Fallout New Vegas:Big Iron 作:キサラギ職員
荒れた荒野。透き通った空。鼻腔を、咽頭を擦り、水分を奪っていく枯れた風が流れていた。
テレビモニターらしきものが倒れており、傍らにはマニュピレータらしき残骸が転がっている。ホイール部分を抜かれたタイヤが砂を被ってすすけていた。
モニターに電源が入った。ごちゃごちゃとコード類が繋がれており、核分裂バッテリーに接続されていた。しかしコードの状態は極めて悪く、核分裂バッテリーも錆つきが目立っていた。
モニターがわんわんとうなり声を上げて何かを再生し始めた。
牢屋で乱舞する男性、巻き上がる火炎と塵と放射性降下物にさらされる街を写した映像、野球選手のホームランに喝采する観衆、軍艦が次々砲撃を行う様子、毒マスクの装着方法についての解説……すべてが不規則的に切り替わり、しかも早まわしされる。しまいにはモニター自体が途切れ、音楽を再生し始めた。
貧民窟にあるあばら家について歌った明るい調子のものである。住めば都。たとえ廃墟とて住めばそこがふるさとにかわりないのだろう。放射性降下物(フォールアウト)に汚染され、ガイガーカウンターがリズムを刻んでいたとしても……。
モニタが乱れた。電子部品がバチバチとスパークを起こし、焦げ臭い煙を上げて、とうとう動かなくなる。
少し離れた地点には砕けた頭蓋骨とマチェットが転がっていた。傷だらけで、カモフラージュ用の布を巻きつけた軍用ライフルも同じように砂の上で主を待ち続けている。
激戦の後を思わせるその場所。地平線の果てから顔を覗きかけている太陽は太古の昔から変わらない営みを見せていた。
タンブルウィードが転がっていく。その土地、モハビ・ウェストランドを。
掠れた、しかし陽気な音楽の元へと一人の人物が歩み寄っていき、目もくれずに去っていく。
砂っぽい日除けコートを引っさげた人物だった。つばのかけたテンガロン・ハットを頭に乗せ、ブーツで大地を踏みしめて歩いていく。
見えてきたのは町だった。校舎。酒場。雑貨屋。農民が作物の手入れをしており、ベガスを目指す旅人がたむろしていた。
男を見るなり旅人達はその異様な武器を目に留めて噂話をし始めた。
それは異様に長い銃身にコンペンセイターまでくくりつけた自動拳銃だった。口径の巨大さと銃身の長さはまるでヒグマを撃ち殺すための銃のようであった。
銃で商売をするもの、銃で身を守ることが必須なもの、いずれの人間も数多く存在するその場で、ただの拳銃にしては大きすぎた。まともではない武器を取り扱える人間はまともではない人間と決まっていた。
噂話、好機の視線もものともせずに歩いていくと、酒場が見えてきた。
プロスペクター・サルーン。探鉱者の酒場。
古ぼけた一軒家であった。入り口には麦藁帽子を被った黒人男性が腰掛けてゆっくりと水を嗜んでいた。
「おいあんたぁ。いざこざはやめてくれよなぁ。兵隊さんやらなんやらみーんな死んじまってぇ……」
老人が南部訛りで忠告をかけるも、人物は無視した。たとえ老人がダイナマイトを葉巻でも手入れするようにいじくり倒していようがだ。
人物は一言もしゃべらなかった。鼻でインゲン豆でも噛んでいるような顔立ちの男がじろりと人物を睨む。傭兵もいれば荒くれ者もいる。メンタスを酒で流しているジャンキーもいた。ここはベガス。自由の街。いかなる権益も保障される場所である。薬をキメようが制止するものはない。ただ刑罰はいつも銃によって執行されるだけの話であった。
人物は煤けたテンガロンハットを机に置いて一言。
「ウィスキー」
短すぎる注文はしかし、酒場を取り仕切る女主人に伝わったようだ。
中年女性。トルーディ。周辺を取り仕切る役割をもち、いざとなればスコープ付のマグナムでゴロツキを追い払う肝を持つ。
無言でウィスキーをコップに注いで出す。
すかさず人物はキャップを机に置いて寄越した。
ウィスキーを嗜む人物の腰にぶら下がった拳銃にはいくつかのサインがあった。サインは、木製グリップに誇らしげに翻っていた。
それは紋章だった。キルマーク。
「あいつは殺し屋かなにかに違いねぇ」
誰かが口にしたが、それっきりだった。
突如として表情を引きつらせたジャンキーが扉をくぐって来たことへ注意が逸れたからだ。
マチェットを握り、赤い外套を被っていた。
みるからにげっそりとやつれ呼吸も荒い。この手の輩が突如沸いてくるのがウェストランドである。
ゆえに場の誰一人反応を見せなかった。
「てめえら俺はリージョンの一部隊を引き連れてんだぞ! キャップくらいよこさねぇか!」
場の旅人、傭兵、トルーディはもちろん、丁度居合わせた子供も失笑を堪えきれていなかった。
トんだ気分になり頭が爽快になるジェット、頭の回転を加速してくれるというメンタス、そのいずれでもなさそうだった。快楽と引き換えに攻撃性を一時的に増幅してしまうサイコあたりでもキめているのだろう。
カウンター席に腰掛ける傭兵の何人かが銃を抜いていたが、平然を装っていた。
テンガロンハットをとろうともしないその人物は失笑どころか無視の領域にいた。俺に関係ないことだ、と言わんばかりにため息を吐いて。
「リーィィジョンだぞ! 怖かねぇのか! ええ!?」
誰かが野次を飛ばす。
「だからどうだってんだよ!」
「糞リージョンはくたばっただろ」
「Vaultにでも200年引きこもってたのか?」
リージョンにせよ、NCRにせよ、フーバーダムの戦いで痛手を負い、ダムの支配をベガスに奪われている。今更クマと無数の軍勢の後ろ盾を主張したところで、誰も見向きもしない。
怖気ついたジャンキーが手ごろな旅行者に襲い掛かった。
次の瞬間、銃声が走った。
カップの中のぬるい氷がからんと鳴った。
場の誰一人認識さえできないすさまじい速度での早抜きと照準そして射撃が、テンガロンハットを被った人物によりなされたのだ。14mmのフルメタルジャケットがマチェットの胴体に的中し、数m先のドア下まで吹き飛ばした。
人物は平然とウィスキーを流し込むと、帽子を取った。
青い目。幼さを残した白人の青年だった。日焼けでボロボロになった皮膚に砂が入り込み黒っぽい顔色をしていた。
まだ大人になりきれていない外見なものの、挑発的な目つきと微笑が異様さを彩っていた。
左腕に握られた鉄塊から細く硝煙が上がっていた。
「やかましいぞ。こっちは金払って酒飲んでるんだ。大道芸やりたいならチャイナにでも行ってくたばれ」
しまいに失せろを付け加えた。
ジャンキーはぽかんとしていたが、やがてもう一本のマチェットを抜いて切りかかった。
人物の銃はおろされていた。トルーディがとっさにマグナムを抜こうと手を伸ばし、騒ぎを聞きつけ駆けつけたサニー・スマイルズとシャイアンが仲裁に入ろうとするも、間に合わない。
人物はあわてず騒がずに14mm拳銃でマチェットを受け、肘を腹部に叩き込んだ。
ジャンキが奇妙な声を上げて転げる。
「くそがぁ!」
銃撃ならまだしも格闘ならば見物するに限ると思ったか、客達がいっせいに引き上げていく。机を盾にするもの。野次馬に徹するもの。喧嘩は見るに限る。特に自分に被害が及ばないであろう場合は。
人物がカウンターチェアからブーツを鳴らして床に降り立つ。
小柄。衣服の奥にあるであろう肉体は際立って筋骨隆々というわけではなかった。むしろ少年のようだからこそ、ギャップが際立たされていた。
見物する側のトルーディからすればたまったものではなかった。店内で喧嘩などされて死なれては修理代も稼げない。
「そこまでよ。これ以上馬鹿騒ぎするならどうなるかしら」
「だといいが。俺はよくてもやっこさんはよくないらしい」
人物は飄々と肩を竦めてみせ、椅子を蹴飛ばしながら立ち上がりマチェットを振り回す敵へと対峙した。
14mm拳銃はホルスターに収められていた。
テンガロンハットをかぶり直し、目線だけをつばから覗かせる。
「野郎ッ!」
ジャンキーが大雑把にマチェットを振り回し、唾液を撒き散らしながら、まるで片足を吹き飛ばされたデスクローのようにテンガロンハットの青目に向かっていく。
人物は切りかかる瞬間を見切り、半歩引く。数cm先を鉄の剣が通過した。
あるべき手ごたえを得られず剣の重さにジャンキーが仰け反ったところで早抜きの姿勢をとった。
再度、ジャンキーがマチェットを人物の頭部目掛けて振った。
軌道に14mm拳銃が割り込んだ。刃目掛けて大口径弾が吐き出される。刃があらぬ方角にはじかれ、大口径弾がトルーディのすぐ横にあったウィスキーボトルの首を落とした。
「薬中はせいぜい床を舐めろ」
致命的な隙を晒したジャンキーの首へ人物が手を伸ばし一気に距離を詰めると足を払い投げた。どおっ、と床に頭部を叩きつけて意識を刈り取る。
ニヤリ。人物が口角を上げた。
振り返る。
「こいつでウィスキー代くらいは返してもらえるだろ?」
「あぁ」
トルーディがしかめっ面で机の上に割れたウィスキー瓶を置き、マグナムのハンマーを起こした。カチリと安全装置が解除された。
店内で発砲。しかも顔を掠めたのだ、デスクローも真っ青な怒り方であった。
笑っているというのに笑っていない、そんな悪魔じみた表情で。
「追加料金が必要になったわ」
あまりの剣幕に人物は素直に両手を挙げた。
「人を探している」
その人物は結局ウィスキー一本分と迷惑料金を支払わされた。
交渉が下手糞なのかトルーディにやれお前が悪いだのウィスキーの値段がだのと代金を吊り上げられてこってり絞られてしまっていた。
壁の修理やらジャンキーを縛ってその辺に捨ててくることやらで用件は閉店後になっていた。
人物はカウンター席に腰掛けていた。トルーディがカウンターでコップを磨いている。
シーリングファンが室内の空気をかき回している。
「生きていても死体でも構わん。俺はテキサスレッドという男を追っている」
人物は目的を口にすると一言だけ付け加えた。
「俺の名前は………レンジャーとでも呼べ」
「偽名ね」
「そうだな」
「はっきり言ってさっきのジャンキーと同じくらい怪しいわね」
頭を掻く。これだから会話は苦手だ。
ガンスキルとサバイバルスキル全振りな感じのキャラを想像。スピーチとかのスキルは低いのでトルーディにがっつりキャップをとられました。
モデルは左利きらしいあのガンマン