20話を最終回にするつもりだったのは本当なんですけれども。
一応、ソラ姐さんの身バレもあった方が納得感あるかな、と思ったので急遽追加しました。
あと、11話のオカルト回があまりにも分かりにくいという御指摘があったので、該当話の後書きの最後にひっそり白文字ヒントを追加しました。
番外編:魔法少女トリオと犬雉サンドイッチ大作戦
無事3人で、久々の魔法少女集会をすることが出来て。
お茶やジュースで乾杯して。
何でもないような語らいの時を過ごして……そんな楽しい一時の、話の切れ目に。
ソラお姉ちゃんが、私と一緒に内緒話をしたいって言い出したんだ。
それを聞いたミカンちゃんは、リビングで待っとるで、なんて言いながら私の部屋を出ていった。
内緒話って、何だろう?
……まさか、寝取りをやらかした件に関するお仕置き?
私のことは大好きだって言ってくれたけど、それはそれとしてケジメは必要だったりする……??
ソラお姉ちゃんと二人きりになった部屋の中で、内心ビクビクしながら私はソラお姉ちゃんの言葉を待った。
腹パンかビンタぐらいで済めば良いなぁ。
でも……ソラお姉ちゃんが口が切り出したのは、全然別の内容だった。
「実は、私もミカンちゃんと同じく正体を隠していまして。タイミングを逃してしまって、切り出し方に迷っているんです」
ソラお姉ちゃんの、正体……?
一瞬、何を言っているのか本当に分からなかったけど。
考え直してみたら、ミカンちゃんの正体が猿渡君だったみたいに、ソラお姉ちゃんにも本当の姿があってもおかしくないんだ。
全然そんなの考えてなかったけど、言われてみると心当たりはあるかも。
ソラお姉ちゃんって物知りだし包容力もあるし、本当はずっと年上だったりするのかな?
優しく褒めてくれたり抱きしめたりしてくれるのって、正体が年配の女性だって言われたら納得する気はするんだよね。
そんな人生経験に裏打ちされた母性と貫禄が、ソラお姉ちゃんの本領なのかも。
……もしかして、夫と子供が居たりする?
まさかとは思うけど、孫まで居るとか?
うーん……でも現在進行形で夫が居たら、猿渡君の告白は断る気がするんだよね。
未亡人か独り身か、どっちかだと思う。
「違ったらゴメンだけど、もしかしてソラお姉ちゃんって結構なお婆ちゃんだったりする?」
「実年齢は14歳です」
「!!!!!??」
ウソでしょ!!?
まさかの同学年!!?
誕生日によっては、学年は1つ上の可能性もあるけど!
でもまだ中学生なの!?
絶対もっと年上だと思ってたのに!?
なんだか、一生分まとめて驚いた気がする!
心臓が今まで聞いたこと無いぐらい爆音立ててるけど、何とか驚愕は呑み込んだ!
でもとりあえず、心の準備は出来たよ。
その実年齢以上の驚きなんて、来るわけないでしょ。
そんな私の覚悟に対して、小さく頷いたソラお姉ちゃんは……光に包まれながら、その姿を元の人間へと戻していった。
私はパニックと呼吸困難でゲロを吐いた。
すぐさま女性の姿に戻ったソラお姉ちゃんに抱えあげられて、流し台まで連れていかれて。
コップでうがいをさせてもらって、水を飲ませてもらって。
何とか、口の中の苦くて酸っぱい不快感を洗い流すことが出来た。
後ろから
小声で「まさか寝取りのケジメで腹パンされたんか……?」なんて聞こえた気がした。
そうだね私も覚悟してたよ腹パン。
そっちの方がマシだったかもね。
まさかメンタルを予想外のベクトルから滅多打ちにされるなんて欠片も思ってなかったよ。
タオルで顔を拭いてもらって。
そのまま、ソラお姉ちゃんに肩を貸してもらいながら私の部屋に戻って来て。
床のクッションに一緒に座って。
優しく抱きしめてもらって、また背中をゆっくり擦ってもらった。
やっぱり落ち着くなぁ……。
ソラお姉ちゃんの包容力と母性が、私の荒ぶった心を癒してくれる。
あ゛あ゛~、うんうん、生き返るぅ……。
優しく抱き留めてもらってると、興奮が治まってくのを感じるよぉ。
荒んだ心に、ソラお姉ちゃんの温もりが染み渡る……。
あれ?
……そういえば私、なんであんなにパニックになってたんだっけ?
「はっ!!!!」
とっさにソラお姉ちゃんの腕の中から脱出した私は、尻餅をつきながら全力で後退した!!
ズザザザッ、なんて音を立てながら後ずさって、私の部屋の壁に背中を撃ちつけて変な音を鳴らしながら。
私は再び、混乱の極致に叩きこまれていた。
ソラお姉ちゃんが、鳥山先輩……!?
何がどうなって、どういうことなの!!?
だってソラお姉ちゃんって、美人で綺麗なお姉さんで、お胸が立派で母性的で優しくて……それが実は男性で、でも猿渡君の彼女で???
私、今まで男の人の腕に抱かれて甘えてたの!!?
頭おかしくなる。
脳がバグってる。
違う、私がおかしいんじゃない。
私以外の全部がおかしいんだよ。
もうなにもしんじられない……!
みんながわたしをだまそうとしてる……!!
頭を抱えて混乱しながら、どれだけ時間が経ったのか分からなかった。
でも、少しずつだけど冷静さを取り戻し始めた私は、いつもとは違うソラお姉ちゃんの表情に気づいた。
真剣な顔で私の方を見ていて……その目の中には不安の色が見えた。
穏やかに微笑んでいる普段のソラお姉ちゃんとは違う雰囲気だ。
相手に拒絶されることを恐れている、その弱々しい感情を……私は誰よりも知っていた。
この時初めて、私はソラお姉ちゃんを私と同じ人間だって思ったのかもしれない。
だって、ソラお姉ちゃんはいつだって完璧だった。
対抗心すら湧かなかった。
恋敵がソラお姉ちゃんだって知った時には、本当に心を折られた。
綺麗で頭も良くて、私を何度も救ってくれて、それなのに何でもないみたいな顔をして優しく微笑んでくれていた。
そのソラお姉ちゃんが、不安がっているんだ。
パニックに陥ってる場合じゃない。
私が、ソラお姉ちゃんの力にならなくちゃ。
そう思ったら……身体の震えが、止まった。
しっかりした足取りで立ち上がることが出来た。
床のクッションに座ったままのソラお姉ちゃんに、ゆっくりと歩み寄って。
膝立ちになって、ソラお姉ちゃんを抱きしめてあげた。
いつもソラお姉ちゃんがしてくれたみたいに。
ソラお姉ちゃんみたいに大人びた包容力は無いかもしれないけど、これが今の私に出来る精一杯だ。
「取り乱して、ゴメン。ソラお姉ちゃんでも鳥山先輩でも、私の尊敬する大好きな人達なのは変わらないよ。話してくれてありがとう」
「私も、ありがとう。アカネちゃん……!」
そうして、少しだけ湿っぽい時間を過ごした後に。
どちらからともなく離れた私達は、ちょっとぎこちなかったけど……また笑い合うことが出来た。
「まだ私も正直混乱してるんだけど。ソラお姉ちゃんって、ホントは男性だけど、女性の演技をしている……ってコトなの?」
もう一度、二人で床のクッションに座り直して。
向かい合って話を再開したんだけど。
改めてソラお姉ちゃんのことを観察してみても、綺麗なお姉さんとしか言い様が無いんだ。
見た目だけの問題じゃなくて、座り方から細かい仕草一つずつまで見ても演技臭さなんて無くて、本当に男性だなんて思えないよ。
さっき鳥山先輩に姿を戻す場面を見せられたのに、それでも全然納得できてないっていうか……。
「専門用語を並べられても困るでしょうし、簡単な説明になりますけれども……そもそも私って、性自認がどちらにも偏っていない人間なんだと思います」*1
「う、うーん……?」
性自認っていう言葉の意味ぐらいは分かるけど。
それがどちらにも偏ってないって、どういうことなの……?
文字列として頭に入れることは出来るんだけど、どういう状況なのかピンとこないよ。
「年の離れた兄さんと姉さんの両方から同じぐらい影響を受けて育ったから、なのかもしれません。男女どちらか片方であることに拘りが無い、と言いますか。
カイセイとソラの姿で、それぞれ幼い頃に憧れた兄さんと姉さんに強い影響を受けた立ち振る舞いを使い分けている感じですね」
どっちも演技とかじゃない、みたいな感じなのかな? たぶん?
男性が女性の演技をしている、っていうのと表面的には見分ける手段が無い気がするよ……?
ミカンちゃんに関しては関西弁の方が素で、学校では方言を隠して暮らしているっていうのは分かるんだけど。
ソラお姉ちゃんは、どっちも本当の顔みたいな言い方だよね。
そんなこと、有り得るの……?
「関西弁を聞き続けていると自然と関西弁がうつるなんて言いますけれど、それは別に話し手が演技をしている訳では無いと思います。
その延長だと思ってもらえれば大丈夫ですよ」
「そうかな……。そうかも……」
確かに、それはそう。
ミカンちゃんと喋ってると、たまに関西弁うつりそうになるよね。
その延長で、お姉さんから写し取った言葉遣いや立ち振る舞いをしているのが「ソラお姉ちゃん」ってこと?
うううーん……。
確かに私達も、自分の立ち振る舞いをゼロから作っているっていうことは無いんだよね。
お母さんとかテレビの中の人とか、色々な人から影響を受けて普段の言葉や立ち振る舞いを作り上げてきたっていうのは、それはそう。
そう考えたら、お兄さんとお姉さんのそれぞれの影響を受けて出来上がった行動パターンとして「鳥山先輩」と「ソラお姉ちゃん」が同時に頭の中に存在するっていうのも納得できる……納得できる?? ホントかなぁ……??
それよりも、確認しなきゃいけないことがあるんだ。
ソラお姉ちゃんが本当は男性だっていうなら……。
「猿渡君を愛しているっていうのは……演技じゃなくて、本心なんだよね?」
「ハッサク君のことは愛しています」
いつになく真剣な言葉が返ってきた。
同性間でも愛が成立するっていうのはその通りだと思うよ。
私もミカンちゃんを愛した気持ちに嘘は無かったし。
「あの日、ハッサク君が夜道で私を追いかけて来てくれた時の告白が嬉しかったのも本当ですし、胸が高鳴って幸せを感じたのも本心です」
ソラお姉ちゃんは、少しだけ目を細めながら幸せそうな顔をして見せた。
身体の前で手を合わせて、胸の高鳴りを思い出しているみたい。
とてもじゃないけど、それを演技だなんて思えなかった。
男に愛されることを幸せに想う、一人の女の姿だと私は思った。
私も猿渡君を好きなった身だから、気持ちは分かるよ。
でも、そういう「胸キュン」みたいなのって男性にもあるの……??
女子特有の感情かなって思ってたけど……?
「それで、ここからが本題なんですけれども。ハッサク君にどう切り出すか、迷っているんですよね……」
ああー……。
そうだよね。
私ですら、これだけショックだったんだもんね。
ましてや猿渡君なら、どれだけショックを受けるか見当もつかないよ。
人間不信になってもおかしくない。
っていうか私もなりかけたよ、人間不信。
ソラお姉ちゃん、本当に迷いに迷っている雰囲気だ。
それだけ、猿渡君のことが好きなんだ。
好きだからこそ猿渡君の反応が怖いって思っちゃってるんだよね。
「そもそも、どうして猿渡君に正体を明かそうと思ったの? 黙ってれば絶対にバレないと思うけど……?」
ミカンちゃんの正体は、本当にケアミスでバレたとしか言えないけど。
ソラお姉ちゃんがそんなミスをするとは思えないんだよね。
黙っていれば一生バレないと思う。
なのに、どうして正体を明かすなんて話を始めたんだろう?
「ミカンちゃんの正体を明かされた時に、思ったんです。このまま私だけ正体を隠し続けるのは不誠実ではないか、と」
それは……そう言われたら、そうかも。
その場面に居合わせてないから、なんとも言いづらいけど。
戦いの前の作戦会議で猿渡君の士気を下げたくないから、言えなかった感じなのかな?
……結構な割合で、タイミングを逃したのは私のせいかも。
ちゃんとソラお姉ちゃんの力にならなくちゃ。
「それに、猿渡君は私の反応を恐れながらも勇気をもって一歩を踏み出してくれたんです。
告白の時も、一年前の事件の時も一緒です。そんな姿に憧れる気持ちが、私の背中を押してくれたんだと思います」
……そっか。
ソラお姉ちゃんは、私の知らない猿渡君の格好良い姿を一杯見てきたんだ。
なんだか、悔しいな。
でも、同時に嬉しくもあった。
それを私に相談してくれたことが、何だか嬉しかったんだ。
恋敵のはずの私にそんな弱味を握らせたら、ソラお姉ちゃんがどんな不利な状況になったっておかしくないのに。
私を信頼したうえで、相談してくれているんだ。
大好きなソラお姉ちゃんのためにも、何としてもこの信頼に応えなくちゃ……!!
「えへへ! 秘策を思い付いちゃった! 題して『犬雉サンドイッチ大作戦』だよ!」
「サンドイッチ……というと、二人がかりで説得する感じですかね」
さすがソラお姉ちゃん、話が早い!
そうだよ、私達二人で猿渡君を……ミカンちゃんを丸め込む作戦だよ!
とりあえず、ミカンちゃんには何も知らせないのは大前提として。
「まず、この間の残りの味醂でミカンちゃんをベロベロに酔わせちゃおう」
「むむ……?」
学祭のときにもミカンちゃんに飲ませたけど。
まだ残ってるから、このあと3人で飲んじゃおう。
ミカンちゃんはすぐに顔が真っ赤になるし、かなりアルコールに弱いみたいなんだよね。
でも、3人で仲直りしたお祝いだって言えば断らないと思うんだ。
「そして、ミカンちゃんをベッドに連れ込んで、私とソラお姉ちゃんの二人がかりで徹底的に攻めちゃうんだ!」
「むむむ……??」
ミカンちゃんって、かなり押しに弱いし、結構流されやすい性格してるんだよね。
私達が二人がかりで手籠めにすれば実力的にも逃げられないし、酔いが回っていれば猶更だよ。
というかソラお姉ちゃんに襲われたら、絶対に本気で抵抗しないでしょ。
これが「犬雉サンドイッチ」だよ。フルーツサンド!
挟撃されるがままに、いつも以上に可愛く鳴き続けるミカンちゃんの姿が簡単に想像できる。
「仕上げに体力が尽きた後のピロートークで、ソラお姉ちゃんの正体を明かしちゃおう!」
「むむむむ……???」
そういうグッタリしてる時に言われると、冷静に聞くことも出来るだろうし、受け入れるのも早くなると思うんだよね。
ここまでの大作戦を、私は一気に話し終えた。
えへへ、良い作戦でしょ! 褒めて!
期待を胸に、私はソラお姉ちゃんの返事を待った。
でも……ソラお姉ちゃんは真面目な顔をして考えこんじゃってる。
私としては上手くいくと思うんだけど、どうかな……?
そう思っていたら、おもむろにソラお姉ちゃんが片手を私のほうに伸ばしてきた。
「痛ぁっ!!?」
無言でデコピンされた!!
かなり痛い!!
おでこから煙が出てる気がする!!
どうしてそんなことするのぉっ!!?
抗議の目を向けようとした私は、ソラお姉ちゃんの笑顔を見た。
笑顔の後ろに鬼が見えた。
私は震え上がった。
「アカネちゃん? ちょっと、そこへ直りましょうか?」
「ひゃっ、ひゃい!!」
私は正座した。
恐怖で背筋が「ピンっ!」て伸びた。
その後は、散々お説教された……。
そもそもムリヤリ襲うの自体が倫理的にアウトだとか。
ミカンちゃんが大らかだったから良かったものの、14歳以上なら最悪少年院行きでもおかしくなかったとか。
そんなことのために飲酒を教えた訳ではないとか。
私が失恋後でショックを受けていたのもあって後回しにしていたみたいだけど、今回ばかりは強めに叱られた。
少年院っていう言葉を出された時には流石に肝が冷えた。
まだ13歳だから少年院に実際に行くことは無いんだけど、かなり不味いことをしてたんだね……。
叱られて、シュンとしちゃったけど。
一通りお説教が終わった後は……やっぱり、優しく抱きしめてくれた。
「方法は問題があり過ぎて実行できませんけれど、私のために考えてくれたのは嬉しかったですよ。ありがとう、アカネちゃん」
「えへへ……力になれなくてゴメンね」
ソラお姉ちゃんにナデナデしてもらうと、やっぱり安心する……。
もう男でも女でも、何でもいいや……。
ソラお姉ちゃん、大好き!
「結局、アカネちゃんに説明したのと同じように正攻法が一番かもしれないですね」
「ソラお姉ちゃんなら大丈夫だよ! 私、信じてる!」
ミカンちゃんもショックは受けるかもしれないけど。
でも最終的には受け入れてくれるよ、絶対!
覚悟を決めたソラお姉ちゃんの顔は……なんだか、いつも以上に綺麗に見えた。
でも結局、ミカンちゃんもゲロは吐いた。
さらにその中で四類型に分類されたりするんですけれども……これも、覚えなくて大丈夫です。
あとがき
今度こそ本当に終わりです。
御愛読ありがとうございました! ……またね。