民明書房にもそう書いてある。
いつものアカネはんの家での勉強会が少し早めに終わって。
もう花びらなんて全く残っとらん桜並木の下を、ソラ姐さんと一緒に歩いとる時分やで。
こういうのも、デートって呼ぶんやろか。
「そんで、なんでか犬飼さんに誕生日を聞かれたんスよ。占いか何かにハマってるんスかね?」
「占いですか。オカルトも調べてみると奥が深かったり歴史を感じたりしますよねー?」
頭が良い人ってオカルトを否定しそうなイメージあるんやけどな。
ただソラ姐さんの場合は、現実的かどうかは別問題として、オカルトはオカルトとして楽しみそうやな。
そのオカルトが生まれた文化的背景なんかを喜んで調べそうなんや。
「ちなみに俺って何座生まれに見えるっスかね?」
「獅子座でしょうかね」
……おん?
今の質問は、会話のネタとして長めのキャッチボールを期待して言ったんやけどな。
そんなん、なんでノータイムで当てられんねん??
ワイがこの間渡した連絡先に、誕生日の情報が入っとったか……?
思い出してみたけど、別にそんなんあらへんな。
メアドに誕生日を入れてる訳でも無いから、ソラ姐さんが知っとるはず無いんやけど?
「もしかして、犬飼さんから聞いてたっスか?」
「そういう訳では無いのですけれど……。ふふ、なら私からのクイズです!
お姉さんは、どうしてハッサク君が獅子座生まれだと推理できたのでしょうか~?」
なんやて!?
まさか逆にクイズ出された!!?
困るで、ソラ姐さん!?
や、まぁ先にワイの方がクイズ出したんやけどな!
ここは彼氏の威厳っちゅうモンを見せんとな!
落ち着くんや。
勘でも12分の1で当たるんやけど、ソラ姐さんは「推理」って言葉を使っとった。
つまり、確実とは言えんまでも何かしら根拠があって獅子座って答えとるハズや。
性格か?
でも獅子座生まれが全員同じ性格な訳ないやろ。
うー……。
んんんー……!!
何っっっっにも思いつかん!
「テレッテレッテーン♪」*1
「まだ回答してすらいないっス!?」
……楽しそうやな、ソラ姐さん??
頭を抱えとるワイのことを、微笑ましいって目がゆーとるで!
アカン。
ワイ、いつもソラ姐さんの掌の上でグルグルしとらん??
またこのパターンや。
年下の可愛いカレシ君ってポジから前進したいんやけど、全然出来る気せえへんわ!
ソラ姐さんカンペキに、可愛い年下カレシ君を愛でる目をしとるモンな!
「ハッサク君、降参ですか~?」
「…………後生っス。何かヒントが欲しいっス」
彼氏としてのプライドを半分……いや、3割ぐらい捨てたけど、しゃーなし!
ヒントや!
ヒントプリーズ!
ギブミーヒント!
「そうですねぇ。ヒントは……『新月』です!」
新しいと書く方の新月ですよー、なんて補足を入れながら。
ソラ姐さんが、人差し指を天に向けつつヒントを恵んでくれよった。
なるほど、新月やな。
小学生の理科で習った知識やと、新月って月が見えない日のことやな。
つまり……どういうことなんや??
星座占いに新月って何か関係あるんか?
同じように空に浮かんどるモンではあるんやけど。
見えないものを見ようとする行為に意味があるとか、禅問答みたいな答えやったりするんか?
アカン。(5分ぶり2度目)
全く分からん。
どないせぇっちゅうねん。
ヒントの意図すら分からんで!
「うむむ……。今のヒントでダメそうなら、そもそも答えを知らない可能性が高いですね。
ご親族から、ハッサク君のお名前の由来を聞いたことってありませんか?」
「俺の名前の由来……? 聞かされたことは無いっスけど、柑橘類じゃないんスか??」
人差し指を立てたままのスタンスで、ソラ姐さんが追加の質問を繰り出して来よったな。
それにしても、名前の由来……?
一体何のことやねん?
ハッサクって柑橘類やろ?
そういう種類のライオンでもおるんか?
「八はそのまま8月。朔は新月……陰暦で言うところの月初めです。8月の朔の日に生まれたから
「なん、やて……!!!!?」
た、たしかに、8月1日生まれやけど!
そんなん、一度も親から教えて貰っとらんで!?
ワイの名前ってそんな意味だったんか!?
ホンマに柑橘類だと思っとったわ!
そう思っとったせいで、源氏名ミカンちゃんにしてしもたやんけ!?
「あれ……? もしかして、人差し指を立ててたのもヒントだったっスか?」
「大正解ですよ! よくできました~!」
人差し指で「
ワイのこと抱きしめて頭をワシワシしとる!!?
身長差が少しだけやから、オッパイに顔が当たるみたいなことは無いんやけど、心臓には悪いで!
あとチンポ勃ったらヤバヤバやんけ!
ミカンちゃんの時はハグされても心のチンポだけで済むんやけど、今は普通に男やからな!
「一応柑橘類の八朔も元々は陰暦における収穫期から名づけられているので、由来として間違いではないと思いますよ」
「ソ、ソラさん、よくそんなの知ってたっスね……」
「知りませんでしたよ? でも愛しいハッサク君のことが気になって、意味を調べたんです」
ワイの彼女、健気すぎん??
そんなん耳元で囁かれたら情緒おかしくなるわ。
ホンマに良い女すぎて、もし何かの間違いでフラれても、その後に別の女を好きになれる気せえへんでワイ。
……一杯いっぱいになっとったけど、コレってワイの方からも抱き返した方がエエんかな?
おっかなびっくりやけど。
そーっと、手を伸ばして……。
「少し、座ってお話をしましょうか」
あ、ハグ終わってしもた。
まぁ、また抱き返すのは次の機会やな。
ソラさんが目を落とした先にあるんは、この間ミカンちゃんとソラ姐さんで一緒に座ったベンチやな。
また一緒に座ってみると、やっぱり二人の間に何とも言えん絶妙な間が出来るベンチや。
「前々から思っていましたけれども……ハッサク君って、御出身は西の方でしょうか?」
「そっスね。小学生の頃は大阪に住んでたんスけど、去年こっちに越してきたっス」
転校先の大都会で中学デビューするハズやったんやけどなぁ。
入学早々に大喧嘩して、あらゆる予定が狂ってしもたんやで。
後悔はしとらんけどな。
おかげで鳥山アニキにも会えたし、アカネはんの御縁でソラ姐さんとも接点が出来た訳やし。
結果オーライや。
「関東に来て、カルチャー・ギャップを感じるところってありますか?」
「かるちゃーぎゃっぷ?」
初めて聞いた言葉やな。
でも、初めて聞いた言葉の意味を推測するのが国語力って聞いたし、ちょい推測してみるわ。
ギャップは、ジャネレーションギャップなんて言ったりするから……たぶん「感覚の差」みたいな意味やろか。
カルチャーは……何やろ。
ガチ初耳かもしれん。
けど、関西から関東に来た人間に対して聞いとるんやから、意味的には「地域」とか?
「カルチャー・ギャップというのは……『文化的な差異』でしょうかね」
あ、カルチャーって文化なんか。
推測すんのは大事やけど、目の前に相手が居るなら普通に意味を質問した方がエエな。やっぱ。
「漫画やアニメなんかで、宇宙人や異次元人が現れるじゃないですか。でも本質的には、彼らが何処から来るかは重要ではないんです。
結局、枠組みの外から来た人間と比較することで、現地民の性質を浮き彫りにするためのギミックなんですよ」
私達の「当たり前」が当たり前ではなくなる瞬間からドラマが生まれるんです、なんてソラ姐さんは楽しそうに続けてくれよった。
なるほどなぁ。
関西人から見て関東の人がどう見えるか聞いてきたのも、それと同じ感覚なんやな。
しっかし、なんかそれっぽい話題なんてあったやろか……?
ワイ、普段結構ボケっと生きとるかもしれんなぁ。
んー、せやなぁ。
地元やとエスカレーターに乗る時に左手側を開けて乗ることが多かったんやけど、関東やと逆やな。
あとは……お好み焼きの切り方やろか?
「そういえば、関東の人がお好み焼きをピザみたいに切って皆でシェアして食べるのはビックリしたっス」
「おや……? 関西では一般的ではない食べ方なんでしょうか?」
まぁワイの周りでは無かっただけで、関西でもお好み焼きをシェアする文化は存在するかもしれんけど。
基本的には、お好み焼きって一人一枚やろ。
食べやすく格子切りにはすんねんけど、ピザみたいな切り方は見たことなかったで。
そんなワイの感覚的な説明を……ソラ姐さんは興味深そうに聞いてくれとるな。
複数の視点を持つことに躊躇が無い人なんやとは思っとったけど、視点を追加することを楽しむ人でもあるんや。たぶん。
「そもそも、ピザ切りだとコテに乗せて食べる時に不便じゃないっスか?」
「なるほど……これも文化の違いですねぇ。
関東だと、ヘラは調理と切り分けには使いますけれど、そのまま食器として使うのはあまり馴染みがないかもしれません」
おん……?
関東の人って、コテで食わんの??
そういわれたら、こっちに来てからは見たことないかもしれん……。
っちゅーか、関東やとヘラって呼ぶんやな。
「なんでそんな違いがあるんスかね……?」
「むむむ……。興味深いですねぇ。
名前から考えると、個々人の好みで具を選んで調理する食べ物なのが源流でしょうし、関西式の方が古くからある文化な気はするんですけれども……」
ソラ姐さん、考え込んどるな。
でも、なんか楽しそうや。
自分の知らないことを考えたり空想したりするのも好きなんやろな。
占いの話の時も、オカルトは基本的に好きみたいなスタンスやったし。
アカネはんのメモ帳から陰陽師の話が出た時も、陰陽術を一通り知っとる感じやった。
幽霊とか宇宙人とか実際に見たら、メッチャ喜びそうや。
……っと、ソラ姐さんと目があったわ。
なんや、古い漫画とかなら豆電球が点いてそうな感じや。
え? ウソやろ?
まさか原因分かったんか??
「確証と呼ぶには程遠いですけれども、一つ仮説があります」
「……マジか??」
知ってたとかやなくて、たった今、数分考えたら分かったっちゅうんか?
ウソやろ??
頭にインテル入っとるとかいうレベルちゃうで。
ホンマにソラ姐さんの頭、多次元量子コンピュータでホワイトホールにでも繋がっとるんか?
まぁ、さすがにソラ姐さんも自信がある訳や無さそうやけど。
聞かせて貰おうやないか!
「私も実物を見た訳では無いんですけれども……今は昔、昭和の東京下町では駄菓子屋に『もんじゃ』を焼くための鉄板があったらしいんです」
思っとったよりも壮大な昔話が始まりよったな??
そもそも駄菓子屋なんて見たこと無いで。
昭和って、もう30年以上前の大昔やんけ。
なんでそんなん知っとんねん?
ほー、ドラマで見たんか。*2
「お小遣いを出し合って子供たちが『もんじゃ』を駄菓子屋で調理し、それを分け合って食べる独自の文化があったそうです。
そこから派生して、お好み焼きも大きめのものを皆で焼いてシェアする文化が出来上がっていった……のかもしれません」
「昭和の子供たちの思い出が、お好み焼きのピザ切り文化を作っていったんスね……」
なんや、エエ話っぽくなりよったな。
まぁコレも「諸説あります」っちゅう話ではあるんやろけど。
お好み焼きのピザ切りって違和感しか無かったんやけどな。
そんなふうに昭和の子供たちの思い出が詰まっとるって考えたら、ピザ切りも悪くない気がしてきたわ。
ワイのそんな感想を聞いて、ソラ姐さんは嬉しそうに微笑んでくれよった。
そして……ゆっくりとした曲調のアカペラを口ずさみ始めよった。
――人はね
同じベンチに座っとるとは思えんぐらいに、遠くに見えた。
――みんな違う
聞いたことない曲やけど、聞き惚れた。
――愛し方や 痛みも違う
なんだか、知らない映画の名シーンでも切り抜いたみたいやった。
――その違いが“素敵”だって
幻想的って、こんな感じのことを言うんやろか。
――今なら言える
ソラ姐さんがその1フレーズを口ずさみ終えた後も、ワイは暫く聞き惚れて動けんかった。
ゆっくりで優しくて、なんでか耳に残る歌声やった。
「ご清聴、ありがとうございました」
「私が小学生の頃に好きだったアニメの曲です」
「本物はもっとアップテンポな曲なんですけれども、勝手にアレンジしちゃいました」
「お姉さんの年がバレるので、何のアニメか調べちゃダメですよ」
……恥ずかしそうにそんな言葉を継ぎ足すソラ姐さんの笑顔も、綺麗やって思ってしもた。
そんで、ソラ姐さんがこの曲を好きな理由も、何となく分かるって思ったんや。
好奇心が強くて、自分が知らんことを知るのが楽しいソラ姐さんにとって、人と違うことは楽しさを生み出す源なんや。
でも同時に、それがネガティブな結果をもたらすことへの恐れを知っとる人間の心境も匂わせとる。
これも……「混沌」っちゅうヤツなんかな。
お好み焼きの切り方ひとつで、違いが見える。
違う文化圏の人間が不気味な存在に見えるかもしれん。
けど、それを素敵だって言える人間の方がそりゃ人生楽しいわな。
また1つ、ソラ姐さんの人生観みたいなモンが見えた気がしたで。
おっと、もう日没過ぎとるな。
大都会は日が暮れても何やかんやで明るいもんや。
でも、今日は月が良く見える日やな。
さっき月の話をしたせいか、東に昇り始めた月に目が引き寄せられてしもた。
ソラ姐さんも、そんなワイの視線に気づいたみたいで。
「ふふ。月が綺麗ですね」
「綺麗な満月っス……いや、ちょっと欠けてるっスかね」
綺麗な満月かと一瞬思ったんやけど、チョイ欠けとるな。
満月やったら良かったのに。
「
せやな。
そう言われたら、欠けとるんも悪くない気がしてきたわ。
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