スグリ「タロと事故チューした」   作:すぺしうむ

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第4話

テラパゴスの一件とキタカミの里の餅事件を終え、平和一色である今日この頃。

パルデアで優秀な生徒たちが特別講師に来てくれたりで部のレベルも着実に上がってきている。っていうかネモさんのせいというかお陰というか...。悪い人じゃないんだけど如何せんバトルが好きすぎる。

部室の椅子にどっかりと座り、体を休める。

 

「どっこいしょ」

 

「お疲れ様」

 

ハツラツとした声と共に、横からサイコソーダが差し出された。纏められた長い髪に緑のメッシュが輝いている。件のパルデアチャンピオンであるネモさんだ。座ったまま、差し出されたものを受け取り、喉に流し込んだ。疲れた時は甘い炭酸が身に染みる。

 

「すごいね、スグリ君。ダブルだと負けるようになったし」

 

「ネモさんの指導のお陰だべ」

 

あと散々バトルに付き合わされたこと。ここ最近は毎日この人とバトルしてるような気がする。戦術の幅とか技の選択肢が増えるのはいいことなんだけど。如何せん生物には疲れというものがあってだな。まあ、それを疲れなんてものとは無縁そうなこの人に言っても仕方ない。

ただ世話になったのもまた事実。ハルトのご縁とはいえ、できることならお返しはしたい。

 

「ここまで世話になったんだし、なんかお返ししたい」

 

「お返しなんていいよ、バトルが好きなだけだし」

 

ネモさんが少し思案した後、ハッと思いついたように告げる。

 

「あ、なら、ポケモン交換しようよ。親愛の証ってことも含めてさ」

 

「わかった。じゃあ...」

 

ポケモン交換。ハルトともやったことがないけど。こういうのって何を渡せばいいんだろう。ヤンヤンマは虫ポケモンが苦手な女子は多いと聞くしなし。ならノズパスかコノハナだろうか。ただ2体とも進化先がシングルでは伸び悩んでいる。なら無難に強さを発揮できて進化のハードルも高くないカジッチュか。

 

「カジッチュさ出す」

 

途端、部内にどよめきが起こった。交換相手のネモさんも「え?」と頬を赤らめている。もしかしてパルデアの人にカジッチュを渡すのは作法的に良くないものだったのか。りんごでかわいいポケモンなのに。タロも絶賛していたし。

 

「ダメだった?」

 

すると後ろから同じくパルデアからの特別講師であるボタンさんがスマホロトム片手に走ってきた。普段ろくに運動していないのか、息も絶え絶えである。

突如、ボタンさんに肩を万力のような力で掴まれる。このまま折れてしまいそうで怖い。黄色い声を上げていないで誰か助けてほしい。

 

「カジッチュ渡すことの意味...知ってんの?」

 

「なんかあんの?」

 

ボタンさんに眉間に皺を寄せながら説明された。曰く、ガラルからの風習で好きな相手にカジッチュを渡すと両想いになるとのこと。スマホロトムを持っていないし、部屋に帰ってもテレビはろくに見ていない。そのせいかそういう俗説には疎い。

 

「へー、そんな話あるんだ」

 

「...全然興味なさげだし」

 

「それってガラルの風習でしょ?ここはイッシュだし、こいつはキタカミで捕まえてきたし。第一俺はネモさんのことそういう目で見てねえ」

 

「まあ、ネモいしそれもそうか」

 

「二人とも酷くない!?」

 

がびーんと効果音が付きそうなほどショックを受けるネモさん。周囲も解散解散と言って散らばっていった。バトルのことと部の切り盛りのことばっかり考えてたから、これからはそういう方向にもアンテナ伸ばしていかないとな。

ちなみにこの後の交換ではそのままカジッチュを出した。気に入ってくれていたようでとても嬉しい。

 

 

 

 

...

.....

.......

 

 

 

 

 

あれから数時間後。タロの部屋に呼び出された。不純異性交遊なのに段々慣れてきている自分が怖い。軽くノックして部屋に入ると、ブルーの着ぐるみを着たタロが出迎えてくれた。しかし歓迎といった表情ではなく、若干ご機嫌斜めといった具合。

ベッドで体育座りするブルーの着ぐるみと、椅子に座らされた最近は長袖長ズボンしか着ていない俺。頬を膨らませ、こちらを人差し指でツンツンと突いてくる。さっぱり意味が分からない。

 

「なあ、タロ」

 

「プイー」

 

顔を反対側に向け、ご機嫌斜めということをアピールしてきた。口でプイーと効果音を出す人間を初めて見たかもしれない。何か不機嫌になるようなことがあったらしい。慰めろということだろうか。

 

「えと、ハグとか?」

 

「ツーン」

 

今度はツーン。確実に拗ねているが理由は不明。聞いても答えてくれない。昨日は特に機嫌が悪いなんてことはなかった。今日したことでタロが拗ねるようなこととは。

 

「ネモさんとバトルした」

 

「プイー」

 

「違った。えっと、ご飯一緒に食べなかった」

 

「ツーン」

 

それも違うか。っていうかプイーとツーンの2パターンしかないんだな。ただこのままだと埒が明かない。なにか、今日俺が行った行動で昨日とは違うもの。そういえばとさっきの出来事を思い出す。

 

「ネモさんとカジッチュさ交換した」

 

「...正解」

 

ハリーセンのように膨らんだ頬を器用に動かし、告げられる。ここまでくれば流石の俺でも予想はできる。ボタンさんから聞いたガラルの俗説絡みだろうな。思っていたよりも多くの人に浸透している説なんだな。俺の世間一般の常識の疎さは改めたほうがいいかもしれない

 

「でも、俺ネモさんのことはなんとも思って無いよ。っていうかここはイッシュだし、相手もパルデアの人だし、交換したカジッチュもキタカミで捕まえたやつだよ」

 

「乙女はそういった話を気にするの!全くもう!スグリくんの誑し!」

 

「た、誑してねえ!」

 

酷い言われようだ。俺のキタカミの里からの相棒であり、進化先も多く育てやすいで有名なポケモンなのに。こんなことになるなら、ネモさんにドン引かれようと無理やりにでもヤンヤンマを渡しておけばよかった。ベッドの上で拗ね続ける愉快な先輩。なんとか機嫌を直してもらえないだろうか。

 

「なんかできることあったらやるから、機嫌直してよ」

 

すると、この言葉を聞いた瞬間、待ってましたと言わんばかりにニヤリとほくそ笑んだ。タロの表情の変化を見るに、俺はまんまと罠にかけられたのだろうか。ここ最近上手いように扱われている気がする。笑えて来るが笑えない状況だな。

 

「ほほー、ならあれをやってもらいましょうか」

 

「そっか。俺、帰るな」

 

「ダメでーす」

 

逃げようとした瞬間、小型ポケモンのように抱きかかえられてしまった。タロという女性にはこの先一生かかっても勝てないような気がしてきた。バトルは俺の方が強いのに。もしかしたら俺はもうだめかもしれない。

 

 

 

 

...

.....

.......

 

 

 

 

ブルーベリー学園には学生それぞれに私室があるのは言うまでもない。設備としてはキッチンや家具、そして空調など、学生にとって快適な環境が整えられている。もちろんそれはバスルームも例外ではない。

 

「やっぱりお風呂は気持ちいいね」

 

「あ、うん」

 

タロの私室の浴槽。それに二人でどっかりと浸かっている。お互い面と向かうのは俺が耐えきれないので、俺が前、タロが後ろ。後ろから抱き着かれないかドキドキしている。俺の視界には浴室の壁しか映らないが逆言えば無防備な背中をさらけ出しているということになる。不意に背中に細くて軽いもの、おそらく指と思われるものが背中で縦一文字をきる。

 

「うひゃっ」

 

「かわいい反応。次は何をしよっかなあ」

 

「...勘弁してくんろ」

 

またもや唐突に背中に柔らかいものがむぎゅむぎゅと当たる。タオル越しにも感触が分かるそれは、いかに鈍感で異性に関しての知識がない俺であったとしても何か理解できた。俺の胸側まで手が回されていることからバックハグの体勢になっている。ただでさえ風呂で頭に血が上っているのにこんなことされたら、俺は倒れてしまうのではなかろうか。

タロが俺の肩に濡れた頭をのせてきた。汗とは違った不快感のない水滴が俺の肩を伝っていく。

 

「裸は見合ってるんだから、そろそろ慣れてもいいのに」

 

「な、慣れれねえ。っていうか引っ付きすぎ」

 

「かわいい成分の補給でーす。文句は他所のチャンピオンにカジッチュ渡した人に言ってくださーい!」

 

まだそのことを根に持つのか。お互いの肌という肌が触れ合い、かすかな水音を浴室に響かせる。当たっている性的な部分は少ないはずなのに、心臓の拍動が止まらない。普段とは違うシャンプーとボディソープの匂いに頭がクラクラしてきた。とりあえず一旦別の会話をして肉体のことを考えない様にしよう。

 

「...タロはさ、なんで俺のことそんなに気に入ってくれてるの?」

 

「なんででしょう。かわいいからかなー。むふふ」

 

更に引っ付かれてしまった。なんでこと如く逆効果の目を引いてしまうんだ。っとタロの手が俺の前髪をクリクリといじくり、少しだけ離れた。何か思うところがあったのだろうか。

 

「ねえ、スグリくん。私のお父さんってどんな人か知ってる?」

 

ヤーコンさんという大企業の社長ということしか知らない。ホドモエという大きな町を仕切っているだとか、世界をまたにかけているだとか。

 

「わやでっけえ会社の社長ってことは知ってる」

 

「一応それは副業でね。本業は違うんだー。本業はジムリーダーなの」

 

「へー、すっげえ人。いつか会ってみてえ」

 

特に考えもなしに声が出た。大企業の社長が副業でジムリーダーが本業って。なんだかとんでもない人だな。そんな人の娘に手を出したというか出されたというか。俺の実家が心配になって来たな。次に帰省したら里がリゾートとかになっていたらどうしよう。

 

「今のスグリくんの反応が少数でね。多くの人は...私に下心があるから名前出したら逃げてっちゃうの」

 

なんだか声のトーンが低くなってきた。心なしか元気がない。俺を変えてくれた恩人が悲しんでいるのに、なんにもしないというわけにもいかないな。

振り向き、タロと目を合わせる。俺は誰かを助けるとか大それたことはできないけど、せめて身近な人に俺の言葉が助けになれれば...

 

「俺はさ、たとえどんな立場だったとしても、タロが好きだべ。...人間として!」

 

言ってて、これ愛の告白みたいだなとギリギリで修正した。この言葉がせめてもの勇気づけになればいいな。

なんてことを考えていたら、今度はタロの顔が俺の方に近づいてきた。慣れた手つきで頭をホールドし逃げ場をなくされた。

口を啄むような所謂バードキスではなく初っ端からお互いを求めあうようなディープキス。俺は別に求めてなかったのに。

 

舌が口内を暴れまわり、俺の舌と絡む。意識していない分反動でさっきよりも頭がクラクラする。もう少しで倒れてしまいそうだ。

...いつもより早く、唇が解かれる。目が合うがそこにはタロはいない。

いたのはグラエナよりも凶暴な生物。メスの形をしているが、獰猛さは折り紙付き。逃げようとしても絶対に逃げられないことを悟る。野生の草食ポケモンはこういう気持ちなんだろうな。

 

「誘ったのが悪いんだよ」

 

それだけ聞くと、俺の意識はシャットダウンした。

 

 

 

 

...

.....

.......

 

 

 

 

 

翌朝、今度は俺の部屋で起き上がる。頭痛がひどいが、昨日のことは夢だったんだろうか。

 

「夢だな。多分交換した後はかえって寝たんだろ」

 

枕元に可愛らしいピンクの付箋のメモ書きが置いてある。

 

『襲ったら逆上せちゃったので部屋まで運びました。テヘ♡』

 

「...なんで夢じゃないの?」

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