架空のモブクラスメイトがちょっと出てきます。
クソボケ郁三大好き!
秀華高校2年3組にはクラスの9割以上が所属している組織がある。その名は『後藤さんを応援し隊』。
制服すらまともに着ていなかった後藤ひとりが恋を知り、意中の相手に意識して欲しくて徐々に女の子らしくなっていくいじらしい姿を見た佐々木次子を始めとした一部の女子たちがさりげなく応援しだしたのがきっかけだったのだが…。肝心のひとりの思い人である喜多郁三があまりにも鈍すぎた為次第に応援はエスカレート、どんどん大胆になって周りを巻き込んでいき、いつの間にか当人を除いたクラス全員がひとりを応援していた。そんなある日の事。
「今日ノート提出だから日直の…佐々木と喜多!あとでノート集めて職員室に持ってきてくれ」
教師の指示に軽く教室がざわついた。次子がひとりと代われば郁三とひとりを二人きりにできるのでは?、と。
なお当の本人たちは周囲の目論見にはまったく気づいておらず、「ささささん、喜多君と一緒に日直やれて良いなぁ」「もうノート提出の時期か、早いな~」などとぼんやり考え、のほほんとしていた。
「じゃあ集め終わったし手分けして運ぼうか」
「そうだね」
回収後、次子がノートを半分持った瞬間──
「ぐぁぁぁ!!」
「どうしたさっつー!?」
──ド派手に崩れ落ちた。突然の事態に驚く郁三。次子は床で苦し気に呻く。
「の、ノートを持ったら腕が……!」
「腕!?腕が痛いのかさっつー!?待ってろ、すぐ保健室に……!」
「いやそれは大丈夫。……くっ、これじゃあとてもじゃないが、ノートを運べない……!!」
「えっ?いやノート運べないレベルならヤバいでしょ、保健室行こう?」
「いやそれは大丈夫」
芝居がかったセリフの合間に保健室行きを断る次子。状況についていけない郁三が困惑する中、他のクラスメイト達も次子の芝居に乗っかってきた。
「大変!さっつー、それはもしや『ノートを持ったら死んでしまう病』では……!?」
「えっなにそれ」
「そんな!次子ちゃんがそんな恐ろしい病にかかってしまっただなんて……!!」
「もしかして皆ふざけてる?」
最初は純粋に心配していた郁三だが、周りの様子から緊急性はなさそうだと判断するも、当惑する。
「えー、これ俺どうしたらいいんだろう……」
「くっ!このままじゃ皆のノートを提出できない…!私はなんて不甲斐ない日直なんだ……!!」
「ノート未提出で皆の評価は下がっちゃうけど、病気なら仕方ないよね…」
「次子ちゃんは悪くないよ……」
「いや病気云々はともかく、別にさっつーが運ばなくても他の人が運べばいいじゃん!ってか俺1人d」
「あーっ!!後藤、良いところに!私の代わりにノートを運んでくれないかな!?」
郁三の言葉を遮り、次子が叫ぶ。全然良い所でもなんでもない自席で、突如始まった謎の小芝居を眺めていたひとりは突然の指名に狼狽する。
「えっ!?あっ、はい」
「ありがとう後藤!」
「流石後藤さん、頼りになるー!」
「救世主だわー!!」
「えっそっそんな、へへ、うへへ」
断れずについ返事をしてしまっただけなのに何故か褒め称えられにやつきが抑えられないひとり。
「こらこら、謎のおふざけにひとりちゃんを巻き込まないの!よくわかんないけど、さっつーが運べないなら俺一人で行ってくるからひとりちゃんは座ってて」
ここまで突っ込みつつも次子の好きなようにやらせていた郁三だが、ひとりを巻き込むとなると話は別らしい。次子が倒れた時に散らばったノートを集めながら一人で行く準備を着々と進めだした。それを見て分が悪いと感じた次子はひとりを手招き耳打ちする。
「後藤、私達に乗っかれば喜多と共同作業ができるぞ」
「さっささささん…!」
そこでひとりは漸く今までの謎の小芝居が自分の為に繰り広げられていたことに気が付く。次子や他の女子たちの行動を無駄にしないためにひとりも全力で乗っかることにした。
「きっ喜多君!わっ私もノート運びます!!」
「いや、本当に大丈夫だよひとりちゃん。これくらい俺だけで十分だから」
「えっあっで、でも……」
「さっつーたちの悪ふざけに付き合わせちゃってごめんね?」
「あっいえ、その……」
強く言えないひとりはどんどん劣勢になっていく。郁三に軽く注意されてしまったからにはもう見守るしかできない次子たちは焦る。しかしそこへ、新たな助け船が来た。
「おいおい喜多ぁ!てめー女子の前だからってカッコつけてんじゃねぇぞ!」
「そうだそうだ!結構量あるんだし一人で行こうとすんなよな!」
「いや別にカッコつけてねぇよ?」
郁三の男友達である。増援は嬉しいものの陽キャ男子の接近に少し怯えながらもひとりは
「そっそうですよ、喜多君、無理しないでください」
「えーひとりちゃんまで…。俺そんなに力なさそうに見えるの?」
少し落ち込んだ郁三だがそこでふと気が付く。
「てかさ、それなら女子のひとりちゃんじゃなくてお前らが運べばいいじゃん」
「「え?」」
一瞬、時が止まった。
男子二人は顔を見合わせた後、先程の次子よろしく大げさに床に転がった。
「「ぐぁぁぁ!!」」
「うわびっくりした!」
「し、しまった…まさか佐々木の『ノートを持ったら死んでしまう病』がうつっていたとは…!」
「うぅ、『ノートを持ったら死んでしまう病』、なんて恐ろしい病なんだ…!!」
「その病気って感染するんだ……っていうかお前らまだノートに触ってないじゃん!」
「あっ喜多君、そういうことなので私が一緒に運びますね!」
「ひとりちゃん!?」
「頼んだぜ、後藤さん!」
「喜多、折角後藤さんが手伝ってくれるって言ってるんだから一緒に運んで貰えよな!」
「もー皆して何なんだよ!そんなにひとりちゃんにノート運ばせたいの!?ひとりちゃんが可哀そうだろ!!」
「あっ!じっ実は私、『ノートを運ばないと死んでしまう病』でして…」
「ひとりちゃんまで変な病気なの!?」
一頻りツッコミを入れた後、郁三は遂に折れた。
「──あーもうわかったよ!ひとりちゃん一緒に行こう!!」
「あっはい!」
一体なんだったんだ…?と、怪訝な顔をする郁三と嬉々とするひとりは教室から上がる歓声を背にノートを持って職員室へ向かった。