放課後のリーグ部。四天王・チャンピオンでの会議も終わり、適当に雑談中。それぞれが持参したものや部内のものを飲み食い。かくいう俺も、しばらくすきっ腹で行動していた反動か口が寂しかったり甘いものが欲しかったりで、通販で買ったキャンディを舐めている。
カキツバタがいやーと前置きし、体を大きく伸ばす。
「まさか2日でチャンピオンに返り咲くとはねい。オイラビックリだぜい」
「なー。っていうか前より強くなってない?」
「アハハ、前は寝なかったり食べなかったりで活動してたから。その反動かはわからないけど、今はとにかく甘いものが欲しい」
このままの生活を続けるわけにもいかないので、さっさと直したいのはやまやまなんだけど。如何せんポケモンのことに詳しくても人間のことには一切詳しくない。こういうのはネリネに聞いた方がいいんだろうか。
「直したいんだけど...ネリネ、なんかいい案ない?」
「スグリの生活習慣が完全に治りきるまでは、そのままでも問題ないとネリネは考えます」
「そっか」
今でこそ気づいたけど、カキツバタ以外のリーグ部の面々は頼りになる。アカマツは食生活、ネリネは健康面、タロは部の運営で。そう考えた時、俺には何ができるんだろうか。バトルは上がいるし、他に詳しいものもない。かといって運動ができるわけでも、成績がいいということもない。俺っていったい何なんだろうか。
カキツバタがチラリと時計を確認し、欠伸した。お前会議でも寝てたのにさらに欠伸すんのか。
「...んじゃ、会議も終わったし、お暇するかねえ」
「ネリネは疑問。カキツバタはずっと寝ていました」
「まあ細かいことはいいじゃない」
やれやれといった仕草の四天王の面子。まあ、俺はカキツバタに救われたので今はどうも言えないけど。本当にヤバくなったらさすがにフォローに回ってくれるだろう。
「それじゃあ、各自解散ということで。私とスグリくんは残りの仕事を終わらせますので。」
パンと軽く手を叩き、皆の注目を集めてからの発言。やっぱりこういうのはタロが手馴れている。仕事は、残り少ないけど今日中に片付けないといけないのが一件と早めに終わらせておきたいのが数件。直近の交換留学の件もあるので、仕事はため込んでいられない。
俺とタロ以外の面々がお疲れ様と言い残し、部を去っていった。室内に残されたのは男女二人。この前のことで少し緊張しているけど、今は頭を切り替えないと。
...
.....
.......
カタカタ、カリカリとパソコンのキーボードを叩いたり、書類を記入した際に発せられる音だけが室内に響き渡る。確認事項以外の会話はなく、それから先のこともない。もしかしたら何かされるかもと思っていたんだけど、俺の思い過ごしか。
「んんー」
こりきった体を少し伸ばし、もう一度書類に目をやる。今日はこれぐらいで十分だろうか。残りはまだまだ時間に余裕もあるし、これ以降もあまり多くはこないはず。シアノ校長が何を考えているかはよくわからないが、とりあえず今日はとっとと帰って夕餉にしよう。
っと何を思ったのか不意にタロが立ち上がった。ルンルンと鼻歌を歌いながら、部室の入口に近づいていく。タロもお帰りか。
この考えが甘かった。荷物など一切持たず帰る馬鹿がどこにいるんだ。
『ガチャリ』と特有のカギがかけられた音を鳴らし、タロがこっちに帰ってきた。察するに部室に鍵をかけたんだ。それは何故か。ここから先の仕事が外部の者に聞かれてはならないためか、或いはそれ以外のなにかやましい理由があるからか。
少しの思考ののち、急激に悪い予感がしてきた。たまらず席を立ち上がろうとする。しかし、その動作はいつの間にか背後に回っていたタロの手が俺の肩に置かれていたことで遮られた。
「俺も、そろそろ」
言葉が上手く出てこない。艶めかしく両手で左右の肩をスリスリと撫でられる。衣擦れ音と謎の荒い息が室内の静寂の中に溶け込んでいた。肩を撫でる手はゆっくりと俺の体を伝い、太ももや腹、胸部といったところをまさぐる。
荒い息がだんだんと近づいてくることで、タロの顔が近いということが察せられた。髪を撫で、匂いをかがれる。
「...いい匂い」
左耳に生暖かい息がかかる。フゥーっといたずらっ子が悪戯する相手に行うようないじらしいもの。
かと思えば、そのまま耳を甘噛みされた。唐突なこともあってか耐えきれず声が漏れてしまう。
「ひゅう」
かわいいとぼそりと呟きながらも左耳を甘噛みしていく。角度を変え、強さを変えと俺を一向に飽きさせないそれはまるで姉ちゃんから依然受けたくすぐりのよう。絡んで放してくれない。
力を振り絞り、なんとかタロを押し戻す。
「タ、タロ、待って!」
「どうしました?これからなのに」
「俺をさ、勇気づけようとかそういう思いでやってくれてるんでしょ!ほら女性と一緒に居れば強くなるとかそういうあれでさ。この前のベッドのこともさ、そういうことでしょ。んだども、俺もう大丈夫だから。俺を変えてくれたのは感謝してるけどさ」
拒絶しようとしているのに、思考回路がうまく回らず変な言い訳みたいになってしまった。俺を勇気づけようとか言うくだりは俺の意志だけど。ぶっちゃけこんなことをする理由が一切見当たらない。可能性は限りなく低いことはわかっているが、当たっていてくれ。
「...むむむ。スグリくん何か勘違いしているね」
「え?」
やはり違っていたか。
「知ってる?野生のポケモンってさ、人間みたいにちょっとお腹が空いたからっていって他のポケモンを襲わないんだよ」
俺の理解できないといった視線を無視し、さらに続けていく。この先の嫌なビジョンしか見えない。今度はあすなろ抱きの形になり、お互いが超近距離まで密着した。すべすべとした感触の肌や心地のいい体温が今は恐怖を感じさせた。
「お腹が空いて、もう我慢できないから襲うの。私も一緒。この気持ちを我慢できないから、襲っちゃいます」
ボソボソと耳元で呟かれる。この気持ちの部分がどういう感情かは知らない。だが次に何をされるかはなんとなくの予想ができた。離れようとしても向こうが俺をガッチリとホールドしているため離れられる気がしない。
俺の焦りや恐怖をあざ笑うかのように、今度は右耳に息を吹きかけられた。ある程度の予測はできていたため、ゾワゾワと変な感触がするが、反応はしない。それをタロは良く思わなかったのか。
「むー」
と可愛らしい声を出した。声自体がとても可愛らしく年相応だと思えるがそれ以外は一切そうは思えない。
しばらく特になにもされない時間が続く。時間にして1分ほどだろうか。もう終わりだろうと完全に油断しきっていたところに、強烈な次弾が発射された。
右耳の中に粘度を身にまとった生暖かいものが入ってきた。それは俺の耳の輪郭や耳たぶを一度舐めたのち、もう一度中に侵入してくる。味わったことない未知の快感。気持ち悪いはずなのに、まったくそれを感じさせない。油断も相乗し、我慢していた声が出てしまう。
「ダ、ダメ。ん、そ、れダメ!んん、あ、タロ」
「
「んふ、離れ、ん」
荒波どころか津波といった表現が正しいほどの快感の奔流。喋られればそれだけの振動が俺の耳に届くため、俺ができることはただ祈るだけである。声を何とか我慢するがそのたびに
「
「ア、それ、喋るの、ダメだ...べ!」
と甘ったるい声で耳を舐めながら話しかけてくる。抵抗も全く虚しく、隣の一つしか学年の変わらない女の子にいいように弄ばれている。ビクビクと体を揺らし、喘ぐことしかできない。こんなことの何が楽しいんだろうか。答えはなく、ただひたすらにこの快楽に身を委ねる。
...
.....
.......
「んふー、これぐらいかな。お顔トロトロだね。すっごくかわいい」
何分か、はたまた何十分か。一切わからないまま、タロに飽きが来たのかようやっと耳が解放された。舐められてそのまま溶け落ちていないか不安になり、力の入らない両手を持ち上げ、所在を確認する。軽く耳に触れると、唾液のぬちゃぬちゃとした感触とカピついた感触の両方が味わえた。何も嬉しくない。
「次は、どうしよっか。何してほしい?」
質問が来るがボーっとして何も返すことができない。頭自体は働いているが、体が怠く動こうとはしないのだ。ピクピクと軽くかつ微細に振動しながら、目を合わせる。
「我慢できないから、先にキスしちゃおう」
タロが俺にまたがるように座った。対面座位の形といった方が分かりやすいだろうか。頭を両手でホールドされ、逃げることはできない。抵抗できないでいると、啄むようなキスで気付けをしてきた。
「ほらほら、早く言わないとー。もっとキスされちゃうよー」
そこで俺はハッと意識を取り戻す。なんとか動かない体を無理やり稼働させ、タロの顔を少しでも遠ざけられるように、手で拒否反応を示した。荒い息をゆっくりと整える。今のままだとろくに話もできない。
「...嫌だった?」
心配そうに首を傾げ伺ってきた。
「い、嫌じゃねえ。...なんでタロはこんなことさするのかなって。俺にはわかんねえべ。俺なんかに、こんな」
俺の目が節穴でなければ、この社長令嬢さんは自分の立場というものをしっかりと理解している人間だ。それこそ裏で男をとっかえひっかえなんて行動は聞いてもいなければ耳にすることもない。彼女の目をみてはっきりと言えるくらいにはタロという人間はクリーンな存在なんだ。それをどうして俺なんかに。
「俺なんかってダメだよ、そんなこと言っちゃ」
「でも本当にわからねえ。俺、得意なことも自慢できるようなことも何にもないし」
と続きを言おうとしたとき、頬を横に引っ張られた。活舌が悪くなり上手くしゃべれない。
「な、なにひゅるべ」
「...聞き分けのない後輩はタロ先輩がお仕置きしちゃいます」
俺の机の上にあるキャンディの包装を解き、口に含む。キャンディ全部食べるっていうならどうぞお好きにと言いたいところだけど、絶対に違うと確証を持って言える。タロの顔がゆっくりと近づいてきた。手でガードしようとしてもその手を抑えられる。八方ふさがりだ。
避けることはできない。
「んぐ」
「チュ。
キスと共に、舌が口内に侵入してくる。それにおまけして、キャンディを一緒に舐めろと言わんばかりに舌で押し付けてきた。タロの舌技は凄まじくキャンディと舌をしゃぶれるように誘導してきた。口の中に唾液とレモンの味が広がる。前とは違った形のキスに脳が麻痺しだす。
口で酸素を取り込むことができいため、息がだんだんと苦しくなってきた。それを察知したのか、口の中の小さくなったキャンディを回収し、頭を撫でてきた。
「苦しくない?」
首を縦に振ることしかできない。溢れる一歩手前の唾液を数回に分けて飲み込む。もはや俺の唾液かタロの唾液か、はたまたキャンディなのかの判別がつかない。
「もう一回行くね」
ああ、またこの感触だ。俺の脳内すらも蹂躙しつくすように口内を舞い踊る。甘く、体すらもとろけてしまいそうな快感が心を焦がす。もはや唾液は溢れ、頬を伝っていった。いつの間にかキャンディは原型すら留めておらず、最後にはそれすら抜きで熱いキスをしていた。俺も無意識のうちにタロの腰に手を置いている。
「ンチュ。...気持ちよかった?」
「うん」
ゆっくりと唇が解放されていく。二人が生み出した透明な架け橋がツーっと下に垂れていく。終わらせた方がいいはずなのに、俺自身も終わってほしくないと願ってしまっていた。
「...私の部屋で続き、する?」
頭の中に選択肢は一つしかない。
...
.....
.......
また朝帰りしてしまった