嫌な揺れ方をするバスを降り、辺りを見渡す。緑一色と言っていいほどの自然あふれる街スイリョクタウン。
タウンというよりは村と言っていいほど何もない場所。休日を使ってイッシュからはるばるとやって来た男女二人。ほんの少ししか経っていないが変わったところと言えば何一つない。キタカミの里、俺の故郷だ。
本来はライモンに行くはずだったのだが、ヤーコンさんの仕事の都合が合わずあえなく断念。ということで祭りももう少しで終わりそうなので、じーちゃんと相談しキタカミの里に来ることとなった。俺は何度か帰ってきているので慣れているが、タロは大丈夫だろうか。
「長旅お疲れさん。体調はどう?」
「ちょっと体が痛いけど、平気だよ」
ウソは言ってなさそうだ。わかったと頷き、鞄を背負いなおす。トボトボと二人で田舎の舗装はされているが足回りの悪い道を行く。餅事件以来連絡は取っていないが、二人とも元気にしているだろうか。
道中をタロと雑談をしながら進んでいく。話に夢中になっていたのか、あっという間についた。
玄関の戸を数回叩き、ガラガラと戸をスライドさせる。
「じーちゃん、ばーちゃん来たよー」
たまたま近くにいたのか、向こうの部屋から祖父母が現れる。元気に歩いているように見えるので、あの事件からの後遺症の心配はしなくてよさそう。二人が朗らかな声を出し、俺たちを出迎える。
「いらっしゃい」
「長旅で疲れたろう。早く上がって」
「ありがとうございます。それと初めましてタロと申します。スグリ君と現在は仲良くさせていただいていて...。あと、これ。つまらないものですが」
そう言ってタロが紙袋を差し出す。中身はハートスイーツ。礼儀正しく、眉目秀麗の人が来たものだから二人とも呆気にとられている。俺自身もこの人とキタカミに来るなんて思ってもみなかった。今でも少し実感がない。
「これはこれはどうも。礼儀正しい子だ」
「ささ、ゆっくりしていって」
姉ちゃんもいないし、今回はゆっくりできそうだ。
...
.....
.......
あれから数時間後、現在は軒先でタロとのんびり何をするでもなくぼんやりとしている。いつもは激動の毎日なのでたまにはこういう大人しい何もない日があったっていい。それに、嘘というほどでもないがやはり先輩さんは疲れているようにも見えた。無理に何かをして部活や学業に響かせても意味はない。
聞こえてくる祭囃子。これを聞くとハルトといった時のことを思い出す。っと祖父母が荷物を持って玄関から出ていこうとしている。どこかに出かけるとは聞いてなかったけど。
「二人ともどこか行くの?」
「ああ、ちょっとな。まあ若い二人でゆっくりしなさい。明日の朝には帰ってくるから」
「リビングにタロちゃんの分のじんべえ出してあるからね。あと鍵預けておくわ」
古びたカギを受け取るとそそくさと出て行ってしまった。晩御飯は...お祭りで買ってきたものでいいか。軒先でボケーっとしているタロに声をかける。うつらうつらしている部分もあったのか、一瞬ビクリと体が跳ねたのが見ていて可愛らしかった。もう少し見ておけばよかったかも。
「ん、どうかした?」
「お祭り、いく?眠たかったら、ゆっくりしてても大丈夫だけど」
首を横に振り否定の意を表してきた。トロンとした目がメリハリのある目へと変化し、顔を振ると同時にいつもつけている髪飾りが揺れた。
「ううん、行くよ。せっかく二人で来たんだから」
「わかった。じんべえ着てく?」
「じんべえって、何それ...着てみたーい」
二人で俺はハルトとの時にも来ていたやつ、タロには薄い桜色と言えばいいんだろうか、その色のじんべえに着替えた。いつもとは違う服装がなんだか新鮮だ。イッシュにはこいった服はなかなかないのでそれも合わさってのもの故かもしれない。
紐を結んだりで複雑ではないがコツのいる着付けを終え、鏡に目をやる。
「似合ってるべ」
「わー、すっごくかわいい。着付け手伝ってくれてありがとうね」
「んだば、お祭り行こっか」
...
.....
.......
変わらない祭囃子の中を二人で歩く。変わったことと言えば俺と歩いてくれている人が今度は友達よりも上の関係の人であるということ。はぐれない様に手を繋ぎ、石畳の上を進んでいく。
桜色のじんべえを着て、いつもより綺麗な彼女が男たちの眼を惹いた。細くて可憐な足に桃色の美しい髪。モデルや女優と言っても通じるかもしれない。そんな子が急に屋台の一角を指さす。
「あ、あれ食べたい。りんご飴。私食べたことないんだー」
「イッシュには中々ないからね。すみません、りんご飴一つお願いします」
小銭を渡し、握りこぶし大はあるであろうそれを受け取った。赤く美しく実ったりんごに透明に固められた砂糖が輝いている。受け取ったそれを彼女に渡すと、子供のように喜んでくれた。いつもの引っ張ってくれる大人のような姿とは違い、こういう側面を見られたのはなんだか嬉しい。
「スグリくんは食べないの?」
「俺はいいよ」
今はりんご飴のことよりも目の前の女性の方が気になる。これを食べた時どんな反応をしてくれるんだろうか。学園とは違った繊細な味に驚いて欲しいな。タロが、邪魔に髪をかき上げ飴にかぶりついた。パリパリという固い音が鳴ったかと思えば、シャクシャクという歯ごたえのある音が木霊する。
「甘くておいしい。はまっちゃいそうかも」
垂れる果汁を指先で拭い、ちょっとずつ食べ進めていく。ここから少ししか見えないが、プルンとした唇に果汁と溶けた飴があわさりとても妖艶だ。意識していないと視線が吸い込まれる。艶やかで人を狂わせるそれをボーっと見つめていると、タロがこっちの視線に気が付いた。軽く笑い、食べかけの飴を差し出してくる。
「食べる?」
「あ、うん。ありがとう」
「...ここ、食べてよ」
小さく指さされたのはさっきタロがかじった部分。やろうとしていることはただの回し食いなのに、背徳的な行為に思えた。鼓動が少しずつ早くなり、口に溜まった生唾をごくりと飲み込む。恐る恐る齧ると、りんごの甘酸っぱさと残った飴のほんのり効く甘さがマッチしておいしい。齧ったものを咀嚼していると、耳打ちしてきた。俺は耳が弱点なのか少し背中をゾクゾクと震わせてしまう。
「甘いでしょ。...私のこことどっちが甘い?」
「へぇ、ちょ、それは」
視界の端で人差し指で唇を擦っていた。二人で行う情熱的な求めあいが脳裏をよぎる。分泌される唾液が変な妄想を加速させる。姉ちゃんに前に見られたあれはどんな風に見られていたのだろう。甘酸っぱい青春かただ甘い砂糖の暴力か。唾液がだんだんと枯渇していき、顔が熱くなるのを感じる。
「甘くておいしい方は...どっち?」
見ないようにしているはずなのにチラチラと見てしまう。リップクリームを塗っているせいかプルプルと揺れるそれが鼓動を高鳴らせる。今はもうりんご飴やお祭りなんかよりもそっちの方が欲しくなってきた。
「あ、えと、唇のほう...だべ」
「よく言えました。正直な子には、あとでその甘いの沢山あげちゃうね」
具体的な名称はだしていないはずなのに、舌と舌の絡ませ合いが強烈に想起させる。甘くドロドロと溶かし合うそれは、暴力的な快楽と共にお互いの存在確認をさせてくれるものとして優秀。繋ぎ合った手に熱を帯び、目も合わせられない。上気する体と心、飴細工ならとっくに形も保てていないだろう。
...
.....
.......
お祭りを終え、帰宅した二人。手持無沙汰となってしまったが、こういう時のために用意しておいたものがある。お祭りのあとにやったが大抵姉に潰されていたアレ。思えば家族関係じゃない人とうやるのはこれが初めてだろう。ハルトともやったことないし。バッグの中から線香花火を取り出し、一本を渡す。
「やってみる?」
「花火だー、やりたい!でも、せっかくなら長さを競いたいよね。...長く続いた方が相手の言うこと1つだけ聞くとかどう?」
「へへーん、負ける気しねえ。先行俺で」
庭に置いてあったバケツの中に水を入れ、マッチを擦り火をつける。夜の帳が落ちた今なら、その小さな灯による不安定な光さえ頼もしく思える。
手に持った線香花火へと点火させるとパチパチと音をたて、火花と明かりを散らした。昔祖父が言っていたのだが、線香花火が長く続いた人は長生きができるらしい。もしこれが彼女の何倍も長く続いたなら、俺は...。
と考えていた時、耳をかぷっと甘噛みされた。もはや甘噛みになれすぎて、瞬時に判断できるようになった。ハムハムと声を出しながら、唾液が多く分泌されている口内で耳を咀嚼される。思わず落としてしまいそうになるが、耐える。
「ひゅッ、タロ...!」
「...落としちゃえ」
耳元で呟いたかと終えば、今度は耳を舐められた。緩急をつけながら耳の輪郭や中を少しずつ溶かすように舐められる。声と快感を我慢しようとするが、祭りのこともあって興奮していたせいかいつもよりも気持ちいい。このまま身を委ねてしまいそうだ。そんなことを考えていたら手から花火を落としてしまった。地面にたたきつけられた花火は小さな灯を消し去る。耳から口が離されたのち、状況を理解した。
「もー、タロ!今の反則だべ。ずるっこ!」
「邪魔しちゃダメって言ってないからね。スグリくんもやっていいよ」
随分となめられたものだ。耳だけに。なら俺が今度は貴様をひーひー言わせてやる。心の中でそう意気込みマッチで火をつける。それがタロの線香花火へと点火され、火花を散らした。視線が奪われているのか、目が小さな明かりへとくぎ付けになっている。なら、今がチャンス。
顔をゆくりと近づけ、耳を舐めようとしたとき、首の後ろを掴まれ顔を別の場所へと向かわされた。そこにあるのはタロの綺麗な顔。お互いの唇を合わせ合うことに。
「んむう」
「かあいい」
キスをしながら呟かれる。首の後ろに回された手は引き離されないようにといつもより力が強い。家の中の明かりによって背中から照らされ、表情が分かる。りんごよりも甘く赤く、飴よりも濃厚で透明度の高い味わい。いつのまにか勝負など関係なく、キスをしていた。舌を絡めることはなくとも、脳を焦がすような快感に打ち震わされる。不意に下へと目線を向けてみると、いつの間にか線香花火の灯は消えていた。いつ消えたのかはわからない。その目線に気が付いたのか口と手が離される。
「私の勝ちだね」
「それ本当?」
「疑うなら証拠出してよ。キスしてたからわかんないと思うけどー」
なんだか納得いかないが俺の負けだ。一体何をされるんだろうか。
...
.....
.......
二人で縁側でボーっと星空を眺める。タロの膝の上に置かれた、繋がれた二人の手。祭囃子はきこえるものの、近くを誰も通らないせいか今は二人だけの空間に思える。ふと肩に体重がかかって来た。目を向けずともそれが誰のものかはわかる。
「なんか嫌なことあった?」
「無いよ。ただ甘えたくなっただけ」
「...話したくなったら話してくんろ」
この人は意外といじっぱりな部分がある。頑固というか折れないというか。時としてそれは武器になるが諸刃の剣である。足かせになる場合もある。だから今は黙って寄り添われて、話を聞く準備を整えよう。
...だが、何もしないというもの良くないな。
繋いだ手をほどき、タロを抱きしめる。
「ぎゅー。どう、元気さ出た?...ニヘヘ」
抱きしめ返されるが、なんだか雰囲気が怖い。少しハグしたら解こうと思っていたのだが、背中に回された手がそれを許してくれない。俺の胸元辺りにある顔から荒い息が漏れる。
「タロ、なんかあッ!」
調子を聞こうとしたとき、押し倒された。上にはタロの顔とその先には綺麗な星空。背景と相まって今の彼女の瞳が小さな銀河系みたいだ。だが、小さな銀河系はすぐに終わりを迎えた。
目の前に顔しか見えない。唇に生暖かくも気持ちのいい感触。キスをされたのか。両手が抑えられ、身動きが取れない。
耳元で囁かれる。
「甘いの、まだあげてなかったね」
「ちょ...んぶ」
また唇を奪われた。今度は中に舌を入れるディープな方。お互いの荒い息遣いと唾液が交じり合う。押し寄せるすべてが砂糖でできた甘い濁流。熱と熱が触れ合い、絡み合う。最初こそ驚いていたが、俺自身も舌を絡めだしていた。押し倒され、無理やりされているはずなのに気持ちがいい。
「もっと欲しい?」
「うん」
またキスが再開されようとしたとき、近くでドサっと何かが倒れる音と誰かの声がした。組みふされた状態がゆっくりと解放され、玄関先へと視線を向ける。ボールを持ち、恐る恐る音のした方を確認すると。
「ペパーくんに、ネモさんとボタンさん。何やってんだ?」
しりもちをついているネモさんに肩を貸そうとしてるペパーくんと、顔を真っ赤にしているボタンさん。これ多分見られたな。
「スグリ、ゴメン!邪魔する気とかなくて、そのあのあれだ!あれなんだよ、本当にごめん!」
「ちょ、ネモはよ立て!」
「ゴメン二人とも。...足に力が入らないよー」
「...皆さんどうしてここに?」
全く状況がわからないのでタロが質問した。そもそも何故いるんだ。ハルトこそいないがこの3人はパルデアの人。招待の手紙も出していないのでただただ遊びに来ただけだろうか。
「あー、ハルトが『珍しいポケモンの氣が!』って言ってキタカミに行こうとしてな。心配なんでついて来たんだが、気が付いたらどこかに行ってて。ここなら来てるかもって見に来たんだけど、いや、ほんとにスマン!ほらネモ、肩かすから」
「はじめて、見ちゃった...!」
顔を真っ赤にしながらボソボソと呟く。妖艶な空気が一気に離散した。3人がわーわー言いながら闇夜に消えていく。
「「ええ...」」
困惑の声しか出ない。
R18版削除について
SSに対して作者本人が非常に大きな違和感を覚え、今後の創作に対してモチベーション低下をもたらすと考えました。
アンケートを撮った手前大変申し訳ないのですが、削除させていただきます。(pixivの方は残します)
申し訳ありません。