チート転生トレーナーがマーチャンに振り回される話   作:朝起きるのが嫌い病

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第2話

種目別競技大会当日。

 

集まったウマ娘達がゲートに向い並ぶ。

 

その中には一際目立つアストンマーチャンに、期待のウマ娘ウオッカ。緊張はしていなさそうだ。むしろ自信満々。

 

周りを見遣ると、スカウトに必死なトレーナー、腕組みをしているベテラントレーナー達が、観戦席に集まって来ていた。

 

ウオッカ目当てが多い印象だが、柊と数人のトレーナーは少女を見ていた。それぞれが構えて。

 

『スタートしました!』

 

『先頭から殿までおよそ十バ身、先頭は二番メジロスパイラ』

 

今回は先行で走るようだ。マーちゃんは三番にいた。

 

『コーナー通過、よどみのない展開です。後ろの子達はいつ仕掛けるか!』

 

最終コーナーでウオッカが仕掛けた。

 

『おっと! ここで四番ウオッカが仕掛ける!』

 

残り200メートル、直線に入るところで、いつの間にか3番手にまで浮上していたウオッカが一気に加速する。

 

そのウオッカを瞬時に追い越した人影に会場がざわついた。

 

『同時にアストンマーチャン!彼女が仕掛けていた!』

 

マーチャンは3番手から最終直線へ向くと一気に加速、先頭に躍り出てピッチ走法に切り替える。

 

足を残していたアストンマーチャンに突き放されウオッカが落ちていく。

 

『ゴール!!一着は、アストンマーチャン!後続との差は実に5バ身!凄まじい力だ!』

 

5バ身差のレコード勝ち。しかも落鉄してこのパフォーマンスを発揮したのである。約束した通りの鮮烈で強烈な勝ち方だった。自信家で変わり者で、しかし目が離せない。

 

走り終わったアストンマーチャンは真っ先に男の元へと駆け寄って来た。

 

「どうでしょうか?」

 

自信と期待に彩られた瞳。男は忘れさせたくないとまでは思っていない。頭は冷静で、ロジカルで、合理的だ。男は、一人の少女に入れ込む気はなかった。

 

だが、いつかそう思えると感じた。故に、この言葉は嘘ではない。

 

「………そうだな。お前を忘れさせたくないと思ったよ。だから、一緒に歩んでくれないか?」

 

口から出てきたのはそんな言葉だった。後半は意識しないで出た。

 

「……わたしを『忘れさせたくない』って思った。へーほー。ふむ。ふむふむ。テストです!あなたの目にマーちゃんはしっかり映ってますか?本当に、しっかり私が映って(・・・・・)いますか?」

 

髪の隙間から黄緑色の瞳が、試すようにこちらを見ている。無論、物理的な意味ではないのだろう。できるだけ広く、深く消えない痕跡を残すことが、マーチャンの望みなのだ。

 

「ああ、しっかり映っている。俺は自分の担当を忘れない。永遠に」

 

「永遠に忘れない………ふふ、いいですねぇ、それ。決めました。あなたの瞳をわたし専属のレンズにさせてもらいます。いいですか、いいですね? いいということで。それでは……改めまして自己紹介をしましょう」

 

少女は一歩下がり、後ろ手を組んだまま少女はわずかに上体を傾けて笑った。上目遣いをするあたりあざといなと思う。

 

「こんにちは、アストンマーチャンです。……よろしくね」

 

「………柊だ。よろしく。アストンマーチャン」

 

 

 

「アストンマーチャン………か」

 

担当になってから数ヶ月。柊はアストンマーチャンの理解にリソースを割いた。呪いの言葉を決別の際に吐き出されたくなかったのだ。

 

そして、見えてくる少女の歪さを柊は呪いたくなった。少女は、強烈な死生観を養ってあまりにも達観しすぎたがゆえに、「他人に頼る」という感覚が希薄になってしまい、自力でなんとかしようと自然に行動してしまいがちだ。「いずれ死にゆくものなのだから、自分が頼れるわけがない」と感じさせるような冷たいリアリズムは、唐突な奇行ではなく当然の帰結となって彼女の中にある。

 

一度転生者として死を経験した身から言わせれば、それはひどい勘違いだ。

 

人に頼って寄りかかるということは、その人の心に残ることだ。

 

しかし、少女にそれが届くことはないだろう。柊は、少女たちの心を気にすることなく歩んだ結果、悲劇が起きた。

 

だからこそ、柊はアストンマーチャンのことを常に気にしていた。どういった思考で、どういった考えで、どういった人生を歩んできたのか?アストンマーチャンとは何なのか?

 

どうすれば少女に寄り添えるのか。

 

考えて、考えて、やはり少女の心を開くには、強烈なインパクトが必要だという結論に至った。

 

少し話が変わるが、彼はこの数ヶ月かなりのタイトスケジュールで動いて見せた。アストンマーチャン以外にも担当のウマ娘が1人おり、彼女のトレーニングを組み監督を行う。

 

アストンマーチャンに対しても同様に、綿密なトレーニングを組み、練習に付き合いその後、彼女に対しての向き合い方を考え、通常の業務も行う。

 

お分かりいただけただろうか。柊はかなり寝不足だった。

 

そして深夜テンションとは恐ろしいものである。

 

インパクトのある物と言われ、彼は目覚まし時計を思い浮かべた。そして学園の放送室に直行。とある細工をして、眠りについた。

 

翌日の朝。それは起動する。

 

『ピンポンパンポーン!おはようございます。朝です。起きてください。マーチャンです』

 

柊は理事長室に呼び出された。

 

 

 

 

6月。柊はあの事故以降理事長やたづなと気まずい関係だった。しかし、マーチャン目覚まし事件以来他のトレーナーからもやばい奴扱いされ始めた。

 

「納得いかないんですけど」

 

「…フフ、君があのような奇行に走るとは………」

 

口元に手を当てて苦笑しているトレーナーに目を向ける。

 

「偵察ですか?奈瀬先輩………」

 

「そんなところだよ。僕も新しい担当を持ったし」

 

視界の先にクールな佇まいと中性的な美貌で女性にもてる女がいた。若くしてスーパークリークを育てたトレーナーだ。

 

「結果はわかりきってますよ。今回のレース。勝つのはマーチャンだ」

 

柊は、アストンマーチャンの適性を見て、マイルを中心に鍛えることに決めた。適性だけで見るなら、短距離で行くべきなのだろうがトリプルティアラしかり、マイルの方が、注目度が高いのだ。もちろんバクシンオーのような躍進を遂げれば短距離でも問題ないが、早いうちにマイルの適性を上げることに決めた。スピードとパワーと適性を中心に鍛えるメニューを組み、メイクデビューに備えていた。

 

「大した自信だ」

 

「確信ですよ」

 

奈瀬は柊の優秀さを知っている。レースの勝敗に関して、彼は70%以上の確率で勝者を言い当てる。

 

「では拝見しようか、君の愛バを」

 

そう言ってその場から離れた奈瀬を視界に入れながら、回顧する。

 

スピード 460

スタミナ 200

パワー 300

根性 180

賢さ 270

 

デビュー時点でこの数字はやりすぎたなと柊は後悔していた。面白いほど強くなるため入れ込みすぎた。この数ヶ月、無理のない範囲ギリギリでマーチャンを鍛えた。

 

結果は必然だった。

 

ズルズルと距離を離される周囲と、するりとその中を当然の権利のように抜け出す少女。最後まで軽やかな足取りでゴールした。

 

『決まった!一着でゴールしたのは9番アストンマーチャン!メイクデビューを制したのは、アストンマーチャンだあッ』

 

「マーチャンの大勝利です。記憶に残るレースになりましたか?」

 

悪戯っぽい瞳で柊を覗きながら、距離を詰める。ふわりと広がる絹のような茶髪が世界を撫でて甘い色を滲ませる。

 

「ああ、今回のレースを見て覚悟ができた」

 

柊は、一つの問いを投げかける。

 

「………記録には残るが記憶には残らないウマ娘は多い。では、逆に記憶に残るウマ娘の条件とは何だと思う?」

 

「目立っているウマ娘ですか?」

 

「間違いじゃない、それを細分化すると俺は二つ条件があると思う。一つは夢を見せられること。二つ目は純粋に強いことだ。例えば無敗、とかな」

 

「無敗………」

 

少女は、柊の瞳を覗きながら透明な声音で復唱した。柊は過去の記憶を思い出しながら、拳を握りしめる。彼は無責任な理想が嫌いだ。しかし、少女のスペックと柊の力が合わされば実現可能だと理性が囁く。

 

「お前の才能を俺が研磨する。取りに行くぞ――――無敗のG1を」

 

 

 

 

 

 

 





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