ゲヘナ生「ミカさんと友達になりたいんです!!」   作:あめざり

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大人のカードの模造品
ゲマトリア制作の神秘を詰め込んだカード。つまりは強化パーツのようなもの。黒服以外の何者かが少し細工をしており、その内部からは不気味な光が放たれている。


戦え!!ヒナ委員長!!

エデン条約調印式当日

この言葉の重要さを知らない生徒はこのトリニティにも、ゲヘナにも、その他分校にも存在しないだろう。

ゲヘナとトリニティが手を取り合い、今までの様なちちくり合いを止めるための不可侵条約……この日を喜ぶ者も、妬む者も、恨むものさえいるだろう。トリニティ校内の主要戦力は全員古聖堂行き、残った生徒は仲間内でお祭り騒ぎだ。

そんな騒ぎに乗っかって、私も監獄備え付けのクソデカテレビで中継を見る事にした。

 

「それにしても……見張り役の君たちは見なくても良いの?歴史的瞬間だよ?」

「是非ともお目にかかりたいな。だがそれ以上にお前の隣に座りたくないだけだ」

「つれないなぁ……」

 

テレビの電源を入れ、ソファーに深く座る。

映し出された古聖堂からのLIVE中継では、ゴミを見る様な目を向けながら握手をしているトリニティの生徒達と、殺意のこもった目を向けながら握手をしているゲヘナの生徒達が映し出されている。

いきなり条約を発表された挙句『皆さん仲良く手を取り合ってください』なんて言われたらこう言う顔になるのも仕方ない話だな。

ただ……そんなある意味『平和』な中継は一瞬で崩れ去る事になる。

 

 

突如、ただ轟音としか表現できない爆発音と共に画面は暗転した

 

私は思わず席を立つ。何が起きたのか全く分からない、と言うより理解が追いつかない。ただあの爆発音……事故なんかで片付けられるものでは無いと言うことくらいは理解できる。確実に誰かの犯行、ゲヘナとトリニティ、もしくは調印式に居たそれ以外を恨んだ物だろう。

少しずつ思考が戻って来る。

一つ考えた、『私ならどうするか?』

……もし私が調印式をぐちゃぐちゃにするならまずは……

権力者を真っ先に狙う、ここで言うなら風紀委員会や万魔殿、それと……

 

「……ミカさんが危ない」

 

私は真っ先に監獄の出入り口に向かう。

状況整理だ。まず私は最優先でミカさん、そしてナギサ様を救出しなければならない。ここから出るための方法はいくつかあるが……どれも時間がかかるものばかり。これなら各校からの支援が届く方が早いだろう。だがそれではダメなのだ。私は支援が届くまでに出る損害を減らすため動かなければならない。そうなると……

 

それは、絶対にやりたくなかった最速かつ最悪の方法。

と言うかまず成功するかも怪しいレベルのギャンブルだ、だがもはやそれしか方法が見当たらない。

 

私は思いっきり拳を握り締め、それを壁に全力で叩きつける。

そして私は……

 

壁を叩き壊した。

口をポカンと開けている看守の横を突っ切り、全力で古聖堂まで向かう。

 

「だ、脱獄だ……」

 

「鏡裂アユタが脱獄した!!」

 

さて、何やら騒ぎ立てているみたいだがそんなのは無視だ無視。今の最優先事項は何者かによるテロを食い止めることと、ミカさんの手助けや救出だ。まああの人ならそうそう負けることはないだろうが……1番危ないのは物量だろう。人の体力はどうあがいても少しずつ削られていく……もしも無限生成される機械の様な物が相手にいるなら流石のミカさんでもマズいかもしれない。

 

(だけど……少し引っかかるな……)

 

トリニティは一本柱では無い。3つの派閥にそれぞれリーダーがおり、それが今のティーパーティー、それだけでは無く救護騎士団や正義実現委員会、シスターフッドなどの大きな組織も存在しており、ティーパーティーの面々を潰した程度で瓦解するほどヤワな学校では無い……

 

そこでようやく気づいた、相手の本当の狙い。

その組織……いや、そのたった1人で大型校の治安を守る人物。

 

「狙いは……ヒナ委員長か」

 

そう考えると辻褄が合う。

ゲヘナには風紀委員、言うなればヒナ委員長以外のまともな戦力が居ない。ヒナ委員長さえ潰せれば、あとはほとんどトリニティのみとの戦いになる……治安が崩壊したゲヘナ学園なんて、あそこまで大きなことができる相手にとって赤子の手を捻るように蹂躙できるだろう。

 

思わず一瞬足を止めた。

単純に私の損得で考えたらゲヘナに身を置いた方が圧倒的に良い訳だ。

ゲヘナ生だったとしてもミカさんには会えるだろうし、このまま正体を隠してトリニティとして生きていく道を選んだら、学生時代の大半は監獄生活だ。それに……

風紀委員との追いかけっこの日々は楽しかった。

これは私の美学的な物だが、障害があるから温泉開発は楽しいのだ。

風紀委員と言う障害が消えたら、果たしてそれは今までと同じ温泉開発なのだろうか?

 

「……すいませんミカさん……ちょっと待ってて下さいね」

 

 

 

 

……何?今の爆発は?トリニティ……いやそれは考えにくい。

それよりも……あの爆発で視界がぼやける……手足もまともに動かないし……それに

 

……目の前に現れたのはアリウス分校の奴ら、そしてリーダー格の人物であろう水色の髪をした女が先頭に1人、もう1人はロケットランチャーで武装している。

 

アコは……他の風紀委員も……どこにいるんだろう……瓦礫の下に埋まっていたりしたらどうしようも無い。早く倒して状況確認しなきゃなのに、コイツらがそれを許してくれない……

 

「まだ立っているなんて……辛いはずなのに……苦しいはずなのに……」

「さっさと終わらせてリーダーの方に向かうよ」

 

360°全方位からの集中砲火……もはや弾を再装填する力すら残っていない。銃を持ち上げようとしても、握れずそのまま滑り落ちる。

……自分がこんなに呆気なく地に伏せているのがたまらなく悔しい……助けなきゃいけない人に手が届かないのが悔しい……ただこの惨状を見せつけられているようで……

 

私はそのまま倒れ込む、諦めたように、心に虚しさを抱きながら。

意識がだんだんと薄れ、そのまま気絶すると思ったのだが……

 

「ヒナ委員長!!」

 

自分の名前を叫ばれ、少しだけ意識がハッキリとした。

 

……あの子は確か……鏡裂アユタ……だったっけ?

……多分助けに来てくれたんだろうけど……私にも、そして彼女にも分かる。

 

『絶対に勝てない』

 

どれだけ強くても、あの物量、そしてこの瓦礫まみれの足場ではアリウスに軍配が上がる。

……逃げて欲しい……でもそれを叫ぶ声すら残っていない

 

逃げて!!

「……」

 

逃げてってば!!

「……」

 

私なんか置いて……

「……」

 

なんとか言葉を絞り出そうとしてもこのザマだ。

私は、彼女が勝つ所も、負ける所も、ここで眺めるしか無いのだ。

 

 

 

勢いよく飛び出したのは良いものの……これ無理だな。

先日トリニティと全面戦争したせいで身体中ボロボロ、確か肋骨は右側全損してるし両手両足は後一歩で骨折だ。

……私は昔から後先考えず特攻する事が多く、いつも戦場で後悔しているような無計画人間だ。

今回だって『ヒナ委員長とミカさんの救出』以外何も考えてない。

 

だが……勝たなければならない。絶対に。

ここで私が負けたら、瀕死のヒナ委員長は最悪『ヘイローが割れる』。

銃弾をものともしないキヴォトスに住む人々にとって馴染みない感覚、私も目にした事はない光景……だが、この世の何処に住むものであろうと、最期はある。その知識だけは持っているのだ。

 

予備弾薬も底をつき、しかし敵はまだ残っている。

この状況では助けも期待できない……なら私が……どうやって?力不足にも程がある。

1人のアリウス生の弾丸が足にクリーンヒットし、自らの意識と反してカクリと足がへたり込む。

 

(クソッ……片足が折れ……)

 

そのまま流れるような集中砲火、私はその衝撃で仰向けに倒れてしまった。私が死んでもヒナ委員長が救出される可能性に賭け、ポケットからスマホを取り出すが、そこにはもはや原型すら留めていないスマホがあった。

しかし……それと同時にポケットから落ちたモノ……黒色のカード、黒服から副産物として渡された『大人のカード』がそこにはあった。

 

これくらいしか方法が無い。

そんな事はわかっている……だが『ゲマトリア』が創り出したカードだ……一体何が起きるか……それにこのカードを『私は使う事ができない』のだ。一応以前試したが何かの反応を示す事は無かった。

つまりこのカードを使える可能性があるのはヒナ委員長のみ。瀕死の人間に得体の知れない物を使わせる……猿でも分かるな、絶対にダメだ。

だが、黒服はこのカードを『訪れる危機に使え』と言っていた。

もしかしたら……と言うかほぼ確実に、それは今の事だろう。

このカードをヒナ委員長に渡す一瞬で、私は拘束されるはずだ。つまり2人ともが生きられるかどうかは、このカードの効果と、ヒナ委員長にかかっている訳だ。

 

(根拠が一切ない賭け……だけど)

(私はそう言うギャンブルが大得意なんだ!!)

 

「ヒナ委員長!!そのカードを使って!!」

 

 

 

突如、鏡裂アユタが黒色のカードを私の方に向かって投げた。

そのカードは私の目の前に落ちた。まるで「拾え」と囁いているような不思議なカード……唯一直感的に分かるのは、これを使わないと私は確実に死ぬと言う事……

 

私は迷いすらなくカードに触れる。

そして、私は言葉を告げる。無意識に、流れ込んできた言葉を……

 

「……我々は望む、ジェリコの嘆きを」

「……我々は覚えている、七つの古則を」

 

その言葉を告げると共に、触れた手を伝わり何かが流れ込んでくるのが分かる。とても神聖とは言い難い邪悪な何か……普段キヴォトスで触れている物とは真反対のように感じる。

 

 

(立て、貴様は嚮導者に相応しい)

 

"……立ち上がる"

 

そうだ、私は立たなければならない。

目の前の惨状をどうにかできるのはもう私しかいないんだ。

だから、私はもう一度銃を握る。今度はしっかりと力が入り、持ち上げることが出来た。

そして銃口を向け、私は引き金を引いた。

 

 

 

目の前で起きている事がなんなのかは分からない……ただ、これだけは分かる。『今のヒナ委員長は絶対にヤバい』事……ヘイローの一部が欠け、身体中の怪我が一瞬で治癒した。大体あれは神秘なんかじゃない……それと真逆の……『恐怖』に相当する何かだ。

 

少しすると、こちらに銃口が向いた。

それだけで身体中に鳥肌が伝播し、汗が吹き出す準備をしているような感覚に襲われた。

 

「……ッ!!ミサキと緑髪!!伏せろ!!」

 

私はその感覚に従い……思わず叫ぶ。

言葉を言い終わった直後、大量の銃弾が舞った。

明らかに私もろとも殺すつもりの乱射……いつものヒナ委員長とは比較にならない……同列で考える事が馬鹿馬鹿しい威力の連射、私の愛銃を優に超える馬鹿力だ。何とかギリギリで全員避けれたみたいだが……これはアリウスより優先して対処しないと流れ弾ですら死ぬ。

 

(ハハッ……大博打は完全に失敗だな……)

 

「ねぇちょっと……流石に共闘の流れじゃない?」

「そうだねミサキ、と言うかそうでもしないと無理だよ」

「これは……とても辛い戦いになるかもしれませんねぇ……あと『緑髪』呼びはやめて欲しいです……」

「名前知らないから却下ね」

 

おそらくだがこの状況が収まるまで1時間以上は余裕でかかる……つまりはそれまで足止めしないと巡航ミサイルで生き残った連中も全員あの世行きになってしまう……

とりあえず誓おう、あのカード2度と使わん。

それと、ヒナ委員長には後で土下座案件だな。

 

生きていたらの話だけど……

 

 




ヒナ*テラー
色彩の嚮導者として選ばれた空崎ヒナの姿。
能力はワープ、身体強化、銃弾の強化、飛行、など多岐に渡り、単純な戦闘能力では各校トップをはるかに凌駕する。
だがいつものヒナとは違い、自分の力の強さを知り、全員蹂躙できることを知ったためメンタルが物凄く強くなっており、マコトにイタズラされた程度なら虎丸の主砲をマコトの体と共にへし折ることだろう。
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