まさかのガンプラ作成回。
一応ミカンちゃんは話の中心には居ますが、ガンプラ知識は特に必要ないので安心して御覧ください。
どちらかというと、ミカンちゃんを見守っている犬飼さんと鳥山アニキの会話の方がメインです。
「待たせたな、松本。……あれ? 犬飼もいるのか?」
「言い忘れとったわ。堪忍やで」
「御世話になります」
昼下がりに、最寄りの駅前で。
私とミカンちゃんの待ち人は、鳥山先輩だ。
鳥山先輩、私が一緒に待っていることを知らなかったみたい。
どうしてこうなったかというと……。(ドンブラ感)
まぁ場面転換して回想シーンを挟むような長い粗筋がある訳でもないんだけど。
昨晩、ミカンちゃんとメッセージのやりとりをしてたら、見逃せない内容が流れてきたんだよね。
なんかミカンちゃんが、プラモデル作りに初挑戦するらしいんだけど。
鳥山先輩が持ってる工具類を使わせてもらえるみたいで、ミカンちゃんは一人で遊びに行くつもりみたいだったんだよね。
……なんだか、嫌な予感がしたんだ。
この間のプール帰りの時も妙に息がピッタリで仲良しだったし。
ミカンちゃんと鳥山先輩を二人きりにしちゃいけない、って私の勘が言ってたんだよ。
警戒心が足りないミカンちゃんのことだし、ラッキースケベみたいなハプニングがあってもおかしくない。*1
だから、私も一緒についてきちゃった。
そんなこんなで、鳥山先輩に先導されて私達は駅から歩き始めた。
賑やかな駅前商店街を抜けて、段々と人気の少ない裏路地へと鳥山先輩は足を進めた。
鳥山先輩は信頼できる人だから大丈夫だと思うけど、女の子を露骨に人気のない所へ連れ込むのって正直どうかと思うよ??
それはともかく。
鳥山先輩が足を運んだ先は、個人経営っぽい小さな玩具屋さんだった。
店の中は、予想外に狭かった。
入口の近くには駄菓子コーナーがあるけど、基本的には玩具専門店みたい。
魔法少女っぽいステッキだったり、変身ベルトだったり、そんな感じの箱が積み上げられてる。
……そういえば、私達って変身アイテム的なモノを持ってないよね。
コンパクトみたいな変身アイテムを持ってても良さそうなものなのに。
「おやっさん、お久しぶりです。奥のプラモコーナーを見せてもらいますね」
レジの奥に座ってる仏頂面のお爺さんは、店長さんなのかな?
何も返事をくれない店長さんの前を通って、鳥山先輩は狭い店内の通路を迷わずに進んでいった。
ミカンちゃんは気楽な調子で「まいどー」なんて言いながら店長の前を通り過ぎた。
私は一応店長さんに会釈だけはしたけど、やっぱり返事は無かった。
奥の方には少しだけ開けたスペースがあって、そこには……プラモデルの箱が壁一面に埋まっていた。
なんていうか、スゴイっていう感想しか湧いてこなかった。
この壁に面した棚に収納されてる箱って、全部プラモデルの箱なの……!?
チラっとミカンちゃんの様子を確認すると……目を輝かせてる!!
心の底からワクワクしてる。
純真な子供心、っていうのかな。
そういう可愛いものが内面から湧き出してる感じ。
そんなミカンちゃんの様子を見て、鳥山先輩も何だか嬉しそう!
やっぱり、ミカンちゃんと鳥山先輩は二人きりにしちゃいけない気がする!!
「初心者向けとか上級者向けとかの区分はある程度は存在するが、基本的には本人の好みを優先するのが吉だと思うぞ」
経験者のコメントが、参考になるような、ならないような……。
ミカンちゃんも、目移りしちゃってる。
そんなミカンちゃんを、鳥山先輩は優しく見守ってる。
微笑ましい、って目が言ってる気がする。
ミカンちゃんは、あっちこっちで箱と睨めっこをしてるけど。
あんまり待たせると鳥山先輩に悪かったりしない……?
ちょっと申し訳ない感じがしてるところで、鳥山先輩と目があった。
鳥山先輩は、私の気まずさを察してくれたみたい。
「まぁ、こういうのは悩んでいる時間まで含めて楽しかったりするからな。気長にいくつもりだ」
男の人って、こういうウィンドウショッピングにあんまり理解がないイメージあるけど。
いわゆる「女の買い物は長い」みたいなの。
でも、穏やかに笑っている鳥山先輩は平気な人みたい。
有難いけど……ますます不安になってくるよ。
二人きりで行かせていたら、どうなってたんだろ。
「バルバトスだけで、こんな種類あるんやなぁ?」
「バルバトス第6形態なんて言われても、『それってどの時期のヤツだっけ?』ってなるよな……」
全部同じじゃないの……??
見た目が黒かったり頭身が違ったりする商品はハッキリ違うって分かるんだけど。
正直、バルバトスって名前が付いてる箱の半分ぐらいは違いなんて分からないよ……。
「漠然としたもので構わないが、何か方向性は無いか?」
「せやなぁ……? 変形するヤツ!」
「主役機だと、ゼータかウイング辺りだろうな。AGE-2とユニコーンも一応そうか」*2
鳥山先輩、もしかして歴代の全てのガンダムを把握してるとか、そんなことある??
さすがにそんな訳ないと思うけど。
ガンダムって昭和の時代から延々と作られ続けてる、いわゆる「終わらないコンテンツ」なんでしょ?
そんなの全部追ってるなんて、さすがに有り得ないよね……?
昭和生まれの歴戦のオタクなら分からなくもないけど、鳥山先輩って中3でしょ??
「良さそうなんがあったで!」
ミカンちゃんが持ってきた箱は……結構大きいね。
両手抱えるサイズの箱だ。
えーと、商品名は……「MG 1/100 Ζガンダム Ver.2.0」で良いのかな?
それを見た鳥山先輩は、言葉を詰まらせたみたいだった。
ミカンちゃんも、鳥山先輩の様子がおかしいことを察したみたい。
「おん……? なんかアカン心当たりでもあるんか?」
「初心者向けとは言い難いのは間違いないな……」
鳥山先輩のザックリした解説によると。
MG(マスターグレードの略なんだって)は組むのが難しい部類みたい。
しかも、変形するガンダムって部品の数が多くなりやすくて、あまり初心者にオススメは出来ないみたい。
ついでに出された例は、結構分かりやすかったかも。
SNSとかで「じっくり育てたいオタク」の構文を使う場合、そのガンプラを初心者に勧める人間は間違いなく「崖から突き落として生き残った奴を選別するオタク」に分類すべきだって。
「ちな……その構文やと『関わってはいけないオタク』って、どないなヤツなんや?」
「初手からプラ板とパテを取り出してくる奴だろうな」
ぷらばん?
ぱて?
よく分かんないからスマホでググっちゃお。
…………え?
なにこれ?
プラモデルを買うとかじゃなくて、自分でゼロからプラスチックの部品を成形するとか、そういう話??
意味わかんないっていうか、プラモデルってそういう物だっけ??
そんなの出来る技術があるなら、趣味じゃなくて仕事にして暮らしていけるレベルじゃないのソレ??
ミカンちゃん、箱に目を落としながら悩んでる。
ガンプラ初体験の人間が手を出したら地獄を見る、って言われているようなものだもんね。
「一応経験者として、黙っているのも不誠実だと思って情報は出したけどな。
最後に物を言うのは松本自身のモチベーションだぞ。自分自身の気持ちを信じろ。『ガンプラは自由だ!』」
「……! せやったな、『名人』! コレにするわ!」
なんか、どこかのアニメの名シーンっぽい感じだった??
まぁそれはともかく。
結構古い商品だったらしくて、かなり値引きが付いたみたい。
良かったね、ミカンちゃん!
そんなこんなで、大きな箱を抱えて。
一路、私達は鳥山先輩の御宅へと向かった。
十分以上歩いて、辿り着いた先には……ちょっと古い感じだけど大きめの一軒家が立っていた。
豪邸っていうほどじゃないんだけど、ウチよりは明らかに大きい。
「まいどー!」
「お邪魔します」
上がり込むと、中は普通のフローリングの家だった。
鳥山先輩が言うには、昔は畳を敷いていたみたいなんだけど、畳は管理が面倒くさいからフローリングにしちゃったんだって。
壁紙を剥がしたら土壁が出てくるとか。
絶対に試しちゃダメだよ、ミカンちゃん!!
鳥山先輩の両親は、遠方の親戚のところに出向いているらしくて、今夜は戻ってこないんだって。
なので、リビングのテーブルを広く使って、ミカンちゃんの買ってきたセットを開封することになった。
なんだけど……厚紙の箱を開けてみて、ビックリ。
おびただしい量のパーツが繋がっていて、眩暈がした。
私の小指よりも小さいパーツが数えきれないぐらいに入ってる。
何なのコレ???
いや、ね?
ガンプラだっていうのは分かるんだよ?
でもさ、なんていうか、その、「なんていうか」なんだよ!!
設計図はあるんだろうけど、こんな膨大な部品を一つ一つ照合して組み立てていくの!?
頭おかしくなるよ、こんなの!?
ミカンちゃんも、さすがのパーツ量を前に尻込みしてるみたい。
今からでも鳥山先輩に買い取ってもらおう??
「松本……いけそうか? 無理だと思ったら引き返すのも勇気だぞ?」
「んー……。舐めとったのはホンマやけど、引き返すんはナシや! やっちゃるで!」
ホントにやるんだ、ミカンちゃん……。
二度切りとかゲート処理とか、聞いたことも無いような単語が飛び交ってる……。
へー、棒ヤスリって水で洗って良いんだ?
錆びたりしないの?
そんな感じで初心者向けのレクチャーが一通り済んで。
時計を見たら、16時過ぎだった。
昼過ぎに駅で待ち合わせて、そこから玩具屋に寄って結構悩んできたから、まぁそんなものだよね。
「少し早いが夕飯の用意をするから、犬飼も手伝ってくれるか?」
「頑張ります」
今夜のメニューはカレーだって。
お泊りの定番メニューだよね。
私は辛いのは平気なんだけど、他の人はどうなんだろ?
あ、固形ルウは中辛のを既に買ってあるんだ。
まぁ無難なチョイスだよね。
真剣な顔をしてプラモデルのパーツを切り出してるミカンちゃんを尻目に、私達は調理器具の準備を始めた。
ミカンちゃんが使ってるペンチみたいな工具、微妙にペンチとは形が違う気がするけど、何なのかな……?
え?
ペンチとニッパーとプライヤーの違い?
全部一緒でしょ、そんなの!!
とりあえずジャガイモを切るように頼まれた。
包丁と一緒に渡されたんだけど、こういうゴツゴツした形状の野菜の皮を包丁で剥くのって、ちょっと不安かも……。
ピーラーとかあります?
そんな私の懸念を手つきから瞬時に察してくれた鳥山先輩が、ミカンちゃんの方へ声を飛ばしてくれた。
「松本ー? ジャガイモって皮付きで平気か?」
「構へんでー」
切るだけで大丈夫だぞ、なんて穏やかに笑いながら鳥山先輩はフォローしてくれた。
ぐぬぬ……。
1コしか年齢は違わないハズなのに、なんていうか、こう……大人感みたいなのを感じる。
年上ってだけじゃない、人間としての余裕みたいな。
――年上で、カリスマか頼り甲斐があってリードしてくれる人……ですかね?
――その人の大人びたところを好きになったけれど、子ども扱いされるのも内心複雑だ、なんて思っていそうで……。
人柄を知れば知るほど、ミカンちゃんのストライクゾーンのド真ん中だ。
もし私が来てなかったら、二人でイチャイチャしながら夕飯作ってたんでしょ? 新婚夫婦みたいに! 新婚夫婦みたいに!!*3
まぁそれはともかく。
力任せに包丁ギロチンをかまして。
無事、ジャガイモは成敗された。
……と思ったんだけど。
「犬飼……? その、なんだ。ちょっと……ジャガイモの切り方が大味気味かもしれないぞ」
えっ……??
鳥山先輩が切った野菜類と合流させようとしたら、待ったをかけられた。
言われて踏みとどまってみた。
よく観察してみると、ジャガイモの残骸はサイズに大分バラつきがあるけど……鳥山先輩が切ったニンジンと比べたらかなり大きいかも。
「そ、そうかな……? さっきネットで見たレシピの写真でも、こんな感じだったような気が……?」
「そういうサイトや料理本は見栄え重視で具材を大き目に切ってあったりするから、大きさに関しては参考にしない方が良いぞ」
そうなの!?
なんか料理をしてる私の方が、ガンプラに対するダメ出しみたいな講評貰っちゃった!?
ガンプラを作ってるのはミカンちゃんの方なのに!
「あとはまぁ、具材が大きいと口の中を火傷しやすくて危ないしな。犬飼も身に覚えが無いか?」
「そう言われたら、確かに……」
具材が大きいと、ふーふーしても全然中が冷めないし、それで口の中を火傷した経験はあるなぁ……主に犬飼家の食卓で。
そう言われてみたら、特に口が小さい子供なんかが食べるときは小さく切った方が優しいよね。
なかなか、うちの家族からは出てこない発想な気がする。
いわゆる「料理は愛情」ってそういうところに現れる概念なのかも……。
とりあえず、大きめのジャガイモはもう半分に割っとこ。
「あっ、でも小さく切ると煮崩れしやすくなるんじゃないですか?」
「逆に考えてみると良いぞ。そもそも、煮崩れすると何が問題なのか」
煮崩れの、問題点……?
ええっと?
いきなりそう言われても、何が何やら。
料理の見栄えが悪くなるから?
……また、見栄えの話だ。
料理本とかサイトとかだと煮崩れは悪みたいに書かれてるけど、冷静に考えたら見栄え以上の意味が無い感じ?
「見栄えの問題だけ、かも……?」
「見栄えも大事ではあるんだけどな。ロボットなんかは見栄えが良くないとジャンルとして成立しないところはあるしな」
チラっと鳥山先輩が視線を向けた先を、私も見ちゃった。
部品が
ムキになっていて、ちょっと焦れていて……でも、楽しそうだ。
なんだか、キラキラして見えた。
……私には無い輝きだ。
単純な見栄えの話じゃない、心の中から見える綺麗なモノだ。
って、私が目を離している間にジャガイモやニンジンがまとめてレンジで加熱されてる。
鳥山先輩は慣れた手つきで大鍋の底に少しだけ油を敷いて、タマネギや鶏肉に軽く火を通してる。
そして、レンジから出てきた野菜類と水を大鍋に投入して、しばらく加熱。
この時の過熱時間が本当は結構かかるらしいんだけど、今回は電子レンジで時短したんだって。
火を止めたら、カレールウや各種隠し味を投入して混ぜ続けると……いい感じにトロ味が出てきた!
ああー♡ 良い匂い♡
お腹が鳴ってきちゃった!
あと炊飯器の方からも良い匂いがしてる!
「犬飼、手伝ってくれてありがとうな」
「えへへ! どういたしまして!」
達・成・感!!
もっと褒めて♡
冷静に考えたら私はジャガイモ切っただけで、後はほとんど鳥山先輩がやった気もするけど!
そんなこんなで、楽しい晩餐会を終えて。
熱いお茶をすすりながら、何となしにゆっくりする時間が流れた。
「それで、松本。ゼータの進捗の方は?」
「もうすぐ足が一本出来るで」
えっ……?
夕食前にも、かれこれ一時間ぐらい作業してたよね?
それで、まだ足一本が出来てないの……??
「まぁ初心者がいきなり
「どっしり構えとくわ」
そうなの?
工程や手順がおかしいとかじゃなくて、本当にそのぐらいの時間感覚でやるものなの??
まぁあのパーツ量だし、そんなものなのかも……?
気が遠くなるような作業だ。
お茶を飲み干して。
ミカンちゃんは、作業へと戻っていった。
とは言っても、同じリビングルームの中にいるんだけどね。
相変わらず真剣な顔して、設計図を見ながら唸ってる。
ランナーの山を漁って、目当てのパーツを探しているみたい。
そんなミカンちゃんを……何だか私は、遠くを見るような目で見てしまっていた。
「好きなことに夢中になってる人って、なんだかお星様みたいだなって思うんです」
ぽつり、と。
お茶をすすりながら寛いでいる鳥山先輩に対して、零してしまった。
少しだけ考え込んだ様子の鳥山先輩は、でもすぐに私の言葉の奥底を察してくれたみたい。
「輝いてて、綺麗だなって思うんです。でも……」
「手が届かないぐらいに遠くに見える、か?」
鳥山先輩にも、そういうのって……あるのかな?
何だか、あんまりそういうイメージがない気はする。
大人びていて、落ち着いていて、ちゃんと好きなものもあって、楽しそうに生きている人だ。
本当に苦しい時の猿渡君を助けてあげて、今でも頼られている先輩だ。
「でもな、犬飼。輝いて見えているなら……その相手への『好き』が、ちゃんと犬飼の心の中にもあるってことじゃないか?」
……一瞬だけ、鳥山先輩の言っている言葉の意味を呑み込めなかった。
だって。
私は……心のどこかで、ミカンちゃんに対する「好き」にも自信が持てずにいたから。
――すぐ傍で支えてくれる親友って子のことは、最後に『ありがとう』って言えるぐらいに好きっスか?
――言えると思う。
ホントは、前に猿渡君に聞かれた時、内心では戸惑ったんだ。
学祭での失恋の後で自暴自棄になっていた時に、卑怯な騙し打ちの形で押し倒した相手だったし。
猿渡君の代わりを求めているだけなのかも、って私自身ですら自分の心に確証が持てずに居たんだ。
だから仲良し結婚式だなんて外堀を埋めるような真似をした。
形に見える何かに頼らなくちゃ、不安で堪らなかったんだ。
でも、そんな私の心を肯定してもらったように思った。
私のミカンちゃんに対する想いも、「好き」だと呼んで良いんだ、って。
なんだか……心が軽くなったような気がした。
それは同時に、遠いように見えたミカンちゃん達と同じ輝きが私の中にもあるっていうことで。
実は私が欲しかった言葉だったのかもしれない、なんて今更ながら思った。
――実は俺、犬飼さんの好きな相手って鳥山アニキだと思ってたんスよ。そっちの線って無いんスか?
猿渡君がそう言った気持ちも、分かる気がした。
今の私の胸の中がこんなに暖かいのは、鳥山先輩の言葉のおかげだから。
もしも、あの日にミカンちゃんを押し倒していなかったら……鳥山先輩に恋をする未来もあったと思う。
たらればの話だけど。
「
「ちょっと見てくる」
「はーい」
そうやって、穏やかな時間が流れて。
少しずつ、夜が更けていった……。
「ん……」
チュンチュン、なんて雀の鳴き声を聞きながら、私は目を覚ました。
ソファに座りながら眠っちゃってたみたい。
朝に雀の鳴き声を聞いたせいでエッチなイベントの後みたいな気配を感じたけど……別に私の着衣は乱れてないし、何も無かったはずだ。
私と一緒のソファで鳥山先輩も寝入ってるけど、本当に何も無かったはずだよ。
たしか、ミカンちゃんの作業ペース的に完璧に泊まりコースだって話になったんだよね。
その話が出た時は、どこかの配信サイトから流してたΖガンダムの映画を鳥山先輩と一緒に見ていたはず。
でもなんか、やっぱり私はロボットは肌に合わなくて……たぶん途中で寝ちゃったんだと思う。
それで今に至る……と。
カーテンを開けなくても、隙間から朝日が入り込んできてる。
欠伸をしながら伸びをして、ふと思った。
ミカンちゃんの方はどうなったんだろう、って。
リビングの中の大きなテーブルに陣取って作業していたハズだ。
そう思って、テーブルの方を確認すると……全高20センチ程度と思しきΖガンダムが直立してる!*4
深夜何時までかかったのか分からないけど、無事に完成して良かったね!
まぁ私は昨晩の映画鑑賞では、そのΖガンダムっていうのが登場する前に寝ちゃったんだけどね。
形態変化を軽やかに使い分ける、二面性が魅力のガンダムだって鳥山先輩が言ってた気はするけど、アニメで活躍する姿を結局見てないや。
主役機が登場するまで長かったというか、全部で何分ぐらいあったんだろ、あの映画……。
……あれ?
ミカンちゃん当人は?
まだ少し眠気が残る頭で、私は辺りを見回した。
すると、すぐに見つけることが出来た。
うつぶせになって床に倒れてる!!!*5
頭から眠気が一気に吹き飛んじゃったよ!
ビックリして、思わずソファから立ち上がっちゃった。
恐る恐るミカンちゃんの傍に歩み寄ってみた。
脈拍か呼吸を確認した方が良いんだっけ、なんてテンパった頭で考えたけど、寝息が聞こえてきたから大丈夫そうかな。
「おつかれさま、ミカンちゃん」
私の呟きを耳に吹き込まれても、寝入っているミカンちゃんは何も言ってくれなかった。
起きる気配なんて全く無い。
「学祭のときは……酷いことして、ゴメン」
騙し打ちみたいなことをして襲ったのも、今度ちゃんと意識がある時に謝らなきゃ。
今はまだ、眠っているミカンちゃんの傍でそっと囁くだけでも。
「好きなことに夢中になってるミカンちゃん、何だかキラキラしてた」
まぁロボットは、その……私の好みじゃないんだけどね。
映画も途中で寝ちゃったし。
「だから、改めて伝えたいんだ。……大好きだよ」
ミカンちゃんが起きてから、しっかり伝え直そう。
ちゃんと「好き」になることができて、自信を持てた私の言葉で。
胸の奥が温かくて。
何だか幸せな気分で。
ちょっぴり自信が湧いてきて。
少し成長した今の私から贈りたい言葉だ。
私の、新しい第一歩だ。
そんな私の目は、身動ぎしたミカンちゃんの短パンのポケットから落ちた物を目で追っていた。追ってしまった。
罅割れたビー玉だった。
見間違えるハズもない。
あの失恋の日に猿渡君から貰って、落としたまま行方不明になっていたビー玉だ。
ウチの生徒ですらない部外者は拾える訳ないし、そもそも花火の後始末のことも考えたら拾った人間は一人しか居ないはずなんだ。
私の頭の中で、色々な思い出が一つに繋がりはじめた。
ミカンちゃん、初対面のはずの鳥山先輩に対しても距離感おかしかったよね。
ソラお姉ちゃんが猿渡君を惚れさせたのは……3人で勉強会をした日よりもずっと前からだったんだ。
どうして、言ってくれなかったの?
私がミカンちゃんを押し倒したとき、正体を明かせば身を守れたはずでしょ?
そう頭の中で疑問を生み出して……でも、すぐに答えは出てしまった。
私の、せいだ。私のためだ。
もしミカンちゃんに拒絶されていたら、どん底だった私がどうなるか想像させてしまったんだ。
結局私がしたのは、私自身の弱さを盾に猿渡君に迫って、関係を強要して不貞を働かせたっていうことだった。
卑怯で、最低で、最悪だ。
自分自身のことも、ミカンちゃんのことも、ちゃんと好きになれたって思っていたのに。
全部ひとりよがりだったんだ。
罅割れたビー玉の上から、大粒の涙が降り注いだ。
個人レベルだとそれ以前から使っていた人々は居たというハナシもあったり無かったりする模様。
なお原作では言っていない模様。
いわゆる「Ζザク」。
でもアカネちゃんはガンダムに詳しくないからイタズラには気付かなかったのだ……。