つむぎとポニーテールの少女、吉井るいと自己紹介を交わすソラ。クラスメイトとも早速打ち解けていく様子を見てひとまずは安心し胸を撫で下ろすましろ。と、
「ところでソラちゃんってなんて国から来たの?」
「はい、スカイランドです!」
(……ん!?)
さも当然のようにソラが言い放った言葉に固まってしまう。思わずヤクモを見ると、こちらもやばっ、と言いたげな感じの気まずそうな表情。明らかにNGワードを口にしているのだが、今までそれが当たり前だったこともあるせいか全く本人は気付いておらず、クラスメイトとの会話はどんどん続けられていく。
「それってどこ?」
「はい!別の世界です!」
瞬間、空気が固まった。いや、それも当然だろう。スカイランドという国なんて聞いたことがないが、どんな場所にあるというのか。そこから飛び出してきたのがまさかの別世界、予想を右斜め、あるいは右斜め下にぶっちぎった返答が飛んできたのだから。それを耳にした全員の思考が停止してしまう。
「え、えーと……ソラさん?」
「……あっ」
ヤクモの声に、はっとなるソラ。ついに、自分が何を言っていたのかに気付いてしまったようで、ここからどうすればいいのかどうかわからず、冷や汗を流しながら慌てて誤魔化し始めようとする。
「え、えとま、間違えました!えーとですね、えーと今のは忘れてください!あ、はは、あはははは!?」
そしてソラが選択したのはとにかく勢いで笑って誤魔化すという一手。だいぶ苦しそうにも見えるが、ここまで失態を見せてしまった以上はジョークを言おうとしたら盛大に滑ったという体にするしかない。ましろも、その意図を察してソラに乗っかることにする。
「も、もうソラちゃんったら!異世界なんてさぁ……あははは!冗談がうまいんだから」
ましろが便乗したおかげもあってか徐々に笑い声が広がっていく。どうやら皆、ソラなりのジョークだと受け入れてくれたようだ。その後、どうやらヨヨがソラのこの世界の故郷について捏造しておいてくれたのか、その偽りの国の場所を先生が皆に伝えてくれたことでソラの最初のミスはどうにか誤魔化されるのだった。
(うーむ……前途多難ってレベルじゃないぞ……)
「じゃあさ、ハレワタールさんって好きなものとかあるの?」
「音楽の好みは!?」
「好きなキュアチューバ―とかいる?」
「部活は?文化部?運動部?」
しかし、この発言のせいもあってソラは中々面白い性格なのだと皆に思われたようで。もっとソラのことを知りたいというクラスメイト達からどんどん質問されてしまい、あわあわと混乱してんてこまいになってしまう。許容量を超えた今のソラでは間違いなくスカイランドの事を隠すことは難しいだろうと、ヤクモもソラに助け舟を出すことにする。
「ま、まぁ……ソラさん困ってるみたいだし……同時に質問されても答えられないんじゃないかな」
「嵐堂の言う通りだぞー、仲良くなりたいのはわかるが、ハレワタールさんは聖徳太子じゃないんだからな」
「……あ、それもそうか……ごめんねソラちゃん」
「あ、いえ……」
ヤクモと先生の言葉に自分たちが盛り上がりすぎていたことに気付くクラスメイト達。質問の波が収まったことに安堵のため息を漏らすソラ。
「ありがとうございます、ヤクモさん」
「これぐらいなんでもないよ、ソラさんが困ってると俺も困るし」
「あはは……」
(……ん!?)
スカイランドやプリキュアの事がばれたら当然困る。ヤクモはそう思っての発言だし、ソラもそのつもりだった。ましろも言っている意図は理解している、理解しているのだが、何も知らない人たちに発言だけ切り取られたらどうなるか。急にざわざわし始めるクラスを不思議そうに見渡すソラとヤクモだったが、これ以上の追及がされないまま、ホームルーム終了を告げるチャイムの音が鳴るのだった。
★
「す、スポーツテストか……そういやそうだったな……今日だったか……」
「スポーツテストですか」
「やったことあるの?」
どうすっかなぁ、と言わんばかりに悩む素振りを見せるヤクモ。ソラの運動神経の良さは知っているし、早朝にランニングまでしていて日々トレーニングに余念がないとも聞いている。ソラが実力を発揮すれば間違いなく上位は堅いだろうなと確信しているヤクモは、最初にスカイランドのことをばらしかけたことが相当堪えたのか、その後の休み時間でソラが言っていた言葉を思い出す。
『私、目立たないように頑張ります!』
努力の方向性がちょっと迷子になっている気もするが、ソラなりに考えた結果なのだろうとひとまずソラのやりたいようにやらせることにはなったのだが、スポーツテストともなれば間違いなくソラにとって大活躍できる舞台だろう。本人がああ言った手前、羽目を外しすぎないかは心配ではあるが。
「はい!ちょっと自信があります……ただ、あまり目立たないよう真ん中ぐらいの記録を狙います!」
「うん……うん?」
手抜き宣言ともとれる言い方になってしまうが、それでもソラ本人は真剣そのものなのだろう。それでも苦笑が止まらないましろ。ヤクモはというと、かなり言いづらそうになりながらも、少しソラに物申すことにする。
「ソラさん、別にやりたいようにやっていいんじゃないかな……運動できるんだし」
「でも、目立つわけには……」
「自分のやりたいことやできることをやることって別に悪いことでも何でもないと俺は思うよ」
「ヤクモさん……」
皆で運動をするのだから、自分だって楽しく一生懸命やりたい。ソラの中にだって当然そんな思いがある。しかし、そうするわけにはいかないという事情がソラにはあった。ヤクモが優しさや自分の事を気遣って言ってくれるのは凄く嬉しい。だが、と葛藤するソラを後押しするようにヤクモは自分の思いを言う。
「皆優しいからきっと大丈夫だろうけどさ……ここで手を抜いたって後で皆にあれこれ思われたりするソラさんは見たくないよ。どうせ見るなら楽しんでるソラさんがいい」
「!そ、そうですか……?」
「最近思うんだけどこれ素面でやってるんだよね?」
「何が?」
ヤクモの言葉がとても嬉しく、頬を染めながら照れ隠しをするようにその頬を指で掻くソラ。この光景を前につい反射的な本音がましろの口からぽろっとこぼれてしまうも、ヤクモからすれば何のことやら。これはこれで前途多難だなぁとましろがぼやいてると、
「……ってかそろそろ行かないと終わらないな……じゃあ行ってくるよ」
「はい!……そういえばヤクモさんもスポーツ得意なんですか?」
「部活やってる人たちには負けるよ……ま、記録には残るし全力は出してくるさ」
そう言い、まずは50メートル走に向かうヤクモ。他の男子たちと並び、スタートの合図が鳴るのを待つ。そして、ピストルの音が鳴るのと同時に、
「うお!?」
「すげぇなヤクモ、こんな速かったか?」
「嵐堂君、スタートダッシュがよかったね」
「さすが陸上部……分析が早いぜ」
ヤクモは並走する他の生徒達を置いてけぼりにする記録を打ち出していた。この好記録に外野も騒然。大盛り上がりを見せる中、ついにソラの順番が回ってくる。
(ヤクモさんはやっぱり凄いです。私も……本気でやりたい……だけどすみませんヤクモさん。これだけは譲れません……私は、目立つわけにはいかないんです!)
強い意志でそう誓うソラ。そして他の女子と共に走り出す中、並走するように気を付けていたのだが。
「はっ!」
視線の先に怪我をしたであろう生徒を見つけてしまい、その生徒の元へ向かうべく本気で走り出してしまった。
「ソ、ソラちゃん!?」
「あー……怪我してる子がいるな。転んだのかな……」
いきなり全力を出し始めたソラに唖然となるましろだったが、ソラが走り出した理由にすぐに気付き、ソラの元へと向かうヤクモ。そこでは怪我をした女子生徒の擦りむいた膝を案じるソラの姿があった。
「大丈夫?」
「う、うん大丈夫。ちょっと擦りむいただけだから」
「保健室行った方がいいよ、歩ける?」
「うん、歩ける。ありがとう嵐堂君、ハレワタールさん」
保健室へ向かって歩いていく女子生徒を見ているソラだったが、ヤクモの気まずそうな表情にやがて気付く。そしてすぐに、背後から聞こえてくる歓声に自分が全力疾走していたことに気付く。
「あ、あ……」
「ソラちゃんすっごい速かったよ!」
「新記録だ!」
「とんでもねえ奴と同じ時代に生まれちまったもんだぜ……」
真っ青になり、震えながら助けを求めるようにヤクモを見るソラ。しかし一度禁を破ってしまったのはソラであるし、それに客観的に見れば大人気なだけである。これはこの後もなんだかんだで全力でやるんだろうなと確信したヤクモは、
「まぁ、なんだ……どうにかなるよ」
「ほ、本当ですか!?」
「どうにかなるよ」
とりあえず流すことに決めた。そしてヤクモの予想通り、ソラは全ての種目でトップになるという快挙を成し遂げるのだった。
★
「結局すべての種目で新記録を出してしまいました……」
「ま、まぁ落ち込まなくてもいいと思うよ?すっごく盛り上がってたし」
「……というか、なんでまた目立ちたくないって?」
スポーツテストが終わり、廊下を歩く3人。自分が打ち立てた栄光に、目立ちたくないという目標を掲げていたソラは真逆の結果を出してしまったことに項垂れていた。そんなソラに、最初に聞いておけばよかったと思いながら、そもそもなんで目立ちたくなかったのかと問いかける。
「もし目立ってしまったら……皆、私の事変だと思ってしまいます……もしこれで別世界から来たことまでばれてしまったら、もう皆さんと友達になることが……!」
「え、目立ちたくなかった理由って、皆と友達になりたかったから?」
「……はい」
ましろの問いかけに頷くソラ。朝、スカイランドの事をうっかり口にしてしまったという経験が、目立ってはいけないという変なブレーキを生み出してしまっていたようである。
「それなら、気にする必要はないと思うよ?」
「あ、いたいた!ソラちゃん!」
ましろが言った直後、廊下の奥からソラ達の姿を見つけたつむぎ、るい、あさひの3人が駆け寄ってくる。
「さっきの、凄かったよ!」
「今度、どうすればあんなに運動できるか教えてよ!皆も教えてほしいってさ!」
「あんたぐいぐい行きすぎ。全く……」
3人はソラの雄姿を見て、盛り上がっていたようだ。その言葉を聞いて、はっとなるソラ。
「どうかな?ソラちゃん」
「……はい、私でよければ!」
「やった!」
「それじゃまた後でね」
「ヤクモもじゃあなー。飯だ飯ーっと!」
バンザイをして喜ぶあさひ。彼の望む回答を得ることができたのだろう。3人はそのまま教室に戻っていく。ヤクモとソラも教室に戻ろうとするのだが、ましろがそれを静止する。
「そうだ、ソラちゃんに来てほしいところがあるんだ。ヤクモ君も」
「?」
「ん……?ああ」
どこへ案内するかは何となく察しがつくが、せっかくなのでソラをそこに連れていきたいのだろう。反対側に向かって歩き出すましろに2人はついていくのだった。