三角関係な朝8時半   作:カードは慎重に選ぶ男

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第7話開始時点での犬飼アカネさんの知らない情報まとめ

・ミカンちゃんの正体
・ソラお姉ちゃんの正体
・猿渡ハッサクが彼女をゲットしたこと
・その相手がソラお姉ちゃんであること
・結局ファンアートだと盛るペコされるので、乳比べの僅差なんて意味がないということ

・上位技をイヌシスターが出せない理由 ←new!
・ミカンちゃんとソラお姉ちゃんが女子会の後にコッソリ2人でイチャイチャしていたこと ←new!
・そのせいで猿渡ハッサク君がまたソラお姉ちゃんに惚れ直したこと ←new!




第7話:魔法少女トリオの絆

賑やかな昼休みの学食で。

猿渡君を探して私は彷徨っているんだけど……もしかして、今日は猿渡君は学食に来てないのかな?

普段なら、学食の席が不自然に空いているスペースがあって、そこに猿渡君が居るんだけど。

 

 

「おっと、犬飼じゃないか。猿渡は見当たらないが、一緒にどうだ?」

 

これも何かの縁だ、なんて言いながら誘ってきたのは、鳥山先輩。

なぜだか猿渡君と仲が良い3年生で、なんか頭が良さそうなメガネをかけてる。(偏見)

猿渡君と一緒に3人で食事をすることは多いけど、鳥山先輩と二人で話したことは無いかも?

目当ての猿渡君が見当たらないし、他に当てがある訳でもないし、折角だし一緒に食べちゃおうかな……。

 

 

適当な席をとって、二人で昼食タイム開始。

ヤキソバパンって冷静に考えると少し不思議な感じ。

炭水化物をオカズに炭水化物を食べてるよね。美味しいから良いけど。

まぁ関西の人はタコヤキをオカズに御飯を食べるっていうし、そんなものなのかも。

本当なのかどうか、あとでミカンちゃんに聞いとこ。

あ、ミカンちゃんといえば……。

 

 

「どうした? 悩みごとか?」

 

……私、いつの間にかヤキソバパンを食べる手が止まってたみたい。

鳥山先輩は何でも無い世間話みたいな態度で、昼食の途中で聞いてきた。

確かに、悩みごとはある。

それもソラお姉ちゃんやミカンちゃんに相談しづらいことが。

 

どうしよう。

魔法少女関連の情報は話せないけど、良い感じにボカして相談してみるのもアリかも……?

なんか頭良さそうだし、猿渡君が信頼する先輩だし。

 

 

「仲良し3人組だと思っている間柄で、自分以外の二人が妙に仲が良かったら、鳥山先輩ならどう思いますか?」

「そうだな……。よく学食で一緒になる猿渡と犬飼が楽しそうに話しているのを見るとき、『仲良きことは素晴らしきかな』って毎回思っているぞ」

 

……何でもないことのように口に出された考えは、私とは全く違う発想だった。

私は上位浄化技を見た時に、「ミカンちゃんとソラお姉ちゃんの仲が良いことが嬉しい」なんて発想には至らなかったよ。

2人が私を置いて遠くへ行ってしまったような気がして、ただ惨めで怖くなった。

 

でも、直感的に思ってしまった。

私の発想よりも、鳥山先輩の方が「まともな人間」の思考だって。

 

普通の人は、他の人が幸せそうだったら素直に祝福して、自分も少しだけ幸せな気分になるんだ。

そういうのを、健康的な発想って呼ぶのかな。

……私とは、全く違う。

 

たらればだけど、もし最初に協力技を成功させたのが別の2人の組み合わせだったら、ミカンちゃんやソラお姉ちゃんは何て言ってたかな?

きっとソラお姉ちゃんはストレートに褒めてくれる。

ミカンちゃんも、「すぐに追いついたる」とか言いつつポジティブに考えそう。

何だか……私だけが協力技に適応できないのが、必然のような気がしてきた。

 

 

「どうやったら……鳥山先輩みたいに考えることが出来るようになりますか?」

「今の自分から変わりたい、か。それ自体は悪い事じゃない。

とはいえ、今日からすぐに頭を全面的に切り替えるというのは難しいだろう」

 

犬飼にも13年間生きてきて積み重ねた経験や人生観があるだろうからな、なんて鳥山先輩は続けた。

そうだよね。

変わりたいなんて思っても、中々変われるものじゃないよね。

やっぱり私、このままなのかな……。

 

 

「今の自分を急激に否定すると、綻びが生じることもある。だから最初は『どっちもあって良いんだ』って考えるんだ。

他人の幸せや成功を祝福する自分と、ネガティブな自分。その両方が犬飼アカネの一部で良いんだ。まずはそれが第一歩だ」

「そんなの、両立できるんですか……?」

 

なんだか相いれないモノを無理やり一つの器に入れようとしてない……?

それを両立できるのは、それはそれで器用な生き方のような気もするけど。

 

 

「一見両立しないように見えても、載せてみると意外と何とかなったりするものだ。犬飼がさっき食べていたヤキソバパンみたいにな」

「そうかな……。そうかも……」

 

そう言われるとそんな気も……?

確かにヤキソバパンは美味しい。

初めて見た時だけは不安に思ったけどね。

きっと今の私は、ヤキソバパンを初めて食べる前と同じなんだと思う。

少しだけ食べてみれば美味しいかもしれないのに、足踏みしているんだ。

 

鳥山先輩の言う通り、たぶん私はすぐに生き方を大きく変えるなんて器用なことは出来ない。

でも、少しずつなら。

ほんの小さな一歩を踏み出すだけなら……出来るかもしれない。

 

 

「ありがとう、ございました。……猿渡君が鳥山先輩を信頼するの、何となく分かる気がします」

「俺は少し背中を押しただけさ。後は犬飼の実力だよ」

 

お礼を嬉しそうに聞いてくれた鳥山先輩は、年齢は1つしか違わないハズなのに……私なんかよりずっと大人に見えた。

もしかしたらコレは、私も少しだけ成長した証なのかも。

少年漫画とかでよくある、「俺も少しだが強くなった。だからこそ師匠の強さが以前にも増して理解できる……!」的なヤツだよね。

こんな先輩がずっと見守ってくれたから、猿渡君は同学年から避けられていても全然寂しくなかったんだと思う。

 

 

「お待たせっス。鳥山アニキに、犬飼さんも。

……あれ? 鳥山アニキ、何だかゴキゲンっスか?」

「いや、なに。青少年が成長する瞬間って本当にイイものだな、って思っただけさ」

 

 

結局私は、昼休みの終了間際まで魔法少女集会のディスコ部屋に流すメッセージを考えることになった。

そしてチャイムの音を聞きながらメッセージを送り出した。

少しずつでも前向きになりたい私の、第一歩を。

 

 

 

 

 

 

 

『この間は励ましてくれて、ありがとう』

 

 

 

 

 

『少しずつでも、自分の気持ちに折り合いをつけていくつもり』

 

 

 

 

 

『ふたりとも協力技が使えるようになって、おめでとう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんくださーい」

「まいどー!」

 

その日の放課後。

何となく魔法少女のルール手帳を読み返していた時に、二人が訪ねて来てくれた。

ノンビリやさんな声は、ソラお姉ちゃん。

大きい方の声は、ミカンちゃん。

大切な仲間で、親友な2人を……私は玄関で出迎えた。

 

 

「なんや、元気やな。さっきの、これから失踪するヤツの書き置きかと思ったで」

「うっ……。その、ゴメンナサイ……」

 

言われてみると、そう見えるかも。

もっと考えて文章を練るべきだった……。

散々気を遣わせたうえに、上手くいかないことばっかりだ。

 

 

「ふふ。アカネちゃん、なんだか少し大きくなった気がしますね」

 

相変わらずオットリした態度で、ナデナデしてくるソラお姉ちゃん。

身長や胸囲みたいな具体的なものじゃなくて、精神的なものを敏感に察してくれている雰囲気だ。

 

ホントは、まだ怖いよ。

私は二人の仲間に相応しくないんじゃないかって。

既にある差がさらに広がってしまうことも、恐ろしくて堪らない。

でも、前向きな考え方を少しずつでも身につけていきたいって思ってるんだ。

 

 

「一体何があったん?」

「格好良いお兄さんに励ましてもらったんだ」

 

ソラお姉ちゃんのことが好き。

ミカンちゃんのことが好き。

だから、今はそれを胸の中に加えるだけでいい。

 

 

「なかなかネガティブから抜け出せないかもしれない。

でも、二人に『新技おめでとう』って言える私になりたいんだ」

 

「やっぱり、アカネちゃんは出来る子ですねぇ。お祝い、ありがとう」

「やるやん」

 

涙ぐんでいるソラお姉ちゃん。

親指を立ててくれているミカンちゃん。

心配してくれて、ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、昨日は暗かった女子会を、もう一度私の部屋で。

ちょっと御台所を拝借しますね、なんて言って私の部屋から出ていったソラお姉ちゃんは、帰ってくるときにはお盆に飲み物を載せていた。

マグカップに近い大きさのガラスのコップに、蜂蜜色の飲み物と氷が入ってる。

そんなジュース、うちにあったかな?

ソラお姉ちゃんが持ってきたのかも?

 

 

「私達の新技と、アカネちゃんの新たな一歩を記念して、ちょっとだけ背伸びをしちゃいましょう!」

「「「カンパーイ!!」」」

 

グラスの中の蜂蜜色の飲み物は、何だか少しだけドロっとしてる。

口に含んでみると、かなり強い甘さを感じた。

ちょっとだけ辛味と苦味が混じっているけど、それも甘さを楽しむための添え物として丁度いいというか。

初めての味だけど、私このジュース好きかも。

いつも通りにあぐらをかいて座っているミカンちゃんも、好印象みたい。

 

 

「ほー……? なんや、不思議なジュースやな? ワイは好きやけど」

「おいしいよね。何のジュースなのコレ?」

「主な原料はモチ米です」

 

お米のジュースかぁ。

美味しいのに、今まで全然知らなかった。

よくそんなの知ってるね、ソラお姉ちゃん。

 

 

「しっかし、アカネはんにそんなナイーブなトコがあったなんて、ちょい意外やったで」

「なんていうか……たぶんその辺りの感覚はミカンちゃんには一生分からないと思うよ」

「確かに、落ち込んでいるミカンちゃんは想像しづらいですねぇ」

 

今更だけど、ミカンちゃん……ナチュラルボーンな陽キャだよね。

いつもTシャツに短パン姿で女子力なんて縁が無いみたいな恰好してるのに、屈託なく笑うだけで可愛いんだ。

私を揶揄うときにニッと笑うのも心から楽しそうだって、いつも思ってる。

私には無い輝きを、生まれついて持っている子だ。

笑うという感情表現を、意識しなくても出来るタイプの人間なんだ。

 

 

「せやなぁ……? 言われてみると、そんな落ち込んだこと無いかもしれん。殴り合いのケンカで負けた時ぐらいやなぁ」

「なんか突然、治安悪いみたいな雰囲気にならなかった??」

「ふふ。ヤンチャですねー?」

 

お米のジュースを飲んで、中身があるような無いような時間を過ごして。

そんな時間が、やっぱり私は大好きだ。

あと、やっぱりこのジュース美味しいね。

なんだか身体がポカポカしてきたような……。

 

 

「んー……。このモチ米のジュース、どっかで似たモンを飲んだことある気がするんやけど、何やったかなぁ」

「おそらく、お屠蘇ですね。その家庭によりますけれど、お正月に飲む縁起物に入っているのが、この『味醂(みりん)』なんですよ」

 

「ああー! それ! それやで! お屠蘇やん!」

「おとそ……?? 味醂(みりん)って、調味料の味醂(みりん)だよね?」

 

ソラお姉ちゃんの解説によると。

薬草類と日本酒と味醂を混ぜた縁起物のお酒を、「お屠蘇」っていうんだって。

古くからの風習で、元旦にそれを年少者から順番に飲んでいくみたい。

 

 

「実は私、小さい頃は『お屠蘇』が苦くて嫌いだったんですよね」

「ワイもやで。正直、『お屠蘇』は美味いって思ったこと無いわ」

 

ミカンちゃんの家でも、正月にお屠蘇を飲む習慣はあったみたい。

そういうの、うちは全く無かったな……。

 

 

「でも、そんな私を見かねた姉さんがお屠蘇に味醂(みりん)を足してくれたんです。そうしたら、一気に甘くて美味しくなったんですよ。

その時に思ったんです。なら味醂(みりん)を直接飲んだ方が美味しいハズですよね、と」

「なるほど。お屠蘇から薬草類と日本酒を抜いたものだから、未成年が飲んでも問題ないんだね」

「さすがソラ姐さんや。冴えとるで!」

 

 

「いいえ? 味醂(みりん)も基本的に度数は10%以上ある立派な酒類なので、ダメですよ?」

「「????」」

 

うん……?

あれれ……?

 

ちょっと、ナニ言ってるかワカンナイヨ?

ええっと……?

味醂(みりん)って飲んじゃダメなの?

でも私達、今普通に飲んでるよね??

 

なんか難しいこと考えらんない……。

とりあえず呑んどこ。

うん、美味しい。

 

 

「ふふ。アカネちゃんの成長を祝して、羽目を外したくなりまして。

二人は、こんな悪いお姉さんになっちゃダメですよ~?」

 

微笑みながらグラスを傾けるソラお姉ちゃん。

少しだけ頬に赤味が見える。

なんていうか、そういうのを色っぽいっていうのかな?

オトナな感じがする!

 

 

「そんなアブナイ感じもステキやで……。でも、ちょいクラクラしてきたわ」

「あらあら。ミカンちゃんは弱い方だったみたいですね。……ごめんね?」

 

いつの間にか、ミカンちゃんの顔が真っ赤になってる。

今は座り込んでいるから良いけど、立ち上がろうとしたら転ぶかも。

ぼーっとしてるみたいで、フラフラな感じ。

……なんかカワイイ。

 

 

「しっかし、調味料を普通に飲むっちゅうのも、なんや不思議な感じやなぁ……」

「実は江戸時代以前は高級酒だったそうですよ。江戸時代の富裕層よりも現代庶民の方が良いものを食べている、なんて言われる事例の一つですね」

 

ミカンちゃんが、ソラお姉ちゃんに抱き寄せられちゃってる。

いつもの包容力を前に、ミカンちゃんも安心しきってるみたい。

女の子同士だから問題ないけど、もしミカンちゃんの相手が男の人だったら……?

 

普段明るくて快活に笑う女の子が、コップ一杯のお酒で顔を真っ赤にしてフラフラになって。

男の人の腕に抱き寄せられながら全幅の信頼を向けている……そういう構図が出来上がるのかな。

そういうの、男の人って好きそう。(偏見)

女子力とか考えたことも無さそうなのに、どうしてミカンちゃんはそんな当然みたいに「可愛い」を生み出せるの……??

 

顔を真っ赤にしてフラフラなミカンちゃんも可愛い。

ちょっと赤らんだまま微笑んでいるソラお姉ちゃんも可愛い。

部屋の隅の姿見の中の顔は、あんまり普段と変わらない……。

世の中って本当に不公平だ……。

 

鏡と睨めっこしていた私の心境を、ソラお姉ちゃんは察してくれたみたいで。

ミカンちゃんをあやしながら、私の方へもフォローを繰り出してくれた。

 

 

 

「大丈夫ですよ、アカネちゃん!

私の姉さんは未就学児の頃から屠蘇器(とそき)の中身をラッパ飲みしていたという逸話を持つ真性のウワバミですけれど、それでも結婚できましたから!」

 

 

 

「それはソラお姉ちゃんみたいに美人で、お胸が立派だったからでしょ?? もうヤダぁっ! こんなの全然可愛くなーいっ!!」

 

 

 

ポジティブに生きるって……やっぱり、ムズカシイ!!

 

 

 

 

 

 

 

 





大酒豪ならそれも需要はあると思うんですが、果たして……?
実際に試してみる場合は「本みりん」と「みりん風調味料」を買い間違えないように気をつけてください。
味覚は人それぞれですが、人によっては本当に「味醂ってこんなに美味かったのか……!」ってなるらしいですね。

なお、このSSは未成年に飲酒を勧めている訳ではありません。
未成年はマネするなよ? マネするなよ?? 絶対にマネするなよ???
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