右に青空、左に砂漠。

この景色が、彼女の瞳にはどう映っていたのだろうか。

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ブルーアーカイブ3周年おめでとうございます

『対策委員会編』3章実装ということで、したためていた幻覚を形にしました。実装前だから捏造も幻覚も許されるでしょ(震え声)


拝啓、想い出の貴方へ

 優し気な陽光に包まれた教室で、彼女は眠っていた。

 

 ゆっくりと浮き沈みする背中。安らぎに満ちた寝息。机に全体重を預けて無防備な姿を晒しているが、彼女の午睡(幸福)を妨げるものはなかった。

 微かな息遣いがひっそりと聞こえ、誰かがやってくることも彼女が身動きすることもない。穏やかな時間の中で窓から射し込む光だけが教室内を歩いていた。

 

 しかし、その幸せを壊さんとする音が廊下から微かに響く。硬さを含んだ音が人気(ひとけ)のない廊下に規則的に反響する。一瞬音が止んだかと思うのも束の間、すぐに足音は再び鳴り出し、そして再度瞬きの間止む。この繰り返しが幾たびも続き、次第に音は大きくなっていった。

 けれど、教室にいる彼女が起きる様子はなく、数分前と寸分違わぬ格好のまま机に突っ伏していた。

 

 近づいてきた足音がついにこの教室の前で止まり、先ほどまでは1秒にも満たなかった無音がたっぷり3秒過ぎた。

 

 そして

 

「……ここに居たんですね」

 

 乱雑に開け放たれたドアが格子の反対の縦枠にあたり、破裂音に似た大きな鈍い音と衝撃が教室全体を揺らした。

 ドアの向こう、廊下に立っていた少女は彼女と似た制服を纏っていたが、それでは不十分とばかりに大小複数のポケットを備えた機能性に優れるベストを羽織っている。頭上にはキヴォトスの住人たる証、髪色に似た薄桃色に光り輝くヘイローがあるが、可愛らしい見た目に反して少女の表情は硬く、目つきは鋭い。

 左右で色合いの異なる瞳を、教室の後方で体を揺らした彼女へと不機嫌そうに向ける。

 

「──……ふぁ……ホシノ、ちゃん……?」

 

 ひどく緩慢な動きで頭を持ち上げた彼女は、まだ開ききっていない目を廊下の方へと動かす。頭がまだ回っていないのか、紡がれた言葉の輪郭もぼやけていた。

 

「はい。急にいなくなった先輩を待っていましたが、いつまで経っても帰ってこないので探していました。15分以上もかけて」

 

「あはは……ご、ごめんね?」

 

 ホシノと呼ばれた少女は教室に入り、一直線に彼女の方へと歩を進める。その足音の無機質さと険しい表情、棘の含まれた言葉にようやく脳が事態を把握したのか、ぱっちりと目が開かれた。右に左にと目を泳がせて言い訳を探してみるが、後輩を言いくるめられる言葉は落ちていない。

 結局こぼれたのは簡素な謝罪と気まずげな表情だった。

 

「はぁ……まぁいいです。あの時先輩を止められなかった私にも責任はあります。小指の爪先程度ですが」

 

「それって、ほとんど私のせいってことじゃない……?」

 

「……」

 

「私のせいですごめんなさいだから無視しないでー!」

 

 真正面までやってきた少女が冷気を纏った視線で彼女を見下ろす。彼女の方が頭一つ分ほど背が高いはずなのだが、座位であることも相まって年下の少女が普段の数倍大きく見えた。

 

「そ、そうだホシノちゃん! ちょっとこっち座って!私の後ろの席!」

 

 後輩から放たれる圧と無言の空間に耐え兼ねて、彼女は唐突に話を切り出す。元来、彼女はこういった雰囲気が不得手だった。そしてそれは──一年にも満たない付き合いであるが──いつも一緒に連れ添っていたホシノもよく理解しているところであった。

 

「なんですかいきなり。というか、なんでそんなことしなきゃいけないんですか。早く生徒会室に戻ってこれからのことについて話を進めないとなんですよ」 

 

「そこをなんとか! 少しだけでいいから! ね? お願いホシノちゃーん!」

 

「……っ」

 

 先輩のいつもの戯言だと、切り捨てることは容易だった。

 

 けれど。

 

 その声が、その顔が、あの時と重なる。

 

 破り捨てたポスターの向こうで、彼女が見せた表情をホシノは生涯忘れることは無いだろう。

 ふとすれば泣いてしまいそうで、しかし一分の怒気も含まれていなくて、けれど曖昧に微笑んでいて───

 

 ホシノなりに、楽観的な先輩と悲愴な現状を考えての行動だった。彼女を傷つけることも、それで自身が嫌われることも承知の上だった。

 先輩が現実的な思考にシフトしてアビドスの復興を諦めるのもよし、夢の規模を縮小して現実的な目標に向かって活動するのもよし。どちらに転んでも彼女の為になるとホシノは信じて疑わなかった。

 

 そんな思惑が全て粉々になった。自分がとんでもない過ちを犯してしまったと気付くのに時間は必要なかった。

 冷や汗が頬を伝い、ポスターであったものを握っていた手が震え、開閉するだけの口から音が発せられることは無く。

 あろうことか、そんなホシノの様子を気遣って「だ、大丈夫?どこか体調悪いの?」なんて本心から心配してきたのがトドメだった。足から力が抜け落ち、床に体が崩れた。慌てて駆け寄り、抱きかかえてくれた先輩の胸の中で、ホシノは固く胸に誓った。

 

 あんな顔を二度とはさせない、と。

 

「……しょうがないですね、少しだけですよ」

 

「やったー! ありがとう! ホシノちゃん大好きー!」

 

「わかりました、わかりましたから早く済ませて行きますよ」

 

「はーい!」

 

 笑顔を爆発させて、喜色を顕にする彼女。そこまで喜ぶような事だろうかと呆れる自分がいる一方、先輩にはその表情(笑顔)が一番似合っていると、少女は思う。

 そんな内心が万が一にも見透かされぬよう、彼女に顔を向けずに席まで移動してさっさと座る。

 

「それで、座ったはいいですけど、どうすればいいんですか」

 

「ではまず、肘より先の腕をクロスさせます」

 

「……? はい」

 

「それが出来たらクロスさせた腕を机に置きます」

 

「……はい」

 

「そしてその上に頭を乗せます」

 

「……」

 

「最後に顔を90度右に回転させ……わー!? 待って! 違う! 違うのホシノちゃん! 寝ようとしてるわけじゃないの!」

 

 ひとつ後ろの席から並々ならぬ感情の奔流が迸っていると気づいた頃にはもう遅い。こちらを見つめるホシノは今までにないほどの、とびきりの笑みであった。凄みのある、という言葉が付け加えられるが。

 それは彼女が常日頃から見たい見たいと懸想していた、後輩のプライスレスでプレシャスな笑みであった。けれど、その背後には、ここから遠く離れた百鬼夜行連合学園で目撃情報があるらしい般若が見えた。彼女は百鬼夜行にも般若にも詳しい訳では無かったが、何故かそれが的確な言葉だと確信していた。

 

「ここまでさせて昼寝の格好では無いと言い張るには無理があると思うんですけど」 

 

「ホントにホントなんだよ! お願い、騙されたと思って!ね?」

 

「……右を向くんでしたよね」

 

「! ……うん!」

 

 一転、いつもの、いや、いつもより冷ややかな目で己の先輩を見つめるホシノ。嘘や誤魔化しがあったら生徒会室まで強制連行するつもりであったが、先輩の必死な訴えにはどうしても弱かった。

 

「あっ、でもこうすると、机が冷たいから暑い教室でも腕と顔がヒンヤリしてお昼寝しやすいよね……って言うのは勿論冗談で!」

 

 どうしてやろうかこの先輩。

 この状況でそんなことを宣えてしまう先輩の正気を疑わずにはいられなかった。

 

「はぁ……。それで、先輩、これは……」

 

「うん、これが私が見て欲しかったモノだよ」

 

 彼女に促されて右を向くが、殊更目を引くものはない。ただただ、生徒会の悩みの種である一面の砂漠とそんなこと知るものかと澄み渡っている青空だけが広がっていた。

 

「……私には普段通りの光景にしか見えませんが、なにか特別なものでもあるんですか?」

 

「ううん。ホシノちゃんの言う通り、いつも私たちが見てる景色だよ。でもね──」

 

「……」

 

「──ここからこうやって見ると、空と砂漠がちょうど半分くらいで右と左に分かれててキレイでしょ」

 

「それが──」

 

 どうしたんですか、と最後まで続くことはなかった。

 

「この景色を見るたびに思うんだ。あぁ、やっぱり私はここ(アビドス)がどうしようもなく好きなんだな、って」

 

 この表情()を、ホシノは知らなかった。

 

 いつも無邪気で、無鉄砲で、楽観的で。そんな彼女ばかり見つめてきた。けれど、目の前にいる先輩はどうだろう。

 景色を見ているようで見ておらず、普段は輝く笑顔も鳴りを潜め、微かな笑みと細められた瞳。

 

 すべてが、初めて見るものだった。

 

「零れ落ちそうな青空に、色んな顔を見せてくれる砂漠。最近はちょーっと砂漠が広がりすぎてて困っちゃうけど、やっぱり大好き。だからね、キヴォトス中の人たちに知って欲しいんだ。そしたら、昔……ううん、昔以上にアビドスがにぎやかになって──」

 

 手を伸ばせば触れられる距離にいるはずなのに、届かない。ホシノ自身気づかぬうちに唾液を飲み込み、小さく喉が鳴った。心臓の拍動が体の内側を煩く鳴り響かせ、胸がざわつく。

 

「……でも、隣の教室でもほとんど景色、同じですよね、というか、この階だったら反対側の教室を除けばだいたい、一緒だと思うんですけど」

 

 今度はホシノが耐え切れなかった。何もしないでいたら、彼女がそのまま遠くへ、自分の手が届かない所へ行ってしまう気がして。

 あり得ないと頭では理解している。冷静であれと脳が命令を下す。だから、普段通り、いつもの調子で言葉を連ねた。連ねようとした。

 そうすることしか、出来なかった。

 

「は、はう……。確かに……。……いや、でも、うん。やっぱりここかな。この席だから」

 

 一度言葉を切り、上体を再び机に倒す。その顔はホシノから見えず──

 

 

 

 

「元気かな、みんな」

 

 

 

 それは、吐息よりもか細く、小さな呟きであった。言葉はホシノの耳朶を打つことなく、淡く溶ける。

 まるで、何事も無かったかのように。ありもしないif(もしも)だと告げるように。

 

「先輩、何か言いましたか?」

 

「なんでもないよー」

 

 伏した彼女の表情は、後ろに座っているホシノからは窺い知れない。返答もくぐもっており、彼女の真意は読み解けなかった。

 

 場に沈黙がおりてから、数十秒が経ち、ホシノが口を開く。彼女一人をこの場所に残すのが怖かった。

 

「……先輩のお願いも聞いたので、そろそろ生徒会室に戻りましょう」

 

「うん、ありがとねホシノちゃ……あっ」

 

 不自然に途切れた声に何事かとホシノが構える。けれど、続いた言葉はホシノの想定よりもだいぶ斜め上であった。

 

「あー、起きれないなー、私ひとりじゃだめだなー。心優しい後輩が声をかけてくれたら起きれるんだけどなー。チラッチラッ」

 

 何を言ってるんだこの先輩。しかもチラッとか自分で言ってるし。

 

 何かをねだるような視線をホシノに向けた後、再び机に突っ伏す先輩の姿。けれど、少女にしては珍しく苛立ちも不快感も湧いてこなかった。

 それは、怒りを通り越して呆れの域まで至ったからなのか。それとも、普段通りの、見慣れた様子の彼女に安心したからなのか。

 どちらでもいいと、敢えて思考を止める。

 

「全く、しょうがないですね」

 

「……!」

 

 先ほど同様、表情が不明で返答もないが、今度は先輩が喜んでいることを確信していた。

 ホシノは自分が先輩にできることは限られていると考えている。自身に対する信頼が欠片も無いと言い換えても良い。そんな自分が彼女を笑顔にできる。

 だからやっぱり、仕方ない。

 

 

 

 

『「起きてください、先輩」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──……んぅ……?」

 

 桃色の頭が揺れ、髪に似た色の光輪(ヘイロー)少女(ホシノ)の頭上に現れる。

 

「委員長、やっと起きた」

 

「ん、いつもより長かった」

 

「今日はいいお天気ですから〜。絶好のお昼寝日和ですね☆」

 

「あはは……でも、珍しいですね。いつもは声をかけたら何かしら返事を返してくれましたが、今日はよく眠れたのでしょうか?」

 

「あれ……私、本当に寝ちゃって……?」

 

 困惑、そして起床直後である事も相まって意図せず心の声が小さく零れる。ホシノにとって幸いな事に、上体を起こした際の衣擦れの音と重なって他の対策委員会の面々の耳には届いていないようだった。

 

 起き抜けの頭では聞こえる声々の内容を拾うことはできないが、普段ではあり得ない現状を認識して脳が急速に稼働し始める。

 今までの彼女は、たとえ夜の見回りの翌日でも昼寝で意識が完全に落ちる(頭上からヘイローが消える)ことはなく、人の気配を感じると微睡みの中でも覚醒できるようにしていた。だから、今回のように誰の接近にも気づくことなく眠りに落ちていたのは初めてであり、この状況に至った原因を冷静に、けれど迅速に脳内で探る。

 

 まず、今朝の睡眠時間は?──決して長くは無いが、いつも通り。

 次に、疲労の蓄積は?──確かにカイザーとの一件から然程経っていないが、気にならない程度。

 では、気配が薄かった?──4人いることを考えると、無理がある。

 

 なら、なぜ──?

 

「……あの、委員長?大丈夫ですか?」

 

「……いやぁ、おじさんしっかり寝ちゃってたみたいだね〜、ごめんごめん」

 

「大丈夫。ただ、もう少しで定例会議を始めるから呼びに来た」 

 

 一向に口を開かないまま俯くホシノを見兼ねてアヤネが心配そうに声をかける。彼女の声で我に返るホシノだったが、思案していた様子をおくびにも出さずに咄嗟に平生を装い、瞼を下げて笑顔を取り繕った。

 

 話してはならない理由がある訳では無い。ただ、彼女の処世術(これまで)の問題であり、それを変えるには幾許かの時間が必要なだけであった。

 

 それでも、ホシノは己の心に刃を突き立てる。あの暗闇(絶望)を抜け出したあとに アビドス対策委員会(みんな)に頼ると、1人で抱え込まないようにすると、誓ったのではないか、何一つ果たさすことなく、また彼女たちを裏切るのか、と。

 

 何と身勝手、何と無責任、何と我が侭な事か。

 自分を責め立てた所で何が変わるという事も無いのに。

 

 結局、お前()の独り善がりに過ぎない、と思考を結んでしまう。

 

 だからだろうか、余計な言葉がつい口をついてしまったのは。

 

「うへっ……おじさん抜きで始めてもらっても良かったのに」

 

 

「ダメよ!!!」

 

 

 完全な意識外から飛び込んできた大声。思いもよらない事態に無意識のうちにホシノの体は声の方を向き、閉じられていた瞼は驚きのあまり僅かに見開かれていた。

 彼女の視線の先には肩をわなわなと震わせ、頬を上気させたセリカが立っていた。

 

「ホシノ先輩は委員長なんだし、それに、先生も入れて全員で“アビドス対策委員会”なんだから!!!」

 

「……うへ」

 

 熱の込められた言葉が、純真でひたむきな感情が、ホシノの心の深いところに突き刺さる。

 

 全員で、とセリカは言った。語られた言葉を反芻し、そもそもの前提を誤ったことにホシノは気づいた。

 

 アビドスは皆の、そして己の居場所で、だからこそ安心できて───

 

 なんということは無い。アビドス(皆で一つ)であることを実感したが故の安眠であり、既にみんなに全幅の信頼を預けていた。

 それだけの話だったのだ。 

 

「セリカちゃんの言う通りですよ、ホシノ先輩。私たちは、みんなでアビドスなんです!」 

 

「そう。セリカはすごくいいことを言った。カッコイイ」

 

「わ、私は別にそんなつもりで言ったわけじゃ……!」

 

「あはは……。でも、皆さんの言う通り、とても素敵だと思います」

 

「アヤネまで……!ちょっと、ホシノ先輩も何か言ってよ!」

 

 セリカが、ノノミが、シロコが、アヤネが、ホシノを見つめる。彼女に向けられた4つの双眸はどれも友愛と信頼に満ち満ちていた。一人で理屈をこねくり回すのではなく、初めからみんなと目を合わせて話すのが頭の硬い自分には一番だったと、改めてホシノは実感した。

 

「……うん、今のはおじさんが悪かった、ごめん。そして、みんなありがとね。

 ……それにしても、セリカちゃんの言葉は熱かったねぇ。あんまりにも情熱的だったから、おじさんも照れくさくなっちゃうよ〜」

 

「〜〜ッ!わ、私っ、先に教室で先生待ってるから!」

 

 元々赤らんでいた顔が熟れたリンゴのようになったところでセリカは教室を飛び出した。“廊下を走ってはならない”という校則はどの学校にもあるが、彼女の疾走を咎めるものはいなかった。

 それは、キヴォトスの住人たる生徒達のほとんどがその校則を無視しており形骸化している為なのか、あるいは、可愛い後輩をからかいすぎたことへの申し訳程度の罪悪感か。

 

「あ、セリカちゃん待って!」

 

「ん、競走。なら負けられない」

 

 どちらにせよ、彼女の後を追いかけて共に走り出す対策委員会の面々であった。

 

「……みんな速いね〜。おじさん、もう歳だからあんなに速く動けないよ〜」

 

「じゃあ、私たちはゆっくり行きましょうか。先生が来るまでもう少し時間もありますから」

 

「うん、そうしよっか」

 

「はい☆」

 

 よっこいしょ、と2年前と代わり映えのない身体を、2年前より格段と重くなった、けれどいつもより軽い精神(こころ)で立ち上がらせる。

 

 ふとホシノが顔を窓の方に向けると、眩い光が飛び込んできてた。ずっと日陰側を向いていたためか刺激が強く、思わず目を細め、手で(ひさし)を作る。徐々に目が明るさに慣れ始め、そっと手を外すと、雲ひとつない青空に燦々と輝く太陽があった。その足元には大小様々な丘陵や風によって模様の描かれた砂漠がある。

 それは、いつもと変わらぬ景色で、けれど先輩(あの人)が、ホシノ()が好きな景色で──

 

 

 ──そこから見えますか、ユメ先輩?貴女の好きなアビドスに、青空の下に、こんなに素敵な後輩達がいるのが。

 先輩の夢である沢山の人には程遠いですが、頼りがいがあっていつも支えてくれる大切な仲間です。

 だから、私たちを見守っててください。

 

 

「ホシノ先輩?」

 

「……それじゃ、行こっか。待っててくれてありがとね、ノノミちゃん」

 

「いえいえ、お気になさらないでください!ところで、前の席に置いてある鞄はどなたのでしょうか?ホシノ先輩のものじゃ無いですよね?」

 

「……うん、これはおじさん達の先輩が置いていっちゃったものだね。本当は回収した方がいいんだろうけど、場所がわかんなくなっちゃうと困るからそのままにしちゃってるんだ」

 

「そうなんですね。それなら、もしかしたら取りに来られるかもしれませんし、時折周りをお掃除した方がいいですね」

 

「───。そうだね、そうしよっか。ありがと、ノノミちゃん」

 

 2人はゆっくりと扉へと向かって歩き出す。既に廊下から足音は遠ざかっており、他の委員たちはこの階にはいないようだった。ノノミが先に教室を出て、ホシノが最後に扉をくぐり、後ろ手で扉の取っ手をゆっくりと動かす。 

 

 音を立てないように優しく扉が閉じられ、程なくして教室は普段の静寂を思い出す。

 誰もいない穏やかな時間の中を、あの日と変わらぬ陽光だけが歩いていた。

 

 





 
 
「そういえば、どうしておじさんがあの教室にいるって分かったの?」

「ん、先生が教えてくれた。私たちも探してたけど分からなかったからモモトークで聞いたら“この辺りじゃない?”って」

「えぇ……?先生ってもしかして超能力者……って、そんなわけないよね〜。ちなみに理由とかも聞いてたりする?」

「はい。“あそこからの景色は綺麗だからね”、と」

「……え?」

「そうなんですか、ホシノ先輩?」

「いや、うん、そう、ちょうど窓越しに見える景色が綺麗なんだよ」

「さすが先生ね!対策委員会の顧問で“みんなの先生”なだけあるわ!」

「……」

「……どうしました、ホシノ先輩?」

「……ううん、なんでもないよ。そろそろ先生来るかなーって思っただけだよ」

「あ、校門前に着いたって、モモトークが来た」

「それじゃあ、みんなでお出迎えしましょう☆」

 
「…………みんなの先生、ね」
 

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