あらすじ
楽しいガンプラ作成回で鳥山アニキに励まされ、犬飼さんのメンタルは完全に持ち直すのであった。
だからこのタイミングで新たな曇らせイベントを発生させる必要があったんですね。
誰かのすすり泣く声が聞こえた気がしたんや。
硬いフローリングの床でうつぶせになって寝とったワイは、寝ぼけ眼でアカネはんの背中を見た。
鳥山家のリビングから出ていく背中やった。
嫌な予感がしたんや。
小さな背中を見せて鳥山家を出ていったアカネはんを、このまま行かせたら……何か、悪いコトが起こる。
根拠は無かったんやけど、そう思ってしもた。
ソファで寝入っとる鳥山アニキを置き去りにして。
裸足のまま、鳥山家の玄関から飛び出した。
「アカネはん! どないしたんや!」
ゆっくりと立ち去ろうとしとった背中に声をかけて。
そうしたらアカネはんも立ち止まってくれよった。
それだけで、少しだけ安心してしもた。
ワイを無視して立ち去るなんて反応を見せられんで、ホンマに良かったで。
ま、様子がおかしいんは変わらんのやけどな。
こっちに背中を向けたままで立ち尽くしとるアカネはんに、なんて声をかけるべきなんや?
さすがに揶揄うんはダメやと思うんやけどな。
そもそも、どうしてアカネはんがネガネガしとるのか分からん。
ワイと鳥山アニキが仲良くしとったから不安になったか?
それが一番有力やけど、なんかハズれとる気がするわ。
昨日アカネはんと鳥山アニキが話しとった時の感じやと、そのぐらいのことで不安定になる時期は乗り越えとった気がするんや。
アカネはんが、ようやくワイの方に向き合った。
泣き腫らしたあとの顔やった。
死んだ魚みたいな目や。
苦しんどる、って一発で分かった。
「お願い、正直に答えて。学祭の時に私が落とした大切なものを、ミカンちゃんが持ってたのって……どうして?」
「まさか……!?」
ワイは、とっさに短パンのポケットの中を調べた。
中には何も入っとらんかった。
学祭の時にアカネはんの手から転げ落ちた、罅割れたビー玉が……無いんや。
正直、頭の中が真っ白やった。
どう考えても、学園の部外者なミカンちゃんが持っとったらオカシイやんけ。
「それだけの言葉で、あのビー玉のことだって分かるんだね。……やっぱり」
「……!!」
……しもた。
カマかけられたわ。
そもそも、あのビー玉とアカネはんの関係を知っとる人間がおらんのや。
バレた。
ワイの正体が猿渡ハッサクやって、アカネはんは確信しとる。
つまり、ワイがソラ姐さんと交際しながら、アカネはんとも関係を持ったこともバレとるっちゅう話や。
1年前にアカネはんが傷ついたのと、同じ盤面が出来上がってしもたわ。
アカン。
言い逃れが、全く思いつかん。
そもそも猿渡ハッサクが、あのアカネはんの失恋シーンを他人に言いふらすのが有り得へんし。
これは……ワイの正体を誤魔化すんは無理やな。
「黙っとって、スマン」
「悪気があってそういう事をする人じゃない、って知ってるよ」
泣き腫らした跡が見える割に、アカネはん妙に落ち着いとるな……?
ヤな予感がするわ。
怒りが一周回ると静かになる人間がおるみたいなパターンか?
ネガティブ思考が一周して静かになっとるみたいな……??
「私のため、でしょ。私が無理矢理関係を迫ったから。
私が弱くてボロボロだったせいで、猿渡君は私を拒絶できなかった。そうでしょ」
……選択肢ミスったかもしれん。
むしろワイ、開き直るっちゅう選択肢あった気がするわ。
ハーレム狙っとるクズ男ムーブをしてヘイトタンクになる方が良かったのでは……?
ゲス笑いと顔芸かましながら「楽しかったぜェ?www お前との百合ごっこォwww」みたいな感じやな。*1
そうしたらアカネはんも、ワイを恨んで楽になれた気がするで……。
「それに関しては、ズルズル関係を持ってまったワイも同罪や。あんま一人で気に病んだらアカンで」
正直ワイの方でも、アカネはんへの下心がゼロって言ったら嘘になるんやで?
強引に押し倒されるんも案外エエもんや、なんて思っとるのも本音やし。
妹感あるって思っとったんやけど、アカネはんもちゃんとオンナなんやなって思い直したし、その姿を綺麗やと思ったのもホンマや。
「…………同罪なワケ、ないじゃん」
静かに苦しんどるアカネはんの顔に、別の感情が紛れ込んだように見えたわ。
これは……怒り、やろか?
けど、ワイの方に怒りが向いとるって感じや無さそうやな?
「自分のことだけで精一杯で、身勝手で猿渡君を傷つけた私と。
私を救うために身体を張って傷ついた猿渡君が……同罪なワケないよ。それぐらい、私だって分かるよ」
「誰かに罰を与えて欲しいんか? ソラ姐さんかて、そんなん望まんやろ」
うぎぎ……。
この場合、アカネはんにビンタ出来るのって立場的にソラ姐さんぐらいしか
けどソラ姐さん、そんなことせえへんやろ。
辛くて苦しかったんですね、なんて言いながら優しく抱きしめてくれるイメージあるわ。
「いくらソラお姉ちゃんでも、ムリヤリ彼氏を襲われたって知ったら流石にキレると思うよ」
そう言われたら怖くなってきたわ……。
っちゅーか、立場が逆でソラ姐さんが襲われとったら、ワイも絶対キレるわ。そんなん。
ソラ姐さんって穏やかに笑っとって、ブチ切れる姿なんて想像できひんのやけどな。
もし怒らせたら血を見ることになるかもしれん。
……1年前に、アカネはんが当時の先輩らにリンチされたみたいに。
「それにね。もしソラお姉ちゃんに許してもらったとしても……もう、私自身が嫌なんだ。
猿渡君とソラお姉ちゃんは、お互いのことを愛し合ってる。そんな二人の間女でしかなかった私自身が、どうしようもなく嫌になったんだ」
自分自身の事を、嫌いに……?
なんとなく言わんとするトコは分かる気もするんやけどな。
あくまで、「気がする」って程度の話や。
理解しとるとまでは口が裂けても言えんで。
分かった気になってソレっぽいこと言うたら、当事者を激怒させるパターンだってありそうや。
「アカネはんは、どないしたいんや?」
「魔法少女を、やめるつもり」
それ、魔法少女のルール手帳に項目があったハズやな。
確か怪物を108体倒したら、任意のタイミングで魔法少女を引退する権利が与えられるって書いとったか?*2
でも108体なんてまだまだ先の話やろ。
ワイらと一緒に戦い続けるんが辛いっちゅう話なら、そないな悠長な話を始めるやろか……?
「108体なんて気が長いコトを言い始める顔には見えんで?」
「実はあるんだ。魔法少女をやめる……っていうより、
二人の魔法少女が協力浄化技を当てれば、残りの一人を追放できるんだよ」
そんなん初耳やで??
けど、そもそも魔法少女のルール手帳自体が、アカネはんの夢に出てきた黒い龍から聞いた話を元に書いたモンやし。
意図的に歯抜けの情報を書いとるっちゅうんは……出来るかどうかで言ったら、出来るんや。
あと、ワイとソラ姐さんの協力技が成功した時にアカネはんの様子がおかしかったんは、そのルールのせいやったんかも?
ワイら二人がいつでもアカネはんを追放できるってなったら、自信が無いアカネはんは不安にもなるやろっちゅうハナシやで。
ま、そういう追放ルールを考えた人間の意図は分かるんやけどな。
そんな気軽にホイホイ追放されても困るから、そういう制限が設けてあるんやろ。多分やけど。
……せやけどな。
「そんなのイヤだ、って顔に書いてあるよ」
「……せやな。辞めたいっちゅうアカネはんの判断を尊重すべきやって、冷静な奴なら言うんやろけど。
それでも、やっぱワイは……アカネはんと二人で始めた魔法少女を、今のメンツで続けていきたいって思ってしまっとるわ」
何とか考え直してくれへんか?
往生際が悪いんを承知で問いかけたワイに対して、アカネはんは……苦しみの中にほんの少しだけ、嬉しそうな色を見せてくれよった。
……それでも、アカネはんの決意を変えるには足りんかった。
アカネはんの姿が、一瞬だけ赤い魔法少女になって……すぐに、真っ黒な全高2メートルぐらいの巨大人狼に変わっていきよった。
まるで、ワイらが普段戦っとる怪物みたいやった。
星に溜まった人間らの怨念を吸収して怪物化してしもた人間の姿や。
そんなん、意図的に吸収することなんて出来たんか?
たぶん星から直接吸収しとる訳やないと思うんやけど……今まで戦ってきた怪物から少しずつチョロまかしとったんやろか?
「街外れの廃工場で待ってるよ。ソラお姉ちゃんと一緒にケジメをつけに来て。
もし今日の日没までに来なかったら……猿渡君の身近な人が、酷い目にあうことになるよ」
漆黒の巨大人狼は、それだけ言い残して走り去ってしもた。
鳥山家の前に残されたんは、裸足で立ち尽くすワイ一人だけやった。
……こんなん、どないすればエエねん。
ワイとソラ姐さんで協力浄化技をブチかますしか無いんか?
アカネはんは、それを望んどる。
せやけど……他の道は、本当に無いんやろか?
とりあえず、鳥山アニキはまだ起きとらんやろし、書置きでも残しといたろ。
ソラ姐さんに早いトコ相談するんが大切やな……。
そんなこんなでソラ姐さんに連絡をつけて。
駅前百貨店の屋上でソラ姐さんを待ちながら、頭の中で話す内容をまとめとったんやけど。
……コレ、ワイの正体を明かさな話が進まんな。
アカネはんがメンタルやられとる原因を説明しようって思ったら、ミカンちゃんの正体を避けて説明するの無理やんけ??
一応、デュアルセラピーをぶちかますだけならワイの正体は隠したままでもエエんやけどな。
ソラ姐さんには追放の件を黙って協力させたらエエし、黒人狼の正体だってワイは知らんかったって
たぶんアカネはんが想定しとるんは、このルートやろな。
けど、やっぱワイはアカネはんを追放するなんて嫌やで。
……ワイの正体、やっぱ明かすしか無いやろな。
正直、メッチャ憂鬱や。
男やのに魔法少女やっとるってだけでも、ドン引きされるとしか思えんのに。
ソラ姐さんって初見のモノを安易に否定したりしない人やとは思うけど、流石にこの件はアカンやろ……。
しかも、仲良し結婚式の件もあるんや。
ワイとアカネはんがキスしとったのをソラ姐さんにはガッツリ見られとる訳やし。
おまけに、アカネはんと一緒に寝たんもバレとる。
アカネはんの水着を着た件なんて、かなりハイレベルな変態やと思われても仕方ないで??
そんな状況でソラ姐さんに身バレしたら?
……アカン。(悪寒)
悪い予想が次々に湧いてくるわ、こんなん。
破局のパターンが多すぎて逆に絞れんわ。
「……ミカンちゃん、お悩みのようですね?」
「おりょっ!!!?」
すぐ後ろから静かな声をかけられて、飛びあがって驚いてしもた!
ソラ姐さん、到着しとったんか!
全然気づかんかったで!
こんな駅前百貨店の屋上なんて、魔法少女の脚力でも無かったら誰も来られんし、着地音とかで気づきそうなモンなんやけどな。
あやうく屋上から転げ落ちるトコやった……。
まぁそれは置いといて。
ワイも、腹を括らなアカンな。
最悪、アカネはんはワイの近しい人らに危害を加えるって言うとった訳やし。
ワイの家族とか鳥山アニキとかが大怪我でもしたら、悔やんでも悔やみきれんわ。
「ソラ姐さんに謝らなアカンことがあるんや。実はワイ、隠し事をしとってな……」
今でもまだ、ホンマにソラ姐さんにだけは言いたくないって思ってしまっとるわ。
ワイの正体を明かさずに上手いこと切り抜ける方法があるんやないか、なんて頭の隅で考えてしまっとるんや。
……きっと、そんなワイのズルさがアカネはんを傷つけてしもたんやろな。
「これが……ワイの正体や」
ワイは、いつものTシャツと短パンの恰好のままで……身体を猿渡ハッサクへ戻した。
ソラ姐さんの動きが、ピタっと止まっとる。
次のソラ姐さんの言葉が怖い。
そう思ってしまっとる。
失望される理由に心当たりが多すぎんねん。
……怖くて、たまらん。
「これは、勇気をもって一歩を踏み出した人の手です。ミカンちゃんの……ハッサクくんの彼女は、そう言える人なんですよ」
無意識に握りしめとった、汗まみれの手を……ソラ姐さんが握ってくれとった。
いつも通りに穏やかに微笑んどって、オットリしとるソラ姐さんの姿や。
ワイに対して何の悪感情も持っとらん、って何も言われんでも分かったで。
いくつか記憶の確認の質問が飛んで来るかも、って思ったんやけどな。
キジシスターと初めて会った時とか、猿渡ハッサクの告白時とか。
ソラ姐さんの視点からしたら、他者に化けられる不審者が適当なコトを抜かしとるっちゅうケースがあると思うんやけど。
でも、何も聞かれんかった。
きっと、ソラ姐さんの中では今の暴露も信じるに足るって判断する理由があったんやろな。
いわゆる「女の勘」っちゅうヤツやろか?
あ、とりまミカンちゃんの方に姿に戻しとくわ。
生身のまま落ちたら洒落にならん高さやし。
ミカンちゃんで居た方が安心やで。
「今まで黙っとって、悪かったと思っとるんや……」
「一応、魔法少女って超常の存在ですからね。身バレに対しては、それぐらいの警戒心を持っていても損はないと思いますよ」
……なんやソラ姐さん、反応薄いわ。
そんな奇声とか驚愕とかを期待しとった訳やないけどな。
ここまで反応薄いと、逆に肩透かしな気がしてくるわ。
や、水着の件とかを突っ込まれたら困るし、藪蛇なコトは言わへんけどな?
男が魔法少女をやっとることに対して、全く思うところが無さそうなんは正直想定外やで。
アカネはんとの交際関係に関しても、ホンマに何も思うところは無いんか?
「しかしですね。今まで隠し通せていたのに、一体どのような心境の変化があったのでしょうか?」
「ちょい油断しとってな。……アカネはんにバレてしもたんや」
「むむ……?」
ソラ姐さん、考え込んどるな。
アカネはんにバレて問題になるケースを頭の中で仰山検討しとるんやろな。
「アカネちゃんから嫌われてしまいましたか?」
「それよりも、寝取り女みたいなコトをしてしもた自分自身に嫌気がさしたみたいな感じやったで」
アカネはんが魔法少女をやめてワイらと距離を置きたがってるコトを話して。
黒人狼のことや、アカネはんの要求も伝えて。
ワイとソラ姐さんでデュアルセラピーを打ち込めばアカネはんを魔法少女チームから追放できることまで報告したんやけど。
ソラ姐さん……真剣な顔して考え込んどるけど、怒っとる気配が全く無いんや。
――いくらソラお姉ちゃんでも、ムリヤリ彼氏を襲われたって知ったら流石にキレると思うよ。
そうアカネはんは予測しとったし、ワイもその危険性を恐れとったんやけどな。
ここまで全然怒りを見せないんは予想しとらんかったわ。
その辺、どうなっとんねん。
自分のカレシ君がムリヤリ襲われとんのやけど??
なんか、こう……嫌悪感とか嫉妬心とか独占欲とか、その他諸々の感情とか無いんか??
「ソラ姐さんが冷静で居てくれるんは有難いし、ワイも助かるんやけどな。さすがに冷静すぎんか……?」
「私とて、時と場合は弁えますよ?
いくらアカネちゃんが友情も恋心も自己肯定感も同時に破壊されたからといって、リアルの友人の苦境に興奮なんてする訳がありません」
おん……??
そういう意味の質問や無かったんやけど?
っちゅーか、真面目な顔して言い切りよったけど、それ興奮しとる人間の回答やないか……?
……や、深く突っ込んだら泥沼な気がするわ。(思考放棄)
きっと言葉の綾やろ。
まさかソラ姐さんが、そないなドギツい特殊性癖を患っとる訳ないやろ。
そんな鳥山アニキみたいなド変態がホイホイ見つかる訳ないやんけ!
まぁソラ姐さんが気にしとらんならエエか!
それより問題はアカネはんやで!
「アカネちゃんが変身したという黒い人狼ですけれども……デュアルセラピー無しでも倒せそうですか?」
「無理ゲーやな。イヌシスターに怨念パワーが加わって単純に強くなっとる感じやったし、厳しいと思うで」
「ままならないですね……」
黒狼にデュアルセラピーを打ち込んで倒し、アカネはんを魔法少女チームから追放……っちゅうんが最初に提示された解決法ではあるんやけどな。
ソラ姐さんも、まさかアカネはんを追放しようなんて思っとらんやろ。
アカネはんに対して怒ったり恨んだりしとらん雰囲気やし。
けど、ワイら二人で普通に殴っても厳しいと思うで。
「ソラ姐さんでも、今回ばっかりは手詰まりやろか……?」
「ふふ。見くびってもらっては困りますよ?」
ホンマに今回に限ってはダメかもしれん、ってワイは思ったんやけどな。
ソラ姐さんは、いつも通りやった。
穏やかに微笑んどって、ワイに見えん希望や未来をしっかり見通しとる人間の顔やった。
やっぱ、ソラ姐さんは最高やで!
最後に信じるべきは、やっぱりソラ姐さんやったんや!!
「逆に考えましょう。デュアルセラピーを使っちゃっても良いや、と」
「おん???????????」
やめて!
デュアルセラピーで焼き払われたら、アカネちゃんはイヌシスターの資格を失ってただの外野になっちゃう!
お願い、退場しないでアカネちゃん!
アカネちゃんが今ここで倒れたら、このSSの評価はどうなっちゃうの!?
NTR性癖を患ったソラお姉ちゃんの隙はまだ残ってる!
ここを耐えれば、大逆転寝取りで勝てるんだから!
次回、「犬飼アカネ 死す」。デュエルスタンバイ!!!