平和で穏やかな日々をおくるアカネちゃん。
こんな幸せな日々が続くと良いなぁ……。
私が去年の春まで通ってた小学校で、夏休みのプールの解放日があるって聞いたんだ。
だからミカンちゃんを誘って、二人で遊びに行って。
そしてその帰りに、なんとなく二人で立ち寄った児童遊園の一角のベンチで休んでいたんだけど……。
「ミカンちゃん、起きてる?」
……返事が無い。
小声で囁いた私の言葉に対して、全く反応が来ない。
木陰のベンチで私の隣に座ったまま、ミカンちゃんは寝入っちゃったみたい。
まぁプールで遊んだ後だし、お互いに思った以上に体力を消耗しているのかも。
横から少しだけ体重をかけられているのを感じる。
安心しきった寝顔を見せられると、全幅の信頼を感じるというか。
学祭の時に強引に押し倒した一件は後から考えると絶縁されてもおかしくない「やらかし」なんだけど、全然尾を引いてないみたいだった。
少なくとも、襲ったことに対して恨み言は一度も聞かされてないハズ。
なんだか、嬉しいような、申し訳ないような。
私としては、こうして私の隣で過ごしてくれるミカンちゃんの存在を本当に嬉しく思っているけど。
ミカンちゃんにとって、私って何なんだろう。
友達以上……ではあると思いたいし、恋人同士であってほしい。
襲ったことを不快に思われない関係って、少なくとも「友達」は確実に飛び越してるよね?
「あっ、鳥山先輩。こんにちは?」
「犬飼と、松本か。久しぶりだな」
……そんな私達の近くを偶然通りかかったのは、鳥山先輩だった。
いつも通りメガネをかけていて、なんだか知的な雰囲気がある先輩だ。
ベンチの端に置いてある私のプールバッグから大体の事情を察してくれたみたい。
私達がプール帰りなことも察していそう。
けど、なんだか少しだけ腑に落ちないっていうか、不思議そうな顔をしたみたい?
なんだろ?
髪に変なクセでも付いちゃってるかな……?
「何かヘンですか?」
「たぶんプール帰りなんだとは思うが、プールバッグが一つだけなのは状況として少し不思議ではあるな」
……よくそんなトコに気づくね、鳥山先輩?
確かに、私とミカンちゃんで二人分のプールバッグがあった方が自然だよね。
実はそれには理由があってね。
「実は昨日の夜に突発的に私から誘ったんだけど、ミカンちゃんが水着持ってないっていうから、私の使ってないのを貸したんです」
自分で貸すって言っておいてなんだけど。
9割方冗談のつもりだったんだよ?
だって、他人の水着って着るの抵抗ない??
なのにミカンちゃん、即決だったんだよねぇ……。
水着選びのセンスなんて全く分からんからアカネはんを信じるで、なんて言い切ったんだ。
まぁミカンちゃんがヘンな子なのは今に始まったことじゃないけど。
「そんな訳で、私が二人分持って帰るからプールバッグは1個なんです。あっ、写真見ます?」
スマホで写真とってあるから、折角だし鳥山先輩にも見せびらかしちゃお♡
私のミカンちゃん、可愛いでしょ?
いつもの能天気そうな笑顔がバッチリ決まってるし、楽しそうにピースしてる。
「なるほどな。二人ともよく似合っていて可愛いが、確かに松本の着ているヤツは大分少女趣味かもしれないな」
私達の着ていた水着はどっちもヘソが見えるタイプのセパレート水着なんだけど。
ミカンちゃんに渡した方はフリル多めで……しかも、色はピンク。
可愛いと思いつつ、自分で着るのは勇気がいる色だよね。
「松本は何も言わずにコレを着たのか?」
「あんまりにノーリアクションで着たから、流石にツッコんだけどね……」
――正直あんま水着の良し悪しなんて分からんけど、たぶん可愛いんとちゃう?
ミカンちゃん、たぶん本当にオシャレについて考えたことが無さそう。
いつもTシャツに短パン姿だし、私服でスカートとか持ってないタイプだと思う。
だからこそ、逆にあんな少女趣味全開の水着を躊躇いなく着られちゃうんだ。
「なんかアイドル感ある気がするんだよな、松本って」
アイドル感……?
そう言われてみたら、ミカンちゃんのフルネームを聞いた時に一瞬だけそんな話題があったかも?
改めて、スマホの中のミカンちゃんを見てみた。
ヘソ出しでピンクのセパレート水着を着こなして、明るく笑っている姿は……言われてみると、こんなアイドル居そう!
あと変身後の方の金髪でイメージすると、なんでか見たことある気がする!
女児アニメの主人公でこんな感じの人って、絶対いるよ!!
ちょっと具体的な名前は出てこないけど、こんな感じの主人公は絶対どこかで見たよ!
無暗に胸を盛らない感じとか、女児アニメ感ある!
「なんか、そんな主人公をどこかで見たような……?」
「そうだな、ありがちな話だが。
オシャレに興味が無いけれど天性の魅力を持っている女の子が、ひょんなキッカケからオシャレに目覚めてモテたり無双したりしていく感じか?」
「絶対にどこかで見たヤツ!!」
っていうか、変身後のミカンちゃんがモテてるのって確実にそれだよね!
そもそも魅力的な素養を持ってる子が、あんなフリフリで可愛い姿に変身したら、そりゃモテるよね!!
ミカンちゃんに結婚を申し込みに行く園児たちも、確実にその辺りの雰囲気を肌で感じてるんだ!
お子様たちなんかにミカンちゃんを奪われるとは思わないけど、一応警戒だけはしなくちゃ……!
安心しきった顔でベンチで寝入ってる場合じゃないよ、ミカンちゃん!
間違っても男子の前でやっちゃダメだよソレ!
勘違いした男子にエッチなことされるからね!!
「……犬飼。自覚は無いかもしれないが、少しだけ変わったな」
「そう、ですか?」
内心で警戒心を新たにしていると……鳥山先輩から、思いがけない言葉が飛んできた。
私が、変わった?
確かに失恋したりミカンちゃんを押し倒したり、まぁ色々あったけど。
その辺りの事情を全然知らないハズの鳥山先輩から見ても、私って何か変化があるの?
「少し前までの犬飼だったら、『私はどうしてそんなふうに笑えないんだろう』なんて劣等感を抱えていたと思うぞ。
でも今は、松本が褒められたことを犬飼も嬉しく思えるようになっているじゃないか」
言われるまで気づかなかったけど。
そう言われたら、そうかもしれない。
屈託なく笑ってキラキラしているミカンちゃんの事が羨ましくて妬ましい、って少し前までの私なら思ってたかも。
今でもそういう発想が全くない訳じゃないけど、あんまり表面化しないっていうか。
なんでかなって思ったら、自分が好きな人が褒められたら嬉しくなる……ってことなのかな。たぶん。
あとはミカンちゃんと関係を結んだことで、ちょっと自信がついたのかも?
……誰かに愛されるのって、本当に大事だ。
――
――この差がどこから出てくるのか、自分自身の心に聞いてみるんだ。
「ちょっと前までミカンちゃんを素直に祝福できなかったのは……たぶん、自信が無かったからです」
ソラお姉ちゃんぐらいカンペキだと対抗心なんて湧かないんだけど。
ミカンちゃんが相手だと、どうしても比べちゃうっていうか。
どうしてミカンちゃんばっかりモテるんだろ、って思っちゃうトコはあったと思う。
私だって頑張ってるのに、って。
でも私を隣で支えてくれたミカンちゃんの存在が、私に少しだけど自信をくれた気がするんだ。
「でもミカンちゃんの優しさが私を救ってくれて、私もミカンちゃんを愛し始めて。そうしたら何だか考え方が変わった気がするんです」
「愛は人を変える、か。良い変化だと俺は思うぞ」
穏やかな笑顔のまま、肯定的な返事をくれた鳥山先輩。
なんていうか、年上ってだけじゃなく人間としての余裕を感じる……。
1コしか年齢は違わないハズなんだけど。
まぁ余裕といえば、ミカンちゃんもそうなんだけどね。
良くも悪くもマイペースで、気ままに過ごしてるっていうか。
今だって、一緒にベンチに座ったまま無防備に寝入っちゃってるし……。
「…………おん?」
「お目覚めか、眠り姫」
あ、ちょうどよくミカンちゃんが目を覚ましたみたい?
なんだか、あんまり寝起きが良くないのかも。
ぼーっとしてる感じ。
いつも飄々としてるせいもあって、こういう弱弱しい姿を見ると何だか胸の奥がザワつくっていうか……。
なんか、こういう何気ない隙間に見せる表情も可愛いんだよね、ミカンちゃん。
「ふぁ……? どういう状況やねん……?」
ミカンちゃん、寝ぼけ眼のままだけど、鳥山先輩の姿を見てちょっと不思議そうな顔をしてる。
そうだよね、ミカンちゃんが寝入る前は鳥山先輩いなかったもんね。
「落ち着いて聞いてくれ、松本。
松本が寝ている間に『AC7』が発売され、『HUNTER × HUNTER』は完結したし、令和は終わって平成が息を吹き返したんだ」
真面目な顔して何言ってるの鳥山先輩!!!??
鳥山先輩と私で、医者役と看護師役をやれってこと!?
色々無理があるよね!?
室内ならともかく、現在地は開けた児童公園だし、風景が全然変わってないのは見て分かるでしょ!
時代が大きく変わったっていうネタには無理がありすぎるよ!
あと平成が息を吹き返したって何なの?
言葉で聞いても何が起こったのか想像できないよ!?
「時間が経ったのか戻ったのか、ハッキリせえよ??」
「刻が未来にすすむと誰がきめたんだ?」
「さすがにワイらの年でそんな昔のガンダム分かる奴おらんで??」
「このネタが通じたことに一番驚いているのは俺かもしれない……」
あ、それガンダムのネタなんだ?
ガンダム談義に花を咲かせ始めた二人の話を聞き流して、スマホでググっちゃお。
ふーん、「∀ガンダム」っていうんだ。
1999年に放映って……もう24年も前の作品だよね。
二人とも、なんでそんな昔の作品知ってるの??
根強い人気があるシリーズなイメージあるけど、絶対に世代じゃないでしょ?
でも、なんか二人とも楽しそうに話してる。
あのモビルスーツが格好良かったとか、股間にコクピットを付けるセンスだけはダサいとか。
あんまり楽しそうに二人が話すものだから、何だか胸の奥がモヤモヤしてきた。
なんでか、ミカンちゃんと鳥山先輩って馬が合うみたいなんだよね。
思い返してみると、ミカンちゃんって男子向けのモノを結構好きそうかも。
まぁガンダムを見てるってだけならソラお姉ちゃんもそうなんだけど。
名乗りを決めようなんて言い出したこともあるし、可愛さに全然興味ないみたいなトコロもある。
まさかとは思うけど、ミカンちゃん……鳥山先輩のことを好きになっちゃったりしないよね?
段々不安になってきた。
鳥山先輩って私が落ち込んでた時にも相談に乗ってくれたし、良い人なのは間違いない。
だからこそ怖いんだ。
やっぱり、このあと私の家で愛を確かめ合わなくちゃ……!!
「NTRは良いぞ。俺たちはキラ・ヤマトから、他人のヒロインを奪うことの尊さを教わっただろう?」
「あんなんただのヤリチンやんけ! だいたい、相互寝取りって性癖ハードル高過ぎやろ!」
いつの間にか口論になってる??
どうしてそうなったの??
途中の会話を殆ど理解しないで聞き流してたから、どういうふうに話が飛んでこうなったのか分かんないよ!?
でも、やっぱりガンダム界隈の人に友情なんて存在しなかったんだね!
これで安心できる!
「ま、まぁ、二人とも落ち着いて……? あっ、でも略奪愛は私も良くないと思うよ」
「「…………」」
言い合いをしていたミカンちゃんと鳥山先輩が……ピタリと会話をやめた。
二人分の無言の視線が私に向いてる。
何か言いたいことがあるけど
何なの!?
えっと、何も変なコト言ってないよね、私!?
略奪愛はダメって言ったけど、私は別に略奪愛の前科なんて無いよ!?
猿渡君の時は素直に引き下がったし、ミカンちゃんは彼氏なんて居ないって言ってたし!
なんで二人とも、そんな物言いたげな目を向けてくるの!?
分かんない!
ホント、ガンダム界隈の人ってワケ分かんないよ!?
でも二人があんまり意気投合すると私も不安になっていくだろうし。
口喧嘩してくれてるぐらいがちょうど良いのかも。
「そういえば、ガンダムSEEDの劇場版の公開日が決まったらしいな。良かったら一緒に行くか?」
「行くで♡」
えええ??
即決で頷いちゃうの???
ミカンちゃんたち、さっきまで口論してたよね!?
なんでそんな、四コマ漫画の列が変わったみたいなノリで雰囲気を切り替えられるの!?
やっぱりガンダム界隈の人ってワケ分かんない!!
あとがき
ミカンちゃんを鳥山先輩に取られる可能性に怯えるアカネちゃん。
おかしいな、どこかで同じ構図を見た気がするぞ……?