でも初期3人制プリキュアで2番手と3番手だけが協力技を入手してしまうと、結構気を遣うのでは……?
というオハナシ。
「「デュアルセラピー!!」」
……なんだか、強力な浄化技を繰り出せてしまいました。
実はアカネちゃんから見せてもらったメモ帳の情報には、「巫女同士が一定以上仲良くなると、手を繋いだ時に上位技が出せる」とあったんですよね。
なので、いつもより少し強い怪物を倒しあぐねていた時に、ミカンちゃんと手を繋いでみたんです。
そうしたら、頭の中にピンとくるものがありまして、ミカンちゃんと二人で特大の浄化光線を撃つことに成功したという訳です。
怪物から元の人間に戻った今週の被害者の無事を確認して、状況終了ですね。
……なのですが。
どうも、アカネちゃんとミカンちゃんが気まずそうな顔をしていますね。
特に不手際は無かったと思うのですが、一体どうしたのでしょうか?
「……ソラお姉ちゃん。ちょっと私とも手を繋いでみて」
意を決したと言わんばかりの顔で、アカネちゃんが頼んできました。
特に断る理由もないので、アカネちゃんの手をとってみました。
文脈的に、何となくアカネちゃんの意図は分かります。
アカネちゃんと
「「デュアルセラピー!」」
……できませんね。
私の方の感覚では、ミカンちゃんの時のような頭の中にピンとくるものが無かったので、事前に不発を察していましたが。
たぶんアカネちゃんの方ではその感覚を一度も味わっていないので、不発を予期できなかったのでしょう。
「……ミカンちゃん」
「ま、試してみた方がええんやろな」
「「デュアルセラピー!」」
……私抜きの二人でも無理みたいです。
この3人の中だと、私とミカンちゃんの組み合わせでしか上位技が撃てないみたいですね。
アカネちゃんの落ち込み方は、悔しさと悲しさをブレンドした感じです。
とりあえず……犬飼家にお邪魔して、いつもの魔法少女集会にしましょう。
変身を解いて犬飼家にお邪魔し、恒例の女子会を始めた訳ですけれども。
アカネちゃんが、暗いです。
除け者にされた気分なのでしょうか。
慰めて欲しいとも言ってきませんね。
こういう時に祝勝会の音頭をとってくれるミカンちゃんも、どうしたら良いのか分からない様子です。
上位浄化技の条件が良く分からないので、私も迂闊なことは言えません。
親密度が条件のようですが、私としては2人のことを等しく愛していると思うんです。
それなのに、なぜかアカネちゃんと一緒では上位浄化技が撃てませんでした。
「ソラ姐さん。実はソラ姐さんが加入する前にも一度、ワイら二人で試してダメだったんや。
この情報が役に立つかは分からんけど、念のために情報共有しとくわ」
なるほど。
その失敗があったから、今まで私にも試してみようと言ってこなかった訳ですね。
あのメモ帳に記載があったのに上位技を見たことが無かったので、何か事情がありそうだとは思っていましたけれども。
うむむ……。
確かに、この状況だとアカネちゃんは心穏やかでは居られないでしょうね。
3通りの組み合わせの中で、アカネちゃんを含むケースのみ失敗となれば、アカネちゃんに問題があるように見てしまいがちです。
劣等感やら疎外感やら、良くない感情を抱えているのかもしれません。
「アカネはん。あんま悪い方向に考えない方がええで。そもそも黒い龍がパチこいとるかもしれんやろ」
「うん……」
ミカンちゃんが、何とかフォローを捻り出そうとしていますね。
普段はアカネちゃんを揶揄って楽しむところもあるミカンちゃんですけれど、心根は本当に優しい子なんだと思います。
落ち込んでいるアカネちゃんの姿を目の当たりにして、心を痛めているのでしょう。
しかし、フォローの効き目は芳しくありません。
アカネちゃんは自分を責めて、自分に自信が持てないのかもしれません。
逆に、上位技に対応できない私やミカンちゃんに不信感を持っているのかもしれません。
なるべく本人の口から想いを聞きたいところですけれども、なかなか口に出すハードルは高い内容でしょう。
何にしても、すぐに解決できる問題では無さそうですね。
ならば……一歩一歩、地道に出来ることを重ねていくしか無さそうです。
「アカネちゃん、聞いてください」
アカネちゃんのすぐ隣に座り直して、横から抱きしめてあげました。
姉さんが昔やってくれたように、幼い子供をあやす手つきで接しましょう。
「アカネちゃんの、嬉しそうに食事をするところが大好きです」
「このお部屋も、とっても可愛いと思います」
「苦手な勉強にも挫けず立ち向かう姿勢は立派です」
「怪物との戦いだって、アカネちゃんが一人で始めたことです」
「素敵な恋もして、恋路を少しずつ歩んでいる姿を愛しく思います」
結局、私の出来ることはコレだけです。
アカネちゃんに、愛していると伝えるだけ。
それを続けることで、アカネちゃんの心がどれだけ軽くなるかは分かりません。
上位の浄化技が撃てるようになる保証なんて欠片もありませんし。
ちょくちょくミカンちゃんも言葉を継ぎ足してくれて。
結局、その日は日が暮れていきました。
「……ソラ姐さん、ちょい一緒に歩かん?」
夕日に照らされた犬飼家を出てすぐに、ミカンちゃんからのお誘いです。
まぁ言いたいことはあるでしょうね。
アカネちゃん本人の前では話せないことも多いでしょうし。
既に緑に染まりつつある5月の桜並木の下を二人で歩きました。
先週アカネちゃんの家で勉強会をした後にハッサク君と一緒に歩いた時には、もう少し桜色も残っていたんですけれどね。
それはともかく、丁度良いところにベンチを見つけて二人で腰掛けました。
3人では絶対に座れないけれど2人で座るとスペースが余る、何とも中途半端なベンチです。
座った私とミカンちゃんの間に、微妙な距離が出来てしまいました。
「ぶっちゃけ、上位技を失敗する原因って何なん?」
「中々に答えづらい質問ですね。分からないことが多すぎるというのが正直なところです」
直球気味に聞いてきたミカンちゃんは、飄々として何でもないような口調です。
でも、Tシャツの裾を握りしめていますね。おそらく無意識的に。
緊張……というよりは、不安でしょうか。
落ち込んでいたアカネちゃんを目の当たりにして、かなり堪えていると見えます。
無理をして気丈に振舞っているのでしょう。
正直、アカネちゃんに原因があるとは私も言いたくありません。
けれども、ミカンちゃんの不安も放っておきたくないところですね。
「私としては、アカネちゃんとミカンちゃんのことは等しく愛していると思っています。
ミカンちゃんの方で、何か心当たりはありますか?」
「ワイは……アカネはんのことは、年の近い兄妹みたいに思っとる。ボケればツッコんでくれるとこ、ホンマに好きやで」
それは、見ていて私も思います。
アカネちゃんは末っ子的に可愛がりたくなる何かがありますよね。
本人はミカンちゃんよりも姉ポジションで居たいような気配がありますけれども。
そういう背伸びをするところも、何だか可愛らしいんですよね。
アカネちゃん本人に直接言うとヘソを曲げてしまいそうなので、中々言う機会が無い感想です。
「せやけど……大人っぽくて安心感があるソラ姐さんへの『好き』とは別モンや。それが成功と失敗の原因かと最初は思っとったんやけどな……」
ミカンちゃんの視点としては、アカネちゃんとコンビを組んですぐの時に協力技に失敗したんですよね。
その経験を踏まえて
協力技が成功した直後にミカンちゃんも気まずそうにしていたのは、そのせいでしょうね。
しかし、その推測が外れたのは後から本人も感づいた様子です。
「その仮説やと、たぶんアカネはんとソラ姐さんのペアで失敗した理由が説明つかんのよな」
「一応、2つの失敗の原因が違う可能性もあるので、その仮説は完全に捨てるのも怪しいですね」
「その可能性は考えとらんかったわ」
そうなんですよね。
まだ私達が知らない仕様やルールがあるかもしれないんですから。
失敗2つの理由が両方ともアカネちゃんにあるとは限らないんです。
原因が私にある可能性だってあります。
「……もうちょい踏み込まなアカンな、コレ。
もし、仮に、万が一、アカネはんに原因があると仮定したら、ソラ姐さんが思い当たる原因てどんなんや?」
一度だけ大きく息を吐いたミカンちゃんが、覚悟を決めたような声色で聞いてきました。
ミカンちゃんとて、アカネちゃんに原因があるとは思いたくないのでしょう。
アカネちゃんを責める意図があるとも思えません。
おそらく、落ち込んでいるアカネちゃんを見ていられなくて、藁にも縋る思いで私に聞いてきているのでしょう。
更に言うと……私に、否定してほしいのでしょうね。一つの可能性を。
「アカネちゃんが、私達に不信感を持っているからです」
「っ」
ミカンちゃんが、息が詰まったような顔を見せました。
たぶん、最悪のケースとして心の奥底で想定していたのでしょう。
アカネちゃんと私達の間に埋めがたい断絶がある可能性を。
「というのは、ミカンちゃんが否定してほしかった答えですよね。意地悪な言い方をしてしまって、すみません」
「……人が悪いで。ソラ姐さん」
でもまぁ、心の隅には留めておいた方が良いでしょうね。
安堵の息を吐いているミカンちゃんも、薄々覚悟していることでしょう。
「でも実際、今の状況が続けばそうなるのは時間の問題です。疎外感だって大きくなっていくかもしれません」
「せやかて、ワイら2人での上位技を封印なんて話になったら、それはそれでアカネはん気にするやろ。どないすんねん?」
八方塞がりだと言いたくなる気持ちは分かります。
アカネちゃんの心の問題だとは言いたくないけれど、かといって他に原因として思い当たる節も無い。
そうなれば、現状を打破する術が無いんですよね。
アカネちゃんを含めた上位技を出せる未来は見えないというのが正直なところです。
「なので、私達に出来ることは……『愛』を示し続けることです」
「なんでそこで『愛』??」
逆に考えるんです。
上位技なんて打てなくてもいいや、と。
そんなものが無くても、アカネちゃんが元気に笑ってくれたらそれで良いんです。
アカネちゃんの心を蝕むものが不信感でも疎外感でも、結局私達がアカネちゃんを愛していると言い続けることが有効回答になるんですよね。
最悪上位技が撃てないままでも、愛されているという経験が自信へとつながり、不信感や疎外感に打ち勝つ要因ともなります。
まぁ、死ぬほど愛したとしても3分の1も伝わらないなんて可能性もありますけれど。
ぽつぽつと、そんな内容を一緒にベンチに座っているミカンちゃんへと語ってみました。
「なるほど。それでさっきは『好き好き攻撃』しとったんか。あんま精神論は感心せんけど、実際それしか無いんやろなぁ……」
「根性論よりはマシでしょうね。そもそも仲良し度などというものが出てきた時点で、どのみち精神論の話になるのは避けられないところでしょうし」
根性論は自己肯定感の低い人のメンタルを加速度的に壊しますからね。
できるだけメンタルに負担をかけずに長生きする方向の精神論を目指したいものです。
「ワイも……『好き好き攻撃』に参加した方がエエんやろな」
「無理しなくても大丈夫ですよ。好意を素直に口に出すのが難しい関係だってあります」
アカネちゃんのために、そうした方が良いとミカンちゃんは思っている様子です。
それも一面としては正しいのですけれども。
そのためにミカンちゃんが無理をするのは、それはそれでどうかと思いますよ?
年の近い兄妹のように思っているからこそ、素直に好意を口に出すのが難しいと感じる時もあるでしょうし。
「はぁ……ソラ姐さんと話しとると、ホンマ自分が背伸びしてるだけのガキやって思い知らされるわ」
「それは劣等感ではなく、格好良くて頼りになるお姉さんへの尊敬ですよ。えっへん。これも精神論ですね」
敵わんなぁ、なんて呟いているミカンちゃんへと近づくように座り直して、横からギュっとしてあげます。
全く疑いもせずにナデナデを受け入れるミカンちゃんからの、全幅の信頼を感じますね。
ミカンちゃん、気付いていますか?
そういうふうに他者と繋がることを心から喜べる性質が、どれだけ得難いものなのか。
口にこそ出しませんけれど、私が3属性を割り振った時に「陽」をミカンちゃんに振り分けたのは、そういう視点もあったんです。
アカネちゃんも、他者と繋がることで安らぎを得ているという点で表面上はミカンちゃんと変わりません。
けれど……断言は出来ませんけれども、アカネちゃんは他者との繋がりに臆病な面を根底に持っていると思います。
嫌われるのが怖い。
愛されないのが恐ろしい。
そんな恐怖を払拭してくれる相手に依存しているように感じる時があるんです。
私の直感に頼る面が大きいですし、憶測でアカネちゃんの内面を語り過ぎるのも良くないと思うので、まだミカンちゃんには話すべきでないと判断します。
最終的に、私達2人のどちらがアカネちゃんを救う役目を担うのかは分かりません。
でも、私とミカンちゃんなら必ず目標を達成できると思います。
そう信じられるだけの輝きがミカンちゃんにはあります。
「ミカンちゃんにしか出来ないこと、必ずありますよ」
「責任重大やなぁ」
ギュっとしたまま、お互いに笑い合って。
その後はとりとめのない話をして、解散しました。
ねえ、ミカンちゃん。
私達なら、大丈夫ですよね。
私はミカンちゃんを信じます。
そして、同じぐらいにアカネちゃんを信じます。
兄さんや姉さんが、そうしてくれたように。
あとがき
辛い時でもソラお姉ちゃんは優しく抱きしめて励まし続けてくれる。
愛を与え続けてくれる精神的支柱なのだ。
でも愛しの猿渡君の彼女がソラお姉ちゃんだと知ったら、アカネちゃんは一体どうなっちゃうんでしょうかねぇ?
あと言い忘れていましたが、この小説のコンセプトは「プリキュアの皮をかぶったドンブラザーズ」です。
ニチアサの児童向け番組がモチーフなので、この小説も安心・安全・健全の三拍子そろった明るくてクリーンな作品です☆