「では、弁論の前に一言」
「弁護人、何かね」
「お聞きしたい。こんな小娘一人吊るして何を得るのですか」
「……君、法廷を侮辱するつもりかね」
「むしろ、この裁判こそが世と文明への侮辱ではないでしょうか?」
「弁護人、ここは君の演台ではない」
「いい大人、国の偉い連中が雁首揃え、一人の小娘を吊し上げる」
「小娘だろうがなんだろうが関係ない。
ここは罪を裁く場である。
それ以上であってもそれ以下であってもならない」
「豚らしい考えだ。
王を縛るはずの法を豚の群れが王になってから
使い方すら忘れてしまった哀れな国め」
「被告人も静粛に! 許可外での発言は認められません」
「失礼、黙らせます」
―平手打ちの音が響く。それでも囚人Aは表情を変えない
「君、被告に暴力は」
「けじめは大切です。誰も叱らなかったから
こんなところまで小娘が引き摺り出されています」
「もういい。次、なにかしたら君を退廷させる。いいね?」
「承りました」
「私に謝罪は?」
「すいませんでした」
「あら、意外と素直だこと」
「静粛に! では、これより審議に入る」
「では、被告のパーソナリティに関する証拠を提出します」
「事前に審査を受けている。
プロパガンダの証拠品だね」
「はい、彼女が所属した国が仮称:敵国に対して
行われていたと宣伝されていた内容です。
文章を読み上げます」
―法廷のスクリーンにビラや動画が映し出されていく
「曰く、外交影響があったものが
・麻薬の製造及び密売をしている。
・他国民の拉致及び洗脳教育をしている。
・経済難民としての侵入及び政治工作が行われている。
・クラッキングによる情報取得及び電子的な妨害工作。
・核を始めとする大量破壊兵器の保有及び実験の強行」
「報道にも周知されているものだね」
「続いて、内政面
・支持者に対して選挙権を二倍にしての代表選挙。
・代表の任期延長の強行可決。
・軍事活動及び係争地への実力行使の是非を問う
国民投票で圧倒多数の賛成
・少数民族による民族浄化政策や
女性への非人道的所業などとされています」
「おおよそ目は通している」
「では被告、囚人Aに質問です。
今の証拠で貴女が知っていたのは?」
「……ん、全部と言いたいが聞いた事があるのは3~4つ程度だな」
「弁護人、そう教えられたからと言って罪が減る訳では」
「裁判官、国連の調査でかの“敵国”で実際に行われていました」
―映像は切り替わり、紙をめくる音が響く
「こちらの証拠も申請は受けている」
「少なくとも3件は確実。その他は調査中ですが
嘘を信じるに足るには十分な量の事実ですね」
「貴様! 偉大な祖国の啓蒙を偽りと言うのか!」
「戦意発揚の喧伝はどの国でもあるものです、囚人A」
―囚人Aを嗜める様に手のひらをかざす弁護人
「弁護人、主張は迂回せずに明確に」
「我々でもこの10の悪行の真偽で3つも正しくあれば
全てをしているには十分と誤認出来る訳です」
「誤認ではない!」
「まして、国の政策や方針として許容、あるいは推奨されている」
「簡潔に結論を」
「結論から言うなれば、彼女の所業位はこの前提を持ってすれば
“誰でも”行うに足り得るでしょう。
私でもこれを信じ、機会と権力があれば行うかも知れません」
「はっ、お前の様な年増の腰抜けに出来るものか」
「被告も私語を慎む様に」
―そして、裁判は続いていく
「では証人尋問を。申請をした通りの人物です」
「被告人と同国の難民キャンプの一般人と
申請されているが」
「見れば解ります。連れて来て下さい」
「……なっ!」
―ざわめく法廷。入廷するのは囚人Aと同じ程度の背格好、同じ勲章と軍服の少女
「証人。まずは名前を」
「私は祖国より少佐の階級を頂いております。名などもう捨てました。
使命は祖国の勝利とより大いなる躍進。
此処に引きずり出された負け犬とは違います」
「なんだと!?」
「被告人! 弁護人、巫山戯ているのかね?」
「残念ながら、事実です。彼女はこう教育されていました」
「『証人、今の言葉は本心ですか?』」
「『私はこういう言葉を言う様に教えられました。意味もよく解りません』。
ワタシ、ヨクワカラナイ」
「これは向こうの言葉か」
「はい。共通言語の類は未就学の様です」
「君が仕込んだ芝居ではなく、プロパガンダの一例という事かね」
「そうです。そして、よく考えてください。
我々が知りもしない国の化粧もろくにせず
髪型も服装も似た少女が向こうには何人も居る。
そして、一人成果を出せばそれを“量産”する」
「その証人もその一人だと」
「ふざけるな! 私は、私が本物だ!」
「本物はいくらでも作れるんですよ」
「何を言うか!」
「なぜ、貴女の様な年端のいかない小娘の虐殺を
大の大人がアホ面並べて実行しているんです?」
「それは、祖国の宿願で誰かが声をあげねば」
「ええ、“誰か”は“誰でも”良いんですよ。
号令を掛けてくれればそれくらいにあの国全体にモチベーションがあったのです」
「弁護人は起こる事を狙われた現象。
彼女はそれの象徴に過ぎないと主張したいのかね?」
「はい。経済制裁、景気の不調、増える失業率
株価や為替の低迷、政権の不安定化で結果、戦争まで始めた国です。
支え、拠り所は必要だった。
若くて、見目麗しいそれならば、心酔も容易いかと」
「……アノ」
「『ああ、失礼。
検察側からの質問が終われば帰って大丈夫ですよ。
保護シェルターまで送りますので』」
「アリガトウゴザイマス。『貴女も死なないで』」
―簡単な質問を数度された後、証言台に立った少女は稚拙な言葉だけを残して法廷を後にする。
「恨みがましく見てもこれが現実です」
「違う、私は、私だ」
「ええ、貴女はたとえ特別だったとしても
一度成功したのなら解析され、模倣されるのです。
なぜなら、人間はみんな成功したいのですから」
「恨みがましく見てもこれが現実です」
「違う、私は、私だ」
「ええ、貴女はたとえ特別だったとしても
一度成功したのなら解析され、模倣されるのです。
なぜなら、人間はみんな成功したいのですから」