そんなこんなで、学祭当日やで。
いやぁ、一学期末テストは強敵やったな!*1
アカネはんも、ひぃひぃ言いながら何やかんやで切り抜けたみたいやで。
それにしても、鳥山アニキとアカネはんが二人で学祭を回るって話になってくると、ホンマにワイは独りぼっちやな。
学生や教員とその家族だけが入れるっちゅう話やったから、ソラ姐さんは無理やろし。
とりま、物販コーナーで駄菓子でも買ったるか……。
駄菓子といえばソラ姐さんから聞いた「もんじゃ」が頭に蘇ってきたけど、まぁ中学校の学祭の物販駄菓子にそんなんある訳ないで。
あるんは、普通にコンビニなんかで買えそうな駄菓子やな。
お、ラムネやんけ。
まだ夏本番っちゅう訳やないけど、ラムネを見ると一気に夏の匂いがしてくるわ。
一本
人も
ラムネ瓶の頭を外して、ビー玉を取り出したった。
ビー玉を通して見た景色って、上下左右が逆に見えるモンやな。
なんや、ワイが小学生の頃に見たロボットアニメで、ラムネ瓶から取り出したビー玉を主人公がずっと持っとる番組があった気がするんやけど。
何やったかなぁ、あのアニメのタイトル。
「そもそも、なんで飲み物にビー玉が入っとんねん……?」
ぽつん、と。
誰にも聞かれんような道端で、呟いてしもた。
ホンマに、小さな呟きやった。
遠くに聞こえる学祭の喧噪の方が、まだ喧しいぐらいや。
「実はそれ、逆なんですよ。ビー玉をラムネ瓶に入れている訳では無いんです」
「うおっ!!?」
突然耳元で囁かれて、驚いて尻餅ついてしもた。
だって、しゃーないやろ。
この学祭の中で聞こえてくるハズが無い声やったんやから。
でも、一番聞きたい声やった。
「なっ、なんでやねん!!?」
「やっぱり気になりますよね。今から100年以上前に、ラムネ瓶の栓だったガラス玉を取り出して遊び始めた子供たちが居まして。
それを見たメーカー側がガラス玉を玩具として売り出したのが『ビー玉』だそうですよ」
ワイの手から零れ落ちたビー玉をキャッチして、穏やかに微笑んどる女性の姿は。
うちの女子用制服……セーラー服を着こんだ、ソラ姐さんやった。
割と長身なソラ姐さんがセーラー服を着とると、なんやコスプレ感あるで!
っちゅーか、そのオッパイでJCは無理やろ??
「ビー玉の方じゃないっスよ! その恰好!!」
「姉さんの古着です。ハッサクくんに会いたくて、着てきちゃいました」
……目のやり場に困る感じやな。
セーラー服を着とると、オッパイ大きいのも分かるし、ウエストのサイズ感も良う分かる。
普段は線の出にくい服を着とるソラ姐さんやけど、やっぱスタイルええな……。
眼の毒やで。
ワイのためって言われたら、そら嬉しいんやけどな。
「そもそも中学より上の人らってセーラー服を着てる印象あんま無いっスよね……?」
「実際、高校はセーラーよりもブレザーの方が一般的みたいですね。理由は、今ハッサクくんが感じている通りだと思います」
ワイの心境が見抜かれとる……。
その、なんて言うたらエエんやろな。
スタイルの良さが際立っとるのが、なんちゅーか、ジロジロみたらアカン感じがするんや。
これが、あんま高校生の制服でセーラーが採用されへん理由なんやろな……。
「なんでそんなん知ってるんスか??」
「兄さんたちの部屋にあった本は、赤本からベッドの下の本まで小学生の時に読みつくしていますから!」
ベッドの下って、それエロ本やんけ!
しかもセーラー服に関するそういう情報が載っとるってことは、まぁ、そういう女子と
ドヤっとるソラ姐さん、なんか可愛ええって思ってまうんやけどな。
んー、せやけどここは、男としてソラ姐さんに言っとかなアカンことがあるんや……。
「あの、ソラさん。ごっつ言いにくいことなんスけど……」
「どうかしましたか?」
その……。
お兄さんのベッドの下のエロ本、小学生の頃に読破したって言うとったやん?
それ、アカンのでは?
「秘蔵のエロ本を末っ子に読破されるのって、お兄さんからしたら洒落にならんレベルのトラウマだと思うっス。忌憚のない意見ってやつっス」
ショックで勃たなくなっても不思議やないで……。
小学生の妹にそんなん読破されたら、勃たなくなるか、新しい性癖に目覚めるかの2択やろな。
おいたわしや、
「……えっ?」
ソラ姐さん、目をパチクリしたまま停止しとる……。
長考モードに片足ツッコんどるかもしれんな。
パソコン画面の矢印の横で、青いワッカがグルグルしとるみたいなイメージや。
「ま、まさか。私の敬愛する兄さんに、やましいことなんて……」
「本人的には、やましいと思っとるからベッドの下に入れとったのでは……?」
ソラ姐さん、めっさ動揺しとる!?
こんな7月上旬の気温やのに、冷や汗かいとるで!
見るからに慌てとる!
アワワとか言い出しそうや!
「そんな……でも、言われてみると1週間ぐらい口を聞いてくれなかったことがあったんです!
まさか私、兄さんに嫌われて……!? 一体どうしたら??」
この人、動揺とかすることあるんやな??
目を回しとる!
そんだけ、お兄さんのこと大好きやったんやな。
「1週間たって元の調子に戻ったなら、たぶん大丈夫っスよ。
本人的には触れてほしくない場合もあるんで、今まで通りで良いと思うっス」
「そ、そうでしたか……」
ソラ姐さん、胸をなでおろして大きく息を吐いとる。
ちょい動揺が抜け切っとらん感じやけど、何とか落ち着こうとしとるみたいや。
本人的には大事件なんやろけど……なんや、珍しいモンが見られた気がするで!
「ソラさん的には一大事だったんだと思うっスけど。なんか……アワアワしてるソラさん、『可愛い』って思ってしまったっス」
「……恥ずかしいところを見られてしまいましたね」
ソラ姐さん、もしかして照れとる……?
伏し目がちになって、こっちを直視してくれん感じや。
ちょい顔が赤い気もするで!
ワイも、不思議な気分や……。
こういう気分、なんて言ったらエエのか分からん。
下半身やなくて、胸の奥にググググっと来るみたいな感じや。
ソラ姐さんの意外な一面に、心を掴まれたっちゅうんかな。
普段の余裕があって大人びとるソラ姐さんからは想像できん一面やったで。
「ソラさんが一杯一杯な時に頼れるカレシ君でありたいっス」
可愛い年下カレシくんからランクアップしたいっちゅうんは、常々思っとるんやけどな。
こういう時にアピールするんが大事なんやろ、たぶん。
困った時こそ頼って欲しいもんやで。
そういうの、甲斐性って言うんやろ。
「ふふ……。それなら、さっそく頼らせてもらうことにします」
どんと来てエエで!
ソラ姐さん、照れが抜け切らない顔しとるな。
それはそれで可愛い感じや。
何でも相談したってや!
頼れるカレシ君が、何でも相談に乗ったるで!
「実は私、姉さんのベッドの下から溢れていたBL本も読破しているのですけれど、一体どうすれば……」
「知らんがな!!」
そんなこんなで、念願の学祭デートやで!
お化け屋敷に入っても全然怖がらんな、この人!
ワイの方がビビッてもうた。
恰好つかんで……。
恋愛占いで相性バッチリって言われて嬉しそうにしとるソラ姐さん、可愛い人やで。
でも、占いの一口メモに「NTRの予感!」って書いた奴はアカンやろ。
カップルに対する呪詛が漏れとるで……。
お、体育館で劇なんてやっとるんか。
ロミジュリっとるな。
って良う見たら、ジュリエット役アカネはんやんけ!?
ん、代役やて?
ほー、ソラ姐さん、ワイに会いに来る前にアカネはんのトコに寄って話を聞いとったんか。
元々ジュリエットやるハズだった子が急病で、アカネはんがやる羽目になったんやな。
そのせいで、アカネはんの学祭初日の予定が全部パーになってしもたんか。
不憫な子やで……。
劇の後に舞台裏のアカネはんを2人で労ってやろうと思ったんやけどな。
タイミングの悪いことに、巡回中の風紀委員グループと鉢合わせてしもた。
出会い頭に「お前のような女子中学生が居るか!!」なんてツッコミを入れられたソラ姐さんは、ワイに一瞬だけ手を振って逃げよった。
カンペキに、逃走経路を事前に調べとる人間の動きやったな。
楽しかったで! ソラ姐さん!
アカネはんの慰労はワイに任せるんや!
おっ、物販部の売り歩き部隊がおるやんけ!
ラムネもう一本買うたるわ!
アカネはんへの手土産にしたろ!
体育館の裏手へ回ると、ちょうど制服姿に着替え終わったアカネはんが出て来よったな。
「お疲れっス、犬飼さん」
「猿渡君っ!? もしかして、劇を見てくれたの!?」
そらもう、バッチリ見たで。
ロミジュリをあそこまで喜劇に出来るなんてビックリやったな。
シェイクスピア大先生や歴代悲劇作家の皆さんも草葉の陰で大爆笑しとるやろ。
ロミオが粉かけとる女の子が3人も居たって発覚したシーンは、ホンマに客席も沸きまくっとったで!
あ、手土産にラムネ一本持ってきたで。
もうワイは一本飲んどるから、アカネはんが丸々一本呷って大丈夫や。
おお、エエ飲みっぷりやな。
やっぱ、劇って体力使うんやろか。
「ちなみに、『ロミオ! 貴方はどうしてジュリエットなの?』って言ってたの、もしかして素で台詞トチった感じっスか……?」
「げほげほっ!? だ、だ、だいほん、どおり、だよ!」
ロミオ役の男子がノリノリで「逆ぅッ!」ってツッコんだから観客は爆笑しとったけどな。
たぶんアレは、アカネはんが素でトチったけどロミオがフォローしたんやろなぁ。
アカネはんの反応的に、間違いないで。
そないな汗かいとったらバレバレやろ。
まぁ大根役者をネタに出来るところまで含めて、コメディで正解やったんやろな。
咽込んだアカネはんの背中をさすったるのも、お馴染みみたいになってきた気がするわ。
やっぱ、可愛い妹分って感じやな。
ほれほれ、落ち着いてきたか?
「猿渡君、ちょっと待ってて」
飲み終わったラムネの瓶を持ったまま、アカネはんは体育館の勝手口から楽屋裏スペースに戻って行きよった。
ワイやったら、ラムネ瓶の頭を外してビー玉ゲットするところなんやけど、アカネはんも同じことしとるんかな?
んー、冷静に考えてこれは……ゲップやろな。
ラムネを一本飲んだら、まぁゲップの一つや二つは出るモンやで。
アカネはんもアレで中学生の女子やからな。
男子の前でゲップするのは恥ずかしいんやろ。
お、アカネはん、帰って来よったな。
その手に持っとるモンは?
「えへへ。線香花火だよ。一緒にやろ?」
まぁ季節的には間違っとらんけど、まだ結構明るいで?
まだ午後5時過ぎやし、7月のこの時間なんて全然暗くないやろ。
と思ったんやけど、午後7時とかで生徒は学校から追い出されるハズやし、暗くなるまでは待てない感じなんやな。
こういう時にはバケツに水を汲んどくモンなんやけど、まぁ近くに飲み水用の蛇口もあるし、最悪それを使えばエエか。
二人して、体育館裏でしゃがみ込んで。
アカネはんが化学室から拝借してきた電子ライターで着火や。
ほー?
周りが明るくても、意外と花火の色ってハッキリ見えるモンなんやな?
「これぞ夏! って感じっスね。世の無常ってヤツが身に沁みるっス」
「儚いけど、なんかロマンチックだよね……」
せやけど、なんで花火なんて言い出したんやろ?
……そういや最近、何かで花火の話題を聞いたような気がしたで?
どこで聞いたんやったかな。
んー……。
せや、鳥山アニキに学食で聞いたんや。
確か昔は、学祭の後夜祭っちゅうんがあって、その時に打上花火の習慣があったみたいやな。
そんでもって、打上花火とセットになっとるイベントが……。
「猿渡君」
線香花火を見詰めとったはずのアカネはんが、こっちへと顔を向けとった。
いつになく、真剣な表情で。
目の中に秘めた迷いと躊躇いを踏み越えようとしとるアカネはんに……ドキっとしてしもた。
「私、猿渡君のことが好き。1年前のあの日から、ずっと、ずっと好きでした」
せやった。
鳥山アニキに聞いた、告白イベントやんけ。
アカネはんの握りしめた拳が震えとった。
失敗に怯えて、本当に怖いのに、それを乗り越えて来た人間の姿や。
……あの日のワイの姿も、こんな感じだったのかもしれん。
率直に言って、アカネはんのことは好きやで。
昼食モリモリ嬉しそうに食うとこ可愛いって思っとるし。
ツッコミのキレも、魔法少女仲間としても好きや。
けど……頭の中で何べん考えても、どうしてもソラ姐さんと別れるっちゅう未来は選べんかった。
ワイは、アカネはんの彼氏になることは出来ん。
それが結論として頭の中で動かんのや。
アカネはんのことは妹分みたいに思っとるし、一緒に居て楽しいんやけど……ワイの心は既にソラ姐さんのモンなんや。
どうしたらエエんや。
やんわり誤魔化す……のは、ダメやろな。
――私は、不誠実に感じるよ。ハッキリ断った方が良いと思う。
アカネはんは一年前の二股騒動の時に傷ついた子やし、曖昧なのは好まんハズや。
こういう時、なるべく傷つけんように断る方法は?
せや、鳥山アニキから教わったやんか。
他に恋人がおるって白状するんが、
「俺には、もう交際中の女性が居て……犬飼さんの告白は受けられないっス」
音を立てとった線香花火の先っちょが、棒から離れて地面に落ちよった。
聞こえてくる音が無くなって、不気味なぐらいの静けさで耳も心も痛くなりそうや。
アカネはんは……ショックで声も出せんっちゅう感じや。
それでも、何とか声を絞り出そうとしとるみたいで。
「あ、あれ……? だって、『可愛い』って私にしか言ったこと無いって……?」
――猿渡君。他の女の子にも『可愛い』って頻繁に言ってたりする……?
――犬飼さん以外に言ったこと無い気がするっス。
そう言われたら、ワイの方にも心当たりあるわ……。
確かにソレ言うたわ。
もしかして、アレってワイの恋愛事情に探りを入れとったんか……?
堪忍やで。
ワイには、そんな察しの良さなんて無いんや。
あと、単純な感覚とかセンスとかの差の問題もあるで。
ソラ姐さんは『可愛い』の正体を『幼児性』と『大人感』って言うとったけど。
ワイ自身は正直、『大人感』の方の意味で使うケースはあんま無いんや。
その辺りの感覚の差が、ワイとアカネはんの認識の差として最悪の形で現れてしもたんやろなぁ……。
「感覚の差だと思うんスけど、俺はソラさんみたいに年上で大人びた人にはあんまり『可愛い』って使わないっス」
「ソラ、お姉ちゃん……?」
ソラ姐さんの名前を口に出した瞬間、ごっつ嫌な予感がしたんや。
何かが折れる音っちゅうか、砕ける音っちゅうか。
そんな何かを、ワイは心臓で聞いた気がしたんや。
アカネはんの握りしめとった拳から落ちた光りモノを、目で追ってしもた。
地面に転がっとったんは、ビー玉やった。
落下の衝撃のせいで、ヒビが入ってしまっとる。
さっきのラムネ瓶に入っとったヤツやろ。
――これは、勇気をもって一歩を踏み出した人の手です。
きっと、アカネはんは一粒の勇気を握りしめてワイに告白に来たんや。
……あの日のワイみたいに。
アカネはんは、ぼろぼろ泣いとった。
恋敵がソラ姐さんやと知らされたことが、ワイの思っとる以上にショックやったんや。
どう声をかけて良いか、ワイには分からんかった。
何を言っても、傷つけてまう気がしたんや。
謝るべきやろか?
告白してきたことを嬉しいって言うたらエエんか?
これからも友達で居てほしいって言うたら、アカネはんは何て思う?
……ワイの頭の中で浮かんでは消えてく選択肢は、全部不正解に思えてしもた。
結局。
大泣きして鼻水をすすったまま歩くアカネはんの背中を、ワイは見送るしか出来んかった。
かける言葉なんて、一つも思いつかなかったんや。
その日の深夜、自宅の寝床で。
なんでかヘンな時間に、ワイは目を覚ましてしもた。
スマホの電源ボタンを入れてみたら、午前一時やった。
つい今、不在着信の履歴が入っとるな。
たぶんそのせいで起こされてしもたんやろな。
こんな夜遅くに何やねん。
よく見てみると、アカネはんからやった。
嫌な予感や。
留守電の内容は、すぐに再生してみた方が良さそうや。
『ミカンちゃん』
消え入りそうな声やった。
『……………………たすけて』
ワイは、寝床から飛び起きた。
いつもの大平原なミカンちゃんの身体に変身しながらTシャツと短パン姿に着替えて、自宅を飛び出した。
一目散に駆けて、犬飼家まで走った。
月も星も見えん夜道やけど、何度も通った道やから迷わんで。
犬飼家は、一見すると何も異常が無いように見えるわ。
深夜1時やし、明かりが全く点いとらんのも不自然やないで。
けど、2階の一室……アカネはんの部屋の窓が開いとるな。
魔法少女の身体能力でジャンプして、一思いに窓のヘリに飛び乗ったワイは……そこで動きと止めてしもた。
いつも窓にかかっとったはずのパステルカラーのカーテンは、床に無造作に放り投げられた後や。
可愛かった縫い包みの一団も、床に散乱して死屍累々としとる。
部屋は持ち主に心を映す鏡っちゅう話がホンマなら、今のアカネはんは……?
部屋の中を見渡したら、すぐに発見できたわ。
ベッドの上で膝を抱えとる部屋主と、目があったんや。
「……ミカンちゃん?」
「まいど」
泣き腫らした目や。
明かりの点いとらん夜闇の中でも、そう見えた。
窓のヘリに足をかけたまま、ワイは黙ってアカネはんの言葉を待った。
「ミカンちゃん。私……フラれちゃった」
「可愛いって言われて、舞い上がって、何も見えてなかった」
「一年前の事件の時に私を助けてくれたのだって、下心があるからだろうって、内心勝手に期待してたんだ」
「でも違った」
「本当にそんな下心なんて無い、心が綺麗な人で……私なんかとは、全然違った」
「魔法少女の力だってアピールポイントになるかも、なんて思ってた私は、ちっぽけで汚い女だったんだって思い知らされた」
「でも、それだけじゃなかった」
「何とか悪あがきを考えて、でも、猿渡君が好きな人がソラお姉ちゃんだって聞かされて、無理だって思ったんだ」
「ソラお姉ちゃんは、大人っぽくて、綺麗で、頭もスタイルも良くて……あんな人に敵うわけないって、何かがポッキリ折れちゃった」
「……ズルいよ」
「何でも知ってて、皆から愛されて、幸せそうで、なんでソラお姉ちゃんばっかり全部持ってるの?」
「知れば誰だって思うよ。あの人みたいになりたいって、あの人と恋人になりたいって」
「ソラお姉ちゃんにだって悪いトコロはあるはずだって頭の中で必死に探しても、本当に素敵な人で」
「そう考えれば考えるほど、そんな自分のことが嫌いになって」
「苦しくて、ぐちゃぐちゃで、惨めで」
「…………助けて、ミカンちゃん」
アカネはんが吐き出した言葉の一節ずつから、苦しみが滲んどるみたいやった。
こないなネガティブな面を持っとる子やなんて、思わんかった。
……いや。
ホンマは気付いとったけど、気付かんフリをしとったんかもしれん。
協力技からハブられた時のネガティブさは下振れだったんやって、勝手に思いたかっただけやな。
――ウラオモテが無さそうなミカンちゃんは混沌じゃなさそうだと思ったから、私かなって。
陰陽師の話の時、二面性があるって仄めかしとったやんけ。
――そっか。ソラお姉ちゃん
アカネはん、家族と上手くいっとらんのかも。
――でも、それでも、どうしても……心が暗くて、どうしようもなく苦しんじゃう人だっているんだよ。
暗くて弱いヤツに一番共感しとったのは、アカネはんやった。
ワイに……ミカンちゃんに対抗心を出しとったのも、自信の無さからだったのかもしれん。
褒めてくれってソラ姐さんに言っとったのも、その延長やろか?
いかにもな可愛い女子の部屋も、「そうすれば誰かが愛してくれるかも」って願望の結晶だったんかも?
気付く要素なんて幾らでもあったのに、ワイは見ないフリしてしもたんや。
――ミカンちゃんにしか出来ないこと、必ずありますよ。
分からん。
ワイに出来ることって、一体なんやねん。
ベッドの上に座り込んで膝を抱えとるアカネはんに、何が出来るっちゅうねん?
せやけど、ソラ姐さんにも頼れん状況や。
ワイも、アカネはんの友達として……「ミカンちゃん」として出来ることを、やるしか無いんやで。
「ワイは、アカネはんとフザけあっとる時、楽しいで」
アカネはんが膝を抱えとるベッドの上に、ちょっと間を開けてワイも座ったろ。
あぐらをかいて、何でも無いような軽い口調で話しながら。
今のワイに言える、精一杯の言葉をかけるしかないんや。
「アカネはんが苦しんどったら、ワイも胸の奥が苦しくなるんや。
そう思っとるヤツが隣に一人でも居るんは、アカネはんにとって少しでも救いにならへんか?」
ま、アカネはんが欲しがっとる「カレシくん」になるんは無理やけど。
そんな言葉を続けながら。
アカネはんと並んで、ワイは開け放たれたままの窓の外に目を向けた。
相変わらず雲が分厚くて、星も月も見えん夜空が広がっとるな。
「……そっか。本当に大切なものって、こんなに近くにあったんだ」
けど、アカネはんの口ぶりは、ほんの少しだけ調子を取り戻したように思えたんや。
これは、ワイの励ましが効いたんやろか?
ゲームなんかで言う、いわゆる「友情END」的なヤツやな。
特定の相手とは恋人になれんかったけど、硬い友情で結ばれた親友が居るからOKみたいな感じのエンディングや!
ちょっと待ってて、なんて言いながら部屋から出ていったアカネはんは……液体の入ったコップを二つ、暗い部屋へと持って帰ってきよった。
ベッドの上にあぐらをかいたまま、ワイは手渡されたコップを受け取った。
少しだけ刺激臭の混じった、甘ったるい香りは……前にソラ姐さんに飲まされた「味醂」やな。
「ミカンちゃんの気持ち、嬉しかった。だから私の気持ちも受け取って」
「エエで」
お屠蘇みたいな縁起物に入っとる味醂やし、特別な時に飲むモンなんやろ。
そんで、失恋から少しでも立ち直ったアカネはんにとって、今が特別な時なんや。
ほんなら、ワイかて断ったりせえへんで。
ホンマは未成年が飲んだらアカン飲み物やけど、硬い事は言いっこナシや。
コップ同士を軽くぶつけて乾杯して、少しずつ口の中で回して飲んだろ。
ちょい辛くて苦いけど、やっぱそれ以上に圧倒的に甘いわ。
ワイは甘いの好きやから美味しくいただいとるけど、甘いの苦手な人は厳しいかもしれんなコレ。
あと、この間より味が強く感じるんは、今回は氷がコップに入っとらんからやろな。
前回はソラ姐さんが氷をコップに一杯入れとったから、結構薄まった味醂を飲んどったのかもしれん。
コップ一杯の味醂を、お互いに少しずつ飲んで。
それが空になる頃には……部屋の中に、月明かりが差し込んどった。
こら、帰り道は明るそうやで。
あ、でもちょい動悸がするかもしれん。
顔も熱くなっとる気がするわ。
酔いを醒ましてから帰った方が良さそうやな。
そんなんを、ぼーっとした頭で考えとったんやけど。
「……おん?」
いつの間にか、仰向けの体勢でベッドに押し倒されとった。
頭が、回らん。
アカネはん、どうして馬乗りになっとるんや……?
「私、本当に大事なものが何なのか、ようやく分かったんだ」
月明かりに照らされたアカネはんの笑顔は、可愛い子犬やなかった。
獰猛な
なんやそれ。
友情ENDはドコいったんや。
「もう男の子を好きになったりしない。ミカンちゃんだけは、私を愛してくれるよね」
抵抗できんかった。
酒が回っとるのもあるけど、それだけやなかった。
一年前の二股騒動で酷い目にあって。
事件の当時からずっと片想いしとった猿渡ハッサクにもフラれて。
その相手がソラお姉ちゃんで。
最後に残った親友のミカンちゃんが、アカネはんの手を振り払ったら。
アカネはんが……壊れてまう。
そう、想像してしもたんや。
「私たち、ずっと一緒だよ」
アカン。
ワイ、童貞捨てる前に……花を散らしてしもた。
すまん、ソラ姐さん。
――そういう