行くわよ、ひとりちゃん!   作:御魁燎亮

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ぼっちと喜多ちゃんが川に遊びに行く話


喜多「川遊びに行くわよ、ひとりちゃん!」

 夏、それは陽キャが活発になる季節。

 そろそろ夏休みだよね~、海とか行きたいよね! 等とクラスメイト達が楽し気に遊びの計画を立てているのを尻目に、異常気象で今日からまた梅雨になったりしないかなと、ひとりは虚ろな目で窓の外を眺めていた。

 ひとりが現実逃避に勤しんでいると青い空でいっぱいだった視界が突然可愛い笑顔でいっぱいになる。

「川遊びに行くわよ、ひとりちゃん!」

 わざわざ声をかけるまでひとりの視界に入らないように隠れて来たようだ。何この可愛い生き物?

 郁代の可愛らしい悪戯にまたしても1人の世界に入りそうになったが何とか持ち直す。確か郁代は「川遊びに行く」と言ったような。

「あっいいですね!」

 ザリガニとか取るのかな? と考えた結果の快諾である。勿論一般的な女子高生、喜多郁代のプランにそんなものはない。

「お昼はBBQセットがレンタルできるらしいから、午前中から行きましょう!」

 BBQという単語に渋い顔をするひとり。前に結束バンドで行った際には碌にBBQポイントを貯められなかったことを思い出す。

「あと、水着だけどちゃんと可愛い水着を持ってきてね?」

「あっはい」

 返事はしたものの理由がわからず、ザリガニ取りになんで水着がいるんだろう? とひとりは不思議そうな顔。

 しかし珍しくアウトドアな遊びの約束を取り付けられたことに浮かれる郁代は首を傾げるひとりには気付かなかった。

 

 

***

 

 

 2人の川遊びに対する認識はすれ違ったまま迎えた川遊び当日。到着後、やや興奮ぎみのひとりが先に口を開いた。

「あっじゃあ早速ザリガニを釣りましょう!」

「ざ、ザリガニ??」

 川遊びに来て真っ先にすることがザリガニ釣り? と、困惑気味の郁代を置いてけぼりにしたままひとりは続ける。

「さっ割きイカは持ってきたので、まずは良い感じの木の棒を探しに行きましょう!」

 鼻息荒く言うひとりにやや引きながらも、レアな積極的後藤ひとりを見て絆されたのか結局乗ってあげることに。

「ひとりちゃん、私ザリガニ釣りは始めてだから色々教えてくれる?」

「あっそうなんですね。わかりました、任せてください!」

 頼られて承認欲求が満たされたのかひとりがだらしのない顔になる。だが説明を始めようとした時、先程までの緩み切った顔はどこへやら瞬く間に真面目な顔に。ギターを教えてくれる時の表情だ。

 郁代はギター練習の際、いつもこの始める時の一瞬しかない切り替えを見逃さないようにしている。普段とのギャップを感じられる貴重な機会だからだ。

 そんな機会がギターと関係ない今日も見られた喜びと、ザリガニ釣りの説明なんかでそんなカッコいい顔しないで! といった気持ちが混ざり合った複雑な表情で郁代は説明を聞き始める。

「まっまずは釣竿を作ります」

「へぇ~手作りなのね」

「あっはい、ザリガニは小さくて軽いので簡単な竿で釣れるんです。わっ割りばしとか木の棒に紐をつけるだけで竿になります」

「そんなに簡単にできちゃうのね」

「あっ割りばしでもいいんですが、個人的には木の棒で作った方がカッコいいので今回は木の棒で作ろうと思います!」

「わかったわ、頑張って良い竿を作りましょう!」

 餌と糸はひとりが持参している為、釣竿作りの最後の材料である木の棒を探しに2人は川から離れ、木が茂る方へと向かった。

「きっ木の棒は長すぎると取り回しが難しく、短すぎると近い場所にしか糸を垂らせないので程々の長さのものを探します」

 身振り手振りで求めている木の長さを歩きながら伝える。

「ふむふむ。あっこれとかどうかしら?」

 説明を聞いた郁代は早速目についた木の棒を拾う。ビニール傘と同じくらいの長さで程よく持ちやすい太さ。少年なら誰もが手にするであろうそれは、正しく『良い感じの棒』だった。

「こっこれは! 太さといい長さといいまさに絶妙っ! すっごく良い感じの棒です!!」

「本当? やったわー!」

 目を輝かせたひとりに大絶賛され、郁代は跳ねて喜ぶ。だが食い入るようにキラキラとした眼差しで棒を見ていたひとりがハッとした。

 何かに気が付いたひとりはまるで言いにくいことをどう伝えようか悩んでいるかのように、幾許か声を出さずに口をもにょもにょと動かした後、申し訳なさそうに話し出す。

「あっあのでもすみません。その、とっても良い棒なんですが、ザリガニ釣りには少し長すぎるかも……」

 郁代の拾った木の棒は下校中の小学生が振り回すには最適の長さ。しかしひとりの言う通りザリガニ釣り用には長すぎる。本来は割り箸で代用できるのだから、もっと短くていいのである。

「あらそうなのね。ちょっと残念だけどこの棒は元の場所に戻してくるわ」

 先程までの喜びようの割に、郁代はあまり残念ではなさそうにあっけからんとしている。ひとりが無邪気に褒めてくれたのが嬉しかっただけで木の棒自体には特に何の思い入れもない。

 郁代が木の棒を置いてこようとするとひとりが慌てて声を掛けた。

「あっでもでも、すっごく良い棒なのでそれはちょっと勿体無いような……」

 遠慮がちに郁代の行動を止めるべく言葉を選ぶ。その様子から『後藤の生態に詳しい喜多博士』こと郁代にある考えが浮かんだ。

「もしかしてひとりちゃん、これ欲しいの?」

 ぎくっ!! っと分かりやすく顔だけでなく体全体で表現するひとりに、郁代は相変わらずわかりやすいな、と小さく笑う。

 バレてしまったからには仕方ないか、と目を逸らし両手の人差し指をつんつんと合わせながらひとりは白状する。

「あっ欲しいけどそれは喜多ちゃんの棒なので……」

「遠慮しなくていいわよ?」

 ぶっちゃけひとりに合わせてザリガニ釣りをやろうとしているだけなので釣竿に使えないなら木の棒なんて要らないのである。捨てるのもあげるのも同じだ。

「いっいえ、私も自分の棒を見つけるので大丈夫です! 見つけたら一緒に遊びましょうね」

 ところが郁代の内心など知る由もないひとりには良い感じの木の棒を譲ってくれようとしているように見えたらしい。断られてしまった。

 捨てることもあげることも叶わなかったが、ひとりは『自分の木の棒を見つけたら一緒に遊ぼう』と言っていた。

 つまりこの木の棒は後でザリガニ釣り以外の用途で使うようだ。木の棒でどうやって遊ぶのだろう? と、郁代は頭に疑問符を浮かべながら再び釣り竿探しを始める。

 

 

***

 

 

 郁代の良い感じの木の棒を見つけてからおよそ1時間。漸く2人分の釣竿とひとりの良い感じの木の棒が見つかった。

 最後に見つけたひとりの分の良い感じの木の棒は釣竿と同程度の長さ……大体脇差程だろうか。同じ位の長さだという事を利用してひとりはキリっと引き締まった表情でポーズを決める。

「つっ釣竿と同じ長さなのでちょっと短いですがこれはこれで……二刀流!!」

「似合ってるわ~!」

 面食いSNS中毒者である郁代がシャッターチャンスを逃すはずもなく、ひとりが写真に驚き表情を崩す前に連写する。しかし──

「あっへへ、うへへ……!」

(いつも写真撮ったら嫌がるのに今日はポーズを決めたまま撮らせてくれるわ! ……ダサいけど)

 少年心を擽る良い感じの木の棒を手に入れてご機嫌なひとりはむしろ嬉々として写真を撮らせてくれた。……表情は別の意味で崩れてしまったが。

 お互いに満足するまで写真撮影を行ってからひとりが楽し気に口を開く。

「あっこれでお互い武器も揃ったことですし、ザリガニ釣りの後でチャンバラしましょうね!」

「いいわよ」

 木の棒でどうやって遊ぶのかと思っていたがチャンバラだったようだ。ザリガニ釣りにチャンバラ、女子高生の川遊びには似つかわしくない遊びばかりだが超インドア派のひとりが進んで提案してくれたことが嬉しくて郁代は快諾する。

 子供のように拾った木の棒を振りながら歩くひとりを横で見ながらザリガニを釣りに川へ戻った。

 一度荷物のある場所にチャンバラ用の木の棒を置いてからひとりのザリガニ釣り講座が始まる。

「まっまずはザリガニがいそうなポイントを探します。夜行性なので昼間は草が茂っているところや岩陰に隠れているので、そういうところで水深が浅そうな場所を見つけましょう」

「あはは、ひとりちゃんと気が合いそうね!」

「あっそうですね、どちらかと言えば私も夜行性なので……へへっ」

「夜更かしは美容に悪いから、程々にね?」

「あっはい、気を付けます」

 ひとりが言ったザリガニが潜んでいそうな場所を探して辺りを見渡してみると、それっぽい場所を見つけた。

「ねぇねぇひとりちゃん、こことかどうかしら?」

「あっいいですね、ここで釣ってみましょうか」

 郁代が指を指す場所を確認したひとりがOKを出す。そしてポケットから紐と割きイカを取り出した。

「紐で割きイカと木の棒を結んで釣竿を完成させて、紐を垂らしてこのまま待ってれば……あっか、かかりました!」

 実演して見せるとすぐにザリガニがかかった。あまりの早さに郁代は驚き感嘆の声を上げる。

「ひとりちゃん凄いわ!」

「あっえへへ、こっこのまま釣り上げて網ですくえば──あっ!」

 ひとりは得意気に用意していた網で掬おうとするのだがザリガニは逃げてしまう。

「餌だけ取られた……」

「そっそんな時もあるわよ、どんまい!」

 一転して落ち込み、表情が暗くなるひとりに慌てて励ましの声を掛ける。だが郁代の励ましを受けてもひとりは沈んだまま、

「あっ偉そうに解説してたくせに失敗してすみません……。へへっ、私なんかじゃお手本にはなれなかったですが良ければ次は喜多ちゃんやってみますか? 今のザリガニ、多分まだいると思うので……」

「よーし、ひとりちゃんの代わりに釣ってみせるわ!」

 自虐をしながらザリガニ釣りを勧めてくるひとりだが、慣れ切っている郁代は気にせず勧め通りザリガニ釣りに挑戦する。

 二回目も一回目と同じ位の早さでザリガニは釣れる。だが一回目とは違い水から上がった瞬間、ザリガニは郁代に向かって襲い掛かってきた。

「きゃっ!?」

「あっ!?」

 想定外の事に驚きながらも天性の反射神経と運動神経から郁代は咄嗟に横に飛び退けザリガニを避ける。郁代が立っていた場所をザリガニは通過し、そのまま地面に落ちて行った。

 少し遅れて身を挺して郁代を庇おうとしたのか、回避する前の郁代が立っていた場所から少し前にひとりは両手を広げて立つ。

「…………」

「…………」

 郁代の横で耳を真っ赤にしたひとりが固まっている。な、なんて声を掛ければいいんだろう……。

 二人の間に沈黙が流れ、川のせせらぎだけが響く。

 考えた末にひとりの行動には触れないでおくことにした郁代はザリガニ釣りの話題を再開した。

「びっくりしたわ~、ザリガニって凶暴なのね」

「いっいえ! 前の方から掴むと挟んできたりしますが、こんなに飛び掛かってくるザリガニは初めて見ました」

 固まっていたひとりだが郁代に話しかけられ、まだ紅潮は治まりきってはいないものの会話に戻る。

 固まっていたひとりが無事に会話に戻ってきた事に安堵した郁代は、先程釣り上げ地面に落ちて行ったザリガニを確認する。

「さっきのザリガニ、着地に失敗したのか石の上でひっくり返っちゃってるわね」

「あっ強そうなので捕まえましょう! きっきっとボスザリガニですよ、カッコいい…!」

 石の上で仰向けになり藻掻いているザリガニをしゃがみこんだひとりはキラキラと憧憬の眼差しで見つめている。

 郁代もひとりに倣いしゃがみこむ。平均より少し大きめに見える上に釣り上げられた途端に襲い掛かってくるようなザリガニだ。ひとりの言う通りボス個体かもしれない。ザリガニに群れる習性があるのかは知らないが。

「ボスか~イソスタにあげたらバズるかしら?」

「そっそうですね、これだけの大物ですから」

「じゃあ捕まえたところを写真に撮ろうっと。えっと前から掴むと危ないんだっけ?」

「あっはい、なので後ろから二本指で掴むのが安全です。万が一手を挟まれてしまった場合はすぐに水に戻すと放してくれます」

「わかったわ!」

 ひとりのレクチャー通りにザリガニを掴み、自撮りを始める。角度や立ち位置を微調整しながら試行錯誤する。ついでにひとりにバレないように2ショットも並行して撮る。(正確にはザリガニも入れて3ショットだが)

 郁代の自撮りが長いのはいつもの事。慣れ切ってしまったひとりは写真を取られていることには気が付かないまま、ぼんやりと郁代とザリガニを眺めて待っていた。

 5分程で満足のいく写真が撮れたのか、郁代がひとりが持ってきた籠にザリガニをしまう。

「お待たせ!」

「あっじゃあ次は私の番ですね。喜多ちゃんのザリガニに負けないくらい強そうでカッコいいやつを釣って見せます!」

 

 

***

 

 

 今度はザリガニが襲い掛かってくることもなく、子供の時以来とはいえ経験のあるひとりは手慣れた様子でザリガニを釣った。にやにやとした笑みを浮かべながら掴んだザリガニに話しかける。

「ふへっ、久しぶりのザリガニ……カッコいい名前を付けてあげるね」

 ザリガニに話しかけるひとりにやや引いていた郁代だが、ふと思い返す。

(そういえばさっき『喜多ちゃんのザリガニ』って言ってたけど、もしかしてボスザリガニって私が飼うの??)

 てっきりザリガニは全てひとりのものだと思いこんでいた郁代に冷や汗が浮かぶ。

 郁代が逡巡していることなど知らないひとりはザリガニを籠にしまい終わったのか、振り向いて今度はザリガニではなく郁代に話しかける。

「きっ喜多ちゃんはボスザリガニの名前って決めましたか?」

 やっぱり私が飼うみたいだ。郁代はなんとかザリガニの飼育から逃れようと思考を巡らせる。

 

 譲る→木の棒の時のように断られそう。

 逃がす→ひとりが泣きそう。

 正直に要らないという→ひとりが泣きそう。

 

 駄目だ、詰んでいる。

 諦めた郁代はザリガニを家族に加える覚悟を決めた。なお、この間僅か0.8秒である。

「まだなの。折角だからひとりちゃんが名付けてくれない?」

 元々飼う気は無かったので名付けのことなど考えていなかった。かと言って適当な名前を付けるのも可哀想で躊躇われる。

 ならばいっその事、ザリガニ好きのひとりにつけて貰おう。ひとりが名付けてくれたザリガニならば可愛がれるかもしれないし。

 そう考えた上でのお願いだった。言われたひとりは少し悩んでから、良い名前が思いついたのか自信満々で口を開く。

「あっじゃあ喜多ちゃんのボスザリガニの名前は『ダークソニックドラゴン』です!!」

 小学生男子が考える名前!!!!

 郁代は思わず放たれそうになった叫びを必死で飲みこむ。

 これなら適当でも自分で名付けた方がまだマシだったかもしれない。しかし自分から頼んだことだし却下するわけにもいかず、ひきつった笑みを浮かべた。

「いっ良い名前ね!」

「ふへへ!あっ因みに私のザリガニの名前は『ストームファントムデビル』です!」

「とっとっても強そうね」

「えっえへへ、我ながら結構カッコ良い名前が思いつきました」

 とんでもない名前を付けられてしまった2匹のザリガニを憐むも、嬉しそうに照れ笑いをするひとりに改名を迫るなんてできない。郁代は心の中でザリガニに謝罪した。

 

 

***

 

 

 お互いにザリガニも捕獲できたので、釣竿作りの際に約束したチャンバラをするべく2人は川から少し離れ、足場が安定した開けたところに移動した。

「チャンバラって相手を引っぱたけばいいのかしら?」

「あっそうです。相手の身体のどこかに剣を当てたら勝ちです!」

「おっけー、やるからには負けないわよ!」

 郁代はビニール傘サイズの木の棒を上段に構える。チャンバラの経験も剣の知識もないが、なんとなく剣を持ったポーズっといったらこうだろうか? 位の感覚だ。

 一方ひとりは郁代よりもリーチの短い脇差サイズの木の棒が2本。両腕を交差させて構える。

 互いに構えて向かい合った所で勝負が始まった。

「行くわよひとりちゃん!」

 まずは開幕ダッシュ! 近づかないと始まらない、取り合えず距離を縮める郁代。ひとりが棒の間合いに収まるまで近づくと、飛び上がりながら上段に構えた棒を大きく振り下ろす。

 大胆な行動に驚くも、ひとりは最初の構えのまま両腕を上げ郁代の攻撃を受ける。だが、棒が脆かったのか将又郁代の攻撃が重かったのか、ひとりの棒が2本とも折れる。遮るものが無くなった郁代の棒は物理法則に従いひとりの脳天に直撃した。

「へぶっ!?」

「きゃー!? ひとりちゃん大丈夫!?」

 何回か打ち合った後にお尻か脇腹にでも軽く打ち込もうと思っていたのに思いっきり頭を叩いてしまった。慌てて棒を手放し、カエルのようにうつ伏せに倒れたひとりの容態を見るために屈む。

「いてて……あっ大丈夫です。私の負けですね」

「良かったわ……って、え? 今のはノーカンじゃないの?」

 頭を摩りながらすぐに起き上がったひとりに安堵したのも束の間、まさかの敗北宣言である。木の棒が折れてしまう不幸な事故による敗北は無効では?

「あっ武器選びも勝負の内ですから。喜多ちゃんの勝ちですよ、おめでとうございます!」

「な、何か釈然としないけどありがとう……」

「とっとりあえず今日はもうお昼の時間ですし、ご飯食べませんか?」

「もうそんな時間なのね」

 お昼はBBQを予約しているので店の人に迷惑をかけるわけにもいかない。不完全燃焼だがチャンバラは終わりにし、BBQ広場へと向かった。

 

 

***

 

 

「さぁ待ちに待ったBBQよ~!」

 前に結束バンドで行った際は何をすればいいかわからず、炭をつつくだけしか出来なかった。だが前回の反省を生かし今日は予習をしてきたので後は実践するだけ。今回は頑張るぞ! とひとりは気合を入れる。

「道具はレンタルできたからまずは火を起こしましょう」

「あっはい!」

 慣れた様子で手際よく火を起こす準備を始める郁代に必死でついていく。

 郁代が炭をコンロに並べたらひとりは着火剤をセットし、火を付けられたら団扇を使い火を大きくする。

 前回とは見違えるようにスムーズに動くひとり。

(よし、順調にBBQポイントを稼げてる! これなら焦げた野菜以外も食べられそうだ)

「ひとりちゃんすっごく手際良いわね、頼りになるわ!」

「あっうへへっ」

 郁代に褒められついにやけてしまう。BBQ、悪くないな……!

「よーし、じゃあそろそろ焼いていくわよ~!」

 郁代が持参したクーラーボックスから食材を取り出す。まずは肉。そしてたまねぎやかぼちゃ、とうもろこし等の定番野菜。最後に何故かカステラ。

 前にも『変わり種面白い』と言っていたがやはり今回も持ってきたようだ。

「ひとりちゃんは何持ってきたの?」

「あっこれです」

 ひとりも自分のクーラーボックスから食材を取り出していく。まず最初に冷凍のたこ焼き。そしてきゅうり。それからきゅうり。さらにきゅうり。

「ね、ねぇなんでこんなにきゅうり持ってきたの?」

 次々に取り出されるきゅうりに郁代は困惑する。

 ひとりとしては郁代の『変わり種面白い』発言を真に受けて考えた結果だったのだが、どうやら滑ったみたいだ。

 大量の冷や汗を搔き目をばっしゃんばっしゃん泳がせながらひとりは言い訳をする。

「あっえっとその、きっきゅうり好きなんです! すっ好きなお寿司もかっぱ巻きですし!!」

「そう言えば前に言ってたわね。でもきゅうりはそのまま食べない?」

「あっはい」

 次からはせめて焼いて食べるものを持ってこよう。ひとりは心に誓った。

 

 

***

 

 

 結局10本近くあるきゅうりは流石に食べきれず、1本ずつかじって残りはひとりが持って帰ることになった。

 余ったきゅうりを含め片付け終わり、暫し食休み。

「は~お腹いっぱい……」

「でっですね」

 水辺特有のひんやりとした風が、夏の日差しで火照った肌を冷まし心地が良い。引きこもりがちのひとりには稀有な体験。郁代が誘ってくれなかったら知ることも無かっただろう。

 今の時期しか味わえない空間を全身で堪能していると、郁代がハッと何かに気が付いた。

「そういえば折角川遊びに来たのに、まだ川に入ってなかったわね」

 まるで川に入ることが目的かのように言う郁代に、川遊びってザリガニ釣りがメインじゃないの!? と、ひとりは衝撃の事実に愕然とする。

「じゃああっちに更衣室あるから着替えましょうか!」

 2人がいるBBQ広場から目視できる距離に個室の簡易更衣室が並んでいた。それぞれ更衣室に入り着替える。郁代は前回同様服の下に水着を着てきていたのでものの数分で着替えが終わった為、更衣室の近くでひとりを待つ。

「ひとりちゃんのことだし前の水着とと一緒かしら?」

 どうせなら新しい可愛い水着が見たいけれど、ひとりのセンスで選ぶとへんてこな水着になるだろう。それなら前の水着の方が断然良い。

 次に水着で遊ぶ予定を立てるときは一緒に水着を買いに行こう。なんなら私が選ぼう。郁代は固く決意した。

「あっお待たせしました」

 着替え終わったひとりが更衣室から出てきたようだ。声の方を向くとそこには野暮ったいスクール水着のひとりが立っていた。

「可愛い水着って言ったじゃない!!」

「みっ水着これしかなくて……」

 思いっきり目を逸らし明らかな嘘をつくひとりに詰め寄る。

「リョウ先輩の別荘に行った時のがあるでしょ!」

「あっあれは今日暑いからお母さんが着ちゃってたんです!」

 頑なに目を合わせないひとりはそれでもさらに嘘を重ねる。郁代はため息を一つついてから、

「ひとりちゃん、これからは私が指定した水着以外着るの禁止ね」

「そっそんな……!」

 独裁者のように無茶苦茶なルールを制定した。項垂れるひとりを気にせず郁代は切り替える。

「それじゃあスク水とはいえひとりちゃんも着替え終わったし、泳ぐわよ!」

 項垂れたままのひとりに浮き輪をはめ、手を取り川へと歩き出した。

 

 

***

 

 

「あんまり深くなさそうだし、流れも緩やかだからここで遊びましょう!」

 軽く準備運動を済ませてから2人は川に入る。この間の海とは違い足の下は砂ではなく石で、なんだか新鮮だ。足元の感触を楽しみながら郁代の後ろを歩いていたら、急にくるりと向きを変えた郁代が振り向きざまに水をかけてきた。

「えいっ!」

「わぷっ」

 突然の事だった為、思いっきり口に入ってしまった。だがやはり海とは違い淡水である為、塩辛くないので咽ることはなかった。

 郁代の意図がわからずきょとんとしていると、

「ほらほら、ひとりちゃんも!」

 郁代が追撃を仕掛けてきた。

 これはもしかして水のかけ合いっこというやつだろうか? 漸く合点がいったひとりは遠慮がちに水をかけてみる。

「えっえいっ」

「きゃ~!」

 とても楽しそうだ。水飛沫が日光を反射し眩い光が拡散され、まるで郁代の笑顔を引き立てるかのように周りに舞い散る。

 思わず心が奪われる一瞬の光景を目の当たりにしたひとりは、もう一度見たいと思い先程よりも多く水飛沫が上がるように水をかける。

「あははっ! やったわね!」

 郁代も負けじと水をかけ返してき、ひとりももっと見たいとさらに水をかける。

 初めてTVで水のかけ合いっこを見た時は一体何が楽しいのかと思ったが……成程、これは楽しい。何よりも、綺麗だ。

 夢中になって水をかけ合っていると、段々テンションが上がってきた郁代が興奮してひとりに向かって飛び込んで来た。

 派手に水飛沫を上げながらひとり毎川に倒れる。起き上がってから顔を見合わせた2人は笑いあった。

「ふふっ、ちょっとはしゃぎすぎちゃったわ。一旦休憩する?」

「あっお願いします」

 体力が少ないひとりと遊ぶ時はこまめな休憩が必須。飲み物を取りに行くべく荷物を置いてある所へ向かう。

 すると、2人の荷物が置いてあるところに誰かがいた。

「えっ誰かしら?」

「あっあれ? 荷物を漁ってる??」

 まさか泥棒? 警戒しながら少しずつ近づくと──

 

 

***

 

 

 ──河童がひとりの持ってきたきゅうりを貪っていた。

「かっ河童!?!?」

「えっ本物かしら!?!?」

 驚いてつい出してしまった声に反応した河童がきゅうりを両手に持ったままこちらを向く。

「本当にきゅうり食べるんだ……」

「お、襲ってきたりしないわよね……?」

 河童はゆらりと立ち上がると水かきのついた手の平を上に向けてぼそりと言葉を放った。

「シリコダマヨコセ」

「「しゃ、喋った!?!?」」

 異形の生物が人語を操ることに2人は仰天するが、直ぐに言葉の意味を理解し慌てる。

「しっ尻子玉って確か取られると死んじゃうんですよね?」

「ら、らしいわね。逃げた方が良くないかしら?」

「かっ河童ってどのくらい足速いんでしょうか? 私の足で逃げ切れますかね……」

 身の危険を感じ不安を抱えつつも逃走の準備に入る。それを察したのか河童は手を差し出したまま一歩踏み出し、

「スモウデマケタラ、シリコダマヨコセ」

 その言葉を受けて郁代は考える。河童の足の速さはわからないが、とても足が遅いひとりはこのまま逃げても捕まってしまうかもしれない。

 更に携帯や財布を含めた荷物が河童の背後にある以上、逃げ切れたとしてもすぐには帰れない。ならば──

「……相撲で私達が勝ったら尻子玉は諦めるの?」

「えっ喜多ちゃん?」

「ソウダ」

「なら私が相手になるわ。……ひとりちゃんの尻子玉は私が守る!」

「どっどういうことですか喜多ちゃん!?」

「安心して、絶対に勝って見せるから!」

 展開についていけず置いてけぼりのひとりに構わず河童と郁代の相撲対決が始まった。

 妖怪と相撲なんてして大丈夫なのだろうか? しかも負けたら尻子玉を取られてしまうのに。ひとりは不安気に河童と取り組む郁代を見つめる。

 だがひとりの心配は杞憂に終わった。なんと郁代は勝ったのだ。しかも寄り切りや押し出しなどではなく掬い投げで。

「すっ凄い、河童を投げちゃった……! きっ喜多ちゃんカッコいいです!」

 まさかの勝利方法に先程までの不安はどこへやら、ひとりは手を叩きながら黄色い歓声を上げる。

「はぁはぁ……よしっ私の勝ちよ! ひとりちゃんの尻子玉は諦めることね!」

 額の汗を拭いながら郁代は河童に言い放つ。しかし郁代に投げられ倒れていた河童は起き上がるとひとりを指をさした。

「ツギ、オマエノバン」

「えっ!?」

「そんな!? 無理よ、ひとりちゃんはか弱い生き物なのよ……幼児相手ですら怪しいのに妖怪相手に相撲で勝つなんてできっこないわ!」

 郁代の擁護がひとりに刺さる。

「う"っ"、でもその通りです……」

「スモウシナイナラ、シリコダマヨコセ」

「もう勝負するしかないのか……」

「ね、ねぇひとりちゃんの代わりに私がもう一度相撲取るから、それでもいい?」

「ダメダ」

「あっありがとうございます喜多ちゃん。でも喜多ちゃんに甘えてばかりいられません……覚悟を決めます!」

 ひとりと河童の相撲対決が始まる。

 

 

***

 

 

「ぐわーやっぱり駄目だった!!」

「お、思ってたより健闘してたわよ!」

 開始早々吹き飛ばされたひとりに郁代が声を掛ける。そして河童は転がるひとりに近づき、

「シリコダマモラウゾ」

「あ"っ"」

「きゃー!?」

 尻子玉を奪っていった。ひとりは声を漏らした後痙攣し、動かなくなる。

「そ、そんな……ひとりちゃんが死んじゃった……」

 ありえない光景に郁代が茫然としている内に河童は川へと帰っていく。

 すると倒れていたひとりがむくりと起き上がった。

「──はっ! そういえば私、尻子玉3個あるんでした」

 ひとりのさりげない人外発言にさっきまでの悲しみやら生き返ってくれた嬉しさやらは吹き飛んでいく。

「生き返ってくれて嬉しいんだけれどそれはちょっと怖いわ……」

「あっ心配かけてすみません……。そっそういえば河童はいなくなったんですか?」

 不思議生命体後藤ひとりに言われて郁代は辺りを見渡す。

「本当だわ、見当たらないわね」

「あっ良かったです」

 ほっと息をつく。すると郁代が目を伏せて申し訳なさそうに、

「……ひとりちゃんごめんね」

「え?」

「私が安易に相撲に応じたりせずに逃げてればひとりちゃんの尻子玉は取られなかったのかもしれないのに……本当にごめんなさ「あっ謝らないでください!」

 ひとりの急な大声に郁代は思わず顔を上げる。するとまっすぐに見つめてくるひとりと目が合った。

「わっ私の為に戦ってくれようとしたんですよね!きっ喜多ちゃんが謝る必要なんてないです!」

「ひとりちゃん……!」

「あっそれに私は尻子玉3個ありますし、仮に全部取られてもその内再生して生き返るので……」

「ひとりちゃん……」

 今日一番の衝撃情報にドン引く。

「だっだからその、えっと……ちっちょっとアクシデントもありましたが、今日はすっごく楽しかったです!」

 郁代の両手を握りひとりは熱弁する。

「だからそんな申し訳なさそうな顔しないでください」

 そして優しく微笑んだ。郁代もつられて笑顔になる。

「……うん、ありがとう! でもひとりちゃん、『楽しかった』って過去形にするには早いわよ? まだ時間はあるし、『楽しい』を続けましょう!」

「あっはい!!」

 郁代に元気と笑顔が戻り、嬉しくなったひとりは次の遊びを提案する。

「あっじゃあ今度はカエルを捕まえませんか?」

「それはちょっと……」




https://bbs.animanch.com/board/2335998/
あにまん掲示板で建てたダイススレ↑を改稿したものです。
元は台本形式でしたが、三人称視点の小説にしました。
元スレだと川デートなのに一瞬川に入っただけで河童バトルが開幕してしまったので、水遊び描写を追加。
あにまん民のコメントやダイスが結構面白いので良かったら元スレも見てね~
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