「これって……」
「……まさか、エルちゃん?」
そこにあったのは、広間と一枚の壁画だけだ。その壁画に描かれていたのは、1人の少女が本へと手を伸ばしている姿。そして少女の姿は、ヤクモ達が一度だけ見た、エルがキュアマジェスティに初めて変身した時に見せた成長した姿に酷似していた。
「みてー!ほん!」
エルが本の元へと浮かび上がって指差す。少女の絵に注目していたが、ここで6人もエルが指差している方にある本を見る。そしてエルが本に触れると、再びエルが触れた箇所から光が溢れ出す。
「あ……」
「「「「「エルちゃん!?」」」」」
だが、今回は普段とは違った戸惑った反応をエルが見せる。その反応を見て、5人が驚いた表情を浮かべエルの身を案じる。と、次の瞬間5人の体も光に包まれる。
「「「「「え!?」」」」」
自分たちの体を包む光を見て、何が起こるのか警戒していると、壁画の方で異変が起こる。エルだけが描かれていたはずの壁画、そこになんと5人の絵も追加されたのだ。
「これは……!?」
予想外の現象に驚きの声を上げるヨヨ。しかも事態はそれだけではない。5人、そしてエルの体を包む強い光がもっと輝きを増していく。次の瞬間、6人が光となって壁画の中へと吸い込まれていってしまう。広間に1人残されたヨヨは皆が吸い込まれた壁画を見る。
(どうやら最後の部屋に入れるのはプリキュアだけみたいね……皆、後は任せたわ)
★
6人が壁画に吸い込まれた先にあったのは、床や天井から無機質な立方体が伸びているような部屋だった。そこには通路があり、その奥には台座があり、光が浮かんでいた。5人が見守る中、エルが光に触れると、光が割れて一冊の本が出現する。
「える……」
「本だ……本が究極の力なのか……?」
「確かに壁画には本が描かれていたけど……」
「まじぇすてぃくるにくるん!」
「マジェスティクルニクルン……?」
「エルちゃんわかるの?」
「うん!」
本の名を口にし、手に取るエル。初めて見るはずの本なのに、エルはその名前を知っていたのだという。先ほど、壁画に触れた時、その名を知ったのかもしれない。大事そうに本を手に取ると、早速マジェスティクルニクルンを開こうとする。しかし、
「あれ?あれ……」
「貸してごらん?」
エルがいくら力を込めても本は開かない。なんとかして開けようとするがうまくいかず、それを見かねてあげはがマジェスティクルニクルンを受け取り開けようとする。しかし、どれだけ力を込めても開くことができず、遂にはあげはの方が息を切らせてしまう。
「……封印されてるみたいですね?」
「何か開けるヒントになるものがあればいいんだけど……!?」
ここまで来てノーヒント、というのもできれば考えたくない。何かヒントを探してみようというヤクモの提案に皆が頷き探索を始めようとしたその瞬間だった。
「「「「「!?」」」」」
突然地面が揺れる。まさかこんなところで地震が。ヤクモ、ましろ、あげはの3人がそんな事を考えた次の瞬間、部屋の至る所に電撃がバチバチと流れ始める。まるで、何か異変が起こっているのを告げようとしているかのように。
「地面が……いや、遺跡が揺れてます!」
「遺跡の外で一体何が……!」
「!?」
まるで、その緊急事態に呼応するかのようにあげはの手からマジェスティクルニクルンが離れ、再び台座の上に移動して浮かび上がる。しかし、それを気にしている暇はなかった。ヤクモは巨大なアンダーグエナジーを感知し、扉を睨みつける。
「……皆、敵が来る……!」
「「「「「!!」」」」」
ヤクモの言葉にミラージュペンを取り出し、扉を見据える5人。遺跡が告げている緊急事態もそういうことなのだろう。
「もしかしたら……遺跡にはアンダーグ帝国に対するバリアのような防衛機能のようなものがあったのかもしれません。この揺れや異変も、それを無理やり破壊しようとしてきたせいで……」
「可能性は高いと思う。急に遺跡の外のアンダーグエナジーを感じ取れるようになったから、この遺跡を守っていたバリアがなくなってできるようになったって考えられる」
ツバサとヤクモが分析している間にも、アンダーグ帝国からの刺客がこちらに近づいてくる気配と音が大きくなってくる。敵は通路を破壊しながらこの部屋へと強引に迫ってきているようで、一際巨大な音と共に扉の上の部分の壁が破壊され、そこからなんとミノトンが部屋の中へと落ちてくる。
「ミノトン!」
「プリキュアアアアア!!」
前回の戦いでミノトンは浄化された後、スキアヘッドの手によって回収されていた。そして前回のように再びアンダーグエナジーを注ぎ込まれ、洗脳されたのだろう。それも、前回とは比べ物にならない強さであろうことは一目でわかる。
「ミノトン!意識を取り戻せ!力に呑まれるな!」
「その通りです!負けないでください!あなたは武人でしょ!?」
前回よりも入念に洗脳され、敵意をこちらにぶつけるミノトンを説得しようと試みるヤクモ。確かに前回もミノトンが意識を取り戻せばこの戦いは一旦止められる。それはソラも理解していたが、どうもヤクモにはそれ以外にも思惑があるようにも見え、一瞬、驚く。しかしすぐに、シャララのように己の体を蝕むだけの力に屈してはならないと声を上げる。
「ブジン……グゥウウウウ!!」
武人。その言葉に一瞬動きが止まるミノトン。しかしすぐにその全身からアンダーグエナジーのオーラが吹き上がり、ミノトンは苦しそうに頭を抑える。何かを考えてもそれすらも一瞬でアンダーグエナジーによって真っ黒に塗りつぶされてしまう。考える事すら許されない今のミノトンの姿に、スキアヘッドの無慈悲な冷酷さを垣間見てソラは恐ろしいものを見るかのようにミノトンを見ることしかできないでいた。
「プリキュアタオスゥウウ!!カイゼリンサマノタメニィイイイ!プリキュアタオスゥウウウ!!」
「カイゼリンのために、か……」
「っ……」
アンダーグエナジーが人を変える所を見てきたからこそ、それがどれほど許されないことなのかわかる。絶対に止めなければ。険しい表情を浮かべるソラの肩にヤクモが手を当てる。
「!ヤクモさん……」
「助けよう、ミノトンを。その後も敵になるかどうかなんて今は関係ない……俺は、ミノトンを助けたい。エルちゃんの話を聞いてから、ずっと考えていたことの1つだから」
「……はい!」
「うん!エルもでばんです!」
ヤクモの言葉にソラとエルが元気よく頷く。この中で一番アンダーグエナジーに詳しいヤクモの発言だ、きっと、彼にはミノトンを救う明確な策があるのだ。これほど心強いことはない。ソラ達はスカイミラージュを手に取り、ミノトンとの決戦へと望む。
「「「「「「スカイミラージュ!トーンコネクト!!」」」」」」
5人と、エルがスカイトーンをセットしていく。6人の体を光が包み込んでいき、それぞれの体をプリキュアの姿へと変えていく。そして、遂に全員が揃った6人の戦士が戦場に降り立つ。
「無限にひろがる青い空!キュアスカイ!!」
「ふわりひろがる優しい光!キュアプリズム!!」
「夜空に漂いひろがる雲!キュアクラウド!!」
「天高くひろがる勇気!キュアウィング!!」
「アゲてひろがるワンダホー!キュアバタフライ!!」
「降り立つ気高き神秘!キュアマジェスティ!!」
変身を終えた全員の顔を互いに一瞬だけ見合わせる。そしてスカイが高らかに掛け声を上げる。
「レディー、ゴー!」
「「「「「「ひろがるスカイ!プリキュア!!」」」」」」
ミノトンの前で変身を終え、名乗りを上げる。そして変身が完了した6人の前で、頭痛が止まったのかミノトンがゆっくりと体を起こす。その吐息にすらアンダーグエナジーが含まれている。既にミノトンの許容量を超えるほどにアンダーグエナジーは注がれていると見て間違いないだろう。
「ケッチャクヲツケテヤルゥウウウ!!」
「決着を付けたいなら、まずは元に戻ってからだ!ミノトン!!」
アンブレランスを取り出し、ミノトンに言い返し、先陣を切るように飛び出すクラウド。それと同時にミノトンもまた走り出し、一瞬遅れてスカイとプリズムが走り出す。
「ウォオオオオ!!」
ミノトンがアンダーグエナジーを纏わせた拳をクラウドへと叩きつける。それを雲を纏わせたアンブレランスで受け止めると同時に、クラウドの両脚にアンブレランスを止めていた鎖がランボーグ化し巻き付いていく。その先端が鋭い杭のようになって床に深く突き刺さり、クラウドが全身を使ってミノトンの攻撃を受け止める。
「ぐぅうう!」
アンブレランス越しにかかる衝撃。床に杭を刺してなければ敢え無く吹き飛ばされていたであろう威力に耐えながら、雲がアンダーグエナジーを吸収していく。クラウドのその行動を見て、再度の洗脳を受けた際にクラウドのそれを受けてはいけないと刷り込まれたのかミノトンが一旦その場から退く。そこに間髪入れず、
「ヒーローガールスカイパンチ!!」
スカイが追撃を仕掛ける。再びアンダーグエナジーを拳に込めたミノトンがスカイの攻撃を迎え撃つ。一瞬拮抗するも、アンダーグエナジーが一気に増大し、その威力によってスカイが吹き飛ばされてしまう。
「!!」
だが、ここまでは織り込み済み。スカイの方も無理に押し込もうとはせずミノトンの反撃を受けないように距離を取るようにわざと反動で後方へと飛んでいた。そして柱に着地すると、共に飛び出してきたウィング、バタフライと共に再度ミノトンへと迫る。その間、プリズムがミノトンの頭部を狙って光弾を放ち続け、ミノトンが顔を庇うように手で光弾を受け止めていく。ミノトンの周囲に煙が発生していたがその煙を振り払うと、煙を突き抜けて3人が迫る。
「「「はああああ!!」」」
迎え撃つ素振りをミノトンが見せた瞬間、3人は互いに足を合わせて蹴り合い、三方向に別れる。部屋の中が薄暗いのも相まってミノトンは3人を見失ってしまったようだ。どうにか3人を補足しようと周囲を見渡している間に、ミノトンの元にマジェスティが現れる。3人は陽動であり、ミノトンがマジェスティに気付いた時には既に遅く、ミノトンの腹部に拳が突き刺さる。
「グゥウウ!?」
腹部から全身に強烈な痛みが広がっていき、ミノトンの体が後方へと吹き飛ばされる。どうにか踏みとどまるも、間髪入れずにマジェスティが何発も拳を叩き込んでいく。そしてミノトンの体が大きくのけ反ったタイミングでミノトンの背後に左手から光を放ち、それと同時に右手に光を集めていく。
「はぁ!!」
右手から放たれた光弾がミノトンを勢いよく吹き飛ばす。吹き飛ばされたミノトンが背後にマジェスティが放った光にぶち当たると、その反動で吹き飛ばされる。それによって再びマジェスティの元へ吹き飛んできたミノトンを回し蹴りで吹き飛ばす。マジェスティの強烈な攻撃を立て続けに喰らい、扉へと叩きつけられたミノトン。そしてマジェスティの傍に皆が集まっていく。
「さすがマジェスティ!」
「……まだよ」
「……アンダーグエナジーが大きくなっていく……!?」
「ワレコソガ……!」
煙が晴れると、ミノトンの全身からアンダーグエナジーが吹き上がる。見れば、ミノトンは複数の小瓶の中に入っていた濃縮されていたアンダーグエナジーを必死に呑み込んでいた。次の瞬間、ミノトンの全身が二回りぐらい巨大化していき、吹き上がるアンダーグエナジーがプリキュア達へと襲い掛かっていく。
「くぅ……!?」
吹きすさぶアンダーグエナジーの波動をクラウドが受け止め取り込んでいく。しかし、アンダーグエナジーは受け止めることができてもその凄まじい余波はプリキュア達の身に襲い掛かる。
「ガァアアアア!!」
その身に貯め込み切れないアンダーグエナジーを弾丸のようにまとめて撃ち出すミノトン。咄嗟にランボーグの杭を地面に突き刺して固定し、再びアンブレランスを開くもあまりの衝撃に数発で吹き飛ばされてしまい、生身のクラウドに次々と弾丸が命中していく。それだけでなく部屋の全域へと無差別に放たれ攻撃によって柱もどんどん壊されていく中、皆から分かれてしまったプリズムは一旦攻撃を凌ぐために柱の陰に身を隠す。
「!マジェスティは……エルちゃんはどこ!?」
弾幕と煙が酷く、周りは見えない。マジェスティは無事なのか。とにかくマジェスティを探そうと立ち上がるプリズムの元へ、ミノトンの放った弾丸の一発が迫ってきてしまう。プリズムがそれに気付いた時には既に目の前まで迫っており、回避も防御もできない。プリズムが覚悟したように目を閉じかけた瞬間、目の前にマジェスティが現れ、紫色の光のシールドを生み出すとミノトンの弾丸を受け止める。
「マジェスティ!?」
だがあまりにアンダーグエナジーの量が多すぎるのか、マジェスティのシールドをどんどん喰らっていくようにアンダーグエナジーが侵食していく。
「くっ……!」
そしてシールドと弾丸が爆発する直前にプリズムがマジェスティの体を抱えてその場から跳ぶ。それによって爆発の直撃こそ避けるものの、
「「きゃあああ!!」」
2人の体は衝撃で吹き飛ばされてしまう。
「「「!?」」」
2人の悲鳴を聞き、同じく身を隠していた3人が声のした方に視線を向ける。それと同時に過剰なアンダーグエナジーを放出し終えたミノトンが潜んでいたバタフライの目の前にいきなり現れる。
「な……きゃああああ!!」
そのまま膝蹴りを放ち、柱へと叩きつけられる。崩れる柱と共に倒れるバタフライにスカイとウィングが意識を向けた一瞬、その一瞬でミノトンが2人の元に高速で迫り、勢いよく腕を振るい2人をまとめて吹き飛ばしてしまう。
「きゃあああ!!」
「うわあああ!!」
5人のプリキュアを一掃したミノトンだったが、ふらついたように後ずさってしまう。そのまま膝を付き、息を荒くする。全身からは汗が噴き出しており、どう見ても無理をしているのは明らかだ。だが、
「!!」
足音が聞こえ、はっと顔を上げるミノトン。そこにはクレーターのようなものができており、煙が特に大きく上がっていたが、その中から傷だらけでコスチュームがボロボロとなっているクラウドが現れる。しかし、アンダーグエナジーを取り込めば浄化して自らの傷を癒せるはずのクラウドだったが、その許容量を超えたのだろうか。いや違う、ミノトンに自我が残っていれば、クラウドがアンダーグエナジーを浄化するのではなく、それで自分の傷を応急処置していることに気付けただろう。クラウドは、体こそ傷だらけではあったがしっかりとした足取りでミノトンへと歩いていく。
「グ、グルル……プリキュアァアア……!!」
そしてミノトンの前に立つクラウドに、ミノトンが拳を叩きつけようとしたその瞬間だった。
「はあああああ!!」
「!?」
クラウドが覇気と共に全身からアンダーグエナジーを放出する。それと共にクラウドの髪の色が赤黒く、そして瞳が金色に変わっていく。それを見たミノトンの動きが止まる。
「!?カ……カイゼリン……サマ……!?」
「「え……!?」」
痛む体に鞭を打ってどうにか立ち上がろうとするスカイ達だったが、ミノトンが零した言葉に、驚いたように固まってしまう。
「どういうこと……?なんでクラウドが……」
「……カイゼリン・アンダーグは言っていたわ。キュアクラウドは……ヤクモはアンダーグ帝国の王家の血を継いでいるって……」
「え!?」
マジェスティの言葉に驚くプリズム。クラウドがずっと考えていたのはこの事なのだろう。そして、自分がアンダーグ帝国と関係があることを知ってしまったからこそ、今のミノトンを放っておけないと思ったのだろう。そしてミノトンは、意思を失っているからこそ、本能的にカイゼリンの面影を見せるクラウドを前に固まっているのだろう。
「俺達が戦う必要はないはずだ。お前は、今の自分の強さに満足しているのか?」
「ウ……」
「お前には武人の誇りがあるはずだ!思い出せ!」
「ウ、ウグ……ウグァアアア!!」
クラウドの言葉に完全にミノトンが揺れた瞬間、クラウドがミノトンの腹部に手を当てる。次の瞬間、ミノトンの体内からアンダーグエナジーが急速に吸い出されていき、それと共にミノトンの瞳に徐々に光が戻り始める。
「オ、オオ……か、カイゼリン様……いや……カイゼル、様……?」
意識を取り戻しつつあるミノトンの瞳にはクラウドの雰囲気が別の誰かに被って見えたのだろうか。これはいい兆候が出てきていると判断したクラウドはさらにアンダーグエナジーを多く取り込み始める。
「ぉおおおおお!!」
「ぐあああああ!!」
クラウドがミノトンの相手をしている中、台座まで吹き飛ばされていたプリズムとマジェスティが何とか立ち上がる。今、クラウドのおかげで何とかミノトンは抑えられているが、それも長くは続かない。一旦アンダーグエナジーを吸収し、自我が戻ってもまたすぐに塗り潰されてしまう。そして、今のミノトンにシャイニング・アップ・ドラフトやタイタニック・レインボーアタックが通じるかはわからない。となれば、残された希望はただ1つ。
「クルニクルン!私達に究極の力を!!クルニクルン!お願い!!」
マジェスティクルニクルンがもたらすという究極の力だけ。まるで、マジェスティの声に応えるようにクルニクルンが光を放つ。その光は、その場にいた6人に本の使い方を伝えていた。
「……今の」
「プリキュアの心を1つに重ねた時」
「クルニクルンの奇跡のページは開かれる……!」
「心を1つに……!」
「……」
「ウゴォオオオオオ!!!」
アンダーグエナジーを吸収されていたミノトンが苦痛の叫びを上げながらクラウドを吹き飛ばす。再び意識を塗りつぶされたミノトンだったが、消耗しすぎたアンダーグエナジーを再び補充するかのように先ほどよりも大量の小瓶を取り出す。
「!皆、クルニクルンに手を翳して!」
一方、クラウドの方もミノトンへの語り掛けと時間稼ぎも十分と判断し、体内に取り込んでいたアンダーグエナジーを浄化して元の姿へと戻ると、地面から起き上がり他の皆と共にマジェスティとプリズムの元に向かう。
「クラウド!?大丈夫ですか!?」
「うん、俺は平気。それより、この戦いを終わらせよう!ミノトンのためにも」
「はい!……良かった。クラウドは何も変わってなくて」
「え?」
「それよりも今はマジェスティクルニクルンです!」
ミノトンの言葉から不安はあった。しかしクラウドの行動を見れば何の心配もないことは一目瞭然だった。それだけで、スカイ達には十分だったのだろう。心を1つにするのに不安材料は何もない。6人がクルニクルンに手を翳すのを合図としてクルニクルンから強い光が溢れ出していき、奇跡のページが開かれるはずだった。しかし、何も起こらない。
「どうして……!?私たちの心は1つのはず……!?」
マジェスティの悲痛な言葉にプリズムがはっとなってしまう。誰の心が揺らいでいるのか。それは自分が一番よくわかっている。そして状況はさらに悪く、
「ウォオオオ!ワレノカチダァアア!!」
「「「「「「!!」」」」」」
アンダーグエナジーを補充し終えたミノトンの口からアンダーグエナジーがレーザーのように放たれ、プリキュア達をまとめて葬ろうとする。咄嗟に皆の盾になるようにクラウドが前に出ようとした瞬間、クルニクルンが強い光と共にバリアを展開し、ミノトンの攻撃を受け止める。
「クルニクルンが、守ってくれた……」
しかし、安心もできない。バリアにはすぐにひびが入り始め、長くはもたないことを告げていた。
「バリアが……」
「クルニクルンの力でも駄目なのか!?」
「もう一度、クルニクルンのページを開こう。6つの心を1つにするんだ!」
「……私のせいだ!!」
もう時間はない。今すぐにでもクルニクルンを起動させなければならないというクラウドの言葉に4人は頷く。だが、ただ1人プリズムだけが頷くことができなかった。
「エルちゃんを戦いに巻き込みたくないって思ってるから……だからクルニクルンの力が目覚めないんだよ……!」
「そんなこと言っている場合ですか!?このままじゃマジェスティも僕達も……!」
「わかってる!」
悲しそうに、自分のせいでクルニクルンが目覚めないのだというプリズム。頭ではそれは間違っているとわかっているのだ。心を1つにするために、マジェスティの事を受け入れなければならないのだと。だが、プリズムの悲痛な叫びをかき消すように、バリアが崩壊し6人をアンダーグエナジーのレーザーが襲う。
「っ!?」
しかし、襲ってくるはずの衝撃も痛みもない。一体どうしてなのかと咄嗟に伏せていたプリズムが顔を上げると、なんとマジェスティが1人でシールドを展開してレーザーを受け止めていた。
「はああああ!!」
見れば、マジェスティの全身を紫色の光が覆っている。この威力を前に1人で耐えようとするマジェスティだったが1人ではとても支えきれない。ならばと、マジェスティの隣に立っていたクラウドがエルと共にシールドに手を当てていき、バタフライがしゃがんだ状態から手を突き出す。バラフライの蝶のシールドがマジェスティのシールドに重なる形で生み出され、その2つをクラウドの雲が覆っていき、防御力と再生力が三重になって強化されていく。そしてクラウドに続く形でスカイ達も立ち上がり、6人でシールドを抑える。
「……エルちゃん、ごめんね……私が守ってあげなくちゃいけないのに……!」
「……ましろさん。エルちゃんの気持ちを信じてあげてください!」
「エルちゃんの……」
プリズムの口から、本来守らなきゃいけないはずのエルに守られてしまう自分への不甲斐なさから謝罪の言葉が告げられる。しかし、スカイはいう。マジェスティを信じてあげて欲しいと。
「はい……エルちゃんだって、私達が心配で、私達を守りたいんです!私にはわかりますから……!」
「あ……」
スカイの言葉に、はっとなるプリズム。スカイがそう思うのは、過去にプリズムが傷つくことを恐れるあまり、彼女を戦いから遠ざけようとした過去があったからだろう。それだけではない、今だってスカイは何度も同じことをクラウドに対して考えているのだろう。それでも、2人の心が揺らがず通じ合っているのは信頼し合っているからだ。
「……ましろ。あなたが心配だよ、助けたいよ。気持ちは同じ……それって、一緒に戦う理由にならないかな?」
「……!」
そしてマジェスティの言葉。心配で守りたい、できれば傷ついてほしくないと思っているのは自分だけではないのだ。だが皆それを乗り越えてこの場に立っている。そうわかった瞬間、とても心強いものを感じ、プリズムは迷いを振り切った表情で前を向く。そして、遂に6人の心が1つになった瞬間が訪れる。
「「クルニクルン!!」」
マジェスティとプリズムの叫びに呼応するように本が光の中から姿を現し6つの光を放つ。その光はミノトンの放つレーザーを浄化していき、6人はミノトンをそのままの勢いで吹き飛ばしてしまう。そしてマジェスティの元に移動してきたマジェスティクルニクルンに手を翳す。
「「「「「「マジェスティクルニクルン!!」」」」」」
クルニクルンのページが開かれ、強い光がその場を支配していく。光の中、開かれたクルニクルンから一本のペンが出現する。それが左のページに描かれたハートをなぞると、右のページに記載された6つのシンボルをそれぞれプリキュア達がペンを使ってタッチしていく。瞬間、6人の全身に強い光がまとわれていく。
「「「「「「広がる世界にテイク・オフ!!」」」」」」
それぞれが光となって飛び上がり、ペンをリレーするかのように巨大なシンボルを描いていく。最後にペンを使ったマジェスティから受け取ったクラウドが最初に飛び出し、スカイへ、プリズムへ、ウィングへ、バタフライへと次々と繋いでいく。そして最後にペンを受け取ったマジェスティがシンボルを描き終えると既に本の上で手を重ねて待機している6人の元へと飛び、彼女も手を当てる。それと共にシンボルが虹色の光を放って発射口のように起き上がる。
「「「「「「プリキュア!マジェスティック・ハレーション!!」」」」」」
6人の声と共にシンボルから放たれた巨大な閃光。それが光線となってミノトンを包み込んでいく。その中で体内に巣食っていたアンダーグエナジーが浄化されていくのをミノトンは感じていた。
「澄み切った……」
ミノトンが浄化されたのを確認し、マジェスティはクルニクルンを静かに閉じるのだった。
★
「……見せてもらったぞ。プリキュア・マジェスティック・ハレーション……我の負けだ。そして……礼を言わせてほしい。キュアクラウド……ヤクモ殿」
「もう、大丈夫そうだね」
彼らが外に出ると、すっかり夕方となっていた。どうやらミノトンが侵入したルートはヨヨがいた部屋は通らなかったようで彼女も無事に外に出ることができたようだ。
「我に武人の心を取り戻してくれたこの恩……いつか返そう」
クラウドに手を差し出すミノトン。その手を握手して受け止めるクラウドを見ながら、クラウドはあることを問いかける。
「ミノトン。なら1つ教えてくれないか?カイゼルっていうのは誰なんだ?」
「む……そのようなことを……わかりました。ヤクモ殿の頼みとあれば」
「……なんかあからさまに態度が変わってて怖いんですけど」
「まぁまぁ」
クラウドに対し明らかに目上の者に対する対応を見せるミノトン。その様子がどうも不気味に見えてしょうがないと小声で愚痴るウィングにバタフライが苦笑する。しかし、この反応を見るにやはりクラウドはアンダーグ帝国の王族なのだろう。そして、その事実を知ったからこそ、クラウドもミノトンをより助けたいと思ったのかもしれないし、特に自分の為に身を張ってくれたことは絶対に忘れてはならない恩義だとミノトンも認識しているのだろう。
「カイゼル様はカイゼリン様の弟君です。過去にアンダーグ帝国を追放され、その後は消息を絶っていましたが……ヤクモ殿が持つアンブレランス。あれはカイゼル様が愛用していた武器なのです。ですので……本人と会っていないので確証があるわけではありませんが……」
何となく察してはいたが、ほぼほぼ答えに近いものだった。皆はクラウドが納得している様子なのを見て敢えて何も言わないでいたようだが、それでも思うところはあるのだろう。マジェスティとヨヨ以外は複雑そうな表情を浮かべていた。
「そうか……これからどうするんだ?帝国に戻るのか?」
「いえ……今の我が帝国に戻ったところで、居場所もない……それに、スキアヘッドの奴めにまたいい様にされるだけでしょう。暫く我が身を鍛え直したいと思います。では……ミノトントン」
そう言い、消えていくミノトン。これでミノトンもアンダーグ帝国に洗脳されるということもないだろうし、ミノトン自身も敵になることはないだろう。それがわかっただけ上出来かとクラウドが成果を噛み締める。
「まだ聞きたいことはいっぱいあるんだけどなぁ」
「きっと、武人には武人のやり方というものがあるんだと思いますよ?」
「ま、本当に必要なときになったら向こうから来るだろうさ」
「あ、確かにそうかも?なんかクラウドに乗り換えた雰囲気あったし!」
そんな風にミノトンの事について4人が話し合う様子を見ながら、マジェスティはほほ笑みながらプリズムに頬を寄せていた。
「ふふ、プリズム大好きよ」
「私もだよ、マジェスティ」
こういうところを見ると、大きくなったと言っても自分たちの知っているエルなのだろう。それがわかって嬉しそうに答えるプリズムの言葉を聞いてマジェスティは一層嬉しそうにマジェスティクルニクルンを抱きしめるのだった。