曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第95話 帰ってきた男

 

「よう」

「あ!?」

 

ミノトンとの戦いを終えたその日。夜になる前に元の世界へと戻ってきた7人だったが、突然虹ヶ丘家に訪問者が現れる。それは、ミクモを伴ったムラクモだった。

 

「ムラクモさん!?ミクモさん!?」

「皆、久しぶり。また皆と会えて凄く嬉しいわ」

「エルもうれしい!」

 

ミクモと再会したエルが嬉しそうに駆け寄る。先日のキュアマジェスティへの変身もあって、ヤクモ達の目には一層2人が姉妹のようにも見えていた。だが、それよりもまずはムラクモを追求する方が先だろう。

 

「どこ行ってたの?」

「諸々が終わって戻ってきたんだ。それに俺がいりゃあヤクモ、お前も家に帰れるだろ」

 

スキアヘッドが現れてからの2日間、1人で孤立するリスクが懸念された影響でヤクモも虹ヶ丘家に泊まり続けることになっていた。休みということもあってかこちらはまだあかりを説得することができていたが、学校が始まってリスクを考慮して学校に行かない、という選択を取ろうとしても説得は難しいだろう。しかしムラクモが帰ってきたとなればある程度話は変わってくる。今のムラクモがヤクモ達が考えている通りの存在ならば、スキアヘッドもプリキュア達を直接攻撃しにくくなるはずだ。尤も、スキアヘッドは以前までのように戦うのではなく代わりにミノトンに襲わせていたあたり、直接襲えない理由がありそうだとムラクモは推測していたが。

 

「……というかそこまでしてくれるならあなたがスキアヘッドをどうにかすればいいんじゃないですか」

「今の俺じゃそこまでのことはできねえな。だが……俺とスキアヘッドが戦えば事態をややこしくすることはできるだろうさ。が、俺にできるのはそこまでだ。これからは必要な所は俺も口を出すつもりだが、これはプリキュアが決着をつけないといけない問題だ」

 

とはいえ、今のムラクモにはブランクもあるようでスキアヘッドと戦っても勝てるほどの力は残ってはいないという。だが、時間稼ぎ程度なら全然できると言ったうえで、この一件はプリキュアであるヤクモ達が解決すべきだと言う。確かに言わんとしてることはわかる。アンダーグエナジーでランボーグを倒したりしても、浄化しなければ根本的な解決にならないからだろう。

 

「父さん。ミノトンが言っていたんだ。カイゼルって父さんの事だよね」

「ああ、あいつそこまで言ってやがったのか」

 

ミノトンの名を聞いて驚きの表情を浮かべるミクモ。しかしヤクモはその表情には気付いていないようで、ムラクモの次の言葉を待つ。ムラクモはヤクモの発言を肯定すると、途端にソラ達がざわつき始める。

 

「そ、それってつまり、ヤクモ君の伯母さんがアンダーグ帝国の……」

「ま、ミノトンの奴も言ったかもしれんが俺はもうとっくにアンダーグ帝国から離れてるからな。今の帝国で何が起こっているかはわからないが……それでお前はどうする気だ?」

「どうするも何もないよ。そうならミノトンを放っておけないって強く思うようになったってだけで、特に何か変わったってわけじゃないから。それと……父さんは遺跡をどうやって浮上させたの?」

「それは……正直な所俺もわからん。時間が来たから目覚めたのか、何か別の要因があるのか。もしくは俺だから反応したのか……」

 

聞きたかったことを次々と聞いていくヤクモ。ムラクモからは完璧な答えこそでなかったが、それでもヤクモが気にしていたことが解消される程度には答えてもらえた。

 

「ミクモ、これからどうするの?」

「ムラクモさんが落ち着くまで家に置いてくれるって。ムラクモさんの奥さんももうわかってくれてるって」

「いつの間に……そういえば」

 

そしてムラクモが戻ってきたということはミクモも生活する場所が必要になる。その点はどうするのかとエルが問いかけると、嵐堂家に厄介になるようだった。ミクモの今後が決まったところで、ヤクモがある疑問を口にする、

 

「ミノトンは何となく武者修行でもやってそうだけど……カバトンはどうしてるんだろう?そもそもソラシド市にいるのかな」

「……そういえば、今何をやってるんでしょう?」

 

ミノトンやミクモの一件もあり、アンダーグ帝国から切り捨てられたかつての刺客たちのその後が気になる様子のヤクモ。しかしこれこそ、ソラたちも知る由もないし、引きずるほど興味がある内容でもないのですぐにヤクモはこの事に触れるのを止めてしまう。

 

(……まぁ、あいつらは……)

 

その様子を見ながら、ムラクモは行き先でも知ってるのか苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少し日数が経過し、ボロアパートの中の一室。キッチンには大量の開けられた空き缶やカップ麺、プラスチック容器の弁当箱が積み上げられており、片づけもまともにできていないところからこの家の住人のずぼらさが確認できていた。壁には虫も這っており、衛生面も良いとは言いにくかった。では部屋も散らかっているのかというと、元々備え付けだったであろう机などを除いて何もなく、こじんまりとしていた。

 

「……俺は忘れない……!お前たちから受けた屈辱……!」

 

その中で座っていた部屋の主はなんと、バッタモンダーだった。部屋の中で歯ぎしりをしながら、バッタモンダーはかつてプリキュア達に受けた屈辱を思い出して恨みと憎しみを募らせていた。ソラに怯え、あと一歩のところでエルを取り逃したスカイランドでの戦い。そして、シャララを取り戻されたプリキュア達を攻撃しようとした時にましろから言われた怒号。それらを思いだしたバッタモンダーは恐怖におびえるように悲鳴を上げてしまう。

 

「ひゃあああああ!!」

「隣でギャーギャーうるさいのねん!!」

「すみませえええん!!」

 

しかしバッタモンダーがいるのはアパートの一室、そこにはお隣さんがいるわけで。バッタモンダーの騒音にぶちぎれた隣が勢いよく壁をぶん殴りながら怒りの声をぶつけ、バッタモンダーは怯えたように謝ることしかできない。

 

「……はぁ」

 

すっかり落ちぶれたものだ。空腹の腹を満たすために安く買ってきたカップ麺を調理し、出来上がるまでの間、バッタモンダーはそんなことを考えることしかできなかった。エルは攫えず、プリキュアを倒すことは終ぞできず、そして最後の作戦も失敗した。遂に手番は自分ではなく次の刺客へと渡ってしまい、今の自分がアンダーグ帝国に戻ったところでただ処刑されるのを待つ身だろう。立場も何もかも失った自分。しかし、そんな自分がここで最低限の生活を送れるのはある人物のおかげだった。

 

「……カイゼル様」

 

自分を救い、この世界の生活をある程度手配してくれた男。それはなんとカイゼルことムラクモだった。ムラクモとこの世界で初めて会った時にヤクモがムラクモの息子だと気付き、不敬だと切り捨てられるのではないかとひやひやしていたが、ムラクモの温情で助けられ、さらにこの世界の生活基盤もある程度支えてくれたことはバッタモンダーも恩義を感じている。そうなってしまえば、以前まで抱いていた自分の作戦を何度も攻略してきたヤクモへの恨みつらみも押し殺さざるを得なくなってしまい、ムラクモの、カイゼルの息子ならこれだけできてもしょうがないという言い訳でいつの間にか彼も納得して受け入れていた。

 

「……時は来た」

 

完成したカップ麺を空腹の腹に勢いよく汁ごと流し込む。そして立ち上がると、

 

「今こそリベンジの時!見てろよ!このバッタモンダー様がお前たちを絶望のどん底に―――!」

「いい加減にしやがれこのクソヒョロ野郎!!こっちは夜勤明けで眠いのねん!!」

 

威勢よく啖呵を口にした……瞬間に隣の部屋の住人から怒りをぶつけられる。バッタモンダーは全く知る由もなかったが、隣の部屋には何とカバトンが住んでいたのだ。

 

「ちっ……終わってることで一々ぐだぐだめそめそ言いやがって」

 

ぺっと吐き捨てるように言うとベッドへと向かう寝間着姿のカバトン。度々こういうことがあったのだろう、壁が薄くて隣に筒抜けなのにアンダーグ帝国の事情まで口にし、こうやって自分の名前まで口にするとなればカバトンだって隣の住人が誰なのか嫌でもわかる。そして自分と同じようにムラクモに拾われたのだろうということも。

 

「……金溜まってきたらもうちょい暮らしやすいところも探すのねん……」

 

こんな疫病神といつまでもいられるか。そう言いたげに呟くと購入してきたのか新品のフカフカした布団の中に潜り込むカバトン。対照的に部屋の隅っこで頭を抱え怯えるようにうずくまってたバッタモンダーは隣の住人が静かになったのを確認してほっと溜息を漏らす。

 

「おのれ……隣に住んでる奴め……誰か知らねえけどそれで俺がビビると思ってるのか……?まあいい、今日はここまでしといてやる……命拾いした……あっ、バイト行かなきゃ……」

 

と、部屋の隅に置かれていたひびの入っている目覚まし時計が目に入る。もう家から出る時間だと気付き、額の宝石を光らせるとバッタモンダーの肌が紫色から生気のある肌色へと変わり、服装もパンクなファッションから地味な恰好へと変化する。そして支度をしたバッタモンダーは慌てて部屋を飛び出すも、すぐにその足取りが重くなってしまう。昼の明るい陽射しとは対照的にどんよりとした気分になっていくバッタモンダー。その理由は、がま口財布の中に入っている心もとなさすぎる所持金だった。

 

「……これでどうやって今月乗り切れば……」

「えー!」

「!?」

 

そんなことをバッタモンダーが考えていると、聞き覚えのある少女の声が聞こえてくる。反射的にその場から飛び退いたバッタモンダーは慌てて身を隠して道路を見ると、ましろ達が歩いている姿があった。

 

「あいつらは……!?」

「今日の絵本、新作なんですね!」

「うん!プリンセスのはなぞの、っていうんだ!」

「プリンセスシリーズですね!私大好きなんです!」

「エルもすき!」

 

ずっと絵本を考えていたましろだが、遂に新作ができたようだった。その表紙にはキュアマジェスティに似た女の子が花園と一緒に描かれており、とても愛らしいものに仕上がっている。その出来に5人も嬉しそうに見入っていた。

 

「もう10冊目でしたっけ?」

「もう2桁かぁ……なんか、あっという間だったね」

「描くのが楽しくて!皆に喜んでもらえるといいけど……」

「もらえますよ!プリンセスだってこんなに喜んでいるんですから!」

「はやくよみたい!」

 

今日はこの新作の絵本を読み聞かせのために図書館へ持って行こうとしている。しかし、ここまで熱量が入るというのなら今はまだ趣味の範疇でもこれを将来の仕事に持っていくのも十分ありなのではないかとあげはが提案する。

 

「ましろん、絵本作家になってみたら?」

「え!?」

「いいですね!ましろさんなら絶対なれますよ!」

「そ、そうかなぁ……絵本作家……なれたらいいな……」

 

ソラからも言われ、絵本作家になった自分の姿を想像して嬉しそうに言うましろ。そして6人がバッタモンダーの視界から消えると、バッタモンダーは歯ぎしりをしながら拳を震わせながら、怨嗟の言葉を口にするのだった。

 

「絵本作家だとぉ……俺をこんな目に遭わせやがって……!絶対に、ぶっ潰してやる……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。図書館での読み聞かせが終わり、ましろ達は自然公園を訪れていた。図書館での読み聞かせは、大まかに見れば成功だったといっていいだろう。ましろの描いた絵本を気に入る子も多かった。とはいえ、一部、特に絵本を読むよりも遊びたいという育ち盛りの男子たちには受けがどうしても悪かったのか、絵本を読み聞かせている途中で退出してしまい、外で遊びだす始末だ。そういう子もいるのだとあげはからフォローこそ入れられたものの、全員に満足してもらえなかった絵本になってしまったことは今後も反省するべき点だろうとましろは受け止めていた。

 

「おはな!あかいの!」

「本当だ!綺麗だね!」

 

ましろの気分転換や次の絵本のためのネタ探しも兼ねて自然公園を歩いていると、エルが脇に植えられていた赤い花を発見する。

 

「エルちゃん!あっちに黄色いお花がありますよ!」

「きいろーい!」

「あっ、待ってくださいプリンセス!」

 

ソラが見つけた黄色い花を探しに走り出すエル。その後ろをツバサが追いかけていき、あげはもくすくすと笑いながらついていく。そしてその場に残ったヤクモとソラにましろが声をかける。

 

「じゃあ私、その辺でスケッチしてきていいかな?」

「もしかして、新作の準備ですか!?頑張ってください!」

「手が必要だったら何時でも言ってね」

「うん、ありがとう」

 

ましろが大きな木に吊り下げられたブランコを指差す。どうやらそこに座ってスケッチを始めるつもりのようだ。そんなましろを見送ると、ソラはヤクモの手を握る。

 

「ではヤクモさん、私達も行きましょう!」

「うん、わかった。一緒に行こうか」

「はい!」

 

2人で手を握りしめて歩き出す。ちらっと振り返ってその光景を見つつ、ましろはブランコに座ってスケッチブックを広げる。そして鉛筆を手に取り、何を描こうかと視線を動かしていると、木に止まっているモンシロチョウを見つける。じっと、ましろは観察していたが急に蝶の方が飛んでしまう。

 

「……はぁ」

 

描こうと思っていたものが遠くに行ってしまったことと、観察だけで描き始めることができずにいた自分に溜息が漏れる。どうにも煮え切らない様子でいたましろだったが、ふと何かが落ちる音が聞こえ視線を上げる。するとそこには、筆が落ちていた。続けて顔を上げると、荷物を持った濃い緑の髪を伸ばした青年が目に入る。

 

「あ……あの!落としましたよ?」

「え?落とした?……あ」

 

状況を察するに筆は彼の持ち物なのだろう。ましろに声をかけられ、青年が慌てた様子で筆を拾う。

 

「僕の大事な筆を……ありがとう。僕は美術の勉強をしている紋田と言う者だ」

「美術の……もしかして美大生ですか?」

「ああ、僕は画家を目指してるんだ。ここにはよく絵を描きに来たのさ」

 

仰々しく両手を広げ自己紹介をする紋田ことバッタモンダー。そしてましろに背を向けるとにやにやとあくどい笑みを浮かべる。

 

(くくく……!絵を描くなら美大生に興味を持つ……思った通りだ)

「どんな絵を描いているんですか?」

「こんな絵だよ」

 

予想していた質問が飛んできたので紋田はそういい、安物のスマートフォンを見せる。そこには綺麗な絵が表示されていた。

 

「うわぁ!すてきな絵ですね!」

(信じてる!それはネットで適当に拾った絵だっつーの!これからお前の絵をケチョンケチョンにけなして、自信をへし折ってやる!)

 

出費が相当出かかったがこの世界に一時的にでも根を下ろし、金を稼ぐためにと用意せざるを得なかったものだが、このような形でハメられるのに使えたなら決して悪くはない買い物だったと内心ましろを馬鹿にしながら笑う紋田。この流れならいける、そう確信しながらあくまで表面上は優しく語り掛ける。

 

「君は、どんな絵を描いてるの?」

「……あ」

 

どうやって馬鹿にしてやろうかと紋田がましろの絵を今か今かと待っていると、ましろは落ち込んだ様子で俯き、何も描かれていない真っ白な画用紙の上に手を下ろす。

 

「私は全然ダメです……」

(ん……?まだ何もしてないのに落ち込んでるぞ?)

 

自信満々に絵を見せてくると考えていたが、弱気なましろの反応に紋田の方が首を傾げてしまう。だが、最初のとっかかりを自分で作る必要がなくなったのだ。これはこれで好都合だと思ったのか、そのことについて深掘りすることにした。

 

「何か、悩みでもあるのかな?」

「実は……」

 

新作の絵本を図書館での読み聞かせで発表したのだが、全員に喜んでもらえるものにはならなかったこと。自分の絵本を聞くよりも楽しいことがあるという子供たちの様子を見て、皆が喜ぶ絵本をどうすれば作れるのか。どんな絵を描けばいいのかと悩んでいることを。

 

「ということがあったんです……」

「成程……」

 

これわざわざへし折る必要もないじゃん!と内心馬鹿笑いし始める紋田。だがこのまま放っておいてもなんやかんやあって立ちあがてしまうだろう。ならば最後の一押しは自分の手でやってやると、どんな言葉を言ってやろうかと楽しそうに考えていく。

 

「君、絵本作家になろうとしているのかい?」

「え?あの……なれたらいいなって……」

 

何故紋田がそれを知っているのか。一瞬考えてしまったが、絵本を自作して読み聞かせているという話をしたばかりだ。画家を目指している彼ならそのように結びつけるのは不思議なことではないと考えたましろはその質問に頷く。

 

「プロの作家になれば悪く言われるのは避けられないんじゃない?それが嫌なら描くのを辞めるしかないよ」

「!!」

 

紋田の実感の籠った真剣な言葉にましろは目を見開く。

 

「僕も描いた絵をつまらないって言われたことあるけど……」

「それで……紋田さんはどうしたんですか!?」

 

紋田も似たような経験があるのだろう。では、その時彼はどうしたのか。それが気になって質問するましろ。食いついてくれた、これでもう一息だと紋田はほくそ笑みながら、ましろにこのまま夢を諦めさせるための言葉を口にしていく。

 

「いや……別に。僕はなんとも思わなかった」

「え?」

「だって僕にはちゃんとあるからね……覚悟が。悪口言われる……覚悟がね」

「覚悟……」

「そう」

 

おそらく無意識なのだろう。まるで自嘲するように言う紋田。だが、ましろにとってその言葉は全く思いついたこともない考え方だった。驚いたように復唱するましろの姿を見て、紋田はなおも裏で笑い続ける。

 

(効いてる効いてる!こいつけなされる覚悟もなく描いてたのかよ!可愛そうに!!どうせ描いてる理由も大したことねえんだろ!こんなやつがどうせ、けなされ見下され悪口言われる中で何が何でも足掻いてる奴の気持なんかわかるわけねえんだよバーカバーカ!絵本作家やめちまえ!)

 

この分なら絵本を辞めさせるのはもうすぐだ。もう一押し、紋田が思わず表に出そうになってるにやけ顔を殺すのに必死になり始めていると。

 

「ましろさーん!」

「ソラちゃん、ヤクモ君」

(!?邪魔をしやが……あ!?)

 

ましろのスケッチの進捗を見にソラとヤクモが来る。2人の顔を見て立ち上がり対応するましろを見て、途中で話の腰を折られてしまったことを面倒そうに毒づく紋田。と、ここでヤクモを見てさっと顔が青ざめる。

 

(こ、こいつ確か……アンダーグエナジーに気付けるんじゃ……ま、まさかばれるのか!?俺の変装が、俺がバッタモンダー様だって……そうなるとまずい。本当にまずい……!)

 

プリキュアに屈辱を感じ、その報いを受けさせたいとは思っていてもしっぺ返しを受けたくないと思っている。今の自分の生活も、捨てられた自分を拾ってくれたムラクモの温情がでかいのだ。ここでヤクモの機嫌だけは絶対に損ねたくない、となれば自分の正体は絶対に悟られてはいけない。他の刺客たちにばれないようにアンダーグエナジーを感知されないようにできるだけの小技は施しているがそれが通じているのかどうか。

 

「2人とも、楽しんでるみたいだね」

「はい!すっごく楽しいです!」

「それで、この人は?」

 

ソラがヤクモの手を握りながら楽しそうにはしゃぐ。その様子を見つつ、ヤクモが紋田に視線を向けると、びくっと紋田が震える。それと同時に、

 

(なんだよこいつ……見せつけてるのか!?つーかこいつらなーんか無駄に仲良いよなとは思ってたけど……くそ……こいつも狙いにくくなっちまったじゃねえかよ畜生……ま、まぁ置いとこう、欲張ってもどうしようもないのはよーくわかってる……まずは堅実にだ)

 

無駄に注意深く見ていたせいか2人の親密な仲にすぐに気付いてしまい、ヤクモの機嫌を損ねないようにすることを考えたらソラにももう復讐はできないと気付いてしまう。そんな紋田の様子や正体には全く気付かない2人にましろが紹介する。

 

「こちら紋田さん」

「「こんにちは」」

「ど、どうも……」

「絵が凄く上手なの!」

「そうなんですか!あ、私ソラ・ハレワタールって言います!こちらは嵐堂ヤクモさん!あの、絵を見せてもらってもいいですか!」

「あ、あぁうん……いいよ。えっと……」

 

ソラに押され気味になりながらもスマホを操作し始める紋田。しかしソラは、スマホの中に絵が入っているとは考えておらず、紋田が持っていた荷物の中から姿を覗かせていたスケッチブックを取り出して覗き込む。

 

「これですか?真っ白ですね……」

「あ!?そのキャンバスは……」

「全然わかりません……」

(当たり前だろ何も描いてないんだから!!美大生っぽさを演じるために新品用意しただけなんだから!早く誤魔化さなくては……)

 

無地のキャンバスを見て首を傾げるソラに思わず呆れてしまう紋田。と、そこにましろの様子を見に来たツバサ達も合流してきてしまう。

 

「そうだ!皆にも見てもらいましょう……あ!エルちゃん!ツバサ君!あげはさん!こっち来てくださーい!」

「どうしたんですかー?」

「何かあったー?」

(ひぇえええええ!?)

 

5人のプリキュアが全員この場に集まってしまった。本当に自分の正体が割れたら命がない状況に追い込まれ、胃がキリキリ痛むのを感じながら紋田はどうやってこの場を生き延びるのか、必死に知恵を振り絞り始めるのだった。

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