―いつかあった日の軍基地の一室にて
「招集ってどういうこった」
「こっちはまだ、代わりの上官が来てないんだろ」
「来ないんじゃない? 軍艦と一緒に沈んだばっかじゃん」
「補給も遅れがち、どこでくすねてるんだか」
「ポケットも計画も穴しかねーんだから仕方ないだろ」
「静かに! 大佐殿がお着きになった!」
―騒然とする室内、騒ぎは収まらない。現れるのは似合わない軍服を着た少女
「何だあれ?」
「女の子だよな?」
「サイズ合ってなくね?」
「確かババアの筈。そもそも少佐じゃなかった?」
「大佐って誰だよ」
「コスプレか? どこであの数の勲章揃えたんだ」
「うるせぇぞ、クソガキども! 静かにしやがれ!
ど頭かち割られて死にてぇのかぁあ!!!」
―少女から少女とは思えぬ一声に空気が一瞬で凍りつく
「私は元少佐である。お前らが不甲斐ないが故に!
一度死んで二階級特進してしまった。今は大佐の階級を頂いている」
「……いや、おぃ待てお嬢ちゃん! 上官達も一体何を考えて!」
「私はうるさいと言った!!!」
―少女はすかさず撃鉄を引いて、声を発した軍人の足元に全弾放ち、その後も数度引き金を引き、銃を捨てる。
「……撃ちやがった」
「マジかよ」
「ちっとも躊躇らなかったぞ」
「次は当てる。聞け」
「……はい、大佐殿」
「この地点に向かう。国がとか、勝ち負けとか、民族とか、思想ではない」
―困惑と混乱など気に留めることもなく、壁に掲げられた地図に赤いバツをつける。
「ココに居る豚を殺す。殺さねばならない」
「目標襲撃地点はココの難民キャンプだ」
「難民キャンプ?」
「なんで?」
「そう、お前らが服も着替えず
敵の発砲音と爆撃に怯える夜が終わらず
泥水すすって、腹を空かせて倒れても、ココに向かわなければならない」
「部隊の再編と物資の配給準備は進めている」
「進軍? この状況で?」
「敵の中を突っ切れってか?」
「……銃を貸せ」
―隣に居た軍人の銃を借りれば撃鉄を引く。誰もが恐れから頭を下げ、銃声が一度だけなる。
「……死に損なった。死んでないという事は
豚を殺さない選択がなくなった訳だ」
「イカれてやがる」
「誰が”あんなの”を作った」
「来る筈だった少佐だろ……必要だからだ」
「ココにその理由があるってか」
―少女は自分の額に向けて引き金を引いたが発砲時のブレで僅かにかすめ、切れた額と火傷から血を垂らす
「……征くか」
「だなぁ?」
「こんなん見せられたらな」
「国帰っても、アレが夢に出る位なら、戦場で死んだ方がマシだ」
「子供産めても、あの顔が浮かんだ瞬間に放り投げちゃうわ」
「総員、出撃準備急げ! 命令である!!!」
「「「「命令、承りました大佐殿!!!」」」」
―その場の誰もが異常と感じ、死ぬと解っていた。だが、血を流し、涙を零し、鼻水を垂れ、瞳孔を開いた少女だったモノの願いを聞いて、その出撃は決められた。
「対戦車地雷がなんだ? こんな玩具に構わず進め!」
―少女は率先して道に撒かれた地雷を蹴飛ばしていく。途中で4割は死んだ。
「物資が足りない? 適当に周りから奪ってこい!
どうせ、私達が奪わなければ豚に奪われるだけだ!」
―本来は現代ではあり得ない現地徴発、略奪が“推奨”され、兵は皆従っていった。現地の住民の多くは死んだ。
「味方が乗り捨てた戦車? 動かせる者は居るか?
弾除けでも上に載って突っ込ませてもいい。使え!」
―その様は、快進撃と狂乱と共に軍の上層部に届いてしまう
「ありえん。誰がこの部隊を動かしている」
「大佐? 大佐って誰だ? そんな階級の者は派遣していない」
「撤退命令書にサインはされるが一向に引かん」
「これは故人の名前だろう? 死んだと報告を受けているぞ」
「完全に命令系統から外れている。どうしろと」
―その日に戦争犯罪が行われる。無慈悲な砲撃、銃撃、ありとあらゆる火力が其処に叩き込まれた。生存者を一人も残さなかった。
「ひでぇ……これはもうずっと前に」
「難民“は”キャンプしとらんかったな」
「ガスマスクが無いものは近寄らせるな! 風下にも絶対行くな!」
「……どこで使うつもりだったんだよ、コレ」
「大佐殿の出撃の理由……なるほどね」
「ははは、こりゃ戦犯もんだわ。止めちまったよ俺等」
「生きて帰れないわね。ま、仕方ないか」
「大佐殿はもう事切れた様にぶっ倒れた」
「ひでぇ遠足になっちまったもんだな」
「こりゃ、糸引いてた連中が大慌てで飛んでくるぞ」
―その無軌道さの印象に反し、彼らの降伏と投降は不自然な程に滞りなく終わった。自称大佐の戦犯ちゃんを除いて。
「義母様達。出立致します」
「……そう」
「体に気をつけて。なにかあったら
この方を頼りなさいね?」
「はい! 必ず、このご恩は」
「忘れて構いません。しっかりと自分の人生を生きなさい」
―数十年前、戦犯ちゃんは裁かれた。結果として死罪は免れてしまった、証拠不十分という建前で。
「あの子もダメだった」
「そうですね、囚人A」
「私が……私が、戦犯だと、豚を焼き殺した世紀の大戦争犯罪者。
そうであったのに、そうであるべきだというのに」
「残念ながら、貴女の真実を信じられなかった様ですね。
次の子はもう来ないでしょう。戦犯ちゃんは過去のものです」
―囚人A、自称大佐、戦犯ちゃん、それ等だった少女は監視付きの元に過ごしている。
「私には罪が無い。ただ、それでもやった事実は変わらない」
「そうですね」
「お前が! お前があの時!!!」
「ええ、私は弁護人ですので」
「何故、私を裁かせなかった!」
「弁護人だからです」
「くそっ!」
―その当時の弁護人がこの未来を勝ち取り。結果、報復による左足と左腕、右眼球を失い、車椅子での生活を余儀なくしている。
「返せ! 私の戦争犯罪を! 正しさを! 罰を!」
「ダメです」
「私が、私こそが本当の戦犯ちゃんだ! そうだった!
あんなまがい物ではない! それなのに!」
―裁判の後、あの国に始まり多くの戦犯ちゃんが量産された。先程、この家を去った少女もその一人であった。
「殺してやる! 絶対に殺してやる!」
「どうぞ。でも、良いのですか?」
「……うっ……あぁ、ああああっ!」
「私しかもう知らない。誰も貴女が戦争犯罪者だとは思わない」
―囚人Aだった元少女の両手が弁護人だった女の首を締め上げるが、すぐに泣き崩れる。
「私の方が寿命で先に死ぬでしょう」
「あああっ、そうだ。死ね!」
「そうなると貴女はこの世界で遺された一人だけ
ただの可哀想な女の子だったヒト」
「うっ……ダメだ……いや、けれど! 死ぬな! 私より先に死ぬな!」
―元少女はその後の生涯、誰も殺せなかった。
「貴女が奪ったモノも罪も、私だけのものです」
「ぁぁぁぁぁああああっ!!!?」
「ええ、いくら泣いても叫んでも構いません。
私が死ぬまで何度でもそうして下さい囚人A」
―何故、弁護人であった女性はそこまでしたのか。後にこう語っている。
「私のお母様の罪と私がすべき事を奪ったのです。
あのどこの馬の骨とも知れぬ小娘が。
だから、私が死んでもあの小娘が死ぬまで絶対に赦しません」
―弁護人の母親は軍人で、死んだときの階級は少佐だった。
『戦犯ちゃんと弁護人さん 終』