美津子の碁   作:としより

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第2局 『美津子、頑張る』

旦那は放任主義だ。

 

息子がインセイになりたいと言った時もプロになった時も『まぁなるようになるんじゃないか?若い内になんでもやらせて見るもんだ』としか言わない。

息子の仕事にも、収入にも、挙句は確定申告などの事務処理も興味を持たないのだ。

『好きな事やって稼げるんだ、幸せじゃないか』

『まだ高校生なのに小遣い不要になるのか、そりゃあ家計も助かるな!』

『確定申告は会社がやってくれるからなァ、俺はチカラになれないな』

 

思い返すだけでイライラする。

夫婦揃って囲碁はわからないので、私が勉強を始めようと相談した時だって『まぁいいんじゃないか?専業主婦で時間もあるだろう』などと宣う始末。

まぁいいわ……、いつもの事よ。とりあえず今日は近くの囲碁教室に参加してみることになっているのでおめかししておかなくてはね。

 

(頑張るのよ美津子、私は強い女)

 

そう何度も言い聞かせ家事と支度をすませる。

世の男連中は、主婦は暇で日中はテレビを掛けながらのんびり昼寝をしていると思っている、のでしょうけれどそんなことはないのだ。(※1)

 

さて、そんなこんなで囲碁教室の会場に到着。

思ったより高齢な方ばかりではなく少し上くらいの方も居る。少し緊張が解れた気がした。

と、思ったのも束の間

 

「あら?もしかして進藤さん?進藤さんじゃないの!息子さんがプロになったから覚える気になったのね!ご近所さんに囲碁を学ぶ人がいて嬉しいわァ!」

 

声が大きい、やめて欲しい。あぁもうそんな大声で息子がプロなんて言うから注目されているわ……。

 

「あ、あの、もう少し声を控えて頂けま「ほら皆さんご存知でしょう?プロの進藤ヒカル君!彼のお母さんなのよオホホホホ!」「アラ!あの進藤プロの!」「塔矢アキラと双璧を成す、新進気鋭と名高いあの!」「私、先週の週間囲碁15冊買っちゃったのよ!」

 

駄目だ、無理だ、アウェーだ。声の大きい人(※2)のせいで私の消えかかった声など誰の耳にも届かない。

息子に内緒でこっそりひっそり覚える予定だったのに、第1歩すら踏み出せずに頓挫だ。まだ何か話しているようだがもう私の耳には入らない。

 

「ゲラゲラゲラゲラ」「ガヤガヤガヤガヤ」

(帰りましょう……、場所が悪かったわ。近場で済ますなんて土台無理な話ね、息子が有名すぎるわ……)

 

程なくして帰宅するも、普段の数十倍はあるだろう疲労感に襲われ何もする気が起きない。気合を入れたおめかしも無駄になった、辛すぎる。おめかしをしている状態なのに、今の私はきっと50代後半の疲れきった女に見えるだろう。

 

その晩、旦那に今日の話をした。

 

『そんなこともあるだろうさ。せっかく始める気になったんだからもう少し頑張ってみなよ。それじゃ、おやすみ』

 

……殴ってやろうかしら。




囲碁デビュー出来ませんでしたね、可哀想に

※1 投稿主は独身男性のため真偽の程はわかりませんし、保証致しかねます。
※2 どこの誰の世界線でも必ず1人は居ると言っていいほどのモブ
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