曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第91話 キュアマジェスティの正体

 

「……」

 

窓から差し込む光にヤクモが目を開く。それと同時に、家の布団とは違う感触に違和感を感じ取り、体を起こす。そして視線を動かすと、天井から吊るされた飛行機の模型が目に入る。

 

「ああ、そうか……俺、泊まってるんだっけ」

 

まだ目覚め切っていない頭のまま、自分が虹ヶ丘家に泊まったことを思い出す。昨日、新たな刺客スキアヘッドと会敵したこと。そしてそのスキアヘッドがエルだけでなくヤクモも狙ったこともあって、今のヤクモを1人で帰らせるわけにはいかないという話になったのだ。その日の夜、父にヤクモは連絡を入れようとしたのだが、ヨヨが連絡を入れるということで、ヤクモは特に体を休めてほしいと言われたのだ。

 

「あ……ヤクモさん、おはようございます。目が覚めましたか?」

「ああ、おはようツバサ。エルちゃんや皆の様子はどう?」

「ええ、プリンセスはすっかり元気ですよ。特に上機嫌で……でも」

 

と、研究室の扉を開けてツバサが入ってくる。入ってきたツバサに挨拶をすると、ツバサは他の皆の様子を伝える。それを聞き、ヤクモも着替えるとリビングの方にツバサと一緒に向かう。そこには既に皆がいた。

 

「あ、ヤクモさんおはようございます。体は大丈夫ですか?」

「おはよう、ソラさん。うんもう今は大丈夫」

「よかった……」

 

既にリビングの机の上には朝食が並んでおり、ヤクモもソラに促され隣に座る。エルはツバサが言っていた通り、上機嫌ようだが、ヤクモと共に席に座ったツバサも含めて、4人全員が表情が硬いままだった。

 

「ごめんね……少し焦げちゃった……あ、ヤクモ君おはよう」

「おはよう、ましろさん。気分……優れない?」

「……うん、昨日のこと、色々考えちゃって……」

 

少し焦がしてしまったパンを持ってくるましろ。彼女の顔色も優れないようでヤクモが聞くと、ましろも昨日の事があってか同意するように頷く。

 

「……無事に戻ってきたからいいものの、プリンセスを守ることができなかった……」

「スキアヘッドは、恐ろしい強さでした……」

 

ましろが席に座るも、皆の話題はスキアヘッドとの戦闘についてだった。あの時、自分達とスキアヘッドの間には大きな実力の差があった。

 

「……ヤクモさん、あの姿には、自分の力でなることができるんですか?」

「ツバサ君!?」

「あ……すみません」

 

ツバサの問いかけにソラが驚いたように声を上げる。ツバサも自分が何をいったのかに気付き、慌てて謝る。しかしヤクモは気にしてないと首を横に振ると、ツバサの指摘に対する答えを告げる。

 

「いいよ、別に。でも……あの姿には多分なれないと思う。いや、なることはできるかもしれないけど……あの時スキアヘッドと戦えるぐらいの力ってなると……多分無理だと思う」

 

あの時、スキアヘッドはアンダーグエナジーでヤクモの意思を塗りつぶそうとしていた。そのために膨大なアンダーグエナジーを注ぎ、クラウドが自我を保っていたからこそ、その力を利用することができたのだ。

 

「あの方法はもう使えない」

「……うん。これからのことを考えると、心配だよ」

「……まあ、でもさ!くよくよ考えても仕方ないよ!今の私達にできるのは、エルちゃんを守るためもっと強くなること!前を向いて、気持ちアゲてこ!」

「「……はい!」」

「「……うん!」」

 

うーんと唸ってしまった4人を見て、あげはが皆を説得する。確かに考えることや気にすることはいっぱいあるが、結局はそれに尽きる。4人はあげはの言葉に笑顔を見せながら頷き、気持ちを前向きにする。

 

「まーぜまーぜー」

 

と、そんなヤクモ達の話を聞きながらも、エルは普段通りといった様子で楽しそうに食事を進めていた。課題はあるが彼女の笑顔を守れたのは事実。それだけで笑顔がこぼれてくる。彼女のためにももっと強くならなければ。そうあのキュアマジェスティのように。

 

「……そういえばキュアマジェスティって一体何者なんでしょう?」

「めちゃ強だったよね?」

 

と、ここで話題が謎の存在、キュアマジェスティへと移っていく。彼女はいったい何者なのだろうか。あの戦いの後、すっかり姿を消してしまったが、もし彼女と協力できるなら心強い味方になるはずだ。

 

「ヨヨさんなら何か知ってるかもしれませんが……今はスカイランドへ……」

「そういえばあの子、ミクモちゃんに似てたよ?ヤクモ君のお父さんは何か知らないの?」

「昨日、ヨヨさんが連絡を入れたみたいなんだけど、少し調べてから伝えるって返ってきたって。何かあったら俺の方に直接電話するとは言ってたけど……ただ、ミクモとは完全に無関係なのは確かだって。昨日もずっと父さんと居て物理的に戦闘に参加することはできないって」

 

何か知っていそうな大人たちからの情報も今はない。まずは自分達でどうにかしなければならないのだ。とにかく強くなること、そしてマジェスティに関する手掛かりを探すこと。この2つが今の自分たちの課題、だったのだが。

 

「エル!」

 

突然エルが手を上げる。

 

「?どうしたんです?」

 

いきなり手を上げたエルを見て5人が疑問そうな表情を向ける。何か欲しいものがあるのだろうかと、そんな事を考えながらエルの次の言葉を予想する。

 

「キュアマジェスティの正体を知ってたりして?」

「え?!?教えてください!!」

 

もしかしたらと希望的な観測も込めながらあげはがそのように茶化す。アンダーグ帝国に連れ去らわれたエルが無事に戻れたのも、もしかしたら彼女のおかげじゃないのかとも思ってのことだったが、ソラはその言葉に食いつく。そして、エルの次の言葉はある意味あげはの予想のニアピンだった。

 

「エルだよ!」

「「「「「え?」」」」」

 

エルが告げた言葉に、5人は耳を一瞬疑う。そこに追撃をかけるように、エルが笑顔で言う。

 

「エル、キュアマジェスティなの!!」

「「「「「……えええええええ!?」」」」」

 

エルのまさかのカミングアウト。あのキュアマジェスティが、自分達が守ろうとしていたエル本人だと言われ、5人は驚きの声を上げる。

 

「え、エルちゃんが……」

「キュアマジェスティ!?」

「える!へんしん、つよいの!」

 

エルの告白にソラとましろが素っ頓狂な声を上げる。それが事実だと得意げに語るエル。しかし、どうしても信じられない点がある。

 

「……でも、キュアマジェスティは……」

「うん、どう見ても赤ん坊じゃなかったはずだけど……」

 

だからこそ、もしやミクモなのでは?という考察まで出てきていたのだ。エルとは明らかに年齢が違う。しかし、言われてみるともしエルが成長したらあんな姿になるのではないのかと考えることもできる。

 

「……でも、あり得るかも?運命の子だもん!」

「えーるぅ!」

「そういえば、カバトンはエルちゃんの力を狙っているようなことを言っていました。もしそれが最強のプリキュアに変身する力だとしたら……」

 

そして、今までエルは様々な奇跡を起こし、見せてきた。もしかしたらエル自身が何かしらの力で一時的に成長してキュアマジェスティとなった可能性は否定できない。ソラも心当たりがあるようだった。何より、エルの力で自分達はプリキュアになったのだ。自分が変身することができない、などという道理はない。

 

「プリンセスがキュアマジェスティに変身できてもおかしくありません!」

「確かに……」

「エルちゃん、今、キュアマジェスティに変身できる?」

 

あげはが、エルに実際に変身できるかどうか問いかける。するとエルは喜んでスプーンを握る右手を上げる。そして一旦机から降りて皆の前に立つと、

 

「……える!」

 

ぐっと小さな手を握ってポーズをとる。5人が息を呑んでその光景を見守る中、エルが記憶している変身のシーケンスを なぞり始める。

 

「ひーろーがーるーちぇーんじ!!」

 

右手にずっと持ってるスプーンをスカイミラージュの代わりにするかのように掲げる。一瞬、そのスプーンの先から光が漏れた、ような気がしたがほぼほぼ気のせいなレベルだ。高らかにスプーンを掲げたままのポーズのまま止まってしまったエル。そのまま無言の時間が6人の中に流れていたが、やがてソラ達が申し訳なさそうに口を開く。

 

「あ、あのー……」

「エルちゃーん……?」

「スプーンで変身は……」

「える!?」

 

そこでエルも、自分が持っているのがスカイミラージュではなくスプーンだと気付いたようだ。これでは確かに変身できない、ならば自分のミラージュペンを出さなければと、声を上げ始める。

 

「ぷいきゅあー!ぷいきゅあー!!」

 

必死にミラージュペンを出そうとしているようだが、一向に出てこない。ペンがなければ変身できないというのにそれがうまくできず、エルは思わず泣きそうになってしまう。

 

「エルへんしん……つよいの!うそないの!」

「大丈夫」

 

本当は変身できる。嘘はついてない。皆に信じてもらえないかもしれないと悲しむエルをあげはが優しく撫でてあげる。

 

「嘘なんて思ってないよ」

「そうだよ。エルちゃんがキュアマジェスティだって、信じてるから」

「エルちゃん」

「僕達もですよ」

「うん!」

 

5人はエルが今変身することができなくても、ちゃんと信じているのだと笑いかける。それを見たエルはほっとしたのか涙が止まる。そして落ち着いたエルに、あげはが優しく語り掛ける。

 

「でも今は何故か変身できなくて、困った困った……なんだよね?」

「えーるぅ……」

 

しょぼんとしながら頷くエル。そんなエルをあげはは抱き上げると、

 

「よっしゃ!ここは最強の保育士目指してる私の出番かな!どうすれば変身できるか、一緒に考えてみよう?」

「える!」

 

といいエルに笑いかける。あげはの提案にエルも快く頷き返す。そしてあげはがビシッと指差す。

 

「皆は強くなるために頑張る!」

「「「「はい!」」」」

 

あげはの物言いにヤクモ達も元気よく返事を返す。

 

「できることをしよう!」

「いつまたスキアヘッドが襲ってくるかわかりません!」

「私達も頑張るよ!」

「プリンセスもファイトです!」

「える!」

 

そして全員で今一度、これからの戦いに備えるためにそれぞれの決意を示すように声を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンダーグ帝国。カイゼリンの前に現れたスキアヘッドが膝をつく。

 

「カイゼリン様」

「スキアヘッド。左腕はどうした?」

 

カイゼリンは心配が織り交ぜられた複雑な視線をスキアヘッドの左腕に向ける。そこは、キュアクラウドとの戦いによって負った怪我が今も残っていた。

 

「問題ありません」

「……そうか。だがプリキュアから受けた傷は治りが異常に遅い。怪我が治るまで、戦闘を控えよ」

「かしこまりました」

 

スキアヘッドの左腕に残っていた怪我は、翌日となった今も治る兆しが見えなかった。その怪我を埋めるようにアンダーグエナジーがその血肉の代わりとなってスキアヘッドの左腕に応急処置を施しているが、戦闘となれば万が一があるかもしれない。そうカイゼリンが考える理由が、1人のプリキュアにあった。

 

「……遂に、キュアマジェスティが降臨しました」

「……っ」

「巨大な力を使いこなせぬ内に……消し去らねば」

 

キュアマジェスティの出現。その言葉を聞いたカイゼリンの顔に憎悪が浮かぶ。淡々と、自らの意見を述べるスキアヘッド。その案を聞いたカイゼリンはそれを許可する。

 

「よかろう」

「全て、私めにお任せを」

 

そう、静かに口にするスキアヘッド。そしてカイゼリンの姿が地下へと消えていくと、スキアヘッドもまたその場から離れ、ある場所へと向かう。そこには、アンダーグエナジーの奔流の中で意識を失ったまま項垂れているミノトンの姿があった。

 

「ミノトン。プリキュアを倒したいと言っていたな。お前の望み、叶えてやろう」

「……」

 

当然、意識を失ったままのミノトンはスキアヘッドの言葉には答えない。スキアヘッドが指を鳴らすと、アンダーグエナジーがミノトンの中に流れ込んでくる。それを見て、静かに呟く。

 

「そのための力も欲していたな。望むならばいくらでもくれてやろう。アンダーグエナジー……最強の力をな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「でいやー!せいー!」

「ソーラー!」

 

気合と共にジャージに着替えたソラの拳が、足が放たれる。強くなるためにソラが選んだ方法、それはシンプルに鍛錬を積むこと。集中して鍛錬に臨むソラの元に、エルとあげはがやってくる。

 

「エルちゃん、あげはさん。変身の方はどうですか?」

「えーるぅ……」

 

エルに声をかけられて2人に気付いたソラがエルの変身についてどうなったか問いかける。ソラとしては単純に気になっただけで悪意などは当然ないのだが、まだ成果が出ていないエルは落ち込んでしまう。

 

「頑張ってはみたんだけどね……変身ポーズを変えてみたり色々と……それで、先輩プリキュアのソラちゃんを見学してみようって!」

 

落ち込んできたが、ここに来た目的を思い出したかのように顔を上げてソラを見るエル。ソラのプリキュアとしての姿や姿勢、その全てを習得するという気合の現れがこもったキラキラした目で見られたソラは、あげはの先輩と言う発言も相まって感極まったような表情を見せていた。

 

「せっ……先輩ぃ……!!気合を入れていきますよおおおお!!たあああああああ!!」

 

エルの為に格好悪い姿なんて見せられない。今の自分にできる、いや今までの自分を超えた力を見せなければ先輩として申し訳ない。ソラが気合と共に拳を何回も放つ。まるで残像が見えるかというほどに無数に放たれる拳を見ながら、エルはこれだと思ったエルは早速行動を起こす。

 

「エルやる!」

「え?でもまだエルちゃんには……」

「まあまあ、やってみよう?」

「える!」

 

エルに自分のような鍛錬をやらせるのは早すぎるのではないかと心配するソラ。しかし、あげはのまずはチャレンジしてみようという言葉にエルも頷き、精神を集中するように目を閉じて、手をゆっくりと回転させていく。その動きは、ソラが鍛錬で見せる構えにそっくりだ。

 

「「おお!?」」

「えーるっ!?」

 

掛け声と共に勢いよく握った手を前に出すエル。と、その勢いに前のめりになってしまい、そのまま倒れそうになってしまう。

 

「!?」

 

倒れてしまうのではないかとソラが身構えていると、エルもなんとか踏ん張ろうとする。戻れるか、戻れないのか。2人が少し見守っていたがバランスは戻らずエルが倒れそうになってしまう。

 

「あっ!?」

「おっと……」

 

と、そんなエルをいつからいたのかヤクモが右手で支える。その左手にはスマホが握られているようで、どうやら先ほどまで誰かと話していたようだ。

 

「大丈夫?エルちゃん」

「えるぅ……」

「ヤクモ君、ありがとうね。ここにいたの?」

「父さん、どうやらやらなきゃいけない作業があって手が離せないみたいで……でも今、父さんのスマホをミクモが持ってるみたいで、少し話を聞いていたんだ」

 

ヤクモに助けられてほっとするエル。何かあったら、とは言われていたが直接聞けることがあるなら聞いてみようと考えたのだろう。ヤクモは通話の為に家の中で他の作業をしているましろやツバサの邪魔をしないように外に出てソラの様子を見ていたようだった。だがエルの様子が気になってきたようだった。エルを助けたヤクモがその場に座って胡坐をかくと、エルも安心した様子でヤクモの膝に座る。

 

「ミクモちゃんが?それでなんて?」

「キュアマジェスティと似てることもそれとなく聞いてみたけど全くわからないって。スキアヘッドの事も聞いてみたけど……帝国のナンバー2でとにかく強いって事ぐらいしか教えてくれなかったよ。ミクモもほとんどスキアヘッドがカイゼリンの傍から動いてるところを見たことがないんだって……そもそも、関わること自体ほとんどできなかったってことらしいけど……」

「……そっか」

 

ミクモの帝国内の立場からすれば、やはり国のトップであるカイゼリンや事実上のナンバー2にあたるスキアヘッドとのかかわりはほどんとないも同然だろう。それに、かつてカバトンが失態を理由に処刑されかけたところを見ていたのを踏まえると、既に切り捨てられたミクモがソラシド市に戻ってきてスキアヘッドと鉢合わせしたら始末されてもおかしくない。

 

「もう少し落ち着くまではソラシド市に戻らない方がいいかもね」

「うん。父さんもそこはわかってると思うけど……」

「……すみません、ヤクモさんに任せるようなことになってしまって」

「ん?ああ気にしないでよ」

 

そんなことを話していると、ソラが申し訳なさそうにヤクモに言いながらヤクモの隣に座る。

 

「俺にできることはやっておきたいからさ。俺達、アンダーグ帝国の事を全く知らないで来ていたんだってことがはっきりわかったからさ。父さんも理由があって言わなかったんだろうけど……そういうことを言ってられるような状況じゃない。スキアヘッドやカイゼリン……今後のためにもアンダーグ帝国のトップの事を教えてもらわないと」

「……ヤクモ……」

 

ヤクモの言葉を聞いたエルは思い出していた。カイゼリンが口にしていた、アンダーグ帝国の王家の血を継ぐという言葉。もしあれが本当だったらカイゼリンとヤクモの関係性は。しかし、幼いながらもエルはそれを口にしていいのかと不安を抱いてしまう。そんな不安が伝わったのか、あげはがエルをヤクモの膝から抱える。

 

「エルちゃん?」

「トレーニングしたら変身できると思ったんだよね?」

「……える」

 

エルはあげはの言葉にゆっくりと頷く。不安の一部はそれが理由だったのは本当だ。そしてあげはもエルが別の事に不安を抱いているのは理解していた。さすがにその内容まではあげはも気付けていなかったようだが。

 

「まだまだチャレンジ!だよ。じゃあ私達は戻るから、2人ともごゆっくり!」

「「え?」」

 

ひらひらと手を振りながらあげはとエルは戻っていく。一瞬ソラとヤクモはきょとんと顔を見合わせていたが、放っておけばもう恋人同士なんだから2人で勝手にいい感じになるだろうしその方が精神的にいいだろうと戻っておくことにする。

 

「次はましろんの所に行ってみる?」

「いく!」

 

そしてエル達はキッチンにいるましろの所に向かう。

 

「ましろん」

「あ、今ヨーグルトを作ってたの。もっと強くなるために、ビタミンたっぷり、レモン果汁入り!」

 

ましろの考える強くなるための方法は、栄養をたくさん取って体を整えるというもののようだ。そういう意味では心身を鍛えようとしていたソラに通じるものがあるだろう。

 

「すっごく元気でそう!」

「あげはちゃん、味見してみて?」

「美味しそう!」

 

折角来てくれたということであげはにヨーグルトの試食を頼むましろ。試食のために一旦エルを椅子に座らせる。エルはましろの作ってくれたヨーグルトを見ていたが、

 

「エルちゃんは……」

「こっち!」

「あっ……」

 

エルのためにレモンが入っていない普通の甘いヨーグルトを別に用意していたましろが出そうとするのだが、エルはあげはに味見してもらおうと出していたレモン入りの酸味の強いヨーグルトに手を出すと、ましろが止める間もなく口に運んでしまう。しかし案の定、ましろの心配通りエルはその酸っぱさに顔を顰めてしまう。

 

「やっぱり酸っぱかったよね!?えーとこんな時どうすれば……」

「これでごっくんしようっか?」

「そう、それ!?」

 

慌てるましろ。だがあげはは冷静にエルにミルクを渡す。目の前に出てきたミルクをエルはすぐに手に取って口の中に残った酸っぱさを喉の奥に流し込んでいく。

 

「ぷはー……」

「さすがあげはちゃん……ありがとう」

 

リカバリーしてくれたあげはにお礼を言うましろ。あげはは落ち着いたエルに優しく話しかける。

 

「食べたら元気出て、変身できると思ったんだよね?」

「えるぅ……」

「うんうん、頑張った!次は少年の所に行ってみよう?」

「える!」

 

あげはの言葉に落ち込みながら頷くエル。しかし、失敗してしまったとはいえエルは頑張っている。そのことを褒める言葉と、ツバサの所に行こうという提案にエルは嬉しそうな表情を浮かべながら返事する。そしてエルを連れてあげははツバサのいる研究室に入ると。

 

「戦いは……陣形と戦略が大事です。この航空力学の数式を用いれば改善することが……」

 

そこではぶつぶつと呟きながら戦術について組み立てているツバサの姿があった。ツバサが打ち出した強くなる方法は、戦いのための知識を蓄えるということ。その点では敵の情報を集めようとしているヤクモと似通っているだろう。だが、ツバサの言っていることは踏み込みすぎてぱっと聞いても中々頭の中に入らないのかあげはは苦笑していた。エルもピンとは来ていないようだが、ツバサがノートに書きこむために使っているミラージュペンが目に入る。

 

「ミラージュペン!それかちて!」

「?このミラージュペンですか?」

「少年、貸してあげて?」

「はあ……じゃあ、はいどうぞ」

 

エルに声をかけられて、2人に気付いたツバサ。どういうことなのかわかっていないようだがそのまま2人に言われるがままエルにミラージュペンを渡すツバサ。ツバサからペンを受け取ったエルは、

 

「ひろがるちぇーんじ!!……える?」

 

ツバサのペンを掲げ、エルが変身しようとする。しかし当然ミラージュペンがスカイミラージュに姿を変えることはない。ツバサもエルが何をしようとしているか把握したみたいである。

 

「ちぇんじ!ちぇーんじ!!ちぇーんーじー!!!」

 

ペンはあるんだから変身できるはず。無我夢中で何回も声を上げるが、次第に疲れてしまったのか息を荒くしながらエルはペンを下ろす。その様子を見たツバサは、言ったら落ち込んでしまうだろうとは思いつつも、これだけは大事なことだと諭し始める。

 

「プリンセス。そのペンは僕専用なんです。だから……変身は……」

「う……ひっぐ……」

 

そのペンじゃ変身はできない。ツバサにそう言われてしまったエルは、遂に泣き出してしまう。

 

「うぇええええええん!!」

「よーしよし……」

 

大声で泣き出してしまったエルをあげはが抱きしめて頭を撫でてあげる。エルの鳴き声は外にまで来たようで、ヤクモ達も驚いた様子でツバサの研究室に入ってくる。

 

「エルちゃん……すっごく凄く頑張ったんだよね。でも……中々うまくいかなくて、悲しくなっちゃったんだよね」

「えるぅ……」

 

心配そうにエルを見守るヤクモ達。あげはの優しい言葉にエルも少しだけ落ち着いたようで、まだ目元に涙が浮かんではいるものの泣くのを止める。

 

「エルちゃんには、エルちゃんだけのミラージュペンがあるはずだよ」

「……エル、だけ?」

「それは、エルちゃんだけにしか見つけられないものなんだ」

 

握ったままのツバサのミラージュペンを見ながら呟くエルにそう返すあげは。その言葉を聞き、ヤクモ達も自分達がミラージュペンを初めて手に入れた時の事を思い出していた。

 

「でも、きっとエルちゃんなら見つけられる」

「……!」

 

あげはの言葉に同意するように4人も頷く。その姿を見て、エルも、自分がどうすれば変身できるのか。そのためにどうすればいいのか、何となく見えてきた気がした。そんな時だった。

 

「「「「ピピピピ!」」」」

「?どうしたんです?そんなに慌てて……」

 

窓の外で鳥たちが慌ただしく鳴いていた。窓を開けて鳥の姿に戻ったツバサが話を聞いていたが、段々険しい表情になっていく。そして、鳥たちから聞いた、敵の襲撃を皆に伝えるのだった。

 

「大変です!街に……ミノトンが!!」

「「「「「!!」」」」」

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