・イヌブラザーのバースデイ回
・キュアマジェスティの結婚式回
この二つが作者の頭の中で合体事故を起こしたような気がしたかもしれませんメイビー。
私は、一つ大人の階段を昇った。
ベッドに押し倒されて悲鳴をガマンしているミカンちゃんの顔を見たら、頭の奥に真っ黒な興奮が渦巻いた。
あんなに明るく奔放に笑っていたはずのミカンちゃんが、私に全ての命運を握られて不安がっている。
そう思うたびに、ゾクゾクした。
ミカンちゃん、一人遊びすらしたことが無かったみたい。
未知の痛みと気持ちよさを味わって怖がっている姿は、とっても可愛かった。
何も知らない女の子の初体験を無理矢理に奪うのが、こんなにも薄暗い喜びを伴うなんて……知らなかった。
真っ白な画用紙を自分色に染め上げる感じ、みたいな。
まぁ後半はミカンちゃんも慣れて普通に楽しんでたっぽかったけど。
女の子が性犯罪の被害者になる事件が無くならない理由が、ちょっと分かった気がする。
それにしてもミカンちゃん、元カレが居たみたいな感じだったけど、その人との肉体関係は本当に何もなかったみたい?
正直、綺麗な身体じゃないかもって思ってたから、あらゆる意味で初体験なのは逆に驚いたよ。
――その先はホンマに踏み込んで欲しくないんや。堪忍したってや。
――何だか辛い事を思い出させちゃったみたいで、ゴメンね……。
思い返してみたらファミレスの時も学祭前も、ミカンちゃんは一貫して彼氏なんて居ないって言い続けてるし、今現在の彼氏が居ないのはホントっぽいんだよね。
けど、現在はフリーってだけの話なら直接そう口に出すだろうし、言葉を濁す理由が別にあるんだ。
何だか元カレに嫌な思い出がありそうだから、私からは言及しないけどね。
私だって、1年前の二股事件のことを聞かれたら嫌だもん。
それはともかく。
そそくさと明け方に出ていったミカンちゃんの背中を、私は寝ぼけ眼で見送った。
私もゆっくり起きて、シャワーを浴びてサッパリして。
なんだか、昨晩の落ち込み具合がウソだったみたいに清々しい朝だった。
失恋の痛みは、まだ私の中に残っているのかな。
そう思って猿渡君のことを思い出してみたら、胸の奥が苦しくなった。
思考を中断しながら、頭の中の冷静な部分で考えた。
私は失恋から立ち直れた訳じゃないんだ、って。
猿渡君の代わりを求めているだけなのかも。
でも、最後に残ったミカンちゃんとの繋がりだけは、どうしても手放したくなかった。
私を愛してくれる人がいるのって本当に大切なことなんだ、って思った。
だから、私の爪痕を残すような真似をしてしまったんだと思う。
獣みたいな発想だ。
そんな汚さもあって良いんだ、と受け入れることが大切なのかもしれない。
鳥山先輩から習った、ポジティブな考え方の秘訣だ。
まぁ鳥山先輩でも、あんまり乱暴なことを無責任に肯定したりはしないと思うけど。
何となく学校に来てみた。
学祭2日目の喧噪の中に身を置いていると、何だか自分が独りぼっちだって突き付けられた気がした。
ミカンちゃんを誘えば良かったのかな。
あ、部外者は学祭に来られないんだっけ……。
ぶらぶらと各クラスの出し物を巡って。
ついでに体育館裏で昨日の花火の証拠を隠蔽しようと思ったけど、既に綺麗に片付けられてた。
私が泣きながら立ち去ったあとで、猿渡君が始末をしてくれたのかな。
……お礼、言った方が良いよね。
告白に真摯に応えてくれたことにも、ありがとうって言わなくちゃ。
会ったら苦しくなるのは分かってる。
それなのに、やっぱり会いたいと思ってしまっている。
全然、吹っ切れていない。
未練たらたらだ。
もう男の子なんて好きにならない、なんて啖呵を切ったのに。嘘吐きだ。
猿渡君のクラスの出し物を遠目に観察してみると、結構繁盛してるみたい。
お客さんに代金を貰って紙コップを渡しているのが見えるから、たぶんカフェなんだと思う。
なにかコンセプトがあるカフェなのかもしれないけど、ちょっと距離があって判別できない……。
教室のスペースを使って、休憩所みたいな感じで来場者に座れる場所を提供してるみたいな感じに見える。
忙しそうだし、終わったらまた来ようかな。
そんなこんなで、何となく学祭を回って、終了時刻のチャイムを聞いて。
出し物が終わって和やかな雰囲気の教室カフェに戻ってきた私は、猿渡君を見つけて声をかけた。
私に声をかけられて「ビクッ!」みたいな反応をした猿渡君……。
たぶん、私に会うのが気まずいって思ってしまっているんだと思う。
とりあえず……人気のない校舎裏まで来てもらって。
「猿渡君。昨日は……真摯に答えてくれて、ありがとう。あと花火の後始末も」
「俺の方こそ、ああいう時の言い方なんて全然わからなくて、申し訳ないっス」
私は、ちゃんと笑えていないと思う。
でも猿渡君の方も気まずそう。
「色々考えたけど、手が届かない相手よりも、まず近くにいる親友を大事にするところから始めようって思うようになったんだ」
「……そういう相手がいるの、良いコトだと思うっス」
さすがに、まさか女の子を押し倒したなんて思わないだろうけど。
私も「遠くの恋人より近くの友達」みたいな一般論として聞こえるように言っているトコロはある。
あんまり乱暴なことをしたって話をするのもどうかと思うし。
というか、女の子を泥酔させて襲うのって冷静に考えてドン引きされるよね……。
「少しずつだけど、気持ちの整理もつけていくつもり。今日はありがとう」
ソラお姉ちゃんのこと、幸せにしてあげてね。
なんて強がりを言い残して、私は校舎裏を後にした。
まぁ猿渡君なら、言われるまでも無いだろうけど。
改めて考えてみたら、猿渡君がソラお姉ちゃんを好きになるのも分かるし、逆も分かる。
初めから、私が入り込む隙なんて無かったんだ。
そう思うと、また少し胸が痛んだ。
……私が先に好きだったのに。
そんなこんなで、学祭終了後の夕方から私の家で魔法少女集会。
突発的な女子会じゃなくて、事前に予定していたモノだったりして。
私の勝利報告をするために予定していた会だったんだけど、残念会になっちゃうね。
まぁ仕方ないので、部屋を掃除して二人を迎えた。
ソラお姉ちゃんにもミカンちゃんにも、内心複雑なモノはあるけど。
とりあえず歓迎のスタンスで私の部屋へと二人を通した。
「私たちの学祭に、カンパーイ!」
「「カンパーイ!」」
いつも通りにジュースやお茶で乾杯して。
楽しい女子会の始まりだよ。
……ソラお姉ちゃん、たぶん私の出方を見てる感じ?
学祭で告白って話を前にしたから、その進展が気になっているんだと思う。
私の方から切り出すのを待っているんだ。
「残念なお知らせだよ。学祭告白大作戦の結果は玉砕だったんだ……」
笑いながら言う内容じゃないので、私の方も真顔になっちゃった……。
ミカンちゃんも、目を伏せた。
ソラお姉ちゃんが静かに両腕を開いた。
そんな、恋敵からの慰めなんて受ける訳が……。
…………気付いたら、私はソラお姉ちゃんの腕に抱かれてナデナデされていた。
あれぇ……。
恋敵として内心複雑なモノを感じているハズなのに、身体が吸い寄せられたというか。
身体が勝手に、ソラお姉ちゃんの胸に飛び込んでいた……。
背中や頭を撫でられて、安心感に飲み込まれちゃう。
包容力に抗えない。
うん?
どうしたの、ミカンちゃん?
そんな、一発触発の不発弾でも見るような目をして。
もちろん猿渡君を掻っ攫われた恨みとか妬みとか、諸々あるんだけどね……。
やっぱり、どうしても私はソラお姉ちゃんを嫌いになれないみたい。
ホント、ずるいよ。
猿渡君のことも、その立派なお胸で抱きしめてあげたの?
こんなの……私なんかじゃ、絶対に勝てるわけなかったんだ。
「私の好きな人、猿渡君だったんだ」
私を抱きしめている腕が、ほんの一瞬だけ強張った気がした。
ソラお姉ちゃんにも話したことは無かった気がするし、たぶん初耳なんだと思う。
「昨日の告白のときに、猿渡君の好きな人がソラお姉ちゃんだって聞かされて……もう無理だって思った」
しかも、猿渡君の方から告白したんだよね。
ソラお姉ちゃんから前に聞いた話と繋げて考えると、それは間違いない。
女子会で幸せそうに惚気話をしていた姿まで踏まえたら、間女の入る隙なんて無いんだ。
「でもね。苦しんでいる私を励まして、隣で愛してくれるミカンちゃんを見て思ったんだ。女の子同士も良いかな、って」
「アカネはん!?」
ベッドの上であぐらをかいていたミカンちゃんが、慌ててる。
私が昨晩のことを口にするって思ってなかったみたい。
でも、ソラお姉ちゃんには教えておいた方が良いと思うんだ。
私達の新しい愛を祝福してもらえたら、私も猿渡君への気持ちを少しずつでも整理できる気がしたから。
「その後は、二人で大人の階段を昇っちゃったんだ♡ ソラお姉ちゃんも……祝福してくれると嬉しいな?」
「これは急展開ですね……。でも、もちろん祝福しますよ! おめでとう、アカネちゃん、ミカンちゃん!」
「えへへ。ありがとう、ソラお姉ちゃん」
「お、おーきに……?」
ミカンちゃん、顔がちょっと赤いのに、同時に気まずそうでもある。
女の子同士の愛は悪意的な偏見で見られがち、っていう意識があるのかも?
愛があれば大丈夫だよ!
……あるよね、愛?
なるべく外堀は埋めておいた方が良いよね。
そのためにソラお姉ちゃんにカミングアウトしたっていう面もあるし。
「ソラお姉ちゃん、もっと祝福して! なんていうか、こう……結婚式みたいなノリで!」
「け、結婚やて!? アカネはん、落ち着くんや!?」
こういう無茶ぶりでも、ソラお姉ちゃんなら対応してくれるって信じてる!
案の定、得心したみたいな顔を返してくれた。
段取りは任せたよ、ソラお姉ちゃん!
「分かりました! とことん祝福しましょう!」
「ソラ姐さんの適応力が恨めしい!」
ベッドの上であぐらをかいていたミカンちゃんを持ち上げて、床のクッションに座らせ直して。
ソラお姉ちゃん自身は、ベッドの上で正座を始めた。
あと、パッと光って青い魔法少女装束へと変身しちゃった。
なるほど、正装の代わりってことだね!
私も変身しとこ。
ミカンちゃんもするんだよ、早く!
こうして、ベッドの上に座っているキジシスターと、床のクッションに座っている二人が向き合う構図が完成した。
キジシスターが聖職者で、私たち二人が結婚当事者ってことだね!
その左手に持ってる分厚い本はただの国語辞典なんだけど、ソラお姉ちゃんが真面目な顔して持ってると聖書的な何かに見える。
ソラお姉ちゃんの段取りが良すぎて、絶賛困惑中のミカンちゃんも流されっぱなしみたい。
「いつくしみ深き 友なるイエスは~♪」
しかも、まさかの讃美歌!?
思ってた以上に本格的なヤツが来ちゃった!?
しかも上手い。
さすがソラお姉ちゃん……。
「つみとが憂ひを とり去り給ふ~♪」
しばらく続いた歌唱パートが終わって、思わずサルシスターと一緒に拍手しちゃったよ。
ホントは結婚当事者も歌詞カードなんかを見ながら歌うんだろうけど。
さすがにそんなの覚えてないし。
っていうか、なんでソラお姉ちゃんそんなの歌えるの??
「イヌシスター。
汝はサルシスターを伴侶とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、これを永遠に愛することを誓いますか?」
「誓います!」
即答。
ミカンちゃんがツッコミを我慢した顔をしたけど、黙殺しとこ。
キジシスター、なんか聖職者がハマり役かも。
長い口上も堂に入ってる感じ。
実は結婚式に結構憧れがあったりするのかも?
「ソラ姐さん、コレってワイもやらなアカン? あと結局名前ってサルシスターの他に何か無かったん??」
「まぁまぁ、アカネちゃんの気持ちに整理をつけるためだと思って御付き合いください」
「サルシスター。
何時はイヌシスターを伴侶とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、これを永遠に愛することを誓いますか?」
「ち、誓います……」
ミカンちゃん、物凄くフクザツそうな顔をしながら頷いたね……。
ノリノリで聖職者を続けるソラお姉ちゃんとの温度差が凄い。
でも愛を誓ってくれたことを建設的に受け止めるべきだよね!
ソラお姉ちゃんが乗ってくれてる間に、外堀は埋められるだけ埋めなくちゃ!
私の方からソラお姉ちゃんへと、アイコンタクト!
式の進行を促してみた。
ソラお姉ちゃんは、瞬時に私の言いたいことを察してくれたみたい。
さすがソラお姉ちゃん。
すぐに真面目な顔に戻って、聖書を片手に式の進行を再開してくれた。
「両者……誓いのキスを」
まぁ指輪交換に関してはいきなり現物なんて用意できないから、スキップが妥当だよね。
ミカンちゃん、驚いてソラお姉ちゃんの方を見ちゃってる。
何か抗議の言葉を考えているのかも。
そんな隙、与えないよ?
花嫁から目を逸らすのが悪いんだよ。
ミカンちゃんの頭に手早く腕を回して。
抱き寄せてキスをしてあげた。
驚きと羞恥心で耳まで真っ赤になっちゃってるミカンちゃん、可愛い。
昨日はもっと激しいことをしたはずだし、キスぐらいで動揺するのもヘンなんだけど……ソラお姉ちゃんに見られて興奮してるのかな?
「……ふぅ」
長いキスを切り上げて、ミカンちゃんの真っ赤な顔をもう一度みて。
ソラお姉ちゃんからの拍手を貰って。
「大好きだよ。ミカンちゃん。ソラお姉ちゃん」
一歩ずつでも、幸せな未来に向かって歩いていけているんだって思った。
……本気で、そう思ったんだ。
溺愛している彼女がノリノリで聖職者を始めて、その目の前で別の女との結婚式をやらされる猿渡ハッサク君の心境を述べよ。(10点)