私の兄はトレーナー   作:お話下手

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僕の兄はトレーナー

 

 「これでよし…」

 

 トレーナー寮のとある一室。昼休みの昼食を済ませたシュヴァルグランは週に二日、自分の契約トレーナーの部屋に訪れては彼の日用品であるティッシュやシャンプー、洗剤の補充など欠かさず行い、更には部屋の掃除など凡そ他人が聞けばひっくり返るような行為が毎日の日課だった。

 

 しかし、これには事情がある。

 

 シュヴァルの担当トレーナー。彼は彼女自身の年の離れた実の兄である。兄は非常にトレーナーとしては勤勉であるが、自分のことに対してはズボラなところがあり、幼い頃から兄に懐いているシュヴァルはそんな彼の役に立とうとこうして通い妻のようなことをしているのだった。

 

 今日もやることを済ませて満足げにトレーナー寮から出ようとする彼女。途中入口の管理人にオドオドと会釈し、用事を終わらせたことを伝える。本来ならばトレーナー寮に生徒であるウマ娘が入ることなど許可がいるが、血の繋がった兄妹である彼女には顔パスで通しており、部屋の合鍵も兄から直接預かっていた。

 

 管理人からも良く出来た妹さんだと、いつも褒められるが同時に最近の若い子は兄妹でも此処まで仲が良いのだろうかと内心疑問に思われているのは言うまでもない。

 

 カフェテリアに向かい、小腹が空いたため軽食を取ろうと思ったが其処にいたのは…。

 

 「本当だよー!私見たもん!」

 

 「そんな…有り得ないわ…。兄さん…いえ、トレーナーに…」

 

 泣きそうな妹のヴィブロスと愕然とした様子でフラフラ倒れそうになっている姉のヴィルシーナが、なにやら神妙な面持ちで話し込んでいた。

 

 「どうしたの二人共…」

 

 か細い声をかけるシュヴァル。訪問した彼女を見つけた姉妹は一気に詰め寄った。

 

 「シュヴァち~!聞いてよー!お兄ちゃんが…」

 

 「ヴィブロス、学園ではトレーナーと呼びなさい」

 

 末っ子であるヴィブロスは甘えん坊であり、学園でもお兄ちゃんお兄ちゃんと呼んでは引っ付いているが、長女であるしっかり者のヴィルシーナからは公私を分けなさいといつも嗜めなられていた。とはいえ、本人も気を抜くと自宅での呼び方に変わるがシュヴァルもそんな姉を見習い、学園ではトレーナーさんと呼んでいる。

 

 「ヴィブロスが騒いでいるのはいつもだけど、姉さんが動揺しているの珍しい…」

 

 淑女。そう呼ぶに相応しい上品な振る舞いをするヴィルシーナだが、何故かその顔は優れない。彼女がここまで表情を暗くする理由、それは一つしかない。

 

 「トレーナーさんに何かあったの?」

 

 「何かあったなんてものじゃないよー!お兄ちゃ―――じゃなくてトレっちってば昨日の夕方、女の人と一緒に買い物していたらしいんだよ!」

 

 「え…」

 

 シュヴァルは冷や水をかけられたようにショックを受ける。ヴィブロスの話によればそれは昨日の夕方に留まらず、最近はよくショッピングモールで女性と彷徨いている姿を友人達が目撃しているという。家族が知らぬ女性と顔を合わせているのだ、そんなもの答えは一つしかない。

 

 「も、もしかしてお兄さん、彼女が出来たのかな…」

 

 身を縮こませて不安そうな顔を浮かべる。

 

 対照的にヴィルシーナは余裕の態度で紅茶のカップを手に取った。しかし。

 

 「まままさかににに兄さんにこここ恋人なんてありえないわわわわ」

 

 微笑みながらガタガタと震え、舌がろくに回らない。紅茶のカップとソーサーも小刻みに動きカチャカチャとけたたましい音を発てる。

 

 「お姉ちゃーん!?」

 

 ヴィブロスは精神崩壊を起こしそうな姉の肩を揺さぶり正気に戻す。

 

 「あ、安心なさい二人とも。所詮は赤の他人。私達、血の繋がった家族の愛こそがこの世で最も尊く強い絆よ」

 

 家族愛に勝てる者無し。兄を想う心は誰にも負けぬと豪語するヴィルシーナ。

 

 「でも、お兄さんがいつまでも僕らと一緒ってわけにもいかないだろ…」

 

 何れは誰かと結婚し、別の家族を作るかもしれないのだ。現実的に考えて姉の言葉に肯定しないシュヴァルだが、その言いようにチカラは無い。

 

 「しょうがないよ…」

 

 「シュヴァルってば何を言ってるのかしら。兄さんが私達から離れるわけないじゃない」

 

 さも当たり前のように真顔で反論するヴィルシーナ。目が本気である。基本的にしっかり者の彼女だが、自分の兄のこととなると途端にポンコツになるためシュヴァルは頭を抱えたくなった。

 

 「じゃあ!お兄ちゃんに聞いてみようよ!」

 

 「本当に恋人だったら答えにくいと思うけど…」

 

 家族にもプライベートがある。いくら仲が良すぎる兄妹だろうと答えてくれるだろうか。三人の妹達に黙っていることもあり、秘密にしておきたいのは間違いない。

 

 「駄目よ。兄さん―――じゃなくてトレーナーは人が良いもの。相手が不埒な人か確認しなければならないわ」

 

 目を光らせるヴィルシーナ。シュヴァルはどんな相手ならば許せるか尋ねた。

 

 「まずはトレーナーのことを大事に想っていることが前提ね。あの人は身体が弱いもの。ちょっとでも負担になるようならば許せないわ。あとは料理も出来ないと駄目。トレーナー業が生き甲斐の彼はいつも食事を適当に済ませるから栄養のあるものを食べさせないと。あとは私よりも足が早くないと駄目。私よりも強い人でないと任せられないわ」

 

 「それ無理だよ~!」

 

 並のウマ娘よりも遥かに身体能力が高いヴィルシーナ。そんな彼女が自分よりも強い者となると、最早交際を許す気など毛頭無いことがわかる。

 

 「何を言ってるのヴィブロス。これはまだ序の口よ? トレーナーと交際したいのならば条件はあと五十は残しているわ」

 

 兄の好みを熟知している姉。料理のみならず掃除洗濯など家事に関してもこだわりがあるようで次から次へとこれが良いあれか良いと止まらない。まるで小姑だ。尤も、肝心の兄は特にこだわりが無いので気を遣わないでほしいとヴィルシーナにお願いしているようだが、あまり意味を成していない。

 

 ヴィルシーナ、シュヴァル、ヴィブロスの三人はトレーナー室へと向かい兄にそれとなく交際相手について訪ねることにした。

 

 「トレーナー。入るわ」

 

 「あぁ」

 

 ノックの後、静かに返答が帰ってきた。三人が入室するとトレーナーはノートパソコンに向かい合ったまま、何やら資料を作成しているようだった。

 

 「トレっち~、ちょーと聞きたいことがあるんだけどぉ…」

 

 ヴィブロスの甘えた声に苦笑するトレーナー。

 

 「その前にヴィブロス、その呼び方は止めてほしいと言っただろ?」

 

 「本当はお兄ちゃんって呼びたいんだよ? でもお姉ちゃんから駄目って言われてるから良いでしょー?」

 

 公私を分けるのは大事だ。ヴィルシーナの言うことは正しい。しかし、トレっちと呼ばれるのはあまり意味をなしていない気がする。出来れば止めてほしいと思う彼だが、可愛い末っ子が大きくなっても慕ってくれることが嬉しく、つい許してしまうのだった。

 

 「わかった…。ところで聞きたいことってなんだ?」

 

 微笑みながら了承し、ノートパソコンを閉じる。三人の顔を見れば僅かに強ばっているのは気のせいだろうか。

 

 「トレーナー。最近、誰かとよく出掛けているみたいね」

 

 ヴィルシーナが先陣を切る。心の中では不安でいっぱいだったが、それを相手に悟られぬよう毅然とした態度を取り繕う。逆にその質問を投げ掛けられたトレーナーは明らかに動揺した様子だった。

 

 「あ、いや―――大したアレではない」

 

 三人の脳内に衝撃が走る。これは絶対に何か隠している!と。

 

 大好きな兄に隠し事をされているのにショックを受け、ヴィルシーナとシュヴァルは立ち眩みがしたが気合いで耐える。

 

 「えー? ホントー?」

 

 ヴィブロスは持ち前の無邪気さで更に追及。口元は笑っているが目付きは笑っていない。

 

 「あぁ。ちょっと探し物があってな。先輩に手伝ってもらった」

 

 嘘をついているようには見えなかった。しかし、何か隠しているのは明らかであり、その目線は一瞬シュヴァルグランを捉えていた。

 

 彼女はというと、ヴィルシーナとヴィブロスとは違い、兄に対して何か質問することが出来なかった。頭の中には拡大妄想が広がっていく。

 

 (そ、そんな…。やっぱりお兄さん…彼女が出来たんだ。そうだよね、普通に考えたらお兄さんの年齢で交際相手がいてもおかしくないわけだし…もしかしたら何れ結婚とかするのかな。そうなったら僕がお兄さんの身の回りの世話をする必要も無くなるし、迷惑になるよね…。お兄さんの役に少しでも立てるように僕が出来ることをやっていたけど、それすらも無くなるんだ。こんな僕の為にいつも頑張ってるお兄さんに何もしてやれない…)

 

 「スマン。今日は用事がある、早めに上がらせてもらう」

 

 兄は時計の針を気にしだし、資料を手早くまとめ始めた。普段ならば夜遅くまで仕事をして妹達に怒られるのが彼だが、突然のことに姉妹に緊張が走る。

 

 「そんなに急いでどうしたのかしら?」

 

 「ちょっとな…」

 

 ヴィルシーナの追及にこれ以上口を開くことはなく、急いで上着を手に取ると一言謝罪だけを残してトレーナー室を出ていった。

 

 「え? 待ってください兄さん!―――もうっ」

 

 「お姉ちゃん、追いかけようよ!」

 

 ヴィブロスと共にトレーナー室から出ようとしたが、何故かシュヴァルだけはその場に留まる。

 

 「どうしたのシュヴァち?」

 

 「やめよう。お兄さんに迷惑かかるだろ…」 

 

 うつむきながら、か細い声のシュヴァル。だが、その迷惑というのは彼女の本心ではない。たださえ避けられているというのにこれ以上しつこいことをしては大好きな兄に嫌われるのではないかと恐れているのだ。

 無論、ヴィルシーナもヴィブロスもそれには気づいている。

 

 「シュヴァル。私達の兄さんはこれくらいで貴女を嫌うような人じゃないわ」

 

 いつも口に出してトレーナーは言ってる。お前達の為なら苦労も歓迎だと。

 

 「お兄ちゃんが私達の為に頑張っているなら私達もお兄ちゃんの為にも頑張らないと!」

 

 その為に人の恋路を邪魔するのはどうかと思うが、シュヴァル自身も兄の交際相手は気になって仕方ない。もしも悪い人だったら絶対嫌だった。

 

 「で、でも…」

 

 それで本当に良い人だったらどうしよう。その場合は認めるしかないのだ。知りたいが知りたくない。

 

 「大丈夫。私は兄さんの恋人なんてそう簡単に認めないもの。私について来なさい!」

 

 「えぇ…!?」

 

 ヴィルシーナに思いっきり手を引かれる。シュヴァルが静止するのも聞かずにそのままトレーナーの元へと走り出したのだった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 「いた!」

 

 兄を探し出すのに時間がかかってしまった。後を追いかけた時には既に何処にも姿はなく、ヴィブロスが前々からショッピングモールで目撃されているという情報のもと、其処に駆け付けると確かにいた。

 しかも一人ではない。後ろからしか見えないが、ショートヘアーで高身長、スレンダーであり細身のスーツ姿をした女性と並んで歩いているではないか。

 

 「がっ!?」

 

 その姿を見たヴィルシーナは岩のように固まってしまう。やはり兄に恋人がいたことにショックを隠しきれないのだろう。

 

 「そんな…私達、家族愛が二番目なんて…」

 

 「お姉ちゃーん!?」

 

 魂が抜けたように真っ白に燃え尽きる。ヴィブロスの呼び掛けにも答える様子がない。

 初めは突撃する勢いだったヴィルシーナだが、早速戦線離脱。兄に相応しいか見定めるどころではなかった。

 

 一方シュヴァルも仲睦まじく並んで歩いているその姿に泣きたくなる。時折、小突きあっているようで、いつも優しく微笑んでいた兄からは想像も出来ない無邪気な姿。兄のことは何でも知っているつもりだったが自分に見せていたのはホンの一部だったのではないかと。

 

 (やっぱりそうだ…。いつまでもお兄さんと一緒にいれるわけないじゃないか。僕もお兄さんもいつかは変わって別れがくる。―――――でもっ)

 

 脳裏に浮かぶのはトレーナー契約を結びたいとスカウトしてきた兄。

  

 『僕より姉さんやヴィブロスの方に集中してよ。僕なんかじゃお兄さんに実績なんてあげられない…。家族だからって気を遣わないで…』

 

 自分に自信が全く無いシュヴァルグラン。トレーナーが姉や妹の育成にチカラを注いだ方が良いとその言葉を断っていたが、彼は頑なにそれを受けれなかった。

 

 『シュヴァル。お前は勘違いしている。俺は実績なんて興味は無い。それに俺が気遣いでお前を選ぶような失礼な奴に見えるか?』

 

 『それは…』

 

 『ヴィルシーナもそうだがヴィブロスも高い潜在能力を持っているそれは間違いない。だが、それはお前もだよ』

 

 兄は語る。シュヴァルグランは中距離長距離で先行を維持出来る程の高いスタミナを持っていると。更にお前は人一倍根性がある。自分の自身の無さを補う為に努力を欠かさないその姿勢は才能であると。

 

 『む、無理だよ…僕じゃ…』

 

 『俺がシュヴァルに嘘をついたことがあるか?』

 

 目線を合わせて優しく微笑みかける。

 

 『ううん。お兄さんは本当のことしか言わない…』

 

 それどころか兄は一度もシュヴァルの言ったことを疑ったことすらなかった。自分の言葉や考えにも自信がない彼女だが、口にして兄に話すと彼は己以上に肯定するのである。

 

 『それでも信じられないなら、俺を信じろ。お前が強いと確信している俺を』

 

 『お兄さんを信じる…』

 

 『俺にはわかる。お前はいつか、偉大なウマ娘になれると。だから俺と一緒に走ってくれ』

 

 嬉しかった。誰よりも尊敬して大好きな兄に自分が認められていることを。だからこそ、少しでも恩返しがしたくて支えてあげたくて身の回りの世話をしていた。こうでもしなければ、自分は何もしてやれない。何も返してやれない。なんの役にも立てない。そう思っていたというのに、それさえも無くなる。兄との繋がりを無くしてしまう。

 ヴィルシーナやヴィブロスには恋人が出来てもしかたないと言っていた彼女だが、本心は嫌で嫌でしょうがなかった。大事な兄を誰にも渡したくなかった。

 

 「僕、やっぱり…嫌だっ…」

 

 影から見ていたシュヴァルグランは飛び出す。

 

 「シュヴァル!?」

 

 「シュヴァち!?」

 

 二人の静止を聞かずに兄の元へと駆け出した。

 

 「お、お兄さんっ!」

 

 「え?」

 

 シュヴァルの上ずった声に何事かと振り返る。彼がその姿を見て驚く前に彼女は兄の腰にしがみついた。

 

 「お兄さん!ぼ、僕お兄さんとずっと一緒が良い…!離ればなれになりたくないっ!見捨てないでっ!」

 

 「何?」

 

 泣きながら顔を埋める妹に戸惑っていると、続けてヴィルシーナとヴィブロスも慌てながら近づいてきた。

 

 「シュヴァち、普段引っ込み思案なのに爆発すると行動力が凄いよ…」

 

 「お前達、どうしたんだ…」

 

 「どうしたもこうしたもありません、兄さん!私達に内緒で逢引などと!」

 

 トレーナーが疑問を投げ掛けると、ヴィルシーナは普段の口調に戻り、年相応の拗ねた様子で兄に詰め寄る。

 

 「あ、逢引?」

 

 「私達、お兄ちゃん取られちゃったと思って心配なんだよー!」

 

 ヴィブロスの言葉にまさか…といった感じで苦い顔をする。隣にいる女性にちらりと目線を向けると額に手を当てた。

 

 「え、俺のこと?」

 

 その時、彼女だと思っていた女性が口を開くと凡そ女とは思えない程、低い声で違和感のある一人称を出す。

 

 「すいません、先輩。妹達が変な誤解をしているようで…」

 

 トレーナーが頭を軽く下げると、相手は苦笑いをして構わないと手を振る。

 

 「俺、そんなに女っぽい?」

 

 「先輩は細身ですし、中性的ですから」

 

 二人の会話に何となく事情を察した三人。

 

 「え…もしかして男性?」

 

 ヴィルシーナの言葉に頷くトレーナー。とんでもない勘違いに恥ずかしさからか顔を真っ赤にした。

 

 「も、申し訳ありません!」

 

 「いいよいいよ。家族仲が良いね。妹に愛されているなんて羨ましい」

 

 だが、問題はまだ残っている。そもそもシュヴァル達が誤解した原因の一つに兄がこの男性と最近一緒に出掛けていることから始まった。もしや兄は其方の気があるのではないかと、一瞬頭を過り、しかも相手が中性的な容姿しているため有らぬ誤解をしてしまいそうだが…。

 

 「違う、違う。俺と先輩はそんな関係じゃない。帽子選びを手伝ってもらっていたんだ」

 

 兄は持っていた手提げ袋をシュヴァルに差し出す。

 

 「え、僕?」

 

 「本当は当日に渡したかったんだが、誕生日プレゼント。まだ早いけど、おめでとう」

 

 目尻に涙を溜めたままポカンとするシュヴァル。綺麗に包装されている箱には有名なブランドのロゴが刻まれており、中身は帽子らしいが中々の高級品に思えた。

 

 「え!? シュヴァちの誕生日ってまだ一ヶ月も先だよね?」

 

 ヴィブロスの言うとおり、シュヴァルの誕生日はまだ先の話である。用意をするにしてはあまりにも早すぎた。しかし、トレーナー業の忙しさを改めて知らされた彼は時間に余裕があるうちに用意をしていたのである。

 

 「大事なシュヴァルの大事な誕生日だ。忙しさにかまけてプレゼント選びを妥協したくなかった」

 

 「お兄さん…」

 

 家族愛が深いのは姉妹達だけではない。彼もまたその一人だった。妥協するなどけして許せないのだろう。

 シュヴァルグランは兄の言葉に胸がいっぱいになりプレゼントの袋を抱き締めた。

 

 「ご、ごめんなさい…僕、勘違いして…!」

 

 「いや、お前達に行動を怪しまれるなんて俺もまだまだだな」

 

 困り顔で頭を掻く。本当は内緒にしておきたかった故に残念そうだが、彼の場合あまりにも妹達の監視の目が強すぎるのが原因だろう。

 

 「全く。兄さんが私達に隠し事など無駄です」

 

 「私達、みんな大好きだもんねー!」

 

 ヴィブロスのまっすぐな言葉にヴィルシーナは慌てて否定するがあまり兄は気にしていない。寧ろそれが当たり前だと考えている。

 

 「シュヴァル、お前はもう一つ勘違いをしているようだが、俺はお前と離ればなれになるつもりなんてないぞ」

 

 「え…」

 

 「言っただろう。お前はいつか必ず偉大なウマ娘になれると。お前の才能に魅了されている俺がそう簡単に手放すと思うか?」

 

 かつて、彼女がどれだけ断っても兄は譲ることがなかった。シュヴァルグランという才能の塊を持つウマ娘を、勝利への手助けをする。それは他の誰にも渡したくなかったと。

 兄から自分の想像以上の感情を向けられていることにシュヴァルは顔が真っ赤になり、まともに目を合わせることが出来ない。

 

 「良かったねー!シュヴァちー!」

 

 ヴィブロスから声をかけられても彼女は小さく頷くことが精一杯。

 

 「では兄さん。次は私にも同じように口説き文句を聞かせて頂けないかしら」

 

 「おいおい…」

 

 ヴィルシーナは兄の腕に自身の腕を絡ませ、近場のカフェで話をしようとデートの誘いをする。先輩と呼ばれた男性は眼福眼福といった様子で顔を艶々にし、邪魔になるから失礼するわ!とさっさと走り去ってしまった。

 ヴィブロスも反対の腕に抱きつくと兄は非常に歩きにくそうに足を進める。

 

 そんな三人の背中を見ながらシュヴァルはプレゼントを改めて強く抱き締め、誰にも聞こえない程小さい声で呟いた。

 

 「僕も手放すつもりはないよ、お兄さん。―――大好き」

 

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